むらさきの にほえる……
byドミ
(拾弐)姫戦
「新一君、助けて〜!」
突然、工藤邸に飛び込んで来たのは、蘭の親友であり、鈴木伯爵令嬢でもある、園子だった。その台詞の突拍子のなさに、蘭も有希子も、屋敷の他の者達も、目を丸くするしかなかった。
「園子?新一なら、今は仕事で出払っているけど。どうしたの?」
「あら!蘭、新一君の事、呼び捨てなの?にくいわね〜。って、それどころじゃなくて!」
「だから、どうしたのよ?園子が新一に助けを求めるなんて、尋常じゃないわよね」
「らん〜!わたし、わたし……風戸京介から、結婚を申し込まれてしまったよ〜〜〜!」
「ええええっ!?」
蘭は、思わず仰け反った。
単に、身分と立場から言うならば、申し分ない縁談であり、おめでたい事である。けれど、風戸京介は、人格的にろくでもないヤツであり、とんでもない犯罪に手を染めているだろう人物でもあり、この縁談で園子が幸せになれるとは、とても思えなかった。
それに何より、園子には、深く愛し合っている相手がいるのだ。
「園子。まさか、鈴木伯爵様は、その縁談を受けたんじゃないでしょうね!?」
「お父様は、わたしと真さんとの仲に良い顔をしてはいないけれど、だからと言って、侯爵家と縁続きになりたいと思っている訳でもないわ。でも、今回は正式な申し込みで、正当な理由もなく断ると、風戸家の顔をつぶす事にもなりかねないから。お父様も、迷っているの」
「で、でもっ!小父様は、わたしとの件を、知っているんでしょう!?」
「ええ。でもね、蘭。女癖が悪いってだけでは、家同士の正式な縁談を断る理由には、ならないのよ」
「そ、そんな……!」
「お父様も、わたしの気持ちを考えてくれてはいるから。だから、困って頭を抱えているの」
蘭は、涙を流す園子を、しっかりと抱き締めた。とにかく、この親友を、あの風戸京介の妻にさせられて苦しむ羽目には、絶対にさせたくない。
「園子さん。私からも鈴木伯爵に、とにかく時間稼ぎをして置くよう、伝えるわ。そのような事には絶対にさせないから、気を強く持って」
有希子が、いつにない厳しい表情で、言った。
「小母さまあ」
園子が、涙でぐしゃぐしゃの顔で、縋るような眼差しを有希子に向けた。
「園子。まあ、色々は置いといても、とにかく風戸京介子爵は、犯罪に手を染めている可能性が高いの。いかに侯爵の跡取りとは言え、いずれ絶対に裁かれる事になるわ。だから、とにかく今は、時間稼ぎをするしかない。絶対に、園子を酷い目に遭わせたりはしないからね」
園子は、蘭に抱き縋って、うんうんと頷いた。
「それにしても。財を手に入れた後は、毛並みの良い女性を妻にして、箔をつけようって訳?本当に下衆ね」
有希子が、吐き捨てるように言った。
「どうしたら良いのかは、優作や新一とも相談しましょう。園子ちゃん、貴族同士の縁談は、よほどの事情でもない限り、時間をかけるのが常だから。まあ、時間を稼げば、大丈夫よ」
「はい、小母様」
「時に、園子さん。あなたにはもしかして、想い想われるお相手がいるの?」
有希子の問いに、園子はほんのり頬を染めた。
「真さんの気持ちは、今一つハッキリしないから……もしかしたら、わたしばっかり熱をあげているのかなって、不安になる事もあるんです」
「園子。京極さんは、絶対園子の事をにくからず思ってるって」
「蘭、どうして分かるのよ?」
「どうしてって……傍から見たら、一目瞭然だもん」
「あらあら、まあまあ。蘭ちゃんも園子ちゃんも、自分の事になると鈍感なのは、一緒なのねえ」
有希子がからかうように言って、蘭も園子も赤くなった。
「園子が、恋をしているお相手は、近衛兵であり、憲兵隊の師範をも務める、京極真大佐なのです」
「それは、かなり立派な方じゃないの」
有希子が目を細めて言った。
「でも、身分が……士族から、ようやく男爵になった家柄ですし……」
園子が、俯いてそう言った。
「そうだったの。新ちゃんと蘭ちゃんとは、逆パターンなのねえ」
そう言えば、もし身分が逆だったら苦労しただろうと、新一が言っていたなと、蘭は思い返す。
「でも、史郎さんは、そこら辺、かなり開明的な考えの持ち主だと思うわよ。あなたは次女で、家を継ぐ婿取りをしなければいけない立場でもないし。それにまあ、男爵家から婿入りも、不可能ではないしね」
「でも、お父様は、あんまり良い顔しなかったんです……」
「それはね、園子ちゃん。きっと、父親の感傷よ。身分がどうこうの問題じゃないと思うわ」
「え!?」
「いっそ、その京極真さんと、契ったら?キズものになれば、風戸家に嫁入りは出来なくなるでしょ?」
「ええええっ!?」
有希子があっけらかんと言った言葉に、園子と蘭は、真っ赤になって叫んだ。
「お、小母様!それは、無理です!」
「あら?どうして?」
「蘭達の時とは、立場が違います。お父様は、真さんとわたしの事、絶対許してくれなくなる」
「そうかなあ?他に嫁入る訳には行かなくなるんだし、良いアイディアだと思うんだけどなあ」
園子は真っ赤になり、有希子はあっけらかんとしていた。蘭が考え込んで、口を挟む。
「……園子、案外良い手かもよ」
「ら、蘭まで、何て事言うの!?」
「あ、本当に契れって言うんじゃないわよ。別に嘘でも、構わないじゃないの」
蘭の顔に浮かぶ強かさに、園子は妙に感心してしまった。
「蘭。あんた、強くなったわね。新一君のお陰なのかな?」
「そ、園子!」
園子のからかい顔に、今度は蘭が真っ赤になった。
「でも、確かに良い手かもね。わたしはあなた様に望まれるような、清らかな女ではありません、って訳よね」
「園子。気をつけた方が良いわ。風戸京介子爵は、どうやら、後ろ暗い商売で、財を成したらしいの。下手に動くと、何をされるか分からないわ。新一が……新一様が、風戸家の悪行を暴こうとしている。だから、今は下手に動かず、待ってて」
「後ろ暗い商売……やっぱりね。パパが、風戸にわたしを嫁入らせたくないのは、そこもあるのよ。ちょっと前まで、台所事情が火の車だったあの家が、今や凄く羽振りが良いのだもの」
「園子!きっと悪いようにはしないから、くれぐれも無茶はしないのよ!」
「うん、任せて!」
蘭は、笑顔で帰る園子に、一抹の不安を感じていた。
新一にしろ蘭にしろ園子にしろ、「無茶が十八番」のようなところがある。自分の事では自覚がないが、親友の事では不安になってしまう蘭であった。
☆☆☆
「園子さん、一体、どうなさったんですか?」
近衛服を着た、長身で色黒の、目元涼やかな若者の姿に、園子は見惚れて、ボーっとなって見上げていた。手招きで、自分の向かい側に腰かけるよう促す。
ここは、最新流行の「カフェ」という所であるが、そのような場所に、妙齢の女性と軍服の男性が向かい合って座ると、大層人目を引いた。男女の「逢引」が、まだもの珍しかった時代である。
そもそも、伯爵令嬢ともあろう方が、カフェなどに出入りする事自体、有り得ないのだ。
妙に開明的で行動的な園子は、令嬢としてはかなり型破りだった。園子が呼びつけてカフェーで待ち合わせたのは、現在近衛兵として勤める京極真大佐であった。
「園子さん?」
真の訝しげな声に、園子は、見惚れている場合ではなかったと思いだす。
「わたしね……風戸京介子爵から、結婚の申し込みがあっったの」
真の顔色が、みるみる変わった。苦しそうに顔が歪み、テーブルの上で、拳が握り締められる。
「そ、その……お祝いを、私に言えと仰るのですか?それは、あんまりです!」
「へっ!?」
園子の目は、丸く見開かれた。実直な真であるが、どうも時々、思い込みが激しいところがある。
「園子さんのような素晴らしい女性に、私など、釣り合う筈もないと、分かっていました。けれど、あなたを深く想う私に、そのような残酷な事を……」
「真さん、違うのよ。わたしは、この縁談、断る積りなの」
「え?そ、園子さん……」
今度は、真が目を丸くする。
「け、けれど……侯爵家からの縁談を断るなど、そのような事、許されるのでしょうか?」
「真さんは、わたしが風戸家に嫁入ってもイイって思ってるの?」
「そ、それは!私には死ぬより辛い事ですが、家同士の縁談を簡単に断る事など、無理なのではないですか?それに、侯爵家の後継ぎなら、園子さんの夫として相応しいのではないかと……」
真の顔が、苦渋に歪む。園子は、不器用なこの男が、園子に真っ直ぐ想いを向けてくれている事を感じ、微笑んだ。
「真さん。風戸子爵が欲しがっているのは、わたしじゃない。鈴木園子という女じゃないの。彼が欲しがっているのは、わたしの、伯爵令嬢という身分と家柄」
「園子さん!?あなたのような素晴らしい女性だから、子爵が見染めたのではないのですか?」
「違うわよ。その男、最初は財産目当てに、身分はないけど豊かな商人の娘を妻にしたの。で、その妻に先立たれると、台所事情が潤ったから、今度は身分がある妻が欲しいだけなのよ」
「そ、そんな……!」
「それにその男、前にわたしの親友・蘭を手篭めにしようとした……」
突然、真がガタンと音をさせて立ちあがった。その顔は、憤怒に歪んでいた。
「ま、真さん?」
「そのような……たとえ身分があろうとも、園子さんを一筋に思わないような男、あなたに相応しくなどありません!」
真の手が園子の手をしっかりと握った。
「その男が、あなたに相応しい男であれば、私は、身を引くべきだと考えていました。人格が高潔で、あなたを一筋に想い大切にする、そして、身分と財産がある、そういう男であれば、私は……。けれど、他の女性にも手を出そうとするような、節操のない男であれば、絶対にあなたを渡しはしません!」
園子は感動の面持ちで真を見た。彼は、風戸の身分に臆する事など、していない。ただ、園子の幸せの為には、相手が相応の男であれば身を引くべきではないかと考えていたようである。
「園子さん、私は何をすれば良いのですか?」
「わたしと一緒に、風戸侯爵家へ行って下さる?」
「はい!しっかりと、お供します!」
真は、力強く頷いた。
園子は、さすがに一人で風戸侯爵家に乗り込む度胸はなかったし、蘭を手篭めにしようとしたり犯罪に手を染めようとしたりする風戸京介だから、一人で乗り込むのは無謀だと分かっていたが。真と一緒に行けば、大丈夫だと考えていた。
それがいかに甘い了見であったのかは、後から思い知らされる事になるのである。
☆☆☆
京介の屋敷は、風戸家の羽振りが良くなってから新たに購入した、元々は江戸時代の豪商が建てた日本家屋であった。
屋敷も庭も手入れが行き届き、園子は、自分の趣味ではないけれど、見事な美しい屋敷であるとは感じていた。ただ、何となく、開放的な和風の屋敷は、現代風の洋館に比べ、不用心だと感じていた。
「来て下さるとは、嬉しいですよ、わが婚約者殿。そちらは、ボディガードですか?」
この屋敷の主である京介が、突然の訪問の2人を、(そこだけは洋風に改装してある)応接室に招き入れ、相対した。端正な顔に、穏やかな微笑みを浮かべる、目の前の男が、実は、油断ならない・一筋縄では行かない男である事は、園子にはもう分かっている。
「わ、わたしは、あなたの婚約者ではありません。父はまだ、お返事を差し上げていない筈です」
「おや。私には、断られるべき理由など、ない筈だと思いますがね」
風戸京介は、笑顔で言ったけれど、その目に剣呑な光が浮かんでいる事に、園子は気付いた。
「あ、あの。とてもありがたいお申し出だと存じてますわ。でも、わたしは、とても子爵様の妻になれるような女ではないのです」
園子は、ちらりと少し後ろに控えた席に腰かけている真を見やった。
「わたしは、その……こちらに居る京極真大佐殿の『妻』に、なってしまったのですもの」
「ええっ!?」
「何っ!?」
真は真っ赤になって叫び、京介は、険しい目付きになった。
「わたしはもう、この方に身を捧げてしまいましたの。だから、とても風戸家の花嫁になるような資格は……」
園子は、恥ずかしげに俯く振りをしながら、真の方を向き、話を合わせてくれるように必死に目で合図を送った。真は、真っ赤になって口をパクパクさせている。
と、突然。
「うわああああっ!!」
真の座っていた椅子の下の床が、消失し、真の姿がぽっかりと開いた暗い穴に吸い込まれて行った。
園子は息を呑んだ。
「ま、真さん!」
慌てて駆け寄って、穴を覗き込む。そこは真っ暗で、どの位の深さなのか、見当もつかない。
「真さん、真さん、真さあああああん!!」
園子が、声を限りに叫ぶが、応えの声はない。
「無駄だよ。そこから落ちて、無事でいられる筈などない」
背後から聞こえた声に、園子は振り返り、キッと睨みつける。
「ま、真さんは、強いんだから!こんな事位で、どうにかなる筈なんか、ない!」
京介は、冷たく笑うと、園子の顎を捕えた。
「男の心配をしている余裕があるのかね?飛んで火に入る夏の虫、という言葉を知っているか?君はもはや、私の手の内だ」
園子は、恐怖と怒りで、身を震わせていたが。負けるまいと必死に、京介を睨みつけた。京介の顔には、残酷な冷たい笑いが浮かんでいた。
「今迄、何も考えていないアーパー娘だと思っていたが、今の君は、なかなかに綺麗で魅力的だよ。君の友達と同じく、君も嘘つきである可能性は高いから、本当にキズものになっているのかどうかは、後でじっくりと確かめさせて頂こう」
☆☆☆
園子が、行き先をハッキリ告げないまま出掛け、帰って来ないと、工藤邸に連絡が入ったのは、その夜の事であった。
「……どうやら、園子さんは、勇み足をやってしまったようね」
有希子の言葉に、蘭は息を呑んだ。有希子は、蘭を真剣な目で見据えて、言った。
「蘭ちゃん。今夜、優作も新ちゃんも、風戸家の調査で、帰って来ないわ。でね、蘭ちゃん。くれぐれも、蘭ちゃんまで勇み足をしないようにね」
「お、お義母様!」
「もしも、蘭ちゃんの身に何か遭ったら、新ちゃんはそれこそ、どうなる事か」
「……はい……」
「園子さんには悪いけど。私には、新ちゃんと蘭ちゃんの方が大切。きっと、園子さんは新ちゃん達が助けてくれるから、信じて待っててあげて」
有希子の言葉に、蘭は力なく頷き。有希子の眼の光は、和らいだ。
『でも……園子が一人で無茶をするとは思えない。多分、京極さんがついていた筈。それでも、こういう事態になったって事は……』
蘭は、大人しく自室に戻りながらも、心騒いでどうしようもなかった。その時。
「蘭様、失礼します。遠山和葉様がおいでですが、お会いになられますか?」
絢がドアをノックして、声をかけて来た。
「ええ、すぐ、伺うわ」
蘭は、身支度を整えると、応接間に向かった。
応接間で待つ和葉は、前に会った時と違い、洋装だった。しかも、下がスカートではなく、ズボンである。欧米の貴婦人の、乗馬スタイルであった。
「蘭ちゃん、夜分に突然、堪忍な」
「ううん、そんな事。でも、突然、どうしたの?」
「平次も、今夜は伯爵様子爵様と一緒に、調査に出向いとるんやけどな。鈴木家の令嬢が居なくなったっちゅう話を、耳にしてん。確か蘭ちゃんの親友や聞いてたから、蘭ちゃんが大丈夫か、気になってん」
「和葉ちゃん……」
有希子の前では流せなかった涙が、和葉の言葉でポロリと零れた。
「そりゃ、新一を信じているけど……でも、新一が園子を助ける間に、園子の身に何か遭ったらって思うと……」
「蘭ちゃん!そない悠長な事、言うとられへんで?アタシ、聞いてまったんや」
「え!?何を!?」
「風戸の犯罪は、麻薬取引だけやあらへんで。いたいけな女の子達を集めて、外国に売り飛ばす、そないな商売もやってんのや!」
「!!」
蘭は、息を呑んだ。
「今夜、船が出るいう話なんや。もし、鈴木家の令嬢がそん船に乗せられてんのやったら、平次達が間に合わへん場合……」
蘭は、音を立てて椅子を蹴り、立ち上がった。
「蘭ちゃん、どないする気ぃや?」
「園子を助けに行く!和葉ちゃん、止めないでね!」
「止めへんけど……どないして行く積りや?港まで遠いで?それに、そないな格好では、園子ちゃん助ける前に、捕まってまうやろ?」
「で、でも!」
「どないしても、蘭ちゃんが行く言うんやったら。アタシも、一緒に行くで」
「え……?」
「折よく、今宵は隅田川の花火大会の日や。アタシは、平次も居のうて暇やし、蘭ちゃん誘うて、白馬警視総監の屋敷で、一緒に花火大会見に出かけるて、さっき、伯爵夫人に言うて来たんや」
「か、和葉ちゃん!」
「せやから、早よ、動き易い恰好に着替えて来いや。外に車が待ってんから、一緒に行くで」
「分かった!すぐに、着替えて来るから!」
蘭は、一旦自室に戻ると、「工藤家の馬で乗馬をする為に」作って貰った乗馬服に、急いで着替えた。
そして、堂々と、「遠山和葉さんと一緒に花火を見る」名目で、蘭は和葉と共に、家を出た。
「何やて!?警視総監とこじゃのうて、東京湾の港に行くやて!?和葉ちゃん、堪忍してや、俺が後で遠山のおやっさんや平ちゃんから、怒られてまう」
「大滝はん。切羽詰ってんのや、四の五の言わんと、東京湾に向こうてや!」
服部大阪警察部長の部下だという、大滝警部は、どうやら、和葉に頭が上がらないらしい。ブツブツ言いながらも、和葉の言う通りに、車を走らせる。
和葉が、大滝警部に全幅の信頼を置いているのを見て、蘭も安心して、座席に身を預けた。
「園子。待ってて。すぐに助けに行くからね」
☆☆☆
「蘭ちゃんは、乗馬服を着てた?」
「は、はい。車に乗って遠出するので、浴衣では差し障りがあると仰いまして」
工藤伯爵夫人である有希子は、絢の報告に、溜め息をついた。
「そう、分かったわ。ありがとう。絢ちゃん、もう遅いから、あなたは休むようにね」
絢が一礼して、下がるのを見届けて。有希子はやおら立ち上がった。
「もう、夫婦は似るものだというけれど、蘭ちゃんの無鉄砲さは、新ちゃんのが移ったのかしら?」
そして、有希子は着替え始めた。
日本では男性でも殆ど身につけた事がない、革製のズボンを履き、革製のジャンパーを羽織る。革製の帽子を被り、ゴーグルを嵌めた。
「お、奥様!その格好は、まさか!」
門番が、有希子の姿を見咎めて、叫んだ。
「久し振りに、出動よ。後はよろしくね」
有希子は、日本では珍しい、輸入物の、サイドカー付きハーレーダビットソンにまたがり、けたたましいエンジン音を立てて、飛び出して行った。
工藤家の奥様は、たおやかな外見に似合わず、非常に活動的であるというのは、伝統であるようだ。
奥様がお輿入れする前の若い頃から、よく知っている門番は、深いため息をついて、奥様の姿を見送った。
有希子にしろ、蘭・園子・和葉にしろ。
男性陣に劣らず、無謀で活動的なのであった。
(拾参)に続く
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<後書き>
名探偵コナンの登場人物は、無謀で無鉄砲な人が多いと、思います。(個人的には、そういった無鉄砲さが、決して嫌いではありません)
お嬢さん方も、殿方達同様、いや、場合によってはそれ以上に、無謀で無鉄砲で。でも、男性陣女性陣共に、他人の為に勇気を奮う、心優しい人達ばかりですね。
で、危機に次ぐ危機、って感じですが。誰かが大怪我するとか、そういう事はありませんので、その点はご安心を。
次回では、新ちゃん平ちゃんがそれぞれに、心臓に悪い思いをさせられる事になると、思います。
戻る時はブラウザの「戻る」で。