誰にも内緒



byドミ



(4)内緒のバレンタインデー



オレは、高校生探偵工藤新一。

オレが帝丹高校に入学する直前に、事件絡みで出会って、一目惚れした年上の女性・毛利蘭は、オレの入学と同時に、新卒で帝丹高校に赴任して来た、音楽教師だった。

綺麗で可愛くて優しくて。
年上で、おまけに、オレは生徒で彼女は教師で。

完全に高嶺の花で、望みはないと思っていたのに、思いがけず、彼女の方も、オレを想ってくれていた。

オレ達は、昨年の初夏に恋人同士になり。
そして、クリスマスイブに、初めて結ばれた。

クリスマスから正月休暇までの数日間、ずっと一緒に過ごし。
毎晩何度も体を重ねる、ラブラブの蜜月の日々を過ごしたというのに。

新学期が始まってから、何となく、すれ違いの日々が続いている。

蘭が、週末ごとに泊まりに来てくれないかと期待したけど、音大受験のヤツのピアノを見てあげるとか、(蘭が顧問になってる)空手部の合宿がとか、様々な理由があって、土日もない位に忙しいようだ。
ここ暫くは、2人きりで会う機会すら滅多になく、電話で声を聞くのが精々で。

オレは、悶々としていた。

でも、蘭は決して、オレとゆっくり会えなくても平気なワケではない事は、分かっているし。
オレの苛立ちを蘭にぶつけると、蘭が辛い思いをするのも、理解していたので。
そこは、蘭に何かを言う積りも、不機嫌な態度を出す積りも、全くない。


ただ。
事件で呼び出される事がない日の放課後は、ちょっと音楽室を覗いてみるのが、オレの日課になっていた。
大抵、蘭は、音大受験者のピアノを見ている事が多い。
その姿をコッソリ確認して、オレは帰宅の途についていた。


その日も、オレは音楽室を覗いてみた。
すると、どう見ても生徒ではない人物の姿が見えた。
社会科の担当である斉藤先生だ。
一体、音楽室に何の用があるのか。
オレは、音を立てないようにこっそり音楽室に入り込み、音響機材と机の陰になる場所に隠れて、様子をうかがった。



「毛利先生」
「斉藤先生?音楽室に、何か御用ですか?」
「実は、ミュージカルのチケットが手に入ったんですよ。今度の日曜日、ご一緒に如何ですか?」

デートの誘いだ。
オレは、唇を噛む。
教師同士の恋愛は、仕事にさえ差し障りなければ、問題とはされない。

斉藤先生が手に入れたというチケットは、人気がある本格ミュージカルで、蘭も一度見に行きたいと言っていた。

教師と生徒という立場の違いさえなければ、オレがチケットを手に入れて、蘭を連れて行ったのに。
2人で劇場に行く姿を誰かに見られでもしたら、大変な事になるので、とてもそういう事は出来ない。

「ごめんなさい。わたしは今、音大受験の子達のピアノ実技を見てあげるので忙しいんです」

蘭は、そう言って断っていた。
蘭が忙しいのは事実だが、はなから、斉藤とデートする気もないのだろう。
たとえば、鈴木先生の誘いなら、蘭の答は違っていたと思う。

そこら辺、蘭の貞操観念は確かだ。
その点は、オレも心配していない。

「斉藤先生は?受験生の指導、しなくて大丈夫なんですか?」
「社会科は基本、暗記が中心だからね。特に指導が必要な事もないし。何より、教師だって人間なんだから、日曜日くらい休まないと」
「そりゃ、休みも必要って事は判りますけど、時と場合によるでしょ?」
「分かりました。では、お食事でも」
「えっ?」
「人間、食べなきゃなりませんし、お忙しくて芝居は無理でも、お食事位は大丈夫ですよね?」
「外食なんてそんな贅沢な事は、出来ません」
「もちろん、僕の奢りです」
「そんな。わたし、斉藤先生と親しい訳でもないのに、奢ってもらう訳には行きません」
「僕はあなたと親しくなりたいんですよ、毛利先生」

鈴木先生辺りからは、恋愛事には鈍い方だと言われている蘭だが、さすがに、斎藤が蘭に言い寄っている事くらいは、わかっているようだ。
蘭としては多分、精一杯、角が立たないように断っているのだろうが、斉藤はなかなか引き下がりそうにない。


「今日は、この後、予定がなさそうですよね。今から軽く、どうです?」
「あの。斉藤先生、わたし、恋人がいるんです!彼に悪いから、他の男性と2人で、お食事や観劇に行く事は出来ません」

とうとう、蘭の口からその言葉が出て、オレの心臓は跳ねた。

「恋人?嘘でしょう、だって、デートなんかしてる様子、全然、ないじゃないですか」


斉藤……お前、蘭のストーカーかよ。
オレは、ムカムカとして来た。

「う、嘘じゃないです!彼とは、大学時代からの付き合いで、今は遠距離だから……!」

嘘が苦手な蘭が、必死で、オレとの事が公にならないように、恋人の存在をアピールする。

「毛利先生は、杯戸大音楽部の出身だから、地元じゃなかったでしたっけ?」
「だ、だから!彼は、大学卒業後、九州に就職したので、遠距離なんです!」
「……彼氏が傍にいないなら、寂しいでしょう?だったら、その間は、僕が、慰めてあげますよ」


いつもだったら、音大受験の生徒の誰かが、音楽室にやって来て、蘭に教えを請うのだが。
今日に限って、誰も来ねえ。

オレは、こっそり、音を立てないように音楽室から外に出て。
改めて、ガラッと音を立てて、ドアを開けた。


「え……?し……く、工藤君!?」

蘭は思わず「新一」と呼びそうになったんだろう、慌てて「工藤君」と言い直していたが。
その縋る様な眼差しが、オレにはちょっとばかり嬉しかったりする。

「工藤?音楽室なんかに、何の用だ?」
「……社会科の先生がここにいる事の方が、オレには不思議に見えますが」
「お前には関係ないだろう」


関係大ありなんだよ、オレは蘭の恋人なんだからと言いたいが、それは抑える。
オレは、蘭に向き直って言った。

「毛利先生。忘れた訳じゃないですよね?」
「えっ……?」
「音楽の実技が赤点のオレに、補習で特訓してくれるって、言ったじゃないですか」
「あ……」

勿論、そんな話は、嘘だったが。
蘭には、ようやく、オレの意図がわかったらしい。


「ご、ごめんなさい!最近、音大受験の子の指導に忙しくて、つい、忘れてた!」

蘭が頭を下げて言った言葉は、その慌てた様子が、妙に真実味を帯びていたらしい。
斉藤は、忌々しそうに舌打ちをして、荒々しい足音を立てて、去って行った。

オレは、ドアに内側からカギをかけ、カーテンを閉めた。


「新一……」

蘭が泣きそうな表情でオレを見た。
オレは、傍によって、蘭を抱き寄せる。
蘭が、オレに甘えるようにすり寄って。
オレは、蘭の甘く柔らかい唇を己の唇で塞いだ。

こうやって蘭に触れるのは、久し振りの事。
学校でキスをするなんて、初めてだ。


「蘭。今夜、ウチに来ねえか?」
「……そうしたい、けど……でも……家に帰ってやらなくちゃいけない事があるし……」

蘭が、潤んだ目でオレを見上げる。
多分、テストの事とか、色々、仕事がらみでしなければならない作業があるのだろう。

オレの家に泊まれば、久し振りだからひと晩じゅう燃えるのは目に見えているし。
そうなると、蘭はおそらく何も作業が出来ない。

残念だが。
それでも、蘭が「そうしたい」と言ってくれただけで、オレとしては満足だ。

「あ、あのね、新一……」
「ん?」
「来週の月曜日は、空けといてくれる?泊まりに行くから」

来週の月曜日?
蘭もそこなら、時間が取れそうという事か?
それにしても、週始めに何で?と思ったが。

よく考えると、月曜日は14日だった。
そうか、そういう積りで言ってくれているのかと、オレの頬は緩む。


「ああ。わーった。楽しみにしてる」
「ごめんね、新一……」
「蘭が気にする事はねえよ。オレも、ごめんな。何もしてやれなくて……」
「ううん……」
「春休みは、どこか遠出して、知り合いが誰もいねえ所で、デートしような」
「うん!」


そして、オレ達は、また口付けを交わした。
それから、怪しまれないように、オレが先に出て、帰宅の途に着いた。



   ☆☆☆



そして、2月14日。
オレは、朝からソワソワしていた。

けれど。
その日に限って、オレは警察からの呼び出しを受けた。

オレは、クリスマスイブの二の舞にならないように、蘭に合鍵を渡している。
蘭にメールをして、帰宅が遅くなるかもしれないが、家に入って待っていてもらうように、伝えて置いた。

蘭からは、承諾のメールが来た。
そして、オレは、迎えに来た覆面パトカーに乗って、事件現場へと向かった。

そして、事件が無事解決し、解放されたのは、思いの外早く、夕方5時半頃だった。

蘭は教師だから、最低5時までは学校にいる義務がある。
今日は何の予定も入れてないとの事だが、もしかして、まだ学校にいるかもしれない。

家に待っていても良かったのだが、オレは一旦、学校へと向かった。
もう暗くなっている中で、校門の所から、音楽室に灯がついているのが見えた。

オレは、音楽室へと向かう。
ドアの窓から覗くと、蘭の他にもう1人男が立っているのが見えた。



「彼とは遠距離で、今日、会えないんでしょ?せっかくのバレンタインデーを1人で過ごすのも、勿体ないじゃない」
「わたしは、彼の事が大事なんです!たとえ会えなくても、他の男の人と今日を一緒に過ごす気は、ありません!」
「そう言わずに、食事だけでも。美味しいレストランを予約してるんです、行かないと無駄になってしまう」

また、斉藤の野郎かよ。
いい加減、しつけーな。

てめえが勝手に予約したんだから、キャンセル料を取られようが何だろうが、それはてめえの責任だろうが。

よっぽど、斉藤の目の前に行って怒鳴りたかったが、蘭の立場を考え、グッと我慢する。


斉藤が、蘭を抱き寄せようとして。
オレは、何を考える余裕もなくなり、思わずドアを開けて中に踏み込んだ。

「イヤっ!」

しかし、一瞬早く、蘭の空手技が斉藤の腹部に炸裂し。
斉藤は気絶してしまった。


「あ……」

蘭が、真っ青になって立ち尽くしていた。

「新一ぃ」

蘭が、涙目でオレに駆けより、オレは蘭を抱き締める。
蘭が、斉藤の方を見て、呟いた。

「ど、どうしよう、どうしよう……」
「蘭。大丈夫だ。蘭から空手技を受けた経緯を説明しようとしたら、こいつも自分の恥をさらす事になっからよ。ぜってー、大丈夫だって」
「で、でも、でも!斉藤先生が逆切れしちゃったら……」
「蘭。いざとなったら、オレが何としてでも、オメーを助けるから。だから……!」


善後策なんて考える余裕はなかった。
けど、蘭が空手技を振るったという証拠はない。
目撃証言も、ない筈だ。
もし、斉藤が、蘭を告発しようとするなら、自分が無理に迫った事も言わなければならなくなるし。
多分、そういう危ない橋を渡ろうとはしないだろう。

ただ。
蘭に迫ったあの若手弁護士のように、蘭を強請ろうとするかもしれねえな。
けど、オレがついてる限り、そのような手段は取らせねえ。


取りあえず、斉藤は引きずって、廊下に放り出し、音楽室のドアには鍵をかけ、カーテンを閉めた。


また、時間差で学校を出るにしても。
斉藤の目が覚め、帰った事を確認してから、ここを出た方が良いだろう。


「新一……」

蘭が震えながら、オレに縋りつく。
オレは、蘭をしっかり抱きしめ、唇を重ね。
そして、蘭の舌に自分の舌を絡めた。


蘭が、潤んだ目でオレを見る。
オレも……そして、おそらく蘭も。
今すぐに、お互いを求めていた。


オレは、音楽室の灯を消し、蘭を抱え上げて、奥にある小部屋へと向かった。
そこは元々、音楽室でレコードなどの鑑賞をする時の為の、音響機材室で、完全防音である。

そのソファーに、蘭を座らせた。


蘭に激しく口付けながら、胸を揉む。

「んっ……んっ……!」

蘭は、オレに唇を塞がれてくぐもった声を出しながら、切なげにオレのシャツを掴んだ。
嫌がったり拒絶したりはしていない、いや、蘭もオレを欲しがっている。


オレは蘭の服を脱がせ、自分の服も脱ぎ捨て……とは言っても、性急に事を進めたので、蘭もオレも、中途半端に服をまとわりつかせたままだったが。

オレは背後から蘭を抱き締める形になって、蘭の胸をまさぐった。

「あ……やあん!」
「蘭……蘭……!」

蘭の胸の頂きを指で刺激しながら、蘭をソファーの上にうつ伏せにさせ、上からのしかかるようにして、すんなりとした背中と、桃のような臀部に、口付けて行く。

「は、ああ!新一……っ!」


オレは身を起こすと、背後から、既に潤ってオレを待つ蘭のそこに、己を突き立てた。

「はああん!」

蘭が背を反らし、髪が背中に流れ落ちる。
その様が、すごく色っぽい。

久し振りに入った蘭の内部は、熱くオレを締めつけて来る。
すげー、気持ちイイ!

オレはたまらず、最初から激しく腰を動かした。
蘭の中からはドンドン蜜が溢れ出て、隠微な水音と体のぶつかり合う音が響く。


「く……はっ……蘭……っ!」
「んんああっ!新一ぃ!」


蘭が絶叫し、オレのものをキュッと締め付ける。
オレはたまらず、蘭の中に自分の欲望を吐き出した。



2人、荒い息を吐いて。
ソファーの上に、崩れ落ちるように倒れ込んだ。


オレは、蘭を抱き寄せる。

蘭の体の震えはスッカリ止まったようで、オレが蘭の頬に口付けると、くすぐったそうな顔をした。


布団もないソファーの上、事が終り熱が引いて来ると、身を寄せ合っていても、さすがに寒さがしみて来た。
今はまだ暖房が効いているが、教職員も全て帰った後は、エアコンの大元のスイッチを切る筈だ。
ずっとひと晩、ここにいたのでは、さすがに2人とも風邪をひいてしまう。

オレは、蘭に上着をかけると、そっと音楽室のドアの所まで行って、廊下を窺い、斉藤がそこにいない事を確かめた。
そして、蘭の所に戻る。

「蘭。もう少ししたら、ここを出よう」
「えっ?」
「2人、別々に」
「嫌。別々は、嫌」

蘭はそう言って、かぶりを振る。

「大丈夫。オメーが出て来るのを待って、ちゃんと後をついて来っからよ」
「ホント?」
「ああ。だから……」
「ま、待って、新一!」

蘭は、音楽室に置いてある荷物の所まで行って、そこから箱を取り出して来た。
そして、オレに手渡す。

「新一……こ、コレ……」
「もしかして、チョコ?」
「う、うん……」
「開けて、良いか?」

蘭が頷き、オレは箱を開けた。
一緒に覗きこんでいた蘭が、喉の奥でひっと声をあげる。

多分、さっき、蘭が斉藤を空手技でのした時、荷物に当たるか何かしたのだろう。
ハート型のチョコは、割れていた。
チョコの上には、「To Shin-ichi」の文字があった。

「ご、ごめんなさい!これは、あげられない!」
「何で?」
「だ、だって……!」
「蘭が、オレの為に、作ってくれたんじゃねえのか?」
「でも!」

蘭がチョコを取り戻そうと手を伸ばす。
オレは、その前に、割れた片方を取って、パクリと口に含んだ。

「うめえ……」
「新一!」
「どうせ、食べる時は割れちまうんだから。気にする事、ねえって」
「……」
「大丈夫。蘭の気持ちは伝わったから。オレ達の仲が壊れる事は、ぜってー、ねえよ」
「し、新一……」

蘭は最初、悲愴な顔をしていたが、徐々に笑顔になる。

「うふふ。前向きな新一の言葉を聞いてると、自分が悩んでいる事が何て下らない小さな事だったんだって、思えて来るわ」


そう言って、蘭が花のように笑う。
そして、蘭は、自分からチョコレートを一かけら割ると、手にとってオレの口に押し込んで来た。

「美味しい?」

蘭が上目づかいでオレを見る。
その表情が、オレの欲望のスイッチを押した。

オレはチョコを一かけら、蘭の口の中に押し込むと、唇を重ねて、蘭の口の中に舌を入れる。

「うんっ……」

唇を離すと、オレはにやりと笑って言った。

「な。美味えだろ?」
「ば、バカッ!」

オレは、更に別のかけらを、蘭の胸の上に置いた。
そして、蘭の体温で融けかけたチョコレートを舐め取るように、蘭の肌に舌を這わす。

「あん!」
「すげえ、甘えよ……チョコも、お前も……」

そうやって、蘭の体中にチョコレートを置いては、チョコと蘭の体とを同時に楽しむという事を続け、もう一度、蜜を滴らせた蘭の中に入る。

「あ……やあ……はあん!」
「蘭……蘭……!」

蘭の全身は、チョコレートよりもずっと甘く、オレを蕩けさせる。
オレは、夢中で堪能した。



結局、オレと蘭がオレの家にたどり着いたのは、日付が変わって、バレンタインデーが終わった後で。

2人仲良く風邪をひいてしまい、翌朝は2人とも、学校に行けないという体たらくだった。




To be continued……?


+++++++++++++++++++


<後書き>


うぎゃああ!

……学校でのエッチが書きたかったんです。
一番腐って蕩けているのは私の脳です。
ごめんなさい。

そして、またもや、蘭ちゃんにコナかける男を出してしまって、ごめんなさい。
この男、再登場しないと思う。多分。
使い捨てキャラです。
オリキャラにどんだけ愛情がないんだ、私?

普通なら、バレンタインネタだと、新一君にコナかける女の方が登場しそうですが、そうはなりませんでした。

なお、2人とも風邪をひいて同時に学校を休んでますが、この時期、風邪をひくのは特別な事でもないので、誰も、怪しんだりはしてません。


っていうか、園子嬢を絡めたいんだけど、時間的に余裕がなくて。
彼女だけは知ってますよ、2人仲良く風邪引いた理由。


ホワイトデー編は……あるかないか、分かりません。
あったとしても、やっぱり、「内容は、ないよー」なお話になるかと思われ。
もし書くなら、今度こそ、園子嬢を絡めたいかなと思います。

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