Sweet Pain



byドミ



(16)秘密の逢瀬



「あ・・・ん・・・んああ・・・」
「蘭・・・蘭・・・」

部屋の中に、2人の声と荒い息遣い、淫らな水音とベッドが軋む音が、響き続ける。
下半身はスッカリ麻痺して、快楽なのか苦痛なのか、わからない。

でも、わたしの奥で、もっともっとと、ねだる声がする。
新一も、飽くことなく、わたしを求める。

セックスに溺れるってこういう事なのかと、ぼんやり考える。
セックスに?
ううん、違う・・・わたしが溺れているのは、この人・・・新一にだ。

だって、こんなこと・・・他の男の人とだなんて、絶対、嫌だもん。


不意に、数日前の事を思いだした。
もし、誰にも相談せず何の準備もせずに、湯川さんと部室で会っていたら、わたしは・・・新一以外の男の人に・・・!?
思わず身震いしてしまったら、新一が動きを止めて、わたしを抱き締めた。

「蘭!?ご、ごめん・・・辛かったか!?」
「違う・・・違うの・・・そうじゃなくて・・・わたし、初めてが先生で・・・新一で、良かったって・・・今、すごく幸せなの・・・」
「蘭・・・」
「ずっと・・・新一だけでいい。他の男の人は、知らなくていい」
「オレも。ずっと、蘭だけでいい」
「新一・・・」

わたしの眦から涙が溢れて流れ落ちる。
昨日、初めて知った、愛する人と交わる幸せ。
もう、離れない。

「もう、どこにも行かないで」
「ああ。一生、離れない。誰にも、わたさない・・・ずっとずっと・・・生涯、傍に・・・」

その夜もわたし達は、生まれたままの姿でお互いを抱き締めあって・・・交わったり微睡んだりしながら、過ごした。



   ☆☆☆



日曜日の夕方。

「今日は、門限までに、帰らなきゃな・・・」
「うん・・・」

もう一度、もう一度だけと、未練たらしく体を重ね続けて。
もう、寮に戻らなければならない時間。

新一が起き上がり、散らばっているわたしの服を集め始めた。

これで終わりな訳じゃない。
この先も、新一との時間は沢山あるのだから。
わたしは自分にそう言い聞かせて、立ち上がろうとする。
けれど。

「きゃ!」

足に力が入らなかった。

「蘭!?大丈夫か?」
「う、うん、大丈夫・・・」

何とか、服を身につけた。
先生の指が、わたしの首筋に触れた。
金属の冷たい感触。
わたしの首には、チェーンがかけられていた。

「え?」
「指輪。ずっとそこにはめておくわけには、いかねえだろ?」
「あ・・・うん・・・」

先生からもらったエンゲージリング。
生まれたままの姿になって先生と1つになった時も、これだけは指にはまったままだったけれど。
確かに、学校や寮で身につける訳には、行かない。

「あの人形からヒントを得て・・・とか言ったら、気持ち悪いって思っちまうか?」
「ううん。そんな事ないよ。寂しいけど、仕方がないよね」

同じ学園の教師と生徒だから、わたし達の関係は皆に内緒。
そうじゃなくても、学校で指輪とかのアクセサリーは禁止だし。
わたしはそっと、胸元を抑えた。


足がうまく立たないわたしは、新一に支えられるようにして、ガレージの所まで移動した。

一昨日の夜、この車で新一の家に来て、そして・・・。
まだ丸2日、経過していないのだけど、その間に、わたしは新一に純潔を捧げ、新一と1つになった。
わたしはもう、16歳になる前のわたしと違う。

『お父さん、お母さん、ごめんなさい・・・』

何となく、親に対して罪悪感はあったけれど、それでも、後悔はしていなかった。


車が学園近くのロータリーに止まるまで、二人はほぼ無言だった。
新一は周りを見回し、誰もいないのを確認すると、わたしにキスをして、ドアを開けた。

「じゃあ、蘭。また」
「うん・・・また」

会うだけなら、きっと明日、学校で会う。
でもきっと、お互いの「また」には、違う含みがある。

門を入って、寮までの道を歩いて行く。
下半身に鈍い痛みと違和感があり・・・まだ、新一がわたしの中に残っているような気がした。
この2日間の事を思い出し、わたしは頬が熱くなる。

なんだかわたしって、すっごくエッチな女になってしまったような気がする。

寮の部屋に入ると、園子はもう先に帰っていた。

「蘭、お帰り〜」
「園子・・・」
「その顔だと・・・とうとう、やっちゃったの?」
「う、うん・・・まあ・・・」

園子にアリバイを頼んだのだから、誤魔化しようもなく、わたしは真っ赤になっていた。

「で?どうだった?やっぱり痛いもんなの?」
「うん。最初は痛かったよ、すごく。でも・・・新一が大切にしてくれたから・・・すごく幸せ」
「え?蘭、いつの間にか工藤先生のこと、呼び捨て!?」
「え?だ、だって・・・」
「そっかー、そうだよね、恋人同士なんだもんねー。あー、いいな、いいなー。ああ、わたしも、素敵な彼氏、欲しいなー」

園子は夢見る乙女の表情になって、言った。
こうやって「羨ましい」ってのを素直に出す園子も、わたしは良いなって思う。

「きっと、見つかるよ」
「でもさー。2人で歩いてたら、寄って来る男ってみんな、蘭目当てじゃん?自信ないなあ」
「わたしって、一見、大人しそうに見えるらしいから、誤魔化されるだけよ。実際のわたしって、大人しくなんかないのにね。園子には、園子の良さをシッカリ見て分かってくれる相手が、絶対現れるって!」

そう言ってわたしは、園子の背中を叩いた。

突然、携帯の呼び出し音が鳴った。
画面には、先ほど別れたばかりの相手の名前。

園子は、ニヤニヤしている。

「もしもし」
『蘭?』

新一の声が耳元で聞こえ、それだけで胸がきゅううんとなる。

「ど、どうしたの?」
『いや。声が聞きたくてよ』
「うん・・・わたしも・・・」
『蘭の声をこうやって聞くだけで、また蘭を抱きたくなる』
「なっ・・・新一・・・!」
『蘭。ありがとう』
「えっ?」
『夢みたいだ。オレは生涯、蘭以外愛することはねえけど。蘭から愛してもらって、受け入れてもらって・・・蘭を抱けて・・・こんなに幸せな事はない』
「し、新一・・・」
『おやすみ、蘭』
「お、おやすみなさい・・・」


携帯を切って、ボーッとしていた。
その瞬間は、園子の事も忘れていた。

「らーん。ホント、蕩けそうな顔、しちゃってー」
「そ、園子!」
「さ、明日からまた学校よ!余韻に浸りたいのはヤマヤマだろうけど、お風呂入って寝なきゃ!」
「う、うん・・・」


園子と連れ立って、お風呂に向かう。
更衣室で園子にじろじろ見られ、わたしはいたたまれなくなった。

「な、何、どうしたの?」
「イヤー別に。なんか、あの男って、意外と気遣いがあるのかなって思って」
「えっ?えっ?」
「蘭が、寮暮らしってこと、ちゃんと弁えてるんだね」
「園子?どういう意味?」

その時、別の人がお風呂に入りに来たため、わたし達は黙った。
入って来たのは、3年生の先輩達。

その中の1人が、全身に赤痣があったので、わたしは驚いた。

「せ、先輩!どうしたんですか!?虫刺されみたいなのが沢山!」
「ら、蘭!」

園子が慌ててわたしの腕を引っ張る。
その先輩は、ふふんという顔でわたしを見た。

「毛利さんはどうやら、まだまだのようねえ」

その誇らしげな顔が、意味わかんなくて、わたしは首を傾げた。
他の先輩達も、何だかニヤニヤ笑ってわたしの方を見ている。

「この前まで厨房だった子達だもん、まだまだよ」
「ふふん、それもそうかもねー」

何となく、バカにされている気はしたけれど。
深く突っ込むのは、それこそバカらしいような気がして、わたしは黙って体を洗い、さっとお湯を浴びてお風呂を出た。

部屋に戻ると、園子が深く溜息をついた。


「はああ〜〜。まったくもう。何でわたしでも知っている事を、ロストバージンした蘭が知らないワケ?」
「えっ?それって、関係あるの?」
「大ありよ!でも、どうやら工藤先生は、蘭の体に印を残さなかったみたいだから、蘭が何も知らないのも無理ないのか」
「印?」
「先輩のあれ。キスマークよ!」
「えっ?き、キスマークって?」
「蘭。キスマーク、知らないの?」
「言葉は聞いた事あるけど・・・あんな虫刺されみたいなもんなの?」
「エッチの時に、キスした後がああいう風に残るのよ」
「えっ!?で、でも・・・わたし、新一・・・先生から全身にキスされたけど、そんな後なんて・・・」

わたしは思わず、パジャマを着ている自分の全身を見回していた。

「たたたた。だからね。ただ、触れただけじゃ、痕はつかない。強く吸うと、うっ血して赤い痣になっちゃうワケ」
「・・・!そ、それって・・・エッチの時、普通にやる事?」
「普通かどうかは、知らないわよ。でも、キスマーク付いてるって事は、それをやったって事でしょ、先輩は」
「で、でも・・・じゃあ何で新一は・・・」
「そりゃ。寮暮らしの蘭が、他の子から見られたら困るだろうって思ったからでしょ」

わたしは息を呑んだ。
夢中でお互いを求め合っていたあの時、新一がそんな風に気を配っていたなんて、知らなかった。

「先輩の場合は、逆に見せびらかしたかったみたいだけどね。バカだなって思う。だって、どう見ても、服からはみ出た所にも、印、ついてたよ?明日、どう言い訳する積りなんだか」
「やっぱり困るのかな?」
「そりゃ。だって、先生にでも見られたら、エッチしたってバレバレだよ?今時高校生で経験済みの人は多いと思うけどさ、やっぱあからさまにばれるような事をしたら、ヘタすると退学もんよ」
「そっか・・・そうだよね・・・」

わたしと新一の仲は、ばれたら大変な事になってしまうんだ。
新一に抱かれた事、後悔はしないけど、ばれないように慎重にして行かなきゃいけないんだ。



   ☆☆☆



次の日。
わたしは、部活が終わるのもそこそこに、新一の宿舎に飛んで行った。

「蘭!」

新一がわたしを抱き締め、深く口付けられる。
新一の手は、服の上から、わたしの体を辿って行く。
わたしの下腹部に、新一の昂ぶりが感じられた。

「あ・・・!」
「蘭が欲しいが、さすがに時間がねえな」
「し、新一!」

新一がわたしの頬に手を当て、上向かせる。

「ゴメン、蘭。こうやって、オメーの顔を間近に見られるだけでも、すげー幸せだから」

新一が少し苦笑して言った。
何でだか・・・新一は、わたしが思わず「それだけが目的?」と言いそうになったのを察したようだった。

新一が、今度はお触りなしで、わたしの体をぎゅっと抱きしめる。

「ホント、タガが外れちまって・・・自分でもやべえなって思ってる。蘭。嫌な時は嫌だってハッキリ言ってくれ」
「そ、そんな事言われたって・・・嫌なんじゃないもん・・・」

わたしは、新一の肩口に顔を埋めながら、言った。

新一にだったら、何をされても嫌じゃない。
嫌じゃないんだけど、ただ・・・何もせず傍にいたいとか、普通のエッチとは違うスキンシップが欲しいとか・・・そういう事を望むのは、ワガママなんだろうか?

「男はどうも即物的過ぎる傾向があるからな。女心は、少しずつ学んでいくから、よろしく」
「し、新一・・・」

時々軽いキスをして、他愛のない話をして・・・あっという間に、寮の門限が近づく。

「新一・・・木曜日は、部活が休みの日だから」
「ああ」
「そ、その時に・・・」
「楽しみにしてる」



わたしは、木曜日の約束なんかして大丈夫なのか、ちょっと心配になったけど。
ふたを開けてみたら、木曜日が待ちきれないのは、わたしの方だった。

火曜日と水曜日は、軽い口付けとハグだけの、短い逢瀬で我慢して、いざ、木曜日。
新一の宿舎に飛び込むと同時に、新一がカギをかけてわたしを抱え上げ、そのままベッドに直行。
あっという間に床に散らばるわたしの制服と下着。

ほんの数日前に知ったばかりの歓びに、わたしの体は震える。
もうすっかりグショグショになってしまっているわたしのあそこに触れた新一は、感嘆の声をあげた。

「すげ。時間かけてほぐさなきゃって思ってたけど、蘭の体、もう準備万端じゃん?」
「やあ・・・意地悪・・・そんなこと、言わないでぇ」
「欲しがってるのはオレだけじゃねえってわかって、すげえ嬉しい」
「ばかあ」

新一の指と唇がわたしの全身を這い回る。
けれど・・・わたしの体に、あの赤い痣が残ることはない。

「新一」
「ん?どうした?」
「好き・・・」
「ああ。オレも・・・」

新一は、手慣れた手つきで、避妊具を装着すると、わたしの中に押し入ってきた。
もう、痛みは殆どない。

「あ・・・んああん・・・」
「はあ・・・蘭・・・」

新一がわたしの中を突き上げる。
快楽の波にわたしは呑まれ、歓喜の声をあげて新一にしがみ付く。


「はっあっ・・・んはあああっ・・・やああああん!」
「蘭・・・すげ・・・オメーん中、最高に気持ちイイ・・・っ!」


わたしが背中を反らせて絶叫するのと、新一がわたしの中で大きく脈動して情熱を放つのが、ほぼ同時だった。
新一がわたしの上に崩れ落ち、暫くお互いの背中に手を回して息が整うのを待った。

やがて大きく息をついて、新一がわたしの中から新一のモノを引き抜いた。

「蘭」

優しい目で見つめられ、額と額が合わせられる。

「愛してる」
「新一・・・」

そのまま、新一の腕の中で微睡んでいたかったけれど、ふと時計を見ると、寮の門限が迫っていた。
わたしは慌てて服を身につけ、寮に向かう。

わたしはこの先、新一との秘密の逢瀬をどれだけ重ねて行くのだろう。
でも、新一から求められ愛されているという歓びは、秘密を持つ後ろめたさや、周りに隠さなければならない辛さより、ずっと大きかったのだ。




(17)に続く



2014年1月15日脱稿

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