記念日



byドミ



「蘭、もう帰るの?」
「うん。今日はちょっとね。記念日だから・・・」
「???蘭の誕生日じゃないし。蘭の旦那の誕生日は、確か、ゴールデンウィークだったような気がするし。結婚記念日でもなかったわよね?」
「う、うん・・・」
「あー、分かった!旦那からの告白記念日!?」
「ち、違うよ!それは、わたしの誕生日と一緒だし!」
「は?え?そうなの?じゃあ、初チュウ記念日とか?」
「それも、実は、おんなじ日・・・」
「そっかあ。蘭の誕生日に帰って来て、告白して即行、蘭の唇を奪ったって訳ね!・・・じゃあ、今日は何の記念日なワケ?」
「あ!そ、園子!駅前のスーパーのタイムサービスになっちゃう!本当に時間がないから!じゃあね!」

そう言って、工藤蘭は立ち上がり、レジで自分の分を支払うと、足早に喫茶店を後にした。
鈴木園子は、久し振りに会ってお喋りを楽しんでいた親友が、真っ赤な顔になってそそくさと去って行く後姿を、目をパチクリして見送っていた。



   ☆☆☆



「ただいま。お、ご馳走だな♪」
「お帰りなさい。今日は早かったのね、新一」
「ああ。スムーズに解決したからよ。それにしても、今日は何かあったのか?」
「う、ううん。何も、ないよ・・・」
「そうか?」
「新一。ご飯の支度、もう少しだから、待ってる?それとも、先にお風呂に入る?」
「ふうん」
「な、何よ?」
「いや、そこに『それとも、わたし?』って選択肢はねえのかと」
「な!何バカな事、言ってるのよ!?」
「ははっ!冗談冗談。オレ、手伝える事はねえ?」
「新一は今日も仕事で、疲れてるでしょ。それに、もう少しだから・・・」
「じゃあ、先にお風呂、いただくな」
「どうぞ」

新一は、軽いキスをして、風呂場の方に消えて行く。
蘭はその後ろ姿を見送って、軽く溜息をついた。


ご馳走の意味、まさか新一は気付いていないだろうと思う。
今日の「記念日」は、新一との記念日であるのだけれど。
でも、新一は多分、覚えていないだろう。
たとえそうであっても、特別悲しい訳でもない。
むしろ、蘭が切り出したら、呆れられるだけだろうと、蘭は考えていた。


新一と一緒に暮らすようになってから、毎晩、同じ寝床で寝ている。
ただ、事件や何やで忙しくて、新一が帰って来ない事、帰って来ても午前様になる事も、ある。
決して、それが不満な訳ではない。
新一が蘭との時間を大切にしてくれている事も、努力してくれている事も、分かっているから。

『でも、今夜は・・・傍にいて欲しい・・・』

おそらく、蘭だけが自覚しているだろう、記念すべきこの日。
新一が分かってなくても仕方がないと思っているが、願わくば、一緒に過ごしたい。

新一の仕事が早く終わって帰宅したので、蘭はホッとして、嬉しかった。


食事の支度が整った頃、電話のベルが鳴った。
いまどき、家の電話に掛けてくるとは珍しいと思いながら、蘭はキッチンにある子機を使って電話に出る。

「はい、工藤です」
『もしもし、蘭さん?』
「はい?あの・・・」
『高木です、こんばんは』
「あ、美和子刑事?」

すでに結婚して高木姓になっている美和子の事を、蘭は「美和子刑事」と呼んでいる。

『工藤君、もう帰ってる?』
「はい。今、入浴中ですけど・・・折り返し、掛けさせましょうか?」
『ううん、良いの、別に、工藤君に用があった訳じゃなかったから。工藤君、いつもと変わりなかった?』
「え・・・はい・・・特には・・・あの、新一、何かあったんですか?」
『渉君は気の所為だって言ってたんだけどね、今日の彼、ちょっと変な感じだったの』
「え・・・?ま、まさか、推理ミスとか・・・」
『ううん、その反対。今日は、いつにも増して、鬼気迫る位、冴えてて。すごいスピード解決!そして、解決した途端、即行、帰って行ったから。私は、もしや蘭ちゃんの具合でも悪いんじゃないか、だから工藤君、早く帰りたがってたんじゃないかって、心配になっちゃって』
「そ・・・それは、全然大丈夫です」
『そう、私の勘違いね。なら、良かったわ』
「お気遣い、ありがとうございました」


蘭は、ドキドキしながら、電話を切った。
新一が、何となくおかしかったのは。
早く帰りたがっていたのは。


(まさか。まさかよね・・・)

新一は、蘭の誕生日とか、結婚記念日とか、何かのイベントとか、意外ときちんと覚えていてくれる。
悔しい事に、直前まで忘れたフリをしていて、蘭はいつもその「フリ」に騙されてしまうのだけれど。

しかしまさか、今日が何の日か、そんな事は多分、覚えていないだろうと思う。


「蘭」
「きゃああっ!」
「おい。夫から声掛けられて、飛び上がるこた、ねえだろ?」
「し、新一・・・」

蘭が考え事をしていると、いつの間にか風呂から上がった新一が、キッチンの入り口に立っていたのだった。
パジャマ代わりにもなっているラフなスウェットの上下に着替え、髪をタオルで拭きながら、新一はキッチンに入って来た。

「マジ、ご馳走じゃん?今日は何か、あったのか?」
「何よ。何かないと、ご馳走って作っちゃいけないの?」

新一に知られたくない事がある時や、照れた時などは、ついつい、憎まれ口を叩いてしまう。
ここら辺は、昔から変わらない。

「いや、そんなこた、ねえけどさ。いつも、美味しいご飯を作って貰って、感謝してるぜ、奥さん」

この辺りは、昔と変わったと蘭は思う。
蘭に自覚はなかったけれど、今にして考えれば、蘭の憎まれ口は、結構、新一をオロオロさせていたのだった。
でも、今は、結構さらりとかわされてしまう。
何だか、悔しい。

『何だか、わたしばっかり、新一の事好き、みたいじゃない・・・』

そうではないと、分かっているけれど。
きっと、自分の方が好きな気持ちは大きいだろうと、何となく、恨めしく思いながら新一を見る。

「じゃあ、ご飯にしましょうか」
「ああ」

新一も手伝って、食卓に食事を運ぶ。

「すげ、うめー」
「そう、良かった」

新一の言葉にホッとしながら、蘭は自分も料理を口に運ぶ。
長年やって来た料理は、元々得意だが。
今夜は会心の出来だと思う。

あれから、4年が経つのかと考えていると、新一がまるで蘭の心を読んだかのように言葉を出した。

「もう・・・4年以上に、なるよな」
「えっ?」

新一の言葉に、蘭が顔を上げる。

「オメーと付き合い始めてからさ」
「そ、そうね・・・」

新一が帰って来たのは、高校3年の、蘭の18歳の誕生日。
その日、告白されて、2人は恋人同士として付き合い始めた。

大学受験や色々あったけれど、それまでの様々な事を考えると、大した苦労ではなく、2人は順調に愛を育み。
高校卒業と同時に、2人は一緒に暮らし始め、蘭が二十歳になった後、籍を入れて結婚式を挙げた。

新一は探偵稼業と大学生活を。
蘭は主婦と部活と大学生活を。
それぞれに、頑張って来た生活も、あと少しで終わる。

現在、2人とも、卒論にかかっているが、就職活動はしていない。
新一は、探偵事務所開設の準備を進めているし、蘭は新一の手伝いをする事になっているからだ。


「蘭」
「ん?何、新一?」
「そろそろ、子作り、解禁しても良いんじゃね?」
「えっ・・・?」

蘭の頬が、みるみる赤くなった。
結婚している2人は、当然、夜の生活がある。
というか、結婚前から、いや、同棲を始める前から、体の関係はあったのだが。

蘭の学業の事や、世間の目など、色々な事を考えて、今迄避妊に心がけて来た。

もう、卒論を仕上げるだけだし。
お腹が大きくなっていても、卒業式に出られない事はない。
だから、そろそろ避妊を止める事には、賛成だけれど。

「そ、そうね。でも、こんな場所で言わなくたって良いじゃない。デリカシーないんだから」
「こんな場所って・・・2人しかいねえだろ?」
「だって・・・」

蘭の声は小さくなり、俯いてしまった。
本当に、新一のデリカシーの無さに怒った訳ではなく。
蘭の気持ちを見透かされているような気がして、ドギマギしただけだったのだ。


食事が終わり、食後のお茶も済んで一息つくと、新一と蘭は、食器をキッチンのシンクまで運ぶ。

「蘭。皿洗いはオレがやっとくからさ。オメーは、風呂、入って来いよ」
「え?で、でも・・・」
「蘭は、すげーご馳走を作ってくれたんだ。片付けくれー、オレがやるさ」
「じゃあ・・・お願いしちゃおうかな?」

そう言って蘭は、浴室へ向かった。
脱衣所で衣服を脱ぎ、浴室に入る。
浴室には鏡があり、蘭の裸体が映っていた。
蘭は、子細に自分の体を見る。

スタイルは、決して悪くはないと、思う。
だが、新一の目に、蘭のこの体は、どういう風に映っているのだろう?

新一は、今夜避妊を止めようと言ったのだから、今夜、蘭を抱く積りであるのは、間違いない。
よほど差し障りある事情でもなければ、新一と蘭が同衾するという事は、すなわち、エッチするという事である。
一緒に暮らすようになってからは、情事はほぼ毎晩、それも、1回で終わる事は滅多になかった。

新一が、蘭を愛してくれている事も、浮気などしていない事も、信じているけれど。

『新一は、推理バカだから・・・女の事で労力使ったり面倒に巻き込まれたりしたくないから・・・他の女性に目を向けなかっただけなんじゃないのかな?』

時々、そういう風に思ってしまう事がある。
ただ、理由がどうあれ、新一がその欲望を蘭にだけ向けてくれるのなら。

『新一に、気持ち良くなって欲しい。満足して欲しい。わたしに、それが出来ているのかしら?』

記念すべき今日、新一が大満足出来るような交わりにしたい。


親友である園子は、京極真ひとりとしか性体験がないし、真は真で、女性遊びをしていた訳でもないから、経験や知識という面では、蘭とどっこいで、さして参考になる意見が貰える訳でもない。

しかし、大学の友人達は、蘭と違って皆未婚だが、結構経験豊富な者が多いようだった。


『男の人は、口でしてあげると、喜ぶ人って多いみたいよ』
『えっ!?口でするって・・・一体?』
『何?蘭って、彼氏とエッチし始めて、日が浅いの?』(ちなみに、結婚している事は、大学の友人には内緒である)
『う、ううん・・・そんな事ないけど』
『彼氏から要求される事って、ないの?』
『し・・・か、彼はそんな事・・・』
『蘭、あんた、彼氏とのHで、どんなサービスをしてる訳?』
『さ、サービスって・・・?』
『まさか、マグロ?』
『えっと・・・マグロってのが、よく分からないんだけど・・・』
『彼氏にばかりサービスさせて、自分は寝っ転がってるだけってのを、マグロって言うのよ』
『それだと、何か問題なの?』
『彼氏にいつか飽きられて愛想尽かされるかもね』
『えっ!?』
『なに?蘭ってば、やっぱりマグロなの?』


友人たちとの会話は、色々な意味で衝撃だった。
個人差もあるだろうし、全てを真に受ける訳でもないけれど。

蘭が、セックスにおいて受け身で、殆どサービスらしいサービスもしていない、その必要性すら考えた事もなかったのは、確かである。


今日は、同級生の助言を受けて、バナナ相手に、練習をしてみた。
バナナを見ながら、じっと考え込む。

『そう言えば。新一とは何度もセックスして、結婚もしてるっていうのに、新一のアレって・・・あんまりまともに、見た事ないよね?』

バナナを口に含んだり横から舐めてみたり、色々やったが。

『こ、こういうので、新一は本当に気持ち良くなってくれるかな?』

当然の事ながら、バナナは反応を返してくれる訳ではないので、見当がつかなかった。


『でも、あんまり上手だと、他の男で練習しましたって感じだから、そこは程々にしないと、相手も萎えちゃうよね』
『そうそう。処女でないのはバレバレなんだから、今更とも思うけど。だからって、過去の男でテクニックを磨きました〜ってのが、あんまりあからさまなのもねえ』

学友達の会話を、思いだす。

『あんまり上手にやると、新一、私が他の男と・・・って、疑っちゃったりするかな?それは、絶対嫌よね』

などと、色々考えている内に。
蘭は、いつの間にか、3本のバナナを消費してしまっていた。



   ☆☆☆



蘭は、いつもより念入りに体を洗いながら、昼間の事を思い出して、赤面した。

お互い、相手以外の異性を知ろうとはしていないのだから、よそがどうであれ関係なく、二人なりのスタイルを作って行けば良いとは思うけれど。
新一に、気持ち良くなって欲しい、蘭と結婚して良かったと思って欲しい、とも、考える。


お風呂から上がって、リビングに行くと。
新一は、お茶を入れて待っていてくれた。

蘭の姿に、新一は目を丸くする。

「オメー、バスローブなんて、持ってたか?」
「今日、買っちゃったんだけど。贅沢だったかなあ?」
「い、いや、んな事、言わねえけど・・・」

新一が、少し赤くなって微妙に視線をそらせている。
あ、これは正解だったのかもと、蘭は考えた。


『ええっ!?蘭っていっつもパジャマなの!?色気なーい!』
『ネグリジェとか、持ってないの?』
『だ、だって。恥ずかしいし、高いし』
『そんな高くないヤツもあるよ。じゃないなら、せめて、バスローブとかにしたら?』
『そうそ、それだったら彼氏とお揃いに出来るしさあ』
『でも、どうせすぐ、脱ぐんだし・・・』
『蘭!あまーい!男を悩殺するのは、マッパより、その一歩手前よ!』


「新一の分もお揃いで買ってあるから。お風呂場に置いてあるから、使ってね」
「お、おう。もう、パジャマを着ちまったけど。せっかくだから、着替えて来るよ」

新一が立ち上がった。
そして、ふと思い出したように振り返る。

「蘭。オメーって、バナナ好きだったっけ?」
「え・・・?まあ、嫌いじゃないけど、何で?」
「生ゴミの中に、バナナの皮が結構あった。なのに別に、バナナを使ったお菓子を作った風でもねえし、どうしたのかなと思って」
「あ、そ、それはね!朝バナナダイエットって、流行ってるから!ちょっとやってみようかと!」
「ダイエット?流行りは結構前だったろ?それにオメー、どこをダイエットする必要があるんだよ。無駄な贅肉なんかねえし、胸と尻は痩せられても困るし」
「なっ!スケベっ!どこが困るのよ!?」
「はは。じゃあ、着替えて来っから、待ってろよ」

新一はそう言い置いて、浴室へと向かった。
蘭は、その後ろ姿を見送って、ふうと息をつき。
カップを片付けに、キッチンに行った。

夕御飯の片付けは、綺麗にされている。
新一は器用ではないし、長年自炊していた割に、料理が上手な訳でもないけれど。
同棲してからは、蘭になるべく負担をかけまいと、新一なりに家事を頑張ってくれていた。

「それにしても、生ゴミチェックなんて・・・これだから、探偵の旦那なんて、困るのよ」

蘭は溜息をついた。
新一に隠し事は難しい。
夫である新一に本気で隠したい事がそうそうある訳ではないけれども、今回のような「プチ隠し事」がある時は、ドギマギしてしまう。

蘭は、カップを片づけると、寝室に入り、ベッドに腰掛けて新一を待った。


バスローブに着替えた新一は、程なく寝室へと入って来た。
体を重ね合わせるようになって、もう、何年も経つのに、何だか緊張する。


「蘭」

新一が呼ぶかすれた声に、蘭の動悸が速くなって行く。

新一が蘭に並ぶようにしてベッドに腰掛け、横向きになって蘭を抱き締め、唇を重ねて来た。
新一の舌が、蘭の口腔内に入り、蘭の舌に絡められ。
新一の左手が、蘭の腰に回り、右手がバスローブの紐を解き、合わせ目が広げられた。
そして、そのままベッドに押し倒されそうになる。

『いけない、このままじゃ、いつもと同じだわ!』

蘭は、押し倒そうとする新一の動きに抗い、広げられかけた合わせ目を再び閉ざす。

「蘭!?」

新一が、不満そうな表情で、蘭を見た。
蘭に拒まれたと思ったのだろうか?

「あ、あの、新一!」
「ん?何だよ」
「今日は、わたしにさせて・・・」
「へ?」

新一の目が点になった。
蘭は、委細構わず、新一を押し倒す。

「おいおいおい」
「た、たまには、わたしがサービスしたいの。良いでしょ?」

新一は、目を丸くしていた。
蘭は、新一の上にのしかかるような格好で、新一のバスローブの紐を解こうとして、ハッとする。
仰向けになった新一のバスローブの、下腹部が盛り上がっていた。

蘭は、思わず硬直してしまう。

「蘭?」

新一の訝るような声に、蘭はハッと気を取り直し、思いっきりバスローブの合わせ目を広げた。

「・・・何かオレ、襲われてるような気がすんだけど・・・」
「ば、ばかっ!気の所為でしょ!」

言いながら蘭は、泣きそうになる。
もっと艶めいて誘うようなサービスをしたいのに、情緒がなさ過ぎだと思う。

蘭の目の前に、そそり立つ新一のモノがあった。
初めて見る訳ではないが、普段マジマジとは見ないので、その形状に、驚いてしまう。

『ば、バナナより、ずっと太いじゃないの!』

「蘭?どうしたんだ一体?」

新一が怪訝そうな声を出す。
蘭は、新一が起き上がろうとするのを、無理やり押し倒してしまっていた。
周りが見えておらず、新一の股間を凝視して、もう必死である。

意を決して、目の前にそそり立つモノを、口に含んだ。
いつも、蘭の奥深くに入って、蘭を狂わせるモノ・・・だが、口に含むのは初めてであった。
口の中がいっぱいになり、特有の臭気もあってむせそうになったが、何とか我慢する。

「うあ・・・っ!」

新一が声を出す。
蘭は、新一がどうかしたのか、気になったが、口の中がいっぱいで声が出せないので、ちらりと目を動かして新一の顔を見ようとした。
しかし、体勢的になかなか難しい。
新一が動かないので、辛い訳ではないのだろうと判断して、蘭はたどたどしく、舌を動かし始めた。

新一が息を吐き出す。
その吐息に艶っぽさが含まれているので、気持ちイイと思ってくれているのだろうかと、蘭は思いながら。
口の中がいっぱいになって辛い状況の中、蘭は必死で舌を動かしていた。

と、突然、新一が蘭の肩を掴んで、蘭を引き離した。
ハッとして新一を見ると、新一は眉根を寄せて何かに耐える様な顔をしている。

「ご、ごめん・・・わたし・・・下手だったんだよね・・・」
「違う!気持ち良過ぎ!我慢出来ねえ!」
「え?えっ・・・?」
「あのままだったら、蘭の口の中に、出しちまうとこだった」
「わたしは・・・そうでも良かったのに・・・」

蘭が言うと、新一は苦笑した。

「あれってスゲー不味いもんらしいし」
「そうなの?」
「ま、オレだって、伝え聞くだけで、実際の味までは分かんねえけどよ」
「・・・そうかもしれないけど・・・でも・・・」
「それに・・・せっかく今夜は、子作り解禁、オメーの中に出そうってんだから、その前に出しちまったんじゃ、勿体ねえだろうが」

言いながら新一は、蘭のバスローブをさっさとはだける。

「ま、待って新一!今夜はわたしが・・・!」
「ごめん。わりぃけど、待てない」
「えっ?あ・・・っ!」

このままではいつもと同じ流れになってしまうと、蘭は抗おうとしたが、新一の手と唇が蘭の肌を這いまわり始めると、あっさりと陥落した。
蘭の首筋に落とされた新一の唇は、少しずつ下に向かって動いて行く。
舌がチロチロと蘭の肌を舐めて行く。
蘭は思わず、あられもない声をあげた。

蘭の胸の膨らみを、新一は吸い上げる。

見える場所に痕をつけると蘭が怒るので、新一はいつも、人目につかない所に印をつける。
蘭の胸の膨らみに赤い花を散らされるのは、いつもの事だが。

「し、新一・・・」
「ん?何?」

新一の手も指も唇も、蘭の胸の頂きを避けて、執拗に周囲を攻める。
蘭が何を待っているのか分かっていて、わざと焦らすのだ。

「お、お願い・・・新一・・・」
「蘭。どうして欲しいんだ?口に出して、言ってみろよ」

新一の意地悪そうな声音。
今回が初めてではないけれど、その言い草に。
蘭の中で、何かが切れた。


「やだっ!」

蘭は、新一を押しのけ、いまだ全部脱いでいる訳ではないガウンの合わせ目をかき合せて、自分の体を覆った。

「ら、蘭!?」
「嫌!」
「ご、ごめん、蘭!ごめんよ・・・」

新一が、焦った口調で言って、蘭の髪を優しく撫でる。

「オレが焦らし過ぎたか?それとも、強引過ぎた?ごめんな・・・」
「違う・・・そんなんじゃない・・・だってこれじゃ、いつもと同じなんだもん!」

蘭は、決して、新一を責めたかった訳ではない。
新一に謝って欲しかった訳ではない。
そういう事ではないのだ。

けれど、言いたい事を上手く伝えられず、目に涙を溜めて、新一を見上げる。

「な、泣かないでくれ、頼むから!」

新一がオロオロしている様子に、蘭は申し訳なくて、また泣けて来る。

「そうじゃないの、新一。新一は何も悪くないの。ただ、自分で自分が、情けないだけなの・・・」
「は?な、何で?」
「わたしは・・・新一にも、もっと気持ち良くなって欲しいし、感じて欲しい。なのに、いっつも、わたしばっかり、サービスされて・・・わたしばっかり、気持ち良くて・・・いつも、一方通行で・・・」
「蘭。・・・もしかして、それで今日は、頑張ってフェラなんかやってくれちゃった訳?」
「だ、だって!」

蘭の真意が伝わったのか、ようやく新一の焦った様子がなくなった。
新一は、優しく微笑むと、蘭の額に自分の額をこつんと当てた。

「あのさ、蘭。男だって別に、セックスで、体の快感だけで満足してる訳じゃ、ねえんだぞ」
「えっ?」
「蘭がいっつも、ベッドの中で、オレにだけ見せてくれる姿とか表情とか、オレにだけ聞かせてくれる声とか。すっげーゾクゾクして、興奮する。蘭がオレに感じてくれてる事が、すげー嬉しいし。蘭がオレだけのもんだって感じられて、心がすっげー気持ちイイ。分かるか?」
「・・・・・・」

蘭は、驚いて目を見開いた。
新一が、蘭の全身を愛撫するのは、その後の挿入がスムーズに行く為の、「蘭へのサービス」とばかり、思っていたのだ。
新一が、優しい眼差しで蘭を見詰め、手で優しく蘭の頬を包み込む。

「その・・・ついつい、蘭に最後の言葉を言わせようとすんのはさ・・・苛めたいんじゃなくて、蘭が羞恥心を振り捨ててオレを求めてくれるのが、オレの事をそれだけ求めてくれるんだって感じられて、嬉しくてさ・・・」
「バカ・・・わたしはいっつも・・・新一の事、求めてるんだもん・・・」

新一が蘭の頬を撫でる優しさに、目を細めながら。
蘭は、普段はなかなか口に出せないでいる「本音」を、口にしていた。


新一が微笑むと、顔を近づけて来た。
蘭はそっと目を閉じる。
新一は、優しく触れるだけの口付けをした。

そして、一旦体を離し。
もう一度、今度は深く唇を重ねる。


「んんっ!」

新一の手が、蘭の胸元に差し込まれ。
蘭が先程強引に閉じたバスローブの合わせ目が、再び広げられる。


「蘭。お前が欲しい。膜越しじゃなく、ひとつになりたい。良いか?」

新一が、耳元で熱く囁く。

「う、うん・・・新一・・・わたしの中に、来て・・・」

蘭の両足が抱えられ広げられて、猛った新一のモノが蘭の中心部にあてがわれ、一気に貫かれた。

「あん・・・はああん!」
「すげ・・・たまんねえ・・・オメーん中、気持ちイイっ!」

隠微な水音を立てながら、蘭の体は新一の動きに合わせて激しく揺すぶられる。


「蘭・・・蘭!・・・愛してる・・・蘭!」
「んん・・・ああっ・・・しん・・・いちぃ!」


蘭の頭が白くはじけ、何も考えられなくなった時。
グッと蘭に腰を押し付けて、新一の動きが止まった。
新一のモノが、蘭の奥で脈動する。
そして、新一の熱が初めて直接、蘭の奥に放たれた。


新一が、荒い息をつきながら、蘭の額に張り付いた前髪を優しくはらう。

「蘭。大丈夫か?」
「う、うん・・・」

蘭も、荒い息をつきながら、答える。

新一が微笑み、蘭の唇に軽く触れるキスをした。
そして、新一が己を蘭の中から引き抜く。

「え・・・?やっ・・・」

蘭の中から、どろりと溢れるものがあった。
新一と蘭の体液が混じり合ったものだ。
今迄は、避妊具を使っていた為、こんな風に溢れる事はなかったのだ。

新一が、ティッシュを取ると、蘭のそこを拭う。

「やだ、新一、そんな事、自分で・・・!」
「いいから、いいから」
「良くないっ!」
「今夜は、蘭の中に、初めて、直接触れたんだよな・・・すげー幸せ・・・」

新一が、本当に幸せそうに言うので、蘭は妙に気恥しくも・・・やはり、幸せだった。

「4年前の今日、オメーを初めて抱いた時も、すっげー、幸せだったけど・・・」

蘭が、ハッと体を起こした。

「し、新一!今日が何の日か、覚えてたの!?」
「は?って事は、オメーも?・・・ああ、なるほど。あのご馳走も、今夜妙に色々サービスしようとしたのも、だからか・・・」
「だって!は、初めて、新一とひとつになれた日だもん!忘れる訳、ないじゃない!」
「それは、オレだって、おんなじ」

新一は、そっと蘭の頬に手を滑らせる。

「ずっと・・・焦がれて来たオメーだから・・・すげー、嬉しかった・・・」
「新一・・・」


新一と蘭にとって、体を重ねる行為は、欲望と快楽の為ではなく、2人の気持ちを重ね合わせるものだった。
マグロではダメとか、サービスしなければいけないとか、そんな事考える必要もない事だったと、蘭は思う。


「で、まあ、もし今夜、蘭が身籠れば、初エッチ記念日が、受胎記念日にもなる訳だよな」
「な・・・何バカな事言ってるのよ!?もう、最低!」

新一の言葉に、今の感動が吹っ飛んでしまい、蘭は思いっきり枕で新一をはたいた。

「・・・まさかと思うけど!パソコン内のアルバムに、初エッチ記念日なんか書いて写真を取っておいたりなんか、してないわよね!?」

蘭はふと、不安になって、言った。

「バーロ。それはオレの心のアルバムだけに、仕舞ってあるっつーの。万一にも、他の誰かに見られるような真似、すっかよ」
「・・・気障」

蘭は、赤くなりながら言った。

「取ってあるのは、いずれ将来、子供達に見られても、差し障りないヤツだけ」
「えっ!?」
「オレ達を仲直りをさせようなんて、子供に気を遣わせるのは、ゴメンだけどな」

蘭は、ふっと思い出した。
まだコナンだった新一を連れて、小五郎と英理の初デート記念日に、何とか仲直りさせようと画策した日の事を。

いつか、新一との間に子供が出来て、成長した時。
ああいう風に子供に気を遣わせる為ではなく、子供と一緒に幸せな思い出を語るようなアルバムになったら良いと、思う。

「蘭・・・」
「えっ?新一?」

蘭が浸っていると、新一の手が再び蘭の体をまさぐり始めた。

「もう一度、ひとつになりたい♪」
「し、新一・・・」

新一の愛撫に、蘭の体も再び熱くなる。

初めて体を重ねてから丸4年、2人の熱い夜は、まだ終わりそうになかった。



そして、この夜がまさか本当に「受胎記念日」になるとは、2人にとって予想外の事であった。



Fin.

++++++++++++++



<後書き>

最後のオチは、最近の私のパターンで、ごめーん。


ていう事で。
バレバレだったかもしれませんが、記念日とは、2人の初エッチ記念日だったって事です。

閃いたのは、原作でのホワイトデー話の頃。(もう、どれだけ経ってんだか)
ですが、モデルになったのは、原作でのコゴエリの初デート記念日のお話(えりりんの浮気疑惑→実は猫のゴロちゃんの主治医である獣医さんと会っていたオチのやつ)ですね。

新一君と蘭ちゃんは、きっと、沢山の記念日があるだろうと。
新一君は、自分の誕生日は何故か忘れるらしいですが、蘭ちゃんとの記念日は多分全部覚えているだろうなと思います。
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