月の光と日の光




byドミ



番外編・激情(1)不安とすれ違いの夜



(注:このお話は、表の「月の光と日の光」(1)のラストシーンでカットされた2人の時間です。先に表の話から読む事をお勧めします)





「蘭、とにかく今夜は遅いから、もう寝よう」

小五郎が帰った後、新一は蘭に声を掛ける。

蘭は新一をじっと見つめた。
不安に揺れる蘭の瞳の色に、新一は胸を痛める。

新一は蘭を促すと、一緒に2階の新一の寝室に入って行った。




寝室に入ると蘭は新一にしがみ付いて来た。自分から新一に口付ける。

初めての蘭からのキスに新一が戸惑っていると、蘭の舌がするりと新一の口腔内に入り込んで、たどたどしい動きで新一の舌に絡めようとする。
新一は自分の舌を蘭の舌に絡めてそれに応える。
蘭がどれ程に不安に思っているのか、震える舌の動きと、縋り付く腕から伝わってくる。
新一は蘭を強く抱きしめ、蘭の震える舌に自分の舌を絡ませる。

自分が蘭を、蘭だけを愛している、その偽りない気持ちを感じて欲しいと願いながら。



  ☆☆☆



Side Shin-ichi



「んん、はあ、あああんん」

部屋の中に、あえぎ声と息遣いが響く。

「あああっ・・・ああん、新一っ・・・」

普段だったら羞恥のあまり、出来る限り声を上げまいとする蘭が、今夜は最初からあられもない嬌声をあげている。

「蘭・・・」

新一は、蘭の感じやすい所をゆっくりと愛撫していく。
蘭の体はいつもより感じ易く、敏感に反応する。
感じ易い部分に新一の指や唇が触れる度、身を仰け反らせて喘ぎ声を上げる。



初めて結ばれてからおよそ2ヶ月。

肌を重ねるたびに少しずつ、蘭の感度も増し、愛撫に敏感に反応するようになって来た。
ベッドに入った最初の内は恥ずかしがっていても、途中からは大胆に奔放に新一を求める事もある。
新一はそういった蘭の変化が嬉しくて、身も心も以前よりもっと1つになって行っているように思えて、いつも蘭の全身を時間をかけて愛撫し、執拗に求めたものだった。



しかし――。

今夜の蘭は、何処か痛々しくて、新一の愛撫の手も唇も、遠慮がちになってしまう。

蘭の胸の頂きに揺れる紅い蕾を口に含む。

「あああんん、あっ、はっ、ああっっっ・・・」

蘭は狂ったように身を捩って嬌声を上げる。

元々蘭の感じ易い部分ではあるが、よがる蘭の姿を見て、新一は嬉しいより痛ましい思いがする。

「蘭・・・」

あまりの痛々しさに、新一の動きが止まる。



蘭はそんな新一に焦れたように、手を伸ばしてきた。

「ら、蘭?」

新一は焦った声を出す。
蘭はいつもだったら、新一のそれを、触る事はおろか、視界におさめる事すら恥ずかしがってほとんどしないのに、今夜はいきなり手で握ってきたのだ。

焦る新一に構わず、蘭は体を起こすと、新一のそれを舌先で愛撫し始めた。

ぎこちなくたどたどしい動きながら新一のそれを丁寧になめ上げていく。

「・・・っ、蘭!」

新一は正直、そんな事をされて嬉しくないわけじゃない。
普段の蘭は、抱かれる時いつも恥じらって、クライマックス近くまではほとんど受け身なのだ。
恥じらう蘭もそそられるが、時には積極的にきて欲しいと思わないでもない。
だから新一にとって、こういった蘭の姿は、歓迎すべき事のはずだった。

ただ、蘭の瞳に浮かぶ暗い欲望の影が、不安から来たものだと判っているだけに、新一は戸惑う。
けれども、愛しい女性にそんな事をされれば、体は正直に反応する。
快感のあまりいきそうになるのを、新一は懸命に堪える。

蘭は新一のそれの根元を手で握ったまま、今度は口の中に咥えて、前後に動かし始める。
蘭の口の中は熱く、舌が新一のものにねっとりとまつわりつき、すさまじい快感が新一を襲う。
新一はもうこれ以上に堪えられそうになかった。

「ら、蘭、もう離さねーと俺はっ・・・!」

たまらず新一は、蘭の口の中に熱いものを放った。
蘭は、口の中に放たれたそれを、全て飲み干していく。

「蘭っ・・・・・・!」

新一がその手の知識を仕入れた本は、真面目に論じたかたい本が多かったため、男性が放つ液体というものが独特の臭気を放ち、女性にとって飲む事はおろか、口にするのも実は耐えがたいものである事を知っている。

なのにためらう事なくそれを飲み干した蘭の気持ちを思うと、胸が痛んで仕方がない。

蘭が顔を上げ、新一をじっと見つめた。
口の端から僅かに零れた液体が糸をひいている。
その目は怪しく煌めき、欲望と不安と狂気が混じった色をたたえていた。



新一が呆然としていると、蘭は新一の上に馬乗りになり、蘭の口の中に熱いものを放ってもまだそそり立っている新一のそれに、自身の秘所をあてがってきた。
そこからは既に愛液が滴り落ちている。
蘭はそのまま腰を沈めた。
新一のものが蘭の中に入っていく。

「ああんっっ!」

蘭がのけぞって嬌声を上げる。
新一のものは、蘭が腰を振るたびに蘭の奥深くに付き当たり、大きな快感の波が新一を襲う。

「あああんん、新一、新一ぃ」
「っくっ!蘭っ!」

いつもと違う体位・・・蘭の豊かな胸が、新一の頭上でプルプルと揺れる。
その姿は扇情的で、新一の欲情をそそる。
この積極性が蘭の不安から来るものでなければ、新一はとっくに快楽の海に溺れてしまっていただろう。

しかし今日の新一は、すさまじい快感に身を委ねながらも、それに溺れきる事は出来なかった。



  ☆☆☆



Side Ran



「んん、はあ、あああんん」

部屋の中に、喘ぎ声と息遣いが響く。

「あああっ・・・ああん、新一っ・・・」

今日は蘭自身信じられない位に、あられも無く声が出る。
新一を感じていたいと言う気持ちが、羞恥心を凌駕しているのだった。

「蘭・・・」

新一の指と唇が、優しくゆっくりと蘭の肌をなぞっていく。
蘭の感じ易いところに触れる度に、快感の波が蘭を襲う。
いつものように優しい新一の愛撫。

けれどいつもとどこか違う。



誰よりも愛し、信頼している新一。
新一は蘭を好きだと、愛していると言ってくれたけれど、勿論それを疑った事などないけれど、この先もずっと思い続けてくれるのだろうか。
蘭の不安を裏付ける様に、今日の新一にはいつもの情熱が感じられず、愛撫もどこか淡白だった。

蘭の乳首を新一が口に含み、舌先で愛撫してくる。

「あああんん、あっ、はっ、ああっっっ・・・」

感じ易い乳首を責められて、蘭は身悶えする。

「蘭・・・」

次の刺激を求める蘭に、しかしそれは与えられず、新一の動きが止まる。

中途半端な愛撫に焦れる蘭の脳裏に、とんでもない妄想映像が浮かび上がった。




『志保・・・』

新一の熱い視線の先に居るのは、1糸纏わぬ姿の阿笠志保。

生まれたままの姿になっている新一が、志保を抱きしめる。

『工藤くん・・・』
『志保、愛しているよ』

新一が熱く志保を見つめ、優しく微笑んで口付ける。

『蘭さんの事はどうするの?』
『今俺が愛しているのはお前だけだ。蘭は可愛そうだと思うけど、もう男としてあいつを愛する事などできねーよ』
『残酷な人ね』
『しゃあねーだろ、気持ちが変わっちまったもんは。おめーは俺と一緒に探偵活動が出来る女だ。誰よりも信頼できる相棒なんだよ。蘭は、あいつは空手は出来るけど、ただそれだけだ。俺が探偵としてやって行く為には、あいつは足手纏いにしかならねーんだよ』

そう言いながら、新一の唇が、指が、志保の肌をたどっていく・・・。





自分の妄想に、蘭は泣き喚きそうになってしまい、慌てて頭を振る。

『誰にも触れて欲しくない・・・!新一が他の女性を愛するなんて、絶対にやだ・・・!』

蘭は新一のそれに手を伸ばして握る。
普段は恥ずかしくて目にする事さえ憚っていたのに、今夜はそんな余裕もない。
蘭はそれの根元を握ったまま、舌先で愛撫を始めた。

「ら、蘭?」

新一の焦ったような声が聞こえる。
いつもと違う蘭の動きに、もしかして呆れているのだろうか。
蘭はそう思い、ますます不安に駆られていく。

「・・・っ、蘭!」

なめていたそれを、今度は口の中に含む。
新一の大きくそそり立ったそれは蘭の口の中いっぱいになり、正直息をするのも苦しいほどだったが、蘭は構わず、自分の頭を前後に動かして新一のそれを愛撫する。
蘭の口の中で、新一のそれは脈打ち、一段と大きさを増し、ビクビクと震える。

「ら、蘭、もう離さねーと俺はっ・・・!」

焦った声で言う新一に構わず、蘭が舌を蠢かせていると、やがて新一は蘭の口の中に熱いものを放った。
栗の花に似た独特の臭気を放つ、初めて口にしたそれを、蘭は余さず飲み干していく。

普段だったら、たとえいくらこの世で1番愛している新一の体液であっても、飲む事など出来なかったに違いない。
しかし今は、新一のものは、全て自分の中に受け止めたかった。
他の誰にも渡したくはなかった。

「蘭っ・・・・・・!」

新一の声に蘭が顔を上げると、戸惑った顔で蘭を見ている新一と目が合った。

『やっぱり呆れてるの?私がこんな事するから?淫乱な女と思ったの?』

蘭の不安は更に大きくなっていく。



蘭は新一の上にまたがると、蘭の口内に熱いものを放ってもなおそそり立っている新一のそれに、自身の秘所を当て、腰を落として行った。
いつもと違った体位で、快感がいつもより強いような気がする。

「ああんっっ!」

蘭の口から自然と嬌声が上がる。
蘭は新一の上で無心に腰を振る。

いや・・・無心になろうとして、それが出来なかった。

欲望の海に溺れる事で、不安を忘れようとするが、心に引っ掛かった刺は抜く事が出来ず、どうしても不安を消し去る事が出来ない。
むしろ、快楽の海に溺れようとすればする程、不安はいや増していく。

新一のものが蘭の奥に何度もつき当たり、蘭はすさまじい快感を味わう。

「あああんん、新一、新一ぃ」
「っくっ、蘭っ!」

快楽の波に沈もうとしながら、心のどこかが冷え切っていて、なかなかそう出来ない。
蘭は狂った様に新一を求めた。
新一が自分だけのものだという確証が欲しかった。
けれど蘭が必死になればなるほど、新一の反応は淡白になっていく。
蘭の不安は癒される事なく、ますます大きくなっていった。



  ☆☆☆



やがて強い快感の波が押し寄せ、蘭は新一の上で絶頂を迎える。

「あああああああああっっ、はああああああんっっ、新一、新一ぃ、ああああああああああんんっ!!」

蘭は新一の上で体を仰け反らせ、新一のものをきつく締め付けた。

「うっくっっ、はあっ・・・、蘭っ・・・!」

新一も同時に蘭の中で果てたのを感じる。
2人荒い息遣いのまま、しばらく動かなかった。




やがて蘭を、砂を噛む様な空しさが襲う。

今夜はいつもよりずっと大きな快楽を感じることが出来たのに、いつも絶頂に達した後に感じる満ち足りた幸せな思いは全くなく、更に大きくなった不安と、惨めな空しい思いが蘭を襲った。







体が繋がり合いながら、蘭の不安を消す事が出来ない。

紛れもなく深く愛し合っている2人だというのに、肌を重ね合いながら双方共に辛い気持ちで過ごす――

新一と蘭にとって、今夜はそんな夜だった。





Fin.




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