Love Security



byドミ


どうして、こういう事になったのだろうと、蘭は、まだわずかに残った理性で考えていた。

心は死ぬほど嫌がっているのに、体は嬉々として従おうとしている。
今はまだ、指一本触れさせていないが、陥落するのも時間の問題。

「おや……毛利さん、飲み過ぎちゃった?」
「俺達が部屋まで送ってあげるよ」

親切ごかしに言う下卑た男たちのにやにやした笑いに、心底嫌悪感を覚えながらも。
このまま連れていかれれば、体は喜んでこの男たちに応じるだろうと解っている蘭は、必死で抵抗していた。

社員旅行に訪れた地方都市の宿で、お定まりの宴会。
よもや、その宴席で、一服盛られようとは。

断じて、アルコールの所為ではない。
第一蘭は、酔いつぶれる程の量を飲んではいなかった。
おそらく、目の前にいるこの男たちが、何か薬を使ったのであろう。


体が熱く、秘められた場所からとろりと溢れるものがあり、欲情しているのが、自分でも解る。
それでも。


『いや、いや!この人たちとなんて、絶対に、嫌!』

蘭は、この場にいない愛しい男の顔を思い浮かべ、必死で携帯に手を伸ばした。
奮える指で、何とか操作しようとする。

けれど、虚しく手から携帯が滑り落ちた。


「毛利さん、大丈夫?」

何も知らぬげな旅行幹事の男が、蘭のところまで来て覗き込んだ。
大丈夫とは、とても言えない。

蘭は、限界が近かった。
明日の朝、薬が切れたら、死んだ方がマシという位に後悔する事になるだろうが、今はもう、理性がほぼ完全に焼き切れかけていて、たとえ相手が誰であろうと身を任せてしまいそうだった。

蘭を心配そうに覗き込んでいるこの男は、蘭に薬を盛った男よりマシかもしれないが、進んで身を任せたい相手ではない点では同じ事。
けれど、今の蘭は、誰にでも簡単に堕ちそうだ。

はだけそうになる浴衣の合わせと裾を手で押さえながら、霧散しそうになる理性をかき集め、蘭は必死で耐えていた。
けれどもう……。

蘭は、この場にいない、愛しい男性に心の内で呼びかける。


『社長……社長……お願い……助けて……!』
「毛利、大丈夫か……!?」

突然、しっとりとしたテノールの声が聞こえ、蘭は縋るように目を向けた。

蘭が心の中で呼んだ相手は、この場にはいない筈だったのに。
蘭の心の声に応じるかのようにその場に現れ、声を掛けてきた相手に、蘭は思わず幻覚かと思った位だった。

けれど、蘭を心配そうに覗き込む顔は、確かに蘭の想い人で。
蘭は、思わず縋りついてしまっていた。
相手は蘭をそっと抱き締め返す。


「毛利……?」
「社長……!わたし、わたし……!」
「どうした?」

蘭の上司である社長・工藤新一が、蘭を優しく抱きとめて、背中をあやすようにポンポンと撫でてくれる。
その感触に、蘭はゾクゾクと身を震わせていた。

「体が熱くて……熱くて、どうしようもないのぉ……社長……何とかしてぇ」
「毛利?」
「お願い……抱いて……」


宴席ではあったが、突然の社長の登場辺りから、皆固唾を飲んで事態を見守っていた。
なので、蘭が新一に抱きついた事も、その後、新一を誘う言葉を出した事も、周りには丸わかりだったが。
もう、蘭には、そんな判断能力も残っていない。

「わかった」

新一は短く答えると、蘭を横抱きに抱え上げる。
男性社員の怒号や女性社員の悲鳴を受け流し、新一は蘭を抱え上げてその場を去って行った。
蘭は、しっかりと新一の首筋にかじりついている。


一部の目敏い者たちは、新一が蘭の乱れた裾をさり気なく直しながら抱え上げていたところまで、しっかりと目撃していた。



   ☆☆☆



蘭が勤める会社は、元々、社長である工藤新一が探偵であった事から端を発し、今ではセキュリティ関係などに事業を拡げたところである。
新一が会社を興したのはまだ学生の頃で、あっという間に結構大きな企業に成長した。
最初から社長だった訳だが、現在、まだ20代の若さである。

蘭は、大学在学中に秘書の勉強もしており、卒業後、新一の会社に秘書として就職した。
父親が経営する毛利探偵事務所にそのまま就職しようかと思った事もあったが、家族従業員に充分な給与を出せる状況でもなく、他の世界も見た方が良いという事で、他のところに就職する事にしたのだった。

就職して3年間。
真面目に働く蘭は、適性もあったらしく、今は、筆頭秘書になった。
蘭の前に筆頭秘書だった内田麻美は、結婚し、寿退職した訳ではないが、秘書室を離れ事務部門を統括する部署に部長待遇で移っていた。

間近で社長と接するうちに、蘭は、新一が世間に見せている顔と大分違う面を持っている事に気付いてきた。
社長業などをやるよりも、現場で探偵をしている方が性に合っているらしく、実際、今でも時々現場に飛び出していく事がある。
蘭はそういう時、新一と共に現場に赴く。

「今まで、オメーのように現場までついて来てくれる秘書はいなかったなあ」
「……邪魔でしょうか?」
「いや。正直、助かるけどよ」

新一の蘭に対する口調も、いつの間にか江戸弁のべらんめえ口調に変わっていた。
そして……現場で嬉々として、けれど真摯に探偵として動く新一を見ている内に、蘭の心には、いつの間にか、新一への思慕が生まれていた。

新一は、蘭が知る限り、この3年間、女性の影はなかった。
探偵なので、会社の人間には巧妙に隠しているのかもしれなかったが。
ただ、社長である新一は、いずれ、仕事に都合の良い女性とお見合いに近い形で結婚するのかもしれないと、蘭は思っていた。


けれど。
蘭はある時、聞いてしまったのだった。
それは、内田麻美女史の結婚式が近づき、異動が決まったばかりの頃。

蘭は仕事終了後、家で読もうと思っていた引継ぎ書類を忘れていた事に気付いて、社長室の隣にある秘書室に戻っていた。
社長室には灯りが点いていて、そこでの話し声が聞こえてしまった。
声の主は、社長である工藤新一と、筆頭秘書だった内田麻美だった。


「社長。お世話になりました」
「……別に、辞める訳じゃないだろう?君はとても良くやってくれていた、感謝している。ただ、君の能力は一介の秘書として終わるには惜しい、事務部門を統括する部署で欲しがっていたからな。子どもが出来た後も、もしできるなら、我が社に残って頑張って欲しいと思っているよ」
「私は1か月後、結婚します」
「ああ、勿論分かっている。スピーチを頼まれている事だし。改めて、おめでとう」
「……少しでも、残念だとは、思っていただけないのですね……」
「内田君。君はもう、結婚するんだろう?今更、何を……」
「最低なのは、自分でも、分っているんです。社長……私は、不倫をする積りはありません。でも、今ならまだ……独身だし……」
「内田君?」
「独身最後の思い出に、一度だけで良いんです。私を、抱いて下さいませんか?」
「……それは、できない。オレには、気になっているヤツがいるから……人の事も自分の事のように思って泣いちまうお人好しのみょうちくりんが……」

新一の言葉に、麻美だけでなく、つい話が聞こえてしまっていた蘭も、息を呑んだ。

麻美と新一とはお似合いだと、社内中で噂になっていたし、麻美が他の男性と結婚すると聞いた時は、驚いたものだったが。
麻美が新一の事を好きで、けれど新一には他に好きな女性がいるのだと知ったのは、かなりの驚きだった。

そして、麻美だけでなく、蘭も失恋確定だと思い、胸が痛んだ。

「そ、その方と、お付き合いしている訳ではないのでしょう?」
「ああ。けどオレは……惚れた女でなければ、抱けない」
「……分りました。社長、今夜の事は、忘れて下さい……」
「ああ。分かった」


新一は人当たりがよく、本質的に優しい人間だと思うが。
惚れた女性以外に対して、こういう風に冷たい部分もあるのだと、蘭は胸痛む思いで聞いたのだった。


麻美の結婚式から、数か月が過ぎ。
工藤コーポレーションの社員旅行の時期となった。

年に一度、社員の積み立てに会社からも補助が出て、温泉地への社員旅行が行われる。
管理部の者もその対象になっているが、さすがに新一たち経営陣は、そこに参加する事はない。

ただ、今年は、新一の出張が、たまたま社員旅行先と重なったのだった。

蘭は筆頭秘書として、新一の宿泊先の手配をした。
その時、「万一に備えて社員旅行の宿泊先と同じ宿に」と言って来たのは、新一だった。

最近、仕事を利用して普段は手に入れられない筈の薬物などを横流ししている者がいると、蘭は新一から聞かされていた。
社員旅行中に彼らが行動を起こした場合は、社長が乗り込んで迅速に対応する事になっていたのだ。


「部屋は、ネットにつなげる環境で、応接セットもあるクラスの部屋にしてくれ」
「かしこまりました」
「……せっかくの温泉だし、夜くらいは女の子でも呼んで過ごすかな……」

新一の今迄にない言葉に、蘭は驚き、思わず新一をマジマジを見詰めた。
この人もやっぱり男なんだと、軽蔑の気持ちが湧き上がってくる。

「じゃあ、手配しましょうか?」
「……おい。冗談だよ。そんな目で見るな。第一、仕事じゃない事に、オメーが手を煩わせる必要はない」
「……」
「オメー達が同じ宿の中で宴会をしているだろうと思ったら、ちょっとだけ恨めしくなっただけだ」
「だったら、社長も宴席にお見えになればよろしいのに」
「そういう訳には行かないだろう。そんな事したら皆、萎縮しちまって楽しく飲めないだろうし。……もしよければ、だけど。宴会が終わった後でも、オレの部屋に来てくれねえか?2人で飲もう」
「えっ!?」
「別に仕事じゃねえし、無理はしなくて良いが……気が向いたらな」
「は……はい……」

蘭は、紅潮する頬を隠すようにして、頷いた。

多分、新一はただ、上司と部下として交流する為に、蘭を誘っただけだろう。
おそらくそこに、邪な気持ちなどはない。

それでも、蘭は嬉しかったし……密室で酔った勢いで、万一間違いがあっても、新一相手なら構わないと、思っていた。



   ☆☆☆



社員旅行は普通に楽しく、温泉街を練り歩き、他の女子社員達と大浴場に入り、そして宴会があって。
食事は美味しかったが、男性社員たちが入れ代わり立ち代わり、蘭に酒を飲ませようとするのには、少し閉口した。
けれど、限度を超えないように適当にいなす術は、身につけていた……筈だった。

普段、蘭とあまり交流のない、男性社員3人が、蘭のところに来て注いだお酒は、口に含むと、ちょっと妙な味がしたので、少ししか飲まなかった筈だが。
蘭は、体全体が熱くなり、下腹部がきゅうんとなって、今までにない淫らな気持ちになってしまっていた。
何か薬を使われたというのは、すぐに分かった。

そして蘭は、想い人に助けを求めた。


今、蘭は新一の宿泊部屋のベッドの上で、新一に抱き締められ、口付けを受けていた。
蘭にとって、口付けさえも、生まれて初めての事だったが。
新一の唇が蘭の唇を味わうように動き、新一の舌が蘭の口の中に侵入して蘭の舌を絡め取ると、それだけで蘭の下腹部が疼き、秘められたところからとろりと溢れだすものがあった。

「ん……んん……んっ!」

口付けながら、新一の手が蘭の浴衣の帯を解き、袷が広げられた。
胸の下着はつけていないので、蘭の丸い乳房が露わになる。

新一の手が蘭の胸の膨らみを覆い、その指が頂をこすると、電流のような快感が体を貫いた。

「んんんんっ!」

新一が蘭の唇を解放する。
蘭はすっかり息が上がり、唇の端から2人の唾液が混じり合ったものが溢れ落ちた。
新一はそれを指で掬い取ると、蘭の浴衣を完全に脱がせ、秘められた場所を覆う布を引き下ろした。

「あ……」
「蘭……すげー……」

新一から「蘭」と名を呼ばれるのも初めての事で、蘭はそれだけでもゾクゾクとする。
新一も自身の着ている浴衣を脱ぎ捨てた。
下着を脱ぐと、新一の下腹部からは、そそり立つ男性のシンボルが溢れ出た。

薬で理性がとんでしまっている蘭だが、「こんな大きいの、入るの!?」と思わず一瞬ビビってしまった位である。

新一は再び蘭の上に屈み込むと、蘭の乳首の片方にむしゃぶりついた。

「あああん!」

舌先で果実を転がすように舐めまわされると、信じられない程の快感が体を貫く。
蘭はあられもない声をあげて身悶えした。

新一の唇と指が、蘭の全身を這い回る。
蘭は気持ち良くて声を上げ続け、蘭の秘められたところからは蜜が溢れ続けていた。
下腹部が疼き、全く経験がないのに、早くそこに新一のモノを入れて欲しくて気が変になりそうだった。


新一が蘭の両足を抱え上げ、蘭のその場所をじっと見つめる。

そして、蘭の花びらに口を寄せ、花芽を刺激し、蜜を啜った。

「あ……ああああん!社長……早く……お願いぃい!」
「ああ。行くぜ、蘭」


新一が体を起こしたと思うと、蘭のそこに灼熱の塊があてがわれ、そして一気に貫かれた。


「あっはああああああん!」

痛みは僅かで、圧倒的な快楽に、蘭は背中を反らせて絶叫した。
新一がそのまま激しく腰を振る。

「あああっ……すごい……イイ……っ……はああっ!」
「蘭……蘭……オメーん中……最高だ……くううっ!」

蘭はあっという間に達し、足が空に向かって突っ張ると同時に、絶叫を放って果てた。
同時に、新一のモノが蘭の奥で脈動し、熱いものが放たれた。


そのまま2人暫く動きが止まっていたが。
やがて、新一がゆるゆると腰を動かし始める。

「あ……んん……あん……」
「1回じゃ全然足りねえ……」
「あ……はあ……っ」

蘭の中に熱を放って萎えていた筈の新一のモノは、再び力を取り戻していた。
そして、また、新一が大きく腰を動かし始める。

「あああっ……社長……はああん……イイッ……!」
「蘭……すげー気持ちイイよ……」

粘着性のある水音がして、蘭と新一とが繋がり合ったところからは、際限なく溢れ出ているものがあった。
おそらく、2人の体液が混じり合ったものが、蘭の中に納まりきれずに溢れ出しているのだろう。


「あああああっ……もうダメ……っ!イク……っ!」
「蘭……オレも……うっ……おっ……!」
「社長……あっはああああああっ!」
「蘭!」


蘭が新一にしがみ付いて背中に爪を立て絶叫するのと同時に、蘭の奥にまた熱いものが放たれた。




   ☆☆☆



唇への優しい温もり。
蘭を包む安心できる温もり。
そして……全身を覆う痛み。

蘭が目を開けると、そこには愛しい顔がアップで存在した。


「おはよう、蘭」
「しゃ、社長!」

蘭は、昨夜の事を思い出し、羞恥心でいたたまれなくなり、思わず新一の腕から逃れようとしていた。
が、新一はシッカリと蘭を押さえ、それを許さない。

「オメー……昨夜のこと、覚えてねえのか?」
「い、いえ……」

蘭は、覚えていない事にしたかったけど、そういう訳にも行かない。
本当に穴があったら入りたい位、恥ずかしくてたまらなかった。


昨夜は結局、繋がり合ったままで、4〜5回はお互いにイッタだろうか。
蘭は絶頂の中で気を失う様にして眠りに就いたのだった。


思わず顔を手で覆ってしまった蘭だったが、新一が優しくその手を掴んで外す。
蘭を覗き込む新一の眼差しの熱さと優しさに、蘭の胸は高鳴った。

「しゃちょ……」

新一の顔が近づき、そのまま唇を奪われる。
そして、新一の手が蘭の胸を覆い、揉みしだいた。

「ん……んん……っ!」

新一の唇が、蘭の唇を解放したかと思うと、そのまま唇は喉から胸元へと滑って行く。

「しゃ、社長!?」
「蘭。こんな事やってるのに、その呼び方はねえだろう?」
「え?あ……ああん!」

新一に胸の飾りを吸われ、蘭は思わず背を反らして声をあげる。
新一が顔をあげて、蘭を覗き込んだ。

「良かった。薬が切れても、ちゃんと感じてるな」
「え……あ……社長……?」
「新一。呼んでみな」
「えええっ?」
「ほら」
「し……しんいち……あんっ!」

新一の手が全身を這い回る。
蘭は思考力が溶かされ、甘い悲鳴をあげていた。

新一の手が蘭の両足を抱えて広げる。

「あ……や……ダメ……っ!」
「ダメじゃねえだろう。昨夜散々やったんだしよ。それに、オメーのここ……蜜を溢れさせて、オレを欲しがってひくついてるぜ」
「え……あ……そんな……んうんっ!」

新一のモノが容赦なく蘭の中に突き入れられた。
少し痛みがあったが、すぐに落ち着いた。

「一晩で、オメーのココ、大分オレのが馴染んでるぜ」
「あ……ああ……社長……」
「だから、新一だって」
「し、新一……」
「動くぞ」
「え?あ……ああん!」

新一が腰を動かし始めると、最初は少し痛みが走ったが、やがて痛み以外の感覚が蘭を貫き始めた。

「あ……あん……はああっ……新一ぃ……」
「蘭……蘭……くっ……すげー……オレのを締め付けてる……」
「やあっ……はっ……ああっ……はあん!!」

やがて快楽のうねりが蘭を襲うと、新一の動きも激しくなってきた。

「ああああっ……新一……新一……やっはああああああん!」
「蘭……くうっ……うっ!」

やがて蘭は上り詰め、新一は蘭の奥に熱いものを放った。



事が終わった後、蘭は、新一に抱き締められて横たわっていた。

これは、一晩だけの関係なのか……それとも、この先も蘭は、時々は新一のセックスの相手となるのだろうか。
愛する人に抱かれた事は、幸せだったが、同時に「体だけの関係」が辛くもあった。

蘭はふと、この前の月のものはいつだったろうかと数え始めた。
危険日ではないと思うが……こればかりは、分らない。


突然、蘭の携帯の着信音がした。
新一との連絡用に、宴席に持って行ってたが、この部屋に連れて来られた時にも持参していたものらしい。

蘭は仕方がなく電話に出る。
電話の相手は、今回の旅行の幹事である、七川絢(あや)であった。

「もしもし、絢?……え?オプショナルツアーの出発?今、何時……きゃっ」

蘭の携帯は突然新一に奪われた。

「もしもし。蘭……毛利は、昨夜散々オレにやられて足腰立つ状況じゃねえから、参加は無理と思うぜ」
『その声は、社長ですか?昨夜蘭は社長にお持ち帰りされたって噂だったけど、本当だったんですね。じゃあ、オプショナルツアーはキャンセルって事で』
「宜しく頼む」

そして、新一は携帯を切る。

「しゃ、社長!なんて事を……絢ちゃんは言いふらすような子じゃないけど!」
「あのな、蘭。昨夜、オメーがオレに『抱いて』っつったことも、オレがオメーを抱き上げて連れてったことも、多くのヤツが見聞きしてんだぜ。お持ち帰りは周知の事実だ。今更、隠しようがない」
「え……?」

今更ながらに、蘭は、宴席から新一に連れ去られた状況を思い出して蒼くなっていた。
確かに、周囲に隠しようはない。

「イイじゃねえか。オメーがオレの女になったってことが明らかなんだからよ、今後、オメーにコナかける男もいなくなるだろうぜ」
「……で、でも……社長、良いんですか?」
「何が?」
「だ、だって……社長、好きな女性がいるのに……その女性からも誤解されちゃいますよ」
「好きな女性って、何の話だ?」
「あ、あの……内田さんとの会話、聞いちゃったんです!」

蘭が、いたたまれなくなって言うと、新一は目を丸くして、溜息をついた。

「ご、ごめんなさい!立ち聞きなんかして!」
「いや……それは別にいいんだけどよ……で、何でオメー以外に好きな女がいるって思うかなあ?」
「え……?」

蘭は、新一が言った意味がよく分からず、目をパチクリさせた。

「オレは、その時、言った筈だ。惚れた女でなければ、抱けない……って」
「え?あ……」

そういえば、確かに新一はそう言った。

「で、でも……わたしが薬で欲情した事を知ってるから、だから社長は同情して……」
「冷たいようだが……もし、他の女が同じ状況になったのなら、オレは、他の信頼できる男に任せるて、オレが抱く事はしなかった」
「え……?え……?ええっ!?」

新一の眼差しは真剣で、その頬は恥ずかしそうに染められ。
蘭はようやく、新一の「惚れた女」が自分であることを理解した。



   ☆☆☆



「あ……ん……ああっ!新一ぃ……わ、わたしもう……擦り切れそう……」
「蘭……はあ……たまんねえ……スゲー気持ちイイ……」
「あっ……ああああん!お、お願い、新一……もう、勘弁してえ」
「まだだよ……オメーの口から、肝心の言葉を聞くまでは……」
「肝心の……って?あんっ!やあああっ!」

新一からの「告白」のあと、蘭は何度も新一から貫かれ注がれ続けていた。
新一が望む「言葉」が何なのか、蘭には分らない。


蘭は、もう何度目になるのかわからない絶頂を迎えて、甘い悲鳴を上げた。

「蘭。オメー、バージンだったって事は、恋人、いねえんだよな?」
「え……う、うん……って、バージンだったって、なんで分かったの!?」
「そりゃまあ、尋常じゃなく、出血してたからさ」
「恋人がいるわけ、ないでしょう。もしいたら、わたし……」
「もしかして、片思いの相手がいるのか?」
「な、何で、そんな事を!?」
「だってよ……いくら抱いても、オメーは肝心の事を言ってくれねえし」

新一の拗ねたような顔に、それでも蘭は、新一が何を気にしているのか、気付かなかった。

「……わたしの好きな人は、クールぶってて冷静沈着って評判を受けているくせに、本当は熱くて無鉄砲で、でも、正義感は掛け値なしで……」
「……蘭……そっか。好きなヤツ、いたんだな……なのに、オメーのハジメテを奪って……すまねえ……」

新一が項垂れる。
奪ったもなにも、薬の所為とは言え、蘭の方から迫ったのにと、蘭は少しおかしくなった。
本当に新一は蘭の事を大切に思ってくれているのだと、胸の奥が温かくなる。

「バカ。わたし……わたしが何で、昨夜、新一に助けを求めたと思っているの?」
「蘭……?」
「薬の所為で欲情していたにしても……バージンをあげる相手は、惚れた男性が良いって思ったからに、決まっているじゃないの」

新一は目を丸くした後、破顔した。
そして、唇を奪われる。

「蘭。結婚しよう」
「え?な、何それ、いきなり?」
「いきなりでもねえさ。結婚するならオメーが良いって、ずっと思ってたし。早くオメーを独占したい。それに、結婚したら、毎晩好きなだけセックスできるしよ」
「え?ええ!?そっちが目的!?」
「何を驚く?セックスパートナーを得るってのは、結婚の大きな目的のひとつだろうが」
「そ、それは、そうかもしれないけど!」
「いやあ、セックスって、こんなに良いもんだったんだな……」
「……えっ!?」
「こんなに気持ちいいのは、惚れた女限定だろうけど」

確か新一は30歳近かったはず。
その年齢まで、女性体験なしだったのかと、蘭は驚いた。

新一の過去に拘る気はなかったけれど……。

『聞かなかった事にしよう』

蘭は、そういう風に結論付けた。



ともあれ、2人は(細かないざこざはあったとしても)無事結ばれ、幸せな結婚生活を送った。

そして……蘭に薬を盛ったけしからぬ男3人の行く末については、ここで敢えて語るまい。



Fin.


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バカバカしい位、ただただ、イチャイチャラブラブしている2人を書きたくて、書いたお話です。
社長と秘書パラレルって結構多いと思いますが、ご容赦を。

シリアスな連載作品に関しては、ちょっとリフレッシュしてまた続きを書いて行きたいと思います。


2,013年3月31日脱稿
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