Better Development



byドミ



(2)



新一と会った後3日間は、案の定、メールも電話も、なかった。

わたしからも、滅多にメールも電話もしないけど。
高校の頃は、毎日のように顔を合わせていても、やっぱり毎日のようにメールをしたり、してたのに。

わたしは、高校2年の時に新一から携帯電話をプレゼントされるまで、携帯を持った事もなかったから、メール生活とも無縁だった。携帯を手に入れてから、新一や園子とメールのやり取りをするようになった。

新一が、「厄介な事件」で、長らく不在だったあの頃。新一からはこまめにメールが来ていたし、私も、日々の出来事や出会う事件の事を、メールにして送っていた。
でも、本当は、新一はわたしのすぐ傍に、ずっと居た。

もしかしたら新一は、コナン君としてわたしの気持ちを知ってしまったから。だから、帰って来た時、告白してくれたのかな?
新一の事を想って泣いていたわたしに、同情したのだろうか?

そんな事、ないよね?
新一は、わたしの元に、「新一の姿で」戻りたいと思ったからこそ、頑張れたんだって、言ったんだもん。


でも、3年の月日の中で、新一も少しずつ、変わってしまったのだろうか?
わたしは相変わらず、空手に打ち込んで家事に忙殺されて、それ以外では新一の事だけ、なのに。
新一は、探偵としてますます活躍して、華やかな世界でスポットライトを浴びていて。
どんどん、遠い世界の人になって行く。

今や新一にとってわたしは、何の面白みもない、古女房みたいな存在で。
それこそ、新一のご飯を作ったり家の掃除をしたり、そして・・・セックスしたりする以外には、何の価値もない女、なのだろうか?


   ☆☆☆


「蘭、来てたのか」
「う、うん・・・」

新一が留守の時も、わたしは時々、合鍵を使って出入りをしている。
初めて合鍵を貰った時は、新一の「特別」になれた証のように思えて、嬉しかったものだった。

わたしは都合がつくと、時々、新一の家に来て、作り置いたご飯を冷蔵庫に入れたり、少し掃除をしたりする。
新一は、「ありがたいけど、家政婦じゃねえんだから」と、わたしに言うけど。
でも、ほったらかして置くと新一は簡単なものや出来合いばかりで済ませてしまうから、心配なんだもん。

ただ、こうやって家に来ても、新一に会えるとは限らない。
そしてもし、会えた時は、必ず。

「蘭」
「あっ・・・新・・・」

わたしの唇は塞がれ、言葉が途切れて。
わたしはそのまま、2階の新一の部屋に連れ込まれる。

新一が求めるままに、流されて。
あっという間に、身に着けているものは全てはぎ取られてしまう。


「ああ・・・新一・・・」

わたしは、逆らえない。
だってわたしも、新一とひとつに融け合うこの瞬間を、望んでいるのだもの。
新一に触れられると、あまりの気持ち良さに、どうにかなってしまいそうなんだもの。

新一の唇が、わたしの首筋をなぞるように辿って行く。

「ん・・・あん・・・」

わたしの体は、ゾクゾクとする。
幾度となく新一に抱かれ、その快楽を覚えこんだわたしの体は、次の刺激を待って、うち震えている。

「蘭・・・すげえ、可愛いよ、オメー」
「あっ・・・はああああん!」

新一の口に、胸の飾りを含まれて、舌先で嬲るように舐め回され吸われ。
体の芯まで疼くような快感が走り、それだけでイキそうになる。

新一はいつも、わたしが焦れて我慢できなくなる位に、時間をかけて、わたしの体の隅々までを愛撫する。
わたしの羞恥心も躊躇いも、すっかり消えてなくなって、あられもない声を上げ、自ら求めて足を開きそうになってしまうまで。

「蘭。蘭のここ、もうびしょびしょだぜ」
「や・・・ああん!そんな・・・事・・・言わな・・・いで・・・」

新一に触れられると、わたしの体は、こんなに淫らになって、こんなに感じてしまう。
それは、相手が新一だから。
わたしが、新一の事、誰よりも深く愛しているから。

「蘭・・・良いか?」

わたしは、意識朦朧となりながら、頷く。
わたしの中は、とっくに新一を待って、焦れて焦れて仕方がないのに。
新一は、わたしの中に入る前に、必ず訊いて来る。

新一のモノが、わたしの中にぐいぐいと入って来る。

「はっ・・・ああっ!」

その重量感と圧迫感に、わたしの体は一瞬強張る。

「はあ・・・蘭の中、すげー・・・気持ちイイ・・・」

新一が熱く耳元で囁く。
わたしはもう、何が何だか分からない。

「あっあっ・・・はあっ・・・んあんああん・・・っ!」

新一がわたしの中を突き上げると、あまりの快感に、わたしはあられもない声を上げて新一にしがみ付く。

愛する人と一つになって、私の一番奥深くに触れられて。
その至福の瞬間、わたしは確かに、この上もなく、満たされるのだ。

「はっ・・・くっ・・・蘭っ!」
「ああん・・・んあっ・・・新一ぃ!」

新一が、汗を滴らせながら、激しく動く。
わたしもいつの間にか、腰を揺らしている。
やがて、2人共に上り詰める。


「あ・・・はあ・・・しん・・・いちっ・・・やああああっああああん!!」
「うっくうっ・・・蘭!」

新一がわたしの中に熱いものを放ち、2人同時に果てた。


   ☆☆☆


上り詰めた高揚感の後に来る、虚脱感の中で。
あれだけ満たされた筈なのに、わたしは虚しさを覚えていた。

新一が優しく微笑み、わたしの額・瞼・頬に、優しい口付けが降りて来る。
そして、唇が塞がれた。

上り詰めた余韻の中で、新一はいつも、そうして来る。
初めて体を重ねたその日から、必ず繰り返されている行動が・・・どんなに特別なものであったのか、その時のわたしはまだ、知らなかった。

新一の優しい触れるだけの口付けに、一方でホワホワと幸せな気分に浸りながら、一方で、「また、流されてセックスしちゃった」と、妙に虚しい気分になっていた。


新一の舌が、わたしの唇の間を割って、侵入しようとして来た。
事の後、新一の口付けが深くなって来るこういう時は、新一が「もう一度」わたしとの行為を望んでいるのだ。
でも、今日は新一の家には泊まれない。
これ以上遅くなる訳には行かない。

わたしは新一の胸に手を当てて体を離すと、腕の中から抜け出し、起き上がって、服を身につけ始めた。
新一が身を起して、問う。

「蘭?帰るのか?」
「うん・・・今夜は、お父さん家に居るし」
「・・・そっか・・・」

新一も、起き上がり、服を身につけ始める。

「新一?」
「送ってくよ。もう、遅いし」
「うん・・・」

こういう時の新一の気配りは、さすがだと思う。
芯から身についた、フェミニストの側面だ。

とても、ありがたい事だって、分かってる。
でもきっとそれは、わたしにだけじゃ、ない。
こういった新一の「優しさ」を、「愛」と勘違いしてはいけない。


さほどの距離ではないが、夜道だからという理由で、新一は車で送ってくれた。

「ねえ、新一」
「んあ?」
「今度の土曜日、時間が空いてたら、映画見に行かない?」
「映画?何か、見てえヤツがあんのか?」
「うん」

わたしは、今話題になっている映画のタイトルを上げた。
わたしの趣味ではないが、すごく評判が高いものだ。

「へえ・・・蘭、んなのが好きだったっけ?」
「そういう訳でもないけど。今、すごく話題になってるし、園子達も皆、その話題でもちきりだし」
「・・・たりい。オレ、興味ねえから、パス。んな事よりさ、蘭。その日、時間が空いてんなら、オレんちに来いよ」
「えっ!?」
「今度は、朝まで離さねえからさ」

何よ何よ、新一が考えるのは、そんな事な訳?
新一にとっては、推理が大事で、推理以外の事には意味がないって事なの?
わたしと映画を見たりするのには、興味がないって訳ね。
わたしに少しでも興味があるのは、体だけって事ね。

わたしは、無性に腹が立って来た。


「・・・新一。わたしってまるで、新一のセフレみたいだね」
「えっ!?」

新一が思わず私の方を振り向いたので、車が揺れる。
新一は慌ててブレーキを踏んだ。
その後、車を路肩に寄せて停止させる。


「危ないじゃない!事故ったらどうするのよ!」
「蘭・・・オメー・・・」

新一が目を丸くして、わたしを見詰めている。

「何で、んなバカな事、考えんだよ?」
「バカな事って、何よ!だ、だって、新一・・・このところ、わたし達って、どんなデートをしてる?」

言う積りはなかったのに。
新一に嫌われたくなくて、封印していた筈の不安が、口から滑り出てしまう。

新一が、真剣に考え込んでいた。

「何も、思いつかないでしょ?だって・・・わたし達、最近、エッチ以外の事、何にもやってないんだよ!」

新一の顔が、苦しそうに切なげに歪んだ。
何で、あんたがそんな顔をするのよ?

もう、車は、家のすぐ傍まで来ていた。
わたしは、助手席のドアを開けると、駆け出した。

「蘭!待てよ!」

背後から、呼び止める声が聞こえたが。
わたしは知らない振りをして、家まで駆けて行き、喫茶店ポアロの脇の階段を駆け上がって行った。



その時のわたしには、分かっていなかった。
男性は新一だけしか知らないから、分かっていなかった。

新一がわたしに入る前の時間をかけた丁寧な愛撫も。
上り詰めて欲望を吐き出した後の、余韻の中での優しい態度も。
朝迄(あるいはわたしが帰ろうと起き上がる迄)わたしをしっかり抱きしめて離さない腕も。

全てが、新一がわたしを深く想う故だって事が・・・分かっていなかったのだ。



(3)に続く


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<後書き>

このお話の柱の一つが、「男女の違い」だったり、します。

但し、新一君が「普通の男と同じ」とは思ってませんし、蘭ちゃんだって「そこらの女と同じ」と思っている訳ではないです。
普通よくある男女の違いを踏まえた上での、新一君と蘭ちゃんの誤解とすれ違い、そしてそこをどう乗り越えて行くか、という事を、書きたかったのです。

恋人とデートらしいデートがなくなり、セックスだけになってしまった場合。女性の多くは、好きな男性に求められて体を重ねる事がけっして嫌な訳ではないのだけれども、「彼にとって私って、もしかして体だけ?」って悩みます。
ま、それが的を射ている場合もあるけど、少なからず誤解の場合もある。

情緒が大事な女性に対して、男性は割合即物的ですからね。(勿論、個人差はあります)


実は、会長はこの第2話を読んだ時、怒りました。
会長も男性ですから、基本的に「女性キャラの方が好き」ですし、女性の味方です。
けれどこの第2話では、男性の立場から新一君にいたく同情し、「これじゃ新一があんまり可哀相だ」と、かなりご立腹でした。
私は、女性の立場から、蘭ちゃんがこういう風に誤解してしまっても無理ないって事を説明し、「ちゃんとフォローはするから」という事で、引き下がって頂きました。


私も一応は女なので、女性の感覚の方が、理解は出来ますが。
年の甲(笑)で、男性が女性と違う部分ってのも、ある程度分かります。だから時々、女性が書く二次創作で、新一君や周囲の男性キャラの行動に、違和感を覚える事があるんですよ。
口に出さない事を相手に察して欲しがるのも、相手を試すような行動をするのも、基本的には「女性の専売特許」です。現実世界では稀に、そういう女々しい男もいますがね。

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