Better Development



byドミ



(6)



新一の言葉を聞いて、わたしは混乱していた。
意味がよく、分からなかった。

新一の言葉を胸の中で反芻する。


『本当はオメーが、セックスは好きじゃねえんだって、全然気付いてなかった』

あ、あの。
ちょっと待ってよ。
何をどう解釈したら、そういう事になる訳?


わたしは、その、決して、ええと・・・そういうコトが、嫌いなんじゃない。
そ、そりゃ、「相手が新一であれば」って、注釈は付くけど。


「あ、あのね。新一。わたしその、別に、新一とのエッチが嫌だって訳じゃ・・・」
「ごめん。無理、しなくて良いから。今迄、オメーに無理させてたんだろ?気付かなくて、ごめんな」
「だ、だから。無理してた訳じゃなくて!」
「オメーの優しさに甘えちまって。ホント、悪かったって思ってるよ」

あんまり話が噛み合わないので、わたしは段々ムカムカしてきた。
思わず、ちゃぶ台をドンと叩く。


ピシ。

あ、ちゃぶ台にヒビが。
また、買い直さなきゃ。
空手が上達したのは良いけど、時々壁や備品を壊してしまう事があるのが、目下の頭痛の種だ。


けれど、さすがに新一は黙った。
これで新一に嫌われたらどうしようと、少し後悔しながら、わたしは言った。

「あのね。わたしの話、ちゃんと聞いて?」
「はい」

うううう。
本当に、嫌われたらどうしよう。

新一は、背筋を正し、真っ直ぐわたしを見て座っている。
話を聞けって強制したんだから、ちゃんと話さなきゃ。
でも、何をどう言ったら良いんだろう?


「あのね。とりあえず、その・・・わたし・・・本当に、嫌なんじゃないよ」
「でも、オメー・・・」
「でもじゃないの!だから、そこは、とりあえず、嫌じゃないんだって事、納得してくれる?」

新一は、よく分からないといった顔で、頷いた。

「じゃあ、あの、セフレとか何とかオメーが言ってたあれって・・・」

うー。
やっぱり、わたしの言いたい事って、全然伝わってなかったのね。

「あの、だから、そのね。デートを、したかったの」
「は?」

新一の目が点になった。
わたしの言葉は、そんなに、意外だったのだろうか?

「その、けして・・・え、エッチが嫌なんじゃ、ないのよ?でも、ずっと、デートしてなかった、から・・・」
「オメー・・・別にさして見たくもなさそうな映画に行こうって言ったのは、それで?」
「う、うん・・・。って言うか、新一。分かってなかったなら、どうして、蛍見に連れてってくれた訳?」
「あ、いや、その。オメーに会いたいけど、エッチは嫌なんだろうって思ったし。去年、オメーがテレビの番組で蛍見ながら、綺麗だろうなあ、沢山飛び回ってる蛍、見に行きたいなって言ってたの、思いだして・・・」

今度は、わたしが目を丸くする番だった。
新一は、私が何を望んでいたのか、正確に分かっていた訳ではなかった。
けれど、「わたしが喜びそうなもの」を、僅かな手がかりから必死で考えて、蛍を見に連れて行ってくれたんだ。


わたしの目から、ぶわっと涙が溢れた。

「ど、どうした、蘭!?」

新一が焦っている。
ごめん、新一、ごめん。
わたし、すぐ泣いちゃって。

「ごめんね、新一、違うの。嬉しくて・・・新一が、わたしの為に一所懸命頑張ってくれたんだなって、それが嬉しくて・・・涙が出ただけ、だから・・・」
「お、おどかすなよ・・・」
「新一・・・バカね・・・わたしなんかの事、こんなに甘やかして・・・わたし、どんどん、ワガママで嫌な女になっちゃうよ?」
「ならねえよ。オメーは、嫌な女なんかに、ぜってーならねえ。オレが保証すっからよ、心配すんな!」

ば、バカッ!
そんな事、言われたら、涙止まらないじゃないの!
それでも、わたしは頑張って、涙を拭いて、気持ちを落ち着ける。


「あ、あのね・・・ただ、不安だったの」
「???何が?」

新一が不思議そうな顔をしている。

「あのね、あの・・・このところ、新一とは、会う度エッチだけだったから。あのね、それが嫌だって事じゃなくって。新一がわたしに興味があるのは、か、体だけ、なのかな、って。勝手に、不安になってたの・・・」
「んな筈!」

新一が思わず身を乗り出して、大きな声を出しかけた。
けれど、大きく息を吸って、再び座り込んだ。

「そっか・・・そりゃ・・・確かに、不安にもさせるよな」

新一が、考え込む様子でそう言った。
わたしは、すごく申し訳なくなって、言葉を継ぐ。

「新一。ごめんね」
「何で蘭が謝るんだよ?」
「だって・・・すっごい失礼な事、考えたなって、自分でも分かってるもん。い、今は。新一が、その・・・体目当てだなんて、そんな事、思ってないよ?わたしの事、すごく想ってくれてるんだって・・・ちゃんと、分かってるもん」

わたしが出した結論だけは、キチンと伝えなきゃと、わたしは一所懸命言葉を綴った。

「いや。会えば、エッチだけだったのは、事実だから。オメーが不安になったのも、無理ねえって思う。オレはその・・・オメーがいてくれたら、ただそれだけでイイって思っちまうから。一緒にどこかに行きてえとか、何かを見てえとか、あんま、そういう風には考えねえんだよな」

多分、男の人って、そういう面があるのだろうと思う。
今迄、新一と向き合って、こういう風に話した事はなかった。
わたし達に足りなかったのは、お互いに何を考えているのか、会話する事だったんだね。

「でもよ。オメーを喜ばせたい、笑顔を見たい、そう思ってんだよ。だから・・・でも、最近は、んな事忘れてたな」

うん。
だから、新一はわたしをエスコートしてくれるんだよね。
でも、わたしは感覚が麻痺して、それがありがたい事だって分からなくて、してくれない事に対しての不満ばかり、積もってた。

「オレの欲望ばかりで・・・ごめん・・・」
「ううん、新一。そういう風に、言わないで。わたしだって・・・その・・・そういう欲望は、あるんだよ」
「へっ!?」

新一が、顔を上げて目を丸くした。
わたしは、頬に血が上るのを感じていた。

「あ、あの・・・だから・・・好きな人に抱いて欲しいって。そういう欲望は、女にもあるの」

わたしは、恥ずかしくてたまらなかったけど、必死の思いでこの言葉を口にした。
意味を了解したのか、新一の顔も、見る間に真っ赤になった。

新一は突然ソワソワし出した。
そして、かすれた声で言った。


「あ、あのよ・・・遅いから、そろそろ、寝よっか?」
「う、うん・・・」

わたしは、恥ずかしさで消え入りそうになりながら、俯いて答えた。
すると、新一はさっと立ち上がり、お父さんの部屋へ向かおうとした。
わたしは、驚いて声をかける。

「し、新一!?」
「今夜は、おっちゃんの部屋で休ませてもらうから」
「な、何でっ!?」

わたしは、思わず新一の背中に縋り付いていた。

「何で、何で、何でよっ!?」
「ら、蘭!?」

新一の焦ったような声が聞こえたが、その表情は、背中に縋り付いたわたしには見えない。
わたしは、恥ずかしさも何もかなぐり捨て、必死になっていた。

「わ、わたしだって・・・抱いて欲しい・・・」
「蘭・・・」

わたしの望みを言ったのに。
もう、新一が体目当てだなんて思ってないって言ったのに。
それでも、わたしに触れようとしない新一に、わたしは混乱し、悲しかった。

「次、いつまた会えるか、分かんないもの!だから、ちゃんと新一の存在を感じさせてよ!次会う時までの為に、新一でいっぱいにして!」

突然、新一がわたしの腕を振りほどくと、あっという間にわたしは正面から新一にきつく抱きしめられていた。

「んっ・・・う・・・」

わたしの唇は、新一の唇で塞がれて。
新一の舌が、わたしの口内を這い回り、わたしの舌をからめ取る。

その熱い甘さに、わたしの全身は痺れ、何も考えられなくなった。


「オレだって、無茶苦茶、蘭を抱きてえ!」

唇を離した新一が、掠れて切羽詰まった声で言った。

「新一?」

新一の手が頬に添えられ、溶けるような熱のこもった眼差しで、間近で見詰められ。
わたしの体は震える。

「オレだって、おんなじだ。オメーの存在を、体中に感じて。目に、耳に、指に、肌に、オメーの存在を焼きつけて!毎回、滅茶苦茶にオメーを抱いて、目いっぱい充電しても、情けねえ事に、1週間ももちやしねえ」

熱に浮かされたような新一の言葉に、わたしは歓喜を覚えていた。
新一だって、会えない時は辛かったんだ。
会う度に、わたしを激しく求める事で、次に会う時までの糧にしていたんだね。


「でも、じゃあ、何で?」

わたしの問いに、新一の瞳が揺れた。
そして、ややバツの悪そうな顔になる。


「その・・・今夜、とるものもとりあえず、来ちまったからよ」
「うん?」
「ゴム・・・持って来てねえんだ」

意外な答に、わたしは目をパチクリさせた。

新一は、初めてわたしを抱いた時から今迄、避妊を欠かした事がない。
初めての時は・・・新一がそんな物を持っていた事に、一瞬引いて、思わず疑いの気持ちを持ってしまったものだけど。

新一が、わたしを気遣ってくれていたのだという事を、今は信じている。
勢いに任せて、避妊を怠るという事を絶対にしない。
それは、決して情熱が足りないのではなく、わたしをとても大切に想っていてくれたからだって・・・今の新一の苦しげな表情を見れば、とても良く分かる。

今日は、わたしの元に来てくれるのに、急いでいたという事もあっただろうし、多分・・・わたしがエッチを嫌がっていると思い込んでたのもあって、わたしを抱かない積りだったから、避妊具の準備をしてなかったんだ。

でも。
はしたないかもしれないけど、わたし、今日はどうしても、新一に抱いて欲しかった。

「新一。今日は、大丈夫だから。そのまま、来て?」

わたしが新一にしがみつくようにして、新一の顔を見上げて、必死で訴えると。
新一は何かに耐えるような顔をして、何度も大きく息をした。

「蘭。安全日なんてもんは、本当は存在しねえんだぜ?分かってんのか?」
「・・・分かってるよ。分かってないのは、新一でしょ?」

わたしの切り返しに、新一が怪訝そうな顔をした。

「一番の避妊法は、エッチしない事でしょ?ゴムを付けてたって、妊娠する事がある位、知ってるでしょ?わたしは・・・初めての時から、新一の子供だったら欲しいって思ってたから、新一に抱かれたんだよ?最初から、覚悟位、出来てるよ?」

新一が、目を見開いて、大きく息をついた。

次の瞬間、わたしは息も出来ない位きつく抱き締められ、唇を奪われていた。
新一の舌が、わたしの口内を奥まで侵す。

「ん・・・ふっ・・・」

息が上がり、朦朧となり始めたころ、わたしの唇は解放された。
大きく息をつきながら見上げると、新一がわたしを見詰める眼差しに、怖い位の灼熱の彩があるのに気付いて、息を呑んだ。

わたしは今まで、気付かなかった。
ううん、気付こうとしていなかった。
新一が隠し持っている、情念の炎に。


新一がわたしを抱えあげると、そのままわたしの部屋に連れ込まれ、ベッドの上に下ろされた。
もどかしそうな様子で、わたしの服を脱がし、自分の服を脱ぎ捨てる。


「蘭!」
「あっ!新一!」

わたしの上にのしかかる新一の体が、異様なほどに熱い。
新一は、わたしの両頬に手を当て、熱のこもった眼差しでわたしを見詰めた。

「蘭。オメーだけだ。
全てを見たい。触れたい。一つになりたい。
こんな風に感じるのは、蘭だけだ。オメ−だけなんだよ!
オメ−だけが、オレを狂わせる、唯一の存在なんだ・・・」
「新一・・・」

新一が、こんなに激しいものを、秘めていたなんて。
でも、わたしだって、そうだ。
全てを見せたいのも、触れて欲しいのも、一つになりたいのも、新一だけ。

新一の手と唇が、わたしの全身を辿って行く。

「あ・・・ああん!はあ・・・新一・・・」

新一の腕の中で、わたしは乱れ、あられもない声を上げる。
わたしがこうなるのは、新一の腕の中でだけ。

「蘭!オレから離れようなんて、思うなよ?オメーは、オレのモノだ、オレだけの!」
「ああ・・・新一・・・絶対わたしを、離さないで・・・」


固くそそり立つ新一のものが、わたしの奥深くに押し入って来た。

「あっ!ああああっ!」

膜越しじゃなく、新一が直接、わたしの中に触れている。
それだけで、わたしは思わず歓喜の声を上げていた。

「蘭・・・すげ・・・イイ・・・」

新一は、わたしの奥深くまで入ると、すぐに動こうとせず、わたしを抱き締め、目を見詰めて来た。

「愛してるよ、蘭」
「うん、新一。わたしも・・・」

今のわたしは、新一の囁きが「ベッドの中だけの戯言」ではなく、「真実の言葉」だって、理解していた。
新一はいつも、その態度で眼差しで、わたしに愛を伝えてくれていたのだから。


(7)に続く


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<後書き>

ようやく、色々な意味で想いが一つになれた・・・かに見える、新蘭。
でも蘭ちゃんはまだまだ、新一君がどれだけ深く激しい想いを抱いているのかは、分かっていません。

新一君ってね、かな〜り、自制心が強いと思うのよ。
蘭ちゃんに嫌われるのが嫌、ってのもあるだろうけど、根本的には、蘭ちゃんが大切で大切で仕方がないから。
蘭ちゃんが心から望まない限りは、新一君って、色々な事を我慢するでしょう。


さて。
タイトルの意味について、分かった方がいたら、ドミ宛にメールで申告して頂けると嬉しいな。
当てた方にはリクエスト権(但しかなりお待たせする可能性は大、リクの内容によっては応える事が不可っちゅー、超ワガママ)は、今も有効ですが、今のところ、どなたも名乗り出た方はいらっしゃいません。
いや、ほんっとーに、大した意味じゃないんですけどね(笑)。
申告の有効期限は最終話(第8話)アップまでとします。

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