Sweet Pain




byドミ



(20)1年の夏休み



夏休み。

今までだったら、部活の合宿以外の時は、お父さん宅とお母さん宅にそれぞれ帰っていたんだけど……。
たぶん、どっちの家にいる間も、新一とは、あんまり会えなくなりそうだ。

寮が閉鎖しないなら、いっそ寮に残るって手もあるんだけど、夏季休暇は基本、寮は閉鎖になる。
部活の合宿には、合宿用の宿泊棟が別にあるのだ。

できれば、ずっと、新一の寮にいたいけど……でも、難しいだろうな。
夏休み期間寮が閉鎖になるって知ってるお父さんお母さんへの言い訳も考え付かないし。

本当だったら楽しい筈の夏休みだけど、わたしにとっては、新一と会えない期間が長くなりそうで、全然楽しみじゃなかった。


園子も、付き合い始めたばかりの「京極先生」と、夏休みに一緒に過ごす時間をどうやって捻出しようか、考え込んでいる風だった。


結局、園子と口裏を合わせ。
表向きは、園子と旅行とか園子と泊りがけで遊ぶとかで、夏休みの予定がいっぱいになってしまった。


「オメー達、寮も同じ部屋で学校では嫌でも顔を合わせるんだから、そんなに2人で遊び回らなくても良いんじゃねえか?」

お父さんにはそう呆れられた。

「だって!お父さんもお母さんも仕事で忙しいんだし、家にいたって退屈するだけじゃない!わたしは受験の予定もないし!」

わたしはその時すでに、大学は外部受験をしようって決めていたのだけれど、お父さんに対してはあくまでも内部進学予定で押し通した。

「そういえば、あの探偵坊主は……」
「探偵坊主って、工藤先生のこと?」
「ああまあ……」
「工藤先生がどうかしたの?」
「や、別にどうもしねえけどよ……」

お父さん相手に、堂々と、そ知らぬふりができるようになるなんて。
恋って、恐ろしい。

でも、今はまだ、お父さんに何も言えない。
ヘタなことを言うと、転校させられそうな気がするし。

法的に、満18歳までは、親の責任と権利が強い。
お父さんもお母さんも、新一とのことを知ると、別れさせようとすると思う。
先生と別れさせられるのは、絶対に嫌。

だから……お父さんとお母さんには申し訳ないけど、今はまだ、新一との仲を知られるわけには、いかない。



   ☆☆☆



夏休みの最初は、空手部合宿から始まった。

大会が終わって3年の先輩は引退し、2年の塚本数美先輩が新主将になっての出発だ。
2年の先輩たちは全員レギュラーとなり、1年からは私ともう1人がレギュラー入りした。

「毛利」
「はい、主将」
「毛利は、先の大会で2年を抑えてレギュラー入りした。大会ではこの帝丹高校1の実力を見せつけたし、誰も不満には思ってない。この先も精進しなよ」
「はい!」

塚本主将は、さっぱりした性格だけど、結構細かな気遣いもしてくれる。
今年結構いい結果を出したからって慢心したら、皆の不満が出るだろうことが分かってて、忠告してくれてるんだ。

湯川事件の時は、塚本先輩が忠告してくれたから、わたしは助かったんだし。
いい先輩に恵まれているなって思う。

合宿が終わると、部活ともしばらくお別れ。
合宿の間は、新一との連絡も最低限にとどめ、つとめて空手のことだけに集中した。


合宿最終日。

「お疲れ様でした!」

挨拶をして、着替えて合宿所を出た。

「毛利?今回、お迎えはないの?」
「あ、はい。バスで帰ります」
「そうか。気をつけなよ」
「はい」

お父さんとお母さんが忙しいのも本当だけど。
わたしが迎えを頼まなかった本当のワケは、合宿の日程を1日誤魔化しているからだ。

ただ、帝丹学園では、長期休暇前後の生徒の出入りについては、きっちり記録されているから、今夜、先生の宿舎に泊まって明日帰るという訳にも、行かない。
ちゃんと門を通って出て行かなければならない。

学園前のロータリーのところに出て、新一の車を待った。
新一は、明日、休暇を取っている。

生徒が夏休みだからって、職員がずっと夏休みなわけではないけど、他の時期より比較的休みは取りやすいそうだ。
そのままわたしは、工藤邸に連れて行かれた。

わたしの誕生日の夜、新一に初めて抱かれた工藤邸に到着して、わたしの胸はドキドキとなる。
ガレージについて車から降りると、あの時のように新一に抱え上げられた。

「し、新一!?」
「ごめん。あまり余裕ねえ」

そのまま寝室に連れ込まれる。

「ま、待って新一!合宿で汗かいてるし……」
「ごめん。待てない」
「だって!」
「どうせまた、汗かくんだから」
「そ、そんな……ああっ!」

わたしの服は、あっという間にはぎ取られる。
久しぶりの肌の触れ合いに、わたしもすぐに溺れて行った。

胸をわしづかみにされ、胸の頂を新一が口に含み、強く吸われる。
痛みと快感がともに押し寄せる。

「あああっ!」

新一が全身に口付けの雨を降らせる。
今日は今までにない……時折ちりっと痛みを感じる感覚があった。

新一がわたしの大事なところに触れる。

「すげ。もう、びしょびしょ」
「あ……や……言わないでよぉ……」
「どうせ汗と体液にまみれるんだから、シャワーなんて後で良かっただろ」
「い、意地悪!」

新一がもどかしそうにそそり立った新一のものに避妊具を装着すると、わたしの足を大きく広げ、ぐっと押し入ってきた。

「あ……あああん!」
「はあ……すげー締まり……気持ちイイ……」
「ああ……新一……すごい……んああっ!」

体を重ね始めて、2か月ちょっとなのに。
わたしの体はすっかり新一に馴染んで、快楽の波が何度も押し寄せるようになっていた。

新一が激しく動いて、わたしの口からは高い声が上がり続ける。

わたしがのけぞって果てるのと同時に、新一のものが脈動した。
ややあって、新一はわたしから出ると、避妊具を手早く処理し……また新たな避妊具を装着していた。

「えっ?新一!?」
「本当は、抜かずの2回戦と行てえとこだけど、避妊効果がなくなっちまうからな」
「あうっ!」

新たな避妊具を装着し終えると、新一はすぐさまわたしの中に入って来た。
イッタばかりのそこに、また入れられるのは、結構きつかったけど。
新一がゆるゆると腰を動かしている内に、また快楽の波が押し寄せ始める。

わたしはまた、あられもない声を上げ始めた。



   ☆☆☆



目が覚めた。
あそこがジンジンしている。

ベッドのわきには、新一の体液がおさまったゴム製品が、いくつも転がっていた。

数日ぶりとはいえ……片手の指じゃ足りないくらいの回数、抱かれた。
新一に抱かれるのは嬉しいし幸せだけど、体が壊れるんじゃないかって思った。

その挙句、気を失うように眠りについたみたい。

今は、新一にしっかり抱きこまれて横になっている。


起き上がろうと少し体をずらすと、新一は眠っている様子なのに、腕がきゅっとわたしを拘束し、離してくれない。
もぞもぞしていると、新一の目がバチッと開いた。

「蘭。どこ行くんだよ?」
「え、えっと……シャワー浴びなきゃ」
「じゃ、一緒に風呂に入ろう」
「ええっ!?や、やだッ!!」
「何で!?」
「だって……色々悪さされて、ゆっくりお湯につかれないもん」
「さすがにこれ以上悪さする体力はねえよ……」

そう言って新一が体を起こし。
わたしは……変な言い方だけど、初めて、そそり立っていない新一のものを目にした。

「風呂。準備してくるから、待ってな」
「う、うん……」

新一が立って部屋から出て行く後姿を、じっと見送った。

今更だけど。
新一はやっぱり男の人で。
女の体とは、ずいぶん違う。
程よく筋肉がついた、固く引き締まった体をしている。

新一は男の人で、わたしは女で。
抱かれるようになってから、それを強く感じるようになった。



そして、お風呂に入る。

で、やっぱり、新一の手は、わたしの弱いところをまさぐってくる。

「あ……ああ……新一……だ、だめえ……!」
「へえ。蘭、ここ、感じるんだ?」
「やあっ!」

つい先ほどまで、散々感じまくって疲れているのに、新一に触れられると、また感じちゃって、嫌じゃないけど、体がどうにかなってしまいそう。

わたしは、背後から抱きこまれて、新一の手がわたしの胸や下腹部を這い回っているのだけれど。
不意に、お尻の上の辺りがもぞもぞして、固い何かが当たり始めた。

「え……?し、新一……?」
「あー。もう、使い切ったと思ってたけど、また元気になって来たみてえだな。風呂上りにもう1回戦くらいできそうだ」
「え!?ええっ!ウソ!」
「心配しなくても、すぐにはしねえよ。まだご飯も食べてねえしな」

何とかお風呂から上がって……体はもうフラフラで。
ご飯を作りたいなと思っていたけど、もう作る気力も体力も残ってなくて。

すると新一がレトルトのご飯を用意していて、何とかそれで済ませた。


ご飯が済んでお茶を飲んで。
もう夜中だなあと思いつつ、寝室に行ってもきっと眠らせてもらえないだろうと予想していたけど、案の定。

「し、新一ぃ。まだ、やるのお?」
「ごめん。オレにも止められない」
「えええっ!?」

そのまま、3回位、やって。
さすがにその後は、記憶にない。


次に目が覚めた時は、もうすっかり明るかった。
あそこはヒリヒリするし、体の節々が痛む。
でも、新一に抱きしめられて眠っていたこの状態が、幸せと思ってしまうわたしも、結構重症なんだろうなあ。

「おはよう、蘭」
「お、おはよう……って、もうおはようの時間じゃないけど」
「ああ、そうだな……」

新一にぎゅっと抱きしめられ、唇が重なる。

「あー。早く一緒に暮らしてぇ。そしたら毎晩、思う存分、蘭を抱けるのに……」
「し、新一……でも、毎晩これじゃ、わたし、体がもたないよ……」
「いや、多分、一緒に暮らしたら、さすがに落ち着くと思う」
「そうかなー」
「オレの体力もさすがに無限じゃねえし。それに、多分……一緒に暮らしたら、蘭に飢えるってことも、ねえだろうし」
「わ、わたしに飢えるって……」

あ。でも、何となく、分かるかも。
わたしもずっと、新一に飢えていたから……。

「蘭」
「ん?」
「高校卒業したら、おっちゃんたちから結婚の許可もらえなくても、一緒に暮らそう」
「うん……」

新一は、エンゲージリングとマリッジリングをはめたわたしの左手薬指に口付けた。
新一がひとことも「結婚しよう」って言わないのは、新一の中では、わたしたちはもう夫婦だって認識だからなんだろうな。


新一に抱きしめられて、唇が重ねられ、舌が絡まり合う。

「蘭……」
「なあに?」
「愛しているよ」
「新一……わたしも……」

間近から蒼い目で見つめられ囁かれ、体の芯までゾクゾクする。

「また、数日会えねえけど……」
「うん……」
「浮気すんなよ、奥さん?」
「う、浮気なんか、する訳ないじゃない!新一こそ……!」
「オレは、物理的に浮気なんかできない。お前以外の女には、勃たねえから」
「……わ、わたしだって……その、男の人とは違うかもしれないけど!もし、新一以外の男の人に無理にされそうになったら、舌噛みきるからっ!」
「蘭……」

新一がマジマジとわたしを見た。

あ。
命粗末にするなって、怒られるかな?

「バーロ。そんな事にはさせねえよ。オレがぜってーお前を守るから……」
「う、うん……」

新一は、格闘技を学んだわけじゃない。
わたしの方が、同じ条件とルールで戦った場合の戦闘能力は上なのかもしれない。
ただ、新一は、試合とかじゃない実践の場においては、あらゆるものを利用しようとするし、サッカーの腕を利用しての遠距離攻撃もできる。
実際新一は、わたしより戦闘能力に勝る筈の湯川を、前に倒したことがある。
空手があって強い筈のわたしを守る力を、充分に、持っている。

そして何よりも、わたしを守ろうとする意志が、半端じゃなく強いってのは、わたしにも分かってる。

新一と一緒にいると、わたしは女なんだって、すごく実感させられて、それが心地よい。


この人は、生涯、ただ1人の人。
わたしの……夫。

わたしは新一の背中に手を回して、ギュッと抱きついた。



   ☆☆☆



その日は、家に帰り。
久しぶりに夕ご飯を作った。

でも、お父さんは麻雀に出かけてしまい、結局1人でご飯を食べる羽目に。


「もう!だから、家に帰るのは嫌だったのよ!」

わたしは悪態をつく。

新一。
さっき別れたばかりなのに、会いたい。

そして……。


ああもう、わたしってば、何考えてるのよ!
昨日、散々、もう嫌!ってくらいエッチしまくったのに!
今朝は、これ以上もう無理って思ってたのに!
また、新一が欲しいと思うなんて……。


お風呂を沸かして、入ろうとして。
脱衣所で服を脱いで、気付いた。

服から出るところにはないけど、全身に赤い……虫刺され?

いや、違う。
これ、キスマークだ!
そういえば昨日、何回かちりっと痛みが走ったような。

そっか。
寮の共同風呂にしばらく入ることもないし、新一も安心して、印つけまくったんだ。
でも、首筋とか肩とか、お父さんに見られるようなところにはついてない。


『浮気すんなよ、奥さん?』

新一の声が聞こえたような気がして。

「もう、するわけないでしょ、バカ!」

と、声に出して言ってしまった。




   ☆☆☆




8月中旬。

新一と京極先生が夏季休暇を取った1週間。
新一とわたしと園子は、京極先生の実家だという、伊豆の瓦屋旅館にいた。

小さな和室を二部屋とっている。
続きの部屋を取っちゃうと、襖一枚ではお互いの声が丸聞こえで、さすがに夜に差障るから。

京極先生は、料金は良いって言ってくれたけど、さすがにそういう訳には行かないと、新一は新一とわたし2人分の正規料金を支払っている。
園子の分の宿泊料をどうするかは、園子と京極先生とで話をするだろう。


昼間は、海で思う存分遊んだ。
わたしは、新しい水着を持ってきてたけど、陸に上がっているときは上着を着ていた。

日焼け防止の意味もあるけど、それ以上に……。

「あら、蘭。夏休みになったら、工藤センセも遠慮がなくなったのねえ」

園子に言われたけど。
この前新一と一緒に過ごした時のキスマークが、まだハッキリ残っていたのだった。

「まあでも、いんでない?男がいるって丸わかりで、変にナンパされることもなくて」
「そ、園子!」

でも、実はキスマークがあんまり通用しないことを、わたしは知ってる。
ナンパしてくる男の人の中には、本気で恋人にしたいってより、とにかくエッチできればって人も少なからずいるんで。
そういう人からしたら、彼氏持ちの方がむしろ遊びやすいと思ったりするみたい。

新一には、できる限り上着を着て置くようにと、きつく言われている。
日焼けが心配だということだったのだけど。

「新一は、色黒になってしまったわたしのことは、嫌いになるの?」

思わず涙目で言うと、慌てふためいて、黒くなるのがどうのより、ヒリヒリして辛いだろうし、皮膚癌の確率があがるしとか、色々言い訳していたけど。
なんか、ごまかされてしまったような気がするのよね。

海の中でも、キスされたり、水着の中に手入れられて胸揉まれたり……。

「はあ。夜まで待てねえ。入れたい……」
「え!?や、やだ、ここで!?」
「やらねえよ!ゴムつけられねえし」

なんて会話もあったり。


海の家(ここでも京極先生が焼きそば作ったりしてた)で、焼きそばを食べて。
その後、かき氷を食べて。

新一が、トイレに行っている間に、園子がわたしの耳に口を寄せて言った。

「あ、あのさ……蘭……その……最初の時って、どうしたら良いのかな?」
「え?園子?」

そっか。
園子は、夏休み直前に京極先生とお付き合いを始めたばかりで。
これまで、わたしと口裏を合わせて同じ日程でデートなんかしてる筈だけど、泊りがけのこともあったみたいだけど、まだ、だったんだ……。

「そ、そりゃあ……京極先生にお任せするしか、ないんじゃないの?」
「う、うん……そうなんだけど……」

新一がトイレから戻って来たので、話はそこで終わった。

京極先生って……人柄は信頼できると思うけど、ベッドの中でどうなのかなんて、想像もつかない。
でも、園子のことがものすごく好きなのは確かなんだから、園子が嫌がるようなことは無理強いしないだろうって思う……たぶん。


瓦屋旅館での夕食後。
(夕食は新鮮な海の幸がふんだんに使われてて、すごく美味しかった)
部屋で休んでると言う園子を残し、わたしは新一を誘って散歩に出た。

夕暮れの海辺を歩く。

「あ、あのね、新一……」

迷ったけど、わたしは、園子に打ち明けられた悩みを、新一に相談してみた。
新一が、ずざっと引く。

「オメー、それをオレに訊くか!?オメーしか抱いたことのない経験値の低いオレに!?」
「だ、だって!」
「こういうことは、なるようになるだろ。どの恋人も経験してることなんだからよ」
「そ、そうだけど……」

新一は、はあっと大きな溜息をつく。

「たぶん、京極さんは、それなりに女性経験あるだろうと思う」
「えっ!?」

新一の言葉は、衝撃が大き過ぎて、わたしは固まった。

「な、何で!?」
「まず第1。オレのような、1人の女にしか欲情しない男は、天然記念物並みの少数派だ。おそらく京極さんはその少数派じゃねえ」
「天然記念物?って、自分で言う?」
「うっせーな。事実だから仕方ねえだろ。第2。16歳の時にオメーと出会ってしまったオレと違って、京極さんが鈴木に出会ったのは、つい最近のこと。出会った後ならともかく、出会う前に、精進する必要はない」
「……そ、それは……だけど……」
「第3。これは、オレもそうなんだけど……ある程度世間に顔が売れてるような男は、遊びでもいい、1回きりでもいい、って寄ってくる女が多くて、その気になれば女に不自由しない」
「え!?し、新一も!?」

でも、この「第3」は、わたしにもわかるような気がした。
新一も京極さんも、見た目もすごく良いし。
きっと、寄ってくる女の人は多いだろう。

「だから、その気になればっつっただろうが。オレにはお前がいたし、他の女にその気になれねえから、貞操を守り抜いたけどよ」
「な、何が貞操を守ったよ!」
「でも、京極さんは、守る必要もなかっただろうからな」
「う゛……」

頭ではわかる。
わかるけど、わかりたくない。

「これ、鈴木には言うなよ」
「い、言わないよ!言えるわけ、ないじゃない!」
「まあ、鈴木と出会ってからは、さすがに、他の女とやっちまうなんてことは、してないだろうって思う。ただ、おそらく、今まで京極さんが相手にしてきたのは、経験豊富な女たちが殆どだっただろうけど……」
「……う、うん……」
「京極さんは、そういう女たちと、本気で惚れた……しかも未経験の鈴木と、同じ扱いをするような無神経な男ではなかろうと、オレは思うよ。だから多分、京極さんに任せていたら大丈夫だろう」
「うん……そうかもね……」
「ああいうのは、テクニックとかじゃなくて、大事なのは、気持ちだろ?で、相手を大切にして、相手の気持ち良さを引き出そうと努力したら、きっとテクニックも後からついてくる」
「……」

そ、そっか。
わたしが新一に抱かれるとき、すごく気持ちいいのは。
わたしが新一を愛しているから、ってのもあるけど。
新一がわたしを愛して大切に抱いてくれるからでも、あるんだね。


その夜。
数日ぶりだったせいで、案の定、新一の求めは激しく、ほとんど眠れず、朝はぐったりとなってしまっていた。

「蘭?今日は、海、行かねえのか?」
「無理……新一1人で行ってきて……」
「オメーが行かねえのに、オレ1人で行っても、意味ねえだろ?」

そう言いながらも、結局新一は、どこかに買い物に出かけてしまった。
ていうか、たぶん、新一なりに、園子とわたしのガールズトークがあるだろうって気を利かせてくれたみたい。


わたしはようよう起き出し、服を着ると、園子の部屋まで行ってみた。
もちろん、京極さんはもう仕事をしていて園子の部屋にはいないって確認してのことだ。

「園子?入るよー」

園子は「はにゃ」とも何ともつかないような声を上げていた。
薄い掛布団をかけているけど、肩はむき出し。
たぶん、何も着てないんだよなー。

園子は背中を向けてて、こっちを見ようとしない。

「園子。大丈夫?」
「だ、大丈夫じゃない……痛かった〜。それに、気持ちイイなんて思えなかった〜」
「園子……」

何と言ったらいいのか分からず、わたしは、布団の傍に座り込んだ。

「でもね」
「うん?」

園子がこちらを向いて、幸せそうに笑った。
その表情に、すごく安心する。
それに……女は好きな人に抱かれると綺麗になるって、本当だって思えた。

「すっごく幸せだったよ。真さん、すごくわたしを大切にしてくれてるって、愛されてるって、実感できたもん……」
「そっか。良かったね、園子」
「うん!」

たぶん、感じるとか気持ちイイとかは、人それぞれなんだろうし。
少なくとも、園子が幸せな初体験だったのなら、それで良いって思えた。




買い物に行ってた新一が買って帰って来たのは、わたしが家族に渡すための伊豆のお土産。
そして。

「ホラ。その……安物だけどよ……」

海辺の観光地なんかではよく見かける、貝殻を使ったペンダント。
イルカの形をしている。

「わあ、可愛い。ありがとう」
「これだったら、まあ学校では無理でも、家族や友達の前でも身に着けられるだろ?」
「うん!」


新一は、デリカシーないし、意地悪だったりするし、でも……新一なりに一所懸命、愛情表現に努めてくれるし気を使ってくれる。
わたしは本当に幸せだって思う。





それから1週間経って、伊豆からの帰り道。

「なーんか。エッチが気持ちいいって感じ、分かって来たかも〜」

車の中で園子が幸せそうな笑顔で言って。
新一が思わずハンドルを切りそこないそうになるという、ささやかな事件もあった。




(21)に続く


++++++++++++++++++++


<後書き>

第20話にして、やっと夏休みですよ、奥さん。

この後、秋は体育祭、冬は恋人たちのイベントが沢山あるし。

完結するまで、いったい、何話になるのやら。


でもう、一旦一線を越えてしまうと、新一君がどこまでも、変態街道を突っ走り、ストーカーチックに……。
うわああああ。

今回も、ただエッチしまくっているだけで、内容はないようなお話で、本当に申し訳なく。


真園も無事一線を越えました。

他のカプ・他のキャラは、出すと話が余計に長くなりそうなんで、出さないかも。
でも、ネタに詰まったら、出すかも。
そこらへんは未定です。


2015年7月29日脱稿
戻る時はブラウザの「戻る」で。