血よりも深く



byドミ



(4)兄妹デート



「ねえ、新一。今度の土曜、映画、見に行こうよ!」
「ん?」
「その日、わたし、部活、早く終わるから!」
「……高梨と一緒に行かなくて、良いのか?」
「うん、だって、新一の好きそうな映画だもん!」

蘭が新一に「見に行こう」と言ったのは、新一も原作を高く評価している推理物である。

「ん〜。原作のトリックとどんでん返しが完璧だっただけに、映画でどうなるか……」
「イイじゃない。新一、原作と違う部分に突っ込みを入れるのも、楽しいでしょ?で、多分、高梨君の好みじゃないと思うんだ。だから……」
「オメーの好みでも、なさそうだけどな」
「そ、そんな事、ないよ!沖野ヨーコちゃんが主演だし!」
「ま、いっか。事件が起こらないよう、祈っといてくれ」
「わあい」

久し振りに、新一と2人で映画を見に行く事になって、蘭は浮かれていた。
新一は、ブツブツ文句を言いながら、ロマンス映画でも何でも、蘭が誘えば付き合ってくれていた。
けれど、高梨と「お付き合い」を始めてからは、高梨からいつも誘われる事もあり、蘭は新一と映画に行く事もなくなっていた。


高梨も、蘭からの誘いとあらば、たとえどんな映画だろうと付き合ってくれただろうけれど。
新一と一緒に映画に行きたいという想いでいっぱいになっている蘭は、そこまで考える余裕もなかった。



「工藤。今度の土曜日、映画を見に行かないか?」

下校時。
蘭はたまたま、学校を出るタイミングが高梨と一緒になり、断る理由もなく、2人で歩いていたのだが。
その時、高梨に切り出された。

「え……あの……」
「工藤が好きそうな映画、やってるから」

高梨が示した映画のタイトルは、確かに、女の子が好みそうなラブロマンス物で、蘭も、興味がない訳ではなかった。

「ごめん。その日は、先約があるから」
「……先約?」
「新一と、映画を見に行く約束、してるの」
「……へえ。恋人より、兄貴が優先か?」

高梨の声は、低く冷たい。

「そ、そんなんじゃないよ!だ、だって、先約が優先なのは、原則でしょ?恋人でも友達でも家族でも!」

蘭が言い訳めいた取り繕い方をしたのは、高梨の機嫌を損ねたくないというより、どこか、後ろめたい思いがあったからだ。

「兄妹なんて、いつでも家で顔を合わせんだろうが!どうして、恋人との予定を先に確認しようって思わないんだよ!?」

高梨の苛立ったような声に、蘭は困惑した。
元より、高梨に対して、好きという気持ちがある訳でもない。
さほど、一緒にいたいとも、思わない。

けれど、高梨の言った事も一理あるとは、考えた。

「ごめんなさい……今度から、気をつける」
「あ。いや、声を荒げて、悪かった。今度、埋め合わせ、してくれよな?」
「う、埋め合わせって……」

高梨は立ち止まる。
気付くと、工藤邸の前まで来ていた。

高梨が蘭の向かい側に立ち、蘭は自然と、高梨を見上げる形になった。
高梨の両手が、蘭の頬にかかる。

「え……?」

高梨の顔が近付いて来た時、蘭は思わず、手で高梨の胸を押して距離を取っていた。

「工藤?」
「ごめんなさい!わたし、まだ、そういうのは……」
「……工藤って、キスの経験、ないんだ?」
「え……?」

蘭は、困惑して高梨を見上げた。
今迄、新一とは何度も、キスを交わして来た。
けれどそれは兄妹としてのキスであり、きっと、数に入らない。

「う、うん。だって……」
「この前、兄貴からはホッペにキスさせてたようだけど?」
「あ、あれは……!」

屋上で、新一から頬に口付けられたシーンを、誰かに見られていたらしいと、蘭は気付く。
どういう風に言い訳をしたらいいのか、蘭はグルグルと考える。

「だ、だってウチは、妙に欧米風な所があって……家族で、ああいうキスをするのって、当たり前なんだもん!」
「そっか。恋人同士の、唇のキスはまた、特別だもんな。焦らず待つ事にするよ」

高梨は、笑顔で言ったが。
何となく、その目が笑ってないような気がして、蘭は戸惑っていた。
高梨と「お付き合い」する事に決めたのは、本当に良かったのだろうかと、蘭は思う。

「高梨君……」
「じゃあ、また」


そう言って手を上げ、高梨は踵を返して行った。
家に入った蘭は、高梨に触れられた頬を、ゴシゴシとこする。
それでも、手の感触がよみがえって来て……気持ち悪い。

高梨は「焦らず待つ」と言ったが、待たれても、高梨とのキスに抵抗が無くなる日が来るとは、思えなかった。




   ☆☆☆



「オレんちの前で、妹に手を出そうとするとは、いい度胸じゃねえか」

踵を返した高梨は、目の前に現れた新一に驚いた。

「お前、まさか、後をつけてたのか?」
「後をつけたとは人聞きの悪い。オレはたまたま、帰宅してただけ。オメーが蘭を送って来たんだから、自然と同じ道を歩くのは、当たり前だろうが」

蘭の「兄」と「恋人」との間で、見えない火花が散る。

「高校生探偵と持ち上げられ、大もての工藤新一が、妹のストーキングかよ」
「何とでも。高梨、オレは、蘭が幸せなら、蘭のお付き合いに口出す気は毛頭ないが。もしオメーが、アイツを泣かせたり傷付けたりするような事があれば、容赦しねえから」

そう言って、新一は底光りする目で高梨を見据えた。
高梨は、背中に冷や汗をかきながらも、負けじと新一をにらみ返す。

高梨は、自分の恋の「障害」になるのは、目の前の「恋人の兄」だという気がしていた。
そしてそれは、ある意味、正しい洞察だったのだが。


殺人者すらも畏怖させる新一の眼差しに、高梨は耐えられず。
結局、先に目を反らしてしまったのは、高梨の方だった。

「工藤を泣かせたり傷付けたりする事は、しないよ……ずっと大切にする」
「その言葉。たがえるなよ?」

そう言って、新一は、工藤邸の方に向かって行った。
高梨はそれを、忌々しそうに見送った。


帝丹高校入学式の日、同じ新入生の中に、群を抜いて綺麗で可愛い少女を見かけ、一目惚れした。
それからずっと、蘭を見詰め続けていた。
蘭は、強度のブラコンで、言いよる男性を全て袖にして来たけれど。
高梨が意を決して告白したら、何故か、頷いて受け入れてくれた。

けれど、蘭の方も高梨の事を好いていてくれていたとまで、自惚れている訳ではない。
その時の言葉のやり取りから考えても、蘭が何らかの理由で「そろそろ、男の人とお付き合いを」と考えていた所に、タイミング良く自分が声をかけたものらしいと、高梨には分かっていた。
だが、だからと言って、せっかく巡って来たこのチャンスを、不意にする気はない。


強度のシスコンと強度のブラコンの兄妹、かなり手強い相手と言えるが。
兄妹同士では、恋愛も結婚も出来ない。

それに、女は、体を重ねれば、気持ちが傾く事が多いと聞く。
高梨は、今は紳士的に振舞っているが、遠からず蘭をものにする積りである。
体を奪えば、心も自然について来るだろう、ブラコンの蘭も、高梨の方に気持ちが傾くだろうと、考えていた。


「泣かせたり傷付けたりはしないさ。絶対、オレに夢中にさせてやるからな」


高梨はそう呟いたが。
どこか、敗者の負け惜しみのような声音だったのは、ここだけの話。



   ☆☆☆



新一が家に入ると。
両頬が真っ赤になった蘭が出迎えた。

「蘭!?どうしたんだ、このホッペは!?」
「え……?」
「真っ赤になってるぞ!」
「あ……さっき、こすり過ぎたからかな?」
「こすり過ぎたって……自分でか?」
「うん……でも……」

蘭が、涙を溜めて新一を見上げる。

「ねえ、新一。自分でこすっても、気持ち悪いの……」
「は?」
「消毒、して?お願い……」

新一は一瞬、戸惑ったが。
幼い頃、蘭が、怪我をした時以外にも、蛇や虫にウッカリ触れた後、泣きながら新一に「消毒して!」と頼んで来た事を、思い出していた。
そんな時、新一は、蘭が「気持ち悪い」と言う部分を手で優しく撫でた後、舐めてあげるのが常だったのだ。

「蛇と同格のヤツと、何で付き合うんだ?」
「新一?」
「いや、何でも。蘭、これで、イイか?」

新一は、そっと蘭の赤くなっている両頬を撫で、口付けて行く。
蘭が、ホーッと息を吐き出す。

「良かった……気持ち悪いの、なくなった……」

そう言って蘭が微笑む。
新一は、蘭の両頬に手を滑らせ、その柔らかい唇に、そっと触れるだけのキスをした。
蘭が新一に抱きついて、その胸に顔を埋める。

「蘭、オメー……いつまでも、小さい子供みたいだな……」
「うん。大人になんか、なりたくない」
「蘭?」

新一は、そっと蘭を抱き締めた。


蘭が、高梨の事を好きではない事、まだキスも交わしていない仲だという事は、新一にはお見通しであるが。
何故、蘭が、高梨と付き合う事を決めたのか、そこが新一には解せない。

たとえ、嫉妬でのたうち回ろうと、胸の内を嵐が吹きすさぼうと、蘭が「愛する男性」と幸せになるのであれば、新一は自分の気持ちを完璧に抑えて蘭を祝福する積りでいる。
けれど、今の蘭は、違う。
どうも、「男の人と付き合わなければ」と、何かで頑なに思いこんでいる節がある。
今の、「大人になんかなりたくない」という言葉と、何らかの関係があるのだろうか?


蘭には空手があるし、その気にならない間に、無理矢理高梨にどうこうされるという事は、ないだろうと思っているけれど。
絶対、大丈夫だとも言い切れない。
蘭が傷付かない内に、高梨と別れてくれないだろうかと、新一は思う。


新一は、蘭を抱き締める腕に力を込めた。


『なあ。オメーが、誰でも良いから付き合おうと思っているのなら……オレじゃ、ダメか?好きでもない適当な男と付き合う位なら、兄であるオレを、男として見てくれねえか?』

けれど、その願いが、新一の口から出る事はない。
それを口に出したら、長年築き上げて来た「家族関係」を崩壊させてしまうという気が、するからだった。




   ☆☆☆



そして、土曜日。

久し振りに、新一と2人で、街を歩く。
知らない人から見たら、恋人同士に見えるだろうかと、蘭は埒もない事を考えてしまう。

映画を見た後は、蘭が料理の腕を奮う積りでいたのだが、新一から
「せっかく街に出るんだから、ついでに、どこかで食事して帰ろうぜ」
と、言われた。

映画のシートは予約してあるので、急ぐ必要はない。
街で少しウィンドウショッピングをした後、映画館に向かおうとしたが。
突然、新一の携帯が鳴った。

蘭は、ビクリとして立ち止まる。

新一が携帯を取り出して話している。
どうやら、事件解決の依頼のようだ。


「新一」
「蘭……殺人事件が起こって、目暮警部から依頼だ」
「うん……」

蘭は、新一を見上げる。
笑って「行っておいで」と言いたいのに、それが出来ない。

新一とは一緒に暮らしているけれど、こうやって2人で出かけるのは、久し振りなのに。

新一がもてるのに恋人を作ろうとしないのは、もしかしたら、こういう所が理由かもしれない。
ごく稀にならともかく、しょっちゅう、デートがオジャンになるのでは、耐えられない女の子の方が、多いだろうと、蘭は思う。

「ごめんな。蘭。せっかく、映画、楽しみにしてたみてえなんだけど……」
「うん……」

蘭は、涙が溢れそうになり、慌てて俯いた。
行っておいでと言わなければと、気が焦るが、それが出来ない。

「じゃあ、行くぞ」
「えっ……?」

てっきり、新一が蘭を置いて行くものだと思っていた蘭は、新一が手を引いて歩きだしたので、目を丸くした。

「せっかくだから、オメーも手伝え」
「え……え……?」
「蘭も、父さんと母さんの娘で、オレの妹なんだからよ」
「……うん!」

蘭は、満面の笑顔で頷いていた。


考えてみれば、蘭が楽しみにしていたのは、新一との「デート」なのであり、映画そのものではなかった。
事件現場に向かい、推理するのだから、2人きりではないしデートではないけれど、新一が蘭を「置いて」行ってしまうより、伴って行ってくれる方がずっと良いに違いなかった。

蘭も、新一ほどではないが、幼い頃、優作が事件解決をする時、一緒にいた事は、少なくない。
新一が高校生探偵としてデビューした時、他の色々な事件現場でも、傍にいたし。
今回、新一が蘭を伴って現れても、目暮警部以下殆どが、別段、違和感を覚えていなかった。


事件は、あっさり……とまでは行かなかったが、蘭も精一杯手伝い、早くに解決した。
それでも、日はとっぷり暮れてしまった。


「工藤君。今回も助かったよ」
「いえいえ。また何かあれば、どうぞ宜しくお願いします」
「それにしても。蘭君には久し振りに会ったが、お母さんに似て来たようで、ドキリとしたよ」

目暮警部の言葉に、新一と蘭は、ハッとなった。
血の繋がりはないが、蘭は、有希子に似ていない事もなく、母子と言っても違和感は全くない。
けれど、蘭の親を知る数少ない1人である目暮警部が言っているのは、そういう意味ではない事位、新一には分かっていた。

「目暮警部。ホント、蘭は母さんに似てますよね。僕も、そう思います」

新一が笑顔で言いながら、必死で目暮警部に目配せし。
目暮警部も、ハッとなったようである。

「あ、そ、そうだな、工藤君もだが、蘭君は有希子君によく似てる、はっはっは」

目暮警部は、ぎごちなく言って笑った。

「蘭ちゃん、疲れたでしょ?自販機だけど、飲み物おごるから」

雰囲気を察した訳でもなさそうだが。佐藤刑事がそう言って、蘭を自販機のある所まで連れて行く。
目暮警部が、ふうと息をついて、新一に言った。

「すまん。蘭君は、まだ知らないんだね?」
「いや。知ってますよ。パスポート作る時に、戸籍を見てますから。でも、蘭は、僕達の事、本当の家族と慕ってくれている。だから、僕は……」
「そうか。警察でも若い世代の者は、蘭君は優作君の実の娘だと信じているし。ワシも、気をつける事にするよ」
「よろしくお願いします」


警察でも「若い世代」の佐藤刑事は、蘭に自販機の紙コップ紅茶を差し出しながら、言った。

「あなた達って、ホント、仲の良い兄妹よね」
「そ、そうですか?」
「ええ。高校生ともなれば、普通、あんまり一緒にいる事って、ないと思うの」
「……そうかも。早く、兄離れしないといけないって、思ってるんですけど……」
「え?何で?仲が良いって、悪い事じゃないでしょ?無理に仲悪くなる必要なんて、ないと思うんだけどなあ」
「で、でも。わたしがあんまり新一にべったりしてると、新一、恋人も出来なそうで……」
「何何、女同士の秘密の会談かい?」

佐藤刑事と蘭の話に割り込んで来たのは、高木刑事だった。
「高木君。何しに来たのよ」
「いや、僕も、喉が渇いたんで……でなに、工藤君ってもてそうなのに、恋人が出来ないって?」
「あ、いえ。多分、わたしがいつも新一と一緒にいるんで……」

高木刑事と佐藤刑事の気さくな人柄の所為か。
蘭は、園子にも言えなかった、中庭で聞いてしまった会話を、2人に話していた。

2人は、蘭の話を聞いた後、「うーん」と少し考え込んでいた。

「ねえ、蘭ちゃん」

高木刑事が口を開く。

「兄離れをしようと思うのは、工藤君の為だって、言うけどさ。それって、肝心の工藤君の意思を無視した、失礼な話だと、僕は思うよ」
「えっ!?」
「工藤君本人が、蘭ちゃんの事を鬱陶しく思って邪険にしている訳じゃ、ないんだろう?」
「うんうん、その通りよね、工藤君、本当に妹思いで大切にしてるなあって、思うわ」
「で、でも!それは、新一が優しいから……!」
「優しい、ねえ」

佐藤刑事が、溜息をついた。

「蘭ちゃん。あなたって、工藤君に近過ぎて、逆に分かってないようだけど。工藤君って、そんな優しい男じゃないわよ」
「えっ!?」

佐藤刑事の思いがけない言葉に、蘭は目を丸くした。

「彼、人間としての優しさは、勿論、あると思う。態度もフェミニストだし、他人への配慮もある。でも、女の人への態度って……人当たりは良いけど、一線を越えて近付こうとする相手には、何と言うか、シャットアウトしてしまう、そういう雰囲気が、あるのよね」
「そ……そうですか……?」
「そうよ。彼、婦人警官とかに騒がれると、とても丁寧に紳士的に対応してるんだけど、相手に関心がないからできる外面の演技ってのが、すごくよく分かっちゃう」
「……」
「彼が、人間関係で、もし何か我慢したりする事があるとしたら、それは、それだけ、大切な相手だからよ。蘭ちゃんに対しての彼の優しさは、義務感とかじゃなく、蘭ちゃんの事が本当に大切だからだって、私は思う」
「佐藤刑事……」
「うん。それは、僕も感じてる。彼が本当に恋をしたら、蘭ちゃんに遠慮なんかせず、恋した相手に向かって行くだろう。今迄、そういう風にした相手がいないのは、単に、彼にとって、蘭ちゃんより大切に思う女性との巡り合いがなかっただけだって、思うよ」
「兄弟って、いつか自然と離れて行く事もあるだろうけど。今、無理に、蘭ちゃんが『兄離れ』しようとしなくても、良いんじゃないかしら?」
「はい……ありがとうございます」


さすがに蘭も、高木刑事と佐藤刑事に、新一と本当は血の繋がりがない事、蘭が新一へ恋愛感情を持っている事までは、言えなかったけれど。
新一は基本的に「ワガママ」で、本気で好きな女性が出来たら、蘭に「遠慮」なんかしないだろうという事は、素直に信じられたので。
新一への「負い目」は、かなり消えて、随分、心軽くなった。


「蘭」
「新一」
「そろそろ、帰ろっか」
「うん!」
「飯、食ってくか?それとも……時間遅いけど、明日は日曜だし、今からでも映画を見に行くか?」
「うーん……お腹空いたけど、映画も見たい……ただ、先にご飯食べちゃったら、映画、見られなくなるね……」
「ああ。オレ達は18歳未満だからな。22時過ぎにかかる回は、見られねえし」

2人して、ちょっと考え込む。
それを、微笑ましく見詰めながら、佐藤刑事が助け船を出す。

「じゃあさ、小腹を収める程度の食料を買い込んで、映画を見たら?で、終わった後、ご飯」
「あ、イイですね、それ。じゃ、蘭、行くぞ」
「僕がパトカーで映画館まで送って行くよ。今から移動したんじゃ、時間、食うだろう?」
「高木君より、私が運転した方が良いんじゃない?」
「いや、それはちょっと……」

高木刑事も佐藤刑事も、運転テクはあるが、佐藤刑事の場合、恐ろしい思いをしかねない事は、今迄の経験で分かっていたので、新一は丁重に「お断り」をする。
結局、高木刑事が運転し、助手席に佐藤刑事、後部座席に新一と蘭という形で、映画館まで送られる事になった。

新一と蘭が車から降りた後。
蘭が手近なコンビニに入っている間に、佐藤刑事が新一に、先程の蘭との会話を告げる。

「そんな事が……」

新一は、驚いた顔をして頷いていた。

「あいつ、だから……」
「工藤君?」
「いや。色々、ありがとうございました」

新一が笑顔で言って、手を上げ、蘭が入って行ったコンビニへと足を向けた。
店のガラス越しに、店内にいた蘭が、笑顔で、新一の腕に自分の腕をからめる姿が見えた。
お互いを見詰める表情が、それこそ、とろけそうで。
新一が蘭を見詰める眼差しは、佐藤刑事が一度も見た事がない優しいもので。

佐藤刑事は、少し奇異な想いに、とらわれる。

「兄妹、なのよね、あの二人」
「は?佐藤さん、今更、何を言ってんですか?」
「ちょっとこう……頭の中に、引っ掛かっている事があって……」
「佐藤さん?」
「何だったかなあ。昔、私が子供の頃、お父さんに聞いた話があったのよね。思い出しそうで、思い出せない」


佐藤美和子が子供の頃、刑事である父から聞かされた話は、工藤兄妹にどこか関わりがある話だった筈だと、思うのだけれど。
どうしても思い出せずに、首を横に振っていた。




(5)に続く


+++++++++++++++



どんなパラレル設定でも、絶対に、蘭ちゃんの唇も肌も、新一君以外の男に触れさせる事は、ありません。
それは、青子ちゃんでも他の誰かでも、一緒です。
その手の事では、女の方が傷付き易いですからね。

男性陣は、そこまで厳密には、やりません。
基本、そういう事で傷つくケースが少ないからです。

ただまあ、私なりの拘りがあって、新一君の場合は、蘭ちゃんと出会う前でも童貞、っていうケースが多いです。
快斗君は、青子ちゃんと出会う前だと、それなりに経験している事が多いです。
それは、キャラの違いです。

2013年2月22日脱稿

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