特別な夜




byドミ



〜side Ran〜



わたしは、高校卒業と同時に、新一と同棲を始め、20歳になった大学2回生の6月に、結婚式を挙げた。

そして、手続きが延び延びになってしまっていたのだけれど、今日、9月10日、ようやくわたしと新一は、籍を入れて法的にも正式な夫婦となった。
わたしは、「工藤蘭」になった。


紙切れ一枚の重みを、これほどに感じた事はない。
わたし達は、これで名実共に、夫婦として、新たな家族としての、スタートを切る。


役所での届出は、あっさりと終わり。
わたしと新一は連れ立って、家に帰って来た。

うふふ、今日は特別な日だから、ご馳走を作ろうかな?
今日で夏期休暇も終わり、明日からはもっと忙しくなるし。

・・・などと思っていたのだが、甘かった。


玄関から入るなり、わたしは背後から新一に抱き締められた。

「し、新一?」

体をねじって新一の顔を見上げ、わたしは絶句した。
新一の目には、灼熱の彩があった。
それは、新一がわたしを欲しがっている時の眼差しだ。

新一の腕の中で、わたしの体は反転させられ、わたしの唇は新一のそれで覆われる。

「ん・・・ふ・・・」

触れ合った唇から。
わたしの口の中を蠢き蹂躙する、新一の舌が触れた部分から。
新一の手が抱き込んでいる、背中と腰から。

わたしの体中に、甘い痺れが広がって行く。


「蘭」
「あっ・・・」

新一が耳元で熱く囁くと、それだけで、わたしの中から溢れ出るものがある。
こんなに簡単に淫らになる自分自身が、とても恥ずかしくて堪らない。
こうなると、わたしはもう、新一に逆らえない。

嫌だけど逆らえないのではなくて、その先の快楽を期待するから、逆らえなくなってしまうのだ。

わたし達は、余程でない限り、毎晩のように体を重ねているけれど。
時々、今日のように、新一の求めが性急で激しい事がある。

けれど、どんなに強引であっても、いざ行為に及んだ時に、新一は決して乱暴な事はしない。
わたしの身も心も、それを知っていて。
新一と一つになれる瞬間を、待ち望んでしまう。


意識が半ば飛んでいたわたしが、気づいた時には、寝室のベッドに横たえられ、身につけていたものも殆どが剥ぎ取られていた。

「綺麗だ、蘭・・・」
「あ・・・ふ・・・んんっ・・・!」

新一の指と唇とが、わたしの肌をたどっていく。
わたしはその度にピクリピクリと反応して跳ねる。

わたしは新一しか知らないから、そして新一も、わたししか知らないっていう事だから。
新一にテクニックがあるかどうかなんて、そんな事は分からない。
ただ、友人達と交わす会話の中で、普通の男の人は、とにかく挿入を急ぐ事とか、愛撫は強く乱暴で痛いだけとか、そういう事をよく聞くから。
新一がセックスの時には、随分わたしを気遣い、「愛に溢れた」抱き方をしてくれている事は、分かっていた。

新一の前戯はいつも丁寧で、わたしが感じて反応する所を、的確にゆっくりと愛撫して行く。
少しずつ、体を重ねる毎に、わたし達のセックスは深まり、充実して来た。
2人はセックスに飽きるどころか、より濃厚で気持ちの良いセックスになっている。

わたし達は、余程でない限り、毎晩体を重ねていた。

最近は、恋人同士でも夫婦でも、セックスレスが多いという話を聞く事がある。
で、それと対極にあるようなわたし達のようなのは・・・恥ずかしいけど、「セックスフルカップル・セックスフル夫婦」って、言うらしい。

わたしがこんなに感じてしまうのは、相手が新一だから、それは間違いない事だ。
わたしが新一を、誰よりも愛しているから。
そして新一が、わたしを愛し慈しみながら抱いてくれるから。
わたしの体はどうしようもなく、淫らに乱れてしまうのだ。

「あああああん!」

わたしの胸の飾りが、新一の口に含まれて吸われ、舌で転がされるように愛撫されると、わたしは電流が走ったような快感に、高い声を上げて背中を反らし、高い声を上げた。

「蘭・・・気持ちイイか?」
「し、新一ぃ・・・お願い・・・わたし、おかしくなっちゃう」

わたしはいつも、気も狂わんばかりに感じて、身悶えする。

「まだ、もうちょっと・・・待ってろ、蘭」

新一は、わたしの両足を抱えて広げた。
わたしの秘められた場所は、既に新一を欲しがって、ヒクヒクと蠢き、蜜を滴らせている。

その場所はもう既に、数え切れないほど幾度も、新一を受け入れたし。
こうやってじっくり見られた事も、何度もあるけれど。
それでも、新一にじっと見詰められると、恥ずかしくて堪らない。


新一は、わたしの花芽や、大腿部の付け根を、周囲を舐めたり指で優しく擦ったりして、愛撫する。

「あん・・・あああああんん!」

わたしはあられもない声を上げながら、身悶えする。
快感のあまり、本当におかしくなりそうなのだ。


いつもだったら、ここら辺で、新一がわたしの中に入って来るのだけれど。
その気配がないので、わたしは目を開けて新一の顔を見た。

新一が、じっとわたしを見詰めている。
深い色の眼差しに、わたしは囚われてしまう。


「蘭。今日は、このまま挿れて、良いか?」
「え・・・?」

新一の問いの意味が分からず、わたしは訊き返した。

「中に出して、良い?」
「え・・・あ・・・」

ようやくわたしにも、意味が分かった。
新一は今迄、必ず避妊をしていたけれど。
今日は、避妊しなくて良いかどうか、聞いて来たのだ。


「し、新一は?」
「オレは・・・どちらでも、蘭の望むままに」

もう。
新一が敢えて聞いて来たって事は、新一はそれを望んでいるって事でしょう?
わたしに決定させるなんて、ずるい。

「ずるい・・・よ・・・そんなの・・・」

息が上がった中で、それだけ言ったけれど。
新一には通じたようだった。

「オレは・・・法的にも夫婦になったんだから、子供出来てもイイんじゃねえかって、思ってる。だから・・・直にオメーの中に触れたい。そして、中に・・・出したい・・・」
「じゃあ、良いよ」

わたしは、アッサリと答えた。

「蘭?」
「わたし・・・は、新一の・・・子供・・・だったら・・・今すぐでも・・・産みたい・・・から・・・」

新一が、ふうと大きく息をつき、少し微笑むと、私の足をグッと開き、そのまま押し入って来た。

「あっ・・・はっ・・・はああああああん!!」

わたしは絶叫して、新一にしがみ付く。
わたしの中に、膜越しではなく、直接新一が触れている。
それがすごく嬉しくて、いつにも増して感じてしまった。

新一が、腰を動かし始めると、また新たな刺激に、わたしは声を上げて身悶えする。


「あ・・・はん・・・んああん・・・新一ぃ・・・あんああん・・・っ!」
「蘭・・・くうっ・・・蘭、蘭!愛してる、愛してるっ!」


新一の表情と声が切なくて、わたしは快楽に身悶えしながら、それが引っ掛かった。


「しん・・・いち・・・どうして・・・?」
「・・・らん・・・?」
「わたし・・・しあわせ・・・なのに・・・しんいちは・・・ちがうの・・・?」
「蘭・・・?」
「しんいち・・・かなし・・・そう・・・」

次の瞬間、大きな快楽の波に呑まれ、わたしは言葉を出せなくなった。
新一が直にわたしの中に熱いものを放った時、わたしは背中を逸らせ、新一の背中に爪を立てて。果てた。


「あ・・・」
「蘭・・・大丈夫か・・・?」
「うん・・・」

大きな快楽の余韻の中で、わたしの全身は痺れ、動けなくなっていた。
新一が、わたしを抱き寄せて、優しく髪を撫でた。

「オレも、幸せだよ、蘭」

そう言って、新一はわたしの頬に口付けた。

「でも・・・」
「ずっとずっと・・・昔から、オメーの事が好きで・・・大切で、でも、欲しくて・・・堪らなかった・・・」
「新一?」

新一が、わたしの顔を覗き込む。
その眼差しが優しくて、わたしは頬が熱くなってしまう。

新一の胸の中は、ドキドキするけれど、安心できる場所。

「オメーを、決して疑ってる訳じゃ、ねえ。だけどオメーは、沢山の男の目を惹きつけ、欲望をかきたてる存在だから。無理にでも攫って行こうとする男が、沢山居る・・・」
「・・・・・・」
「いつでも、オメーがいつか攫われるんじゃねえかって、不安で不安で・・・仕方がない。だから・・・ごめんな・・・オメーを抱いて、とても幸せなんだけど、つい、切なくなっちまうみてえだ」
「バカね。新一、わたしは、身も心も、新一だけのものだよ。この先も、ずっと・・・」
「うん・・・」

新一は優しく微笑んで、私の唇に、新一のそれを重ねて来た。


その時、わたしはようやく、ある事に思い至った。
入籍を焦らなくたって構わないと思っていたのは、わたしだけで。
新一は本当は、早く入籍してしまいたかったのだろう。
でも、わたしが「焦らなくて良いよね?」なんて言ったものだから、新一はそれ以上何も言えなかったのだ。


わたしは新一の背中に手を回し、そっと抱き締めた。

「蘭?」
「新一。ずっと、一緒だからね?」
「ああ・・・」


今夜は、わたしが「工藤蘭」になった特別な日。
新一、わたしは今も昔もこれからも、新一だけのもの。
これからもずっと、一緒だよ。

今夜は、新一の不安が消えるまで、ずっと抱き締めて居てあげる。



FIN…….




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