魔探偵コナン〜アナザーバージョン〜




byドミ(原案:泉智様)



(3)



有希子と優作が久し振りに帰って来たその日。
蘭は夕食に手料理を振舞い、2人の絶賛を受けた。

「本当に良い娘さんじゃない。新ちゃんったら、一体どこでこんな素敵な娘さんを拾ったのよ」

有希子が楽しげに蘭を賞賛する言葉を連発して。
蘭は必死で笑顔を保ちながら、苦しくて仕方がなかった。


夜。

「じゃあねえ。蘭ちゃん、新ちゃん、お休みなさいvv」

新一が蘭を伴って寝室に入るのを、当然の如くに優作と有希子は見送った。


優作と有希子の寝室は、新一の寝室とは離れている。
お互いに、相手の睦言が絶対に聞こえない位の距離だ。
けれど、新一が蘭を抱こうとするのを、蘭は拒んだ。

「イヤ・・・!」
「蘭!?」
「今夜は、イヤなの・・・お願い・・・」

新一は、溜め息をひとつついた。

「わーったよ。オレは、居間のソファーで寝るから」

そう言って部屋を出ようとする新一に、蘭は驚き、後ろから抱きついた。

「新一!?私は別に・・・柔らかいベッドで寝る必要なんかないんだから。私が居間で・・・」
「バーロ。蘭にんな事、させられっかよ!かと言って、蘭を抱かずに同じベッドに寝るってのも、拷問に近いしな。だから・・・」
「新一!私、新一に抱かれるのがイヤなんじゃないの!でもでもっ・・・新一が私を抱いても、精気を取られるばかりで・・・!私は、新しい命を生み出す事も出来やしない!それが惨めで、苦しくて・・・」

振り返った新一は、とても優しい表情をしていた。
そして優しく蘭を抱きしめ、その髪を撫でる。

「バーロ。オレがオメーを抱くのはな、身も心もひとつになりてえから、ただそれだけだ。・・・たとえ人間同士の夫婦でも、新しい命が授かるかどうかは、それぞれの運命(さだめ)だしよ。愛する女に自分の子を産んで欲しいって願いは、オレにも良く分かる。でもな。女性は子作りの道具じゃねえし、子供の為だけに好きでもねえ女を抱くのは、オレには不可能だ。だから、子供が出来ねえのは、オメーを愛したオレの宿命で、仕方ねえ事だって思ってるよ」
「新一・・・」
「蘭。愛してる。オメーだけだ・・・誰が何と言おうと、オメーはオレの妻だから。忘れるなよ」
「あっ・・・」


新一は蘭を抱えあげ、そっと寝台に横たえた。
そして、寝巻きを脱がせながら、体中に口付けをして行く。

新一に胸の赤い果実を吸われ、蘭はのけぞって声を上げた。

「ああああん・・・はあ・・・しんいち・・・っ・・・」

淫魔である蘭の豊かな胸は、人間の女性のような乳腺を持たないし、母乳の分泌が出来る訳でもない。
けれど、そこが性感帯であるのは人間の女性と同じであり、感覚は鋭敏である。

糧である人間の男性の精気を得る為に、人間の女性の形を真似ただけの、哀しき模倣者。
蘭の閉じた瞳から、涙が溢れ出た。


「蘭。何を考えてる・・・?」

新一の声に、蘭が目を開けた。

「人がただ、子孫を残す本能だけで交わっていると思っているのか?」
「あ・・・・・・」
「オレは、オメーを離す気はねえからな。オレから離れようなんて思うなよ」

新一が蘭の両足を抱えあげ、新一のものが、一気に蘭を貫く。

「はあああああん!!」
「オメーが人間でも魔性でも関係ねえ。オメーだけだ、オメーだけなんだよ、蘭!!」

新一が蘭の中で激しく動き。
けれど、上り詰めようとするその時に、動きを止める。

「ああ・・・新一・・・」

如何に他の男性より精気に溢れる新一と言えど。
一晩に蘭の中に放てるのは、せいぜい2度が限界で。
それは流石に堪える為に、普段は蘭の中で放つのは1度きりである。

その為、新一は緩急をつけ、蘭の中に放つ寸前に動きを止め、出来る限り長時間に渡って蘭の中にとどまる。

今も新一は、蘭の中に留まったまま、しばし動きを止めていた。

蘭は、この瞬間がもどかしくもあるが、幸せでもある。
指と指を絡ませ合い、手足を相手の身体に絡め、肌を隙間なく重ね合い、新一のものが蘭の奥深くに埋め込まれた状態で繋がりあって。
新一とひとつになっていると実感出来るこの瞬間が、たまらなく幸福だった。

「蘭。蘭、愛している・・・」
「新一・・・愛してるわ・・・」


先がどうなるのか、不安は大きいけれど。
今の2人には、お互いを離す事など、全く考えられなかったのである。


   ☆☆☆


朝の光の中、目覚めた時。
蘭は新一にじっと見詰められているのに気付き、赤くなった。

「な、何、新一。先に目が覚めちゃったの?」
「まあ、そんなとこ」

新一は蘭に軽く口付けると、起き上がって服を身につけ始めた。

「蘭。今日、父さんと母さんに、全てを話すよ」

蘭は息を呑んだが。
どの道、知れる事には間違いないので、覚悟を決めて頷いた。

「どうせ、父さんには全て分かっていると思うけどな」
「新一・・・?」
「父さんは。表の顔は、世界的な推理作家であり。そして・・・裏の顔はオレと同じ、退魔師だから」

魔性への耐性や魔力を扱う能力は、遺伝的な要素が大きい為、退魔師は、家系的に同業が多い。
だから、新一の父親が対魔師であるのは、蘭の予想内の事であった。

蘭も起き上がって、服を身につける。
覚悟はもう、出来ていた。


   ☆☆☆


「あら。新ちゃんに蘭ちゃん。もう少しゆっくりしてても良かったのに」

新一が蘭を伴って階下に降りて行くと。
有希子が朝食の支度をしていた。

「あ・・・申し訳ありません!寝坊してしまって・・・」

蘭が慌てると、有希子が微笑んで言った。

「ううん。蘭ちゃんには昨日のお夕飯をご馳走になったし。ごく簡単なものだから、そう畏まらないで」

食卓に並んだのは、ご飯に、豆腐とわかめの味噌汁、海苔とお新香、そこに何故かサラダを添えたチーズオムレツという、ちょっと変わった組み合わせで。
支度が出来た頃には、優作も起きて来て、4人で朝食を摂った。


「んふふふふ、嬉しいわあ。こうやって、新ちゃんのお嫁さんと、一緒にご飯が食べられるなんて」

食後にお茶で一服しながら、有希子が満面の笑みでそう言った。
新一が背筋を正す。

「その事なんだけど、母さん」

有希子が小首を傾げて、新一を見た。
優作が顔を上げて、2人をまっすぐに見据えてくる。
俯いて震えそうになっている蘭の手を、新一が食卓の下で、しっかりと握って来た。
それだけで蘭は、安心する。


「実は。蘭は、人間じゃなくて。魔性の存在なんだ」

新一の言葉に。
優作は眉1つ動かさず、有希子は驚いたように目を見開いた。

「でもオレは・・・種族の違いを超えて、蘭を1人の女性として愛してる。蘭以外の女性を、人生のパートナーにする気はねえ。籍を入れたり、式を挙げたりしていなくても、蘭は・・・蘭だけが、オレの妻、連れ合いだと・・・思っている」

有希子が震える唇で、声を出した。

「新ちゃん・・・」

「母さん。母さんの望む孫を、この世に生み出す事は叶わねえ。そして、父さんと母さんがどうしても許せねえってんなら、勘当されても仕方ねえと思ってる。どんな事があっても、オレは蘭と2人、生きて行く積りだ。でも、出来るなら。父さんと母さんに、蘭をオレの妻だって、認めて欲しい。お願いします」

そう言って、新一が頭を下げた。

有希子が、ゆっくりと立ち上がり。
そして、蘭の傍にひざまずいて、蘭の手を取った。

「蘭ちゃん、ごめんねえ・・・知らなかったとは言え、無神経な事言って・・・苦しかったでしょう?」
「小母様・・・?」
「母さん・・・?」

蘭は、有希子の優しい謝罪の言葉に、ただただ驚いていた。
有希子の頬を涙が流れ落ちる。

「蘭ちゃん。2人が真剣に愛し合って、お互いを大切にしているのなら。私は・・・2人の仲をどうこう言う積りはないのよ。だって・・・」
「有希子。その先は・・・」
「分かったわ、優作」

有希子は言いかけた言葉を呑み込んで、蘭の手を離し、元の席に戻った。
優作が新一と蘭を交互に見詰める。
その眼差しは、優しさと厳しさが同居していた。


「新一。蘭君。私はね。2人の仲自体をどうこう言う積りはないよ。2人が真剣なのは、よく分かっているし。ただ、厳しい現実がある事は、2人とも分かっているだろう?このままではどうなるかという事も」
「父さん・・・」
「小父様・・・」
「蘭君が、魔性であったとしても、属性が異なっているのならまだ良かったのだが。蘭君は、淫魔だろう?」

有希子が息を呑む気配がした。
けれど、有希子の表情には全く責める様子はなく、ただその事実に驚いただけのようだった。

「しかも、新一君。君は、蘭君に縛りの術をかけているね?他の男に指一本触れさせない為に」
「ああ。オレ以上の能力を持つ父さんは、たとえ蘭に術をかけてなくても惑わされる事はねえだろうが。普通の男だったらまず間違いなく、蘭に劣情を抱いて狂っちまうからな」
「でも、それで良いのかね?今はまだ良い。君が、蘭君の命を繋ぐに充分な精気を持っているからね。でも、どれ程に修行して霊気を高めようとも、限界がある事は、分かるね?」

新一は、黙って頷いた。

「新一君、普通でも、君の寿命は後6〜70年といったところだろう。けれど、蘭君に精気を与え続けられるのは、後25年。ぎりぎりもたせても、長くて後30年が、限界だ。その頃には君は、同じ歳の他の人間よりずっと老い衰えているだろうね。蘭君は変わらず若く美しい姿のままなのに。そして、君は・・・蘭君に最後の精気を奪われて、命を落とす」

優作が冷静に語る残酷な事実に、蘭と新一は息を呑みながらも、頷くしかない。

「新一君が命を落とした後は、術に縛られている蘭君も、他の男から精気を奪う事も出来ず、本来の寿命の数分の1で、飢えて命を落とすしかなくなる。それで、君達は本当に良いのかい?」

新一より先に、蘭が。
震える声で、言葉を出した。

「私が、本来の寿命よりずっと早く、命を落とすのは、構いません。だって私・・・新一がいない世界で、生きて行ける筈がないのですもの。たとえ術がかかっていなくたって、新一以外の男の人に抱かれるなんて、死んだってイヤなのですもの」

有希子と新一が、驚いたように蘭を見た。
蘭が涙を流しながら続ける。

「でも・・・私が新一の命を食い尽くすなんて、そんなのもイヤ・・・!どうして私・・・男性の精気を奪って生きる事しか出来ない、淫魔という存在に生まれてしまったんでしょう!私・・・出来る事なら・・・人間の女の子に生まれたかった・・・」
「蘭・・・!」

新一が蘭の手を握る。

「でも蘭、どんなに自分の出自を嘆いても、それが変えられる訳じゃあない。まだ、時間はある。せめてどちらかが天命を迎えるまで、お互いの命を奪い尽くさずに、一緒に居られる方法を、考えよう」
「だって・・・!そんな方法・・・」
「あるかないか、分からねえ。でも、探してみる価値はあるだろ?」
「新一・・・」
「でも、どうしても無理だった時は・・・オレが最期の時にはきっとオメーを開放してやっから・・・」
「新一、そんなの絶対ヤだよ!私1人取り残されてどうしろって言うの!?そのまま飢えて死ぬならまだしも、他の男の人に陵辱されて惨めに生き延びるなんて、そんな事になったら・・・!」
「蘭・・・だから。時間が許す限り、そうならねーで良い方法を探そう」

2人は優作と有希子の存在を忘れ果てて2人の世界に入り、熱く語り合っていたのだが。
優作の咳払いで我に返った。

見ると、優作も有希子も赤くなって、呆れたような、けれど優しい表情をしていた。

いつの間にかテーブルには珈琲が置かれ、芳香が漂っていた。

「いやはや・・・2人とも若いね、有希子」
「ええ、本当にね、優作。昔の私達を見ているようだわ」
「本当に、それだけ年を取ったという事だよ。・・・後悔しているかい?」
「いいえ、ちっとも。新ちゃんという子供に恵まれて。共に白髪が生えるまで、あなたと一緒で。そして同じ頃、天に召される。私は後悔なんかしていない、とても幸せよ、優作」

有希子の話がよく見えず、2人が戸惑っていると。
優作が、新一と蘭をじっと見詰めて、口を開いた。


「新一、蘭君。2人の覚悟の程は、解った。それが一時の感情などではない事も、私としては解っている積りだ。で、実は。新一君、君が言った、2人がお互いの命を奪い尽くさず共に居られる方法についても、大いに関わりがある事なのだが。まだ新一君にも告げた事がない、いわば『工藤家の秘密』を、今から語ろうと思う」

新一と蘭は居住まいを正し、優作の次の言葉を待った。


「21年前。アメリカの大学をスキップして卒業していた私は、新進気鋭の推理作家という表の顔と、退魔師バロンという裏の顔を持ち、忙しく活動していたのだが。ある日、1人の女性と出会い、恋に落ちた。今、ここに居る有希子なのだが」

優作が珈琲カップを手にして一息つき。
2人は固唾を呑んで次の言葉を待つ。


「出会った時の有希子は、蘭君の同属である魔性、淫魔だったのだよ」




to be continued…?





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