コレクション



byドミ



毛利蘭が工藤新一と学生結婚し、工藤蘭となって間もなくの事。

蘭の親友である鈴木園子が、工藤邸に遊びに来ていた。


「蘭の旦那、また仕事なの?」
「うん。帰りは何時になる事やら」
「ったく、アヤツも相変わらずよねえ」
「仕方ないよ、今は報酬を貰って探偵やってるんだし、事実、新一が居ないと解決出来ない事件があるんだもん」

そう言った蘭の表情は、新一への愛情と信頼に溢れていて。
園子としては、半目になってソファに沈み込むしかなかった。

「それに、泊り込みの仕事でもなければ遅くても必ず帰って来るしね。ご飯も、余程でない限り私の作ったものを食べようとしてくれるし」
「ハイハイ。ご馳走様。で、新一君の帰りが遅い時は、蘭は起きて待ってるの?」
「・・・ううん。以前はそうしてたんだけど。今は、先に寝るようにしてる。でないと睡眠不足になっちゃうもん」

そう言った蘭の顔が微妙に赤かったので、園子は突っ込んでみる。

「・・・もしかしてさ。アヤツ、どんなに遅く帰って来ても、夫婦の営みは欠かさない訳?」

蘭の顔が一気に赤くなったので、図星だったようだ。
園子はもうソファにふんぞり返るしかなかった。



新一と蘭は、結婚する前から、体の関係はあったけれど。
結婚して一緒に住み始めると、新一の求めは毎晩で、しかも余程でない限りは一回きりではなくて。

今の蘭は、新一がどんなに忙しく飛び回っていようと、寂しく感じるどころではなかった。

蘭とて、新一との行為が嫌なわけではなく。
身と心が一つになれるような気がするし、他のどんな時より新一を近くに感じるので、新一に抱かれるのは好きなのであるが。
毎晩の行為に、憂いを感じてもいた。

毎晩執拗に求められると、体力的にちょっと厳しいのと、もうひとつ。
「新一がいつか私に飽きるのではないか」と、不安になる事があるのだ。



「新一に初めて抱かれたのって、18歳の時で。それから2年、何回身体を重ねたのか、分からないけれど」
「・・・はいはい、もうこっちが恥ずかしくなるから、やめようよ〜」
「ねえ園子。もし、新一が私に飽きちゃったら、どうしよう。回数が減るのは、まあ、良いんだけど・・・セックスレスとか・・・そ、それに・・・浮気とか・・・」
「はあ?アヤツに限ってそんな事はないと・・・思うけど・・・。蘭、新一君に浮気しそうな兆候でもあるわけ?」

最初はうてあわなかった園子だが、ちょっと心配げな顔になって、体を起こした。

「ううん。でも新一、探偵でしょ?そういったの隠すの、得意そうだし」
「何だ。やっぱり蘭の思い込みじゃん。新一君は蘭馬鹿だから、そんな心配ないと思うよ」
「でもね。普通、男の人って、エロ本の1冊2冊、エッチビデオのひとつふたつ、隠し持ってるもんでしょ?」
「うん、まあねえ。1つ2つじゃないと思うけどねえ」
「私だって、新一がそういうの隠し持ってるのに気付いても、つ、妻、なんだから、心広く持たなくちゃ、って、覚悟してたの。でも、ないのよ。どこ探しても、1つも見つからないの」
「・・・ははあ。アヤツの事だから、巧妙に隠してしまったのね」
「・・・うん、多分。結婚した時に、処分したんだと思うんだけど」
「それにまあ、結婚後は毎晩、蘭とエッチしているんだから、不要になったんじゃない?」
「でも・・・ちょっと気になるものがあって・・・」
「へ?」


蘭が園子を連れて行ったのは。
書斎に置いてあるパソコンの前だった。



「パソコン?」
「うん、家には数台あるけど、このパソは、ネットにも他のパソにも、通信回線を全く繋いでないヤツなの。大切な資料とか画像が保存してあるからって。万一の事があったら困るからって」
「ふん・・・データ流出とか、消されたりとか、がね。で?」

蘭が、パソコンを立ち上げる。
画面は別に何の変哲もないものだ。

「で、このフォルダが、その・・・パスワードを入れないと開かないようになってて」
「フォルダ名は、『Orchis』?ほほ〜、成る程ねえ。で、蘭はこれが怪しいと睨んでいる訳ね?」
「う、うん・・・」
「もしこの中に、エッチビデオや画像があったら、どうする気?」
「べ、別に・・・そりゃ、ちょっとはショックだけど・・・でも、仕方ないかなって・・・」
「と言いながら、気になるわけね?成る程〜。やつが使いそうなパスワードって言ったら・・・シャーロックの4869とか?」
「・・・そこら辺は、全部試してみたの・・・」
「mourirann・・・これも違うか・・・」
「ええ!?私の名前なんか使う筈が・・・!」
「次は蘭の誕生日・・・と・・・あれ!?」

園子が、パスワードチェックボックスに蘭の誕生日を入れた途端。
画面が変わり、フォルダが開かれた。

一覧を見ると、写真画像とビデオ画像が納められているようである。

2人は思わずゴクリと喉を鳴らした。

「見る?」
「う、うん・・・」

園子が写真画像の1つをクリックすると。
画面に現れたのは、女性の裸体だった。


覚悟していた事とは言え、蘭が息を呑む。
顔が殆ど映っていないその画像の女性は、胸が大きく腰がくびれ、素晴らしいプロポーションをしていた。
暗がりの画像だが、肌色や、黒髪が背中に流れているところを見ると、東洋人女性のようである。

「ふうん。胸は大きいけど、この手の画像にありがちな、醜いほどの巨乳という訳じゃないね」

園子が冷静に感想を漏らし、次の画像をクリックする。
似たような画像が何枚も続き、蘭は思わず目を覆いたくなったが、何かが引っ掛かって目が離せなかった。


「え・・・?このシーツの模様・・・」

蘭が首をかしげると、次に写ったのは、女性の水着画像だった。顔が顎の部分しか映っていない。
素晴らしいプロポーションの、大きな胸が強調されるような映り方をしている。

「え・・・?この水着って・・・蘭・・・?確か高校の時・・・」

「きゃああああああっ!!」

蘭が思わず悲鳴を上げ、真っ赤になって、顔の両側を手で押さえた。

「いやいやいやっ!園子、見ないでええ!」


そう。
そこにある画像は全て、蘭のものだったのである。



最初は身体だけ映っているものばかりだが、コレクションの後半は、顔が映っているものも多かった。
見たくない気持ちが大きかったが、どうしても、「他の女性の画像が混じってないか」気になって、全てチェックせざるを得なかったのである。
結果、蘭の画像以外は1枚たりともないのが分かっただけであった。

念の為にビデオ画像もクリックしてみると。

「くっ・・・蘭・・・」
「はあ、ああん。しん・・・いちぃ・・・」

うごめく2人の画像は少なくとも最初の部分にはよく映っていなかったが、紛れもない蘭のあえぎ声が入っており。
その途端、蘭はぶちっと電源コードを引き抜いてしまった。


蘭は大きく肩で息をして。
園子は、冷静に突っ込みを入れた。

「いつの間にコレクションしてたんだか。蘭、アンタ撮影されてるのに気付かなかったの?」
「だって、だってっ!まさかその・・・アレの途中に、こんなのが仕掛けられてるなんて、見る余裕ある訳ないじゃない!」
「うん、まあそうよね。写真は寝てる時のもの?にしても、何も着ないで無防備で寝ちゃうわけ?」
「そ、それは・・・多分、気絶してた時に撮られたんだと・・・」
「気絶ぅ?蘭、もしかしてエッチの後、しょっちゅう気絶してんの?」

蘭がこくりと頷き、園子は手を広げて溜め息をついた。

「はああ。しょっちゅう気絶するほど激しく、ねえ」
「え?それって・・・普通じゃないの?」
「あんまり普通とは思わないけど?」
「で、でも!新一は普通だって!」
「馬鹿ねえ。新一君だって、他の女性とエッチした事なんか絶対ないんだから、普通がどんなって分かる訳ないでしょ?」
「そ、そうかな・・・」

やる事やっておきながら、この天然ぶりはどうだろうと園子は思ったが。
園子にしても蘭にしても。
そして・・・おそらく、それぞれの愛しい男性にしても。
他のパートナーとの経験がないのだから、「普通」がどうだなんて、知らなくても無理はないと言える。

園子は、この分ではきっと新一は、結婚前にも「普通の」エロ本やエロビデオなど、必要としていなかったのだろうと思ったが。
それは口に出さなかった。

「で?蘭、エッチ画像が見つかっても、怒らないって言ってたけど。どうするの?」

園子に問われて、蘭は何も答えられなかった。

いつの間にか蘭の恥ずかしい場面を撮影されていた事には、怒りも感じるが。
新一が隠し持っていたのが全て蘭の画像だというのは、恥ずかしく腹立たしく、けれど同時にどこか安心もして。
蘭は複雑な気分だったのである。


「まあ、私は何も見なかった事にするわ。じゃあねえ」

園子はそう言って、工藤邸を後にした。
外にでた後、園子は工藤邸を振り返って首を振った。

「やれやれ。新一君って・・・あそこまで蘭馬鹿の変態だとは、流石の私も気付かなかったわ」



その後、蘭が新一に果たしてその事を伝えたのかどうか、それは誰も知らない。

ともあれ、その後も夫婦仲はずっと円満だったようである。



Fin.


++++++++++++++++++++

<後書き>

あらまあまあ、蘭ちゃんの水着姿アップ画像、消されちゃって残念だったね、コナン君。(単行本48巻参照)

という事で、あの画像を再び園子ちゃんから受け取った、あるいは消されなかったと仮定しての、妄想話なのです。

まあどちらにしろ、工藤新一という男、普通の高校生男子とは違い、蘭ちゃん以外の女性には煩悩も殆どないという、変態男(ここまで言うか(笑)。でも私、こういった新一君が大好きなんです)
きっと、蘭々の画像以外では、エロ本もエロビデオも、ヤツには不要に違いありません。
ヤツが自分を慰める時のおかずはきっと、初めての時から、蘭ちゃんオンリーでありましょう。


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