初体験クライシス



By ドミ



(1)



「おかしい。いったい、何が起こっているの……?」

 帝丹高校三年B組、鈴木園子は、目の前で繰り広げられた光景に驚き、頭の中に沢山の疑問符が浮かんでいた。


 帝丹高校名物夫婦とうたわれている、同級生で幼馴染の二人、工藤新一と毛利蘭。
 その二人が……誰も、たとえ神様ですらも、引き離すことは出来ないと思われていた二人が……単なる「夫婦喧嘩」ではなく、ギクシャクしている?

 二人がお互いを見ようとしない。近付こうともしない。お互い、物凄く意識している風なのに。
 その二人の空気は、クラス全員が感じ取っている。
 ただ、高校三年の十二月に入ったばかりの今は、皆、受験のために忙しく、正直、帝丹高校名物夫婦の微妙な雰囲気に関わり合っている暇は、無かった。

 鈴木園子は、その中でも数少ない「暇がある」一人であった。早い話、既に推薦で入学する大学が決まっていた。
 チャラチャラしているように見られがちな園子であるが、遊ぶ時は目いっぱい遊ぶけれど、鈴木家跡取りとして真面目に一通りの勉強はきちんと行っていて、実はそれなりの成績を収めているのである。
 
 とはいえ、園子が蘭の話を聞こうと思ったのは、決して暇だったからではなく、蘭の親友だったからであったが。


 高校三年の十二月。もちろん、蘭も園子も、部活は引退している。放課後、園子は蘭をウェルカムバーガーに誘った。



「でさ、蘭。あんたたち、いったい何があったの?」

蘭は、顔を真っ赤にさせて俯き……そして、口を開いた。



   ☆☆☆ 



 話は数日前にさかのぼる。

 蘭が新一の家に遊びに行くのは、まだ「ただの幼馴染」だった頃から、新一が一人暮らしとなってからも繰り返された、いつものことだったが。受験勉強のために新一の家を訪れたはずだったのに、ついに二人は一線を越えてしまったのだった。

 きっかけは、些細なこと。新一の部屋で勉強している時、蘭のシャープペンが転がり、蘭と新一が同時に手を伸ばしてそれを取ろうとし、二人の手が交差した。気付くと蘭は新一に抱きこまれ、キスされていた。
 キスは何度か交わしたことがある。けれど、その日、それで止まらなかった。
 新一の舌が蘭の口内に侵入し、蘭の舌を絡めとる。蘭もそれに応えて舌を動かしていた。下腹部がきゅんとうずく感覚がある。蘭も確かに、その先を待ち望んでいた。

「蘭」

 新一がかすれた声で蘭を読んだ。その眼差しも熱に浮かされたように潤んでいる。蘭も目を潤ませて見つめ返す。
 新一は、蘭の膝の下に手を入れ蘭を抱えあげると、そっとベッドの上に蘭を下ろした。新一は蘭の上に圧し掛かるようにして、またしばらく深い口づけが続く。やがて新一の唇が蘭の喉元へと降りてきた。

「あ……新一……」

 吐息と共に蘭は声を出した。
 新一の手が少しずつ蘭の服をはぎ取って行く。やがて生まれたままの姿になった蘭を、新一はじっと見つめていた。

 蘭はもちろん、嫌なわけではなかったが、初めて新一に全てを見られる恥ずかしさに、身が震えていた。
 やがて新一は、蘭の首筋に唇を落とすと、新一が蘭の全身にくまなく、手と唇で触れて行く。そのたびに蘭の体を電流にも似た快感が貫き、蘭はピクピクと身を震わせ、甘い吐息が口から洩れた。
 新一が蘭の泉に手を触れると、そこは既に愛液が溢れ出していた。

 衣擦れと金属音がして、蘭がいつの間にか閉じていた目を開けると、新一が自分の衣服を脱いでいるところだった。
 新一の程よく筋肉がついて引き締まった体躯は、夏の水着姿などで見たことがある。しかし……そそり立った男性のシンボルは蘭が初めて目にするもので、蘭は思わず息を呑み怖気づいていた。

 新一はベッドの横にある引き出しを開けると、そこから小さな四角い袋を取り出し、口を開け、取り出したゴム製品を自分のものに装着していた。
 新一の息が荒く、手が震え、装着作業は意外と手間取っている風だった。
 蘭は、新一がいつの間にかそんなものを準備していたことに驚いたが、手が震えてなかなか上手く行かない様子に、新一にとってもこの行為が初めてだからだと思いいたり、幸せな気持ちになった。

「蘭……いい……?」
「……うん……」

 新一が蘭の足をかかえ、大きく広げた。
 そして、熱い塊が蘭の入り口に添えられ、中に侵入していく。

 蘭は、痛みを覚悟していたのだが、案に相違して、痛みはほとんどなく異物感のみで、挿入もスムーズだった。
 辛かったわけではないが、自然と声が出る。

「ン……アッ……アアッ……」
「蘭……大丈夫か……?」
「う、うん……」

 大丈夫も何も、よく言われるような痛みとか辛さとか、全く感じなかったのだった。でも、さすがにそんなこと、口には出来なかった。
 蘭の中に入ったまま、新一が蘭をキュッと抱きしめる。

「し、新一……?」
「蘭。オレ今、すっげー幸せ……」
「新一……」
「今、オレ達、一つになってんだよな」
「……新一……」
「蘭、愛してる……」
「し、新一……わたしも……」

 新一と結ばれているという実感がこみあげて、蘭の目から涙が溢れて流れ落ちる。新一は優しく唇で蘭の涙をぬぐった。
 そして新一は体を起こし、蘭の手を握りしめ……。ゆるゆると腰を動かし始めた。

 とたんに蘭は、今まで経験したことのない気持ちよさに、思わず高く声を上げ、無意識の内に腰を振っていたのだった。

「蘭……蘭……っ!」
「ン……ああっ……新一……ああん!」
「好きだ……好きだ……っ!蘭!」
「新一……好き……っ!」

 愛する新一と一つになっている幸福感。
 初めてのセックスの快楽。

 蘭の頭は白くはじけ、自分がどんな言動をしていたかも記憶にない。



   ☆☆☆



 ……実際に起こったことを事細かに赤裸々に語ったわけではないが。

 数日前、初めて新一に抱かれたこと。
 勢いで体を重ねてしまったが、とても幸せで気持ちのいい体験だったこと。

 そして。
 その時も事後も、新一はとても優しかったのに、次の日から素っ気なくなってしまったこと……。

 ということを、蘭は語った。


「いっぺんエッチしたら、途端に素っ気なくなったあ!?アヤツだけは、そんなことはあるまいと思ってたのに!」

 園子は、怒りのあまりに、目を吊り上げていた。

「蘭!わたしがアヤツを懲らしめてやるから!」
「やめて!!お願い、園子!それだけはやめて!」
「ら……蘭……」

 園子は、呆然とした。

「蘭……手のひら返しされても、それでも、アヤツのこと、そんなに……?」
「……ごめん、園子。違うの……そうじゃなくて……多分……多分、新一は……わ、わたしが……処女じゃなかったって思って、そ、それで……」
「は?」
「だ、だって。よく言うじゃない。初めての時って、すごく痛いとか……血が出るとか……で、でも、わたし……全然痛くなかったし、出血も無かったの……だ、だから、新一は、わたしが……」

 声を詰まらせる蘭に、園子は、掛ける言葉が見つからなかった。





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