魔探偵コナン〜アナザーバージョン〜



byドミ(原案:泉智様)



(2)



淫魔の蘭と、人間の退魔師である工藤新一が、同居を始めてから、早や数ヶ月が過ぎた。
最初の頃こそ、誤解や行き違いも色々とあったものの、今は。
お互いに相思相愛である事が分かり、ラブラブな生活を送っている2人であった。


「ん・・・あ・・・はあん・・・新一・・・」
「くっ・・・蘭・・・すげーいいよ・・・」
「あ、ああ、あああんん・・・はああああっ」

工藤邸の2階では、毎晩のように、2人の喘ぎと嬌声と、隠微な水音、ベッドがきしむ音が響き渡る。

種族の違いを超えて愛し合う2人は、夜の営みも充実していた。
快楽を得る為であると同時に、愛の交歓でもある行為。
そこまでは、他の恋人同士と変わらないのだが。

「あ・・・っ・・・!」

行為の終わりには、蘭が新一の精力を糧として受け取るというおまけ付きである。


いや、本来淫魔には、精力を奪うという事こそが、交わる目的である。
快楽はその副産物であり。
そして、人間同士の場合にはこの行為につきものである、いや本来であればこの行為の目的と言える「子を成す」という事が、2人には不可能であった。

蘭は、愛する男性としか交合したくないという、淫魔としては非常に変わった感覚の持ち主で。
今は、並の人間よりずっと強力な精気を持つ新一と相思相愛だから良いものの。
時に、未来の事を考えると、暗澹たる気持ちになる事がある。
普段は考えないようにしているのだが。



「ねえ、新一。術を解いてよ」

蘭の頼みを、新一は言下に断った。

「だ〜め」
「な、何でよっ!私が新一以外の男性とは絶対そういう事やらないって言ってるのに、新一は信じてくれない訳?」
「オメーを信じてねえとかじゃなくてさ。オメーにその気がなくても、オメーの魅力と淫魔としての魔力は、どうしても人間魔性を問わず他の男達を惹き付けてしまうからな。オメーにその気がなかろうと、力がある相手なら、腕づくでもオメーを我が物と出来る。オレには、そんな事耐えられねえからよ」

蘭は、新一が術で蘭を縛っている事が、新一からの信頼を得ていない証拠だと思っていたのだが。
腕づくで、という可能性は今迄全く考えていなかったけれども、確かにその可能性はある事に気がついた。

蘭とて、新一以外の男と交わるのは、絶対嫌だという気持ちがある。
そこで、術に関しては、一応納得した。

けれど、種族を超えて愛し合う2人には、様々な意味での問題が山積みだったのである。


   ☆☆☆


「新ちゃ〜ん、元気だったあ?って、あ、あら?」

ある日の工藤邸で、呼び鈴が鳴り。
次いで、玄関先で弾むような女性の声が聞こえ、蘭が玄関に出迎えると。
スタイルが抜群の美女が、そこにたたずんでいた。

年の頃は、40前後といったところか。(その女性、実際はかなり若く見えるが、魔性の蘭には相手の本質が見えるので、実年齢を見誤る事は、殆どない)
突然の美女の訪問に、蘭は驚いたが。
霊気が似ている事からすぐに、この女性が新一の近親者(おそらく母親)である事の見当がついた。

人間の親子関係は、蘭に取って感覚的に良く分からない。
けれど、人間と関わる機会の多い魔性の知識として。
両親というのは大抵の人間にとって大切な存在であり、同時に、その意向は非常に大きな影響力を持ち、恋人や結婚相手の存在も両親の意向に左右され易いという事は、聞いた事があった。

蘭は、新一の「母親」に対して礼を失してはいけないと思い、とりあえず挨拶する事にした。

「あ、あの。初めまして。私は蘭・・・えっと、毛利蘭っていいます。新一さんと・・・えっと、お付き合いさせて頂いてます」

新一の母親らしい女性は、最初まん丸に目を見開いていたが。
次いで、パアッと顔を輝かせた。

「ええ?あなた・・・蘭ちゃんって言ったわね。新ちゃんの恋人なの!?やあん、素敵な子じゃない、まあどうしましょう!」

笑顔でそう言って体をくねらせる目の前の女性に、蘭は呆然としていた。
蘭の知識では、人間界において、息子の恋人に初対面から良い印象を抱く母親は稀だという事だったので。

「母さん?どうしたんだ?」

奥から出てきた新一が、母親に声をかける。

「あらあ。ご挨拶ねえ。私が家に帰って来ちゃ、いけないの?・・・あ、そっか、成る程〜。お邪魔、だったのね、うふふふふ」
「だ、誰もそんな事はっ!ま、とにかくここで立ち話も何だし、入ったら?」

新一に促され。
新一の母親は荷物を持ってリビングに入った。

「蘭、こっちはオレの母親で、工藤有希子ってんだ。で、母さん、こっちは・・・」
「毛利蘭ちゃん、でしょ?さっき紹介受けたわ。あなた達、いつの間に」
「あ、あの。私、お茶淹れて来ますね」

蘭はそそくさと、キッチンへ行った。


「ふううううん?この家・・・もう、あの子の手で整えられ始めてから、かなり経つわねえ。今だって、ごくごく自然に台所に行ってしまったようだし?」

ソファーに腰掛けて、悪戯っぽく新一を見やる有希子に、新一は苦虫を噛み潰したような顔をした。

「ああ、まあ・・・一緒に住んでるからな・・・」
「新ちゃんったら。全然女っ気無しだからどうなる事かと心配してたけど、あ〜んな可愛くて・・・それも家庭的な子を捉まえて。意外と情熱家だったのね、安心したわ。これで、待望の孫の顔が見られる日も近いわねっ!」
「母さん!」

台所からお茶を運んで来た蘭が、トレイを手から離してしまい、派手に音を立てた。

「蘭!」
「蘭ちゃん!」
「あ、ご、ごめんなさい!}

蘭が慌てて片付けようとするのを、有希子が制し、蘭の手を引っつかんで有無を言わさず台所へと取って返した。
そして水道水を蘭の手にかける。

「駄目よ!熱いものをかぶったなら、まず冷やさなきゃ!女の子なのに火傷の後残したりしたら・・・うん、大丈夫だわ。怪我もしてないみたいね、良かった・・・」

有希子が厳しい声から段々優しい声に変えて、言った。

蘭は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
蘭は魔性、お茶位で火傷はしないし、カップやティーセットの破片位で怪我もしない。
有希子の気遣いが、嬉しいと同時に、蘭の胸を締め付ける。

蘭がお茶のトレイを引っくり返すという失態を演じたのは、先程の有希子の「孫の顔」という言葉に胸を衝かれたからだった。

『優しい方なのね。初対面の私に、こうして気遣って良くして下さる。でも私は・・・この方の期待に応えられるような存在じゃない・・・もし私が魔性だと知られたら・・・』


強い力を持つ退魔師の血族は、やはり力を持っている者が多いが、新一の母親である有希子にはどうやらそちらの能力はないようだ。
蘭が魔性である事をまるきり気付かれていないらしい。


蘭と有希子がリビングに戻ると、新一が後片付けを終えているところだった。

「新ちゃん。駄目じゃない、蘭ちゃんに火傷と怪我がないかを最初に心配してあげなきゃ」
「ああ。そっちは、母さんが蘭を連れてったから、大丈夫かと思って」
「もうっ!蘭ちゃんの立場なら、愛する男性に守って欲しいって気持ちになるのが当然だと思うわよ!まず新ちゃんが動かなきゃ、その内蘭ちゃんに愛想つかされても、知らないからね〜」
「はいはい」

新一は苦笑しながら返す。
蘭は、胸が苦しくなる。
新一は、蘭が怪我も火傷もしないと分かっているからこそ、平気なのだし、蘭もそれが分かっているのだけれど。

新一は有希子に、蘭が魔性である事を隠し通す積りなのか、それとも?

と、再びチャイムが鳴った。
蘭が慌てて玄関へと向かう。

「ただいま〜。・・・おや?」

そこに立っていたのは、40歳前後の長身ハンサム。
容貌も霊気も新一のものと似ていて、一目で新一の父親と分かる男性だった。

「優作。遅かったじゃない」

玄関先まで出て来た有希子が、唇を尖らせながらも優作に抱きついて行く。

「いや、すまないね。出版社との打ち合わせが、長引いてしまってね。それよりも・・・こちらのお嬢さんは?」

優作がじっと蘭を見詰め、蘭は身を硬くした。
新一の能力が、父親から受け継いだものであれば、もしかして優作には蘭の正体がバレバレなのではないか、そう思ったのだ。

「うふふ〜、毛利蘭さんっていって、新ちゃんのイイ人よ」

有希子が笑顔で言って、優作が呆れたように有希子を見やる。

「君のイイ人でもないのに、えらくまた嬉しそうだねえ。それにしても、退魔師と探偵で忙しくて女っ気ゼロだった新一君が、こんな恋人を見つけるとは。我々も歳を取る筈だねえ」
「ええ、本当に」

有希子は本当にしみじみとした調子で相槌を打った。
あっという間に、こちらの夫婦も二人の世界を作っており。
人間界では「長年連れ添った夫婦で人目も憚らずラブラブなのは稀」という事実を知らない蘭は、ただ目を丸くしてその光景を見ていた。

「蘭さんさえ良ければ、出来るだけ早く結婚式を挙げてもらって、一刻も早く孫の顔が見たいわ〜」

有希子の弾むような声に、蘭は再び胸締め付けられるものを感じ。
手をギュッと握り締めた。


新一が蘭を気遣わしげに見詰めていた。


そして、流石の新一も蘭を案ずるあまりに、優作の眼差しに気付いていなかった。
優作は眼鏡越しに、蘭を冷静な眼差しで見極めようとするかのような視線を注いでいたのである。



to be continued…?




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<後書き>


魔探偵コナン別バージョンの開幕です。
第1話をアップした後、泉さんから送られたメールの「続き妄想」があまりにも面白くて、私だけが楽しんでは勿体無い!って事で、泉さんの了解を得て、アナザーバージョンとして発表する事にしました。
っても、「粗筋」といった感じのお話だったので、それを骨子として、仕上げているのはドミですが。


元々のお話とは第1話だけが共通で、後は全く別物と考えて下さい。

あちらの方では、新一君達力のある対魔師は、仙人と同等の存在で不老不死に近い人が多いのですが、こちらの話では、新一君も他の人も、人並みの寿命しか持っていません。そして、こちらの話では、魔性である蘭ちゃんに両親は存在せず、為に、あちらの話であるような新一君vs○○、というような構図はなさそうです。

あちらの話で新一君の両親は、多分どこかで生きていますけども、今後お話に出てくるかどうかは分かりません。

多分、それぞれに別の楽しみ方が出来るのではないかな〜と思います。そして、どっちの話でも変わらないのが、新蘭の2人がラブラブって事です。

並行して2つ書くのは、大変かも知れませんが、楽しいです。
出来る限り、頑張って行きたいと思います。


「File01:出会い」に戻る。  (3)に続く。