幻影の魔術師



byドミ



(4)一番の宝物



青子はキッドに口付けられて、最初の内抵抗していたが、やがてその全身から力が抜け、キッドに縋りついてきた。
その体に手を這わせても、もう、抗う事はない。

キッドが青子の唇を解放する。
青子の目は欲情の色が浮かび、とろんとしていた。

キッドは、青子を抱えベッドに下すと、器用に衣服を取り去って行った。
黒羽快斗として、この数日、何度も抱いた体であるが。
窓から差し込む月の光に照らされた青子の体は神秘的な位美しかった。

その皮膚に手を滑らせ、口付け、吸い上げて赤い印を散らす。

「あ……は……ああ……っ!」

青子の口からは甘い声が響き、秘められた泉からは蜜が溢れ出ている。
キッドはそこに口を寄せて甘い蜜を吸い取った。

「素晴らしいよ、青子……どこもかしこも、甘い……」
「あ……あっ……!」

キッドの愛撫に、青子はピクピクと反応し、声を上げる。
キッドはベルトを外しズボンと下着を下げると、そそり立つ自身を取り出して、青子の中にグイっと突き入れた。
既に男を知っている青子の体は、キッドのモノをスムーズに飲み込んでいく。

「くうっ!素敵だ、青子……どんな宝石よりも綺麗だ……」
「あ……はあっ……んあん!」
「あなたはオレの、一番の宝物だ……」

キッドは腰を揺らし始める。
すぐにその動きは激しくなり、粘着性のある水音が響き渡った。


「あ……ああああああっ!」

青子はキッドにしがみ付いて、背中を反らし絶叫した。
青子の中はキュッと収縮し、キッドはたまらず、青子の中に己の欲望を放った。
そのまま暫く余韻に浸り、息が整ったところで、青子の中から己を引き抜いた。
青子の太ももを、キッドが注ぎ込んだ欲望が溢れて流れる。

「……青子……イッたんだね……?」
「イク……って……今のが……?」
「ああ。イッたのは、初めてだったんだね。可愛い青子。これであなたは、オレのモノだ……」

たった今、女の貌(かお)をして、イッたばかりだというのに、青子の顔はまた、いつものあどけなさに戻っている。
あの貌は誰にも見せられない、黒羽快斗とキッドだけのものだと、キッドは思った。

青子が、口を開く。

「ねえ、キッド。ひとつ、訊いて良い?どうしてあなたは、盗みをするの?」
「多分……殺された親父――初代怪盗キッドの敵を打つ為……かな?」

すると、青子は目を見開いて体を起こした。

「え……!?小父様……あなたのお父様は、殺されたの!?」

そこでキッドは、簡単に、父の隠し部屋で見つけた怪盗キッドの衣装や道具一式の事、キッドとして活動している間に現れた敵の事を、青子に語った。
青子は、ボロボロと涙を流して、話を聞いていた。

「あなたが泣く事はない、可愛い青子……」
「でも……青子は、キッドが愉快犯だって誤解してて、だから嫌ってたんだもん……キッドは、ずっと1人で……誰にも理解されずに戦って来たんだね……」

涙を流しながら言った青子に、キッドの胸は撃ち抜かれた。

「たとえ世界中の人がキッドの敵でも、これからは青子だけは、キッドの味方だから……」

そう言って、青子はキッドをふわりと抱き締めた。

キッドは、泣きそうになる。
決して、1人だった訳ではない。母親もいたし、寺井ちゃんも、いた。
けれど……やはり、寂しかった。孤独だった。
心に闇を、抱えていた。

青子は、キッドの心の闇を照らす光。


キッドは青子を横たえると、再び青子の体を求めた。


「あ……キッド……あはあっ……!」
「青子……青子……っ!」


愛する少女が、キッドの全てを受け入れてくれた。
キッドにとって、至福の時だった。



   ☆☆☆



しかし。
朝になって、我に返った黒羽快斗は、睡眠不足に加えて、凄まじい自己嫌悪と不可解な青子の行動に、苦しんでいた。
快斗は早朝の内に自宅に戻り、殆ど寝ないまま、学校に向かっていた。

『アホ子の浮気もん!あんなに嫌っていた怪盗キッドに、あっさり体を許しやがって!しかもオレん時は1度もイッタ事ねえのに、キッドの腕の中で3回もイッタし!オメーは迫られりゃ誰にでもコロッと行っちまうのか?』

キッドも自分自身ではあるが、黒羽快斗相手に開花しなかった青子が、キッド相手にアッサリ開花してしまった事が、何だか悔しくて仕方がなかった。
青子に、キッドごと受け入れて欲しいと思っていたが、決して、キッド相手に浮気をして欲しかった訳ではない。

『って言うか……キッドのままで、あんな事する積りなかったのに……バカなのはオレだよな……っていうか、アホ子のやつ、昨夜攫って行かなかったら、田中相手に……しかもアイツ、何つった?もう何度も抱かれているのに、オレの事、ただの幼馴染と言いやがったよな!くそう、やっぱり許せん!』

結局青子は、迫られればどんな男相手にも体を開く、淫乱な訳ではないのだろうが、誰でも受け入れてしまう、そういう事なのだろうかと、快斗は思う。

『ぜってー他の野郎にコナかけさせねえようにしねえと……』


そこに、今の快斗の目には眩しすぎる程の笑顔の青子が、道の向こうから現れた。


「おはよう、快斗!」

『何でいつにも増して晴々した顔してやがんだ、こいつはよ』

快斗は、内心で毒づく。

「あ、そうだ、快斗!」
「ほえ?」
「もし、できてたら、青子、絶対、産むからね!」

青子が、快斗を真っ直ぐに見て、言った。

「は……?」


快斗は、石化したように動けなかった。




(5)に続く

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漫画では結構長く感じる事でも、文章にするとほんのちょっと。短いです……。

でま、どこで切るか迷ったんですが、ここで。
次が、最終回。
きっと次も、短い……。


2012年11月2日脱稿


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