Better Development



byドミ



(7)



新一が、わたしに入ったまま、動き始めた。
最初は緩やかに、段々動きが激しくなって来る。

「あ・・・んあんはん・・・ああっんああっ・・・しん・・・いちぃ・・・」
「くうっ・・・うお・・・はあっ・・・蘭・・・蘭っ!・・・」

2人の繋がったところからは、隠微な水音が響いている。
わたしは、全身を突き抜ける快感に、訳が分からなくなり、必死で新一にしがみついて耐えた。


「あっ・・・はあああっ!・・・んあああああっ・・・はああん!」
「くうううっ・・・!蘭っ!」

わたしの頭の中が白くはじけ、新一にしがみ付きながら仰け反って果てると。
新一も、わたしの奥深くに入り込んだまま動きを止め、新一のものが脈動した。
今迄、直接わたしの中に放たれる事がなかった、新一の熱が、わたしの奥深くに、注がれたのだった。


いつもだったら、避妊効果がなくなるから、余韻を楽しむ余裕もなく、新一はわたしの中から出るのだけど。
今回は、放った後も新一は、わたしの中に留まったまま、抱き締めて来た。


「仕込みは終わり。男かな、女かな?」
「もう!気が早いわよ、バカッ!」

おどけた調子で言った新一だけど、あながち冗談でもないのだろう。
わたしだって勿論、可能性がある事位、分かっているけど。
周期的に多分、今回、出来てはないだろうと思う。

勿論、もし授かったらその時は、絶対に産むつもりだけどね。


ようやく、新一がわたしの中から出ると。

「あっ!」

わたしの奥に注がれたものが、入口から溢れ出て。
その慣れない感覚に、わたしは身震いした。

新一が、ティッシュを取って、わたしのそこを丁寧に拭ってくれる。

「し、新一!そんな事、自分でやるからっ!」

わたしは死ぬほど恥ずかしくなって、そう言った。

「イイから、イイからvv」

新一は嬉々としてその作業を続ける。
な、何が「イイから」よ!
新一って、デリカシーってもんが全然ないんだから、もう、信じらんない!

わたしが、むくれていると。
新一は、わたしの頬を両手で挟み、コツンと額を合わせて来た。
その眼差しの優しさに、吸い寄せられる。

「蘭」
「なに?」
「結婚、しよう」

思いがけない言葉に、わたしは目をパチクリさせた。


その時のわたしの気持ちって・・・どう言ったら良いんだろう?

思いがけないプロポーズ。
嬉しかったんだけど・・・。

でも。
2人ともマッパで。
ベッドの上で。

睦言の一環みたいに囁かれたプロポーズじゃ、素直に「嬉しい」と受け止められる筈もなかった。


それに、何て言うか・・・これって、「妊娠させた責任とって」の申し込みみたいじゃない。
実際、その時のわたしには、新一が「中出しして、妊娠させてしまったかもしれない責任」を取る積りなんだとしか、思えなかったの。

思わず、わたしは新一の頬を叩いていた。
あ・・・平手で思いっきりじゃなくて、軽くよ、軽く。
目からは、涙が零れ落ちる。

「ら、蘭?」

叩いたのは、ごく軽くだったんだけど。
新一は、目を見開いて、すごく傷ついた顔をしていた。
それに、心痛まないでもなかったけど、でもでも、やっぱり、あんまりじゃない!?

「す、少しは・・・シチュエーション位、考えたらどうなの?」
「蘭・・・」
「こ、こんなの!ムードのかけらも、ないじゃない!」


新一は、ひとつ息をつくと。
わたしの上からどいて、ベッドの端に腰掛け、服を身につけ始めた。

わたしはタオルケットをかき寄せて巻きつけながら、身を起こした。

「し、新一!?」
「・・・帰る」

新一が向こうを向いたまま、言ったので。
わたしは、衝撃に息を呑んだ。
そして、思わず、新一の背中に縋り付いていた。


「やだ。帰らないで!」
「ら、蘭!?」

新一が振り返り、しがみ付いているわたしの肩に手を当てて引きはがし、強引に顔を上げさせられた。
わたしは、新一と向かい合う格好になった。

新一の目には、怒りの色は全くなく・・・ただ、戸惑っている風だった。

わたしの目からは、新一を困らせるだけだと分かっていても、涙がポロポロ零れ落ちてしまった。
わたしはいつから、こんな風に弱くなってしまったんだろう?

「ご、ごめんなさい・・・新一・・・怒らないで・・・」
「や、あの・・・別に怒ってねえし・・・蘭が謝るような事、何にもねえからよ・・・」

新一が、困ったように・・・優しい声で、言った。

「だ、だって・・・帰るって・・・」
「あ、いや、あの、それは・・・。このまま、ここにいたら、もう1ラウンド行きたくなっちまうしさ。そしたら、まじい事になっちまうかもしれねえだろ?」

わたしが、それに答えるより前に。
窓を、明るい光が照らした。

夏至が近いこの時期、日の出は早い。
もう、朝になってたんだ。

「おっちゃんが、いつ帰って来っか、分かんねえだろ?だから・・・」
「新一・・・」

新一が、ふっと微笑み、わたしの額に、自分の額をこつんと当てた。

「んな顔すんなって。出直してくっからよ」

そう言って、新一は、わたしの唇に軽いキスを落とすと、部屋を出て行った。
わたしは窓から、新一が家の前に止めていた車に乗って帰って行くのを、いつまでも見送っていた。


   ☆☆☆


けれど、それからまた。
新一とは会えない日が続いた。

わたしが待ち望んでいた言葉を、新一はくれたのに。
どうしてわたし、あの時、素直に「うん」って言えなかったんだろう?


今回、会えない期間は長くて。
以前のように、不安になったり新一の気持ちを疑ったりなんかはしないけど、寂しいとは感じていた。

新一からは、メールも電話もある。
でもさすがに、メールや電話では、突っ込んだ話は出来なくて。
他愛もないやり取りになる。


そうこうしている内に、大学は、前期試験の時期になった。
新一もわたしも、試験に真剣に取り組んでいるので、ますます会えなくなった。



「蘭?どうしたの?このところ、上の空だね」
「あ・・・園子・・・うん、試験で疲れたかな?」
「でも、それももう少しじゃない」
「うん・・・」


今日の試験が終わった段階で。
わたしは、園子達と、学内のカフェテリアで食事をしていた。


「蘭。でも、試験の事だけじゃないでしょ?新一君と何があったのよ?さあ、吐いてしまいなさい」
「え?ええ!?」

長い付き合いの園子は、わたしの微妙な変化に目ざとい。
それにしても、今のわたしの悩みが新一の事だって、どうして分かっちゃうかな?

それを言うと、園子はふふんと鼻で笑った。


「わたしがどんだけ、あんた達に付き合ってると思うのよ?蘭は、前回までは、試験中だからってこんなに上の空にはなんなかったし。それに、少し前までは、新一がどうしたああしたって、煩かったのに、最近、新一君の話題がパッタリ途絶えてるもん」

うえ。
自分では全然気付いてなかったよ〜。
やっぱ、園子には見抜かれてるな〜。


「へええ、確かに、そう言われれば、蘭は最近、工藤君の話題、自分から振らないよね」
「すごーい、園子〜、さっすがあ」

真紀と明日菜が、感心して園子を見ている。


「で?蘭、何があったのよ?」
「ええっと・・・何かあったって訳じゃ・・・ただ最近、お互い忙しくてすれ違いが多いから・・・色々と・・・」

わたしは何となく言葉を濁す。
だって、別に誤魔化す積りなんじゃないけど、自分でも何をどう説明したものか、よく分からないんだもん。


「全然、会えないの?」
「あ、ううん・・・大抵、週に1辺位は・・・」
「まあ、高校の頃とは違うからねえ。大学が別だと、なかなか会えないよね」
「うん・・・」
「でも、あの蘭一筋の新一君だから、浮気の心配はないでしょ?」
「うん、多分・・・」
「何よ〜、歯切れ悪いわね〜」


あの日以来、新一からは、短くても毎日必ずメールがある。
しかも、必ず最後に「蘭、愛してるよv」と締め括られる。

最初は、気恥しくも嬉しかったけど、こうも毎日書かれると、愛という言葉がすごく軽く感じられてしまう。

ああ、わたしって、何て贅沢なんだろう?
言葉がなけりゃないで不安になるクセに、あり過ぎると今度は「軽くて有難味がない」なんて。


何かわたしって・・・新一が愛してくれている事に慣れ過ぎちゃって、色々な事が見えなくなってるのかな?



「えっと・・・あのね・・・この前・・・避妊しなかったの・・・」

わたしが俯いて言うと、園子含め一同ブーッと、飲んでいるものを噴き出した。


「蘭。ちょっとは言葉出すタイミングってもんを考えてよね」

園子が、自分のハンカチでテーブルを拭きながら、呆れ顔で言った。

「ごめん・・・」
「で?子供出来てしまったかもって心配?だったら、すぐにも籍入れりゃ良いじゃん。まさか、新一君が逃げるって事はないよね?」
「う、うん・・・結婚しようって言われた・・・」

今度は、真紀と明日菜が、盛大にむせた。


「だったら、何が問題なのよ?まさか、蘭、返事しなかったの?」
「だ、だって!いきなりだったし、ベッドの中でのプロポーズなんて!」

今度は、園子達が真っ赤になってそれぞれあさっての方を向いた。


「蘭と長い付き合いのわたしでも、さすがに今日は色々驚かされるわね。で?返事出来てないまま会えてないのが、悩みな訳?」
「うん・・・多分・・・自分でもよく分からなくて・・・」
「蘭本人が分かってないものは、わたしにもさすがに分からないよ」
「あ、あのね・・・その・・・実はあの後、すぐに始まっちゃったから、子供の線はなし、なんだけど。新一はその、責任取ろうって考えて、プロポーズしたんだと思うし」


ああ。
そうだ、わたしが引っ掛かっていたのは、それ。


新一がわたしを想ってくれている事は、今は全く疑っていないけれど。
だからと言って、今の時点で結婚なんて考えてなかっただろうと思う。

何だか、新一に「責任取らせてプロポーズさせた」ような気がして。
だからわたし、モヤモヤしてたんだ。


園子が、わたしを真っ直ぐ見て、ニカッと笑って言った。


「蘭。『責任取る』で、全然イイじゃん。わたしはそれだって、立派な愛の形だって思うよ」
「責任取るってのも、愛の形のひとつ・・・?」


わたしの頭にかかっていた霧が、急に、綺麗に晴れたような気がした。



「でもさ。新一君の場合って」

園子が、顎に手を当てて考え込む風にしながら、更に言葉を継いだ。

「むしろ、計算してわざと仕込んでおいて、『責任取る』って形で蘭を手に入れそうじゃない?」
「ええっ!?まさか!」


わたしは笑って手を左右に振った。


「へえ。園子、工藤君って、そういう人なの?」

真紀が目を輝かせ、身を乗り出して訊いて来た。

「うん。わたしは、策略家のあ奴なら、その位やりかねないって思うわね」
「へええ。でも、そこまでするって事は、それだけ蘭が愛されてるって事よね」

今度は、明日菜が身を乗り出して話を振る。

「だからあ。新一君は、ずっとずっと、涙ぐましいほど蘭の事を想ってるんだって。昔っから、それに気付いてないのは、当の本人位だったわ」

園子が、キッパリとした口調で言った。
ああ、もう。


「そ、園子。そんな訳、ないでしょ?わたし達まだ学生だし、新一にだって、まだ結婚願望なんかないだろうし」
「蘭。分かってないわね。わたしだって、新一君に、普通の結婚願望なんか、ないと思うわよ。でも、『蘭との結婚願望』だったら、あると思う」


確信を持って告げる園子の言葉に、真紀と明日菜は、大きく頷いていた。
こりゃもう駄目だと、わたしは天を仰いだ。


でも。
結局、分かっていなかったのは、わたしの方だった。
わたしがそれを知るのは、もうちょっと先の事になる。


今回は、大学の前期試験があったのと、諸々のすれ違いの所為で。
新一と会えない期間がいつもより更に長くなってしまい、あの「避妊せずにエッチとプロポーズ」があってから、ひと月ほどが経ってしまっていた。



でも、やっと、試験から解放され、大学が夏季休暇に入る。
夏季休暇明けには、わたし達は教養部から専門部に進学だから。園子達と会う機会は、ますます減っちゃうだろう事が、悲しいけど。

試験最終日に、新一から電話があった。


『蘭。明日、会えねえか?』
「うん。今のところ、予定はないよ」
『じゃあ、その・・・出かける格好をして、家で待っててくんねえかな?朝10時頃に、オレ、迎えに行くからさ』
「出かける格好?どこに行くの?」
『あ、え、えっとそれは・・・内緒って言うか・・・少し改まった格好してて欲しいかな』
「うん、分かった」

実は、帝丹大学では前期試験が終わっているけれど、新一のいる東都大では、まだ全部終わっていない筈。
だから、新一の方は、夏休みになってない筈なんだけど。

「オレはもう、1年でほぼ教養学部の単位は取っちまってるからさ。後残すは2科目だけで、それも来週末だから」

と、新一は笑っていた。
忙しい筈なのに、新一、そういうとこは、抜け目ない。

わたしも新一も、夏季休暇明けには専門部に進学する。
お互い文化系だから、理数系ほどカリキュラムは厳しくない・・・と言っても、遊んでいられる程甘くはない。

新一の通う東都大学は、教養学部は駒場にあるが、法学部は本郷にある。
わたしの通う帝丹大学からは、更に遠くなる。

多分・・・夏季休暇が明けたら、また、あんまり会えない日が続くんだろうな。


でも。
明日は久し振りに新一に会える。
わたしの胸は弾んだ。

それにしても、新一が「少し改まった格好」を望むなんて、珍しいな。
わたしは、タンスから服を引っ張り出して、あれこれ悩んだ挙句。
1番似合うと思った、赤いドレスを選んだ。



朝、朝食の片付けが終わった後、薄化粧してドレスを着ているわたしを見て、お父さんは不機嫌そうな顔になった。


「オメー、んなお洒落して、今日はどうすんだ?」
「試験が終わったから、今日は新一と、デート」
「まだ、性懲りもなくあの探偵坊主と付き合ってんのか?」


お父さんは、相変わらず、新一とわたしとのお付き合いにイイ顔をしない。
でも、多分、相手が新一じゃなくても他の誰でも、そうなんだろうと思う。

いつもの憎まれ口なので、わたしは適当に聞き流して置いた。
そして、お父さんは事務所の方へ出かけて行く。



10時きっかりに、呼び鈴が鳴って。
わたしは勇んで玄関を開け。

そして、唖然となった。



(8)最終回に続く

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