期限付きの恋人



(8)新一の事情



byドミ




新一は、意識を手放した蘭の姿を、飽かず眺めていた。

溢れんばかりの愛しさと、大きな歓喜と、少しばかりの罪悪感を感じながら。


蘭は、つい先程、新一の腕の中で「女」になった。
その美しい身を惜しげもなく差し出し、痛みをこらえながら、新一を受け入れたのだ。


今はまだ、このような事をする積りでは、なかった。
蘭を「守る為に」近づいた筈だった。
自分の欲望のままに、「今」、蘭を自分のものにしようとは、考えていなかった。

けれど。


「やべえな。蘭が相手だと、自分を止められねえ・・・」

新一はひとりごちる。


「ナイトバロン」でホストのコナンとして蘭と再会してからずっと、新一の胸を覆っていた苛立ちは、今はきれいに取り除かれている。

蘭が見せる、無防備で流され易い面が、新一の苛立ちの元だった。
新一が蘭に、青木助教授に見せつける為のキスをした時も、さして抗う様子もなく、後から詰ったり怒ったりする事もなかった。
自分からそういう事をして置きながら、蘭がそれを「簡単に受け容れた」事に、新一は苛立っていたのである。

蘭に恋人が出来た事がないのは、分かっていたが。
新一の知らない所で、蘭もそれなりに経験があるのではないかという不安が、いつも新一を苛んでいた。
だから、一方で「蘭が欲しい」という強烈な欲望を覚えながら、簡単に流されて堕ちるような女性であって欲しくないと、矛盾した気持ちを抱えていたのである。


けれど、事ここに至ってようやく、自惚れなどではなく、蘭の気持ちがどうやら新一にあるらしいと、新一には分かって来た。

蘭は、誰にでも無防備な訳ではなく、誰に対しても流され易い訳ではない。
いつからかは知らないが、蘭の心が新一にあり、だから「新一に対してだけ」無防備で流され易かったのだと・・・ようやく、気付いたのだ。


蘭は、新一の心を知らない。新一の目的も知らない。
けれど、「今だけでも」と思い詰めて、新一に抱かれる事を望んだ。

蘭が新一の気持ちを知らず、切ない想いを抱えているだろう事には、心痛むが。


「今はまだ・・・オレの気持ちを、告げる訳には行かねえ・・・」

全てにけりがつくまでは、蘭に気持ちを打ち明けられない。
新一は、自分にそう言い聞かせる。



かすかな音に、新一は顔を上げた。
もう一つのベッドに置いている携帯が、振動している。
新一は、蘭の体に寝具をかけ、立ちあがって浴衣を羽織り、携帯を手に持って、続き間である隣の部屋へ移動した。


   ☆☆☆


携帯の着信を確認する。
寝室の隣の部屋の机には、新一が持参したノート型パソコンのLan端子や周辺機器を繋ぎ、いつでも使える状態にしてあった。

パソコンを立ち上げ、音声メッセンジャーに繋ぐ。

「服部。一体、何の用だ?」
『何の用や、あらへんで!工藤、お前、どこに居るんや!』

ヘッドホンを通して聞こえるのは、大阪弁の男声である。

「長野」
『は?長野て、お前・・・』
「プチ旅行だよ。宿泊は、予定外だったが」
『ほお、優雅な身分やなー。おい工藤、そないに遊び回っとって、クイーンの娘さんは、どないすんねん!』
「どうする、とは?」
『今夜、気になって行ってみたんやけど、事務所も自宅も、灯りが点いてへんで?まさかヤツらの手エに・・・』
「あ。それは、ねえ。彼女は今、隣の部屋で寝てっからよ」


暫く沈黙が下りた。
新一は、雷に備えて、ヘッドホンを少し離す。

『何やて〜!?工藤、お前、守る筈の娘さんに手エ出してもうたんか!?』
「ああ。まあ、そういう事になるかな?」
『面白がってる場合ちゃうで!お前、女には興味がない思うとったんに・・・』
「女には、興味はねえ。オレが興味があるのは、蘭だけだ」

新一はキッパリと言った。
ヘッドホンの向こうで息を呑む気配がする。

「服部。この仕事は最初から、私情抜きで受けるには無理があったんだ。オメーに話してなかったのは、悪かったが」
『工藤の秘密主義は今に始まった事やあらへんから、今更や。最初はこん仕事受けるんは、渋っとったクセに、自分がこの件は担当する言うたんは、そういう事やったんやな』
「ま、そういう事で、彼女を守るって方は、これからもキッチリやるから」
『ヘイヘイ。けど、こらクイーンから、依頼料取る訳には行かんで?所長の女を守る為の、ただ働き言うこっちゃな』
「わりぃな。必要経費は、全部オレが出すからよ」
『工藤が本気や言うんやったら、仕方あらへん。けど、半端はあかんで?』
「ああ。きっちり、けじめはつけるよ。ところで服部、頼みてえ事があるんだが」
『何や?関連する事か?』
「ああ。実は、一ヶ月前、蘭は鈴木財閥の令嬢に連れられて、ナイトバロンに来た」
『ナイトバロン!?工藤が、ホストとして潜り込んで探っとる、あそこか!?』
「ああ。鈴木家の園子嬢は、幼い頃からの蘭の親友だから、本人に裏があるとは思えねえ。けど、よりによって、あの店に蘭が偶然やって来るなんて、考えられねえから、園子嬢を上手く誘導した人物が居る筈だ」
『幸い和葉が確か、鈴木家の次女と同じ大学やな。そっちで、探らせてみるわ』
「ああ、頼む。・・・それと、こっちは明日まで、ハネムーンだ。もう邪魔すんなよ」
『人に、依頼をして置いて、それかい!その分、後でまとめてキッチリ所長の仕事をして貰うで、覚悟しいや!』


   ☆☆☆


通信を終わった新一は、寝室へと戻った。
蘭はまだ、眠りの中に居るようである。

先ほど、欲望を放ったばかりだというのに、飢えにも似た欲望が再び膨れ上がるのを、新一は感じていた。

寝具を取り除くと、蘭の生まれたままの体が、現れる。


『オレのものだ、オレだけの。誰にも、渡さねえ!』

新一は、浴衣を脱ぎ棄て、蘭の上に覆い被さる。
蘭の柔らかな体を抱きしめ、口付けを落とし、胸を揉みしだく。

「ん・・・ふ・・・っ」

眠りの中で、蘭は少しずつ反応を返す。
新一の執拗な愛撫に刺激されてか、やがて蘭のまつげが震え、瞼が押し上げられた。
現れた黒曜石の瞳に、新一は見とれる。

「蘭」
「新一・・・?」


蘭は一瞬部鴫そうな顔をしたが、新一の愛撫に、喘ぎ声をあげる。

「あ・・・ん・・・ふあっ!」
「蘭・・・オメーが欲しい・・・」
「だって、新一、さっき・・・あっ!」
「1度だけじゃ、全然足りねえ」

1度は新一を受け入れたとはいえ、蘭にとっては、まだ慣れない行為の筈だが。
新一の溢れだした欲望は、止まるところを知らない。

蘭からの言葉での返事はなかったが、新一の愛撫に嫌がるそぶりはなく、身をくねらせて声を上げる。
新一はその姿を、「OKサイン」と解釈して、行為を続ける。


「蘭。オメー、すげーイイよ・・・」
「あ・・・ん・・・はああっ!」

蘭は、淫らに身をくねらせ始める。

新一とて、知識はあっても女性との行為は今夜が初めての事だから、よく分からない部分もあるのだが。
蘭は非常に感度が良いのだろうと、感じていた。

ロストバージンで絶頂を迎える女性は、そもそも珍しいと聞く。
蘭がどういう風に思ったのかは知らないが、知識だけしかない新一に、さほどのテクニックがある訳もなく。
初めての蘭が新一の腕の中で絶頂を迎えたのは、蘭が感じ易い体をしている為であろうと、思う。

新一が(男性にしては珍しく)蘭にだけ、触れたいという欲望を覚えるように。
蘭が、新一にだけ、感じてくれるのであれば嬉しいと、新一は思う。

どちらにしろ、他の男が蘭に触れる事態を許す気は、毛頭なかったけれど。


蘭の体の準備が充分出来た頃合いとみて、新一は、避妊具をつけた己を、蘭の中に押し込む。
薄い膜越しにしか蘭の内部に触れられないのはもどかしく、直に蘭の中を感じたいのは山々だが、今はまだ、蘭にリスクを負わせる訳には行かない。
蘭の中は先ほどよりは抵抗がなく、新一のモノはスムーズに入って行く。

「あ・・・う・・・っ!」
『やっぱりまだ、少し痛むか・・・』

愛しい女性に痛みを与える事に、罪悪感を覚えないでもないが。
その痛みを与えたのが、他ならぬ自分自身だと思うと、大きな愉悦をも覚える。


「蘭・・・オメーん中、気持ちイイ・・・」
「あん・・・新一・・・あ・・・あああっ!」

新一が腰を動かすと、蘭のタップリした胸が揺れ、胸の頂きの赤い果実が、更に赤く色づき固く立ちあがる。
蘭の顔が、苦痛をこらえるものから、愉悦の表情へと変化して行く。

蘭が背中を反らし、高い嬌声を上げて果てた時、新一も蘭の中に、己の熱を吐き出した。


お互いに、イッタ後のけだるさの中で弛緩し、お互いの体を抱きしめ合った。
暫く余韻に浸っていたかったが、避妊具の意味がなくなってしまうので、新一は蘭の中から己を引き抜く。
その瞬間、蘭が喪失感に耐えるように、ブルリと身を震わせた。


新一が、自身から避妊具を外して処理するのを、蘭がもの問いた気に見やる。

「何?」
「う、ううん・・・何でも・・・」

新一は、切なげに眼を揺らす蘭を、そっと抱き締めた。
新一が自分の気持ちを告げていない分、蘭は、言いたい事を呑み込んでしまっている部分があるだろうと、新一は思う。


「蘭。朝まで、まだ間がある。一眠りしよう」
「うん・・・」
「朝になったら、東京に帰ろう」
「・・・うん・・・」
「夜、店に行くまでは、特に予定もねえから。オレんちに、来いよ」
「えっ!?」

蘭は、新一の言葉が思いがけなかったのだろう、目を見開いた。
新一は、何度も蘭を送って毛利探偵事務所の下の階段まで行った事があるが、蘭は新一の家を知らない。

「行って、良いの?」
「ああ、勿論。オメーはオレの、恋人なんだからよ」

蘭の瞳が揺れた。
8月までの、期限付きの恋人であるという事実が、蘭の胸に重く圧し掛かっているのだろう。
新一は、蘭に切ない思いをさせているという事に、心痛む。

新一は、「期限が来たら」蘭を手放す気など、毛頭なかったが。
今、それを告げて蘭を安心させる事は、出来なかったのである。


   ☆☆☆


蘭が新一の運転する車に乗って、米花町に帰り着いたのは、昼頃だった。

「ここ・・・」

大きな古い洋館の前で、蘭は絶句する。
そこは蘭が幼い頃、「お化け屋敷」と呼んで怖がって見ていた屋敷だった。

玄関から入り、蘭が思わず中を見回していると、鍵がかかる微かな音がした後、蘭は背後から抱き締められた。

「新一?」
「・・・オレの部屋に行こう」

新一が、蘭の耳に熱い吐息をかけながら囁いた。
蘭が抗えずに頷くと、次の瞬間、蘭は新一から横抱きに抱えられていた。

階段を登って、2階の部屋へと入って行く。
そして、小ぢんまりとした洋室に連れ込まれ、ベッドの上に下ろされた。

机とクローゼットと本棚があり、シングルベッドが置いてあるこの部屋は。
新一の私室であり寝室でもあるのだろう。

蘭の服に手がかけられ、脱がされ始める。

「し、新一?」
「店に行くまで間があっから。それまで、オメーと・・・」

カーテンが引いてあっても、昼間の明るい光の中で。
蘭は生まれたままの姿になった。

蘭は目をぎゅっと閉じていたが、新一に、全身を舐めるように見られている視線を感じて、蘭の体は羞恥に震える。
衣擦れの音と、金属音がした。
新一が、ベルトを外し、服を脱ぎ捨てているのだろう。

「蘭」
「あっ・・・!新一・・・っ!」

新一が覆いかぶさって来て、抱き締められた。
蘭はそのまま、甘く熱いうねりに身を任せる。

蘭は、やがて来る別れの事を心の隅に押しやり、覚え始めたばかりの快楽に身を委ね、溺れて行った。


   ☆☆☆


夜になると、客に夢を見せる場所に変貌するホストクラブも、昼間には、ただの薄暗い空間だ。
ホストクラブの中でも華やかで格が高いとされているナイトバロンでも、それは同様である。

外は眩しい程の日の光、しかし、窓がない為、中は暗い。
夜と違い、煌びやかな灯りも無く、うらぶれた雰囲気すら漂っている。

客もいない、勿論、ホストの姿もない。
そんな中、オーナーのミツルが、所在無げにソファに腰掛けていた。


ドアが開き、ドアチャイムが鳴る。
ミツルがそちらに目を転じると、長身の男が立っていた。

歳の頃は30代半ばといったところか。
一見、優男風。しかし、その眼の奥に、残忍な光が宿っている。


「やあ、風戸センセイ。ホストクラブ風情に、何の用が?」

揶揄するように言ったミツルの言葉に応えず、風戸センセイと呼ばれた男は、ミツルの向かいのソファに腰掛け、勝手にグラスを取り氷を入れ飲み物を注いで、自分の前に置いた。
そして、風戸は口を開いた。

「例の娘、あれからどうなった?」
「来てないぜ。あの娘、どうも妙に周りのガードが固い。鈴木母子は、見かけによらぬ狸だから、誘いに応じてあの娘を連れて来たのは最初の一回きりで、後は・・・他の学友やマダム連中にも根回ししてみてるが、どうもうまくない」
「う〜む。そうか・・・」
「アンタの方はどうなんだよ?ちっと名の売れてる助教授を心理操作して、落そうとしてたんじゃないのか?」
「その男、意外と使えなかったな。それに、女王様の娘だけあって、優しげで押しに弱そうな風情ながら、なかなかどうして、簡単に落ちない。何とか、私の研究室に来るよう仕向ければ、催眠暗示をかける手立ても使えるのだがな」


2人の会話は、なかなかに不穏当だった。


「ただ、気になってる事がある」

ミツルが、グラスを弄びながら言った。
氷入りのグラスの中に入っているのは、ウーロン茶である。
ミツルは商売で酒を扱うけれど、仕事以外で酒に溺れたりはしないのだ。

「その娘に対応した、コナンというホストだ。結構長い事ここにいるから、まさか女王が送り込んで来た訳でもなかろうが。どうもヤツが、さり気なく娘を庇ったフシがある」
「ふん?」
「ヤツは、1年前に、金が欲しいからホストをやりたいと、うちに来た。
学生だし、レポートだ資格試験だで忙しいって事で、勤務は不定期だが。ルックスの良さと、女あしらいの上手さで、かなり売れっ子になって固定客もついてる。にも関わらず、同伴は絶対にしない。おそらく、店外デートをやった事もないだろう。
そこら辺を上手にやれば、この1年間でかなりの収入をあげただろうが。ヤツが今迄手にした収入は、基本の時間給と指名料だけだから、300万にも満たぬだろうよ」
「まあ、学生アルバイトと考えるなら、それでも破格なんじゃないか?ところで・・・そいつ、本名は?お前は雇う時、相手が何者であっても問わないが、身元確認だけはしてるだろう?」
「コナンというのは源氏名だが。そいつは本名もコナン。江戸川コナンと、パスポートには書いてあったよ」
「パスポート?」
「何でも、運転免許証を持ってないのだそうだ」

風戸と呼ばれた男は、顎を押さえて、暫く考え込んだ。

「・・・その江戸川コナンという男、会ってみたいな」
「だがここはホストクラブ。センセイがヤツに会うのは、不自然だろう?」
「ホスト見習いと言う事では、どうかね?」
「尊大なセンセイに、ホスト風情の真似が出来るのか?」
「別に良いじゃないか。金に困って、やってみようとしたが、結果は駄目でしたって事で、何とでもなるだろう?」
「やれやれ。商売の邪魔だけはしないようにお願いするよ」


   ☆☆☆


蘭が目を開けると、すぐ目の前に、新一の顔があった。

「目が覚めたか?」
「あっ・・・!」

蘭は、状況を理解して赤面する。
溺れるような新一との情事の果てに、気を失うように眠りについていたのだった。

「わりぃ」
「えっ?」
「無理、させちまった」

蘭は、俯きながら、首を横に振る。

「謝らないで」
「ん?」
「わたしが、望んだ事だもん」

新一の眼差しが、やや陰る。
蘭は、やはり新一に自分の想いなど気付かれているだろうと、思う。
重いと思われるかもしれないが、仕方がない。


新一が、身を起こした。
そして服を身につけ始める。

「新一?」
「・・・そろそろ、時間だ」

時刻は既に、夜の7時近くを指していた。

「蘭も、服を着て。送ってくから」
「うん・・・」

体中、節々が痛むのをこらえながら、蘭は起き上がって服を身に着けた。
それが終わると、新一が蘭を横抱きに抱えあげた。

「新一?」
「今は、歩くのが辛いだろ?車まで、連れて行く」
「だ、大丈夫だから!」

蘭が思わず抗議するが、新一は意に介する様子もなく、そのまま蘭を抱きかかえてガレージまで連れて行った。
そして、助手席側のドアの前で下ろされる。
蘭が乗り込むと、新一は運転席側に回って車に乗り込み、発進した。

もう少し、このままで居たいという願い空しく、あっという間に、蘭の家に到着した。
そして、新一が運転するレンタカーは、毛利探偵事務所の前で止まった。

「蘭。大丈夫か?」
「う、うん・・・」
「さすがに、蘭の家まで抱えてったら、まじいだろうから、ここで」

蘭は頷いた。
新一の顔をまともに見る勇気がなく、俯いたままだ。
不意に蘭の手に、硬いものが載せられた。
それは、一本の鍵で、蘭は思わず顔を上げる。
新一が、はにかんだような笑顔で言った。

「うちの合い鍵」
「えっ!?」
「いつでも、うちに来て、好きに過ごしてくれて、構わねえから」
「新一・・・」

蘭は、新一の顔と鍵とを、マジマジと見比べた。

「オレは、いねえ事が多いかもしんねえけどよ。オメーだったら、いつ来ても構わねえから」

蘭は、鍵を胸の前で握りしめた。
これを持たせてもらうのも、期限が来るその日までなのだろうと、心のどこかで思っていたが。
限られた日々を、精一杯過ごそうと、決意を固めていた。

不意に、蘭の唇に、温もりが触れ、すぐに離れて行った。


「じゃあ、また明日」

新一の言葉に、蘭は精一杯の笑顔を作り、車を降り。
そして、何とか足に力を込めて、ポアロの横の階段を、自宅に向かって上がって行った。


   ☆☆☆


新一は、蘭が階段を上り、自宅へ向かうのを、見届け。
車のエンジンをかけた。


「さて。どうやら今宵は、風戸京介との化かし合いになるようだ」

新一の顔には、不敵な笑みが浮かび、その眼が鋭く光った。



(9)に続く



++++++++++++++++++++++++++++


<後書き>


どこで、新一君の視点を入れるか。
実は、最終回近くまで、そちらは伏せておこうかとも、考えたのですが。
どうも、私の筆力の無さで、ここら辺で新一君の事情を少し入れないと、話が進められないなと思いまして。
書く事にしました。

パラレルもので、新一君が「探偵でない」設定のものは、いくつか書いてますが。
やっぱり私的には、探偵である新一君ってのが、一番シックリ来ます。

本当は、ホスト新一君を書く筈が、考えてみたらホストの場面って、ちょっとだけ(汗)。
この先、書くかどうかは・・・微妙ですね。

戻る時はブラウザの「戻る」で。