魔探偵コナン




byドミ



File12:最終回・永遠の絆



致命傷を負ったニャルラトテップの中から。
おびただしい数の光の塊が現れ、ニャルラトテップの体を引き裂きつつ、逃れて行く。


「あれは・・・今迄ヤツに食われてしまった者達の、魂か!?」

新一の言葉に、リリスとルシフェルの思念で応えがあった。

『さよう。今迄、捉えられて、転生も叶わなかった者達の、魂。ようやく解放されたから、またいずれ、この世に生まれ出る事も可能だ』
『あの中には、全てではないが、我らの子供達が多い。歪んだ愛と執着をリリムに注いでいたヤツは、リリム族の女性とその子供を犠牲にする事が多かったからな』
『ヤツがそもそも、いずこの宇宙から来たものか、分からぬが。我らを苦しめて来たヤツを、ようやく完全に退ける事が出来た』

リリスとルシフェルは、感慨深げに言った。
そもそも、聖と魔は、人間世界で考えられている程、対立している存在ではなく。
ルシフェルのように、双方の力を持つ存在もあり。
それぞれに、愛も慈しみも憎悪も欲望も持ち合わせていて。

「時に対立し、時に協力する」、共に神の子である存在であった。

ただ、別宇宙から来たニャルラトテップは、完全にその理から離れていた。
彼はただただ、他者を支配し取り込み、生み出すものもなく自身を肥大させて行くだけの存在だったのだ。


ルシフェルとリリスに取って、ニャルラトテップこそ天敵。
2人の唯一の子供であるリリムを、彼に奪われそうになったのを辛うじて退けてから、幾万年。
数多のリリム族を犠牲にされて来たが、今ようやく、完全に退ける事が出来た。


『ニャルラトテップを滅するまで、我らは命を終わらせる訳に行かぬと、眠る事で生き伸びて来たが。ようやく、役目を果たしたな』


新一と蘭の中から、重なっていた存在が抜け出て。
二人の前に、立った。

快斗と青子の姿をしながら、圧倒的に強大な霊気を持つ、別存在。
肉体を備えた、ルシフェルとリリスであった。

その時、

「ぐ・・・が・・・」
「「「「!」」」」

ずたずたになったはずのニャルラトテップが、最後の気力を振り絞るかのように仁王立ちになり、

「こ、これで・・・勝ったと思う・・・な・・・。例え・・・吾が・・・滅んで・・・も・・・、また・・・吾の・・・よう・・・な・・・・・・・が・・・必ず・・・・・・れ・・・る・・・」

と、新一達を睨みつける。
新一はふっと笑い、

「そうなったらなったで、またテメーのようにぶっ飛ばすまでの事さ」

あっさりと言ってのけた。

「そ・・・それ・・・が・・・おま・・・え・・・ら・・・の・・・・ぎゃああああああああああああーーーーーーっっっっっ!!!」

ニャルラトテップは断末魔の叫びと共に、完全消滅した。


「・・・これで終わったのね、新一」
「ああ。俺達が勝ったんだ」

戦いの終わりに安堵する二人。
蘭は、ホッとした顔で新一に取りすがろうとした。
しかしその直前、ハッとしたように顔をあげ、リリス達の方を向いて叫んだ。

「お母様・・・リリス様!青子ちゃん、青子ちゃんは!?」

リリスが、怪訝そうに首を傾げる。

「リリム?」
「お父様とお母様が、目覚めたという事は、体を開け渡した黒羽君と青子ちゃんは、もう、消滅してしまったの!?」

蘭の頬から、涙が溢れ落ちた。

「も、もしかして、新一とわたしを守って、ニャルラトテップを滅する為に・・・お父様・・・ルシフェル様とリリス様を、顕現させる為に・・・2人は・・・!?」


前世の両親への思慕はあるが、快斗と青子は、蘭にとって大切な友達だった。
その存在が、もはや失われてしまったのだろうか?


「蘭・・・」

新一が困ったように蘭を見やった。
何をどう言って慰めようもないのだろう。


リリスが苦笑して、蘭の頬を撫でた。


「吾子よ。泣くでない。そなたの友達は、滅してはおらぬ。ただ、わらわに意識を開け渡しているので、今は眠っているだけだ」
「え・・・?」

蘭は顔をあげて、リリスを見た。
リリスは慈しむような微笑みを蘭に向ける。


「快斗も、青子も、ただ、眠っているだけだ。わらわ達が再び眠りにつけば、あの2人は目を覚ます」
「良かった・・・青子ちゃん・・・」

蘭の頬に、新たな涙が流れ落ちた。
リリスは苦笑して、再び蘭の頬に手を当てて、その涙をぬぐう。

「リリムにそこまで思いを寄せて貰った、青子の事が、少しばかり羨ましく思うぞ」
「お、お母様!?わたしは、お母様がどうでも良いって、そんな事は・・・」
「分かっている。ただの僻みだ、気にするな」

そう言って、リリスは笑った。
その笑顔は、青子と同じ、ぱあっと花開くようなものだった。

ルシフェルが、蘭を愛しそうに見つめた後、新一を見て言った。

「アダム、いや、新一」
「はい?」
「我らの娘を、頼む。この先も、ずっと」
「はい・・・」

ルシフェルには、父親として娘を攫われる悔しさよりも、娘の幸せを願う気持ちが、勝っているのだろう。
するとルシフェルは、新一の気持ちを読んだかのように、苦笑して言った。

「元々、リリムは、その特性からして、男性との交わりが必須。であれば、リリムが一番幸せになれる相手をあてがうしか、なかろう」
「何の。色々偉そうな事を言うが、ルシフェル殿は、元々その積りで、アダムの姿を自分に似せて作ったのであろうが。女は父親に似た相手を伴侶に選ぶものだと思うての」

リリスの冷めた口調での突っ込みに、ルシフェルは狼狽した。その様子を見て、新一と蘭は、この夫婦も案外「旦那が奥さんの尻に敷かれている」のだと、理解する。
偉大なる魔王様達も、人間と、本質的なところで変わりはないようだ。

「皮肉なものよの。リリムがアダムに惚れたのは、その顔形ではなく、ルシフェル殿とは真反対の性格故に、だったのだからな」
「・・・おい。そこまで言われるほど、俺達の性格って違うか?」
「違うわよ!アダムはリリム一筋で、他の女には見向きもしなかったけど、ルシフェルは可愛い女とみれば、天使だろうが魔性だろうが人間だろうがお構いなしだったじゃない!」

気の所為か、ルシフェルとリリスの口調が崩れ始めていた。

「ルシフェルの、女ったらし!」
「おい!俺だってお前一筋だっただろ!?そこまで言われるような事したか!?」
「だってそうでしょ、リリスがちょっと目を離すと、すーぐ他の女にちょっかいを出すんだから!」
「あのな!からかって遊ぶ事はあっても、本気で浮気をした事はねえだろ!?」
「当たり前でしょ!本気で浮気なんかしたらその時は、即、離婚なんだからね!」

目の前で、すっかり口調も変わって痴話喧嘩を始めたルシフェルとリリスに、新一と蘭は目を白黒させた。

「・・・黒羽と青子ちゃんは、紛れもなく、あの2人の転生なんだって、今、ようやく実感したぜ」
「うん、わたしも。圧倒的な霊気の違いを除けば、本質的に同じだね」
「・・・それにしても。あの時代にも、モップってあったのか?」
「さあ。わたしに聞かれても」

いつの間にか、リリスの手にはモップが握られ、ルシフェルを攻撃していた。
そしてルシフェルは、それをひょいひょいと、軽い動きでかわしていたのである。

ともあれ、ようやく痴話喧嘩が落ち着いたらしい2人は、再び新一と蘭に向き直った。
重々しい口調も、もはやギャグにしか聞こえないが、2人は吹き出しそうになるのをこらえて、真面目な顔を取りつくろって、ルシフェルとりリムに向かい合った。


「仇敵のニャルラトテップを滅して、わらわ達の役目も終わったようだが。せっかくだから、命ある限り、子供達の行く末を見届けてみようと思う」
「ああ。我らは再び、眠りに就く。次に目覚めた時は、お前達も既に次の転生を果たしている時期かも知れぬな」
「では、リリム、そして光と闇のアダム。またいずれ、会おう」


そして、2人の姿は、その空間からふっつりと消えた。


   ☆☆☆


「コホン。工藤新一、そなたは淫魔の蘭を妻とし、病める時も健やかなる時も、生まれ変わった来世も、永遠に愛し続ける事を誓いますか?」
「誓います」
「淫魔の蘭よ、そなたは、人間・工藤新一を夫とし、病める時も健やかなる時も、生まれ変わった来世も、永遠に愛し続ける事を誓いますか?」
「誓います」
「では、誓いの口づけを」

新一は、蘭のヴェールを上げると、蘭の頬をそっと両手で包みこみ、蘭の唇に己のそれを重ね、触れるだけの口付けをした。
その場が、どっと大きく湧き、拍手が起こった。


ここは、米花ホテルの結婚式場兼披露宴会場で。
新一と蘭は、神仏にではなく、皆の前で誓いの儀式を行う、前代未聞の「人魔前結婚式」を執り行ったのだった。
今迄新一と蘭に関わった、沢山の人間と沢山の魔性が集っていた。

新一の両親である、工藤優作とリリム族の有希子。
蘭の両親である、疫魔の王・小五郎と、淫魔リリム族の女王・英理。

新一とは退魔師仲間であり、人でありながら常人とは異なる寿命を持つ、服部平次、京極真、白馬探、黒羽快斗、(快斗の恋人でもある)中森青子、高木渉、白鳥任三郎。
高木渉と白鳥任三郎は、人ならぬ寿命を持つ退魔師であるが、同時に警視庁の刑事・警部という肩書を得て、活動している。

平次の連れ合いで山桜の精霊である和葉。
真の連れ合いで白狐の化身である園子。
探の連れ合いで赤魔法継承者の魔女である紅子。
渉の連れ合いで猫又である美和子。

リリム族の中でも蘭と仲が良かった、牡丹・アヤメ。

警視庁の目暮警部・松本警視長。
何故か猫又の美和子と妙に仲が良い、交通課の宮本由美巡査。
高木刑事と親しくしている、千葉刑事。

その他、沢山の者達が出席していた。


媒酌人は、新一がいつも殺人事件解決に力を貸し、懇意にしている、目暮警部である。
まるで神父のような格好をさせられて、誓いの言葉を誘導する役目に、目を白黒させながらも、真面目に応じてくれた目暮警部であった。

人であって人でない工藤新一は、並の人間より遥かに長い寿命を持っている。
目暮警部は、見た目は新一よりずっと年嵩に見えるが、実際は無論、逆であった。
この場にいる「人間」で、新一より年上な者は、新一の父親である工藤優作ただ一人。
服部平次が、新一とほぼ同じ歳である。

新一と同じく、「人であって人でない」存在の高木刑事・白鳥警部・京極真・白馬探といった面々も、長い寿命をもってはいるが、新一より年下であった。
仙人的存在の中でも若い方の黒羽快斗と中森青子は、今のところ、実年齢と見た目が一緒である。
但し、この先、何百年と同じ姿を保ち続ける事になるだろう。


「ええなあ・・・こないな結婚式、ええなあ、平次」
「アホ。オレらはもう祝言挙げたやないか」
「せやなあ。けど、あのドレス、アタシも着てみたいねん」

夢見るように言う桜の精・和葉の言葉に、平次は溜息をついた。
着物が似合う和葉であるが、確かに洋装も似合いそうだとは思う。

けれど、結婚式は一度きりだから意味があるのだ。

ただし、和葉の記憶にはないが、平次は和葉と2度、祝言を挙げている。
前世の和葉と今生の和葉。
平次からしてみれば、「同一の存在」ではあるが、別の生を過ごしているのだから。

そもそも、過去生の分まで数えるならば、新一と蘭は一体何回祝言を挙げたものか、数え切れないだろう。

「次に生まれ変わった時やな。けどそん時、ウェディングドレスいうもんが存在しとるかは、分からへんで?」

平次の言葉に、和葉が苦笑して頷いた。
和葉にだって、2度はないという事が、本当は分かっているのだ。


形式はともかくも、今の日本では、和装から洋装という結婚式披露宴の伝統みたいなものが出来ているので。
蘭自身や、有希子の希望もあり、蘭は綿帽子白無垢→色打ち掛け→ウェディングドレス→カクテルドレスと、フルコースで衣装を取り換え。
新一もそれに合わせて、着替える事になっている。

蘭は和装も洋装も似合うので、その度に会場が湧き、新一も様々な蘭の美しい姿に相好を崩していた。



白狐の園子と猫又の美和子、それに青子が、目を輝かせて蘭の衣装を見ていた。
彼女達も、それぞれの連れ合いと、挙式を予定している。

当初、新一と蘭の結婚式と合同でやろうという話も持ち上がったのだが。
それは、様々な事情から却下された。
一番の理由は、いくら霊気的に安定している米花ホテルといえども、桁違いに強大な霊気を持つカップルが、同時に複数結婚式を挙げる霊気的負荷には、さすがに耐えられないからだった。

結婚の誓いというのは、それだけ大きな霊気が動く。
最初は形だけだと思っていた新一だったが、皆の前で蘭と誓いの言葉を述べ、口付けを交わし、指輪の交換をした事で、2人の間の冷気交流の形が、全く変わってしまった事に気付いた。

蘭も、それに気付いたのか、目を丸くして新一を見上げる。


『いざとなったら、時空を隔てて、蘭に精気を分け与える事も可能だな』

これで、蘭の食事の為にセックスをしなくても良くなった訳で。
たとえ新一と蘭が何かの事情でしばらく離れていても、蘭を飢えさせる心配は無くなったのだが。
新一としては、何だか複雑な気分だった。


「蘭。本当の非常時以外は、オメーの食事の時は必ず抱くからな」
「な、何言ってるのよ、バカッ!スケベッ!」

新一の囁きに、蘭は真っ赤になって怒った。

「・・・淫魔のオメーに、スケベと言われるとは。本当にオメーって変わり種だよな」
「悪かったわね、変わり種で!」

2人の会話の内容までは周囲に聞こえていないが、式の真っ最中に痴話喧嘩を始めている2人を、周囲は呆れた目で見ていた。

「新一にとって大事なのは、私の体なの!?」
「・・・ずっと、オメーを待ってた。ずっとずっと・・・探してた」

新一に真顔で言われて、蘭の表情も和らぐ。

「うん・・・ごめんね・・・生まれるのが遅くなっちゃって・・・」
「いいさ、その位。その代り、ずっと・・・離さねえからな・・・」
「うん。うん、離さないで・・・」

新一と蘭は見つめ合い、そしてお互いをしっかりと抱きしめて、口付けあった。


「あー、新郎新婦、誓いのキスは1回で・・・って、全然聞いとらんな、こりゃ」

媒酌人役の目暮警部が呆れたように呟いて、帽子のつばを下げた。
既に会場は、人魔入り混じった宴会場と化し、目暮警部の言葉に耳を傾ける者もいなかった。



   ☆☆☆


その夜。
米花ホテルは、完全貸切で、宿泊客は何らかの形で新一と蘭に縁がある者に限られていたのだが。

可哀相だったのは、宿直に当たったホテルの人間スタッフである。
霊感が全くない人間でも、異様な空気を感じ取って、恐ろしい夜を過ごしたらしい。

何しろ、あちらの部屋でもこちらの部屋でも、精気と霊力に溢れた者達が交合していたので、さすがに霊気的に安定している米花ホテルでも、交合の際に漏れ出す霊気の流れで、空間に歪みを生じていたのだ。


「あん、あん、新一ぃ」
「蘭、蘭!愛してるよ!」

毎晩お互いを求めあっている新一と蘭も、今日はこの米花ホテルで、体を重ねていた。
散々交わっておきながら今更初夜でもあるまいにと、傍は思うだろうが、当人同士にとっては、正式な婚姻の儀式の後に行う今夜の行為は、また特別であった。

「あっ!あああああっ!」
「くうっ・・・蘭っ!」

2人が絶頂を迎えた時、突然2人同時に、脳裏に浮かんだ記憶があった。


『リリム!オメーは、誰にも渡さねえ!』
『ああっ・・・アダムっ!わたしを、離さないで・・・っ!』


はるか、何万年も昔の記憶。
転生を繰り返す2人の魂が、初めてこの世に生を受け、そして初めて一つになった、その時の記憶。


名前はその時々で異なっていたけれど、記憶はその都度白紙に戻ったけれど、その姿形・魂・力はそのままに、2人は転生を繰り返した。
大抵は、「力のある人間と淫魔」として、出会った。
けれど、たまに異なる存在であったり、生まれた場所とタイミングの関係で、出会えなかった事もあった。

不幸にして出会わなかった時でも、お互いに決して他のパートナーを作る事はなかった。
記憶にはなくても、魂に刻まれた互いの存在を、忘れる事はなかったのだ。


蘭のまなじりから、涙が零れ落ちた。
幾度もの生を重ねながら、2人は必ず傍にいた。

2人は、運命の恋人、運命の配偶者。
けれど、常に「自分の意思で」相手を選んで来た。


「新一・・・わたしを・・・離さないで・・・」

無意識の内に、蘭の口から、その昔、新一の前世のアダムに抱かれた時と同じ言葉が零れ出た。

「ああ。蘭、オメーは誰にも渡さねえ。オレ達はずっと、一緒だ」

新一はそう言って蘭を抱きしめた。
2人の呆れるくらい長い寿命も、いつかは終わりが来る。
その時はまた転生して、出会いを待つ事になるだろう。

けれどそれは、今ではない。
今は、工藤新一と蘭としての生を、寄り添って生きて行く。


「ん?」
「新一、どうしたの?」
「あ、いや・・・」


蘭の中に、まだ形にならない気配がある。
今生の、新一と蘭の子供。
男だったら人間で、女だったらリリム族になる筈の、子供。

霊気が重い程、お腹の中でも育つのがゆっくりなので、いつ、生まれ落ちるか分からない。

ただ、新一が違和感を感じたのは。

『マジ?子供の気配が増えてる?』

初めて気付いてからしばらくは、確かに一つしかなかった気配が、いつの間にか増えていた。


「蘭?子供、今何人いる?」
「え・・・?感じるだけでは4人かな?」
「やっぱり・・・」

新一は頭を抱えそうになった。
リリム族初代女王のリリムが、光と闇のアダムの子供を、何人も産んだように。
どうやら蘭は、新一の子供を何人も産むらしい。

「でも多分、いっぺんに生まれるんじゃなさそうよ」
「時期をずらすって事か?それも、何だかな・・・」
「新一。嫌なの?」
「そんなこたねえが。どうやら、2人きりの時期は、あんま無さそうだなと感じてよ」
「いずれは、巣立つわ」
「けど、巣立っても次の子供が居るんじゃねえか?」
「・・・そうかもね。でも新一、仕方ないわ。ニャルラトテップを倒したでしょ?」
「ああ」
「どうやら、囚われていた存在が皆、私達の子供としてこの世に生まれ直すみたいだから」

さすがの新一も、たらりと冷や汗が流れた。
ニャルラトテップの中に閉じ込められていた夥しい数の魂。
彼らが皆、新一と蘭の子供としてこの世に生まれ直すとなると。


「前に、服部が言った、『リリム族子沢山記録』を、本当に打ち立ててしまうのかもしれねえな・・・」
「良いじゃない、それもきっと、幸せだって思うよ。新一、お金は沢山あるでしょ?」
「ああ・・・けど・・・」
「大丈夫よ。生まれて来る時には、皆、記憶は白紙状態だから」
「・・・だな。彼らと思えばつい身構えちまうけど、生まれる時は、何も知らねえ赤ん坊、オレ達の子供だ。考えてみればオレも、前世の記憶が戻ってもやっぱり父さんと母さんの子供だし。蘭、オメーもやっぱり、小五郎王と英理女王の娘だもんな」

少しの間、頭がクラクラとなってしまった新一だったが、ようやく立ち直った。


彼らの最初の子供が生まれるのは、数年後の事だが。
その後本当に沢山の子供達が生まれる事になり、工藤邸はいつも賑やか、さしもの大きな工藤邸も手狭になった為、更に近隣の家までも買い取る事態になったのであった。



ともあれ、新一と蘭はその後もずっと睦まじく、終生寄り添いながら、幸せに長い生を過ごしたのであった。





魔探偵コナン<完>


+++++++++++++++++++++++++++++


<後書き>



あと少し。
ってとこで、筆が止まってしまいましたが。

ようやく、最終回をお届け出来ました。


新蘭前世のアダム君とリリムちゃんのお話と、新蘭以外のカプのエピソードは、いずれ番外編という形でお届け出来たらと思います。


当初は、米花ホテルでの各カプの夜を書こうかとも思いましたが、それを入れてたらキリがないので、いずれ番外編で。
と言っても、その番外編がいつになるか分かりませんけども(汗)。


色々と風呂敷を広げ過ぎて苦労した部分はありますが。
このお話に最後までお付き合いいただいた方、どうもありがとうございました。



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