岡崎京子推薦作品

岡崎は

これを読め!

 1.「リバーズ・エッジ」
 2.「pink」
 3.「東京ガールズブラボー」
 4.「ハッピィ・ハウス」
 5.「チワワちゃん」
 6.「ジオラマボーイ、パノラマガール」
 7.「でっかい恋のメロディー」
 8.「それいゆ」
 9.「ひまわり」
10.「くちびるから散弾銃」
詳細は下記参照のこと。
(1999.06.07新規)
presented by tach


推薦ランク 特A

1.「リバーズ・エッジ」
【コメント】作者の長編第10作目にして最高傑作。岡崎個人の最高傑作であるだけではなく、日本のコミックがたどり着いてしまった一つの極限。いや、コミックのジャンルすら超える正真正銘の名品。少なくともこの10年間、日本の現代文学にはこの作品を超えるような収穫があったろうか? コミックは文学を越えた。「こういうのにあげれば芥川賞も落ち目にならないのに」と関川夏央が皮肉れば(京都精華大学『木野評論』臨時増刊号「文学はなぜマンガに負けたか」)、芥川賞受賞者石原慎太郎東京都知事は「近頃の新人作家なんか目じゃねぇや」と太鼓判(石原慎太郎インタビュー@『ダ・ヴィンチ』2001年12月号)。あの先天性罵倒症の山形浩生も貶す言葉を失い茫然自失(『CUT』1996年2月号)。もう、みなさん、大変です。騒ぎはますます大きくなるばかり。岡崎が嫌いだ!と叫ぶあなたも、これだけは読め!
【お話】ハルナは東京の下町に母親と二人で暮らす高校生。荒廃した都会の片隅のゴミ溜のような学校で、それでも一見屈託のない青春を謳歌しておりました。ボーイフレンドの観音崎君との仲は怪しくなり始め、この頃は同じクラスの美少年、山田君に心を惹かれています。山田君はおしゃれで女の子のような顔をしたかわいい男の子ですが、それ故に、クラスの男の子から虐められています。しかし山田君には秘密がありました。何と彼はホモで(やっぱりね)、その上「死体愛好家」だったのです。山田君とハルナの関係を疑いしつこくまとわりついてくる観音崎君。ハルナを「落とす」と決意して着々と近づいてくる下級生の美少女、吉川こずえ。こずえちゃんは、売れっ子のモデルですが、レズで拒食症でその上「死体愛好家」で、山田君とは「変態同盟」を結ぶ同志でした。山田君がホモのカモフラージュにつき合っていた田島カンナも、ハルナと山田君の関係を疑ってハルナを付け狙い始めます。危うしハルナ! ポスト・バブルの廃墟を舞台に繰り広げられる夢無きメルヘン。日本文学よ、奮起せよ! 君はこの挑戦に応えられるか?
【書誌】●発行:宝島社●初版1994年6月20日●ISBN4-7966-0825-7●初出:月刊CUTIE1993年3月号~1994年4月号連載
(1999.06.07新規)
*参考clique インタビュー「リバーズ・エッジ」を作者自ら語った貴重なインタビューがネット上で読めます(ソース:雑誌「クリーク」1995年4/20号)(20000706追加)

推薦ランク A

2.「pink」
【コメント】岡崎が自らの真の主題を確立した記念碑的名品。個人的には次の「東京ガールズブラボー」の方が好きなのだけど、岡崎の転換点になった代表作と言うことではやっぱりこちらの方が重要作品かな? ようやく立って歩き始めたばかりで、まだ足元がふらついているような感じもするが、それは彼女が新しい地平を目指して未知の領域に足を踏み入れたという証拠なのだろう。(と、世評におもねておく。)
【お話】継母と折り合いが悪くて家を出たユミちゃんは、昼はOL、夜はホテトル。お金をがっぽり稼いで、都会の片隅のワンルームマンションに自分のお城を築きました。同居人は可愛いワニ。欲しいモノは何でも手に入れ、それなりに幸せで安定した日々が続いて行くようでしたが、ある日、小説家志望の学生ハルヲ君と出会ったことから状況が変わり始めます。何と、ハルヲ君は継母の若いツバメだったのです…。バブルの徒花が咲き誇り浮かれ騒ぐ東京を舞台に繰り広げられる不毛のメルヘン。
【書誌】●発行:マガジンハウス●初版1989年9月28日●ISBN4-8387-0107-1 C0079●初出:NEWパンチザウルス1989年2月23日号~7月4日号連載
(1999.06.07新規)


3.「東京ガールズブラボー」上下二巻
【コメント】はっきり言って世評高い「pink」より好きだ。実際「pink」より優れた作品なのではないかと実は思っている。岡崎自身は絵が荒れていてあまり好きでないというようなことを言っていたらしいが、いいさ、私は好きだ。(そもそもあのラフな絵に荒れるも何もあるのかなぁ? あのラフさは決して嫌いじゃないし、それなりに「理解者」のつもりでいたけれど、やっぱり、見る目がある人が見ると違うのかな?)
80年代初期。時代はバブルで激変する直前の東京。知らないだろう、そこの10代の君。東京ディズニーランドなんてまだ無かった。YMOがまだ解散していなくて、松田聖子は独身で、「アキラ」の連載だってまだ始まっていなかった。お台場なんか、ただの埋め立て地。あの東京はもう無い。狂乱の時代直前の不思議な明るさに満ちあふれていたあの東京は。全編にみなぎるこの切なさは何だ? 岡崎も若かったんだな。青春だな。…なっちゃんがね、夜の街の道路に寝転がって、星空を見上げながらつぶやくんだよ。「いつまでもこんな風でいたいな。いつまでも、いつまでも、こうしていたいな。このまま時間が止まっちゃえばいいのに。このままで、みんなといたい。大人なんか、なりたくない。」(下巻162頁) 読め! 読んで泣け!
【お話】札幌在住の「ニューウェーブ少女」にして「おしゃれバカ娘」のサカエちゃんは、両親の離婚のおかげで思いもかけず母親の生まれ故郷東京に暮らすことになりました。飛行機の窓の外に近づいてくる東京の夜景はまるでICチップみたいだ。もう胸のドキドキが止まらない。遂にあの夢のテクノポリスTOKIOにやって来たんだ…。舞い上がったサカエちゃんは、金髪モヒカンで決めて登校したおかげで、転校初日から停学を食らいましたとさ。でも、そんなことでめげるようなサカエちゃんではありません。趣味を同じくする友、なっちゃん(自然再生処女)とミヤちゃん(躁鬱病)、を得て、夢のテクノポリスの探検へと乗り出して行きます。サカエちゃんを「僕のアーバン・プリミティブ・エンジェル」だと崇拝する同級生の犬山のびた君(ニューウェーブおたく)。そののびた君を影から熱い目で見守る丸玉玉子(赤ん坊少女後人造美女)。ツバキ・ハウスで出会って名前も知らないまま恋に落ちる男の子。大都会の人混みの中に杳として姿をくらます自販機エロ雑誌編集者、マーキン。そのエロ雑誌のグラビアに裸体をさらす「得体の知れないもの」ノリコちゃん。次々と登場する不思議な人々…。…書いていて気がついたけど、ストーリーを語ることによってこの話の面白さを伝えることは難しいな。やっぱり登場人物のキャラクターがこの話の魅力なのかな? (個人的には、一見普通の娘のようでいて、実はサカエちゃんよりもラディカルに過激ななっちゃんのキャラがいいな。) とにかく、突っ走れ、金田サカエ! 欲望剥き出し、ドーパミン垂れ流しで走りまくれ! 走って、走って、このアシッド・キャピタリズム(©小倉利丸)の荒野の彼方へ駆け抜けていけ!
巻末には何と当時のニューアカデミズムのスター浅田彰と岡崎の対談がついてます。え? 何で浅田彰が出て来なきゃいけないんだって? ここを読んでね。いやぁ、決まりすぎたね、このおまけは。
【書誌】●発行:JICC出版局●初版1993年1月20日(上巻)、2月10日(下巻)●ISBN4-7966-0547-9 & 548-7●初出:月刊CUTIE1990年12月号~1992年12月号連載
(1999.06.07新規、06.08改訂)


4.「ハッピィ・ハウス」旧版上下二巻、新愛蔵版上下合冊全1巻
【コメント】岡崎の長編の中で一番愛らしくて幸せな雰囲気に溢れているのはこの作品なのではないかと思う。最初に読んだ時点では、はっきり言って「pink」よりもこっちの方がずっと好きだった。「pink」から約1年後の作品なのだけど、岡崎が「ちゃんとした長編」を描く力を身につけたのはこの作品からなんじゃないかな? さっきから「pink」の悪口ばかり言っている。でも、どうも「pink」は道具立てばかり凝っていて、頭で描いた作品のような気がする。その点、「ハッピィ・ハウス」はもっと自然で、頭にではなく、ハートにグッと来る作品のような気がするぞ。
【お話】鈴木るみ子ちゃんは13歳の中学2年生。お母さんは女優、お父さんはテレビ局のディレクター。元々とても普通とは言えない家庭の子でしたが、ある日突然、お父さんが「家族を辞める」と宣言して家を出て行ってしまったので、家の中はますます異常な状態になってしまいました。その晩、17歳のお兄ちゃんも、「実は俺はオヤジの子ではなかった」と言い残して家を出て行きます。ショックのあまりに一晩眠れず、翌日ふらふらになって学校から家に帰ってくると、何と、お母さんがもう若い男をくわえ込んできている現場に遭遇。動転してその場を逃げ出してしまったるみ子ちゃんですが、考えてみれば腹が立ってくる。何であたしが逃げなければならないんだ。悪いのはお母さんじゃないか? 復讐心に燃え立つるみ子ちゃんは「鈴木家乗っ取り」を画策します。留守の間にマンションの玄関の鍵を付け替えて、お母さんを閉め出してしまったのです。でも、そうなるとるみ子ちゃんは家にたった一人。明日からの生活費をどうやって稼いで行けばいいのでしょう? 援助交際? いや、いや、るみ子ちゃんが思いついたのは空いた部屋を利用してのラブホテル「オテル・ド・鈴木」の経営でした。超ヤリマンの中学三年生、セーコ先輩の紹介でお客もどんどん集まり、順調な滑り出しを見せたかのように思われましたが、貸し切りの乱交パーティーがとんでもない騒ぎになって、早くも挫折。そうしている内にも、嫁との折り合いが悪いシゲさん(昔出入りしていたお手伝い)が孫を連れて飛び込んでくるは、乱交パーティーに出ていたマツダ君は何が気に入ったのか居着いてしまうは、学校ではるみ子ちゃんを標的に虐めが始まるはで、事態はますます混沌としてくる。マツダ君は、お兄ちゃんの同級生だけど、お兄ちゃんとは犬猿の仲。お兄ちゃんの彼女を輪姦した過去のせいもあるが、それよりも、どうやら、マツダ君はるみ子ちゃんの腹違いのお兄さんらしい…。
途中で、ニューハーフのお姉さんが出てきたりするのはちょっとよけいな気がするけれど、まぁ、大目に見ましょう。面白いんだから。
くわえ煙草の中学生るみ子ちゃんの、失われた「家族」を巡る、メルヘンチックな冒険譚です。
【書誌】●発行:主婦と生活社●初版1992年1月15日(上下とも)、愛蔵版2001年7月1日(上下合冊全1巻)●ISBN4-391-92016-6 & 92016-8、合冊版ISBN: 4391920603 ●初出:コミックギガ1990年7月10日号~1991年10月8日号連載、ただし最終2話は書き下ろし
(1999.06.08新規)



推薦ランク B

ここら辺は、必読の名作と言うより、趣味が入ってます。でも、いずれもが忘れがたい佳作ですので、お見逃し無く。

5.「チワワちゃん」
【コメント】選定には趣味が入っていると言ったばかりだけど、こればかりは誰もが認める傑作中編…?、いや、短編だった。僅か32ページの中にものの見事に凝縮されたドラマ。今確認してびっくりした。もっと長い話だと思っていたのに。とにかくまぁ、あなた、この乾いた語り口と、フラッシュバックを駆使した技法の冴えは凄い。技法的には「リバーズ・エッジ」に一番近いところにいる作品かもしれない。
【お話】チワワちゃんが殺された。バラバラにされ、東京都指定の白いビニール製のゴミ袋に詰められて、海に捨てられた。見つかったときには腐乱した肉の塊に変わっていて歯形と血液型でようやく身元が突き止められたほど。あんな娘はそんな目にあって当然なのだとマスコミは報道する。元看護学校生。でも通ったのは二ヶ月だけ。あとは英会話学校や専門学校を転々とし、アルバイトのモデルから最後はヤク中のAV女優にまで転落していった女の子。欲望渦巻く都会に翻弄され自滅していった無軌道な若者の典型…。でも、本当は、チワワちゃんっていったいどんな女の子だったのだろう? ある日、ヨシダ君の新しいカノジョとしてみんなの前に現れた、あの、オッパイの大きくて小柄な女の子は? ヨシダ君に思いを寄せていたミキちゃんはそんなチワワちゃんが羨ましかったのに…。そんな訳で、ミキちゃんは、仲間の一人一人に、チワワちゃんのことを尋ねて回り始める… 何だ、ありふれた話じゃないかって? 作品の価値は、何を語るかにではなく、どう語るかにあるという、普段は嫌いな説に、同意したくなるような作品であることだけは確か。
【書誌】短編集「チワワちゃん」(1996年7月1日角川書店刊)収録●ISBN4-04-852687-1●初出:月刊「YOUNG ROSE」1994年7月号
(1999.06.08新規、改訂20010208)




6.「ジオラマボーイ、パノラマガール」
【コメント】長編二作目にして、初期岡崎の総決算的作品。色々欠陥もあるけれど、それでも岡崎の自然な持ち味が遺憾なく発揮されている。すなわち、ストーリーはいいかげん。意識的かつ露骨に他の作家の作品をパクるし、出たとこ任せの展開で、挙げ句の果てにトートツに終わってしまう。こういう作品を読むと、岡崎の「欠陥」というものは同時に岡崎の「美質」そのものではないかとすら思えてくる。「キャビアの味」って言うのがあるでしょう、或いは「珍味」かな。もの凄く美味いものは、常に、もの凄く不味いものとの境界線上に位置してるのだと、私は思う。お定まりの「ボーイ・ミーツ・ガール」ものにふりかけられた「オカザキ・フレイバー」が効く。全編に漂うブッ壊れた脱力感がチャーミング。
【お話】高層団地の10階に暮らす「パノラマガール」津田沼春子ちゃんは、ある夜、団地の植え込みの中でうめいていた(不良に絡まれ、ぼろぼろにぶちのめされた)神奈川健一君(一戸建てに住んでいる「ジオラマボーイ」)に出会って恋に落ちました。でも、健一君はそれどころではありません。つい今しがたショードー的に高校を辞めてしまったばかり。お先は真っ暗。一橋出の一流商社マンだったはずのオヤジはOLに狂って家に帰ってこない。お袋は入院。一緒に暮らしている姉貴は、吉田秋生の『河よりも長くゆるやかに』に出てくる俊邦君のお姉ちゃんみたいに、おっかないし、このまま優等生として人生を歩んでいったって、ろくなことがないのは目に見えている。年齢に合わない諦念を身につけ、普段は何気なくやり過ごしているつもりでも、気付かぬ間に心の澱が降り積もってゆき、ある日、臨界点に達して爆発したのです。糸の切れた凧のごとくフラフラ渋谷をさまよい歩くうち、一帯を取り仕切る関西弁の小学生(区立第三小学校)平均(たいらひとし)君に何故か気に入られ、女をおごってもらったり(ただし小学生)、その小学生の女の子からお小遣いをもらったり、憧れのスケバンの女の子とのセックスに溺れたり、レコード屋でバイトしたりと、恐る恐る「第二の人生」を歩み始めましたが、いや、まあ、それでいいのか健一君。将来はどうするんだ? 一方春子ちゃんは、同級生の女の子に突然「告白」されたり(大島弓子『さよなら女達』?)、死にかけたお祖母ちゃんに憑依されたり(大島弓子『秋日子かく語りき』?)、平均君に迫られたり、シュークリーム屋を襲撃したり(村上春樹『パン屋再襲撃』?)と、こちらも色々大変です。果たして、春子ちゃんの恋は成就するのでしょうか? (別に、しなくてもいいんだけど…)
【書誌】●発行:マガジンハウス●初版:1989.4.26●ISBN4-8387-0059-8●初出:「平凡パンチ」1988.3.10~11.10
【蛇足】何とまあ意外な事に映画化されました。2020年11月封切りですがコロナが怖くて映画館に行けなかったのでまだ見てません。
(1999.06.13新規、改定20210626)


7.「でっかい恋のメロディー」
【コメント】切れ味のいい短編。冴えてる。1ページにつき2回ずつゲラゲラ笑わされた。主人公の妹がイイ味出してる。主人公が憧れる古本屋の店番のおネエちゃんも言うことが変。「世界は、喪失 欠如 不在 消失に満ちているわ。そして暴力。それだけで世界はぱちんとはじけそうよ。でも思考とエクリチュールと愛だけがそれを救済することができるのよ。」 なおこの作品が収められている「私は貴兄のオモチャなの」は岡崎の短編集の中ではピカイチ。同じ短編集に収められている「虹の彼方に」「私は貴兄のオモチャなの」もお薦め。
【お話】あなたが中学二年生の男の子で、ガールフレンドと一緒に、校舎の屋上から空を眺めていたとしよう。そのとき突然、「あたし、できちったみたい」(原文のママ)と言われたらドーする? トシ君は絶句。すると、彼女はニヤリと笑って、「なんて…」(自分の世代だったら「なぁんちゃって…」と言うところだけど時代が違うな)と言う。いけ好かない女だよな。そう言われたって、トシ君の動揺は治まらない。やっぱり中2の分際でセックスなんてしたからバチが当たったのか。でも、あの日「だいじょーぶ、中で出して、いっぱいいっぱいね」って言ったのは彼女じゃないか…何だかんだと大騒ぎがあって、身に覚えのない強姦未遂で停学を食らい、終いに満身創痍で病院のベットに横たわるハメになったトシ君。ウサギの衣装に身を包み心もすっかりウサギになりきった小学生の妹が判決を下す。「お兄ーちゃんが愛を大切にしなかったからよ。愛をてきとうにあつかうから。」「なんだおめー、急に。こえー。」「どうぶつのカンだもーん。まり、うさぎだもーん。どうぶつ、うそつかないあるよ。お兄ちゃんもどうぶつになりなさい。」決まった!
【書誌】短編集「私は貴兄のオモチャなの」(1995.9.25祥伝社ISBN4-396-76136-8)収録●初出「フィールヤング」1995年2月号
(1999.06.14新規追加)

8.「それいゆ」
【コメント】岡崎の「大島弓子趣味」がもっとも発揮された短編。私は「岡崎教徒」に改宗する前は「大島教徒」だったのでこれを推す。quiz 氏の岡崎ページ指摘されているのを読むまで、迂闊にも岡崎の大島弓子への傾倒ぶりを意識することが出来なかった。自分があんまり大島弓子を好きなんで、岡崎があちこちで引用しているのを見ても当然のことのような気がしていたのかもしれない。分かる。分かるッス。これは中期から後期にかけての大島弓子の世界そのものッス。(万が一、あなたが「大島弓子」を知らないのだったら、こちらのページを参照のこと。アプローチが自分とは全然違うんだけどな…。いつか作ろう、自分の大島弓子ページ…)
【お話】病気のお父さんと、高一の妹、小五の弟を抱えたチカちゃん(22歳)はOLをしながら家族の生活を支えておりました。お母さんは生活に疲れ果て四年前に家を出て行ってしまったのです。泣かせる話ですね。家族のために自分の全てを犠牲にしてしまったチカちゃんの唯一の慰めは、深夜の台所で飲む日本酒。あの優しい酔い心地だけが、彼女の苦しみと孤独を癒してくれるのです。そんなある夜、偶然かかってきた間違い電話がきっかけで「大学生の山田君」と「電話友達」になりました。互いに声だけしか知らないのをいいことに自分を17歳の高校生と偽って悩みをうち明け始めたチカちゃんでしたが…。
【書誌】短編集「ヘテロセクシャル」(1995.12.16角川書店ISBN4-04-852503-4)収録●初出「ヤングロゼ」1993年10月号
(1999.06.15新規追加)

9.「ひまわり」
【コメント】推薦リストに載せることに幾分かの躊躇いも感じる。もっと相応しい作品はあるような気がする。でもやっぱりラストの決め方がいい。岡崎もこれが気に入っていて、「あとがきインタビュー」でその思いを熱く語っている。岡崎「最後のページのゲロのとこが気に入ってます。やっぱりこれからはゲロですよ。ゲロ。」、清岡「…そうですか。」、岡崎「そうです。飽食の時代のトレンドはゲロです。うんこはもう、アウト。」岡崎というのは、ひょっとして、本当は「悪意に満ちた反逆者」なのではあるまいか?
【お話】夏です。街角にはひまわりが咲き乱れ、空に湧き起こる真っ白な入道雲。日射しが眩しい。青木純一君、小学6年生の夏休み。これから、同級生のマキちゃんと、ガッコーのプールに行くところです。おや、坂の上で手を振ってるのはハルミさんではありませんか。純一君ちで経営しているアパートに最近まで住んでたイケイケギャル(死語?)です。訝しむ純一君を呼び寄せて、ハルミさんは囁きました。「あたし赤ちゃん出来ちゃった。どうもあんたの子みたい。」以下省略…。
【書誌】短編集「エンド・オブ・ザ・ワールド」(1994.7.15祥伝社ISBN4-396-76101-5)収録●初出「フィール増刊「世紀末ラブストーリーズ2」1993年8月
(1999.06.16新規追加)

10.「くちびるから散弾銃」
【コメント】これを推すのは個人的な思い入れからだと理解してもらってもいい。普通の意味での「作品」ではないかもしれない。ストーリーらしいものがない。23歳の三人の女が集まって延々とおしゃべりを続けるだけ。この三人というのが「東京ガールズブラボー」に出てくるサカエちゃん、なっちゃん、ミヤちゃんの高校生三人組の後の姿なのだけど、執筆年代はこちらの方が先。[Me-twin」と言う雑誌(どんな雑誌か知りません。知っている人がいたら教えて下さい。)の1987年8月号から1990年5月号に掲載されている。世はまさにバブル真っ盛りの時期で、内容としてもバブル世相観察エッセイと言ってもいい。「岡崎京子、世相を斬る」である。当時の世相を面白くない気持ち…を通り越して暗澹たる気分で見守っていた自分は、岡崎の言葉に一つ一つ頷いて、何度も読み返したものだ。そして気がついてみると、バブルのバカ騒ぎの中で疲弊した気持ちがいつの間にか静まり、落ち着きを取り戻している。なぜかは分からない。
岡崎自身にとっても、自らのテーマを探求し深めて行く上で重要な通過点であったのではないかと思う。事実、岡崎のターニング・ポイントとなった「pink」はこの「くちびるから散弾銃」の連載中に執筆されている。次のような「pink」の「あとがき」を読んでみるといい。
pink_atogaki.html
これはまさに「くちびるから散弾銃」の中で培われ深められていった「思想」ではあるまいか?
もしあなたが岡崎の作品の内でも、「pink」→「東京ガールズブラボー」→「リバーズ・エッジ」と連なる系列の作品(これを「資本主義三部作」と名付けたいと思う)に特別惹かれるものを感じるのであれば、その「原点」として、この作品に目を通すことを強くお薦めしておきたい。
【お話】バツグンのプロポーションとチセツな思考回路を持つ快楽主義者、金田サカエ(女子美出身。23歳。処女)とその友人、島野夏美(貯金・恋人有りのしっかり者。デパートガール)、高田美夜子(ハードワーカーの雑誌編集者)の3人が延々と繰り広げるおしゃべり。フリーターの貧乏人のくせに物欲の奴隷と化して「かわいいもの」を買いまくる生活破綻者サカエ。二人の友人は激しく突っ込みを入れるが、サカエに反省の色無し。どうするんだ、金田サカエ? お前の老後は大丈夫か? …どうにもならんな、こんな奴。やれやれ…
【書誌】上下二分冊のものと、それを一冊にまとめた合冊本の二種類が発行されている。
●「くちびるから散弾銃」上巻:講談社1989年8月11日初版
●「くちびるから散弾銃2」下巻:講談社1990年4月23日初版
●「くちびるから散弾銃」合冊本:講談社1996年7月23日初版
現在入手できるものは合冊本。ただし、これは先に刊行された上下二巻本とは次の点で内容が異なっている。
  1. 上下二分冊本の上巻に収められていた「MON.24th,Oct.日本晴れならエトランゼ」が削除されている。
  2. エピローグとして新たに「くちびるから散弾銃’96」が書き下ろされ付け加えられている。
  3. 後に描かれた「東京ガールズブラボー」との整合性を保つために若干の修正が加えられている。
  4. 新たに8編の「随筆・私の東京日記」が特別付録として随所に挿入されている。
この改訂については色々思うところもあるのだが、このページでは触れないことにする。
(1999.06.09新規、改訂:1999.06.10・1999.06.14・2003.11.02)


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