Sweet Pain



byドミ



(18)告白



「ねえねえ、聞いた?3年の小沢先輩のこと」
「何か、すごい大変なことになってるみたいだよね」

噂が流れている。
小沢先輩は、前にお風呂場でわたしがキスマークを「虫刺され」だと思った人だ。

「妊娠したら彼氏に捨てられて、子どもは堕ろしたんだって……」
「転校するって聞いたよ」

全寮制の帝丹学園でも、恋人と体の関係がある子はいっぱいいて。(て、ぶっちゃけ、わたしもそうなんだけど)
時々、色々なことがある。


避妊してたのかしてなかったのか、子どもが出来てしまって……って子も、中にはいて。
その殆どが、新しい命を闇に葬るしかない。
時に、子どもを産む人もいるみたいだけど……彼氏が社会人で責任とってくれたって人とか、場合によってはどこかに養子に出すとか……。

周りに知れて転校してしまう子も、いるし。


わたしは、まだ高校生の子ども。
何か遭った時に、自分で責任を取ることもできない、子ども。


それでもわたしは、何が遭っても、新一と愛し合ったことを後悔はしない。

初めて会った時からずっと、好きだった。
そして、初めて会った時からずっと、わたしのことを愛してくれていた。

わたしは、身も心も、新一のもの。
これまでも、これからも。

何が遭っても、新一とのことを後悔なんかしない。



   ☆☆☆



自習時間。
ここ帝丹学園では、教室にこもって勉強しなければならないわけではなく、自習室・図書室・パソコン室などを適宜使って良いことになっている。

わたしは、英語準備室にいた。


「し、新一……こんなところで……あっ!」
「蘭……蘭……!」

わたしは机に突っ伏して、背後から新一につかれてる。
学園祭の前後で校舎内でのエッチを経験してから、新一もわたしも、ストッパーが外れてしまった。
学校の中でも、空き時間と空いた場所があれば、体を重ねてしまう。

新一は必ず抜かりなく避妊具を持参している。
もし、誰かに見つかったらどう言い訳する積りなんだろう?


「あああっ!」

背中をそらせてわたしが果てると、新一の動きが止まり、新一のものがわたしの中で脈動した。


「もう!新一、こんなの二度と嫌だからね!」

わたしは、衣服を整えながら、新一に抗議した。

「わりい。オレもこらえ性がなくなっちまったな……」
「そうじゃなくて!あの恰好、新一の顔が見えないから、嫌!」
「へっ?エッチが嫌だったんじゃねえんだ?」

新一の意地悪そうな表情に、わたしの頬に血がのぼる。

「じゃ、この次は正常位な?」
「ば、ばかっ!」
「それとも、騎乗位が良いか?」

わたしは、新一の胸をポカポカ殴った。

「わりいわりい。蘭が可愛くてつい……」
「んもう!」

新一がわたしの唇に軽くキスをする。
そしてそのまま抱きしめられた。

「ねえ新一」
「ん?」
「もしも……もしもね……」
「蘭?」

わたしは言い淀む。

いつも避妊を欠かさない新一。
でも、「絶対」じゃ、ないんだ。

「もし、万一……こ、子どもが出来たら、どうする?」
「ん〜そりゃあ、正式に結婚するしかねえだろう?おっちゃんには殴られるだろうけどよ」
「ちゃんと避妊してるんだからオレの子じゃない!とか言ったりしない?」
「オレだって、100%じゃねえってことくらいは分かってるよ。いくら、信頼性のある製品使っててもな……絶対じゃ、ねえし」
「新一……」
「その覚悟もないのに、お前とこんなことしない」

そう言って、新一はわたしの胸をまさぐる。

「あ……ん……」
「オメーを手に入れるためにオレは、早くに社会人になる道を選んだんだから」
「し、新一……」
「第一、オメーに他の男が触れることなんて、有り得ないだろ。もしそんなことになったら、ぜってー、すぐわかるしよ」
「そ、そういうもんなの?」

新一がわたしの口をふさぎ、舌がわたしの口内を蠢く。
わたしは、頭の芯までしびれて、ぼうっとなってしまった。

「蘭。オレから離れるなよ。もしそうなったら、オレは自分がどうなるか、想像もつかねえ」
「新一?」

新一の瞳に一瞬昏い炎のようなものが見えて、わたしは息を呑んだ。
ふっと新一の表情が緩む。

「蘭。最初に抱いた時、言っただろう?戸籍は違っても世間的に認められてなくても、お前はもう、オレの妻だって」
「し、新一……」
「理解できないなら、もう1回、体で……」
「だ、大丈夫!もう、理解できたから!」

思わずわたしは、新一の胸を押しながら言った。

「ははっ!さすがに時間もねえし、もう1回は、やらねえよ」

新一の言っていること、どこまで冗談でどこまで本気なんだか。

でも、いざというとき、新一は逃げるような人じゃない。
っていうか……むしろ、わたしが逃げようとしたら追いかけて来られるんじゃ?
まあ、逃げる気はないから、良いけど……。



突然、ドアをノックする音がした。
2人とも文字通り飛び上がり、わたしは慌てて机の下に隠れた。

ここの机は下までカバーがあるタイプなので、外からは見えないのだ。


「失礼します。工藤先生、よろしいでしょうか?」

そう言って入って来たのは、内田麻美先輩で。
わたしは硬直した。

「君は、高等部生徒会長の内田さん?オレは君のクラスを担当してないが、オレに何か用があるのか?」
「はい。工藤新一先生。大事なお話があります」


何だか嫌な予感がした。




   ☆☆☆



「何?話って」
「私は、先生……ううん、工藤新一さんにとって、生徒でしかないのでしょうか?」
「……意味がわからないが……」
「工藤さんは、素晴らしい人ですよね。私、工藤さんが高校生探偵として活躍なさっていたこと、昔ニュースで見て、知っていたんです。ちょっと前までは、アメリカでFBIの厚い信頼を受けて活躍されていたことも……」
「なんかえらい買いかぶられているような気がするが。まあ、探偵としてそれなりに実績を積んできたのは、確かかな」
「昨年の夏、私がアメリカ留学していた時に、工藤さんとお会いしたこと、まさかお忘れではないですよね?」
「ああ、まあ。君が帝丹高校生だっていうから懐かしくて、話を聞いたっけな。それが何か?」
「私はあの時……工藤さんから、作ったレモンパイが不味いって言われたとき、すごく悔しくて、何度も作り直して持っていきましたよね」
「そういうことも、あったかな」
「留学期間が終わって、日本に帰る直前、やっと、美味しいって言ってもらえて……」
「すまんな。オレも、お世辞が上手い方じゃないんで。でも、最後の辺りはけっこう美味くなってたぜ」
「あの時から、私は、あなたのことが好きなんです」

時が止まったような感じがした。

ストレートな告白。
わたしは机の下で、思わず息を呑んでいた。

「えっと……オレが担当しているクラスでは話をしたが、オレは仮にも教師だし、高校生はオレから見て子どもだし。帝丹高校生を恋愛対象にする気はない」
「工藤さんは、今年21歳。私は今年18歳になります。たった3歳の差です。子どもと言われるほどの違いはありません!」
「だが……やっぱり生徒に対しては……」
「それに、私はあと1年足らずで高校は卒業です。じゃあ、生徒じゃダメだっていうのなら、卒業したら、真剣に考えていただけますか?」

新一が大きく息を吸い込んだのが聞こえた。

「ごめん。君が卒業しようが、成人しようが、オレは、君の気持ちには応えられない」
「ど、どうしてですか!?」
「君が真摯に告げてくれたから、オレも本音を話そう。オレには、5年前から、生涯ただ1人と誓った女性がいる」
「えっ!?」
「オレは、これまでもこれからも、その女性以外愛せない。たとえ彼女がオレの想いに応えてくれなくても、オレの想いは変わらなかっただろうが……つい最近、オレは思いを遂げて、その女性を妻にしたんだ……」
「つ、妻!?え!?く、工藤さん、でも工藤さんは、独身なんじゃ!?」
「籍を入れている訳じゃない。一緒に暮らしている訳でもない。でも、オレにとっては、かけがえのない妻なんだよ……」
「工藤さん……」
「君はとても素敵な女性だと思う。オレなんかには勿体ない位の。それでも、オレは、オレのただ1人の妻以外は、愛せないんだ。ごめん」


内田先輩は、泣くかと思ったけど。
そういう気配は感じられなかった。

震える声で、けれどきっぱりと、先輩は言った。

「工藤新一先生。真剣に答えていただいて、ありがとうございます。私は……」

そこで一旦、言葉が途切れる。

「私は、いずれ必ず、あなた以上の素晴らしい男性をみつけて、幸せになって見せますわ!」

そして、足音が聞こえ、ドアを開ける音が聞こえ。

「失礼いたします」

そう言って、去って行った……。



「こら。いつまで隠れている気だよ?」
「だ、だって……」

わたしが机の下から出てくると、新一はぎょっとしたような顔になった。

「お、オメー。何で泣いてんだ!?」
「えっ?」
「オレの妻って、オメーの事だぞ!?分かってんのか!?」
「わ、分かってるよ……だからこそ、先輩に申し訳なくって……」
「な、何で……」
「だって。あんなに完璧な先輩が、断腸の思いで諦めた原因になったのが、わたし程度の女って知ったら、絶対先輩は悔しいだろうって思う……」
「こらこらこら。わたし程度の女なんて、言うな!」

新一に額を小突かれる。

「オメーは、オレにはもったいねえくらいの、スゲーいい女だよ!自信持て!」
「新一、内田先輩にも、同じこと言ったー」
「ああ!?オレだって少しは、お世辞を言うことだってあるっつーの!彼女にはお世辞だが、オメーには本音!オメーは世界でたった1人の、オレにとって最高の女、なんだからよ!」

新一がやや乱暴にわたしの唇を奪う。

「何をどういわれても、こういうことしたいのは、お前だけなんだから」
「う、うん……」

時限終了の鐘が鳴った。
次の講義は自習じゃない。

「わたし、戻らなきゃ……」
「蘭」

新一にもう一度抱き締められ、口付けられる。

「今度、指輪、買いに行こう」
「え?指輪って……?」

だって、エンゲージリングなら、首から下げたチェーンにつけている。

「マリッジリングだよ。今度から、オレは妻帯者だって、堂々と言ってやる」

何だか新一の目が据わっているような気がしたのは、気のせいだろうか?



   ☆☆☆



新一は本当に、プラチナ製のマリッジリングを買った。

わたしがもらった方の指輪には、「S to R」、新一がはめている方の指輪には、「R to S」、そして日付は、わたしの16歳の誕生日が刻印されている。
なんだかなあ。

たぶん、新一は、わたしのお父さんとお母さんの許しさえあれば、今すぐにでもわたしと正式に結婚したいんだろうなと、薄々分かって来た。

で、わたしの指輪は、普段はエンゲージリングと一緒にチェーンに通して首にかけ。
新一の指輪は堂々と、左手薬指にはまっている。

初めて指輪をはめて教室に入って来たときは、そりゃもう、大騒ぎになったものだ。

「先生!独身じゃなかったんですか!?」
「ん?4月時点では独身だったな。5月半ばだよ、結婚したのは」
「だけど、独身寮に住んでるじゃん?」
「ああ。まあ、通勤が大変だからな……普段は単身赴任の週末婚だよ」


そんなことを言ってて大丈夫なのかと、わたしは青くなっていたが。

「まさか工藤先生が生徒とできちゃってるなんて、誰も思わないってー。指輪して新婚宣言したことで、かえって目くらましになったと思うよー」

って、園子は言った。
だったら、良いんだけど……。


でも、園子が正しかったみたい。
工藤先生は、今でも人気者だけど。
恋人にって狙う女子は、明らかに減った。

新一が浮気するかもって疑う訳じゃないけど、新一狙いの女の子が減ったのは、ちょっとホッとした。

「でも、蘭の虫除けはできないね。蘭が指輪する訳にはいかないもんね」
「えっ?何でわたしの虫除け?わたし、あんまり蚊が寄ってくる方じゃないんだけど」
「やれやれ。工藤先生も、苦労するわねー。でもまあ、仕方ないかー」
「???新一の苦労と虫除けの因果関係が、分かんないんだけど?」
「あー!わたしも、蘭みたく、優しくて甘やかしてくれる恋人、欲しいなあ!」


園子が雄たけびを上げるのを、わたしは苦笑して見ていたけど。

園子の運命の出会いも、実はもうすぐそこまで来ていたってことを知ったのは、後になってからのことだった。





(19)に続く


++++++++++++++++++++


<後書き>


今回は短いです。
まあ、ちょうど区切りが来たもので。

エッチシーンを増やせば嵩増しできるけど、うーん。
今回はほんのあっさりで。

いや、毎回毎回濃厚エッチシーンを入れ続けるのって、意外と疲れるんですよ。

で。
次こそは。
次こそは。

まこっちの登場です。

ただ。
今の内に言っておきます。
「血よりも深く」の真園の出会いと、あんまり変わりません。
っていうか、殆ど、まんまだろうと。
目新しさはないです。

違うのは、まこっちの年齢です。
この世界の新一君より年上です。
大学卒業後社会人の設定ですから。


そういえば、この世界では、内田麻美さんが新一君より年下!
いやあ、書きにくいったらありゃしない。
でも、大学生にしたら話がうまく回らないしねえ。

私、内田麻美嬢って、昔は嫌いで、二次創作でもひどい扱いをしてましたが、今は反省し、できるだけいい女に描こうと頑張ってます。
それでも、新一君に振られてしまうのは、彼女の逃れられない運命なんです。
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