魔探偵コナン



byドミ



File11:決戦



「皆様、ごきげんよう」

最後に工藤邸を訪れたのは、白馬探と、その奥方の紅子であった。
妖艶な美しさを誇る紅子だが、幸か不幸か、ここに居る面々は、「本命以外は眼中にない」者が殆どであり、紅子に鼻の下を伸ばす者はいなかった。

蘭を含め、紅子や探と初対面だった者達は、それぞれに挨拶を交わした。

「へえ。工藤さんの話から行くと、ボクはサタンの転生なのですか」
「・・・お互い不本意だろうが、ルシフェルとよく混同されている存在だよな」
「黒羽君と、そういう前世の因縁があったとはね」
「お互い、何となくウマが合わない訳だよな」

探と快斗は、妙に不毛な会話を繰り広げていた。

「ルシフェルは、本体が消滅した訳ではなく、眠っている。サタンは、どうなんでしょう?」
「さあな。ただ、オメーも一応、普通に『人間として』生まれて来てんだから、サタンそのものの転生ではないんだろう」
「それじゃあ、サタンもどこかで眠っている可能性はありますね・・・」
「オメー、自分の前世の事なのに、分からねえのかよ?」
「残念ながら。聞くまでは、ボクの前世がサタンだなどと、考えもしませんでしたし。でも、前世の事は分からないのが普通ではないですか?工藤さんですら、知らなかったようですしね」
「で、ルシフェルとサタンが別存在だとすると、奥方は・・・」

快斗は言いかけて口をつぐんだ。
今、探の奥方・紅子が傍に居る状況で、前世の奥方の話をするのは、何とも気まずいものがある。
パターンから行くと、紅子の前世も・・・とは考えられるが、確証はない。

その紅子はと言えば、水晶玉を覗き込んでいた。
女性陣は、その紅子の様子を、固唾を呑んで見守っていた。
やがて、紅子が口を開く。


「聖と魔は、時に対立し、時に協力し合う事もあれど、この世の理の中にあるもの。しかしかの者・ニャルラトテップは、全く異質で、この世の理と存在を違えるもの。共存は、不可能ですわね」
「・・・成る程。ボクは、宿命とか運命とか、そういう言葉は好きではないですが。ここにボクらが集う事になった理由は、ニャルラトテップを完全に排除する為の、宿命の糸に導かれた、という事ですか」

「宿命っちゅうよりは、前世からの工藤の執念やあらへんか?」

紅子と探の言葉に、口を挟んだのは、平次であった。

「その、ニャル何とかいう化けもんは、姉ちゃんの前世に手ぇ出そうとしたっちゅうこっちゃろ?そら、世代を超えて工藤が怨念を抱き続けたかて、不思議あらへんで?」

新一と蘭は真っ赤になり、その場に居た者達は、若干数を除いて面白そうな顔になる。

「前世から、彼の執着心と独占欲は、並々ならぬものがあったという事ですね」
「おいおいおい。オメーらなあ・・・オレの事、何だと思ってんだよ?」
「見る目がある者なら、一目で分かりますよ。蘭さんを守る工藤さんの霊気が、並々ならぬものだって事がね」

探の言葉に、その場にいた皆が、一斉に頷いた。


「で?決戦はおそらく、近いのでしょう?それぞれの、役割分担について、話し合った方が良いと思いますがね」

探の言葉に呼応して、優作が中心になって、役割分担について話し合われる。
それぞれに、自分が果たすべき役割を確認し合って、その場は解散となった。


全員で、大きな工藤邸に泊まり込みである。
それぞれに、仕事はあっても段取りは付けて来ているので、工藤邸に長期泊まり込みが可能だ。
どうしてもという場合は、ここから「出勤」すれば良い。


「何やらワクワクするでえ。今の学生達の合宿は、こないな感じやろか?」
「服部君、そんな場合ではないのでは?」
「高木刑事、楽しめる間は楽しまな、逆に身がもたへんで?」

それぞれに、割り当てられた部屋に引き揚げる。

このような場合であっても、「普段通り」夫婦の生活を送る者もいるだろう。
それ故、各部屋には、音や気配が漏れ出ないような、簡単な結界が張ってあった。


新一も蘭を伴って、部屋に入ったが。
煩悩を押さえつけて、新一は蘭を胸に抱き締めるだけで、何もせずに夜を過ごす事にした。

蘭は普段新一から充分に精気を貰っているので、ひと月ほどは、精気の補充をしなくても大丈夫だし。
小五郎と英理の例もあるので、交わって無防備になっている隙を突かれる可能性がありそうに思えたからだ。
新一が恐れるのは、不意を突かれる事もだが、ニャルラトテップに蘭の裸を見られる事もである。

ニャルラトテップは、この世の理を外れた存在でありながら、女性を凌辱する事が快感であるらしい事だけは、確かだったから。


「新一・・・」
「蘭・・・必ず、オメーを守るから・・・」
「うん・・・」

蘭は、新一の胸に、頭を摺り寄せた。

前世がどうであろうと関係なく、腕の中に居るのは、新一にとってかけがえのない存在。
絶対に、手放さない。
固く決意している新一であった。


ある意味、新一は敵を甘く見ていた。
その強大さは、分かっている積りだったが。
「大切な存在を守りたい」、そこに付け込んでくるとは、想像外だったのである。


蘭を抱きしめて眠っていた新一は、禍々しい気配に、飛び起きた。
空間に歪みが生じている。

次元を超える力のあるニャルラトテップには、工藤邸の結界など、物の役にも立たない。
空間の歪みから、すさまじい力が蘭を引っ張り始めた。

「蘭!」
「新一ぃ!」

お互いに、何があっても手を離すものかと、しっかりとお互いの手首を握り合った。


しかし。



(この娘の、「腕」など、不要)

蘭の腕を、付け根から切り落とそうとする、ニャルの霊気の刃に、新一の手は、思わず緩んだ。
同時に、蘭が新一の手を握る力も、緩んだ。

敵が、新一と蘭に同時に、同じイリュージョンを・・・愛する者の腕を切り落とそうとする幻影を見せたのだと、気付いた時には、もう遅く。
蘭は、空間の歪みに引き込まれてしまった。
そしてすぐに、空間の歪みは閉じる。



「らああああああん!!」


新一は、蘭を手放してしまった両手を、壁に打ち付けて叫んだ。
けれど、ここで茫然自失してしまうような男ではない。


「白馬!」

叫ぶと、既に予兆があったのか、探がすぐに駆けつけて来た。
そして、蘭が消えた気配をいち早く感じ取った、英理と小五郎も。

「新一、貴様ぁ、貴様がついて置きながら、何で蘭をむざむざ攫われた!」

いきり立つ小五郎を無視する形で、新一は探に向かって言った。

「白馬、道を、頼む!」
「了解!」

ニャルラトテップは、以前、探の分身とも言える力の石「アモン」を、自身の力を増幅させる為に盗み出して取り込んでいた。
けれど、それ故に、探は、ニャルラトテップがどこに居ようとも、アモンとのつながりを利用して、そこまでの道を開く事が可能になったのである。

探が、アモンの場所を探り、道を作るのを、傍から紅子が力を貸していた。
皆が、異変を感じて集まって来る。
その間に、道は出来た。

「小五郎王。責めは後でいくらでも受ける。だから、後をよろしく頼む」

そう言い置いて、新一は、探が開いた道へと入って行く。

「ちっ!蘭に何かあったら、俺様が貴様に引導を渡してやる!だからきっと、無事取り戻して来い!」

他の皆は、言葉もなく、無言で頷いて、新一を促した。
新一は、手を上げて頷き返すと、開かれた道へと踏み出した。
新一が入った後すぐに、道は閉ざされた。

そして、残された者達は、それぞれに、自分達の果たすべき役割の為に、動き始めた。


   ☆☆☆


蘭が気付いた時。
何もない虚空に、いた。


「し、新一、新一!」

心細くて、愛しい人の名を呼ぶ。

すると。


「蘭、どうした?大丈夫だよ」

彼のものに「似た」優しい声が響いた。


蘭の目の前に、微笑みを浮かべた、新一の「姿」があった。
同じ姿、同じ声、同じ「霊気」。
けれど。


「・・・誰!?」

隠しようのない禍々しい気配に、これが新一に化けた「何か」である事が、蘭にはすぐに分かってしまった。
身を守るように両手で胸を押さえて、後退る。

「やれやれ。せっかく、そなたが苦しまず、最期まで快楽に喘ぎながら、我と一つになれるようにしてあげたと言うのに。気がついてしまったのだね」

近付いて来る「男」への恐怖と嫌悪で、蘭の身は震える。

新一の姿をした目の前の存在が、「変幻自在の魔王」ニャルラトテップである事は、分かってしまった。

蘭は、首に下げられたペンダントを握りしめた。
ペンダントトップには、和葉から貰った「毒」が、仕込まれている。
リリムとして目覚めてしまった蘭でも、即座に命を断つ事が出来る毒を、植物の精霊である和葉が、特別に調合したのだ。

新一がきっと助けに来てくれると、信じているが。
どうしても間に合わない時には、これを使う積りである。


目の前の、新一をかたどっていた姿が、崩れて行く。
元々、ニャルラトテップは、定まった形を持たない異形のもの。

アメーバのような姿になったニャルが、触手を伸ばして来るのに、蘭は生理的嫌悪感を覚えていた。
しかし、触手は、蘭に触れる事が出来ず、跳ね返される。


「流石に、あの男がそなたにかけた術は、半端じゃないね。この我でも、手こずりそうだ。だがそれもまた、一興」

蘭に直接触れる事は出来ないが、何本もの触手が、すぐ傍で蠢いていて、蘭は悪寒に震えた。
触手の先端は、ひとつひとつが男根の形をしている。

「ひっ!」
「ふふふふふ。淫魔であるクセに、男のモノが怖いのか?これは、そなた達に快楽と餌を与える存在なのに?もっとも我のこれは、そなた達に糧を与える事はないがな」
「新一・・・新一ぃ・・・」
「今生でも、あの男を呼ぶか。他の男を想い、嫌悪と恐怖に泣き叫ぶ女を、蹂躙するのは、この上ない快感」

嫌悪感に震えていた蘭だったが、ニャルラトテップの言葉に、むかむかとして来始めた。

「あんたって・・・この世の理とは無縁の筈なのに!どうして、そういった俗物思考な訳!?」
「何だって・・・?」
「嫌がる女を手篭めにする事に喜びを見出すなんて、そんなの!下賤思考も良いところじゃない!」

リリム族の女王として目覚めつつある蘭は、今迄、数多の同族を、自身の勝手な目的と欲望の為に犠牲にして来た、目の前の存在に対して、恐怖を上回る怒りを覚え始めていた。
人間だろうと魔性だろうと、他の何者であろうと、関係ない。
自分の為だけに、他者を踏みつけにする存在に、蘭は大きな怒りを覚えていた。

「ふふふ。やはりお前は、昔通りの存在だな」
「何ですって?」
「我は、そもそも自分がどういう存在であるかも、知らぬ。別宇宙からこの地に来た時に、深く傷付き、記憶というものも失われていた。だが、そのような我を、決まった姿すら持たぬ我を、助けた者があった。我は、その者を欲しいと思った。けれど、その者は、献身的に我の世話をしながら、他の者に心を捧げていた」
「・・・!!」

蘭にも、それが蘭の前世のリリムを指している事は、分かった。
そして、この世界の理を外れているように見えるニャルラトテップにも、酷く歪んではいるが、自分達の愛に似たような感情や、執着心というものがあるのだと、何となく理解する。

「そなたを欲しいと願うままに、我のモノにしようとしたが。あの者に、阻まれた。人間という、力ない存在の筈の、あの者に!」

蘭の周囲に、激しい感情のオーラが、渦巻いていた。
昔、少女を手に入れようとした時、人間の祖となった少年に、それを阻まれた。
それから数万年も時を経ても、いまだに残る、理不尽な怒りと執着。
ニャルラトテップの、歪んで狂った感情に、蘭は戦慄しながらも、決して負けまいと心を奮い立たせる。

「今度こそ、そなたを我のモノにする。他の者と違い、我を再生した後も、そなたの肉体は朽ちさせずに残しておいてやろう。意識も押し潰さずにおいてやろう。そなたはいつも、我と一つになって、我と共に、快楽を享受するが良い。あの者がそなたの中に播いた種は、残す訳には行かぬ故、我が食ろうてやるが」

ニャルラトテップが示唆する未来図に、蘭はゾッとした。
今迄、ニャルラトテップの再生の苗床となった女性は皆、朽ち果ててしまったが、蘭はその身も心も残してやると言うのである。
新一と引き離され、蘭の胎内に宿る新一の子供を食われ、未来永劫、ニャルラトテップの慰み者として、蘭は残されるという、地獄のような恐ろしい未来図。

どうやらニャルラトテップにとって、リリムは特別な存在であったらしいが、それはちっとも有り難い事ではなく、戦慄すべき事であった。

蘭は、胸のペンダントを、ぐっと握りしめた。
蘭を守る新一の力は、ニャルラトテップがその気になれば、破られるのは間違いないが。
時間稼ぎには、なる筈だ。


『新一!』

蘭が、心の内で強くその名を呼ぶと。
それに呼応するかのように、空間が裂けた。


「・・・ったく。御託を並べているが、早い話、横恋慕じゃねえか。自分のものじゃねえ相手に、手を出すんじゃねえよ!」
「新一!」

空を割いて出来た道から現れた新一は、蘭をしっかりと抱き締め。
蘭も、必死で新一に取りすがった。


   ☆☆☆


工藤邸には、いまだかつてない事態が生じていた。
強力な結界が張ってある筈の、屋敷に。
ニャルラトテップが、異なる次元を通じて開けた通路を通り、結界に阻まれずに、ニャルラトテップの「眷族」が、入り込んで来たのである。


元々、ニャルラトテップは、異なる宇宙から訪れた者であるし、自分自身の「子孫」を残していないから、本当の意味での「眷族」は有り得ないのだが。
古くから居る魔性の類を、自分の味方として引き込み、かなりの数を従わせていた。

魔性にも色々居て、自分よりずっと強い相手に、心酔したり恐怖したりして従う場合も、ままある。
普通の魔王達は、文字通り、「同族」「眷族」を従えているのだが、ニャルラトテップには、その力に恐怖した魔性達が、従っていた。


しかし。

「フンッ!」
「ままま、真さん、後ろ後ろ!」
「トリャア!」
「み、右右!!」
「トウッ!」

真の、舞踏のような華麗な蹴りには、霊力が込められていて。
人間の物理的攻撃が通じない筈の魔物達が、次々と葬られて行く。

園子は、その手伝い(というか声援)である。
園子自身も、齢を重ねた白狐であるから、かなりの霊力を持っていて。
真にその霊力を重ね、助力になっていたのであった。



ズガーン!

「ぐ・・・バカな・・・銃弾が我々に効く筈が・・・」

銃弾を受けて、風化して行く魔物達。

「この弾丸は、特別性だ。霊力を込めた、シルバーブレットだからね」
「渉君、次、来るわよ!」
「はい、美和子さん!」

霊力を込めた銃で、闘っているのは、高木渉刑事で。
強い霊力を持った猫又の美和子が、それをサポートしていた。


   ☆☆☆


「探さん、皆様、用意はよろしくて?」

紅子は、水晶玉に向かい、呪文を唱えた。


ニャルラトテップは、多層次元にまたがって存在する。
それ故、今迄誰も、その侵入も逃走も、阻む事が出来なかった。

けれど、今回は。
探が、アモンを手掛かりに、ニャルラトテップへと繋げた道を利用して。
そして小五郎王が、石化させられる直前にニャルラトテップに放った「マーキング」を手掛かりとして。
紅子が、多層次元に通じる、別の道を開き始めたのである。

優作が、有希子の力を借りて、多層次元へ開いた道に、力を放った。
小五郎と英理は、今は殆ど無力だが、優作の放った力を、(小五郎がマーキングした)ニャルラトテップの元へと、導く手助けをする。


ゆらりと、空間が揺れた。
ニャルラトテップの、他次元にまたがっていた筈の体が、1つの次元に縫い合わされて行く。


和葉の頬に、涙が流れていた。

「和葉?どないした?」
「リリム族程やないけど、精霊の仲間にも、食われて犠牲になったもんはおるんや・・・」
「・・・和葉・・・」
「平次。食われた精霊達が、微かに目覚めて、力を貸してくれようとしとる。アタシらの、出番や」
「おう!」

和葉が、精霊としての力を奮い、1つの次元に縫い合わされて動きが鈍くなったニャルラトテップの霊気を、大地と繋げる。
ニャルラトテップの膨大な力が、大地に吸い込まれ始めた。
その間、和葉をサポートしつつ、全力で和葉を守るのが、平次の役目である。

「今のアンタの膨大な力は、大勢のもんを食らって手にしたもんや!それ、大地に、全て還して貰うで!」


皆、それぞれに死力を尽くしながら、今、ニャルラトテップと対峙している筈の、新一と蘭の事を想っていた。


   ☆☆☆


虚空では、死闘が繰り広げられていた。
圧倒的な力を誇る筈のニャルラトテップ相手に、新一は一歩も引く事がない。
蘭に自覚はなかったが、新一とシンクロして、ニャルラトテップを攻撃する力になっていたのである。

新一は、結界を張りつつ、霊力を込めた攻撃を放つ。
しかしさすがに、数多の魔王達よりはるかに力を持つニャルラトテップ相手に、さしてダメージを与える事は出来ていないようだ。

今は、蘭も、そして新一自身も、守り得ている結界だけれど。
新一が文字通り命を削って作っている結界、新一の力が弱まれば、その時は終わりだ。


僅かの時間だろうが、とてつもなく長く感じられている戦いの果てに、新一も蘭も、ふと気付く。
あれほど強大だったニャルラトテップの力が、僅かではあるが、少しずつ削がれていた。


「父さん、母さん、服部、みんな・・・」

皆の助力で、ニャルラトテップにダメージが与えられている事を、新一は感じた。


もしもここで、敗れそうなら、その時は。
新一は蘭と共に、ここで今生の命を終わらせる覚悟はあった。
けれどそれは、ニャルラトテップを未来に生き伸びさせ、この世に禍根を残す・・・場合によっては、滅ぼしてしまう危険性がある。


『蘭と巡り会えるまで、何百年も、待った。来世で巡り会うまで、どれだけ探す事になるのか。いや、それ以前に、世界そのものが無くなっちまったら、来世もへったくれもねえ!』

ニャルラトテップは確かに強大だが。
今回は、大勢の助力を得ている。
それは、さすがのニャルラトテップにも想定外の事の筈だ。


新一は、肩で息をしながらも、最後まで諦めないと、決意を新たにしていた。


その時。


『我の姿を映し、我が育てた息子よ』

新一の頭の中で、声がした。
新一と快斗に似た声色で、しかしずっと威厳があり重々しい声。


「ルシフェル殿か!?」

新一の心の奥底に、その存在は確かに、刻まれていた。
かつて、光と闇を編み上げて新一の前世である「光と闇のアダム」を作った、暁の大天使・光と闇の大魔王、ルシフェルである。


『我を、受け入れよ。この化け物を、今度こそ、完全に叩き潰す』

新一は頷いた。
新一に、ルシフェルの零体が重なったのを、新一は感じた。


同時に。

『わらわの命を分けし、わらわが産み育てた娘よ』
「お母様!?」
『わらわを受け入れよ。我らの子供達を数多奪ったこ奴の息の根を、今度こそ、止める』

蘭が頷き、蘭にリリスの零体が重なる。


ルシフェルが重なった新一と、リリスが重なった蘭が、手を取り合うと、そこに凄まじい光が生まれた。
純白の光ではなく、闇を内包した、相反する大いなる力を融合させて秘めた、光である。


類稀な力が、重なり、増幅し。
圧倒的な霊気の輝きが、その場に生じた。


「ぐお・・・人ごときが、そのような光を持てる筈はない・・・お前は、一体・・・」


新一と蘭の周りを取り囲むようにして蠢いていたニャルラトテップの体が、今迄と違う震え方をする。
逃げようとしても、その体は、次元を超えられないように、優作達によって縫い止められていた。
圧倒的に巨大だった力も、無限の容量を持つ大地に、吸い込まれて行く。


新一とルシフェル、蘭とリリス、4者が一つになった時に放たれた眩い霊気の光は、新一と蘭が繋いだ手の中に、収束して行った。
そしてそれは、サッカーボール位の大きさになった。


新一が、まるでボールを扱うかのように、その光の球を、僅かに上に放り上げる。
そしてそれは、ボールのように落下して、弾む。


「行けええええ!!」

新一が、物理的な力と霊力を込めて、その球を蹴り上げた。
それは、ニャルラトテップの肉体の中に飛び込んで行く。


「*゛@゛¥;#:&゛♭%*〜〜!!!」


ニャルラトテップの体が、凄まじい変形を繰り返しながらざわめき、声にならない異音を発し、空間全体が鳴動した。



to be continued…


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<後書き>

あや〜。
前振りばかり長い割に、あっけない戦いの終わりで、申し訳ないです。

でも、延々と、苦しんだり、戦いが長引いたりってのは、私が書いてて楽しくないのよ〜。

ま、「味方を大勢結集出来た事での勝利」っつー事で。

ここまで来れば、あと1話くらいで、終わりですね。
続き書こうと思えば、いくらでも続けられるけど、とりあえず、一旦は、ピリオドを打ちたいと思います。

続きは、出来るだけ近い内に。
では。

「File10:集結」に戻る。  「File12:最終回・永遠の絆」に続く。