契約結婚



By ドミ



(6)バツ



新一さんが近づいてくる気配がする。
わたしは、何となく息を殺して目を閉じ、動かずにいた。

髪の毛に触れられ……優しく撫でられる。

「蘭」

さっきのような、怖い感じの優しい声ではなく、どこか切なさを帯びた、優しい声が、わたしを呼ぶ。

「蘭……オレは……」

わたしは、息を詰めて、彼の言葉の続きを待った。
でも、それ以上、彼は何を言うこともなく、髪を撫でていた手が離れて行く。

そして、彼の気配は遠のいていく。
多分……仕事に戻ったんだ。


わたしの目から涙が溢れて流れ落ちた。
自分でも、何故泣くのか、わからなかった。


そのまま、わたしは眠りに落ちてしまったみたい。
次に目が覚めたときは、あたりが暗くなっていた。


わたしは、ノロノロと起き上がり、脱ぎ散らされたままの制服をハンガーにかけ、寝室に続く脱衣所にある洗濯機に下着を入れ、そのまま浴室に行って、シャワーを浴びた。
わたしの太ももの間を、新一さんから注がれたものが流れ落ちていく。

新婚の、わたしがピルを使っていた時期以降は、必ず避妊をしていた新一さんだけど、さっきはそのまま、わたしの奥に熱を吐き出した。
もしかしたら、赤ちゃんができるかもしれない。


それならそれでもいいって、わたしは思う。
新一さんの子どもなら、いつでも欲しいって思うもの。

ただ、新一さんが怒っていたのが、とても気になった。

そりゃ、新一さんは怒るよね。
わたしが不用意に男の人を連れ込んだのは確かなんだもん。

わたしにはその積りがなかったって、言い訳にもならない。
瑛佑君に最初からその積りがあったかなんて、そんなのはわからないけど、彼のスイッチが入ってしまったのは事実。

多分……いざとなったら、わたしも空手技を出しただろうって思うから、そのままキスやエッチになだれ込んだとは思わないけど。
わたしは……絶対に、瑛佑君に唇も体も許さなかっただろうって自信はあるけど。
でも、新一さんから見れば、違うんだ。
強引に迫られたら、流れで関係を持ったかもしれないって、思ってしまうんだ……。

わたしは、新一さんから信用されていない。
ううん、もしかしたら、多少は信用されていたかもしれないけど、瑛佑君を招き入れた時点で、それも失われてしまったかもしれない。


ふっと気配を感じて、慌てて振り返った。


「新一さん!帰ってらしたの!?」
「声はかけたんだが、シャワーの音で気付かなかったのか?」

新一さんは、服を着たまま、つかつかと歩み寄る。
そして、シャワーのスイッチを止め、わたしを抱きしめた。

「し、新一さん……服が濡れちゃ……んうっ!」

わたしの言葉は、新一さんの唇に呑みこまれた。
新一さんに深く口付けられ、手が背中と腰を這い回る。
新一さんの昂ぶりが、服越しにわたしのお腹に当たっていた。

わたしの息が上がり、頭が朦朧となったころ、新一さんはわたしを抱え上げてそのまま寝室へと連れて行かれ、わたしの体はベッドの上に投げ出された。
新一さんは手早く服を脱ぎ棄てると、わたしの上に圧し掛かる。

「し、新一さん?」
「……蘭は、着痩せするタイプだな」
「えっ?わ、わたし、太ってますか!?」

すると、新一さんが目を点にした後、苦笑した。

「そういうとこは、相変わらずだな。違うよ。蘭はスタイルが良いが、服の上からだと胸の大きさは目立たない。けど、実際は掌に余るくらいあるからな」
「んっ!」

新一さんがわたしの胸を掌で覆って揉みしだく。

「乳首も、こんなに綺麗なピンク色で……形が良くて柔らかくてスベスベで……見た目も触り心地も最高だ」
「あ……ん……っ!」

新一さんがわたしの胸の頂を口に含み、強く吸った。
わたしは思わず喉をそらして声を上げた。

「オレ以外に、ここを譲れるのは……オレ達の子どもが赤ん坊の間だけだ」
「え?赤ん……んああっ!」
「お前が高校を卒業するまでは待つ積りだったが……気が変わった」
「新一さ……ああっ!」
「オレの子を産め、蘭!」

やっぱり……新一さんは、故意に、わたしの中に熱を吐き出したんだ。
それなら、それでもいい。
新一さんとわたしとの子どもを授かるのなら。
高校だって、やめてしまっても構わない。


新一さんがわたしの中に入って来た。

「あっ……んんっ!」
「はあっ……すげ……蘭のここ……オレのを美味そうに飲み込んで……気持ちいい……」

すっかり新一さんのモノに馴染んだわたしのあそこは、スムーズに新一さんを受け入れる。
その瞬間も、すごく気持ちいい。


これが気持ちいいのは、相手が新一さんだから。
他の男の人なんて、おぞましくて絶対に無理。
でも……きっと、新一さんはそれを分かっていない。


新一さんが動き始め、大きく揺すぶられる。

「あっ!はあああっ!」
「くっ!蘭の中……すげえ……熱くてトロトロで……締め付けてくる……」
「ああっ!新一さん……新一さんっ!」
「蘭……蘭っ!」

わたしは必死で新一さんにしがみつく。
やがて……わたしの頭が白くはじけると同時に、新一さんのモノが大きく脈動し……わたしの奥に熱が放たれる。

「ああ……熱い……」
「蘭……」

新一さんは、余韻を楽しむように、わたしの中から出ず、動きを止める。
避妊をしていた時は、「避妊効果がなくなるから」と、一旦、わたしの中から出ていたのだけれど。

新一さんの優しい口づけが、顔中に降ってくる。
最後に、唇に触れ、深く口付けられた。
愛されているような錯覚を覚える。
そんなはず、ないのに……。


「蘭……オメーの体、最高だよ……見た目も触り心地も、ここの締め付けも……スゲー感度も良いし……」
「新一さん……?」
「それをオレが独り占めするのが、契約だからな……違えるなよ」
「……はい……」


わたしは、新一さんのもの。
新一さんは、契約上、わたしが新一さんのものになっていると思っているけど。
わたしは、最初に会った時からずっと、新一さんのものだったのだ。


新一さんが少し体を揺らす。
すると、わたしの中の圧迫感が増してきた。
わたしの中に納まっていた新一さんのモノが、また力を取り戻している。

また、新一さんの律動が始まった。
苦痛と紙一重の快楽。
わたしは何も考えられなくなり、溺れて行った。



   ☆☆☆



「ん……」

何かが体を這い回る感触があり、徐々に意識が浮上する。
それが不快なものではなかったので、目覚める前から、何が起こっているのかは何となくわかっていた。

新一さんに体中を愛撫されているのだ。

身じろぎして目を開けると、わたしの胸元に顔を埋めていた新一さんが、顔をあげた。

「おはよう。目が覚めたな」
「新一さんは……いつから……?」
「ん?ついさっき」

新一さんはわたしの足を大きく広げる。

「えっ?ま、待って、新一さん」
「蘭。オレを拒むなと、言っただろう?」
「だ、だって……わたしもう……擦り切れちゃう……」
「他の男に奪われそうになったバツだよ」
「えっ!?あああっ!」

新一さんが強引にわたしの中に入ってくる。
そして容赦ない律動。
目覚める前に愛撫されてたようだけど、十分に準備ができていなかったわたしの体は、痛みを覚える。

「……っ!うっ……」
「っ!蘭……力を抜け……」
「あ!ん!んんっ!」

最初痛みが走ったけれど、少し経つとその感覚が置き換わって行く。

「あっあっ……あああっ!」
「っくっ!……すげー締まり……」

そしてまた、新一さんの熱がわたしの奥に放たれる。
昨日から数えて、もう5〜6回目だろうか?

熱が引いて、新一さんがわたしの中から出て行った。
その喪失感に身を震わせ……わたしの眦から涙が溢れ落ちる。

「ら、蘭?ごめん!乱暴にし過ぎたか?痛かったか?」

ついさっきまですごく意地悪だった新一さんなのに、何故か慌てまくっている。
根は優しい人だから、わたしの涙を見て心配してくれたのだろう。

「……酷い……新一さん……わたし、わたし……絶対、他の人とこんなこと、しない!」

わたしが泣いたのは、新一さんの先ほどの言葉に対してだ。
他の男に奪われそうになったって、その言葉に傷付いたのだ。

「蘭……」
「わたし……わたし……」
「わかった。分かったから……」

新一さんが困ったように言って、わたしの髪を撫でる。
わたしは思わずそれをはねのけていた。

「わたしは、新一さんの妻です!」
「ああ。分かってる……」

新一さんは、わたしの背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめてきた。

「ごめん。オレも男だから、他の男が蘭をどういう目で見ているか、分かっちまうんだよ。昨日のことは、オメーが本堂瑛佑のことを、クラスメートとしてしか認識していなかったから、無防備に家に入れちまったのも、分かってる。だけど……男の欲望と力を見くびるな。いくらオメーに空手があったとしても……」

新一さんが、わたしの唇に優しく口付けして。
わたしはようやく、感情の波が収まって来た。

「たとえ友人が相手でも、密室で男と2人きりになるな……」
「……はい……」

今度は、素直に返事が出来た。
だって、昨日の瑛佑君とのことは、わたしにも不愉快な出来事だったのだもの。

「あの。ひとつ、聞きたいんですけど……」
「ん?何だ?」
「新一さんにも、そういうこと、あるんですか?」
「は!?」

わたしの質問に、新一さんは虚を突かれたような顔をした。

「男の人がその……女の人をそういう目で見ているって……それが分かるって……新一さんもそうなの?」

新一さんは、目を点にした後、何故か、真っ赤になった。
そしてすごく慌てている。

「……新一さん……?」
「……白状すると、蘭と初めて会った時から、蘭をそういう目で見てた」
「えっ!?」

さすがに、それは意外だった。

「次に会った時に、高校の制服を着てたから、正直、やべえと思った。オレは18歳未満の子ども……あ、オレから見ての話だが……子どもに、そんな気になっちまうのかって」
「知らなかった。だって新一さん、いつも紳士的だったし」
「当たり前だろうが。まともな男は、それを表に出さねえもんなんだよ!」
「じゃあ、わたしと会う前は?」
「……ノーコメント。オメーと出会う前のことについては、言う必要ねえだろ!?」
「……」

何だか、はぐらかされたような気がしたのは、気のせい?
でも、確かに、新一さんの過去を問いただす権利は、ない。

「もう1回、してえとこだけど」
「えっ!?」

思わずわたしは自分の胸をかきいだいていた。

「これ以上ベッドにいると、遅刻しちまう」
「あ……」

時計を見て、わたしも慌てた。

そして、そのまま、何となく有耶無耶な感じでその時の騒動はおさまったようだったけど。

ただ、そのあと。
新一さんは、避妊を全くしなくなった。
そして、前のようにわたしが体調が悪そうな時も、遠慮をしなくなった。
さすがにわたしがハッキリ口に出して「今日は辛い」と言ったらやめてくれるけれど、前のように、わたしが何も言わなくても気遣ってくれることは、なくなった。





(7)に続く



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このお話の新一君は、私が書くお話の中で一番キッチーだと思いますが、まあここが限界です。
やっぱり、新一君は、蘭ちゃんに優しいのがスタンダードだと思うので。


初稿:2015年5月11日
改稿:2018年9月17日



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