初体験クライシス
By ドミ
(5)
新一も蘭も、実を言うと、「情事を目的」ではなかった。
試験勉強をしなければと、二人ともに思っていたのだ。
けれど……二人とも、薄々、二人きりになったらエッチに突入してしまうのではないかと、予想はしていた。
二人連れだって新一の家まで行って。
新一がまず行ったことは、「トイレに行くこと」だった。
結構長くトイレにこもっていたため、蘭は「昼休みも最初にトイレに行ったし、新一、お腹でも壊しているのかしら」と勘ぐっていた。
エアコンは既に入っている。
新一が学校を出る時にスマホでスイッチを入れていたからだ。
蘭は、新一がトイレに行っている間に、コーヒーを淹れた。
勝手知ったる工藤邸、コーヒーメーカーも豆も、良いものが揃っている。
そして……蘭が今日小テストでつまずいてしまったところから、勉強は始まった。
しばらくは真面目に勉強する。
「……で、ここはこうなるだろ?だから……」
「あ、そっか!分かった、ありがとう新一!」
蘭がつい、花のような笑顔を新一に向けてしまい……新一のスイッチが入った。
気が付いた時には、数日前と同じ。
新一と蘭は、新一のベッドの上で、生まれたままの姿になって抱き合っていた。
新一が避妊具を付けて蘭の中に入ると、体を貫く快感に思わず蘭は高い声が上がってしまった。
「あ……アーーーッ!!」
「ら、蘭……!大丈夫か!?」
新一が思わず蘭の中から己を引き抜いてしまう。
「いや……やめないで……新一……」
「蘭?」
新一が蘭の顔を覗き込む。
「い、痛いんじゃないの……」
「蘭……もしかしてオメー……感じてんのか?」
新一のデリカシーのない発言に、蘭は羞恥で真っ赤になった。
「い、言わないでよ、バカぁ!」
「わ、わりぃ」
再び新一が蘭の中に入ると、今度は激しく突き上げ始めた。
「ア……ン……アンン!新一……アアアッ!」
「蘭……蘭……ッ!好きだ……好きだ……ッ!」
新一が達するのと同時に、蘭も絶頂を迎え、手足を痙攣させながら新一にしがみついた。
新一は、ややあって蘭の中から出ると、避妊具を処理し……再度避妊具を装着して、再び蘭の体をまさぐり始める。
「し、新一……?」
「もう一回、いい?」
蘭が頷いたとたんに、新一は再度蘭の中に己を突き入れる。
若い二人は、知ったばかりの快楽に翻弄され、タガが外れたようにお互いを求めあった。
☆☆☆
「もう……帰らなきゃ……」
「ああ。そうだな……」
床にはいくつも、使用後の避妊具が転がっている。
「本当は勉強しなきゃと思ってたのに……ごめん、止まらなくて……」
新一の言葉に、蘭は首を横に振る。
止まらなかったのは、蘭の方も同じだった。
「ね、ねえ、新一……」
「ん?」
「その……わたし……痛みとか……その、初めての時も、なくて……」
「そっか……」
「新一……気付いて無かったの?」
「ああ……その……今日、分かった……あれは蘭が感じている顔と声だったんだなって」
蘭は真っ赤になって新一をポカポカと叩く。
新一は笑って、蘭の唇に軽くキスをした。
「ま、オメーが辛い思いをしなくて、良かったよ」
「あの……実はわたしが初めてじゃなかったんじゃないかって、勘ぐったりしない?」
「しねーよ。蘭はそんなことでオレを騙すような女じゃねえし、それに……初めての時の反応も人それぞれだっていうしなあ」
「……へえ。詳しいね、新一」
「なっ!オレだって、知識として知ってるだけで!」
「分かってるよ。新一は……新一だって、わたしが初めてだって……」
そう言って、蘭は新一の胸に頭を寄せた。
「けど、参ったなあ。自分を抑えられるように、あらかじめ抜いてたってのによ……」
「え?抜いてたって……?」
「あ……や……その……」
新一は観念したように説明する。
「えっと……男が自分のものを刺激して、射精することができるんだけど……」
「え……っ?そ、そうなの?」
「あ、まあその……欲望を鎮める効果があるんで……今日の昼も、家に帰って来てからも、それやってたんだけど……」
「うん?」
「蘭の色香の前には効果なかったっていうか……」
「えええっ!?」
「オメー、もう、帰んなきゃいけねえだろ?」
蘭は、何か誤魔化されたような気がしたが、本当にもう、帰らなければいけない時間だった。
☆☆☆
結局。
蘭が学校帰りに新一の家に寄り、最初は真面目に勉強するものの、結局体を重ねてしまう、そういう日々が過ぎた。
新一は何とか理性を保とうとするが、それが成功したためしがないのだ。
蘭は新一のスイッチが入ると、すぐ流されて受け入れてしまう。
その結果、蘭は思うように試験勉強が進まなかった。
蘭は決して成績が悪いわけではないが、このままだと最後の追い込みが上手く行かないかもしれない。
「はあ……蘭……入試が終わるまで、オレとの勉強は止めておく?」
蘭は涙目でかぶりを振った。
新一との勉強を止めてしまうと、会えるのは学校だけになってしまう。
二人で過ごせる時間を無くしたくない。
蘭は、一度その快楽を知ったとはいえ、エッチなしで過ごすことに我慢が出来ないということはない。
ただ、追い込みの時期だからこそなおさら、心の安寧のために、新一と一緒に過ごせる時間を大切にしたい。
とにかく、新一の理性が飛ばないような状況を作れればいいのだ。
「じゃあ……オメーんちの居間で勉強するか?」
小五郎がいつ帰って来るか分からない状況なら、理性も保てるかと思ったが。
「……それも、何だか嫌……」
「……うーん……英理おばさんの家は、それはそれで肩が凝りそうだし……」
そこまで考えて、ふと新一に閃くものがあった。
☆☆☆
「蘭ちゃん、いらっしゃーい!」
「おば様。今日もお世話になります」
「蘭ちゃんならいつでもいつまででも、大歓迎よ♪なんなら泊りでも……」
「母さん!」
「はいはい、二人は勉強があるんでしょ。新ちゃんはコーヒーで、蘭ちゃんはダージリンが良いかしら?」
結局。
新一は、母親の有希子をロサンゼルスから呼び寄せることにしたのだった。
有希子は二つ返事でOKしてくれた。
有希子が居ることで、小五郎も前ほど門限を煩く言わなくなった。
家の中に母親が居ることで、新一の理性が切れてしまう心配はなくなった。
蘭と新一は、余計なことに煩わされずに、二人で居間で勉強することが出来る。
それだけでなく。
蘭は受験中でも家事から解放されなかったのだが。
今は、食事の準備と、新一と蘭の分の洗濯を有希子が一手に引き受けてくれたため、蘭の負担は格段に減った。
さすがに蘭は恐縮していたが……。
「蘭ちゃんの受験が上手く行くようにサポートするのは、新ちゃんのためでもあるんだから、気にしないで」
と、有希子は笑って言った。
小五郎もイイ大人、自分の面倒くらいは見られるだろう。
というか、英理が家を出て行ったばかりの頃は、一応小五郎が全部、ご飯も洗濯も掃除も、蘭と自分の分は何とかしていた筈なのだ。
ただ、どうやら最近は、英理が時々毛利邸にやって来て、サポートしてくれているようだった。
「新ちゃん♪うふふ、理性が切れちゃったのね……若いわねー」
母親からスケベ目でそう言われて、新一は憮然とする。
母親には諸事情を打ち明けていたわけではなかったが、滅多に助けを求めない新一のSOSで、何があったのかはシッカリ見抜かれてしまっていたようだ。
「ま、クリスマスイブと、共通テストが終わった日は、お邪魔虫は消えるからね」
「ああまあ……お心遣いアリガトウゴザイマス」
母親の気遣いに、新一は遠い目をしてしまった。
けれどおそらく、母親の気遣いというか、目論見に乗ってしまうだろう自分を自覚していた。
でも。
蘭と一緒に過ごせて、蘭は心置きなく試験勉強が出来て、蘭の家事負担も軽くなって。
とりあえず、蘭と一線を越えたことで始まった、様々な危機(クライシス)は、脱したのだ。
蘭の笑顔を見て、新一は「これで良かったのだ」と、自分自身を納得させていた。
初体験クライシス完
2021年1月31日脱稿
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一応、初体験にまつわる危機(クライシス)は脱したので、このお話はこれで終わり……ですが、続きは別タイトルで書きたいと思います。
蘭ちゃんがハジメテの時痛みも出血もなかった……というのは、まあそういう人も居ると聞くので、今回そういう設定にしたのですが……あまり活かせていなかったような気が……。
まあでも、どんな形でも、二人が幸せであれば良いんです、うん。
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