恋の風林火山



byドミ



(1)陰・想いは深く密やかに



私は、ずっと、彼が好きだった。
周りからは、彼と付き合っていると思われていたし。
イイ歳になったのに、何で結婚しないのか、周りのだれもが、そう言った。


でも。
私は、女として幸せになるのは、2人にとって大切な人が殺された事件の、真相を突き止めてからだって、ずっと、思っていた。
多分、彼も私と同じように思っているのではないかと、私は勝手に思っていた。

それが、あんな事になるなんて。


「何故、どうして・・・?」

私のとても大切な2人が、居なくなってしまった。
私は涙も出ない。
呆然として、生ける屍も同然になっていた。



私の名は、上原由衣。
刑事をやっている。

私には、幼い頃から傍に居た、大切な存在が2人いた。

人間として尊敬し、父か兄のように慕った、甲斐さん。
歳の離れた幼馴染で喧嘩友達だったのに、いつの間にか、男性として愛する対象となった、大和敢助。


甲斐さんは、数年前に、崖から落ちて、亡くなってしまった。
多くの人は事故と思っていたけれど、敢助も私も、隠された真相があると確信し、絶対にそれを暴いてやると誓い合っていた。

そして・・・敢助は、甲斐さんの事件と関係あるかも知れない男を見かけたという情報を得て、追いかけて行き。
そのまま、姿を消してしまった。

いつまで経っても、どこからも、敢助の情報は入らなかったし。
最初は、絶対に戻って来ると信じていた私も、やがて、「彼はもう、この世に居ないのだ」と、思い始めた。


いっその事、この世から居なくなってしまいたい。
でも、それはきっと、あの人も彼も、許してくれないだろう。
会いに行ったら、怒られるに決まっている。

それに私は、敢助と「きっと甲斐さんの事件の真相を突き止めようね」と誓った事を、果たしていない。
敢助が居なくなっても、たとえ1人ででも、その誓いを果たそう。
それだけが、今、私の生きている意味だった。


私が、虎田義郎のプロポーズを受け、警察官を辞した事は、周囲を驚かせた。
多分、多くの人が、思った事だろう。
彼が・・・敢助が居なくなったから、義郎に乗り換えたのだと。

周りから、どう思われようと、構わない。
私は、敢助との誓いを果たすのだ。



今時・・・と思われるかも知れないが。
敢助とは、もしかして相思相愛なのかも知れないという気は、していたけれど。
私達は、ハッキリと恋人同士ではなかったので。

私は、この年まで、男性を知らなかった。

勿論、結婚するという事は、そういう事が漏れなくついて来るって事位、分かっている。

いつか敢助に、あげたいと思っていたこの体だが。
彼が居ない今はもう、どうでも良いと、思っていた。


それでも私は、式を挙げるまでは、義郎に体を許さなかった。
正式に「虎田由衣」となった結婚式の夜は、きちんと覚悟を決めて、床に入った。


「由衣・・・」

義郎の手が、私の体を這い回る。
さして嫌悪感もなかったが、快感など覚える筈もない。

私の身に着けている物は全て剥ぎ取られ、義郎の体が、のしかかって来る。


『敢助』

私の脳裏に浮かぶ面影。
ああ。
酒に酔った勢いででも、敢助を押し倒して、彼のものになって置けば良かった。

私は、ギュッと目をつぶり、歯を食いしばって、今の状況に耐えた。

「綺麗だよ、由衣・・・」

義郎が、私の体の隅々に触れて行く。
出来る事なら、早く終わって欲しいと、私はひたすら我慢していた。
好きでもない男に触りまくられて、嬉しかろう筈がない。

乳首を口に含まれ吸われても、大切な場所を舐められても、ただ、くすぐったいだけ。

そして、義郎が、私の中に入って来た。
覚悟はしていた筈だけど、痛みのあまり、私は呻き声をあげた。


「う・・・くっ・・・あつうっ!」

「由衣、由衣!愛してるよ!」

義郎が、私の中で激しく動く。
気の遠くなるような痛みを、必死で堪えるが、呻き声と共に、抑えきれなかった涙が、頬を伝い落ちる。

私の脳裏に、大切な面影が二つ浮かんだ。
敢助を想いながら、私の体は、義郎の妻に、なった。


(2)に続く

++++++++++++++++++

<後書き>

原作で、「風林火山」シリーズのお話を読んだ時。

一応ハッピーエンドが示唆されているのだけれど、私的に、何ともやり切れない、切ない想いがしたものでした。

このお話の主役達よりとうが立ってしまっている私は、ついつい、「結婚してんだから、当然エッチしてたんだよな」と、そっちの方面が気になる訳で。
しかも、大和刑事と由衣さんとは、どんなに雰囲気が良く信頼し合っていようが、ハッキリ恋人同士ではなかった様子。って事は、真面目な二人の事だから、イイ歳になっても体の関係はなかったんじゃないか?

となると、由衣さんにとって、初めての相手が夫となった義郎氏?
何だかなあ・・・と、考えている内に。
補完話が書きたくなったのです。

ドミが書く二次創作の中では、唯一、ヒロインが「想い人以外の男と契る」事になります。
まあそれは、原作の設定通りと考えると、いたし方のない事で。
でもやっぱり、書き始めは辛かったなあ。


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