未来の思い出―UNDER AFTER―



byドミ



(8)17歳の2人



どうしよう・・・。

蘭は、逡巡する。

外は、雷雨。
それを理由に、工藤邸に「お泊まり」するか?
でも、それも、はしたないような気がする。

「蘭・・・雨が小やみになったら、送ってくよ」
「うん・・・」

新一が再度「送って行く」と言ったのに、蘭は頷いていた。

新一が先程入れてくれていたお茶を、蘭は口にした。


まだ、2人の関係は、始まったばかり。
だから、焦らなくて良いという気持ちも、あるけれど。


蘭の体感時間では「つい先ほど」だった、5年後の事を思い出す。
新一と向き合おうと、たとえ記憶がなくても「新一の妻」として生きて行こうと、蘭は覚悟を決めていた。
だから・・・今も、新一とそうなっても良いと、思っている。

蘭は、自身の体が、いつにない熱を持っている事に気付く。
その理由が分からなくて、首をかしげる。

新一が、蘭の向かい側に腰かけて、訊いた。


「なあ、蘭。もしかして、蘭は・・・オレが告白しようとしていたのに、気付いてたのか?」
「えっ!?」

そんな事とは全然気付いてなかった蘭は、ブンブンと首を横に振った。

未来を垣間見て。
どうやら、新一がいつの日か告白をしてくれるらしいと、分かってはいたけれど。

1週間前の、あの時が、新一がまさに告白しようとしたその時だったとは、気付いてなかった。

「じゃあ・・・今夜は、何の為に、家に来たんだ?」

蘭は、考え込む。
そして、ふと、自分の格好に気付いた。
蘭は今、蘭の一番のお気に入りの、赤いワンピースを着ている。


「あ、あ、あのね」
「うん?」
「今日は、新一に告白しようと思って、ここに来たの」
「えっ?」

蘭の言葉が、思いがけないものだったらしい。
新一は、ぱあっと明るい笑顔になった。

「マジ?」
「うん・・・わたしね、この1週間、ずっと、ずっと、考えてたの。し、新一が、告白してくれるなんて、思ってなくて。もう、幼馴染みの関係を終わらせて、距離を置こうって言われるんじゃないかって、怖くて・・・で、わたしから告白しようって・・・」

明るかった新一の顔が、今度は渋面になり、ふてくされたように頬杖をついた。

「その気持ちは嬉しいけど。オメー、マジでオレの気持ち、分かってなかったのか?」
「うん。だって・・・」
「だって?」
「恋をしたら、相手の事が見えなくなるもの」

蘭の言葉に、新一は目をパチクリさせた。
そして、赤くなる。

「そっか・・・」
「新一は?そういう経験って、なかったの?」
「・・・オレの片思い、どんだけ年季が入ってると思ってんだよ?ずっと、ずううううっと!オメーの事が見えなくなってたよ、オレは」
「ずっと・・・?」

新一は、真っ赤になって頭をボリボリと掻いた。

「オメーな!んな事、何度も言わせんなよ!」
「うん・・・」

不意に蘭の眼から涙が溢れた。
新一は、ギョッとしたような顔になる。

「お、おい、蘭!?」
「ごめんね・・・新一・・・わたし・・・何も分かってなかった・・・」


新一が、蘭に優しい事には気付いていた。
新一が、蘭を大切に思ってくれている事には、気付いていた。
けれど、新一がずっとずっと、蘭に切ない想いを募らせていた事には、気付いていなかった。
いや、気付こうとしていなかった。


昨年春、高校入学してすぐの春に、新一への恋心を自覚してからは、自分の気持ちを持てあまし、それまで以上に新一に憎まれ口を叩く日々だった。


新一が一途にわき目もふらずに、蘭ただ一人を想い続けてくれていたなんて、何て贅沢で幸せな事だったのだろう。
けれど、蘭はそれを知らなくて。
新一が突然いなくなってしまった時も、自分の気持ちの事ばかり考えていた。


「あ、あのさ。蘭・・・オレは・・・蘭が今夜、オレの気持ちを受け止めてくれた事で、すっげー幸せだから。どんな事も、報われたって気がすっからよ。だから・・・泣くなよ・・・」
「うん・・・うん・・・」

蘭は、新一からティッシュを受け取り、鼻をかみ、涙を拭いた。



「お。そろそろ、雨がやんで来たか?」

新一は、窓の外に目を向けて、言った。
そして、蘭が飲み終わったコーヒーカップを手にして立ち上がる。

「あの!新一!」

蘭は、決意を固めて言葉を出した。

「どうした?送ってくよ、傘ならうちに・・・」
「あの、わたしね。今夜、告白して、もし、新一が・・・新一もわたしと同じ気持ちだったら・・・そしたら・・・」
「うん?」
「わたしを・・・新一のお嫁さんにして貰おうって・・・!」


振り返った新一の目が大きく見開かれ、その手からカップが落ちて絨毯の上に転がった。



蘭の心臓は、新一に聞こえるんじゃないかと思う位に、大きく音を立てていた。
新一も蘭も、お互いに、息をする事すら忘れて、お互いを見入っていた。

不意に、新一が動き。
それは、落ちたカップを拾おうとする為だったのだが。

蘭は、ビクリと身を震わせた。


「・・・やっぱ。送ってく」
「え?ええっ!?」

まさか、この期に及んで拒絶されるとは思ってなかった蘭は、思わず声を上げていた。
新一は、カップを拾い上げた後、くるりと背を向けた。

「新一が、わたしの事好きだって言ってくれたの、嘘だったの?」
「はあ!?」

振り返った新一は、目を見開いて、素っ頓狂な声を上げた。

「んな筈、あるかよ!?冗談で言えるような事じゃねえし・・・オレは!」
「それとも、わたしって・・・そんなに魅力ないのかな?」

蘭は思わず涙ぐむ。
次の瞬間。
蘭は新一の腕に、きつく抱き締められていた。

「バーロ!オレだって、男だ」
「・・・新一?」
「惚れた女に、そういう事したくない訳、ねえだろう?さっきだって、つい暴走しそうになっちまったんだしよ」
「だったら、何で?」
「怖がって震えている蘭に、無体な事出来る訳、ねえだろうが!」

新一が叫ぶようにして告げた言葉に、蘭は驚き。
そして、震える程に感動する。


そうだ。
未来の新一が、言っていたではないか。

『昨夜は眠いって言ってたのにオレが三回も迫ったって事根に持ってんのか?オレだってあれでも抑えてたんだからな』
『この体はともかく、今のオメーの心は、キスもエッチも経験ねえだろ?手ぇ出す訳には行かねえよな』

新一は蘭に対して抱きたいという欲望は持っている。
けれど、蘭の為になら、その欲望を抑える事も、出来るのだ。

どうして、新一の「愛情」から来る言動を、見誤るのだろう?
蘭は、申し訳なくなって来る。


「ごめんね・・・新一・・・変な風に疑ったりして・・・」
「あ!や、だ、だから!泣くなって!」

新一の抱き締める力が緩み、新一は困ったような顔で、蘭の顔を覗き込んだ。

蘭は、新一の両頬に手を添え、そっと自分から新一の唇に口付けた。

「ららら、蘭!?」

新一が口元を押さえて真っ赤になった。

「怖いのは、当たり前じゃない。初めて、なんだもの」
「蘭・・・」
「そりゃ、怖いよ。すっごく痛いらしいって、よく聞くし。でも、だから・・・初めては絶対、新一とって、わたしはずっと・・・」

新一が、もう一度、先程よりは少し優しく、蘭を抱き締めた。

「蘭。オレも、経験ねえ、初めての事だから・・・」
「うん・・・」
「多分、余裕ねえと思う。オメーを気遣う余裕も、無くなっちまいそうだし」
「うん・・・」
「・・・男は、途中で止まれねえからな。途中でやっぱり嫌だって言われても、オレは・・・」
「うん。わたしも、もしかして泣き言言うかもしれないけど、覚悟は出来てるから・・・」

新一は、蘭に軽く口付けると、蘭の額に自分の額をこつんと当てて、微笑んだ。


「・・・えっと・・・泊まってくんだよな?」
「うん」
「取りあえず。腹ごしらえしねえか?オレまだ、夕飯、食べてねえし」
「あ・・・!そう言えば、わたしもみたい」
「みたい?」
「あ、ううん、わたしもお腹空いたなあって。ご飯まだなの、今の今まで忘れてたわ!」


蘭の「精神的」な感覚では、夕御飯からさほど時間が経っていない。
けれど、蘭の肉体は、空腹感を覚えていた。
おそらく、今日の夕御飯は食べずに来たのだろう。

「ご飯、わたしが作るよ」
「へ?でも・・・」
「こ、恋人になって初めての、ご飯作りだもん・・・いいでしょ?」

蘭の言葉に、新一はぶわっと真っ赤になった。
蘭も頬が熱くなるのを感じながら、台所に行って冷蔵庫を覗きこむ。

「えっと・・・うーん・・・」

冷蔵庫の中身を見ながら、頭の中で献立を組み立てる。

「やっぱ、買い物に行かないと・・・」
「あ、オレが買ってくるよ」
「わたしも一緒に」
「いや、小降りだけどまだ雨も残ってっしさ、1人で行くよ。買いてえものをメモしてくれねえか?」
「う、うん・・・」

新一が出かけている間、蘭は食事の準備を進めた。
心臓が信じられない位ドクドク鳴っていて、蘭は、包丁を使う際に怪我しないよう、深呼吸をしながら慎重に作業をした。

まだ、お互い17歳。
高校生で、働いている訳ではないし。
蘭はともかく、新一は、親の同意があっても結婚できる年齢ではない。

でも、もう、溢れ出した気持ちは、止められそうにない。


突然、テーブルに置いた蘭の携帯が鳴り、ビクリとする。
園子からのメール着信音だった。


『蘭。おじさんの方は大丈夫?わたしから電話しようか?』

意味がよく分からない。
それに、電話ではなくメールなのは何故だろうと、首をかしげながら、蘭は、園子に電話をかける。

「もしもし?」
『蘭・・・今、大丈夫なの?』
「う、うん・・・」

未来の蘭が園子にどこまで話しているのかよく分からず、蘭は曖昧に返事する。

『新一君と、一緒じゃないの?』
「い、今、ご飯作ってて・・・新一は買い物に・・・」

蘭が新一のご飯を作るのは、「ただの幼馴染み」だった頃からよくある事だったので、この返事は無難だろうなと思いながら、蘭は返す。

『じゃあ!いよいよ初夜ね、蘭!』
「そ、園子・・・っ!?」
『後で、感想聞かせてね!わたしの時の参考にするからさあ』
「あ、あのっ!」
『で、おじさんにはわたしから電話して置こうか?』
「あ、だ、大丈夫・・・お父さんはもう出かけているけど、書き置きを残しているから」

ここまで周到な準備をしている未来の蘭が、書き置きを残していない筈などないだろうと、蘭は考えていた。

『そっか。ま、必要だったらいつでも言って?今回の旅行先、新潟って事にしてるからね』

蘭は、真っ赤になりながら、電話を切った。
小五郎が麻雀で帰って来ない事は分かっている筈だが、未来の蘭は万一に備えて、園子にアリバイも頼んでいたのだろう。

「ただいま」
「あ!お帰りなさい!」

玄関ドアが開く音と同時に、新一の声が聞こえ、蘭は慌てて返事をして飛んで行く。
蘭が玄関まで行くと、新一は目を見開いて蘭を見詰めていた。

「ど、どうしたの?」
「いや・・・何か・・・オレんちで、蘭がオレをお帰りって迎えてくれるって、すげーイイもんだなって思ってよ」

新一の言葉に、蘭の頬が熱くなる。

「オメーも、んな格好してるしよ。ホントまるで・・・」

蘭は、赤いワンピースの上にエプロンを着けている。
確かに、新婚みたいだと、蘭は思った。

新一は買い物袋をとりあえず床に下ろすと、蘭を抱き締め、口付けて来た。

「ん・・・」

新一の舌が、蘭の唇の隙間からするりと入り込み、蘭の舌に絡められた。
蘭は新一のシャツの胸元をぎゅっと握る。
初めて知る甘い感覚に、蘭の頭の芯がしびれ、下腹部が熱く疼く。

「すげ・・・夢みてえだ・・・」

深く長い口付けの後、新一が、蘭の肩にこつんと頭を寄せて、囁いた。

「新一・・・?」
「ずっと・・・オメーだけを見てた・・・オメー本当に、オレのもんに、なってくれんだよな?」

顔をあげた新一の瞳に、切なげな揺らぎを感じて、蘭は息を呑んだ。

「バカ!わたしはとっくに、新一のものだよ・・・」

蘭は、そう答える。
新一は、柔らかく微笑んだ。

「さ、飯、作ろっか」
「あ、う、うん・・・」

蘭は頷き、新一と共に台所へ向かった。

新一が買い物袋を台所の床に下ろす。
蘭が、その買い物袋を覗こうとすると、新一が慌ててそれを横から取った。

「あ!オレが整理すっから!」
「え・・・?」

一体、何を慌てているのだろうと、蘭は訝しく思う。

「新一・・・」
「な、何?」
「もう・・・隠し事は、しないで・・・」

新一は、ギクリとしたように振り向いた。
そう言えば、蘭はまだ、今の新一から、コナンの事を聞いていない。
それも含めて、新一は色々と後ろめたいのだろうと思われた。

「・・・そ、その・・・か、隠し事っていうか・・・んなんじゃなくて・・・」

新一は、諦めたように、買い物袋の中から、あるものを取り出した。

「箱?」

少し分厚目の漫画本位の大きさのその箱は、妙に軽く。
パッケージの表示は殆どなく、一体、何なのか、よく分からなかった。
もの問いた気に新一を見ると、新一は首や耳まで真っ赤にしていた。

「そりゃオレは、もしもの時逃げる気は全くねえけどよ。こ、高校も、まだあと1年以上あるんだし・・・オメー、卒業してえだろ?」
「?????」

新一の歯切れ悪さは、隠し事ではなく、言いにくい事なのであろうと、何となく見当がついたけれど。
蘭はよく分からずに、首をかしげる。

「これ。開けてみても良い?」
「・・・別に、良いけど。見て楽しいもんでもねえぜ?」

蘭は、フィルムをはがし、箱を開けてみた。
中には、薄い個包装の袋が、沢山入っていて。
蘭は、そのひとつを取り出して、仔細に見、首を傾げる。

「これ、何が入ってるの?」

何だか膨らませる前の風船のような感触だなと、蘭は思いながら、新一に尋ねた。

「・・・さすがに、処女だと、現物見ても分かんねえか」
「えっ!?」
「・・・避妊具だよ」

新一が、諦めたように、ぼそりと言った。
蘭は思わず、手に持ったそれを取り落とす。

「蘭!」

いきなり、新一に真正面から両手を握られた。
新一は、顔を真っ赤にしながら蘭の顔を覗きこみ、勢い込んで言った。

「あのさ!オレは本当に、蘭の事、大事にしてえって、思ってる!」
「えっ?」
「だ、だから、本当は、結婚までとは言わなくても、成人するまでとか、せめて高校卒業するまで、我慢すべきなんだろうって、思ってるけど!」
「新一?」
「でも!蘭が欲しい!早く、オレのもんにしてしまいたい!それも、本音だ」
「・・・・・・」
「でも。蘭の意思を最優先すっから!オメーが、本当の本当に覚悟決めてるって言うんなら、オレは・・・もう、待たない」

新一の灼熱の炎を宿した瞳から、蘭は目が離せなくて。
文字通り、胸がきゅうんとなってしまう。

「新一。ずっと、わたしだけだって、誓ってくれる?」
「は?当り前じゃねえか。ずっとずっと待って、ようやく手に入れられたってのに、他の女なんか、見る余裕あっかよ!」
「ずっと・・・?」

新一は、息もつかせぬほど強く、蘭を抱き締め、背中と髪を撫でる。

「オメーだけだ!蘭だけだ!過去も未来も、ずっと!」

新一に抱き返しながら、蘭は涙を流していた。
蘭は、一体新一の何を見て来ていたのだろう?

いつも、冷静沈着だと言われている、工藤新一。
勿論、幼い頃から新一を見て来ていた蘭は、新一が結構、熱血猪突猛進タイプで、探偵としての場面ではそれを抑えている事も分かっていたけれど。

こんなに、激しいものを抱えていたなんて。
こんなに、蘭の事を求めていたなんて。

蘭は、知らなかった。
いや、知ろうとしていなかった。


「新一。わたしも、新一だけだよ。過去も未来も・・・ずっと・・・」
「蘭?」
「だから。わたしに、新一の存在を刻んで。新一のものだって証を、刻んで・・・」


次の瞬間。
蘭は激しく唇を求められていた。


   ☆☆☆


蘭は、心臓をバクバクさせながら、新一のベッドに腰かけていた。

新一は今、入浴中だ。

あの後、そのまま事に及んでしまいそうな勢いを強いて押しとどめ。
2人でご飯を作って食べたが、焦がすは味付けを失敗するはで、大変だった。
料理の味も、殆ど分からなかったように思う。

蘭もお風呂を勧められたけど、どうやら既に毛利邸で入浴済のようだったので、それは断り。
今、こうやって、新一のベッドに腰かけて、待っている。

着替えはどうしようかと思ったけれど、蘭の持って来ているバッグに入っていたのは、替えの下着と、明日着る積りであろう服だけで、パジャマもネグリジェも入っていなかった。
蘭が今身に着けているワンピースは、色もデザインもお気に入りの一着なのだけれど。
ゆったりとしていて、背中のファスナーを下ろすだけで簡単に脱ぐ事が出来る。

新一の手で、この服を脱がせてもらい、新一のものになる・・・そういう事なのだろうと、蘭は思う。

新一がこの部屋に戻って来るのが、待ち遠しいような怖いような、複雑な気分で。
時間の経過も、よく分からなかった。
男性の入浴にしては、結構時間がかかっているような気もするけれど、きっと気の所為だろう。


新一が、「蘭と密着し、中に入るのだから」と、いつもより丁寧に全身を洗っているとか、初めて使う避妊具の装着練習をしているとか、がっつかないように1回熱を放出しているとか、それら諸々で時間がかかっているという事も、蘭が知る日が来る事はない。



ドアが開く音がして、蘭は思わず体をこわばらせる。

Tシャツと短パンをつけた新一が、入って来た。


「蘭・・・」

新一が、蘭の手を取って、立たせた。
そして、優しく抱き締めて来る。

「夢じゃ、ねえんだよな・・・」
「新一・・・」
「頑張って、戻って来た甲斐があったぜ」
「・・・・・・」

蘭は、新一がコナンだった事を、「未来で」聞いたけれど。
その細かな事情までは、知らされていない。

でも、きっと、蘭の知らない戦いが、沢山あったのだろうと思う。

「新一・・・」
「ん?」
「今はまだ・・・聞かないけど・・・わたしの所に戻って来る為に、新一が頑張ってたんだって、信じても良い?」
「ああ・・・それだけが、オレの支えだったからな」

新一が蘭の顔をあげ、口付けて来る。
熱い舌が蘭の唇の隙間から入り込み、蘭の舌を絡め取った。


「ん・・・んっ!」

蘭は、新一の胸元を掴んで、しがみ付いた。
新一の手が、蘭の背中をさまよう。
その手が、ジッパーの金具を探り当てて、下ろそうとするけれども。
新一の手が震えていて、なかなかうまく行かない。

蘭は、新一にしがみつきながら、待った。
やがて、ようやく、新一の手がジッパーを引き下ろした。
震える手が、蘭の両肩からワンピースをずらし下ろす。

蘭は、キャミソールを身に付けていた。
蘭の記憶にはない下着・・・おそらく、未来の蘭が準備したものであろう。

「蘭・・・」
「あっ!」

新一の手が蘭の肌を這い、唇が首筋に落とされる。
キャミソールの肩ひもが下ろされ、ブラジャーのホックが外され。
蘭の肌が、少しずつ露わになって行く。

「すげ・・・綺麗だ・・・柔らかい・・・」
「あんっ!」

新一の掌が蘭の胸の隆起を包むように当てられ、突起の片方が新一の口に含まれた。
舌先で転がされ吸われ、電流が走るような感覚が蘭を貫いた。

「あああん!」

蘭は新一の頭を掴み、背中をそらして声をあげる。

「蘭!好きだ、好きだっ!」
「新一・・・ああっ!」

蘭の中心部は熱く疼き、そこから何か溢れ出る感覚があった。
そこを覆う最後の布も取り除かれ、蘭は生まれたままの姿になった。
新一の手が、蘭の秘められた部分へと伸ばされる。

「や・・・あ・・・んんっ!」
「蘭・・・オレのものだ!蘭っ!」

新一の声に含まれる切なさに、蘭は胸をつかれる。


半年。
新一が、蘭の傍にいなくて。
辛かったのは、蘭の方の筈なのに。

新一は、姿を変えて蘭の傍にいたのだから、きっと、寂しくはなかっただろうと思うのに。

新一の方がずっと辛そうなのは、何故なのだろう?


「新一・・・もう・・・いなくなっちゃ嫌・・・」
「蘭?」
「離れないで・・・もう、どこにも・・・行かないで・・・」
「ああ・・・離れない・・・離さない!」

蘭を覆う最後の布が取り去られ、蘭は生まれたままの姿になった。
新一の手と唇が蘭の全身を這いまわり、蘭は甘い声を上げ続ける。
蘭のその場所からは、熱い蜜が後から後から溢れだす。

新一の腕が蘭の両足を抱え、大きく広げられた。
新一の目に、蘭の秘められた場所がさらされる。


「やっ!」

蘭は小さく悲鳴をあげた。
新一にその場所を見られて、死ぬほどに恥ずかしい。
けれど勿論、嫌ではない。

見せるのも触れさせるのも、この世でただ1人、新一だけだ。


新一が蘭のその場所に顔を近づけ、唇を寄せ、溢れる蜜をすする。


「あ!やあっ!駄目えっ!」

蘭は思わずもがく。

「何が駄目なんだよ?」
「だって・・・そんなとこ・・・汚いよ・・・」
「バーロ。オメーの体で、汚いとこなんて、ある訳ねえだろ?」
「そんな・・・あ!ああん!」

新一の唇と指で、蘭の突起に触れられ、蘭は仰け反って声をあげた。
蘭の中に、何かが押し入って来る。

「ああっ!」
「・・・さすがに、狭いな・・・」

新一の指が、蘭の内部に侵入し、うごめいているのだった。
異物感と違和感・・・が、少しずつ別の感覚に取って代わる。

「んやあああっ!」

蘭の頭の中が白くはじけ、蘭は手足を突っ張らせた。
次いで、弛緩し・・・今の感覚は何だったのだろうと、ぼんやりと思う。

新一のぬくもりが離れて行き。
蘭は思わず、手を伸ばしていた。


「新一?」

顔をあげて見ると、新一は自分の服を脱ぎ捨てていた。

「あ・・・」

新一の、肩から鎖骨の綺麗なライン、思いの外たくましい胸板、引きしまった腹部、そういうものに目を奪われ。
そして、下腹部にそそり立つものを目にして、思わず目を泳がせた。
新一はその部分に、何かをしていた。
おそらく、避妊具をかぶせているのだろう。

新一が蘭の所に戻って来て、覆いかぶさる。

「蘭。そろそろ、良いか?」
「新一・・・」

蘭は、こくりと頷いた。
新一が言う意味は、分かっている。
ただ、その先どうなるのかは、お互いに、分かっていない。

新一が再び蘭の両足を抱えて広げた。
蘭の入り口に、熱い塊が押しあてられる。


「ん・・・うっ・・・つうっ!」

蘭の中が押し広げられ、圧迫される重量感と引き裂かれる痛みに、蘭はこらえ切れずに苦痛の声を上げる。

「蘭!ごめん・・・愛してる!」

新一が、切ない声で言うのが聞こえた。
お互い初めての事で、なかなかうまく行かないようで。
絶望的にも思える、長い痛みの後。

「ら、蘭・・・全部、入ったぜ・・・分かるか?」

新一が荒い息をつきながら言った事が、どこか遠くで聞こえた。
ようやく、痛みが落ち着いてくる。
そして蘭は、新一と結ばれた事を知った。
蘭のまなじりから、涙があふれて流れ落ちる。

「蘭・・・」

新一が、蘭を抱き締め、唇を重ねてきた。
そして、額を合わせ、どこか狂おしい光を秘めた、けれど優しい眼差しで蘭を見詰めて、言った。

「ずっと・・・ずっと・・・好きだった・・・とうとう、ひとつになれたんだな、オレ達」
「新一・・・」

新一の、思いの丈を込めた言葉に、蘭は、苦痛も何もかも、吹き飛んでしまう想いだった。

「痛い思いをさせて、ごめん・・・」
「新一?」
「でも。痛い思いをさせたのがオレで、嬉しいって。どこかで思ってる・・・すまねえ・・・」
「・・・バカ。こんな痛いの、相手が新一だから、受け容れられるんだからね」

蘭にもようやく喋る余裕が出来て、目の前の新一を睨むようにして、言った。
新一が、ふっと微笑む。

「他の誰にも・・・」
「えっ?」
「触れさせねえ。こんな姿、見せねえ。ぜってー、誰にも、渡さねえ!オレだけのもんだ・・・蘭!」

新一が、繋がったまま、蘭をぎゅうっと抱きしめる。

「新一・・・ずっと、わたしだけだって、誓ってくれる?」
「蘭!誓うまでもねえ!オメーだけだ、ずっと!」
「わたしも、ずっと、新一だけだよ。だから・・・もう、どこにも、行かないでね」
「蘭・・・」

新一は、一旦体を起こし、蘭の目を覗きこみ。
そして、再び口付けて来た。

「蘭・・・また、いてーだろうと思うけど・・・」
「新一?」
「動いて、良いか?」

蘭は、こくりと頷いた。
新一が体を起こし、蘭の両足を抱え直し。
そして、腰を動かし始める。
収まっていた痛みが、再び蘭を襲う。

「んっ!ううっ!ああっ!」
「蘭・・・蘭・・・っ!」

蘭は、新一の背中にまわした手に力を込めてしがみつき、痛みの波に耐えた。
やがて少しずつ、蘭の中から、痛みに代わる別の感覚が湧き起こって来る。

「や・・・は・・・んああ・・・ん!」

蘭の声が、甘さを帯び始め。
繋がったところから溢れる蜜が量を増し、新一の動きがスムーズになって来る。
蘭の変化を感じ取ったのか、新一の動きも激しくなって来た。

「蘭・・・愛してる・・・愛してるよ!」
「ああ・・・しんいち・・・んああんあん・・・」

新一の体から滴り落ちる汗が、蘭にかかる。
部屋の中は熱気が満ち、様々な音が響く。
蘭の甘い声、新一の切ない声、体のぶつかり合う音、粘着性のある水音、激しい息づかい、ベッドが軋む音。

やがて。
蘭の意識は上りつめ、新一にしがみつきながら背中を反らせ、ひときわ大きな声をあげて意識がはじける。
新一も、うめき声をあげ、膜の中に、熱を解き放った。


「・・・ハア、ハア・・・ッ!」

2人、息を整え、弛緩すると。
新一は、蘭の中からゆっくり己を引き抜き、蘭の隣に横たわった。

新一は、蘭の肩を抱き寄せ、蘭は新一にすり寄った。
疲れと下腹部の痛みはあるが、幸せな気持ちだった。

「すげー、幸せ・・・」
「えっ?」

新一が蘭の方を見て、優しい微笑みを見せる。

「蘭・・・」
「なあに、新一」
「オレがいなかった間の事、いずれ、オメーに全部話すけどよ」
「うん・・・」
「ずっと。オメーの所に、戻って来たかった。でも、戻って来られる状況じゃなかった・・・。ようやく帰って来ても、色々あって・・・蘭に、オレの想いを伝える事が、出来なかった」
「うん・・・」
「でも。蘭への気持ちがあったから、オレは・・・」
「新一。厳しい戦いだったのね?」
「ん?」
「何となく、分かるよ。わたし・・・新一は、わたしの所に帰って来てくれる為に、頑張ってくれてたんだって・・・自惚れても良いのかな?」

蘭が、新一の頬に手を当てて訊くと。
新一は、再び優しく甘い笑みを見せて、蘭の頬に手を当てて言った。

「自惚れなんかじゃねえ。その通りだよ。オメーがいたからオレは・・・」

そして新一は、蘭をギュッと抱きしめた。

「オメーがいなかったらオレは、戦えなかった」

蘭も新一を抱きしめ返し、涙を流した。
高校生なのに、小学1年生の姿になってしまって、辛くない筈がない。
新一はコナンとして、一体、どんな気持ちで、毎日を過ごしていたのだろう?

「いつか、話してね?」
「ああ・・・きっと・・・」

新一は、蘭の耳に口を当て、囁く。

「蘭。必ず、結婚しような?」
「え?ええっ?」

突然の話題の転換に、蘭は思わず声をあげた。
新一が少し体を離し、ちょっと憮然とした表情で、蘭を見る。

「んな、驚くこた、ねえだろう?」
「・・・だって。わたし達、まだ高校生だし・・・」
「過去も未来も、オレには蘭しかいない。オレの全てをお前にやるから、お前の全てをオレにくれ」
「し、新一・・・」
「嫌か?」
「嫌じゃ、ないよ。嫌な訳、ないじゃない!」
「出来れば、オレが18歳になった時に、って言いたいとこだけど、さすがにそれは、おっちゃんの許しがないだろうな。なるべく、早い内に。最悪でも、蘭が20歳になった時に」
「・・・うん・・・」

蘭が垣間見た未来の通りなら。
2人の結婚は、高校卒業と同時の筈。


決められた未来を辿る事になるのかどうか、それは分からないけれど。
蘭は、新一と共に未来を歩む為に、精一杯の努力をしようと思った。

「じゃあ。新一、お父さんとお母さんを説得してくれる?」
「投げ飛ばされて殴られそうだけど、努力するよ」

そう言って新一は苦笑した。

そして、新一の唇が蘭の唇に重ねられ。
新一の手が、蘭の胸をまさぐり始める。

「ん・・・ふ・・・っ」

2人の熱くて甘い夜は、始まったばかり。




未来の思い出≪完≫



+++++++++++++++++


<後書き>


5年前私が作った同人誌に、今の私が続きを書いたこのお話も、これにて完結です。

新一君が蘭ちゃんに、どういう風にコナン時代の事を話したのか、とか。
蘭ちゃんがどういう風にそれに答えたのか、とか。
そういう事は今度こそ、読者様の想像に委ねようと思いまして。

このお話の第1話で、新一君は蘭ちゃんの目の前で、志保さんと電話で会話をしています。
その内容について、同人誌でも触れませんでしたが、こちらに書いた続編でも、結局触れませんでした。
蛇足かなあと思ったんで。

まあ、「新一君の検査が全て終了し、無事、何の後遺症もなく工藤新一に戻れた確認」だったって事なんですけれどもね。
後書きで補足という邪道で、すみません。


原作ベースの二次創作でも、一体、何度「新一君と蘭ちゃんのお初」を書いた事かと思いますが。
まあ、進歩がないですね、私も。
なかなか、満足いく形に書けません。
精進します。


それではまた、別のお話で。


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