私を攫って、探偵さん



byドミ



(6)未来へと続く道



永松は、新一が睨んだ通り、突付けば山のように余罪が出て来た。
蘭のように、詐欺的な手法で体の関係を強要されて泣き寝入りした女性はたくさん居た。

普通詐欺罪は立証しにくいものだが、永松の場合文書の偽造など悪質な手口を使っており、探せば証拠はいくらでもあった。
被害に遭った女性たちを証言台に立たせる事無く罪を立証できるものが充分に見つかり、永松は裁判に掛けられ、やがて獄中の人となった。



  ☆☆☆



毛利小五郎と妃英理は、自分達の娘が卑劣な手段で餌食になろうとしていた事実を後から知って、愕然とする。

「もう!あなたがしっかりしていないから、蘭がもう少しで危ないところだったのよ!」
「おい待て英理。俺が本当に借金してたんなら蘭が結婚するって言い出した動機にもすぐにピンと来てただろうが、しゃあねえだろ。嘘の借金に蘭が引っ掛かってたなんて、予測出来る訳無いだろうが!」
「だとしても、蘭をあなただけに任せては置けないわ!私、あの家に戻ります!」
「お、おう・・・」

相手を責めてののしっても、本当の修羅場にならないところが、この夫婦の不思議なところである。
喧嘩腰に始まった話が、何故か別居の解消という事で落ち着いたのであった。



蘭の危機を救ったのが、高校生名探偵であり、小五郎や英理の高校時代の学友である藤峰有希子の息子である工藤新一だったと知って、英理は喜び、小五郎は憮然となった。
娘を救ってくれた事には感謝しなければならないと思うものの、結局自分の元から攫って行ってしまう男なのかと思うと、素直になれない小五郎であった。









新一と蘭が晴れて結婚式を挙げたのは、高校卒業と同時である。

早い結婚に、小五郎は難色を示したが、結局不承不承頷くしかなかった。
工藤新一が蘭の危機を救った男と言うだけでなく、有名人であるので、むしろさっさと結婚させないとマスコミのスキャンダラスな報道の餌食になりかねなかったからだ。

新一も蘭も、宗教的な儀式は拒み、列席者の前で結婚の誓いをするという「人前(じんぜん)結婚式」を選んだ。
会場は、鈴木家のコネで豪華客船を借り切った。
マスコミは完全にシャットアウトしての結婚式・披露宴である。


式や披露宴そのものは、列席者は多いものの、アットホームな雰囲気で行われた。
新一や蘭の高校の同級生達が皆招待され、カジュアルな服装で気軽に参加した。

「このやろ、うまい事やりやがって!」
「工藤、あの時罰ゲームとしてナンパをさせた俺達に感謝しろよ!」
「そうそう、そのお陰でこんな美人をゲット出来たんだからな!」

二年生の時のクラスメート達に言われ、新一は苦笑いする。
新一は運命なんていう物は信じない性質だが、確かにあの時京極真と一緒にナンパに繰り出さなかったら、今日のこの日を迎える事は難しかったかも知れないと思う。

新一は蘭の存在を知りながら、ゆっくり構えていた。
あの時、もしもあの広場で出会わなかったら、紙一重の差で別の男に攫って行かれたかも知れないのだ。

『いや。たとえあの時に、他の男が先手を打っていたとしても、俺は必ず蘭をこの手に取り戻していた。けれど、その時はきっと・・・蘭が深く傷付いちまう事は避けられなかったろうな』

蘭は新一の隣で、最高の笑顔を見せている。
この笑顔を曇らせる事が無くて、本当に良かったと新一は思う。

運命を切り開くのは基本的には自分自身。
あの時も新一は蘭を取り戻す為にすぐに行動を起こした。
だから、蘭を手に入れたのは自分自身の力だと自負している。
けれど、それを支えてくれた周囲の人達や、偶然の幸運にも感謝したいと新一は思っていた。





「私たちは、今迄支えてくれた両親と友人たちに深い感謝を捧げます。そしてこれからは、二人力を合わせて共に歩んで行きます。未熟な私たちですが、これからもどうぞ宜しくお願いします」

皆の前で、今日ばかりは殊勝に頭を下げて、誓いを立てる。


鈴木園子が京極真と並んで目に涙を浮かべながら笑顔を見せている。

新一の両親である工藤優作・有希子が満面の笑顔で息子たちの晴れ姿を見守っている。

毛利小五郎はここに至ってもやや憮然とした顔をしているが、花嫁の父親の立場であるからには、いた仕方ないだろう。
英理は小五郎の隣で、いつにない柔らかな微笑を浮かべている。

最近、紆余曲折の末ようやく婚約にまで漕ぎ着けた高木・佐藤両刑事も、今日は駆け付けてくれていて、心からの笑顔で祝福をしていた。






友人たち、警察関係者、近しい親戚・・・多くの人達の祝福の中、新一と蘭は、未来へと続く道へ新たな一歩を踏み出して行った。






「私を攫って、探偵さん」完



++++++++++++++++++++

<後書き>

あわわわわわわ。
前にBBSにも書きましたが、もう何と言うか、書いて1年近く経った原稿を改めて読み直すと言うのはかなり勇気のいる事だと改めて思いました。
今の方が上達してるとかそんな事ではなくてですね・・・時間が経った分、冷静な目で読み返すのでとっても恥ずかしいんですよ!おまけに、文章のどこにも書いてないのですが、自分で読み返すと何故か、書いた頃の自分自身の事もありありと思い出す訳です。あ〜んな事や、こ〜んな事も(?)。
オフライン処女作なので、それなりに思い入れも深いお話なのですが。

(1)の後書きでも書いたように、元々は「新一くんが蘭ちゃんをナンパ」というシチュエーションが書きたくてでっち上げたパラレルです。
それが結局何故こんな話になってしまったのかは、我ながら謎です。
蘭ちゃんと一緒にナンパされるのはやっぱ園子ちゃんだろう、って事で、新一くんと一緒にナンパするのが真さんになり、真さんが新一くんの同級生と言うとんでもない設定になってしまいました。
原作ではまだ直接会った事のない真さんと新一くん(まあ違う姿では会ってるけどね)ですが、案外気が合うんじゃないかなあと密かに思ったりしています。
オリジナルの人物は名前を考えるのが大変で、密かに(当時の)職場の同僚の名を組み合わせて使わせて頂きました。けれど性格設定にはモデルは存在しません。

ともあれ、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。


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