血よりも深く



byドミ



(10)新しい絆



蘭は、新一の返事を待つ事なく、以前ずっとそうやっていたように、部屋に入って来ると、新一のベッドにもぐり込んで来た。
蘭は無邪気に、信頼溢れる眼差しで新一を見る。
新一は、ほぼ諦めの境地で、立って部屋の明かりを消すと、ベッドに戻り、蘭の隣に身を横たえた。
蘭は新一に甘えるようにすり寄って来る。

「えへへ。久しぶりだね」
「……ああ、そうだな……」

邪気なく笑う蘭に、新一は頭をかきむしりたくなった。
世界一愛しく大切なこの少女は、どこまで鈍感で残酷なのだろうと思う。
2人の仲が「兄妹」だった頃ならいざ知らず、一応は「恋人同士」と自覚がある筈なのに。

高梨の件で痛い経験をして、「男には欲望がある」と学んだのだから、分かっても良さそうなものだと、新一は恨みがましく思っていた。

そこまで考えて、新一は、はたと思い当たった。
蘭は、新一と想いを通じ合わせた今も、幼い頃からの歴史が邪魔をして、新一が抱える蘭への「欲望」には気付いていないのかもしれない。

蘭は、人の気も知らぬ気に、新一にすり寄って来る。
新一は、蘭を抱き込みながら、眠れない夜を過ごすのだろうと覚悟した。


「オメーさ。さっきの文句を言いに来たのかと思った」
「さっきって……?」
「だから、お風呂で……」

一瞬、蘭の身が強張る。
これは、地雷を踏んでしまったかと、新一は慌てた。
けれど、蘭の強張りは一瞬で、蘭は新一の肩に甘えるように頭をすり寄せて、言った。

「だって……わざとじゃないでしょ?」
「そりゃ、そうだけどよ。大体、オメー、風呂はもう終わってたんじゃねえのか?」
「だって……もう一度、温まりたかっんだもん。新一だって、お風呂はもう終わった筈だったでしょ」
「オレはまあ……その……頭を冷やしたかったというか……」
「こんな寒い夜なのに?」
「……どうでもいいだろ。それよりオメー、オレに……見られて平気なのかよ?」

自分でも矛盾した事を言っている自覚はあったが、新一は思わず、蘭に問いかけていた。

「平気じゃないよ。でも、新一は、わたしがもうお風呂終わってると思って入ろうとしたんだから、仕方がないでしょ」
「だからってなあ」
「すごく恥ずかしかった。でも、新一だったから……だから……」
「蘭……?」

その後、蘭が暫く何も言わなかったので、もう眠ったのかと新一は思う。

蘭は一旦寝入ったら、滅多な事では目を覚まさない。
新一の方は、眠れそうにないが……諦めるしかないだろうと、思った。

ふっと、新一の頭を、邪な思いがよぎる。
蘭は、どこまで、目を覚まさないのだろう?
一旦寝入ると目覚めない蘭だが、蘭の肌を暴き、体中に手で触れ、口付けても、それでも、目覚めないだろうか?
さすがに、新一のモノを蘭の中に突き立てても目覚めないなんて事はないだろうが……。

そこまで考えて、自身の内に膨れ上がった凶暴な思いに、新一は戦慄する。

ずっと、大事にしてきたのだ。
誰よりも愛しく、自分の命より大切な少女。
どんなに、蘭が欲しいと思っても、蘭の意思に反して、蘭の意識がない時に、無体な事をする訳には行かない。

口付けだけなら、幾度も交わしているから、蘭の意識がない時にやっても許されるだろう。
そう考えて、新一は蘭の甘く柔らかな唇に自分のそれを重ねた。

そのまま、蘭の首筋に唇を滑らせ、蘭の胸を揉みほぐしたくなる衝動を、ねじ伏せる。
そして、目を閉じた蘭の上で、独りごちた。

「蘭……オメーは、解ってねえだろうなあ。オレの抱える煩悩を……」

苦笑しながら、蘭の頬に優しく手を滑らせた。

「わかってないのは、新一の方だよ」

眠っているものとばかり思っていた蘭が突然目を開けて言ったので、新一は飛び上がらんばかりに驚いた。

「ら、蘭!?オメーまだ、寝てなかったのか!?」
「新一、前に言ったよね?高校生の男だったら、付き合ったら絶対、体を求めて来る。それに耐えられないようなら、付き合うなって」

新一は、うっと言葉に詰まる。

「わたし、ちゃんと、わかってるよ。今夜ここに来た時も、もう前とは関係が違うんだから、ちゃんと……覚悟、してたよ?だって……だって、わたし……新一になら、何されても良いんだもん」

今度は、新一が強張る番だった。
動悸が激しくなる。
新一は、少し体を起こして、蘭の顔を覗き込んだ。

部屋は暗く、蘭の表情はよく分からない。
新一は、枕元のスタンドを点けた。
蘭が、潤んだ目で、新一を見上げる。

「蘭……本当に、何されてもいい?」
「……うん。いいよ」
「じゃあ……抱いても、いいか?」

蘭は、目を大きく見開いた後、かすかに、けれどしっかりと、頷いた。



   ☆☆☆



「ん!んんっ……んっ……」

新一の左手は、蘭の腰を深く抱き込み、右手は蘭の頭の後ろを抱えるように回されていた。
唇が深く隙間なく密着し、新一の舌は蘭の口内を蹂躙する。
2人の荒い息遣いと、新一が蘭の口内を侵す時の僅かな水音が、響く。

蘭の後頭部を抱えていた新一の手が前の方に回り、服越しに蘭の胸にあてられた。
そして、やわやわと動き始める。
蘭は、唇を新一に塞がれたままで、くぐもった声を上げる。

「んんっ!」

布地越しに、蘭の胸の頂が固く立ち上がるのを、新一は感じていた。
勿論、新一のモノは既に固く勃ちあがり、布地越しだが、蘭の下腹部に押し付けている。
新一はもう、蘭に対しての自身の欲望を隠そうとはしなかった。

蘭のパジャマのボタンを、一つずつ外していき、あわせを広げた。
蘭の唇を解放し、少し体を起こして、蘭の露わになった上半身を見詰める。


蘭は、目を固く閉じ、震えていた。
覚悟は決めて来たと言ったが、やっぱり怖くはあるのだろう。

「蘭……」

新一が、蘭の胸に直に触れると、蘭の身はビクンとはねた。

「愛して、いるよ……」
「新一……」

蘭が、目を開けて新一を見る。

「オレ達に、血の繋がりはねえけど……その代り、こうやって、一つになる事ができる……」
「し、新一……」

蘭の頬が染まる。
新一が蘭の上に屈み込み、蘭の胸の飾りを口に含み、唇と舌先で転がすように愛撫した。

「はあん!」

強い刺激に、蘭の背がしなり、声が上がる。
もう片方の乳首は手で愛撫しながら、新一の片手は蘭のパジャマのズボンを脱がしにかかっていた。

蘭が身につけているのは、秘められた場所を覆う布きれだけになる。
そこはしっとりと湿り気を帯びていて、芳香が立ち上り始めていた。

新一は、最後の布を取り去ると、蘭の生まれたままの姿を、感動しながら見つめていた。
先ほど、風呂場では、思いがけない事故だった為、慌ててドアを閉じたが。
今は、蘭の全てを見る事が、許されているのだ。

「蘭、すごく綺麗だ……」
「し、新一……」
「本当に、オメーが、オレのものになってくれんだな……」

新一は、自らの身につけているものを全て脱ぎ捨てると、蘭の上に重なった。
そして、ぎゅっと抱きしめる。

「蘭……夢みたいだ……」
「新一……?」
「ずっと……こうなる事を、夢見てた……」
「うん。わたしも……」

新一は驚いて、マジマジと蘭を見詰めた。
今更だが、女である蘭の方も、そういう事を望んでいるとは、想像した事もなかったのだ。

血は繋がっていなくても、兄と妹という認識が、お互いを縛っていた。
お互いの気持ちを知った今は、それが、取り除かれたのだ。


今すぐ、蘭の中に入ってしまいたいのは山々だったが、まだ男を受け容れた事のない蘭の中に入るのは、手順を踏む事が必要だと、新一は考えていた。
はやる気持ちを抑えて、蘭の全身に口付け、手で触れ、愛撫を施して行く。
蘭の体のあちこち(ただし表から見えない部分)にいくつもの赤い花が咲き、蘭の肌は上気し桃色に色づく。
蘭の口から、甘い吐息が漏れる。
まだ男性を受け入れたことのない蘭の秘められた場所からは、蜜が滴り落ち始めた。


「あ……ん……はあ……新一……ぃ」
「蘭……蘭……オレの……蘭……」

充分、愛撫をした積りだが、それでも、最初の時はスムーズに行く自信はないし、何より、蘭は痛がるだろう。
しかしもう、これ以上、待てそうになかった。

新一は、ベッドサイドテーブルの引き出しから、避妊具を取り出すと、装着した。
何度も練習したはずなのに、手が震えてなかなか上手く行かない。
ようやく装着し終えて、蘭に向き直る。

「蘭。そろそろ、良いか?」

蘭が、目を固く閉じたまま、頷く。
新一は、蘭の両足を抱え上げると、自身の猛ったモノを蘭の入り口にあてがい、一気に挿入しようとした。

「う……く……痛ぁ……っ」
「くうっ……蘭……っ」

充分に蜜を溢れさせているものの、生まれて初めて男性を受け容れる蘭のそこは狭く、なかなか入っていかない。
新一は、蘭の緊張を何とかほぐそうと、蘭の胸を愛撫したり、いろいろ試みるが、なかなか上手く行かない。
何しろ、新一にもこの行為は初めての事なのだ。

2人とも必死になり、汗だくになる。

それでも、ようやく、新一のモノが少しずつ、蘭の中に納まり始めた。


「あ……ああっ!」

蘭が悲鳴を上げ、新一のモノはある一点を超えた所でようやくスルリと中に入り込んだ。

「蘭……大丈夫か……?」

新一が、荒い息をつきながら、問う。

「しんいち……」

蘭は、涙目で新一を見上げた。

「オレ達……結ばれたんだよ。わかるか、蘭?」
「し、新一……わたし……」

蘭の眦から涙が溢れて流れ落ち、新一は唇でそれを吸い取った。

「蘭とオレ……今、繋がって、ひとつになってるんだ……」
「うん……嬉しい……」

苦痛を堪えて微笑む蘭が、一層愛おしくて、新一は蘭の唇に自分のそれを重ねる。

血の繋がりがないからこそ、こうやって体を重ね合せて一つになる事が、できたのだ。

「蘭。オレ、お前と血が繋がってなくて、良かったって……思うよ……」
「新一……」
「愛してる、愛してる!ぜってー、一生、離さない!」
「うん、離さないで……新一……」

2人は、ひとつになったまま、深い口付けを交わし合う。

「本当は、膜越しじゃなく、お前に直接触れたいけど……」
「……うん……」
「今すぐ子どもができたんじゃ、色々と大変だからな」
「うん……」
「その代り。高校を卒業したら、もう遠慮しねえ。直に入って、お前の中にたっぷり注いでやるよ」
「な……!?」
「動くぞ、蘭」
「あ、え……?」

新一は、腰を動かし始めた。
蘭が苦痛の声をあげる。

けれど、幾度も蘭の奥を突き上げている内に、蘭の表情も声も、苦痛を堪えるものから、艶があるものに変化して行った。

「あ……あん……んあん……」
「蘭……蘭……っ!」

荒い息遣いと、隠微な水音と、嬌声と、ベッドが軋む音とが響く。
やがて、蘭が背を反らせ甘い悲鳴を上げるのと同時に、新一は膜越しに熱いものを放った。



新一が蘭の中から己を引き抜くと、蘭のその場所から、赤いものが流れ落ちた。

「蘭……痛い思いさせて、ごめん……」
「ううん。新一だから、嬉しい」
「蘭……」

新一は、蘭にもう一度深く口付けると、洗面所に行ってタオルをお湯で濡らして戻って来て、蘭の汚れを丁寧に拭い取った。

「し、新一……そんな事、しなくて、良いよ……」
「こんなに、血が流れ出ている……」
「そ、それは……だって……」
「蘭。蘭が流したこの血が、蘭とオレとの絆、なんだな……」

新一が感慨深げに言った。
蘭にも、何となく、新一の言わんとする事が分かる気がした。
新一と蘭を結ぶものは、血の繋がりではなく、お互いを想う気持ちだけであったが。
今日、新一と蘭とは、ひとつになり結ばれた。
血の繋がりとは異なる絆が、できたのだ。


蘭を綺麗にしてあげた後、新一は、蘭を抱き込んで横になった。

「蘭」
「なあに、新一?」
「オレが18歳になったらさ……籍を入れよう」
「え……?」

蘭は目を見開いた。
新一は、蘭の上に圧し掛かるようにしながら、その目を覗いて、言った。

「オメーは、名実ともに、工藤蘭になんだよ」
「し、新一……」
「……それとも、毛利の名の方が良いか?」

蘭は、首を横に振った。自分の戸籍上の姓が毛利である事は知っているが、正直、実感がない。

「そんなんじゃないけど……新一……わたしを、お嫁さんにしてくれるの?」
「ん?結婚なら、たった今、したじゃねえか。法的手続きはオレが18にならないとできねえけど」
「新一……」

蘭は、目を見開いた。

「ずっと、蘭と、こうしたかった……ずっと……蘭を、お嫁さんにしたかった……」
「うん……わたしも……」

蘭の頬を涙が流れ落ちる。

「わたしも……新一のお嫁さんに……なりたかった……ずっと……」
「もう、それは、夢じゃねえんだよ。オレ達、夫婦になるんだ」
「うん!」

蘭が、輝くような笑顔で言った。
幸せだった。


蘭と想いを通じ合わせ、そして、体も結ばれひとつになり。
新一の生みの親で蘭の育ての親でもある工藤夫妻は、2人を温かく見守ってくれる。

もう、何も問題はないと、2人は思っていた。

けれど、新たな試練が、2人には待ち構えていたのだった。



(11)に続く


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ようやく結ばれた2人。

その2人を待ち構える、新たな試練とは?

あの人とあの人が「死亡」ではなく「行方不明」であったことと、大いに関係あります。
もちろん、彼らとて、蘭ちゃんの幸せを心の底から望んでいるのですが、まあ何と言いますか、新一君のことを手放しで信頼できないという……。

でも、それで残り10話にもわたったりはしません。しないはず。
できる限り早く、次話以降をお届けしたいと思います。

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