誰にも内緒



byドミ



(3)内緒の年越し



「あ……ん……やあ……っ」

彼の唇と指が、わたしの全身を這いまわり。
わたしの口からは、意味をなさない声があがる。


わたしの意識は朦朧として、もう何も考えられない。

好きな人から抱かれると、きっと幸せだろうなと思っていたし、実際幸せだったけれど。
こんな風に、気がおかしくなりそうな程の快楽があるなんて、想像もつかなかった。


「ん……ああっ……あはあん!」
「蘭……蘭……っ!」

彼が、わたしの体に触れながら、わたしの名を呼ぶ。
その甘い声が、耳をくすぐる。
すごく心地良い。


わたしのその場所は、自分でも信じられない位、しとどに濡れそぼっている。

彼が、わたしの両足を抱えて押し広げた。
わたしの中心部が彼の目の前にさらされる。
彼は、すごく綺麗だって言うけど……そんな所、自分でも見た事がない。
ただ、彼だけが、彼1人だけが、わたしのその場所を知っている。


そして。
そそり立つ彼のモノが、わたしの中に入って来た。

「う……んんっ!」

痛みは殆どなくなったけれど、圧迫感に、一瞬、息が詰まる。

彼は、わたしの中に入った後、腰を動かし始めた。
隠微な水音が響き始める。

わたしの胸の飾りは、彼の固く逞しい胸板にこすられ。
奥深くまで貫いている彼のモノが、わたしの中を行き来して。
大きな快感の波が、わたしを貫く。


「くっ!蘭……蘭!」
「んああん!しんい……ちぃ!」

頭の中が白くはじける。
わたしは彼の背に回した手に力を込め、爪を立て、手足を突っ張らせ、仰け反って絶叫した。

同時に、彼のモノがわたしの奥で脈打ち、わたしの中に熱いものが放たれた。


大きな波が去り、2人の荒い息と激しい心拍も、少しずつ落ち着いて来た。
彼もわたしも弛緩し。
わたしの中から彼のモノが引き抜かれた。

彼のモノが出て行った後、溢れ出た液体が流れ落ちる感覚があった。
彼から注がれたものと、わたしの中から出たものが、混じり合って流れて行く。


彼が、優しく微笑み、わたしを見詰め、顔中に優しい口付けが降りて来る。
そして彼は、わたしを抱きこんで横たわった。



   ☆☆☆



わたしは、毛利蘭。
帝丹高校の音楽教師。
そして、わたしを抱きしめて横たわっている彼は、工藤新一。
帝丹高校の生徒で、今年、2年生。

わたし達は、教師と教え子という関係だけれど、今年の初夏、想いを通じ合わせて恋人同士になった。
そして、クリスマスイブに、わたしは「新一のお嫁さんにして」と迫り、新一はその願いを受けてくれて、わたし達は結ばれた。

新一はずっと紳士的に振舞っていたので、わたしはてっきり、新一って淡白なのかって思っていたし、色々と思いなやんでもいたけれど。
新一に言わせると、ただずっと「我慢」していたのだという事で。

一度、わたしを抱いた新一は、たがが外れたかのようにわたしを求めた。
あれから3日間、新一とわたしは、殆どを新一の部屋で過ごした。
繰り返し求められ、一体、何度交わったのか、もう既に分からない。

新一がこんなに、熱いものを秘めているなんて、分かってなかったけれど。
わたし自身、セックスがこんなに気持ちが良いものだなんて、想像もついていなかった。

でも、勿論、気持ち良いのは、相手が大好きな新一だからで。
新一は男だからわたしと感覚は違うだろうけれど、新一も、相手がわたしだからこんなに貪欲に求めて来るんだったら、嬉しいな。


「蘭」

新一が、熱い目でわたしを見詰め、深く口付けて来た。

「え……新一?」
「欲しい」
「ま、待って……これ以上やったら、わたし、すり切れちゃう……」

新一とのセックスがすごく気持ち良いのは本当だけれど、さすがに、ここまで連続して抱かれると、こちらの身ももちそうにない。

「なるべく、優しくすっから……」
「で、でも……あん!」

新一がわたしの胸の飾りを吸い。
わたしも、波に呑まれそうになって行く。


その時。
突然、音が鳴った。
新一の携帯の音。

新一が忌々しそうに起き上がると、携帯に出た。


最初は、半分、むくれたような感じで携帯に出た新一だったけれど、次第に表情が変わって行く。
その眼差しが、探偵の眼差しになって行く。

ああ、警察から、事件解決の要請なんだ。
わたしは、ブランケットを体に巻き付けて起き上がる。


電話を切った新一は、ハッとしたようにわたしを見やった。
そんな顔、しないで。
あなたは、探偵。
皆に求められている。

わたしは、散らばっていた自分の服を集めて、身につける。
そして、裸のまま携帯を手にして突っ立っている新一に笑いかけた。


「新一。事件なんでしょ?」
「あ、ああ……」
「コーヒーと軽食を用意するから、新一は身支度をしてね」
「……わーった……」

わたしは、台所に行った。
新一は何となく、申し訳なさそうな顔をしていたけれど。
わたしは、嬉しい。
探偵としての仕事に行く新一を、送り出す事が出来るなんて。

本当に、奥さん、みたいで。


新一が身支度を整えてダイニングに来て、わたしが用意したサンドイッチとスープを食べ、コーヒーを飲んでいると。
表で、クラクションが鳴った。
迎えに来た警察の車だろう。

「蘭」
「行ってらっしゃい。待ってるから」
「あ……ああ」

新一は立ち上がると。
ポケットから、何かを取り出して、わたしの手に握らせた。
金属の感触に驚いて、手を開いてみると、鍵だった。

「ここの、合鍵」
「……新一?」
「蘭だったら、いつ来ても、いつ帰っても、構わねえから」
「良いの?」
「ああ。でも、今日は。待っていてくれると、嬉しい」
「うん、待ってる。だってわたし、休暇中だし」

そう言って笑うと、新一も、照れくさそうに笑った。

「じゃ、行って来る」

そう言って、新一はわたしの唇に軽いキスをおとすと、玄関から出て行った。



   ☆☆☆



お父様の家に1人暮らしをしている新一。
作家である新一のお父様・工藤優作さんの家は、とても大きな古い洋館だ。
けれど、中はかなり近代的に整えられている。

わたしは、衣類の洗い物を洗濯機に放り込んだ後、居間と食堂・台所・玄関・風呂場・トイレなどの、よく使うであろう場所の掃除をした。
多忙な男の子の1人暮らしにしては、散らかっていないけれど、細かな掃除は行き届いていない。

この家には、イブも、クリスマスの飾りもなく殺風景だったけれど、そろそろ、新年を迎える準備をした方が良いかもしれない。

これから先、わたしが時々来て、出来るだけの事をしてあげよう。
園子辺りからは「便利な女になっちゃダメじゃない」と釘を刺されそうだけど。
でも、高校生としての勉強をやりながら探偵活動もこなしている新一を、出来るだけ支えてあげられたらって思う。


いつか。
この家に、お嫁さんとして来られる日が来ると良いなと、わたしは夢想する。

新一の気持ちを疑っている訳じゃない。
わたし自身の気持ちは、きっと変わる事がない。

確実な未来なんて、ないもの。
何年か後、わたし達がどういう関係になっているのか、それは分からない。


でも。
色々あるかもしれないけれど、新一との愛を育んで、いつか花嫁になれたらと、考えずにはいられない。


家事をこなしていると、あっという間に時間は過ぎ。
日がとっぷりと暮れ、わたしは慌てて夕御飯を作った。


「ただいま」
「お帰りなさい」


新一が「ただいま」と帰って来て、わたしが「お帰りなさい」と迎える。
本当に新婚みたいで、顔がにやけてしまった。


けれど。
新一の顔がうかない事に気付いて、わたしの気持ちも沈んでいく。

何があったんだろう?


「新一。ご飯、出来てるわよ。それとも、お風呂が先?」

すると。
新一が目を丸くした。
そして、口の端をにっと上げる。

「そこに、『それともわたし?』って選択肢は、ねえの?」
「な……何バカな事言ってるの!?ドラマの見過ぎ?」
「いや。ドラマなんか、推理物しか見ねえし。あ、蘭と一緒にお風呂、でも良いけどな」
「そんなの、恥ずかしいから、止めて!」
「ちぇ」

新一は残念そうに言いながら、食堂に入って行った。

「すげえ、美味そうじゃん」
「そ、そう?」
「良いな。こういうの」
「えっ?」
「家に帰ったら、蘭がお帰りって迎えてくれる。何か……幸せ」
「新一……」

わたしが新一を見やると、新一は顔を真っ赤にして、目を反らした。

新一も似たような事、考えてくれたんだなって思うと、何だかとても嬉しい。


2人で食卓を囲む。
新一は、再び、何となく浮かない顔になっている。

「蘭。蘭はいつまで、ここにいてくれる積りなんだ?」
「えっ?」

新一の問いの意味がわからず、わたしはきょとんとした。

「有休を取ってて、その後、年末年始休暇だから。出来れば年明けまで、一緒に居たいって、思ってるけど……ダメかな?」
「や。オレも、一緒にいてえって思うけど……」

何だか、新一の言葉の歯切れが悪い。

「……何か、あったの?」
「実は。事件が……」
「解決出来なかったの?」
「いや。今日依頼された件は、解決した。けどよ。新たに飛び込んで来た依頼があって……それも、時間がかかりそうで……」
「受けたら良いじゃない。新一は、探偵でしょ?頑張って」
「場所が、東京近辺じゃねえんだ」
「……え?」
「鹿児島に、行かなきゃなんねえ。それも、多分、数日間。年内に帰れるかどうか、分からない」
「……!」

わたしは、息を呑んだ。

新一に、探偵として頑張って欲しい。
依頼があるなら、喜んで送り出したい。

でも、結ばれたばかりの新一と、これからまだ数日、一緒に過ごそうと思っていたのに。
もしかしたら、その間、殆ど、会えないかも、しれない……。


新一が、わたしをじっと見つめて来た。
その思い詰めたような表情に、わたしが、否やを唱えられる訳、ないじゃない。


「新一……行っておいでよ」
「蘭?」
「期待されて……名誉な事じゃない。そりゃ、わたしは、少し寂しいけど。新一に……だ、抱いてもらって、たっぷり充電も出来たし。だ、だから……」

笑おうと思った。
笑顔で送り出そうと思った。

でも、わたしの顔は、わたしの意思を裏切り。
涙がポロリと、零れ落ちる。


「蘭……」
「ご、ごめ……わたし……」
「あのさ。オレ、探偵である事は、オレのアイデンティティとも言える事で。それをやめるって事は、出来ない」
「分かってる!だから、行ってらっしゃいって……」

わたしは、必死で涙をこらえながら、言った。

「でも。毛利蘭と共にある事も、オレにとって……必要な事なんだ」
「えっ?」

わたしは、新一の思いがけない言葉に、思わず目を見開いていた。
何だか、すごい事を聞いたような気がする。


「どちらも、オレにとって必要で。それがないと、オレがオレでなくなってしまう。だから……」
「新一?」
「蘭。鹿児島まで、一緒に、行かねえか?」

わたしは思わず、息を呑んだ。



   ☆☆☆



新一が、一体どういう風に交渉して、どう話を持って行ったのか、それはわからない。
どうやら、わたしが助手として同行するという形で、ねじ込んだものらしい。


ともあれ、次の日には、わたしは新一と共に、機上の人になって鹿児島に向かっていた。
そろそろ帰省ラッシュが始まる頃だけれど、ファーストクラスの席はまだ充分空きがあった。

「新一。わたしの事、一体、警察の人達に、どういう風に説明しているワケ?」
「オレにとって、公私共にとても大切な女性だって言ってる」
「……」

まあ、警察にも守秘義務があるから、言いふらされるような事はないだろうけど。
昔、父の上司だった目暮警部とかに会った時、どんな顔をしたら良いものやら。


そして、わたし達は、鹿児島に降り立った。
鹿児島空港から市内までは遠い。
事件現場は、郊外の方らしいけれど、わたし達の宿泊するホテルは、桜島が良く見える、絶好のロケーションに建っていた。

鹿児島は南国で暖かいかと思っていたけれど。
まあ、少しは暖かいかな?
でも、東京程じゃないけど、やっぱりそれなりに、寒い。


新一はそのホテルから事件現場や警察署に通い。
わたしは、新一に同行してお手伝いしたり、市内観光をしたり、と日々を過ごした。

そして、新一は、年が改まる前に、無事、事件を解決した。


ホテルは、年明けまで取ってあり。
新一とわたしとは、ホテルの部屋でゆっくりとくつろぎながら、除夜の鐘を聞いていた。


「もう少しで、カウントダウンが始まるな」
「そうね。新一、せっかく鹿児島まで来てるんだから、明日は、霧島神宮まで初詣に行かない?」
「……それも、良いかもな。でも、その前に」
「新一?」

新一がわたしのベッドに移って来て抱き締めると、そのままわたしは押し倒され、部屋着がはだけられた。

「え!?今から、カウントダウン……」
「だからだよ」

だからって何が?
という疑問の言葉は、新一の口に塞がれてしまい、わたしの口から出る事はなかった。


鹿児島に来てからも、毎晩、新一から抱かれていたけれど。
新年を迎えようというこの瞬間にエッチなんて、一体、何を考えているの!?


でも、わたしの身も心も、新一の求めに敢え無く陥落して、わたしはあられもない声を上げて身悶えしていた。

新一がわたしの中に入って来る。

「あああん!」
「蘭……愛してる……蘭……!」

新一がわたしの耳元で囁き。
わたしは、歓びに震えた。


新一は、わたしがイキそうになると途端に動きをゆっくりにして、焦らす。

「お願い、新一、もっと奥まで来てぇ……!」

緩急をつけての行為に、わたしは自分の方から新一に、はしたないおねだりをしてしまう。

付けっ放しのテレビ画面の中で、大歓声が沸き起こり。
ホテルの近くでも、花火の音がしたような気がするが、わたしの意識は朦朧となっていて、それを殆ど感じる事がなかった。


やがて、新一の動きが激しくなり、わたしも新一も昇り詰める。


「あ……んああああん!あーーーっ!」

わたしが、ひときわ大きな声を上げ、新一にしがみつきながら背を反らし、果てると。
新一も、わたしの奥に、熱を放出した。

新一が弛緩して、わたしの上に崩れ落ちる。


「エッチしている間に、年が明けちゃったよ……」
「だから。年越しエッチ」

何ですって?
わざとなの?
わざとだったの?
何て下らない事を考えるのかしら?

わたしは、腹を立てて、新一の胸をポカリと叩いた。

「待て。怒るなよ。酔狂でんな事やったんじゃねえんだから!」
「えっ?」
「オメーさ。オレとの関係、刹那的なものかもしれない、いつ終わるかもわからないって、そんな風に思ってるとこが、あるだろ!?」

わたしは、動きを止めた。
新一の言う事は、図星だった。

「だ、だって……」
「オレは。今年もずっと一緒にいるって決意を込めて、オメーを抱いた。今年も、来年も再来年も、この先ずっと……ずっと、一緒だ!」
「新一……」

新一は、真剣な眼差しと声で、わたしに告げた。
わたしの目から、涙が溢れて落ちる。

「オレはぜってー、オメーを離さねえから!」
「うん。うん……!」

嬉しい。
すごく嬉しい。


新一がわたしの手を取った。
わたしの左手の薬指に、ごくごく小さなダイヤがついたリングが、はめられる。

「ごめん。オレの今の経済力では、これが精一杯。でも、正式なリングだから……」
「新一ぃ」


わたしは、新一の胸に縋って泣いた。
新一はわたしを、優しく力強く抱きしめてくれた。


そして。
ある程度、予測はついていたけれど。
わたしが落ち着いた頃、新一がまた、わたしを求めて来て、わたしはあられもない声をあげて身をくねらせていた。


わたし達が桐嶋神社に初もうでに行けたかどうかは、ご想像にお任せする。



新たな年を迎えた瞬間。

こうして、わたし達は、秘密の「永遠(とわ)の誓い」を立てたのだった。




To be continued……?



+++++++++++++++++++



お話自体は、続きます。
というか、これから先が本番というか。


ただ。
それをweb上で発表するかどうかは、未定です。


その間を埋めるバレンタインデーやホワイトデーの話を書くかどうかは、私ドミの余裕がどの程度あるかによります(苦笑)。

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