血よりも深く



byドミ



(9)色黒王子



たっぷり遊んだあと。
新一・蘭・園子、そして園子をナンパしてきた砂川と、4人で旅館に戻って来た。

砂川が、この宿に部屋を取りたいと言ったが、無愛想な旅館の主人から「満室です」と、けんもほろろに断られた。

「まあ、仕方がない。明日、迎えに来るよ、園子ちゃん」
「はい、砂川さん」

園子の目はすっかりハート形になっていた。

そして次の日。
砂川は、朝から園子を迎えに来た。
しかし、園子はどんなにハート目になっていても、砂川と2人きりは嫌がったので、蘭と新一もついて行く形になった。

砂川は、車で来ていた。
園子が助手席に乗り込み、蘭と新一は後部座席に乗り込んだ。
後ろを向いた砂川が、「気が利かない」とでも言いたげな目つきだったので、二人は恐縮する。

ランチは、砂川お勧めのレストランに行く事にしていたが、まだ時間が早いという事で、水族館に行った。
園子の求めに応じ、砂川は4人分の入場料を出した。

「わたし達まで……良いんですか?」
「いやいや、園子嬢に喜んでもらえるなら、その位」

そう言いながら、砂川の顔は引きつっていた。


夏休みの水族館は、想像以上に混雑していた。
新一は蘭の手をしっかり握って歩いた。

そして……。


「新一。園子が見当たらないよ!」
「ん?まあ、砂川さんが一緒なら心配ねえんじゃ?」
「でも!」
「……馬に蹴られたくはねえんだがなあ。一応、探すか」

新一と蘭は、一旦水族館を出て、駐車場に向かった。
そこに、砂川が停めた車が見当たらず、さすがに新一も眉を寄せた。

蘭が、砂川の車が停まっていた近くに落ちていたものを拾い上げて、声をあげた。

「新一!これ、園子の携帯のストラップ!」
「何だって!?」

携帯についているストラップが、外れて落ちるというのは、普通に有り得る事だと思うけれど。
砂川の車がなく、園子の携帯ストラップがそこに落ちていたという事態に、新一もさすがに嫌なものを感じた。



   ☆☆☆



新一は地元警察に言って、園子の携帯のGPS機能を使ってもらい、後を追う事にした。
通常であれば、はぐれた友達の後を追うなんて事は警察はしてくれないが、こういう時、新一の「高校生探偵」としての実績がモノを言った。
新一が「事件性がある」と口にしたから、尚更だ。

「新一……」
「園子が、何も連絡せずに離れて、蘭に心配かけるような事をする筈ねえ。ヤツの事、ちゃんと調べておくべきだった」
「ううん。新一は悪くないよ……ありがとう」
「蘭の親友は、オレにとっても大切なヤツだ」

パトカーの中で、新一は、蘭の手をシッカリと握って励ました。
ちなみに、警察に対して蘭のことは工藤家の長女で新一の妹と説明してある。
その方が色々面倒がないからだ。

園子の携帯は、山道を移動し、ある建物付近で止まった。
携帯にGPS機能がついている事位、砂川も知っているだろうが、こんなに早く警察が動くとは予想してない可能性がある。
携帯の場所に園子が無事でいる事を願って、新一達はその場所に駆けつけた。


そして。
駆け付けた新一達が見たものは。

足が立たなくなった園子をお姫様抱っこしている色黒長身男子と、周囲に昏倒している男たち、だった。
男は、サングラスを外していたが、新一はその姿に見覚えがあった。

「あなたは、旅館と海の家にいた……どうしてここに?」

園子を抱き上げている男性に、新一が声を掛ける。

「もしかして!京極さんじゃないですか!?杯戸高空手部の、蹴撃の貴公子の……!」

蘭が勢い込んで言った。

「はい。あなたは、帝丹高校空手部の工藤さん(注:このお話では蘭は対外的に毛利蘭ではなく工藤蘭である)ですよね」
「どうして、ここに?」
「自分は、実家があの瓦屋旅館なのです。東京に下宿して、杯戸高校に通っています」
「いえ、あの……そうじゃなくて……」
「あの男が、園子さんの鳩尾に当て身を食らわせて、車に連れ込んだところを目撃しまして、車の上に乗ってここまで一緒に来ました」
「当て身!?そ、園子……」
「ら〜ん。わたし、わたし……」

園子が、真に抱き上げられたまま、涙でグシャグシャになった顔で、蘭を見る。

「こ、怖かった〜!」
「一体、どういう事なの!?」
「わ、わたしを集団凌辱して、その映像をネットに流すって……流して欲しくなければ、金を出せって、パパを脅す積りだったみたい」
「そ、そんな……!」
「でも、間一髪って時に真さんが現れて、あっという間に悪い男たちを全滅させてくれて……」
「園子、良かった〜!京極さん、ありがとうございます!」

パトカーの警察官は、そこに転がっている男たちに手錠を掛けたり縛り上げたりして、1台のパトカーでは搬送できない為、応援を要請していた。

京極真が、蘭を応援する園子の姿に一目惚れしていた事とか、今日は、水族館に来ていた園子が心配で水族館までわざわざやって来ていた事とか、そういう事を知ったのは後の事。
その後、鈴木家で交際を認める認めないですったもんだはあったが、無事、園子に色黒王子の恋人ができたのであった。



   ☆☆☆



秋になった。

新一の怪我は、順調に回復し。
鎮痛剤を使わなければならない程の痛みは、1か月程で落ち着き。
3か月も経てば、完治が言い渡されて、激しい運動をする事も、許可が出た。
もっとも、その3か月間も、肋骨に響かない程度の運動は、ずっと続けていたけれど。


新一と蘭は、恋人同士になったけれど、相変わらず、キス止まりの仲であった。
ただし、兄妹の軽いキスではなく、恋人同士の濃厚なキスに変わってはいた。

新一が怪我人である事もあって、蘭が新一の部屋で一緒に寝るという事も、暫く控えられていた。


夜風が少し寒い位になった、週末の夜。
新一と蘭は、リビングで勉強をしていた。

「ねえ新一」
「ん?蘭、どこが分からねえんだ?」
「大学は、どうする?」
「へっ?」
「どこに、行くの?」
「……一応、東都大法学部」
「一応???って……?」
「状況が許せば、アメリカ留学も考えてる」

蘭が、息を呑んだ。
新一は、シャープペンを置いて、蘭の方へ顔を向ける。

「バーロ。んな顔、すんなよ。状況が許せば、つっただろ?」
「新一……?」
「お前を1人置いて、遠くに行ったりしない」
「新一……」
「蘭。オメーがいる所が、オレの居場所だ。ぜってー、離れない」

蘭の目に、涙が大きく盛り上がった。
新一はそっと蘭を抱き寄せる。
蘭は、新一の肩口に顔を寄せて、言った。

「でも。新一は、それで良いの?」
「ん?」
「新一の、夢は……未来は……?」
「オレの未来?」
「ホームズのような探偵になるんでしょ?」
「……ああ。2つの目標の、1つだな。それは、どこにいても、叶えられるし。アメリカのライセンスは、別に、後からでも取れるしよ」
「新一。もう1つの目標なんて、あるの?」
「ああ。あるさ。そっちのがずっと重大だ」

蘭は、目を見開く。
新一に、探偵以外の目標があるなんて知らなかった。
止めてしまったサッカーでもない目標なんて、あったのだろうか?

「蘭。オメーだよ」
「えっ?」
「蘭と共にある事が、物心ついた時からずっと、オレの夢で目標だった」
「新一……」

蘭が、新一の肩口から顔を離し、マジマジと新一を見詰める。

「だから。蘭がオレの血の繋がった妹じゃないって知った時、オレは正直、嬉しかったよ」

蘭の頬を、涙が零れ落ちた。

「新一。わたし、わたしね。お父さんとお母さんから、血の繋がりがないって話をされた時。お父さん達の実の子じゃなくて悲しい、新一の実の妹じゃなくて悲しいって気持ちも、あったけど。でも、でも、心のどこかで、新一と血の繋がりがない事に、ホッとしてた……新一の実の妹じゃないって、悲しい気持ちよりも、ホッとした気持ちの方が、大きかったの……」
「蘭……」
「わたしもね。ずっと、新一と一緒にいたい……そして、探偵の新一を支えて行くの。それが、将来の夢、かな?」

お互いに。
ずっと一緒にいたいという気持ちを、素直に出せるようになったのだった。

新一が、蘭の頭を抱き込み、顔を寄せる。
蘭は目を閉じ、2人の唇が重なった。
蘭の唇の隙間から新一の舌が侵入し、蘭の口内を侵し、舌を絡め取る。

お互いの気持ちを確かめ合ってから、時々交わされるようになった、深いキスだった。
離れては、また求め。
いつの間にか蘭は絨毯の上に押し倒されて、新一がその上に圧し掛かり、口付けを交わし合う。

蘭の柔らかな唇を、かぐわしい口内を、甘い舌を、何度も味わい。
新一は、自身の奥で、今迄押し込めていた欲望が荒れ狂い、たがが外れそうになるのを感じていた。

このままでは、暴走する。
そう感じた新一は、無理やり蘭の体から自分を引きはがした。

「新一……?」

蘭が起き上がって声をかけて来る。
その瞳は潤み、唇は赤くぷっくりと腫れている。


明日は、学校は休みだし、普段だったら、まだ寝る時刻でもないけれど。
新一は、ブルリと頭を振って、言った。


「何か……勉強の続きをする気も失せたし……今日は、もう休もう」
「う、うん……」
「じゃあ、お休み、蘭」
「お休みなさい」

新一は、立ち上がると、2階の自室へと引き上げて行った。


自室で、机の引き出しを開ける。
そこには、母親から送られてきたモノが、入っていた。


蘭と恋人同士になった事は、母親に告げていた。
すると、すぐにこれが、送られてきた。
ご丁寧に、新一のサイズが分からないからと、3段階のサイズがある「避妊具」である。


『新ちゃんは、まだ17歳だし、蘭ちゃんを泣かせちゃダメよん。もしもの時は、私達も全力で協力するけどね♪やっぱり、高校はちゃんと卒業させなきゃ』

「ったく……我が親ながら、何考えてんだよ!?」

新一は悪態をつくが。
年頃の男女が、思いを通わせた後、一つ屋根の下で暮していれば、いつか「間違い」が起きかねない事、それが女性に負担を強いる可能性がある事は、確かな事である。
結局、新一は、試着をして自身のサイズも測定済み、何度も装着練習をしていた。


蘭の気持ちを知る前は、新一は自分の欲望を完全に自制出来る自信があったのだが。
今は、その自信がない。
いつ暴走するか、分からない。

蘭だって、抵抗するとは限らない。
もしかしたら、流されるままに、そのような関係になるかもしれない。
けれどそうなった時、蘭に辛い思いをさせないよう、準備はして置かなければならない。


新一は今夜、既に入浴は済ませていたが、頭を冷やしたくて、浴室へと向かった。
更衣室の灯りが点いており、「消し忘れたかな」と思いながら、ドアを開けた。


「きゃああああっ!」


間が悪いとは、この事だ。
更衣室には、たった今、浴室から出たばかりらしい蘭が、タオルを手に、全裸で立っていた。

新一は一瞬、固まった後。
慌ててドアを閉めた。

「ご、ごめんっっ!」

子どもの頃、一緒にお風呂に入った事はあったし、年頃になってからも水着姿や下着姿なら見た事はあったが、年頃になってから、蘭の生まれたままの姿を見たのは、初めての事である。

一瞬だったけれど、目に焼き付いた光景。
白く艶やかな肌。
胸は柔らかそうに形良く盛り上がり、その頂は桃色に色づき。
くびれた腰の下は、程よい肉付きのヒップと、すんなり伸びた足。
大事な場所は、淡い茂みで覆われていた。

新一は、垂れて来る鼻血を抑えながら、自室に駆け込んだ。

「あいつ、もう、風呂は済んでた筈なのに……!」

ベッドに腰掛け、パジャマのズボンを押し下げ、自分の一物を取り出す。
蘭の名を呼びながら、今の映像を頭に浮かべ、グッとそそり立ち先端から先走りを滴らせた自身をしごいて、熱を解放した。


「はあ……はあ……はあ……」

一旦熱を解放してなお、頭の映像は消えず、新一のモノは蘭を欲してそそり立つ。

その時。
ドアをノックする音がした。

「新一……いい?」
「お、おう。どうしたんだ?」

新一は慌てて、一物を仕舞い込みながら答えた。
蘭が、ドアを開けて入ってくる。
その頬が、赤く染まっていた。
先ほどの恥ずかしさが、残っているのだろう。

もしかして蘭は、さっきの文句を言いに来たのかと思ったが。

「ねえ新一。今夜、久しぶりに、一緒に寝ていい?」

新一は目を見開き、思わず唾を飲み込んだ。


(10)に続く


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真園が恋人になるエピソードを無事書けて良かったです。
事件については、あんまり細かく詳しく作っても面白くないので、はしょってしまいましたが。

でまあ、いよいよ、新蘭が一線を越える訳ですが。
まあ、なかなか、良い感じに繋げていくのが難しくて。

ドアを開けて、蘭ちゃんのヌードを見てしまう、っていうエピソードは、実は早くから考えていたのですが、なんか今一つセンスがなくて、すみません。


2014年1月26日脱稿

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