誰も知らない。
わたしの心の真実を。
わたしのただひとつの愛を。

誰にもわからない。
わたしの抱える苦しみが。
わたしが一番欲しいものが。

知っているのは、わたしだけ。
わかっているのは、わたしだけ。



緑の日々



byドミ



《プロローグ》



 工藤新一は、黒の組織との戦いを終え、自分自身の姿を取り戻してすぐ。その足で、最愛の女性・毛利蘭の元へと向かった。
 新一も蘭も、本来なら高校三年に進級している筈だったのであるが、新一は休学のまま結局高校を中退し、蘭は進級していた。十八歳を迎えた五月に、新一は帰って来たのだった。

「お帰りなさい、新一」
「ただいま、蘭」

 二人は自然に抱きあい、そのままお互いの唇を求めていた。

「蘭。やっと、オメーに言える。ずっとずっと……オメーの事が好きだった」
「……過去形なの?」
「バーロ!現在進行形だ!」
「私もよ、新一。新一の事が好き、大好き!」
「蘭……」

 そして再び二人は抱き合い、口付けを交し合った。お互い、告白より先にキスをしてしまった事になど気付かない位に、自然に行動していた。

 そして新一は、薬を飲まされて体が縮み、江戸川コナンとして過ごしていた事、組織との戦いの事、それら全てを、時間をかけて蘭に話した。蘭は涙ぐみながら話を聞いた。

「コナン君が新一じゃないかって、何度も疑ったし……やっぱり最後にはそうだって確信してたけど。新一の口からちゃんと聞けて、嬉しい」
「オレは……一番大切だと思うオメーに嘘をつきながら、傍に居た事……スゲー悪いって思ってたけど、オメーの傍から離れられなかった……」
「ふふっ。私には寂しい思いをさせときながら良い度胸ね、って言いたいところだけど。新一がそこまでして傍にいたいと思ってくれたのって、すごく嬉しい」

 二人は、また口付けを交し合った。そして、見詰め合い、照れ臭そうに微笑んだ。二人にとって、この数ヶ月の辛い日々が吹き飛んでしまう、最高の瞬間だった。
 その後、新一が少し顔を曇らせて言った。

「蘭。オレは今度こそ、オメーと暫く離れなくちゃならねえ」
「え!?」
「色々と。事件の後始末とか、オレ自身の健康チェックとか、あって。数ヶ月位、アメリカに行かなくちゃなんねえんだ……」
「新一……」
「オメーをもう一度待たせる事になっちまうけど……待っててくれるか?」
「うん、勿論。新一が待ってて欲しいって望んでくれるのなら、わたし、待ってるから。ちゃんと、待ってるから……」

 涙ながらに言う蘭に、新一は再び口付けた。

「ねえ、新一。すぐに行かなくちゃいけないの?」
「いや。少しばかりは、時間の猶予がある。……オメーの誕生日を一緒に過ごしてえしよ」
「ねえまさか新一、わたしの誕生日の為に、無理してないよね?」
「大丈夫だ、一刻を争うって訳じゃねえから。今度こそ暫く離れ離れになっちまうから、それまでは……」
「うん……嬉しい。でも、新一ってば、わたしの誕生日の前に、自分の誕生日があるの、忘れてない?」
「あ……忘れてた」

 二人は思わず顔を見合わせて、笑い合った。


 それから二人は、僅かだが恋人同士としての幸せな時間を過ごし、そして新一は渡米した。帰って来たら今度こそ、ずっと離れないと誓い合って。

 けれどその誓いが、たった数ヶ月で破られる事になろうとは、その時は二人とも、想像もしていなかったのである。


   ☆☆☆


 新一が、再び日本の地を踏んだのは、半年の後。季節は秋から冬に移ろうとしていた頃だった。
 空港に降り立った新一は、蘭の出迎えがない事にガッカリしながら首を傾げた。早く蘭に会いたい気持ちが募る。

 この間新一は蘭と、しばしばビデオチャットで顔を見ながら会話をしていたし、メールや電話のやり取りもしょっちゅうだったけれど。
やはり、蘭に直に会いたい、触れたいという気持ちは大きく膨れ上がっていた。今日、やっとそれが叶う。

 新一が、荷物を引いてバス乗り場へ向かっていると。

「遅くなってごめんね、新一」

 耳に馴染んだ声がして、待望の人影が現れた。

「蘭!」

 新一が蘭に駆け寄った。
 蘭は少しばかり青褪めた泣きそうな顔をしている。久し振りの再会に感動しているのとは様子が違うようで、新一は喜びの中にも違和感を覚えていた。

「つっ!」

 突然、新一が頭痛を覚え、額を押さえた。

「新一!?どうしたの!?」
「……大丈夫だ、ちょっとした頭痛だよ。少しばかり疲れが溜まっただけだろう」

 泣きそうな顔をしている蘭を宥めるように、新一が言った。新一が安心させるように蘭を抱き寄せようとするのを、蘭はするりと身をかわして避けた。

「蘭!?」

 蘭は少し距離を置き、手を後ろに回し、目に涙を山盛りに溜めて、新一を見上げた。

「ごめんね、新一。わたし、待てなかったの……」
「蘭!?」
「わたし、寂しくて。待ってる間に、他の人と……お付き合いを……。だから……サヨナラを……ごめんなさい……」

 その瞬間、新一の世界は色が剥がれ落ちてしまった。


(1)に続く

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<後書き>

このお話は、2006年夏コミにて発行した本の、再録です。

さて、いきなり衝撃のスタートですが・・・最後まで読んで頂ければ、きっと納得頂けると、思います。
本の案内にも書きましたが、決して、三角関係でも、蘭ちゃんの心変わりでも、ありません。


新一君にも蘭ちゃんにも、色々と、辛い思いをさせますが、幸せなラストはお約束します。


この話は、私には珍しい、「原作ベースでの、コナンまじ快ミックス」です。いや、まじ快ワールドとミックスしたというよりは、快斗君と青子ちゃんが出張って来ているという感じですね。魔法がないので、基本は、「名探偵コナン世界」です。

カップリングは、「新蘭+快青平和真園」です。


 (1)「絶望の日々」に続く。