契約結婚



By ドミ



(4)サービス



帰国してすぐに、わたしは月のものを迎えた。

元々は、結婚式とぶつかりそうだった為、薬でずらしたのだ。
なので、始まるのは、予定の事だったのだけど。


入浴後の新一さんが、わたしを抱え上げて寝室に連れて行こうとするので、わたしは焦った。


「あ、あの……あの……っ!」
「ん?」
「わ、わたし、わたし、始まっちゃって……!」
「蘭?」
「だ、だから、ごめんなさい!」

新一さんは、わたしを優しくベッドに下した。
そして、わたしの上に圧し掛かって、言った。

「妻に、月のものが訪れた時、別々に寝る夫婦なんて、聞いた事ねえよ」
「え……?」
「大丈夫。オメーが嫌がるような事は、しねえから」
「新一さん……」
「オレ達は、夫婦なんだぜ?一緒に寝よう」

そして、優しい口付けが降りてくる。
その晩は、新一さんにただ抱き締められて、安心して眠った。


わたし達の寝室は、元々、新一さん一人の部屋だったところで。
元は、セミダブルベッドだったらしいけど、結婚前にクイーンサイズのダブルベッドに替えたと聞く。

けれど、新一さんとわたしは常に引っ付いて寝る為、使うスペースは真ん中少しだけだった。
それがどんなに普通じゃないのか、その頃のわたしは全く知らなかったのだ。


次の日の夜まで、新一さんはキス以上のことはしなかったけれど。
3日目の夜は、パジャマの上着を脱がせられた。

「あ……新一さん……!」
「胸だけ。下は、触らねえから」
「ああん!」

胸の飾りを口に含まれて吸われ、わたしは、体を貫く快感に声をあげる。
気持ち良いけど……状況を忘れて、抱いて欲しくなってしまうから、困る。
そんな本音は、絶対に、口に出せないけど。

「この綺麗で魅惑的な体を、独り占めできるんだから……結婚って、良いもんだな……」

新一さんが、わたしの胸を弄ぶように撫でながら、言った。
この行為、わたしはもどかしい程の快感を得られるけど、新一さんは発散できないだろうにと、心のどこかで思う。

ひとしきり、わたしの胸への愛撫が終わると、新一さんはわたしにパジャマの上着を着せてくれた。

「なあ、蘭……高校は、卒業してえよな……」
「え……?は、はい……できれば、大学に行きたいと、思ってます……」
「じゃあ。蘭が高校を卒業するまでは、避妊するか」
「新一さん……?」
「蘭の中を直接感じて蘭の中に出す方が、気持ち良いけど……それは、蘭が高校卒業するまで、我慢するよ」

わたしは、月のものをずらす為に、避妊効果もあるピルを飲んでいて、新一さんもそれを知っていたから、今迄、避妊具を使うことはなかったのだけれど。
これから先は、避妊具を使ってくれるらしい。

私としては、新一さんの子どもを産む為なら、高校を中退する事になっても良いって思っていたけど……新一さんは、わたしが高校を卒業できるようにって、ちゃんと考えてくれていた。

新一さんの気遣いが、嬉しくはあるけれど、ちょっと複雑な気持ちだった。
だって……これから先は、新一さんと繋がる時、膜越しで、直接触れないって事なのだもの。



   ☆☆☆



最初、新一さんの家で働く人たち(メイドさんとか、コックさんとか、執事さんとか、運転手さんとか)は、わたしの事を胡散臭げに見ているようだった。
一応、言葉と態度は丁寧だけど、どこか値踏みするような様子があった。

でも、仕方がない。
わたしは、まだ高校生の若さで、突然、館の主人の「奥様」に納まってしまった、どこの馬の骨ともしれない女、だもの。
わたしの方が誠心誠意、対応させていただくしか、ないんだ。


けれど、日が経つにつれ、お屋敷の人々が、わたしを受け容れてくれて、仲良くなってきた。
そんな中、工藤邸のお抱えシェフが、わたしの「時々は、新一さんのご飯を作りたい」という希望を汲んでくれて、今日、わたしは、食事の一品(ハンバーグ)とデザート(レモンパイ)を作らせてもらう事となった。

食事の時間、新一さんは、ハンバーグを見るなり、少し眉を寄せた。
やっぱり、形も少しいびつだし、常に一流品に囲まれている新一さんにとってみたら、素人の手作りハンバーグなんて、受け付けないのかもしれない。
だけど、新一さんは何も言わず、ハンバーグを口に運んだ。
その表情が緩む。
彼がどんな感想を持つのか、わたしは緊張して待った。

「今日は、レシピを変えたのか?」

新一さんの問いに、シェフが恭しく答える。

「いえ。本日のメインディッシュのハンバーグと、デザートのレモンパイは、奥様の手作りでございます」
「蘭が?そっか……蘭は、お義母さんが家を出ている間、毛利家の主婦代わりだった時期があったと聞いているが……料理上手なんだな」

新一さんが、わたしに目を移して言った。
わたしの母は、長い事別居していたけれど、わたしの結婚が決まると同時に、帰って来ていた。
それまでは、わたしが、毛利家の家事一般を引き受けていたのだ。

「すげえ、うめえよ、蘭」
「よ、良かった……」
「これからも、時々は、蘭の手料理が食べたい」
「はい。頑張ります!」
「学業も部活もあるし、シェフの仕事を取り上げるのも気の毒だから、程ほどにな」

デザートのレモンパイは、ちょっと焦げたりして、見た目はやっぱりいびつだったけど、新一さんは美味しいと喜んで食べてくれた。
こうして、夜の生活以外でも、夫婦らしいことが少しできた気がして、わたしはとても嬉しかった。

これからも、時々、ご飯を作ったり、冬になったら編み物をしたり、少しずつ、妻として新一さんに何かして行けたらって、思う。



   ☆☆☆



「あ……ああっ……はああんん!」
「蘭……蘭……最高だ……スゲーいいよ、お前……」

新一さんはほとんど毎晩、わたしを抱く。
それも、1回では終わらない事が多い。

夫婦って、どこも、こういう風なのかな?
よく分からないけど。


新一さんに抱かれている時は、すごく気持ち良くて、何も考えられなくなってしまう。
何度も上り詰めて、頭が真っ白になって、いつの間にか、失神するように眠りに就く事が殆どだ。

そして、大抵は、生まれたままの姿で、同じく生まれたままの姿の新一さんに抱きしめられた状態で、朝を迎える事になる。
目が覚めた時間が早かったりすると、朝、また抱かれる事もある。

結構、疲れるけれど……でも、愛する新一さんに抱かれるのは、すごく幸せ。
彼だけにわたしの全てを委ねられるのが、とても幸せ。


「やっ……はっ……ああっ!新一……さんっ!」
「くっ……うっ……蘭っ!」


新一さんは、他に好きな女性がいる訳じゃないと思う。
どちらかと言えば、女は要らないタイプなんだって気がする。

ただ、やっぱり男の人だから、恋愛は不要でも、欲望を満たしたい時はあるんだろう。
わたしは、新一さんの都合に、ぴったりと当てはまる存在だったんだ。

でもきっと、それだけじゃない。
新一さんが、わたしの境遇を憐れんで、助けの手を伸べてくれた事も、確かな事実だと思う。
そして、義理と都合だけで選んだ女でも、妻として大切にしようとしてくれる、優しい人。

もし、新一さんが、お父さんの借金を肩代わりしてくれなかったら、わたしは今頃、関内さんの愛人になっていた。
関内さんに……ううん、新一さん以外の男性に、触れられるなんて、想像しただけで、ぞっとする。

それを考えるなら、今の境遇は、何て幸せなんだろう。


わたしは、せめてもの感謝の証として、わたしにできる事なら、何でもしよう。
彼の妻として、彼を支えるために、何でもしよう。

とりあえず、今のわたしにできる事は、彼の欲望を満たす事だから。
わたしは、月の障りの時以外は、多少体調が悪くても、疲れていても、彼の求めを拒むまいって思っていた。

でも、新一さんは、探偵をやっているせいか、ものすごく観察力に長けていて。
わたしの体調が悪いと、すぐに見抜いてしまう。

夜、ベッドに入ると、新一さんに抱き締められ、口付けをされる。
そのキスはいつも、激しく深い。
そして……わたしが「今日は体調が悪くて、求められたら辛いかも」と思っているような時は……、彼はキス以上に、わたしを求めない。


彼は、何度もわたしを抱く時もあれば、1回だけで終わらせる時も、そして、口付けだけでそれ以上は何もしない時も、あるけれど。
それがどうやら、わたしの体調に合わせてくれているらしいと、段々分かって来た。
嬉しくも申し訳なくて……そして、辛い。

彼は、理性でわたしを抱いている。
わたしの事をとてもよく見て気遣ってくれる事が、とても嬉しいけれど……新一さんがわたしを抱くのは、欲望ゆえではなく、夫婦としての務め・義務なんだって……何だか、寂しい。


頭では、分ってる。
こんなの、贅沢な悩みだって。
新一さんは、わたしを妻にして、大切にしてくれる。
他の女性と浮気をする積りも、ないらしい。

何て、幸せな、わたし。
これ以上を望んだら、ばちが当たるわよ、蘭?



そう、思うのに……。



   ☆☆☆



わたしの通う帝丹高校では、わたしが結婚した事は、表向き伏せられていて、わたしの姓は「毛利」という事になっている。
でも、わたしと親しいクラスメート達や部活仲間は、わたしが結婚した事を知っている。
結婚式にも、何人か参加してもらったし。

わたしは、新一さんと結婚指輪を交換したけれど、普段、学校に行くときは、指輪を着けられない。
なので、鎖に通して首にかけている。
その鎖には、小さなプレートが着いていて、新一さんは「お守り」だと言って掛けてくれた。


で、他の子たちは勿論、結婚なんかしてないけど、「彼氏との体の関係」という意味では、わたしより先輩の子達が、沢山いる。
中には、今の彼氏が初めての相手ではなく、もう数人と経験済みって子も……。

なので、わたしはいつの間にか……彼女たちに新一さんとの事を相談していた。
ずっと後になって考えたら、そういう事ってカップルそれぞれなんだから、他人に訊いたって意味がなかったって思うけど。
その頃のわたしは、何とか新一さんに満足してもらおうって、必死だったのだ。


「蘭とこの彼氏……っていうか、旦那さん?は、随分、大人の男の人だしねえ」
「うんうん、すごく手馴れてるんじゃないの?何か、すごいテク、持ってそう」
「て、テクニックって、そんなのはよく分かんないけど……でも、確かに、慣れてそうな気はする……」
「それじゃあ、蘭が相手じゃあ、あんまり楽しめないかもねえ」
「う゛……やっぱ、そうかなあ?」
「でも、まだ高校生で、旦那さんが初めての蘭に、あんまり多くは望んでないんじゃないの?」
「甘いわねー。いつまでもマグロだったら、やっぱり、飽きられると思うよー」
「ま、マグロって、何?」
「ドーンと寝たままで相手にお任せ状態を、マグロっていうのよ」
「お、お任せって……わたし……そうかも……」


同級生の話に、赤くなったり青くなったりしながら、たっぷりレクチャーを受けたわたしは、ドキドキしながら帰宅して、新一さんの帰宅を待った。


とても恥ずかしいけど、新一さんに誘われたら、一緒にお風呂に入るのが常だ。
お風呂場で、お互いに背中を洗ってあげるんだけど……洗うついで(?)に、新一さんの手がわたしの体を這い回り、堪えても声が上がり、秘められたところからは溢れ出るものがある。
なので、お風呂から出た後は、わたしの体は、すぐにも新一さんを受け容れられる位の状態になっている。

そのままわたしは、ベッドの上に下されて、新一さんがわたしの体を隈なく愛撫してくれるのが、いつものパターン。
でも、今日は……。

「あ、あの……新一さん……」
「ん?蘭、どうした?」
「きょ……今日は……わたしにサービス、させて下さい」


新一さんの目が、真ん丸になっていた。

「サービス?」
「あの……新一さん、仰向けになっていただけますか?」
「ん?あ、ああ……」

仰向けに横たわった新一さんは、バスローブを身につけていたけれど、その下腹部が盛り上がっているのに気付いて、ドギマギした。
そっと、紐をとき、バスローブを肌蹴ると、彼のその部分が大きく反り返っているのが見え、更に怖気づく。

今まで、何度となく、わたしの奥に入って来て、わたしを狂わせたモノ……でも……こんな大きいのが、わたしの中に入っていたのだと思うと、不思議な気持ちになってくる。

「蘭?」

新一さんのいぶかしげな声。
わたしは、意を決して、彼のモノの前で屈むと、それに手を添え、ぬらぬらと先端が濡れているそれを、口に含んだ。

「は……あ……蘭……」

新一さんの、甘い溜息が聞こえる。
この行為って、気持ち良いんだろうか?

彼のモノを思い切って根元まで飲み込もうと頑張ってみる。
喉の奥に彼のモノが突き当たって、むせそうになったのを、何とかこらえた。

彼のモノがビクリとうごめき、気の所為か、更に大きくなったような気がする。
わたしは一所懸命、クラスメート達から聞いた通りに、舌で舐めてみたり、口を前後に動かしてみたりと、色々やってみた。

「っ……蘭!も、良いから……」

新一さんが、切羽詰った声で言って、わたしは、良くなかったのかと心配になって、動きを止めた。
すると、新一さんのモノが脈打ち、わたしの口の中いっぱいに、苦い熱いものが溢れた。

「……ケホッケホッ!」

とっさの事で、わたしは思わず新一さんのモノから口を離し、口の中から液が溢れ落ちた。

「ご、ごめん、蘭!大丈夫か!?」

新一さんが起き上がって、わたしの背中をさする。

「だ、大丈夫です……」

クラスメートの話によると、こういう時、あの液を飲んだら、喜んでくれるって事だったけど……。

「の、飲めなくて、ごめんなさい……」
「は?」

新一さんの顔つきが、険しくなった。
な、何か、間違っちゃったのかな、わたし?

「蘭。いったい、誰から、そんな知識、吹き込まれたんだ?」
「え……?」
「まさか、他の男と……」
「ええっ!?そ、そんな事、絶対、しません!約束を破るなんて……!」

新一さんに信用されていないのが、悲しかった。
でも、わたしがやった事って……そういう疑いを持たせてしまうような事だったんだろうか?

わたしは、泣きそうになった。

「あ、あの……クラスメートと話してて……マグロのままだったら飽きられるよって、言われて……」
「クラスメート?」
「あ、あの……社会人の恋人がいる経験豊富な子から、話を聞いて……」
「……女子か?」
「え?女の子ですよ、もちろん!」

男の子にその手の事を聞くなんて、有り得ないのに。
何となく、悲しくなった。
でも、新一さんの表情は、いつもの優しいものに……というか、ホッとした感じに変わった。

「蘭。オレが飽きる心配なんか、しなくて良いから……」
「でも!新一さんにも、気持ち良くなってもらいたくて、わたし……!」

わたしが泣きそうになって言うと、新一さんは優しい眼差しでわたしの目を覗きこみ、わたしの髪を優しく撫で、言った。

「蘭。オレはいつも、スゲー気持ち良いし、十分満足してる。オメーが頑張ってくれるのは嬉しいけど、無理はしなくて良い。大体、こういうのって、人によって違うもんなんだから、友達の話を参考にするなとは言わねえけど、鵜呑みにすんな。2人で少しずつ、関係を作って行こう」
「は、はい……」
「まあその、口でしてもらって、すげえ気持ち良かったんだけどよ……あれはその、スゲー不味いもんらしいし、無理して飲む必要なんか、ねえからな」


とりあえず、新一さんが怒っている訳ではないらしいって分かって、ホッとした。

その後は、いつものように、新一さんに抱かれて。
幾度も快楽の波に襲われ、訳が分かんなくなって、気を失うように眠りに就いていた。





(5)に続く



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初稿:2013年2月22日
改稿:2018年9月17日


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