魔探偵コナン
byドミ
File02:可愛い淫魔
探偵という表の顔と退魔師という裏の顔を持つ工藤新一が、ある淫魔の女の子を初めて見かけたのは、ある夜繁華街の中にあるビルで、殺人事件を解決した時であった。
その女性淫魔は、自身が目立たないように術をかけていた為、その場にいた他の者は殺人現場にその子が入って来た事にも気付いていなかったが、新一は流石に職業柄、女の子が入って来た事も、その子が魔性の者で淫魔である事も、すぐに気付いた。
あどけない美貌、細身だが成熟した体、淫魔らしく男を惹きつけずにはおかない容姿をしていた。
けれど、新一を強烈に惹き付けたのは、その見た目以上に澄んだ柔らかな気の輝きだった。
なまじの人間より、魔性の方がよほど純粋な気を発している事は多い。
ただその純粋さは、人間の子供のものに似て、純粋だが我儘でもある。
その女性淫魔の気の輝きは、他の魔性のものとも一味違い、単に澄んでいるのではなく、優しさに満ち溢れていたのだった。
「んん?あの子・・・顔に見覚えがあるような気がしたのは、あれだな。黒羽の彼女に似てるんだ。あの澄んだ気も、そう言えば似ている。もっとも青子ちゃんの方は、力があるとは言えれっきとした人間だが」
新一は、目の前に現れた魔性の女性と面差しが似た、友の恋人である女性を思い出していた。
友人の恋人は、女性に滅多に心惹かれる事のない新一が、「可愛い」と感じた数少ない女性の1人である。
けれど、多少は惹かれるものを感じたものの、友人の恋人と知っても別に動揺もしなかったから、恋心とまでは行かなかったのであろう。
今、新一はその女性淫魔から目を離す事が出来ない程に、強烈に惹きつけられていた。
野次馬的に来たのであろうが、おそらく気の流れから犯人が誰なのか読めるのであろう、被害者の友人であり心底被害者の事を悼んでいる女性に嫌疑がかかりそうになっているのを見て、おろおろと百面相をして飛び出そうとしているのが、あまりにも微笑ましく可愛くて、ポーカーフェイスを保つのに苦労した。
新一が真犯人を名指ししたのを見て、明らかにホッとしている様子だった。
随分と変わり者の魔性だなと思い、ますます惹き付けられていた。
けれど、新一が事件を解決している間に、その女性淫魔はエサを探す為か、その場を離れてしまった。
新一はいつも事情聴取には立ち会わない。
今夜も丁重に事情聴取への立会いを断って、その女性淫魔を探した。
探し当てた時、その子はラブホテルに男といた。
新一は、相手は淫魔なのだから仕方がないと頭では理解しつつも、そこら辺の男を引っ掛けて交合していると思うと、胸がかきむしられる様な想いを味わっていた。
だが、新一が様子を伺ってみると、どうやら交合した形跡はなく男はベッドにひとりで眠っており、その淫魔は1人でホテルから出て行って、魔界へと消えたのであった。
その女性淫魔は、次の晩もその繁華街に現れた。
新一は、その後をつけた。
職業柄、相手が人間でも魔性の者でも、気配を感じさせずに後をつけるのはお手のものである。
淫魔は、道を歩く間にも、こけた女性を助け起こしたり、車の前に転びそうになった人を(新一も慌てて助けようとしたのだがそれより先に)いち早く術を使って助けたりしていた。
そのお人よしぶりに、新一は半ば呆れながらも、顔が緩むのを感じていた。
その淫魔がターゲットを絞って誘いをかけた時、相手に名乗っていた名前が「毛利蘭」、淫魔は普通姓を持たないから、多分「蘭」という名前であろうと推測が付いた。
新一は更に後を付け、2人がラブホテルに入ったところで、忍行の術で姿を隠して後に続き、ドアの外にへばりついて様子を伺った。
「精気を搾り取られて殺されてはいけねーから、これも必要だよな、うん」
そう自分自身に言い聞かせて納得させながらの見張りだったのだが、本当は蘭ではなく、ターゲットになった男の方を殺したい位に思ってしまっているのを、どこかで自覚していた。
けれど、ホテルに入った2人が睦み合う気配は全くなかった。
「食事」を済ませた蘭が出て来た後に、新一が部屋に踏み込んでみると、相手の男は淫夢を見せられた後の夢も見ない深い眠りに着いているところだった。
蘭はほぼ毎晩繁華街に現れた。
そして毎晩、引っ掛けたターゲットに淫夢を見せて精気を奪うだけで、直接交合をする気配はなかった。
後をつけている内に、蘭が今迄に一度も男性と交合した事がないと分かり、新一は小躍りしたくなった。
蘭を手に入れたいという気持ちをはっきりと自覚したのも、その頃である。
蘭と初めて出会った日から新一は毎晩夢の中で(勿論淫魔が見せる淫夢などではなく、自身が無意識下で生み出す夢で)蘭を抱いた。
そのような事は、新一にはそれこそ生まれて初めてだった。
魔性の存在と知りつつも、蘭を欲する気持ちは日に日に大きくなるばかりだった。
新一は今迄幾度となく魔と対峙して来たし、淫魔の誘惑を受けた事も1度や2度ではない。
けれど、新一はその誘惑に惑わされた事は1度としてなかった。
新一は魔に耐性があり、なまじの魔力では効かないのである。
だから、蘭を抱きたいと思う気持ちは、蘭の「魔力」によるものではない事が、最初から分かっていた。
淫魔である蘭が、何故まだ男性との交合をした事がないのかは、わからない。
魔性には人間のような貞操観念などはなく、初めての体験が特別なものである訳でもなければ女性でも特に苦痛を伴うものでもない筈だった。
ましてや、淫魔にとっては、その行為は「生きる糧を得る為」のものであり、人間が食べ物を口にするのと同じ。
それに淫魔は、強烈な快楽をターゲットに与えるが、同時に自身も強烈な快感を味わうのである。
新一は、自分達退魔師の精気が、並の人間のそれよりも、魔性の大好物である事を知っている。
それをエサにすれば、1度も男性と交合した事のない蘭でも、案外簡単に新一を受け入れるかも知れない。
ひょっとしてエサの「えり好み」しているという可能性もなくはないからだ。
ただ――蘭が1回その快楽を知ってしまえば、他の淫魔と同じく、今後何人もの男と交合を繰り返す事になるだろう。
新一は、蘭が欲しいと思っていたが、蘭をそういう風にはしたくなかった。
他の男には指一本触れさせたくなかった。
一夜の快楽が欲しいのではなく、未来永劫に、蘭を独り占めしたかったのだ。
そこで新一は、罠をかけた。
☆☆☆
繁華街で、蘭がターゲットを探している。
蘭がうまくターゲットを見つけられず焦りだす頃に、新一は抑えていた自身の気を、不自然にならないように注意しながら一瞬だけ開放した。
蘭はすぐに気付いた様子で、真直ぐに新一の方へ向かってきた。
蘭は自身の気配を抑える術をかけているが、新一には、どこまでも澄んで優しい輝きを放つ蘭の気が、はっきりと感じられる。
新一が近づいて来た蘭の方を向くと、蘭は驚いたようだった。
そりゃあそうだろう、蘭は気配を隠す術を使っていたのだから。
「こんばんは、お嬢さん。何か御用ですか?」
新一が蘭を見てそう問いかけると、蘭は慌てた様子で言って来た。
「あ、あ、あのっ・・・お1人なら、お茶でも一緒に如何ですか?」
蘭の的を外した言い方があまりにも可愛くて、新一は必死で笑いをこらえた。
普通の男なら、蘭の言い方がずれているのに気付く前に、淫魔の強烈なフェロモンに落ちてしまうだろうが。
「喜んで。でも、君、お腹空いてないかい?まずは食事にでも・・・」
新一は、そう返してみた。
淫魔が誘いをかけて来た時、淫魔の目的は交合によって相手の精気を取り込む事だ。
しかし、彼らは大抵それに先立ち人間の食事をさせる。
搾り取る精気を増やす為である。
新一が差し出した手を、蘭は特に不審に思う様子もなく取った。
初めて手が触れ合った瞬間、ただそれだけの事でドキドキする自分自身に苦笑しながら、表情や発する気に動揺が現れないように細心の注意を払った新一であった。
新一は、蘭の目を見詰めながら名乗った。
勿論、裏の稼業は欠片もにじませないように注意して。
「オレは、工藤新一。探偵さ。君は?」
「わ、私は・・・蘭っていいます。毛利蘭」
何度も繰り返し、こっそり聞いた名前。
姓は人間界で名乗る為の偽名だろうが、名の方は本物であろう。
花の名を好んでつける淫魔は多いのだ。
「蘭、か。君に相応しい可愛い名だね」
あながち芝居でもなく新一は言った。
夢の中や心の中で何度も呼んだその名を、甘美な思いで口にしたのだ。
新一は、あらかじめ予約しておいたレストランへ、蘭を連れて行った。
既に気配を殺す事をやめた蘭は、レストランでも注目の的であったが、全くそれを気にしている風ではない。
おそらく蘭の空腹はかなり酷くなっているだろうが、新一は殊更に時間をかけた。
淫魔も味は分かるし、蘭もそれなりに楽しんでいるようだった。
新一は口当たりの良いワインを、蘭のために注文した。
新一自身は酒には強いけれど、今夜に備えて付き合い程度にセーブする。
蘭は新一の思惑通りワインをお代わりし、ほろ酔い加減になっている。
アルコールは、魔性にも効き目があるのだ。
蘭の魔力を削ぎ、空腹感を増進させ、少しずつ絡め取るように罠にはめて行く。
レストランを出ると、蘭が新一を上目遣いで見上げて言って来た。
「あの・・・不躾なお願いなんですけど・・・私今夜、寝るところがないんです。寝床を提供していただけませんか?お礼に出せるのは、この体しかないのですけれど・・・」
いよいよ、これからだ。
新一の胸は躍る。
蘭が新一に本当の意味で体を差し出す積りなどない事は分かっていたが、新一は逃す積りはない。
それにしても、蘭であれば、ただの人間で魔力などなかろうと、バージンじゃなかろうと、1回抱く対価が宿と食事だけとは何とも安すぎると新一は妙に真面目に考えていた。
「一宿一飯のお礼が、君を抱く事なの?また、随分安いもんだねえ。君ならその気になれば、もっと高く売りつけられるだろうに」
蘭と一夜を過ごすだけで離してしまうような勿体無い事をする気は全くない新一であった。
蘭がちょっと不安げな顔をしていた。
蘭は新一が魔力への耐性を持つだろう事におそらくは気付いていて、新一が引っ掛かってくれるのか不安なのであろう。
「OK。ありがたくお礼を頂くよ。その代わり、後で嫌だと言っても、おせーからな」
蘭はホッとしたような顔で素直に頷く。
新一はそう言ってから、淫魔であっても抱かれるのが「嫌」と言う事はあるのだろうかとちょっと考えた。
蘭から「抱いて」と言われて拒めるような男は滅多にいないだろう。
なのに、蘭は誰とも交合した事がない。
淫魔の中でも相当に変り種なのは間違いない。
もしかして潔癖症の淫魔で、男と触れ合うのが嫌なのだろうかとふと思った。
ずっと後になって、新一がその時思った事があながち間違いでもなかった事が分かるのだが。
ともかくも、蘭がその場に及んでもし「嫌」だと言ったのなら、その時はその時だと、新一は腹を決めた。
新一はそのまま、レストランが入っていたホテルの一室に蘭を連れて行く。
既にチェックインしてカード式ルームキーも持っている。
最初からそのつもりで準備していたのだ。
普通の人間の女性だったら、その手回しの良さに疑念を抱くだろうが、蘭はそこは人間の社会を良く知らない魔性の者、大して疑念も抱かずについて来た。
部屋に入ると、蘭は新一に術をかけて来た。
新一はやはりそう来たか、とちょっと苦く思う。
もしかしたら、淫魔が強烈に食欲を覚えるだろう気を持つ新一になら、淫夢を見せるのではなく直接抱かれようとするのではないかと、ちょっと期待をしていたのだった。
新一は蘭に向き直る。
蘭は術が効かなかった事で明らかに狼狽していた。
『逃すものかよ・・・!』
新一は蘭を抱き締め口付けた。
「んっ・・・!!」
蘭が抵抗する間を与えず、舌を蘭の口腔内に侵入させ、蘭の柔らかな唇と舌の感触、甘い唾液をたっぷりと味わった。
蘭が僅かに震えている。
口付けすらも、初めての事であるらしい。
新一は、自分の方が強引に奪った事も忘れ、蘭の初めてのキスの相手が自分である事が嬉しく、夢中で蘭の唇をむさぼった。
口付けたまま、蘭を抱き上げる。
そして出来るだけそっと寝台の上に下ろした。
蘭の服のボタンを外し、蘭の口を覆っていた自身の唇を蘭の喉元へとずらして行った。
唇を開放された蘭が大きく喘ぎながら懇願した。
「あ・・・やっ・・・やめてっ・・・」
新一は手の動きを止め、顔を上げて、蘭の瞳を覗き込む。
その瞳に涙が浮かんでいるのを見て、新一は胸が痛んだ。
ここで止めるのは、かなりの意志の力を必要とする。
新一の力をもってすれば、蘭が魔力の限り抵抗しても、ねじ伏せる事は可能である。
けれど、力尽くで蘭を蹂躙して手に入れる事は、新一には出来なかった。
それでも・・・ここで諦めるのも嫌だった。
人間であれ魔性であれ、新一に先駆けて他の男に蘭を奪われるなど、想像しただけで気が狂いそうだった。
「言った筈だぜ。後で嫌だと言っても、おせーって」
新一が思わずそう言葉に出すと、蘭は目を見開いた。
蘭としても、まさか自分が「やめて」と口に出す事態になるなど、思ってもいなかっただろう。
新一はじっと蘭の瞳を見詰めた。
蘭の瞳には、戸惑いと怖れの色が浮かんでいる。
けれど少なくとも嫌悪の色はない。
新一は、賭けに出た。
蘭が本気で嫌がった時は、理性を総動員させて蘭を開放する。
そうでなかったら、このまま蘭を抱く。
そう決めて、口に出した。
「それでも、本気で嫌なら・・・抵抗してみな。オレは嫌がる女を無理矢理奪うのは趣味じゃないんでね。オメーが本気で抵抗するなら、これ以上何もしねーぜ」
そう言いながら、新一は再び蘭の喉元に舌を這わせ、掌で服の上から蘭の体をまさぐる。
蘭は、抵抗しなかった。
それが答えだと、新一は自身を納得させた。
「あ・・・ああっ・・・!」
新一が少しずつ蘭の体を覆う布を剥ぎ取って行っても、蘭は身悶えするだけで抵抗はしなかった。
新一の手と唇が、蘭の肌を愛撫して行くと、蘭は反応を示し始めた。
体をくねらせ、あられもない声を上げる。
蘭のその部分からは、一枚残った布の上からも分かる位に蜜が溢れ出していた。
たちのぼる芳香が鼻腔をくすぐり、新一の脳髄を痺れさせる。
「ああっ・・・んんっ・・・はああん・・・」
『たまんねえ・・・』
新一のものは蘭を見た最初から屹立していたが、蘭の肌に触れ蘭の喘ぎ声を聞く中で、更に硬くそそり立って行った。
蘭が焦れたように腰を揺らす。
蘭も新一を欲しがっている、それが淫魔の本能に従っての事だと分かっていても、新一は嬉しく更に気持ちが燃え上がっていた。
新一も、一刻も早く蘭の中に入って突き上げたかったが、ぐっと我慢する。
淫魔である蘭に前戯など不要で、いきなり入っても大丈夫だと分かっていたが、新一はちゃんと手順にのっとって蘭を「抱き」たかった。
ただの性欲の捌け口になどしたくなかったのだ。
初めて触れる蘭の肌は滑らかで、新一は掌で撫でながらその感触を楽しんだ。
「すげ・・・すべすべして気持ち良いよ、オメーの肌」
「あ・・・ん・・・」
新一の指と掌が、唇と舌と熱い吐息が、鼻先が前髪が、蘭の肌の上を滑って行く度に。
蘭は身をくねらせ、その白い肌が赤く染まって行く。
けれど、蘭の肌に唇を寄せ強く吸っても、所有の印を残す事は出来なかった。
新一は、蘭が人間でも魔性でも構いはしなかったが、蘭の肌に所有の印をつけられない事は、少し残念ではあった。
その代わりとばかり、舌を這わせてその甘い感触を味わった。
新一は蘭の胸の双丘をゆっくりと揉みしだいた。
「それに、オメーの胸・・・大きくて形が良いし、柔らけー」
「あんっ!ああ・・・」
蘭がその刺激に耐えかねたように新一の頭を抱き寄せた。
新一はついと蘭の胸の果実をつまむと、口に含んで強く吸った。
柔らかなふくらみの中で、その果実だけが硬く、そして甘い。
「んああああああっ!!!」
蘭が新一にすがり付いて背をのけぞらせた。
おそらくイッタのであろう、その後脱力してぼんやりとしていた。
「ふっ・・・やっぱ、すげー感じ易いんだな、オメー・・・」
新一は手早く自分の服を脱ぎ捨て、蘭に覆いかぶさった。
新一の皮膚にじかに、蘭のすべらかな肌が、柔らかな胸が、触れる。
蘭のその部分は、もうしとどに濡れそぼっている。
新一ももうこれ以上自分を抑える事が出来なかった。
蘭を覆う最後の布を取り去り、両足を大きく広げた。
蘭の秘められた場所をじっと見詰める。
蜜を滴らせている赤く美しい花。
「綺麗だ・・・蘭・・・」
新一は、はちきれんばかりになっている自分のものを、一気に蘭の中に突き入れた。
「あっ・・・あああああん!」
淫魔である蘭の中は、新一のものをすんなりと受け入れ、新一はすさまじい快感に我を忘れそうになった。
蘭が歓喜の声を上げ新一を受け入れているのが、嬉しかった。
「蘭。これでオメーはオレのもんだ・・・」
新一は一気に蘭の奥まで入り、想いのままに激しく腰を打ちつけ始めた。
「誰にも・・・渡さねえ・・・」
隠微な水音が部屋中に響き渡る。
新一の律動に合わせて、蘭も腰を振っている。
「くっ・・・すげ・・・いいぜ、蘭・・・」
「あっあんっはんっ・・・あああん、新一、新一・・・」
蘭が新一にしがみついて名を呼ぶ、その甘い声が新一の脳髄を痺れさせた。
激しい動きの中で、2人とも絶頂に達するのは早かった。
「ああああああっっ!!」
蘭の両足が新一の腰を締め付ける格好で全身が痙攣したように震え、それと同時に新一のものが大きく脈打って蘭の奥に熱いものを放った。
と同時に、淫魔の大好物である精気が、蘭の中に流れ込んで行く。
新一は精気が自身から流れ出して行く為多少脱力感を感じていたが、同時にほくそ笑んでもいた。
新一は自身の精気に術をかけていたのだ。
この先蘭を新一に縛り付け、本当に手に入れる為の術を。
「あ・・・美味しい・・・」
蘭が呟く声が聞こえた。
新一の精気で明らかに満足した様子だ。
おそらく生まれて初めて満腹したのであろう。
新一は蘭の中で暫く余韻を楽しんだが、やがて、蘭の中から力を失った自身を引き抜くと、蘭の隣に身を横たえた。
蘭は食欲が満たされたためか、満ち足りた幸福そうなうっとりした表情になっている、その綺麗な顔をじっと見詰めた。
新一の視線を感じて、蘭が新一の方を見て問うて来た。
「な、何・・・?」
「腹、いっぱいになったか?」
「え・・・?」
「今、『食事』したろ?ちょっと位精気吸われたくれーでどうにかなるオレじゃねえけど、流石にちと堪えたかな?」
新一の言葉に、蘭は狼狽したように固まっていた。
「いや。珍しいものを引っ掛けたな、って思ってよ。バージンの淫魔なんて、滅多にお目にかかれるしろもんじゃねーし」
蘭が弾かれたように身を起こした。
「な、ななななな!?」
新一も体を起こして言った。
「何故、オメーの正体を知ってるかって?それはな・・・オレのもうひとつの顔が、退魔師だから。そして、そちらの通り名は、コナンってんだ」
「魔探偵コナン・・・!」
蘭が、息を呑んだ。
強大な退魔師・魔探偵コナンの名は、魔界で結構有名らしいとは知っていたが、蘭も聞いた事があったようである。
蘭が身を守るように両腕で自身を抱きながら新一から後退った。
「わ、私を・・・狩るつもりで・・・近付いたの・・・?」
蘭の震える声に、新一は思わず頭を抱えたくなった。
けれど確かに、数多い退魔師の中には品性下劣な輩も居て。
精気を取られないように術をかけた淫魔を散々弄んで楽しんだ挙句、自分の悪行を知られない為にその淫魔を始末する、ろくでもない奴が存在するのだ。
新一は、蘭にそのように思われてしまったかと自嘲しながら、頭をガシガシと掻いた。
「あのな。近付いたのはオメーの方だろうがよ。それに、いくら退魔師っても、魔性となれば見境なく狩ってる訳じゃないぜ。オレが狩るのは、基本的に人間に仇なすものに限ってるよ。淫魔でも、取り殺すほどの事をしてねー奴は、見逃してる」
「じゃあ、何故、私を・・・?」
この淫魔には、好きで抱きたいという人間の想いは全く通じないものらしいと新一は思った。
だからちょっと意地悪い言い方をしてしまった。
「ん?そりゃあ・・・オメーは可愛くて綺麗でオレ好みだったし、淫魔を抱くと気持ち良いって話は聞いてたからさ。おまけに、オメーは淫魔の癖に、実際に男と交わった事がねーって変り種。楽しませてもらったぜ」
「な・・・なっ・・・!!」
蘭が目に涙を浮かべて枕を投げつける。
「こ、このペテン師、スケベッ!」
「おいおい・・・ペテン師はねえだろ?だって最初に、『食事』と寝床のお礼に体を差し出すって言ったのは、そっちだぜ」
蘭は、よほど悔しいのか、目に涙を溜めて新一の胸をポカポカ殴りつけた。
「いて、いてっ・・・こら、やめろ!」
別に大して痛い訳ではないが、蘭が悔しそうに涙を浮かべるのが何ともやり切れなかった。
新一は蘭の両手を掴み、そのまま蘭の唇を自分のそれで塞いだ。
蘭をそのまま強い力で抱きしめ、ベッドに倒れこんだ。
新一が愛撫を始めると蘭は体をくねらせ始め、やがて蘭の口からは、再びあられもない声が上がり始めた。
新一は別に「エッチで誤魔化す」つもりでそうした訳ではなかったが、結果的にそうなってしまったのである。
淫魔である蘭を続けて2度も抱くのはかなり体力を消耗したが、その分快楽も大きかった。
ただ、蘭の体だけを奪ったような気がして、一抹の不安と空しさも、感じていた。
けれど、もう引き返せなかった。
朝、新一が目覚めた時には蘭はもう姿を消していた。
魔界に去ったのは分かっている。
今回は満腹になっただろうから、数日は姿を現さないかも知れない。
けれど、この次人間界に現れた時は、もう、離すつもりはない。
新一は、蘭を召喚する術をかけた魔法陣を自宅の広間に描いて、待った。
蘭を迎えて生活する為に、自宅2階の寝室のベッドを急遽ダブルベッドに交換し、新しいダブルの羽根布団をそろえた。
やがて、魔法陣に蘭が姿を現した。
新一は気配を察し、急いで広間へと向かった。
待ち望んだ姿をそこに見出して、新一は自分でも顔がほころぶのを感じていた。
「やあ、来たね」
蘭が新一の姿を認めて息を呑んだ。
「そろそろ蘭が、オレに会いに来る頃だと思ってさ。オメー、オレんち知らねえだろ?だから探さなくてもすぐ来れるように、オレの方で準備しといた」
その言葉を聞いた蘭は悔しそうにそっぽを向いて言った。
「だ、誰がアンタに会いに・・・私はただ、お腹が空いたから、食事をしに人間界に来ただけよ!」
蘭から「会いたかった」などという言葉が出ると期待をしていた訳ではなかったけれど、そういう風に言われてしまうと新一としても何だか悔しかった。
自分だけが蘭に会いたかったのかと思うと何だかむかむかして来て、殊更に意地悪い言い方をしてしまう。
「食事?オレ以外の奴から精気を取るのは、無理だから諦めた方がいいぜ」
新一にそう言われ、蘭は首を傾げていた。
「オメーが、オレ以外の男から精気を奪えねえように、こないだ術をかけといたからな」
新一はにやりと笑ってそう言った。
本当はそんな意地悪い言い方をしたかったのではなかったけれども。
蘭が怒りに燃える目で新一を見詰めて詰った。
「ななな・・・!卑怯者!元に戻しなさいよ!」
怒った顔も綺麗ではあるが、笑って欲しいなと思いながら、新一は魔法陣の中に入り、蘭をひょいと抱き上げた。
「そうは行かねえ。この前オメーは男と直に交わって精気を取る方法を覚えた。今迄は淫夢を見せるだけだったんで吸われた精気も高が知れてるが、この先手当たり次第に食事をすると、人間を殺しかねねーぞ。そうじゃなくても、あんだけ精気吸われりゃ、健康を損ねかねねーし、大迷惑だ。オレだったら大丈夫だから、精気吸うのはオレ1人で我慢しときなよ。だったらオメーを狩らずに済むしさ」
どうしても、「オレ以外の男にオメーが抱かれるのはイヤなんだ」と本音を言えない新一であった。
新一に抱き上げられ最初は暴れていた蘭だったが、次第に大人しくなった。
「自分ひとりが犠牲になる気?第一、新一のメリットはどこにあるのよ?」
蘭の問いに、新一は肩を竦めて本音とは遠い言葉で答えた。
「別に、正義の為だけに、なんて戯言言う気はサラサラねーぜ。オレのメリットとしては・・・そうだな。探偵と退魔師の2足の草鞋履いてる俺としちゃ、まともに彼女作ってる暇もねえんだが。やっぱ、それなりの欲望ってもんはある。で、可愛い淫魔とのセックスは、噂通りとても気持ち良いもんだったし。オレとしちゃ、『相手に不自由しないで済む』のが最大のメリットだな」
この言葉の内、一応本音と同じなのは、「蘭を抱いたら気持ちよかった」という部分だけである。
新一は今迄他の女性に欲望を感じた事はなかったし、男性の生理としての欲望処理だけだったら1人で出来るので別に女性を相手にしなくても良かった。
過去も今も、そしておそらく未来も、新一が抱きたい女性は蘭だけで。
そもそも、あの時が蘭だけでなく新一にとっても異性との交合が初めてであった事など、今の新一には口が裂けても言えない事であった。
蘭を抱き上げたまま、新一は階段を上って2階の寝室に向かった。
蘭を迎える為に準備した、真新しいシーツとフカフカの羽根布団がかかっている、大きなダブルベッドの上に、そっと蘭をおろし。
抱きしめて口付けながらすぐさま服を脱がしにかかったのだった。
蘭は新一の口付けと愛撫に、すぐに反応し始め。
新一の腕の中で身をくねらせ、あられもない声をあげ始めたのだった。
こうして、可愛い淫魔が新一の同居人となった。
新一にとって予想外な事に、蘭は淫魔であるのに料理上手で、家の中を整えるのにも長けていた。
新一が今迄雇っていたハウスキーパーが不要になった位である。
新一の気持ちとしては、元々相手が人外の者であっても、自分の「妻」として蘭を迎えた積りであったのだが。
実際、本当の新婚のような生活になった事で、新一は有頂天になっていた。
けれど、自身が蘭に対し「都合の良い女」扱いをした言葉を告げてしまっていた事を、迂闊にも新一は失念していたのである。
蘭が新一の言葉をすっかり「信用」してしまっている事に新一が気付いて頭を抱えるのは、また後の話である。
新一の遅い初恋は、形としての成就は素早かったが、その後に苦労が待ち構えていたのであった。
to be continued…?
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<後書き>
淫魔の蘭ちゃんと、退魔師の新一くんのお話、第2弾。
ってもこれ、まんま前の話の新一くんサイドで、続きではありません。
一応、File01でキッチーだった新一くんを庇う(?)為に、新一くん側の事情を書き始めた筈が、あら不思議。新一くんがますます腹黒く、しかも情けない男になってしまったのは、どうして?
私は新一くんが好きなのよ!とっても「カッコ良い」と思っているし、正義感溢れる素晴らしい青年だって思ってるのよ!
決して愛がないわけじゃないのに、そう書けないってのは、やっぱり書き手がヨコシマだからなの!?
で、ちらりと新一くんの独白に出てきた、あの2人。
この話が続けば、いずれ出番があると思います。
でも多分、そっちより先に大阪2人組が出るんじゃないかと。
蘭ちゃんと言えば外せない親友の彼女とその彼も、いずれ。
ええ、勿論、他カプにも、人外の存在がいます。それは、お約束という事で(笑)。
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