魔探偵コナン



byドミ



File06:魔王がいっぱい



疫魔の王「疫厄の小五郎」は、魔性の王にしては妙に人間臭い風貌をしていたが。
流石にその魔力は、工藤邸の地下室を震わせるに充分だった。

「き、貴様は!工藤新一!?・・・退魔師風情がこの俺様に、一体、何の用があるってんだ!?」

小五郎は、少し焦った声で言った。

「あなたが、疫厄の小五郎、蘭の父上か」

新一は、少しでも動揺を見せまいとポーカーフェイスを保ちながら、疫魔の王に声をかけた。

「貴様、我が娘を呼び捨てにするか!?」

小五郎はいきなりそこに突っ込んで来た。

「オメーは本来蘭にまみえる事も叶わぬ下賎の存在、なのに力尽くで蘭を汚し無理やり蹂躙し我がものとした上に、術で縛った、とんでもねえ野郎だ。オマケに蘭を呼び捨て。その罪は重いぞ!」
「・・・はあ?蘭を力尽くで汚して蹂躙した?あのな・・・アンタ、自分の娘の属性、分かってねえんじゃ?」
「ええい、うるさい!とにかくオメーは絶対許せん!」
「蘭を抱いたのは、一応合意の上で、力尽くで無理やりは、やってねえんだけど。まあ、無理に術で縛ったのだけは、確かだけどな」
「・・・貴様!!俺様の術でとっくにあの世に行っている筈なのに、何でまだ動けるんだ?」
「人の話聞いてねえし」

それまでハラハラしながら成り行きを見守っていた蘭が、ここで口を開いた。

「お父さん!お願いだから、新一の術を解いてよ」
「蘭?オメー、こんなヤツを庇うのか!?」
「庇うんじゃなくて、私が新一に抱かれたのは、本当に合意の上なんだもん。第一、私は淫魔なんだから、生きる糧が人間の男性の精気で、まぐわう事によってそれが得られるんだって事、お父さんだって分かってるでしょ!?」
「蘭・・・オメーってヤツは・・・昔から気の優しい子だったからなあ。こんな野郎を庇う必要はないんだぞ、世の為魔物達の為に、こんな悪いヤツは俺が成敗してやるからな」


それまで呆れて口を半ば開けて見ていた、快斗と青子が、こそこそと囁き交わす。

「ねえ快斗、この人・・・魔王様って、頭悪いの?さっきからちっとも話が通じてないようだけど」
「いや、ただ単に、自分の娘が人間の男にぞっこんだって事実を認めたくないだけなんじゃねえの?」
「あ、そっか〜。行き過ぎた父性愛ってヤツね」
「そうそう」

そこへ、女性の叱咤の声が響き、快斗と青子は思わず首を引っ込めた。

「お父さん!もし新一の術を解いてくれないなら、私、怒るからね!」
「・・・蘭?」
「私は、新一が好きなの!望んで一緒に居るの!だから術を解いて!」
「け、けどな、蘭・・・」
「もしも新一が死んだりしたら、私だって生きていられないんだから!」
「おい、蘭。馬鹿な事言ってんじゃねえぞ。この男が居なくなったら、そんな一時の気の迷いなんか、すぐに忘れるから、な?」
「・・・っ・・・お父さんの馬鹿ッ!お父さんなんか、大っ嫌い!!」

蘭が涙ながらに投げつけた言葉に、小五郎は流石に大きな衝撃を受けた様子で、魔性のくせに顔を青くし口を大きく開けたまま固まってしまった。

快斗も青子も、そして新一も。
親子喧嘩に口を挟めず成り行きを見守る。

と、その時、工藤邸全体が鳴動した。
新一のこめかみがピクピクと震える。

「今度は女王様のお出ましか・・・魔王クラスが2人・・・ったく、みんなしてこの屋敷を壊す積りか?」

新一のボヤキをよそに、そこに現れたのは。
蘭の母親である、淫魔の女王・英理であった。


「あなた。いい加減になさったら?子供じみた独占欲で娘の花婿に術をかけるなんて」

英理が溜め息をつきながら言った。

「英理、オメーが口出す事じゃ・・・」
「何ですって!?」

小五郎の言葉を英理は恐ろしい声で遮り、ギロリと睨みつけたので、小五郎は縮み上がった。

「蘭は淫魔だけれど、愛する男性以外を受け入れる事が出来ないの。術をかけられるまでもなく、新一君以外の男性と交わる事は不可能なのよ。なのにあなたは・・・蘭を飢え死にさせる気なの?」
「蘭の花婿は、俺が相応しい相手を見つける!」
「嘘仰い、相手がどんな男でも、いざとなったら絶対気に食わないくせに」
「けど新一は、人間風情の、しかも退魔師だぞ?」
「だから?新一君は、蘭が愛し愛される相手でしょ?私にはそれ以外は、どうでも良くってよ」
「け、けどなあ」
「・・・疫厄の小五郎。『疫魔の王の跡継ぎ』はまだ居ないようだけれど、どなたか産んで下さる女性を探して下さいな」

英理の言葉は淡々としていたが、人間界で言えば「三行半の叩きつけ」といったもので。
小五郎は口をパクパクさせた後、ガックリと項垂れた。


次の瞬間、新一は、自分の疫病が「完治」した事を感じ取った。

「英理女王。ありがとうございます」
「・・・別にお礼を言われる事はしてないわ。あなたが本気になって戦ったら、小五郎に勝てるかどうかは分からないまでも、一方的に負けはしないでしょう?小五郎も無事では済まなかった筈よ」
「いや。オレに小五郎王を傷付ける事など、絶対出来ませんよ。だって彼は、蘭の父親なんですから」

蘭が息を呑んで新一を見る。
英理はフッと微笑んだ。

「オレは、蘭を愛してる。オレの命以上に大切だ。だからオレには、蘭の身内を傷付けるような真似など、ぜってー出来やしねえんだ」
「そうね。あなたは、そうかもね。でもやっぱり小五郎は、命拾いしたのよ。いつまでもごねていたら、そこの2人が黙っちゃ居なかったでしょうからね」

そう言って英理が目を向けたのは、快斗と青子の2人である。

「へっ?」

快斗が思わず間抜けな声を出した。

「あなた方の内に眠っている存在は、元から妙に、人間達に肩入れしていたけれど。今は何故か新一君を気に入っているみたいだから。小五郎がどうでも新一君の術を解かなければ、表に出て来ていたのではなくて?」

英理の言葉に、快斗は真顔になって言った。

「・・・あなたには、分かるのか?淫魔の女王」
「そりゃあまあ。だって私のご先祖様ですからね」

快斗と英理の会話に、新一・蘭・そして小五郎はぶっ飛ぶほどに驚いた。

「へ!?」
「ええ!?」
「おい、英理!まさか!」

「我等リリム族の祖・魔王リリス様と、その夫である大魔王暁のルシフェル様は、今は魔界の奥底深くで眠りに就いておられるのだけれど。お2人は、夢の中で何度も人間界に転生を繰り返しているわ。そして今は、そこの2人に」

英理がさらりと、驚天動地の事実を告げたものだから。
その場は騒然となり、暫く収拾がつかなかった。


「青子ちゃんが・・・私のご先祖のリリス様・・・」
「ううん、違うよ、蘭ちゃん。青子はあくまで、人間の中森青子だよ。たとえ青子が、リリスがまどろんでいる間にちょこっとだけ見た夢の存在に過ぎなかったとしても、それでも青子は青子としてここに居るの」
「そうそう。ヤツらに取っちゃあ、人間の一生なんざ、転寝の間分にしか過ぎねえんだけど。オレ達はオレ達で、精一杯人としての生活を満喫してんのさ」
「そういうものなの?」
「うん、そういうものよ。蘭ちゃん、今迄通り、普通のお友達として見てくれたら嬉しいな」
「うん、わかった!青子ちゃん、私達これからも、普通のお友達として宜しくね!」
「普通のお友達って・・・それに、今迄通りって言っても、蘭と青子ちゃん、出会ったのは今日の事だろ?」
「工藤、オメーもオレの事今迄通り『普通のお友達』として見てくれよな」
「・・・黒羽。気色わりぃ事言うなよ。それにしてもオメー、ルシフェルだって自覚はあっても記憶はねえのか?」
「僅かに断片的な記憶ならある。感覚的にも、どっかシンクロしてる部分はあるらしいんだが、普段はヤツの存在を意識してる訳じゃない。・・・それにしても今まで気付かなかったけど、そっか、工藤の事は、ルシフェルも気に入ってる訳だ」
「だ〜か〜ら〜、そんな気色わりぃ事言うなって!」
「いやあ、そういう風に、オレの中に居る存在を知っても、全く変わりなく冷たい態度で接してくれる工藤が、好きだな〜」

ドゴッと音がして、次の瞬間快斗がコブの出来た頭を押さえてうずくまっていた。

「いって〜〜〜っ!!新ちゃんったら、酷い!」
「いじけるな!余計気色わりぃ!」

「新一ったら、快斗君を苛めないでよ!」

蘭の声がした為、新一は思わず蘭を振り返るが、蘭は戸惑った顔をして、首と手をフルフルと横に振った。

「黒羽、貴様〜、蘭の声色使うんじゃねえ!!」

新一が拳を握り、額に青筋を立てた。
その不穏な空気をよそに、蘭と青子はのんびりと会話を楽しんでいる。

「ふうん、黒羽君って他人の声色使えるの?」
「うん、完璧に声帯模写できるんだ。快斗はね〜、表の顔はマジシャンなの。で、裏稼業は工藤君達と同じ退魔師で、通り名は『魔怪盗キッド』っていうの。青子は、どっちの世界でも、快斗の助手なんだ〜。大した力はないけどね〜」
「でも、ルシフェル様とリリス様が、退魔師なんかやってて良いのかな」
「快斗と青子は、現世ではあくまで人間だし。それに退魔師って、魔性という存在を闇雲に狩ってる訳じゃないんだから。良心的な退魔師は、どっちかと言えば、人間と魔性の平和的共存の為に力を尽くしているからね」
「そっか〜」
「でも、何か安心した。工藤君、全く以前と態度が変わんないもん。嬉しいな」
「あの、黒羽君を苛めているのがいつもの新一の態度なの?」
「うん!快斗が工藤君をからかって、工藤君に苛め返されるのが、いつものパターンなの。快斗は工藤君に苛められるのが嬉しいみたい。きっとマゾっ気あるんだと思う」
「そっか〜。新一も多分、黒羽君の事気に入ってるから苛めるんだよね。ちょっと妬けるかな」
「でしょでしょ。青子には入り込めない2人の世界って感じで、妬けちゃうんだよね〜」
「ホントホント。確かに2人の世界だね」

蘭と青子の会話を全く聞いていない風だった新一と快斗だったが、突然ピタリと動きが止まり、2人の方を向いた。

「蘭!」「青子!」
「「どこが2人の世界だ!!」」

あまりの息の合い方に、女性2人は苦笑するしかなかった。


   ☆☆☆


「あなた。さあ、帰るわよ。これ以上2人で長居すると、この屋敷を壊しかねないし」

英理の言葉に、蘭と新一は、蘭の両親の存在を思い出した。

「お母さん・・・」
「蘭の元気そうな姿を見られて、安心したわ。これからはリリス様も見守ってくださるようだし。また、時々遊びに来るわね。2人一緒だとここの空間を歪めて迷惑だろうから、別々にね」

英理は微笑み、そっと蘭の頬を撫でた。

「あの。英理女王。そして小五郎王。蘭のご両親としてのお二方にお願いがあります」

新一の言葉に、小五郎と英理、そして蘭も、何事かと新一を見る。

「魔界では存在しない風習だと思いますが、人間界では正式な夫婦となる為には儀式を行うんです。オレは蘭と結婚式を挙げる準備をしています。そして正式な結婚式は、双方の親が参加するのがならわしです。だから・・・お2人の為に、霊気的に安定した場所を準備しますから、是非ともご参加下さい」

新一の言葉に、蘭は息を呑み、英理は微笑み、小五郎は目を丸くした。

「そう。新一君は形式を整えて蘭を『お嫁に貰って』くれる訳ね。双方の両親という事は、あなた自身の親御さんも、参列なさるという事なの?」
「・・・親父達は世界中を飛び回っているから、今頃どこで何をしているものやら。でもまあ、本気で探せば何とか捕まるでしょう」

「ええ!?新一ってご両親いらっしゃるの!?」

蘭が驚いて声を上げた。
新一自身が普通の人間よりずっと長く生きているし、まさか両親が存命だと思いもしなかったのだ。

「ん〜、まあ、力は遺伝し易い・・・っても、必ずしも同じ様な存在になるとは限らねえから、オレ達みたいな存在だと、親はとっくの昔にあの世って事も多いし、逆に子供の方が先に年老いてあの世にって事も有り得る。でもまあオレの場合は両親共、多分どこかで元気だよ。最後に会ったのは1年前だったかな」
「新一君。あなたの評判を聞いていた時もこの前会った時も、不覚にも気付かなかったのだけれど。もしかしてあなたのご両親は、私の良く知っている方達なのじゃなくて?」
「オレの父親は退魔師の『ナイトバロン』ですよ。おそらく英理女王もよくご存知だと思いますが」
「そうね。男の子には父親の特質が受け継がれるのだったわね。でも、どうりで。あなたには淫魔の魔力が通じないし、魔性への偏見がない筈だわ」

新一と英理の会話は、他の者にはどうも今いち話が見えず、一同首を傾げていたが。
2人とも周囲に解説しようという気はなかったようだ。
英理が蘭に向き直って声をかける。

「そうそう、蘭。あなたにはまだ教えてなかったけれど。魔性の女にも受胎能力を持つ者と持たない者が居るわ。あなたは前者だから、あなたとあなたの子には、私の後継者としての資格がある」
「え?で、でも。新一と私とでは、子を成せないでしょ?」
「いいえ。我等リリム族は、受胎能力さえあれば、どの種族との間にだって子を成せる。たとえ人間との間にもね。子供は、女の子なら母親の、男の子なら父親の、種族特徴を受け継ぐわ。だから、あなたがもし新一君の子供を産んで、それが女の子ならリリム族、男の子なら人間。そういう事なの」
「えええ!?」
「でもまあ、長命な私達だから、そうポンポンと子供が出来る訳でもない。何百年と連れ添って、1人2人出来れば良い方だし、子供が出来ると保障は出来ないわ。それにもし男の子だった場合、新一君やそのお父さんのように寿命まで長くなる程の力を持てるとは限らないし、場合によっては『子供に年老いて先立たれる』事だって有り得るのも、覚悟しなければね」
「お母さん。私・・・もしかしたら新一の子供を産めるかも知れないのね。それが分かっただけで、嬉しい。あ、でも・・・新一は子供、要らないよね?」

新一は蘭から突然話を振られて、目を丸くする。

「はあ?オレは1度も、んな事言った覚えはねえけど?」
「だって。槙子さんに・・・」
「アレは、彼女を抱きたくなかったんで、断る為の口実。分かれよ、そん位」
「じゃあ、子供が出来ても良いの?」
「出来ても出来なくても、どっちでも構わねえけど。もし蘭がオレの子を産んでくれるのなら、どっちの種族であっても嬉しい」
「新一っ!」

蘭が新一に飛びつき、2人はヒシと抱き合った。
それを見て小五郎の表情が見る見る不機嫌なものになる。

「ケッ!親の目の前でラブシーンなんかやるんじゃねえ!ったく。帰るぞ、英理!」
「あ。結婚式には必ず来て下さいよ、お義父さん」
「・・・オレはまだオメーの父親じゃねえっ!」

小五郎は煙を発して姿を消し、英理は苦笑しながらその後を追った。


一段楽したところで、新一・蘭・快斗・青子の4人は、地下室から出て、リビングに陣取り、蘭が珈琲を入れて皆に振舞った。

「工藤、結婚式挙げんだ?すげえな、本格的じゃん」
「素敵。出来れば青子達も、招待して欲しいな」
「良いけど。魔王2人が出席しても大丈夫な場所を探さなくちゃなあ」
「工藤の親父さんに相談したら?」
「結婚式までにはぜってー連絡取る積りだが、相談しようにもどこで何しているものやら」
「ねえねえ新一、園子に相談しない?いい知恵貸してくれると思うよ」
「・・・蘭?園子って・・・」
「お友達。人間界のしきたりとか、色々教えてくれたの」
「もしや、白狐の園子かっ!?」
「うん。新一が服部君とお出かけ中で留守番している時に、遊びに来て仲良くなったんだ」
「・・・っ。どうりで・・・変だと思ったんだ・・・蘭に妙な知識を吹き込んだのは、あいつか・・・!」
「新一。園子の事、嫌いなの?」
「あ?いや別に、嫌ってる訳じゃ。ただどうも、アイツの感性にはついて行けねえもんを感じるだけで・・・」
「もし間違った知識があっても、園子を怒らないでね。園子だって人間界の事、知らない部分がきっと多いと思うのに、私の為に一生懸命教えてくれたんだから」
「ああ、いや、別に怒る気はねえさ。それにアイツの知識は確かに・・・間違っている訳じゃねえしな。ちょいとずれてるだけで」

新一は脱力しながら、蘭の頭を宥めるようにポンポンと叩いた。
そしてそのまま、蘭をひょいと抱えあげる。

「新一・・・?」
「蘭。寝室へ」
「うん・・・」

蘭は顔を赤くして、新一の胸に顔を埋めた。
新一は、呆気に取られている快斗と青子に告げる。

「黒羽、青子ちゃん。色々ありがとな。お礼は後日必ずすっけどよ、今日は早く2人になりてえんだ。後は好きに過ごして貰って構わねえし、もし泊まるんなら、離れの寝室を使ってくれ」
「仕方ねえなあ。ま、今日のところは、工藤も色々大変だったし。埋め合わせはいつかな」


   ☆☆☆


新一は蘭を2階の寝室まで横抱きで連れて行き、そのままベッドにそっと降ろす。

「蘭」
「しんい・・・んっ・・・」

新一は蘭に覆いかぶさり、深い口付けを与えながら、蘭の衣服を取り去って行った。
蘭の身につけた物を全て取り去った時点で、新一は少し体を離し、じっと蘭の体を見詰めた。

「し、新一・・・」
「綺麗だ・・・蘭・・・」

新一は自分の衣服を脱ぎ捨て、蘭を抱きしめ間近から顔を覗き込んで囁いた。

「愛してる」
「新一・・・」

蘭の眦から涙が流れ落ちた。

「嬉しい・・・新一・・・私もよ・・・」
「オメーは、誰にも渡さねえ。オレの・・・オレだけの蘭・・・」
「ねえ新一。また、術をかけて」
「ん?」
「私は、自分の意思で他の男の人とって事は絶対にない、けど・・・でも・・・」
「・・・蘭・・・?」
「いつも新一に、守っていて欲しいの・・・ダメ?」
「わーった。蘭、オメーは俺が守るよ。他の男にはぜってー指1本触れさせねえからよ」

そう言って、新一は蘭の首筋に唇を落とした。

「あ・・・ん・・・」

蘭は甘い声を上げる。
新一は蘭の体中を指と唇で触れて行く。

新一が蘭の肌をきつく吸い上げても、淫魔である蘭の肌に赤い刻印をつける事は出来ない。
蘭の体は、破られるべき処女膜が存在せず、純潔を失った証の血を流す事もなかった。

蘭には、新一がかける縛りの術こそが、所有の証。
幾度も新一に抱かれ、その度に新一の霊気で染め上げられていく。


「あん・・・はん・・・ああっ・・・しん・・・いち・・・」
「蘭、蘭、愛してるよ・・・」

蘭の全身をくまなく愛撫した後、新一は蘭の両足を抱えて広げ、赤く色付き芳香を放ち蜜を滴らせた花の中心部に、猛った己の分身を深く埋め込んだ。

「ああっ、はああああん!・・・しんいちぃ・・・」
「くっ・・・蘭・・・すげー・・・いいぜ。オメーん中、気持ちいい・・・」

粘着性の淫らな水音を響かせて、新一は蘭の中を激しく突き上げる。
蘭は新一にしがみつき、新一の腰に自分の足をからませた。

「ああ・・・はあ・・・ああん・・・はあっ・・・・しん・・・いち・・・私・・・もう・・・」
「くうっ・・・はっ・・・蘭・・・オレももう・・・」
「はあああああん!!」


2人上り詰めて果てた後。
並んで横たわりながら、どちらからともなく微笑み合った。

ふと、蘭の顔が曇る。

「どうした、蘭?」
「新一。私、新一のご両親に気に入られなかったら、どうしよう・・・」
「心配ない。うちの両親は結構ぶっ飛んでるから大丈夫だよ、多分な。母さんは元々すごく娘を欲しがってたし、喜ぶんじゃないかと思うぜ」
「でも私、魔性で、しかも淫魔でしょう?」
「あ〜、その点については・・・ぜってー心配要らねえから」

妙に力強く断言する新一を、蘭は不思議そうに見詰めた。
けれど新一は、その根拠について語ろうとはしなかった。

「ねえ、新一。子供が出来ても、本当に良いの?」
「あん?出来たら欲しいって言っただろうが、疑うのかよ?」
「だって、新一ってさっきすごくあっさりしてたし。私、自分の事なのに知らなくてビックリしたのに、新一が驚かなかったのが不思議だったんだもん」
「ああ、それは。オレ、知ってたからさ。淫魔と人間との間に子が成せるって事。もっとも、受胎能力がある者とない者が居るのは、初耳だったけどよ」
「ええ!?そうだったの!?」
「オレは、魔界と魔性の事については、生まれてたかだか20年のオメーより、むしろ詳しいと思うぜ」

その後2人は急速に疲労感が押し寄せて、身を寄せ合ったまま寝入ってしまったので。
蘭が、新一がこの時話さなかった「裏事情」を知るのは、また後日の事になるのである。


   ☆☆☆


「ハ〜イ、新一君、お邪魔してま〜す」
「園子・・・京極さんはどうしてんだ?」
「修行の旅で、今は確か中東に行ってると思うな」

ある日の事、帰宅した新一が見たものは。
居間で寛いでいる蘭と、白狐の園子の姿であった。

園子は狐と言っても、仙力を持つ仙狐族・九尾の狐の1人で、完全に人間の女性の姿をとっている。
この一族の1人には、殺生石で有名な「玉藻の前」も居て、美しい女性の姿を取って男性を誑かす事も可能なのだ。
園子も、勝気な目をした色白茶髪でスタイルの良い美人の姿を取っている。

いわば魔性の1人である園子が、何故結界に守られている筈の工藤邸に入り込めるのかと言えば。
園子は退魔師・京極真の恋人である為、結界の例外として認識される存在だからである。

今をさかのぼる事数十年前。
新一達退魔師仲間に、悪戯好きの白狐を何とかしてくれと相談があった。
その頃の園子は都の近辺で色々な悪戯を繰り返していた。
人が死んだり大怪我したりするような悪質なものではないが、人々が結構困り果てていたのである。

そこで、退治の為ではなくお灸を据える為に向かった退魔師が、蹴撃の貴公子・京極真であった。
2人はお互い一目で恋に落ち、お灸を据えずとも園子の悪戯はやんだ。(もっとも園子の悪戯の大部分は、園子に悪気はなく単に「現在の人間界と」感覚がずれていただけだったと、後から分かったのだが)

2人はそれから数十年、ずっとラブラブなのであるが。
京極真は妙に修行好きで。
退魔師としての仕事の他、体術としての空手も極めようと日々鍛錬を繰り返し、時々修行の旅に出てしまうのである。
その間、園子はどうしても寂しくて暇を持て余してしまうのであった。


「で?何でオメーがここに入り浸ってんだよ?」
「固い事言わないでよ〜、女嫌いの新一君が女の子を連れ込んでるから、どんな子だろうなあと興味持って覗いてみたんだけどさ〜。蘭とはすっごく気が合っちゃって。だからしょっちゅう遊びに来てただけじゃない〜」
「・・・別に文句言う気はねえけど。せめて家主のオレに断りを入れてくれ。オレが居ねえ間にこっそり入り込んで蘭と会うような真似しやがって」

新一の言葉に、蘭が横から口を出した。

「新一、お願いだから園子を怒らないで」
「だ〜か〜ら〜、別に怒ってねえって。オメーももう・・・ここの主婦なんだし、オメーの交流関係に嘴入れる気はねえけどよ、こそこそとオレに隠すような真似はやめてくれ」
「ええ?わたし、新一に隠すなんてそんな積りじゃ・・・」
「ああ、蘭、ごめん。わたしの方はちょっとばかり隠す積もりあったんだ〜、だって新一君ってさ、独占欲強くって蘭に近付いたら焼餅妬きそうなんだもん」

新一はガックリと肩を落としながら、内心で園子の鋭さに舌を巻く。

「あのな。別に女相手に焼餅妬く気はねえからよ。オレもずっと蘭の傍に居てあげられる訳じゃねえから、これからも宜しく頼む」
「で、ねえねえ、蘭達の結婚式さ〜、ここなんかどう?」

いきなり話題を変えられ、パンフレットを押し付けられて新一は絶句した。

「この米花シティホテルなら、霊気的に安定してて蘭のご両親も参列可能だと思うよ。それにホラ、貸衣装もバッチリ!」
「あ〜、このドレス、良いなあ・・・」
「蘭はスタイルが良いから、似合うと思うよ。でも着てみないと分からないけどね」

蘭はウットリと夢見る様子になっている。

「おい、ちょっと待て!ホテルで結婚式披露宴やって、そこに魔王2人を含めた人外メンバーを出席させる気か!?それに蘭、淫魔のオメーが、祭壇の前で牧師か神主立会いで神様に祈りを捧げるなんて、出来んのか!?」

新一が思わず詰め寄ると、園子がキャラキャラと笑って手を縦に振った。

「固い事言いなさんなって、どうせ祭壇も牧師も神主も、全部、形だけの真似事なんだからさ。それに、だ〜いじょうぶ、人外の存在なんて見抜けるのは滅多に居ないんだし」
「新一ぃ、わたしここで結婚式したい・・・」
「ホラ、新一君。蘭だってこう言ってんだしさ。それに応えないなんて、男が廃るわよ!」


蘭のおねだり通りにするのはちっとも構わないのだが。
この分では、式から披露宴の進行まで全て園子に牛耳られてしまうのではなかろうかと、大きな不安に襲われてしまった新一であった・・・。



to be continued…?



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<後書き>

今回、新ちゃんが「活躍」する場面は殆どなかったですねえ。
何か舌戦ばかりが繰り広げられているような。

私が書く話では、新一君と快斗君が同じ空間に揃うと、何故か漫才を始めてしまう。
会話ばっかり多くなって、脱線を繰り返して、話が一向に進まないんですね。困ったもんだ。

ようやく園子ちゃんも出せました。
新一君は、蘭ちゃんの存在が介在しない限りは、園子ちゃんにやり込められる事はないと私は思ってますけども。蘭ちゃん絡みの事になるとどうも分が悪いですね。

まあとにかく蘭ちゃんのご両親の承諾(?)も得て、次回は結婚式・・・とそうは問屋が卸さない(笑)。
いずれ、結婚式の場面までには、新ちゃんのご両親が出てくると思いますが、その前にまだまだ、波乱と試練(?)が待っています。


「File05:疫魔の王」に戻る。  「File07:顔のない魔王」に続く。