湖畔の夜



byドミ



「誘ってるの」

そう言って、蘭が微笑み。新一は固まった。


「新一?」

蘭が、怪訝そうな顔をして、新一を覗き込む。
新一は、思考停止状態で、石のように固まっている。
けれど・・・心臓だけは、すごい速さで動いていた。
サッカーをやっている時のように、ぶっ続けで90分走り回った時ですら、ここまで動悸が速くなる事はあるまい、と思えるほどだった。

「あ、あのさ・・・蘭・・・」
「なあに?」
「オメーさ・・・意味分かって、言ってんのかよ?」

蘭が目を見開いた後、俯く。
その手がギュッと握りしめられるのを見て、新一は慌てた。

「意味は・・・分かってるよ・・・それとも新一はわたしの事、何も知らない女だって、思ってるの?」
「蘭!や・・・そういう意味じゃなくて!」
「それとも・・・新一は・・・女の方からこんなの、はしたないって・・・軽蔑する?」

新一は、たまらず蘭を抱きしめた。

「違う!違う蘭!オレは・・・オレはただ、怖いんだ・・・」
「怖い?」

新一が、蘭をギュッと抱きしめ、叫ぶように告げた言葉に、蘭は戸惑うように返した。

「男の人でも、怖いって、そういうのがあるの?」
「オレは・・・ずっとずっと、昔から、ガキの頃から、オメーの事・・・欲しいって思うようになってから、何年も経つからよ・・・オメーを滅茶苦茶にしてしまいそうで、壊してしまいそうで、自信がねえ・・・」

我知らず、震えてしまっている新一の背中に、ゆっくりと蘭の手が回る。

「新一・・・」
「ぜってー、優しくなんか、出来ねえ・・・だからオレは・・・」
「でも。そしたら新一、どうするの?一生、わたしと触れ合わないまま?」
「そ、それは・・・っ!だ、だけど。オメーは、どうなんだよ?怖かったり、不安だったり、しねえのか?」

蘭は、新一の胸を手で押して、少し距離を取り、新一の顔を覗き込んだ。
その目にあるのは、柔らかな、慈愛に満ちた光だった。


「男の人とは、きっと感覚が違うんだって思うけど。女だって、好きな人とひとつになりたいって・・・そういう思いはあるよ」
「蘭・・・」
「女は、初めての時は、すごく痛い事が多いって聞くし。何かが変わるんだろうって思うし。全然怖くない、不安じゃないって言ったら、ウソになるけど。新一とだったら、わたし・・・」
「蘭・・・」
「イイよ。滅茶苦茶にされても、壊されても。わたし、新一だったら、イイよ」

そう言って蘭は、柔らかく微笑んだ。
新一は、何か言おうとしたのだが、言葉が出せなかった。

出来る限り優しく、蘭を離すと、勢いよく立ちあがり、蘭に背を向けた。

「し、新一!?」
「ごめん。ちょっと、トイレ」

悲痛な声で新一を呼んだ蘭は、新一の言葉に拍子抜けしたような表情で赤くなった。

「あ、ご、ごめんね・・・」

新一は、急いでトイレへ向かった。
トイレで、1回、自身の熱を放出させる。

そうする事で、膨れ上がり暴れ出しそうな欲望を、少しだけ落ち着かせる。
でなければ、事に及んで、どうしても乱暴でいたわりのない行為になってしまいそうだと、自分で感じていたからだ。

新一が、ようやく部屋に戻ると。
蘭が、俯いたまま、ベッドに腰掛けていた。

「蘭?」

顔をあげた蘭は、泣きそうな表情をしていた。

「新一。具合が悪いんじゃないの?」
「へ?んなんじゃねーけど」
「でも」

いきなりトイレに駆け込み、時間をかけて出て来たのだから、具合が悪いと思われても道理だ。
新一も、それに思い当たって、説明をした。

「ただ。準備をしてただけ、だから」
「え!?じゅ、準備って・・・?」
「蘭を抱く為の、心の準備」

新一の言葉に、蘭は目を丸くした後、ボボボと赤くなった。
新一が言った事は、嘘ではない。
準備したのは、心だけではなかったけれど。


「蘭」

新一が、蘭の隣に腰掛け、抱き締める。

「あ・・・」

蘭の体が、細かく震えているのに、新一は気付いた。

「んだよ?オメー、震えてんのか?さっきはあんな、余裕ぶっこきセリフはいときながら」
「だ、だって!」
「・・・蘭。オレの心臓・・・分かるか?」
「え?あ・・・!」

新一の心臓が早鐘を打っているのを、蘭も感じ取ったらしい。
少しずつ、蘭の体の震えが落ち着いてくる。

2人とも、初めての体験をするのだから。
お互いに余裕がなくて、お互いに不安で、当たり前。
その事にようやく思いいたって、新一の肩の力が、少しだけ抜ける。

「オメーに負けねえ位、オレの心臓、ドクドクいってんだろ?」
「うん・・・」

新一は、少しだけ蘭の体を離し、顔を覗き込んだ。
蘭の瞳が、揺れ。切なげに、新一を見詰め返して来る。

「ずっと・・・オメーに触れたい、オレのものにしたいって・・・思ってた・・・」
「うん・・・」
「もう、待たない」
「新一・・・」

新一は、ぶつかるような勢いで、蘭の唇に自分のそれを重ねた。

「んっ!」

新一の舌が蘭の唇をなぞると、蘭は身を震わせた。
蘭の唇の間から侵入して、蘭の舌を絡め取る。
蘭はビクリビクリを身を震わせながら、新一の行為を受け入れていた。

新一は、蘭に深く口付けたまま、蘭の背中に手を這わせる。
蘭が今着ているワンピースは、背中ファスナー式だと分かっているが。
手が震え、なかなかファスナーの端を掴む事が出来なかった。

ようやく、ファスナーを探しあてて、下ろす。
微かな音がして、ファスナーが開いた。

肩の布を引っ張ると、簡単に、蘭の上半身が露になった。

「んふっ!」

新一に口付けられたままで、言葉が出せず、くぐもった声が出た。
蘭の体が、再び強張る。

新一が、ようやく蘭の唇を解放すると、2人の唾液が混じり合ったものが、糸のようにお互いの唇を繋いでいた。

「蘭」

新一は、蘭をそのままベッドに押し倒した。
再び背中を探り、胸の下着のホックを苦労して外す。

「あっ・・・!」

胸がはだけられた蘭が、目をぎゅっと閉じて手の甲で口を抑えた。

お椀を伏せたような形の白い双丘。
頂きは、赤く色づいている。

「すげえ・・・綺麗だ・・・蘭・・・」

新一の口からは、月並みな言葉しか出て来ない。
仰向けになっているのに、綺麗な形を保っている胸のふくらみは、新一がおそるおそる手をのばして触れてみると、柔らかくその形を変えた。
頂きの果実に指で触れると、そこは膨らみの柔らかさと対照的に、固く勃ち上がり、赤みを増す。

「あんっ!」

そこは感じ易いと話に聞いた事はあるが、本当らしいと、新一は妙に感激していた。
両手で、柔らかな膨らみを揉みしだきながら、片方の果実を口に含む。

「あっ・・・はああん!」

柔らかな感触、口に含む果実の甘さ、蘭のあげる甘い声。
新一のものは、先ほど一旦自分で熱を吐きだしたばかりの筈なのに、またもや固く勃ちあがっている。

「蘭・・・」

新一は、やや性急に、蘭のワンピースを下に引っ張った。
足から抜くと、蘭を覆っているのは、小さな布切れ一枚になった。
新一は、それにも手をかけ、下に引き下ろす。


「あ・・・!」

蘭は、羞恥に耐えるように、目をギュッと閉じ、細かく身を震わせていた。

胸の大きな膨らみとは対照的に、蘭の腰は細くくびれ、適度に大きなお尻へと、柔らかな曲線を描いている。
そのスタイルが良い事は、水着などで見知っていたけれど。
生まれたままの蘭の姿の美しさに、新一はしばし声もなく見とれた。

新一は、自分の服も素早く脱ぎ捨てると、蘭に覆いかぶさった。

蘭が口に当てている手を横に優しくどけ、顔を覗き込む。
蘭は、目をギュッと閉じたままだ。

「蘭・・・目、開けて」

言われて蘭は、自分が目を閉じている事に気付いたのだろう、恐る恐る目を開ける。
新一は、蘭の目を覗き込んで、囁いた。

「愛してる」
「しん・・・いち・・・」

蘭の目が潤み、揺らぐ。
蘭を愛しいと思う気持ちが、更にこみ上げてくる。
新一は、蘭を抱き締め、口付けた。
蘭の肌の柔らかさ・温かさを直に感じて、めまいがしそうだ。

一旦、蘭の唇を解放した後、新一の唇は蘭の喉元を通り、胸の膨らみへと移動して行った。
新一の手が蘭の太腿をさすり、蘭の体がまたビクンとはねる。
新一の唇が、蘭の肌に寄せられたままで、少しずつ下の方へと移動していく。

「あっ・・・しん・・・」

新一の手が、蘭の両足を抱えて押し広げる。
蘭の秘められた場所が、露になった。

「あ!やあっ!」

覚悟を決めていた筈の蘭が、さすがに羞恥に身をよじり、抗う動きを見せた。
蘭のその場所に顔を埋めようとしていた新一は、一旦上体を上げ、蘭を見下ろす。
蘭はまた、目をギュッと閉じていた。

「蘭。オレの全部は、オメーのものだから。だから、オメーの全部、オレにくれ」
「し、新一・・・」
「ずっと・・・生涯、大事にすっから。オメーを・・・」

蘭が、目を開き、新一を見詰めて微笑んだ。

「馬鹿。わたしは、もうとっくに、新一のものだよ・・・全部・・・」

新一は再び屈み込むと、普段、淡い茂みの奥に隠されている蘭の秘められた場所を見詰めた。
一応、医学書などで女性のその構造は知っていたけれど。
実際に目にするのは、初めてである。
蘭のそこは、赤くぬめぬめと光り、芳香を放ち、とても綺麗だと新一は思った。

そっと、指先と唇で、その場所を愛撫する。

「あ!やああん」

蘭が跳ねて背を反らした。
その場所から、とろりと蜜が溢れ出す。

新一は、蘭に苦痛を与えない為に、逸る気持ちを抑えながら出来るだけ丁寧に愛撫を施した。

蘭の入り口から、指を入れてみる。

「あっ!」

蘭の体が強張る。

「蘭!?いてーのか!?」
「い、痛いんじゃないけど・・・」

異物に慣れていない蘭の中は、違和感を感じているのだろう。
痛いわけではないと聞いて、ホッとする。
指1本で痛がられたのでは、この先大変だろう。

「気持ち悪い?」
「何か、変な感じ・・・でも、大丈夫」

蘭が、新一を受け入れようと必死になっている。
申し訳なくも、嬉しかった。


新一が蘭の中で指を動かしていると、段々、溢れる蜜が量を増し、指の出し入れがスムーズになった。

「あ・・・ん・・・ああっ・・・」

蘭の声が段々艶めいたものに変わって行く。

「蘭?大丈夫か?」
「ん・・・でも・・・何か、変な感じ・・・」
「もしかして、気持ちイイ?」
「わ、わかんないよ、そんな事!」

蘭は真っ赤になって言った。
全てが未知の体験で、感覚も未知のものだから。
感じているとかいないとか、そういう事すら、分からないのだ。

だが、どうやら少しずつ、蘭の体も、この行為に馴染んできているらしいと見てとり。
新一は、指の数を2本へ・・・そして3本へと増やして行った。

「ん・・・あんはん・ああん」

蘭が艶めいた声を出し、身をくねらせ始める。
指の出し入れに応じて、粘着性のある水音が響くようになった。
新一は、激しく指を動かした。
すると。

「あ・・・はあ・・・んああ・・・ああん!」

蘭がひと際高い声をあげて背中を反らし,手足を突っ張らせ、がくりと脱力した。
蘭の息が上がっている。
もしかして、これがイッタという事なのかと新一は思うが、よく分からなかった。

そして、新一の方が、かなり限界に来ていた。

「蘭。挿れていいか?」

蘭が顔を上げ、新一を見詰めると、こくりと頷いた。

新一は、自身にゴム製品をはめる。
慣れぬ事ゆえ、手早くとは行かず、3つ目の袋を開けてようやく成功した。

改めて、蘭の足を抱え上げぐっと広げると、蘭の入り口に自身を当て、溢れ出る蜜を先端に絡ませてから、腰をぐっと進めた。


「あ・・・ああっ!」

我慢強い蘭が、悲鳴を上げ、無意識に腰をずり上げる。
けれど、痛いと口にせず、止めてとも言わない。

下手に時間をかけると痛みが長引くだけだろうから、一気に挿入しようとしたが、無理だった。
新一のものは、途中で阻まれ、入りきれない。

新一の方は、先端を蘭の暑い内部で締め付けられただけで、イッテしまいそうになっていた。

新一の腕の中で、蘭が苦痛の声をあげ、身を硬くしているのが、申し訳なくてならない。

「蘭・・・ごめんな・・・愛してるよ・・・」

思いの丈を込めて、新一は蘭に口付けた。
舌を絡め、優しく深い口付けを与えていると、蘭のこわばりが少し解け、蘭の内部が少し緩んだのを感じた。
新一は、それを見て取り、さらに腰を進める。
蘭の悲鳴は新一の口の中に消え、新一のものは一気に蘭の奥まで入った。


蘭が細かく振るえ、肩で息をしている。

「蘭?大丈夫か?」

蘭が無言で頷いた。
痛くないはずがないのに、その健気さにまた、心打たれる。

「蘭。オレ達今、ひとつになってんだよ。分かるか?」
「新一と・・・ひとつに?」

蘭がかすれた声で言って、目を開けた。
そして、微笑む。

「嬉しい・・・」
「蘭」
「わたし、これで本当に、新一のものになったのね・・・」

何故、蘭はこんな可愛い事を言うのだろうと、新一は思う。

「ああ。これでオメーは、正真正銘、オレのもんだ。ぜってー、離さねえから」
「うん。離さないで・・・」

蘭の苦痛が、どうやらようやく落ち着いてきたらしいと、新一は見て取った。

「蘭。動くぞ。イイか?」
「う、うん・・・」

新一は、ゆるゆると腰を動かし始めた。

「う・・・あ・・・んっ!」

痛みが再び蘭を襲っているのだろう、蘭の声も表情も苦しげだ。

「蘭・・・蘭・・・!」

新一は、セックスの快感に溺れてしまいそうになりながら、蘭に苦痛を与えているという罪悪感が拭えない。
けれど。

「あん・・・はん・・・んあんあん」

やがて、蘭の声も表情も、苦痛を堪えるものから、甘さと艶を含んだものへ変化して行った。
それと見て取って、新一も我慢が利かず、激しく蘭の奥を突き上げ始めた。


「あ・・・やあ・・・しん・・・いちぃ・・・はあああっ!あああああん!」
「くう・・・うお・・・っ!蘭!」

やがて、蘭が背中を反らし、絶頂の叫びを上げると同時に、新一も蘭の中に己の欲望を吐き出した。


新一は、蘭の中から静かに己を引き抜くと、手早く避妊具の処理を行った。
蘭の中からは、赤いものがおびただしく流れ出している。
蘭に血を流させたと思うと、新一の胸は申し訳なさでいっぱいになった、
新一はそっとティッシュでそこを拭ってあげた。

新一は仰向けになり、蘭を抱き寄せる。
蘭はようやく、呼吸が落ち着いたようだった。
甘えるように、新一に擦り寄ってくる。

「ごめん・・・」
「何で、謝るの?」

新一が思わず謝罪の言葉を出すと、蘭が咎めるような声を出した。

「あ、いや。いてー思いさせたし、血も出たし・・・」
「だって、それは・・・」
「そりゃ、いつかはオメーとって、思ってたけどさ」
「先延ばししたって、最初の時に痛くなくなる訳じゃないでしょ?」

蘭の声が、笑いを含んでいる。
どうやら、蘭の苦痛も落ち着いたらしいと、新一はホッとした。


「あのさ、蘭」

新一は、蘭の肩を抱き寄せる手に力を込めて、言った。

「なあに?」
「高校卒業したら、一緒に暮らそう」
「えっ?」

蘭が、頭をあげて、新一をまじまじと見つめた。

「おっちゃん達が許してくれたら、籍も入れて。もしダメだって言われたら、蘭が20歳になったら、だな」
「新一・・・それって・・・?」

新一は、蘭を真っ直ぐに見て、言った。

「さっき話した、ずっと傍にいるって、そういう事だろ?まさか、恋人関係のままで一生・・・って訳じゃねえだろ?」
「うん・・・でも・・・」

新一が身を起して、蘭を上から覗き込む。

「蘭は?嫌なのか?」
「ううん!嫌じゃないよ!」

蘭は、かぶりを振った。

「そりゃ、わたしだって!でも、新一がそういう風に言ってくれるって、思わなかった・・・」
「バーロ。その積りじゃなきゃ、一時の感情と欲望だけで、オメーにこんな事しねえよ」
「新一・・・」
「オレはオメーの事、ぜってー、離さねえから」
「うん。新一、わたしを離さないで。ずっと・・・傍にいてね」
「ああ」

蘭の目が潤む。
新一は微笑むと、蘭の胸に手を伸ばして、撫で始めた。

「きゃっ!」

蘭が赤くなって小さな悲鳴をあげた。

「蘭。・・・もう1回、してもイイ?」
「ええっ!だ、だって、今したばかりなのに!?」
「ずっとずっと、蘭とこうなりたいって思ってたんだ。もう、抑えは利かねえぜ」

蘭は、目を丸くして、最初僅かに抗うそぶりを見せたが。
再び始まった新一の愛撫に、甘い声を上げ始める。

2人の夜は、まだ始まったばかり。



窓の外では、風もないのに湖がさざ波だっていたけれど。
今の2人は、桜と柏木の悲恋の事も、幽霊の事も、一緒に旅行に来た園子と絢の事も、頭になく。
ただただ、お互いの存在だけを感じて、求め合っていた。



Fin.




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