私を攫って、探偵さん



byドミ



(3)何もかも忘れさせて、あなたの腕の中で



新一は米花駅で電車を下りて蘭と共に夜道を歩いていた。
歩き疲れたと言う蘭の為に、公園のベンチで一休みする。
蒸し暑い日だったが、夜の空気はやや冷えて、風は湿気を帯びていたものの心地良かった。

夜の公園はアベックが多く、あちこちで妙な雰囲気が漂っており、新一と蘭は落ち着かない気分になっていた。

新一は思い切ってそっと蘭の肩を抱き寄せてみた。
蘭は一瞬身を強張らせたが、すぐにそのまま新一の肩に頭を寄り掛からせて来た。
少し擦り寄るようなその動作に、新一の理性は簡単に吹き飛んでしまう。

蘭の頬に手を当て、じっと目を見詰める。
蘭の黒曜石の大きな瞳が潤んで新一を見詰め返す。
新一はそのまま吸い寄せられるように、蘭の唇に自分のそれを重ねていた。

新一が唇を離した時、蘭は目を閉じたまま震えていた。

「工藤くん・・・」

新一は蘭の耳元で囁く。

「新一、だよ、蘭」
「新一・・・?」
「そう」

そして再び新一は蘭に口付ける。
蘭は抗わなかった。
新一は夢中でその柔らかな感触をむさぼった。

蘭の唇の隙間をぬって新一の舌が蘭の口腔内に侵入した時も、蘭は僅かに身じろいだだけで、それを受け止める。
新一の舌は震える蘭の舌を捉えて絡みつく。

蘭の唇に触れた時から、新一の下半身は熱を帯び始めていた。
蘭をこのまま離したくない、と思う。

けれど同時に、蘭を大切にしたいと、この先もずっと付き合いたいと思っていたから、新一は今日の時点でこれ以上の関係を焦るつもりは全く無かった。

やがて名残惜しげに蘭の唇を解放した新一は、蘭を促して立ち上がらせた。

「これ以上遅くなるとまずいだろ?そろそろ帰らねーとな」

蘭は街灯の灯でも判るほどに真っ赤になって新一を見上げた。
次に蘭の口から出た言葉に新一は度肝を抜いた。

「今夜はお父さんが家に居ないの。それに、園子の家に泊まるって言って出て来たし。私、私・・・今夜はあなたと一緒に・・・!」

そう言って新一にすがり付いてきた蘭を抱き留めながら、新一の頭の中は暫らく真っ白になっていた。

「あのさ・・・蘭。今夜は・・・その・・・帰った方が良い」

新一は口の中がカラカラに乾いて掠れた声で、ようやくそれだけ言った。
蘭は目に一杯の涙を溜めて恨みがましく新一を見た。

「ねえ。私ってそんなに魅力無い?私相手じゃその気になれない?」
「バーロッ!んな訳ねーだろっ!」

怒鳴ってしまってから新一は後悔し、俯いてしまった蘭の肩に手を掛けて慌てて言う。

「ご、ごめん、怒鳴って悪かった。けどよ・・・さっきみたいなキスをしといて、俺にその気がねーなんて事、ある訳ねーだろ。はっきり言ってしまえば、俺、蘭とそうなりてーって、すっげー思ってる!」

蘭が顔を上げ、驚いたように新一を見た。

「けどよ・・・それ以上に、蘭、おめーを大切にしたい。この先ずっとおめーと付き合って行きたいって、思ってっからよ・・・だから、急ぎたくねーし、俺の欲望でおめーを汚したくねーんだ」

蘭は涙を溜めた目で、しかし幸せそうに微笑んで言った。

「新一。ありがとう、そんな風に思ってくれて。でも、だったら、尚の事・・・お願い・・・。私、私・・・。忌まわしい事を、何もかもを、あなたの腕の中で忘れさせて欲しいの・・・」



  ☆☆☆



「ここが新一の家?私の家から近いのね。それに、すごくおっきい・・・こんな所に一人で暮らしてるの?」
「ああ。道楽もんの両親が俺一人を置いてさっさと外国に行ってしまったからな」

工藤邸は、米花町二丁目にある馬鹿でかい古い洋館だった。
表は幽霊屋敷のような風情だが、玄関を入ると中は比較的綺麗に保たれている。

蘭は懐かしそうに目を細めて屋敷内を見回した。

「何でだろう?ここって、何だか懐かしい・・・」
「ああ・・・蘭が昔ここに来た事があるからだろ?」
「え!?」

蘭は驚いたように目を見開いた。

「新一、昔って・・・!」
「あれは確か小学校に上がったばかりの頃だから・・・十年前かな?母さんの高校時代の友人だって言う弁護士の妃英理さんと、その頃は警察官だった毛利小五郎さんに連れられて、蘭が家に来たのは・・・」

そんな事があったのかと蘭は驚く。
何しろ十年も昔の子供だった頃の事、蘭の記憶には残っていなかった。


ふいに新一が蘭を横抱きに抱えあげ、階段を上り始めた。
蘭は真っ赤になる。

「新一・・・!」

新一が優しいキスを蘭の唇に落とす。

「上の俺の部屋で。良いだろ?」

蘭はコクンと頷き、新一にすがり付いた。



二階の部屋のドアを開け、新一はベッドの上にそっと蘭を降ろした。
新一が子供の頃から使っている寝室である。

「蘭。この部屋で、昔おめーは将来俺のお嫁さんになるって誓って、俺からのキスを受けたんだ。あれが、俺にとってのファーストキス・・・蘭も、だろ?」
「あ・・・思い出したわ。お母さんの友達のお家っていう大きなお屋敷に行って、そこの男の子とまま事みたいに将来を誓った・・・私あれ、あんまり現実離れした情景だったから、夢かとばかり思って・・・今迄忘れてたのよね・・・」

新一は蘭を抱き締めて口付け、耳元で囁く。

「俺は・・・おめーを忘れた事無かった。あの頃と変わらない。おめーの事ずっと・・・想ってた・・・」
「ねえ、新一は、あの広場で出会ったとき、すぐに私がその女の子だって判ったの?」
「その前から。去年、京極の空手の試合を見に行った時さ、女子の試合の中で一目でおめーを見つけた。だからいつかお近付きになろうってチャンスは狙ってたんだけどさ、まさかあそこで会えるとは思って無かった」
「私・・・新一があの時の男の子だって事は判ってなかったけど・・・高校生探偵として活躍してるあなたの姿に憧れていたし、いつも空手の試合の時、応援席に居るあなたの姿は見かけてた。探偵の時の顔と違う普通の高校生の顔してるあなたを・・・私、どっちの姿も・・・とっても好きだよ・・・」

蘭が顔を真っ赤にして告白する。
新一は微笑み、再び蘭を抱き締めて口付けた。




新一の手が蘭の身に付けている物を一枚ずつ取り去っていく。

目を射るような肌の白さ。

蘭の胸を覆っていた下着を取り去ると、想像以上に大きな盛り上がりが現れる。
柔らかそうだが弾力があり、横たわって下着を外しても横に流れる事無く綺麗な形を保っている。

「蘭、綺麗だ・・・」

新一が感嘆の溜息を吐いて言った。
胸の隆起の頂に、薄紅に染まった果実があり、新一はそれを口に含んで舌先で転がす。

「ああああああん」

蘭の口から嬌声が漏れ、次いで蘭は自分が出した声が恥ずかしかったのか、必死で唇を噛み締めていた。感じやすいようだな、と新一は思ったが、それを口には出さない。

『忌まわしい事を忘れさせて欲しい』

そう蘭は言った。
下手な事を口に出すと、蘭の心を抉る怖れがある。

忌まわしい事というのは、おそらく過去、蘭を汚した男が居るのだろうと新一は解釈していた。
たとえ蘭にどんな過去があろうとも、自分の気持ちはいささかも変わらないし、全てを受け入れる心算で居るし、大切にして行きたいと思っている。

もし蘭が過去誰かを愛し愛されたと言うのなら、やはりどこかで嫉妬はしてしまっただろうと思う。
けれど、蘭が過去誰かに汚され傷つけられたと言うのなら・・・嫉妬は微塵も感じないが、その見も知らぬ男に対し、殺しても飽き足りないだろう程の憎悪を覚える。

『殺人者の気持ちだけは判らないと思っていたけど、愛する者の為には人を殺したい程憎んでしまう事があるんだな・・・』

けれど、蘭は新一の腕の中で忌まわしい事を何もかも忘れたいと言った。
その事はとても嬉しいし、新一は全身全霊をかけて蘭を愛し、蘭を全て包み込みたいと思った。

『忘れさせる。何もかも。俺の事だけを感じて考えるように』

新一の手と唇は、優しく隈なく蘭の肌をたどって行く。
蘭を覆う最後の布が取り去られ、新一の指が蘭の繁みの奥に届いた。

「あ・・・あっ・・・しん・・・いち・・・」

蘭が途切れ途切れに新一の名を呼ぶ。

「蘭。愛してるよ」

新一は優しく言って、蘭の足を大きく広げ、その奥にある美しく妖しく輝く真紅の花を見た。
そこはもう、新一を受け入れるのに充分な程に潤っているようだった。

『でも、蘭の恐怖感を充分取り除いてやんねーとな。事を急いで苦痛を与えたくはねーし』

どうしたってまだ慣れない行為に多少の苦痛は伴うだろうが、出来る限りそれを少なくしたいと新一は考えていた。
蘭のそこに口を当て、舌先で愛撫をする。

「あ・・・新一っ、や・・・そんな・・・とこ・・・」

蘭が身を捩じらせる。
けれどやがて再び蘭の口から喘ぎ声が漏れだす。
頃合と見て、新一は蘭の中に指を入れてみた。
入り口が狭く、内部もきつく締め付けてくる。

「くっっ・・・あつうっ・・・」

蘭の口から今度は苦痛の呻き声が漏れる。

『まだキツイか・・・けど蘭、おめーの痛みは俺が必ず全て取り除いてやっから・・・』

少しずつ蘭が慣れて行く様子を見ながら、新一は蘭の中に入れる指の数を増やしていく。

「はっあっ・・・・あああああああっ・・・はああっ」

蘭が体を仰け反らせ手足を突っ張らせて叫び、次いで全身が弛緩してぐったりとなる。
初めて絶頂に達したようだった。

新一は、両親の寝室で見つけておいた物を自身に嵌めようとしていた。
直に蘭の内部を感じたいのは山々だが、これからの事を考えれば、蘭を傷つけかねない事は出来ない。

「新一・・・?」

放心していた蘭が声を掛けてきた。

「新一、お願い。そんなもの、嵌めないで・・・」

蘭の言葉に新一は驚く。

「だ、だけど蘭・・・」
「今日は安全日だから・・・それに、直にあなたを感じたいの・・・」

新一は「安全日」等と言うものがいかに当てに出来ないのか、知識としては知っていた。
けれど、蘭の必死な様子に流されてしまう。
それに、おそらく蘭の傷を癒すのには必要な事なのだろうと言う気がしていた。

いざという時は・・・責任を取れるのは出産後になってしまうが、新一はそこまでの覚悟を固めて蘭を抱き締める。

蘭の足の間に自分の体を入れ、蘭の中に入りたくてそそり立っていた自身を、蘭の入り口にあてがう。
蘭の体がピクンと動いた。

「蘭、行くぞ」

蘭は目を閉じ、無言で頷いた。

新一は少しずつ蘭の中に入り込んで行く。
蘭の内部は熱く、きつく新一自身を締め付けて来て、新一はそれだけでイキそうになる。

「あう・・・くっっ・・・」

新一は天にも昇るほどの気持ち良さを感じているが、蘭はやはりまだ苦痛らしく、顔を歪め、呻き声を上げた。
新一は出来るだけ蘭に快感を与え苦痛を取り除こうと、蘭に深く口付けながら胸の頂に色付くものを指で擦る。
やがて蘭のそこが少し緩み、新一は自身を全て蘭の中に埋め込んだ。

蘭が落ち着くのを待って新一は少しずつ腰を動かし始める。

「あっ・・・新一・・・あああん」

やがて蘭の口からは苦痛の呻き声と違う歓びの声が漏れ始め、その瞳に快楽の色が浮かぶ。

「蘭、蘭、蘭・・・っ!」

蘭の変化を見て取り、新一の心は高揚する。
何度も蘭の名を呼びながら、段々と新一の動きが激しくなり、何度も蘭の奥深くを突く。

「あああああん、新一っ、あっはっ・・・あああああああああっ」

やがて蘭が体を仰け反らせ手足は新一にしがみ付きながら絶頂の歓喜の声を上げた。
それと同時に、新一は蘭の中に熱いものを放った。





「蘭・・・まさか・・・」

事が終わって、新一は蘭を抱き締めながら暫らく横になっていたが、やがてシーツの上に紛れも無い蘭の処女喪失の印を見て言葉を失う。

「新一・・・?」
「蘭・・・初めてだったのか・・・?」

蘭の目に怒りと悲しみの色が浮かび、涙が盛り上がる。

「新一、ひどい!私、キスもこんな事も、今日が初めてだったのに!」
「い、いや・・・おめーが『忌まわしい事を忘れたい』なんて言うから、てっきり辛い体験があったのかと・・・でも俺、蘭の過去がどうであれ、大切だって事には変わりねーんだ!」

蘭は少し悲しげに目を伏せた。

「新一、そんな風に思ってくれて、とても嬉しい。でも、あのね・・・私が言った『忘れさせて欲しい忌まわしい事』って、過去の事じゃなくて、未来の事、なの」
「未来の事?」

次に蘭が言った言葉は、文字通り新一の心を貫くものだった。

「私ね。結婚するの」



(4)に続く



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(3)の後書き

最後の蘭ちゃんの台詞を除けば、ほぼ皆様の予想通りの内容だったのではないでしょうか。
次回で、蘭ちゃん園子ちゃんが思い詰めた事情が明らかになります。

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