オレは旅をしている

どちらが真実の道か分からない
曲がりくねり枝分かれした道を
迷いながら進む

けれどきっと
この旅の終わりには
君が待っている



心の旅路



byドミ



プロローグ・結婚式前夜



「蘭。何を見ている?」
「町の灯りを…あのたくさんの灯りのそれぞれに、人々が居て…大勢の人達が、それぞれの人生を懸命に生きているんだなあと思ったら、何だか不思議な感じがしたの」
「蘭……」

 新一と蘭は寄り添い合って、窓の外を見つめた。はめ殺しの強化ガラスの窓は、足元まで広がっている為、窓に寄ると空中に浮かんでいるかのような錯覚に陥る。
 二人はシャワーを浴び終わり、それぞれバスローブだけを身にまとった状態だった。

 工藤新一と毛利蘭は、数日前帝丹高校を卒業し、今こうしてニューヨークに来ていた。ここで、二日後に結婚式を執り行う予定なのである。

 色々とあったけれど、二人は自分の意志を貫き、未成年ではあったが親の同意を得て、高校卒業と同時に結婚する事になった。大学は二人ともアメリカの大学に進学予定である。
日本を発つ前に二人は書類上の手続きを全て済ませており、法的には既に正式な夫婦となっていた。もう既に体の関係がある二人ではあったが、今夜は二人にとって「夫婦になって初めての夜」であった。

「オレに取っては……広い世界の多くの人達の中で、蘭と出会えた事が……奇跡のような幸福だと思ってる……」

 新一は後ろから蘭を抱きしめ、顎に手をかけ振り向かせると、そっと唇を重ねた。

「んっ……」

 蘭の甘い声は、新一の理性を簡単に突き破る。新一は掌を蘭の胸元に差し入れ、揉みしだきながら蘭のバスローブを脱がせて行った。
 全身から力が抜け、全裸になった蘭の体を、そっと寝台に横たえる。新一はそのまま、蘭のあらわになった体をじっと見詰めた。蘭は目を閉じ、じっとしていたが、新一の視線を痛いほどに感じているのだろう。肌がほのかに色付き、僅かに震えていた。

「蘭……綺麗だ……」

 いつも憎まれ口を叩き合う二人だったのに、こうして肌を重ね合わせる時には素直に言葉が出る。

「愛してる。ぜってーオメーを離さねえからな……」

 そう言いながら新一は、自身もバスローブを脱ぎ、蘭に覆いかぶさって行った。

「新一……私も……離れないから……離さないで」

 新一が蘭の胸の赤く色付いた果実を激しく吸う。蘭は背をそらせて甲高い嬌声を上げる。
 新一が蘭の色付いた肌を指で唇で辿って行く。蘭は身悶えし、無意識の内に自ら足を広げて行く。その奥に見える赤い花からは芳香が立ち上り、蜜を滴らせて妖しく光っていた。
 新一が怒張した自身を蘭の秘められた花にあてがい、一気に差し入れると、蘭のそこは音を立てて新一のものを飲み込んで行った。
 響くのは、二人の激しい喘ぎと息遣い、甲高い嬌声。ベッドが激しく軋む音、粘着性の水音。

 二人激しく、お互いを貪る様に求め合う。

「し……しんいち……あっ……はあ、ああっ……んあああああっ!」
「蘭……くっ……はあっ!」

 二人は同時に上り詰め、汗だくになりながら脱力して倒れ込んだ。

 やがて二人の息遣いが落ち着き、新一は今までの激しさが嘘のように優しい微笑を見せて蘭を抱き寄せた。髪を撫でながら、その頬に軽いキスを落とす。蘭も微笑んで新一を見詰め、擦り寄った。

「蘭……愛してるよ……」
「新一……私もよ……」
「ずっとずっと……ガキの頃からオメーが好きだった……やっと手に入れた……」
「新一……」
「蘭。何でだろうな?こうやってオメーを抱いても抱いても、足りねえ。オメーが欲しいという気持ちがもっと強くなる。オメーが愛しいって気持ちが溢れて……止まんねえよ……」
「新一……嬉しい。もっと私を求めて。私、新一の腕の中で溺れ死ぬなら本望だから」
「バーロ。誰が死なせっかよ」

 二人、もし傍で聞く者が居たら砂を吐きまくりだろう言葉を、お互いてらいもなく口にしていた。この後二人を襲う出来事を、欠片も予感しないままに……。

「蘭……」
「新一……あっ……」

 若い二人の欲望は、果てを知らない。
 二人は再びお互いを求めて、快楽の海に溺れて行った。


   ☆☆☆


 夜半。

 新一と蘭は何度もお互いを求めた果てに、心地よく深い眠りに身を委ねていた。しかし、何かの気配を感じて新一はガバッと飛び起きた。首の後ろがチリチリする感覚に、考えるより先に動いた。

「起きろ、蘭!」

 新一は蘭を強く揺さぶり、軽く頬を叩く。寝付きの良い蘭だが、流石に目が覚め、目をこする。

「何……?新一……まだ真っ暗……」
「すぐに服を着ろ、蘭。多分何か……やべえ」
「え……!?」

 新一の真剣な声に蘭は完全に目を覚ました。
 二人手早く服を身につけ、貴重品を持つ。

 二人はそっと廊下に出た。空手をやっていて気配に敏感な蘭も、確かに何か嫌な気配を感じて肌が粟立つ。

「何かしら……?」
 息を潜めながら蘭が言った。
「分かんねえが……ん?」

 かすかな振動を感じ、窓の外に赤く禍々しい光が見えた。蘭は息を呑む。

「新一……!!」
「このホテルに、爆弾が仕掛けられた……!!」

 新一は蘭の手を引いて駆け出した。
 やがて、第二、第三の爆発が起こる。流石に宿泊客達が悲鳴を上げて部屋から飛び出し始めた。

「落ち着いて!避難路はこちらです!」
 新一と蘭は、部屋から飛び出したもののウロウロしている人達に声をかけ、誘導し始める。何度も修羅場を経験した二人なので、このような時沈着冷静に動けるのだ。

「エレベーターは避けた方が良いのかな!?」
「こういう高層ビルで、階段だけで逃げるのは現実的とは言えねえ。止まるまではエレベーターを使って、後は駆け下りるように切り替えた方が早い!」

 二人は、全員を自分達の手で誘導するのは無理だと分かっていたが、少しでも多くの人を救いたいと、ギリギリまで踏ん張りつつ、自分達も少しずつ出口に近付く。

 一階まで降りて来た時には、逃げ惑う宿泊客でごった返し、消防車のサイレンが聞こえていた。出口に向かった時、まだ二、三才の子が親とはぐれたのかうずくまって泣いているのに気付いた。
 蘭が思わず子供に駆け寄ろうとした時、再び爆発が襲って立っていられなくなる。蘭が気付いた時、新一がその子供のところに居て抱き上げていた。
 蘭がホッとしたのも束の間、新一と蘭の間にあった非常用防災シャッターがすごいスピードで降り始めた。

 新一は間に合わないと見て取ると、素早く子供を蘭の方に放りやった。蘭が無事子供をキャッチするのと同時に、シャッターが閉まる。

「新一、新一!!」

 蘭はシャッターをガンガンと叩いた。こんな所で新一と隔てられるのは絶対嫌だった。

「蘭!行け!オレは大丈夫だからっ!」
「嫌、嫌!新一と一緒じゃなきゃ、いや〜〜〜〜っ!!」
 蘭が泣き叫ぶ。新一も怒鳴る。
「バーロ!オメーが無事でなきゃ、オレは生き延びられねえんだ!オメーが無事だったらオレはぜってー帰ってくる!」
「新一……!」
「だから行け!!蘭!!ぜってー無事帰ってくっから、ぜってーまた会えっから!だから、生き延びて、待ってろ!」
「し、新一〜〜〜っ!!」

 そして天井が崩れ落ちてくる。それが新一の覚えている最後の光景だった。



to be continued…




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