ひと晩の過ち!!!?



byドミ



工藤新一が目覚めた時。

見知らぬ部屋で、昨日初めて会ったばかりの女性と同じ布団に入っていて。
おまけに、お互い裸だった。


さすがの新一も、一瞬驚きパニックに陥りかけたが、まず大きく息をして、気を落ち着ける。
そして、昨夜の事を細かく思い返した。

「・・・今何時だ?ゲッ!早く連絡しねえと、蘭に心配かけちまう!」

新一は、自分の携帯の時計を見て、慌てて起き上がる。
まず、身体検査をして服を身につけ、さり気なく周囲の観察を行った。


工藤新一、東都大学2年に籍を置く20歳。
現在、幼馴染兼恋人の毛利蘭とは、同居中だ。(世間では同棲とも、言う)

現在時刻は既に急いで帰ったとしても「朝帰り」状態だった。


携帯で電話をかけようとして、思い直し。
ごく短いメールを打つ。

女がひっそりと起き上がる気配を感じたからだ。
新一が振り返ると、女はいかにも今目が覚めましたという風情で、ゆっくりと起き上がる。


「工藤君・・・おはよう・・・」
「ああ。君・・・何て名前だっけ?」
「んもう、工藤君のいけず。昨夜は、あんなに激しかったのに」

女がしなだれかかって来ようとするのを、さり気なく避けながら、新一は携帯を操作し続ける。

「激しい・・・ね。あんた、ピル飲んでんのか?」
「え・・・?何を突然?そんな野暮な事言わないで、昨夜はとても素敵だったわ・・・ねえもう1度・・・」
「この近くには確か・・・ああ、あった、高野産婦人科、9時になったらそこに診察に・・・」

新一は、携帯のweb検索で地図を見ながら、言った。

「く、工藤君、一体何を!?」
「は?何って、診察だよ。昨夜君が誰かとナニしたんだったら、子供孕んでるかも知れねえだろ?ついでの事に、残留している体液のDNA鑑定もして貰うか?そしたら、もしもの時に父親判定が早くて済むだろ?」

女が息を呑むのが分かった。

「な、何もそこまでしなくても・・・あたしは別に、工藤君に責任を取ってもらおうとか、そんな事・・・」
「責任?いや、オレとしちゃ、身の潔白を証明したいんでね。君が本当に昨夜エッチしたんだとしたら、その相手はオレでは有り得ねーし」
「け、潔白!?こ、この状況で、誰が、何もなかったって信じるって言うのよ!?」
「ん〜?残念ながら、オレのこよなく愛するオレの恋人も、そういう事に関しちゃどうも信用してくれなくてね。けど、オレ自身には、昨夜ぜってー何もなかったって、確信持ってっからさ」
「な・・・ななな!?何でそんな事、言い切れるの!?」
「・・・だってオレ、今もオメーを見たって、全然反応してねえもん。ら・・・恋人以外の女には、ぜってー感じねえんだよ」
「そ・・・な・・・だって昨夜は、工藤君、酔っ払って・・・」
「受身の女はともかく男は、相手も分からねえほど酔っ払っちまったら、そもそもモノが役立たなくなるもんだぜ。それにオレ、限界は弁えてっから、前後不覚になるまで飲む事は、まず有り得ねえしよ」
「だ、だけど・・・この状況で・・・」
「オレの服、脱ぎ散らかしたように見せかけてあったけど。勢いでエッチに突入したならアンタの服と入り乱れている筈なのに、全く別々に落っこちてただろうが」
「そ、それは、たまたまお互いに自分で服を脱ぎ合って・・・」
「昨夜、どこまで意識があったか、覚えてるぜ。水割りを飲んだ後から、意識が朦朧とし始めた。トリアゾラム系の薬を使ったな?あの水割り、味が変なのに気付いて吐き出したけど、少し入っちまってたか。アルコールはトリアゾラムの効果を促進させるしな」

女の顔色が変った。
表情もふてぶてしいものになる。

開き直った女は、ゆっくりと服を身につける。
新一は、女が服を身につける光景を目の当たりにしながらも、顔を赤らめるでもなく物を観察する時の冷たい眼差しだった。

「ったく。だから、合コンなんか参加しねえようにしてたってのに・・・付き合いでどうしても断れねえってなったら、これだ」

新一は溜め息をつきながら頭をかいた。
新一には、誰よりも大切な恋人が居るし、忙しいのもあって滅多に合コンに参加などしないのだが。
昨夜は、学友に「どうしても」と泣きつかれて、たまにはこういった付き合いも必要かと考えたのが、間違いの元だった。

「で?眠り込んだオレを、君1人で運んで服を脱がすのは、無理があるよな?黒幕は誰だ?・・・隣の部屋の気配から察するに、1人じゃなさそうだよな」
「もう!杉山君!工藤君ってば、私の手には負えないわ」

女が白旗をあげた。
その声に応じてドアを開けて入って来たのは。


「杉山、中野、高橋。オメーら、一体・・・」

出て来たのは、新一と同じ「東都大法学部」に籍を置く学友達だった。


「いや、わりい、ちょっとした冗談だよ」
「名探偵の慌てる姿を見てみたいって、杉山が言いだしてよ」
「な・・・!言い出しっぺは、高橋だっただろうが!」

「ったく・・・」

新一は呆れて溜め息をついた。
組織や玄人の仕業ではなく同級生の悪戯だったからこそ、工藤新一ともあろうものが簡単に薬を盛られたのだと言える。


「しっかし。ここの場所をすぐに割り出すとことか、そうった事は想定内だったけどさ」
「まさか、佳也子の誘惑に全く乗らないとは」
「昨夜は、眠り込んだからともかく、目が覚めたら絶対事に及ぶと踏んでたんだけどなあ」
「隣に裸のイイ女が居ても、動じもしないとは」
「名探偵、アンタ実は、イ○ポなんじゃ?」

学友達の言い草に、新一は頭を抱えた。

「って言うか、オメーら、恋人以外の女に、感じるもんなのか?」

「え!?」
「は!?」
「・・・あの、工藤。実際に手を出すかどうかは別として、普通、男は恋人以外でもその気になれるもんだと思うが?」

「ん〜、だよなあ。でねえと、性犯罪なんか起こりようがねえもんなあ。けどオレ、マジで、アイツ以外の女には全くその気になれねえんだよ」
「・・・・・・探偵って、変ってるんだな・・・」
「ほっといてくれ!って、佳也子さんだっけ?あんたさあ、オレが本当に手ぇ出してたらどうする気だったんだよ?」
「佳也子は、あんたのファンなんだってさ。エッチ出来たら、友達に自慢する積りだったらしいぜ」
「あのなあ。もうちょっと自分を大事にしろよ。女性はリスクが高いんだからさ」
「煩いわね。アタシの事なんか、ほっといてよ!」
「じゃあ、もう、用事は済んだよな。帰らせて貰うぜ」

そう言って、新一は部屋を後にした。


   ☆☆☆


「あいつの恋人に、佳也子と裸で抱き合ってる写真画像送る積りだったんだけど、着信履歴も送信履歴も全部消してあるし、メモリーもロックが厳重だったよなあ」
「まあ、そこら辺はオレ達に隙を見せるようなヤツじゃないって事だろ?」
「佳也子、裸でのしかかっても、本当にヤツは全然反応しなかったのかよ?」
「いくらヤツでも、朝は生理的に・・・だったらその上にまたがるとか、方法はなかったのか?」
「うん、でも、さすがにそうなると目を覚ましただろうし。あの人、悔しいけど、意識があったら本当に、全く反応してくれなかったんだもん」
「やれやれ。オレ達とは人種が違うのな」


佳也子が、朝の生理的な反応を示している新一のものに、乗っかろうと試みたとき。
新一の唇がある名を呟き、柔らかな微笑を浮かべたのを見てしまったのだ。

そこで強引に事に及ぼうとしたならば、新一は間違いなく違和感で目を覚まし、佳也子は強引に突き放されていただろうと思う。

「でも。他の女の匂いをさせて朝帰りした工藤君の事を、果たして恋人が信じてくれるのかしらね?」

新一は佳也子には全く触れようとしなかったけれども、眠っている間寄り添っていた佳也子の香りは移ってしまっている筈だ。
それは、本当に大切な女性以外には決して振り向く事がない冷たい男への、ささやかな意趣返しでもあった。


   ☆☆☆


「新一。しっかり臭いが移ってるわよ」
「あ・・・わりぃ」
「先にお風呂に入ってらっしゃい」
「ハイハイ」

新一は、家に帰りつくと即行で入浴するよう、蘭から言い渡された。
新一とて、他の女の匂いをさせながら蘭を抱き締めるような無作法は出来ず、文句を言わずに風呂場に向かった。
今まで着ていた服は洗濯機に放り込み、すごい勢いで体中を磨き上げ、欄が用意した新しい服を身につけると、ようやく人心地がついた。


「蘭」

リビングに行くと、蘭がむくれた様子でソファーに腰掛けていた。

「・・・もう。連絡もなかったから、心配したんだからね!」
「ああ。悪かったよ・・・」
「今回は、仕方がなかったけど。でも、新一。学友だからって油断は禁物ってことね」
「ああ、全くだな。高校時代とは違う、気をつけるよ」

蘭はひと晩眠れなかったのだろう、その瞼は腫れぼったく、新一は胸が痛んだ。

『あのやり取りを、全部蘭に聞かせておいて良かったぜ・・・でねえと、女の残り香させて朝帰り、絶対言い訳出来ねえところだった、あぶねーあぶねー』


新一が蘭に送ったメールには。
新一がコナンだった時に阿笠博士に作って貰った盗聴器で、新一の様子を聞いて貰うようにと伝言していたのであった。

新一は、蘭以外の女性に反応しないし、浮気も過ちも有り得ないのであるが。
それを言葉で伝えるだけでは、説得力がないだろうから。

女との実際のやり取りを聞いてもらうのが1番早いと、新一は思ったのである。


新一は蘭を抱き締め、その唇に自身の唇を重ねる。
蘭は抗わず、新一に身を委ねた。


「あっ!?」
「なあ、蘭。分かるだろ?オレが今、オメーに反応して熱くなってんのが」

新一が蘭の耳元で熱く囁き、蘭は真っ赤になった。

「何もしてねーっても、こっちが意識がない間、ひと晩引っ付かれて寝てたんだ。消毒、してくれねーか?」
「・・・もう、馬鹿!」

蘭が耳まで真っ赤になって言った。
新一は蘭を抱え上げて、寝室に連れて行こうとする。

「ちょ・・・新一、授業が!」
「んなの、サボっちまえよ」
「さ、サボるって、新一!?」
「オレ、我慢出来そうにねえ」

新一が蘭の目を覗き込むと、蘭は小さな溜め息をついて大人しくなった。

「新一。ひと晩、心配させた埋め合わせ、して?」
「了解」


工藤新一という男を、熱くさせる事が出来るのは、この世でただ1人だけ。
これから2人の、熱く甘い時間が始まる。



Fin.


++++++++++++++++++++


<後書き(あるいは言い訳)>

ある事に触発されての、突発駄文。
なんで、穴だらけだと思います。が、書いてて妙に楽しかったです。

そもそも、工藤新一という男を、こういう風に簡単に陥れる事が出来るのか?とか、色々思うところはありますが。

少なくとも彼は、「酔った勢いで蘭ちゃん以外の女性とベッドインするような男では、絶対にない!」と信じていますので。

これを読んだ会長からは、「新一は陥れた人達への報復措置はしないのか?」と訊かれましたが。多分、しないと思います。蘭ちゃんを傷付ける方向での企みに関してなら、きっちり落とし前をつける事でしょうけれどね。

肝心の場面はありませんが、色々ととても表に出せる代物ではないので、ラブ天の方にアップです。


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