私を攫って、探偵さん




byドミ



(2)友と同じ痛みを



京極真は焦っていた。
このまま園子と別れたくない、最低でも連絡先を聞いてせめて「友達付き合い」は始めたい、そう思っているのだが、切り出す切っ掛けが掴めない。
何と言っていいか判らず黙って歩いていると、人気のない裏通りで突然園子が立ち止まって溜息を吐いた。

「ど、どうなさったのですか、鈴木さん」
「・・・ごめんね、京極さん。あなたも蘭狙いだったんでしょ?でもね、蘭は実は工藤くんに昔から憧れてたから・・・だから・・・」

真は目が点になった。
はっきり言って真には、蘭に対しては、空手選手である事と園子の友人であるという事位の認識しかなかったのである。

「あ、あの・・・鈴木さん。誤解しないで頂きたいのですが。私は毛利さんよりも、あなたの方が・・・」
「いいわよ、慰めてくれなくても。だって私達二人に声掛ける人って、例外なく蘭狙いなんだもん。まあ、仕方ないって思ってる、蘭は女の私の目から見ても可愛いし、性格良いし、とっても良い子だもの。蘭には、絶対幸せになって欲しいのに・・・」
「大切なお友達なのですね」
「うん!大親友よ!」
「素直にそういう風に言うあなたも、とても素敵な女性だと私は思いますよ」
「え?からかわないでよ・・・」
「からかってなどいません、私は本気です」

園子は驚いたように真を見上げた。
その仕草が可愛くて、真は思わずごく自然に園子を抱き締める。
園子は驚いたように一瞬身を強張らせたが、すぐに力を抜いて真に身をあずけた。

「鈴木さん。私は以前からあなたの事を知っていたのです」
「えっ?」
「毛利さんは空手の選手でしかも強い方だから、知っていました。男女の違いはあっても、試合会場では姿を見掛けますしね。あなたは空手の試合がある時、いつも毛利さんの応援に来ていたでしょう?その一生懸命応援する姿を、私はいつも好ましく思って見ていたのですよ。いつも、素敵な女性だなと思っていました」
「京極さん・・・私も、試合会場であなたの姿見かけてたわ。『蹴撃の貴公子』の事は、蘭から教えてもらってた。でも、あなたは遠い世界の人だって思ってたよ」

真は園子の体をちょっと離すと、じっと顔を見詰め、そして唇を重ねた。
園子は逆らわずそれを受け入れる。
初めて触れる柔らかい感触に、真の理性は消し飛んで行く。
真は夢中で園子の唇を求めた。

「あまり遅くなるとまずいでしょう。そろそろ帰りましょうか」

真は名残惜しげに園子の唇を開放するとそう言った。
けれど、園子が思いも掛けない爆弾発言をした為に、真はかたまる。

「あのね・・・今日は、私、家には帰らないの。今夜はずっと一晩、あなたと一緒に・・・」
「すすすすす鈴木さんっ!」

真は真っ赤になって怒鳴る。

「今日会ったばかりでいきなりそれは・・・!それに、お家に帰らなければ、ご家族が心配なさるでしょう?」
「家の人にはね、今日私は蘭と小旅行に行ってる事になってるから・・・だから・・・お願い・・・」
「でもやはり・・・」
「・・・京極さん。私って、そんなに魅力ない?私相手じゃその気が起きないの?」
「な、何を言うんです!」

園子が顔を俯かせて震える声で言い、真は慌てて力いっぱい否定した。

「私はただ・・・あなたとの関係をこれからも大切に育てて行きたくて・・・性急に事を運びたくないだけです。あなたが大切だから」

真としては誠意を尽して言った積もりだったのだが、園子が目に涙を一杯に溜めて、恨めし気に真を見上げた為、真はたじろいだ。

「だって・・・今夜じゃなきゃ、駄目なんだもの。蘭と約束したんだもの!」
「約束?」
「私・・・蘭の親友なのに、あの子を救ってあげられない!何の助けにもなれない!だから、だから・・・せめて同じ時に同じ痛みを分かち合いたいの!だから、約束したんだもん。今夜一緒に・・・同じ時に、ロストバージンしようねって・・・!」



  ☆☆☆



「んんっ、あっ・・・!うっくっ・・・!」

真の腕の中で、園子が苦痛の呻き声をあげる。
つい先程まで園子は真の愛撫によって喘ぎ声を上げていた。
けれど今、真自身が園子の中に入って行き始めてから、園子の顔は歪み、声は呻き声と小さな悲鳴を繰り返している。
やはり初めて男性を受け入れるのにかなり大きな苦痛を伴う様であった。

真の方は、文字通り「天にも昇る心地良さ」を味わっているのだが、同時に園子の様子を見て、罪悪感も覚えていた。

「園子さん・・・」
「うっああっ・・・真・・・さん・・・」

苦痛に顔を歪めながらも、必死で真にすがり付いてくる園子が、愛おしくて堪らない。
真は自身を全部園子の中に納めると、園子が落ち着くまで動きを止めてじっと待った。

「園子さん、動きますよ」

園子が無言のまま頷いたのを見て取ると、真は腰を動かし始めた。
初めての園子を気遣ってゆっくり優しくする積もりだったが、真自身にも初めての事だったため、思うように加減が出来ず、すぐに激しい動きになってしまう。

「園子さん、園子さん・・・!愛してる!」
「あ・・・はあっ・・・真さん・・・!」

やがて、園子の顔に苦痛以外の色が混じり始め、二人共に上り詰め、真は園子の中に自身の思いの丈を放った。



  ☆☆☆



「園子さん・・・!あの・・・大丈夫でしょうか。私はあなたの中でその・・・出してしまいましたが・・・」

真と園子は暫らく無言で軽く抱き合ったままベッドに横になっていたが、ややあって、真が心配そうに園子に言った。
園子は微笑んで答える。

「多分、この前生理が終わった時期から考えると大丈夫だと思うけど。なあに、真さん、もしもの時は責任取ってくれるわけ?」
「それは・・・構いませんけど、私が十八歳になるまで一年近くは待って頂かないと・・・出産には間に合いませんね・・・」

園子は目を丸くして、次いで笑い出す。

「真さんって、真面目なんだ」
「園子さん、そうじゃなくって・・・あなたが大切なんです」

真は真面目な顔をして園子を強く抱き締め締め、口付ける。

「これであなたは私のものだ。誰にも渡さない」
「真さん?」
「園子さん、愛してます」

園子を抱き締める真の腕に、更に力が篭る。

「あなたは、毛利さんと同じ痛みを分かち合う為に、同じ日にロストバージンを・・・と言いましたね。正直、そういった女の方の友情のあり方は、私にはよく判りません。けれど、あなたがそこまでの思いを、愛情を、毛利さんに注いでいる、という事実に、私は・・・嫉妬を覚えずには居られなかった」

真の言葉に、園子は目を丸くする。

「あなたを初めてこの腕に抱いたのは紛れも無く私だというのに、あなたがその痛みを甘受する気になったのは、私の為ではなく、毛利さんの為だと思うと・・・それがあくまで友情だという事は判るのですが、正直口惜しいです」
「真さん。勘違いしないで。誰でも良かった訳じゃないの。お互いに、その気になれる相手と出会ったら、っていう条件付だったの。でも、あの時あなたと工藤くんが来てくれて・・・私も蘭も、密かに憧れていた相手だったから、本当に、運命を感じたのよ。相手があなただったから、だから私は・・・」
「園子さん!」
「あなたの腕の中で、私は正直、蘭の事、忘れてた・・・。あなたの事だけ、考えてた」
「園子さん・・・っ!」


その後の二人には言葉は要らなかった。
ただお互いの肌の温もりと存在感を確かめながら、長くて短い夜を過ごしたのであった。



(3)に続く



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(2)の後書き

この第2部は完全に真園。
新蘭は出番すらありません。ちと園蘭風味もあるかなと自分で書いてて思いました。

しかもいきなりの急展開!ふふふ、裏ですからね。

次は新蘭です。果たして蘭ちゃんの誘惑(?)は成功するのでしょうか。(←って、ちょっと違う?)


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