期限付きの恋人



(7)初めての夜



byドミ



夏とは言え、山の夕暮れは早い。

蘭は、大きな窓から見える、アメジスト色に変化して行く稜線と空を、ぼんやりと見ていた。
まだ、ここは長野県内。
東京に帰る事も可能だったけれど、新一は、ここに泊まる事を選んだ。

『東京に帰ったら、ゆっくり出来ねえし。何より、もう、待てない』

新一は、そう言った。


ホテルに入る前に、近くの店で、早目の夕ご飯を済ませた。
味も分からず、あまり食欲もなかったが、多少無理して食べた。

予約もなく、週末のホテルを取るのは大変だったと思われる。
急遽押さえたこの部屋は、いわゆるスイートルーム、続きもある広い部屋で、蘭は「ひと晩で一体いくらかかるのか」と、怖くなってしまった位だった。

『いつもこんな贅沢が出来る訳じゃねえけど。蘭と初めて夜を過ごす記念日だから、この位は良いさ』

そう言って新一は笑った。

そもそも、新一がホストをやっているのは、お金が必要だからではないのだろうか?
いくら売れっ子のホストであっても、この部屋の代金をポンと出すのは、かなり痛いだろう。

新一は、この先もずっと、探偵と並行して、ホストという仕事を続けるつもりなのだろうか?

蘭はぼんやりとそういう事を考える。


部屋全体の灯りは消してあり、灯るのはベッドサイドのスタンドライトだけ。
暮れなずむ中、室内は暗くなって行く。


蘭は、先にシャワーを浴びて、今は新一が、シャワーを浴びに行っていた。
蘭はひとり、浴衣をまとい、ベッドのひとつに腰かけて、新一を待つ。
これからの事を考えると、緊張のあまり、震えて来た。


浴室のドアが開く音がして、蘭は身を固くした。

「蘭」

新一の呼びかけて来る声に、振りむく事も返事をする事も出来ず、大きく喘ぐ。

新一が歩み寄って来て、蘭の隣に腰掛け、抱き寄せた。


「蘭。これで、訊くのは最後だ。この先は、止められねえ。本当に、良いのか?」

蘭は、驚いて新一の方を見た。
新一が見詰めて来る瞳の蒼さに、吸い込まれそうになる。

「うん・・・良いよ・・・」

蘭は、こくりと頷く。

「なあ、蘭。オメーさ、まさか、オレに禁欲生活させてっから、そんな風に思って、自分の体を差し出そうって思ったんじゃねえよな?」
「え!?」

蘭は、思いがけない問いに、思わず目を見開いた。

「ば、ばかっ!わたしは・・・!」

蘭のまなじりから、思わずほろりと涙が零れ落ちる。

「そんな事の為だけに、バージンをあげようなんて思う訳、ないじゃない!」
「そ、それは・・・そうかも知れねえけど」
「今だけで良いから・・・新一に・・・わたしのもので、あって欲しい・・・」
「蘭?」
「わたしだけを見て、わたしだけにキスして、わたしだけを・・・抱いて・・・今だけで・・・良いから・・・」
「蘭・・・」

こんな風に、自分の思いを吐露してしまう積りは、なかったのに。
蘭は、「新一だから抱かれたいのだ」という想いを、吐き出さずには居られなかったのだ。

新一には、蘭の想いが伝わってしまっただろうか?
本気で惚れられると迷惑だと、思われてしまわないだろうか?


不意に蘭は、強い力で抱きしめられた。
新一の手が蘭の顎を捕え、蘭の唇に新一のそれが重ねられる。

蘭の唇が激しく貪られ、新一の手が蘭の背中をさするように動く。

口付けられたままに、蘭の浴衣の帯がほどかれ、袷を広げられた。

「ん!んんっ!」

胸の下着はつけていない。
上半身が露になった蘭は、そのままベッドに横たえられた。
浴衣の下半分も自然と広がり、蘭の体を覆うものは、秘められた場所を覆う布だけになってしまう。


新一が、蘭の唇を解放して、蘭の両脇に手をつき、上から覗き込んだ。
蘭は目を閉じていたが、新一の視線を痛いほど感じ、無意識の内に両腕で胸を隠すようにしながら、大きく息をしていた。

「すげー、綺麗だよ・・・蘭・・・」

新一のしっとりと優しい囁き声に、蘭はゾクゾクとした。

新一の手が、蘭の脇腹に触れ、上の方に移動し、胸の膨らみを包み込む。
そして、優しく揉みしだき始める。

「あ・・・ああっ・・・!」

新一が屈み込み、蘭の首筋に唇を落とす。
そしてそのまま、舌を這わせる。

「んっ!あ・・・!」

新一が蘭の肌に、手で唇で触れて行く度、蘭の体を甘い痺れが襲う。
新一の指が、蘭の胸の果実に触れ、こすった。

「ああああん!」

電流が走るような甘い感覚に、蘭は思わず高い声をあげていた。
自分でもわかる位に、そこが固く勃ちあがる。

首筋から胸元へ移動していた新一の唇が、蘭の胸の飾りの片方を捕え、口に含んで舌先で転がすようにした。

「あ!やああああっ!」

一段と強い刺激に、蘭の全身に電流のような痺れが走り、中心部が疼く。
自分の中から蜜が溢れだす感触があり、強い羞恥を覚える。

新一の唇と指が、蘭の体をくまなく辿って行く。
その度に、蘭の身を、新たな感覚の波が襲う。

初めての事で、よく分からないが、これが「感じる」という事なのかと、蘭は心の奥で薄々感じていた。
そしてそれが、新一が触れるからこそもたらされる感覚だという事は、分かっていた。
想像するだけでおぞましいが、他の男では、おそらく絶対にこうはならない。

新一が唇を寄せた場所が、時折ちりっと痛む。
そこに、所有の赤い花が咲いている事を、今の蘭はまだ知らない。

「蘭・・・オメーすげー可愛い・・・」

新一が囁く声が、媚薬のように蘭の脳髄を蕩けさせる。

「ん・・・ああっ・・・しん・・・いち・・・」

新一の時間をかけた丁寧な愛撫に、蘭の快感は高まり、蘭の中心部から溢れだす蜜は量を増し、その焦れったさに蘭は気も狂わんばかりになる。
この行為が初めての蘭の為に、新一が時間をかけて蘭の体を開こうとしている事は、何となく蘭にも分かった。

新一が、この行為に手馴れている様子が、蘭には悲しい。

『今は・・・今だけは、わたしだけを見て・・・』

蘭は心の内だけで、切ない声をあげる。


新一が、蘭を覆う最後の布を、取り去った。

蘭の足が広げられ、蘭自身さえ見た事のない中心部が、新一の目に晒される。
死ぬほどの恥ずかしさに、蘭は必死で耐えた。

「蘭・・・綺麗だ・・・」

先ほどから新一は、綺麗だの可愛いだのという言葉を繰り返している。
それが、ベッドの中だけの言葉であっても、嬉しいと、蘭は思っていた。

蘭の中心部に、新一の指が寄せられる。
自分でも触れた事のない敏感な花芽に触れられて、蘭は声を上げた。

蘭の中心部からは、再び蜜が溢れ、割れ目を伝ってシーツへと流れ落ちる。

新一の顔が、蘭の中心部に寄せられ、その舌が蘭の入口を侵し始めた。


「ああっ!や・・・!し、新一・・・そんな・・・トコ・・・汚い・・・!」
「蘭の体で、汚いところなんて、あるもんか」
「ん!あ!あああっ!んああああああっ!」

頭が白くはじけるような、強い刺激に、蘭が仰け反って声を上げる。
手足を突っ張らせて、痙攣するようにぴくぴくとなった後、全身が弛緩した。

蘭は、荒い息をつきながら、今のは一体何だったのだろうと、ぼんやりと考える。

ぼんやりしていると、新一のぬくもりが離れ、蘭は不安になって顔を上げた。
新一が、自身の浴衣を脱ぎ捨てているところだった。

新一が蘭の方に向き直る。
服を着た状態では細身に見えるが、きっちりと筋肉がついた胸板と肩に、蘭の目が奪われた。
引き締まった腹部の下には、男性のシンボルがそそり立っているのが見え、蘭は慌てて目を逸らした。

『あ、あれが、そうなの?』

ちらりとでも、初めて目にしたそれは、内装式の生理用品などとは比べ物にならない大きさで、蘭は思わず怖気づいてしまっていた。

「蘭」

新一が優しく名を呼び、蘭に覆いかぶさって抱きしめて来た。

「あ・・・新一・・・」

直に感じる新一の逞しい腕と胸板が、何だか安心出来て嬉しくて。
蘭も新一の背に手を回し、抱きしめ返す。
蘭の太ももの辺りに、固く熱い塊の感触を感じ、それが先ほどちらりと目にした、男性のシンボルである事に気付いて、蘭の身は一瞬強張った。
けれど、安心させるように新一の手が蘭の背中を撫で、蘭の強張りも解けて行く。


「蘭。挿れるぞ」
「う、うん・・・」
「力、抜いておけよ」

新一が、蘭の両膝の裏に手を入れて抱え上げ、蘭の中心部に熱い塊が触れた。

「あ・・・う・・・いたあっ!」

覚悟していた筈なのに、体が引き裂かれそうな痛みに、蘭は思わず悲鳴を上げた。
蘭の入口から熱い塊が押し入って来ようとするが、そこは狭く、侵入を阻む。

「う・・・くっ・・・蘭、力抜けって」
「そんな事・・・言ったって・・・ど、どうしたら良いか、分かんないよお」

蘭の眦から、涙が流れ落ちる。
痛みもあるが、あんなに新一に抱かれたいと願っていた筈なのに、いざとなると拒絶してしまう体の反応が恨めしかった。

「蘭・・・」

新一が優しく蘭の涙を唇で拭い、蘭の唇は新一の唇で覆われる。
新一の片手が、蘭の胸の膨らみを揉みしだき、その頂を指の腹で擦る。

「ん・・・うん・・・!」

新一の舌が蘭の舌を絡め取り、甘く蠢く。

「はあっ・・・」

新一が蘭の唇を解放した時、蘭は思わず、詰めていた息を大きく吐き出した。

「蘭。そのまま、息を止めないで。ゆっくり、口で呼吸をして・・・」

新一の優しい声が耳元で聞こえ、蘭はゾクゾクとする。
再び、熱い塊が蘭の中に押し入って来て、蘭の身を再び痛みが襲う。

「う・・・あ・・・ああっ!」

無意識に、ずり上がって逃れようとする蘭の体は、しっかりと新一に抱き締められて、逃れられない。

「蘭・・・蘭、蘭!」

新一が蘭を切なげな声で呼ぶ。
蘭の口からは、苦鳴の声があがる。

「蘭。全部、入ったぜ。分かるか?」
「え・・・?」

蘭は、汗びっしょりになって、肩で息をしていた。
見ると新一も、汗びっしょりになっていて、蘭の上に、新一の汗が滴り落ちる。
痛みで訳が分からないでいる間に、新一の侵入は、終わったらしい。

「ホラ。オレと蘭は、ここで繋がってる」

新一が、蘭の手をその場所に導いた。
蘭の中心部に、新一の中心部が根元まで埋め込まれているのが、分かる。

「あ・・・」

新一と繋がって1つになっている、その事実に、蘭は涙を流した。

「蘭。これで、オメーはオレのもんだ・・・」
「新一・・・?」
「そして、オレはオメーのもんだよ・・・ずっと・・・」
「嘘つき・・・」
「嘘じゃ、ねえ」


新一の言葉は、今だけの、ベッドの中だけの、戯れ。
それでも良い。
嘘でも何でも、今だけは、新一は蘭だけのもの。
いずれは、終わりが来るにしても。


「蘭、大丈夫か?」
「う、うん・・・」
「動いて、良いか?」

蘭は頷く。
新一が、少しずつ腰を動かし始めた。
落ち着いた筈の痛みが、再び蘭を襲う。


「う・・・あ・・・つうっ・・・!」
「蘭・・・蘭・・・すげー、熱くて・・・気持ちイイ・・・」

蘭は必死で新一にしがみついていたが、新たな刺激の中で、痛み以外の感覚が徐々に強くなって来る。


「あん・・・はん・・・あああ・・・新一・・・ああ・・・っ!」

蘭の変化を見てとった為か、新一の動きが激しくなる。
蘭の体は、大きく揺らされ、先ほどとは比べ物にならない快感の波が、蘭を襲った。

「ああっやああああっ!し、新一・・・わたし・・・変に・・・なっちゃうっ!」
「くうっ!蘭・・・イイぜ、そのまま、おかしくなっちまえよ、蘭!」
「うふ、あ・・・ああああん!し、新一ぃ!・・・ああ・・・もう・・・ダメ・・・やああああああん!」

蘭は、自分を襲う感覚がどういう意味なのかも分からないままに。
絶頂を迎え、新一の背に爪を立てて、背中を反らした。

「蘭!うっ・・・くううっ!」

新一が一段と激しくなった動きを止め。
新一のモノが蘭の奥で大きく脈打ったのを、蘭は薄れゆく意識の中で、感じていた。


(8)に続く

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<後書き>


ご存知の方はご存じだと思いますが、このお話は、裏の下書きブログに連載しているもので、ある程度まとまったらラブ天の方に上げています。
ただ最近、下書きブログの方も連載が滞っていまして・・・こちらも随分、間が開いてしまいました。

こちらの2人の、初夜です。
新蘭だと(まあ、快青平和真園辺りでも同じでしょうけど) 、たとえパラレルでも「お互い初恋、お互い初めての相手」ってのがどうしても譲れない為に、裏では、初体験を書く事がどうしても多くなってしまうんですね。

このお話、元々は、「ホストの新一君を書いてみよう」ってのから始まって。
でも、「根っからのホスト」ってのは、どうしてもやっぱり、有り得ないので。
色々裏事情をでっち上げて肉付けしている内に、何だか話が別の方向へ転がってしまったような気がします。

まあ、一応、今の時点で、大まかな事は決まっていますが、細かな部分でまた色々、いじくり回すかもしれません。

いい加減この話も、サクサク先を進めたいなあと、思っているので。
ねじを回して書いて行こうと、希望しています(←希望かよ)。


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