あなたしか見えない
byドミ
(4)姉弟を越えた夜
「博士、帝丹高校の裏門に車を回してくれねーか?ああ、頼む」
新一が阿笠博士に携帯で連絡を取るのを、蘭はぼんやりと見ていた。
家守達はまだ気絶しているが、目が覚めて何かしないよう、縛り上げて別の部室に放り込んである。
美幸と真理は、それとはまた別の部室に閉じ込めて外から鍵を掛けた。
「新一・・・あの子達大丈夫かな・・・」
蘭がそう呟くと、新一は呆れたような顔をした。
「この期に及んで、まだあいつらの心配か?その内誰かが探し出してくれるだろうし、もし明日になっても発見されねーようなら、そん時は助け出してやるよ」
蘭が新一を見上げて切なそうに言う。
「私が心配してるのは、その事じゃないわ!新一の立場が・・・」
「蘭・・・」
新一は目を丸くした後、ふっと笑みを浮かべて言った。
「心配ねーよ。家守の親が有力者って言っても、それはこの帝丹学園内部での事だ。いざとなったら転校すれば良いさ。俺より、蘭の方が立場悪くなんじゃねえか?未成年じゃねーし」
「・・・私は大丈夫よ。暫くはお母さんかお父さんの事務所で働くって手もあるから」
蘭は4人がかりで手足を押さえつけられていた為、まだ脱がされてはいなかったが服のあちこちがカギザギになったりボタンが弾け飛んだりしていた。
新一が自分の上着を蘭に掛けていたが、このまま表に出るのはやはり差し障りがある。
そこで、新一の隣人である阿笠博士に車を回してもらい、こっそり裏口から出て行く事にしたのだった。
「ねえ新一。何で都合良く現れたの?」
蘭がようやくその事に思い当たって訊いた。
「あ?ああ・・・事件で呼び出されてて、帰って来たのが中途半端な時間だったから、いつもの場所で考え事をしてたんだよ」
そう言って新一が指差した先には、大きな木が立っていた。
「あそこの枝の上が、誰にも見られずちょいと寝転がるのに丁度良くってさ。いつもは昼休みに使ってるんだけど、今日はたまたま・・・で、あそこからこの旧部室は良く見えんだ。だから・・・」
蘭は身震いした。
いくつもの偶然が重なって、自分が助かったのだと知る。
「蘭?どうした?」
「ううん・・・何でもないの。新一、ありがとう・・・」
蘭が新一に身を寄せると、新一はそっと抱きしめてくれる。
それは優しく、男の欲望など感じさせない抱擁・・・娘や兄弟などの身内に対するものだと蘭には思えた。
蘭はきゅっと唇を噛み締める。
この先、またいつどうなるかわからない。
蘭は、自分が一生処女であっても構わない、好きでない男性と交わる位なら一生処女であった方が良いと思っていた。
けれどこのままでは、今回のように力尽くで欲望を満たそうとする相手に、いつか奪われる日が来るのではないか・・・恐ろしい想像に身震いしてしまう。
そして、蘭は知っていた。
自分の中に、そういう「欲望」が皆無ではない事を。
たった1人の相手にだったら、何もかも奪って欲しい――その欲望が、自分の中にある事を、蘭は知っていたのだ。
☆☆☆
阿笠博士が裏門に回してくれた車に、新一と蘭はこっそりと乗り込み、発車した。
「蘭君のアパートに送り届けたら良いんじゃな」
そう阿笠博士が言った。
博士には細かい事は話していないが、どんな事があったかは薄々感じ取っているのだろう、何も訊かずにいてくれる。
蘭の身近には、この阿笠博士や新一の父親である工藤優作、警察関係で知り合った人達など、紳士で、本当に肉親の慈しみの愛情を持って接してくれる男性が多く、だから蘭は男性恐怖症や男性不信に陥らずに済んだのだった。
蘭はその事に深く感謝していた。
「あの・・・博士。このままアパートの方に帰ると、近所の人からどんな噂をされるか・・・もし良ければ、新一の家に・・・」
蘭は胸の奥で罪悪感を覚えながらそう言う。
蘭が言った事は確かに嘘ではないのだが、蘭が新一の家に行こうとするのには別の目的があった。
「工藤邸なら、車ごとガレージに入れば、確かに目立たずに済むのう。着替えなら有希子さんのものがあるじゃろうし。新一もそれで良いかの?」
「俺は別に・・・蘭がその方が良いなら、構わないぜ」
阿笠博士の黄色のビートルは、直接工藤邸のガレージに収まった。
蘭と新一を下ろした後、阿笠博士は隣の自邸へと向かう。
☆☆☆
リビングで、新一が淹れてくれた紅茶を飲む。
その温かさに、蘭はホッと息を吐いた。
蘭に取って、工藤邸は毛利の実家と同じ位にホッとできる空間であり、工藤家の人々は家族同然に蘭を慈しみ愛してくれる人達だった。
そして新一は――。
家族でも弟でもあると同時に、蘭がただ1人愛した男性、唯一恋した相手、でもあった。
「蘭、今日急に居なくなった事については、急病だったとでも学校に連絡を入れといたら?」
新一がそう言って、蘭は新一の気の回りように妙に感心しながら答えた。
「ええ、そうね。そうする」
蘭は工藤邸の電話で学校に連絡を入れ、事務員に連絡を頼んだ。
幸い明日は土曜日の休日である。
空手部は活動してるが、蘭はそちらの指導も急病を口実に休む事にした。
「蘭、ひと息ついたら送って行くよ」
新一の声に蘭は顔を上げ、首を横に振った。
「今夜は・・・1人になりたくない・・・」
「そっか。じゃあ、小父さん達の所に?」
蘭はそれにもかぶりを振った。
「お父さんとお母さんには・・・お願い、黙っていて」
「けど、蘭・・・」
「今夜、ここに泊めてもらっちゃ駄目?」
新一が、僅かに逡巡する気配を見せる。
「客室は長い事使ってねえから、ちょっと掃除が必要だと思うけど」
「うん、それ位大丈夫だから。新一、ありがと」
その日はそれ以上新一が事件解決で呼び出される事もなく、蘭は新一と一緒に御飯を作って食べた。
最初心配そうな顔をしていた新一も、少しずつ、いつもの屈託のない表情になる。
この暖かい空気を、新一との家族同然の関係を、壊してしまってもいいものか?
蘭はこれからやろうとする事に少しためらいを感じたが、昼間の出来事を思い返すと身震いし、やはり後戻りは出来ないと思い直した。
△ ▽ △
新一は、蘭が同じ屋根の下に居ると考えるだけで落ち着かなかった。
蘭がこういう時に新一に寄せてくれる無条件の信頼が嬉しいと共に少しばかり悲しい。
尤も、流石の新一も、今日酷い目に会った蘭への心配が大きかったので、今夜は(落ち着かなくはなるものの)蘭への欲望を感じるどころではなかった。
蘭が入浴後に客間に入ったのを確認して、新一はお風呂に入った。
自室に帰ってきた時、何となく違和感を覚えて眉を顰める。
ドアから僅かに漏れる光・・・新一は灯りを消して、ドアを閉めていた筈だった。
思わず息を詰め、一気にドアを開け放ち・・・そして、呆然とする。
「新一・・・?」
ネグリジェを着た蘭が新一のベッドに座っていた。
新一は呆然とした後、頭を掻き毟りたい衝動に駆られた。
蘭が、今日あんな目に遭ったにも関わらず、新一への家族同然の無条件の信頼感を持っているのが、ありがたいやら悲しいやらである。
『ったく!オレだって健康な高校生男子なんだぞ。少しは警戒心持てよ。あ・・・でも警戒心を持ったら多分近寄ってもくれないか・・・とにかくオレが我慢するしかねえな・・・』
「どうしたんだ、蘭?」
新一は理性を総動員させて、蘭への欲望を毛ほども表に出さないよう気を付けながら、自室に入って行った。
ベッドからちょっと離れた椅子に腰掛ける。
「新一・・・新一は、新一は・・・」
「ん?何?蘭」
「ううん・・・何でもないの」
何でもない筈はないが、蘭は言いよどむ。
蘭が混乱し落ち着かないのだろうと考え、新一はその先を促さなかった。
しかし次に蘭がとった行動は新一の想像をはるかに超えたもので、新一の思考力は停止してしまった。
立ち上がった蘭が、新一に身を投げかけてきたのである。
蘭の胸の柔らかで弾力のある感触が布地越しに新一の上腹部に当たる。
胸の頂にある硬い果実の感触までかなりリアルに伝わって、新一の心臓は大きく音を立てた。
新一の分身は、蘭のネグリジェ姿を見た時から既に勃っていたのだが、蘭のこの行為によって、更に硬く屹立し、今新一に身を投げかけている蘭の下腹部に当たっていた。
気付かれてしまったら、蘭に避けられる。
その一瞬に新一が考えたのは、それしかなく、思わず蘭の肩を掴んで自分から押し退けていた。
「新一・・・?」
「ごめん、蘭!お願いだから、早くこの部屋から出てってくれ!」
新一は目をギュッとつぶり蘭から顔を背けてそう言った。
蘭が溜息をついて悲しそうな声で言う。
「新一、私、迷惑だったかな?」
新一は蘭の反応に戸惑いながら、しかし先程蘭が何も気付かなかった筈はないと思い、ためらいつつも言葉を出す。
「迷惑とか、そんなんじゃなくて!・・・だって蘭、気付いたろ?俺が・・・反応しちまった事・・・!」
「なあんだ、そんな事気にしてたの?」
蘭の一転して明るい声に、新一は更に戸惑うばかりだった。
「だって・・・軽蔑するだろ、俺が・・・蘭に・・・」
「新一が、欲情したって事?そんなの、新一に年相応の欲望があるの、当たり前の事じゃない。軽蔑したりなんかしないよ」
蘭の言葉に、新一は「大人の余裕」を感じ、決定的に年の差を思い知らされたような気がした。
微かな衣擦れの音がしたので訝しく思い、新一は閉じていた目を開ける。
そこに、ネグリジェを脱ぎ落として生まれたままの姿をした蘭が立っており、新一は完全に思考力がなくなっていた。
昔目にした時と変わらない、いや、その時よりも更に成熟した美しい体に、新一は息を呑む。
「お願い、新一。今日の事、忘れさせて・・・」
そう言って再び新一に身を投げかけてくる蘭を拒む事など、もはや新一には不可能だった。
新一は、何も身に纏っていない蘭を抱きしめる。
蘭が顔を上げた。
目が潤み、桜色の唇が僅かに開いている。
新一は蘭の唇に自分のそれを重ね、開いた唇の間から舌を浸入させた。
新一の舌が蘭の舌に触れ、新一は夢中で絡め取った。
蘭も新一の動きに応えて自ら舌を新一の舌に絡めてくる。
初めての口付けなのに、お互い夢中で深くむさぼりあった。
重なった唇の端から、お互いの唾液が混ざったものがあふれ出す。
「ん・・・」
蘭がくぐもった声を出し、足から力が抜けて立っていられない様子で新一にしがみついてきた。
新一は蘭を抱えあげると、優しくベッドに横たえた。
シーツの上に絹糸のような長い艶やかな黒髪が広がる。
白く滑らかな肌。
赤く色付いた胸の頂の果実。
細く引き締まった体だが、胸はたっぷりと大きく、くびれた腰とは対照的に、お尻周りは適度に肉がつき柔らかな曲線を描いている。
蘭は目を閉じていたが、唇は誘うように僅かに開いていた。
新一はごくりと唾を飲み込む。
ずっと焦がれていた存在が、今全てを自分の前にさらけ出している。
思わず、夢じゃないかと馬鹿な事を考えた位だった。
実際、このような状況を何回空想し、本当の「夢」に見た事か、数え切れない位なのだ。
新一は逸る気持ちを抑えながら、ゆっくりと自分のパジャマを脱いで行った。
新一も生まれたままの姿になって蘭の上に覆いかぶさった時、蘭は僅かに身じろぎした。
新一はもう一度蘭に深く口付け、蘭の甘く柔らかい唇と、舌の感触をたっぷりと味わった。
新一の胸に、蘭の胸の柔らかさと、その頂にある蕾の固さがじかに感じられる。
蘭の体はどこもかしこも柔らかく滑らかで、ふわりと新一を受け止めている。
新一が蘭の唇を開放すると、蘭は目を開け、新一を見上げた。
潤んだ瞳、上気した頬、僅かに開いた唇は濡れて赤く色づいている。
新一は今までの清楚な蘭の顔しか知らなかったが、今の蘭は凄絶なほどに妖艶だった。
蘭の黒曜石の瞳の奥に浮かぶ狂おしい光・・・今の新一にはそれが何なのか、見当もつかなかった。
けれど、蘭自身がこの状況を受け入れ、この先を望んでいる事は、わかった。
「蘭・・・」
「なあに、新一・・・?」
蘭の声は、いつにない艶を帯びていて、新一は背筋がぞくぞくした。
名前を呼んだものの、その後言葉が続かず、また愛撫を続ける。
両掌でたっぷりとした乳房を包み込むように揉みしだく。
新一の掌に納まりきれない程大きな蘭の乳房は柔らかで、新一の手の動きにあわせて形を変える。
「あっ・・・」
思わず声を上げ眉を寄せる蘭の表情が、ぞくぞくする程色っぽい。
新一は既に硬くなった胸の果実を指の腹で刺激した。
「はあん」
蘭の口から、甘い声が漏れた。
眉を寄せ、苦痛に耐えるような表情だが、それが感じている貌(かお)だとすぐに思い至る。
新一は蘭の胸の頂を刺激しながら、蘭の首筋に唇を落とし、舌先で首筋をなぞった。
「はあ・・・ん、あああっ」
蘭が身を捩り、あられもなく嬌声を上げ始める。
考えたくはなかったが、新一が気付かなかっただけで蘭は経験があるのだろうか。
一瞬その考えが頭を過ぎったが、新一はすぐさまそれを振り払った。
これだけ魅力的な蘭に、そういった相手が今まで出来なかったと考える方がおかしいのだ。
たとえ蘭がどのような経験を積んでいようと、そんなものどうでも良かった筈だった。
最終的に自分を選んでくれるように努力し、もしもそれが実れば無上の幸福だと思い定めていた筈だった。
過去がどうであれ、今、蘭は新一の腕の中にいて、全てを委ねようとしてくれる。
今はそれだけで夢のように幸福だと思った。
蘭の首筋から少しずつ移動した新一の唇が、胸の果実に至り、口に含んで強く吸った。
「ああん、んあああああっ、新一・・・っ・・・はああん」
蘭が背をのけぞらせながら新一の髪を掴んで声を上げる。
嬌声の合間に、甘く艶を含んだ声で名を呼ばれる。
「らんっ・・・!!」
新一は猛り狂った分身を宥めながら、蘭の肌をくまなく唇で、指で、愛撫して行く。
お互いの名を呼ぶ声、荒い息遣い、甘い悲鳴が部屋を満たしていた。
新一が蘭の秘められた花に指で触れた時、そこは既に蜜があふれ、潤っていた。
「!し、新一・・・」
蘭が流石に少し逃れるような動きをしたが、新一は今更止まれなかった。
蘭の両膝を抱え上げ、自分が間に入る形で大きく開く。
「あ・・・・・・」
蘭が一瞬だけ身を強張らせる。
けれど、すぐに力を抜いて新一に全てを委ねた。
新一は、昼間無理やり蘭の足を広げようとした輩と、その時必死になって足を開くまいとしていた蘭の姿を思い出した。
「ごめん・・・蘭・・・大丈夫か?」
思わず謝罪の言葉が口をつく。
蘭は、一瞬のためらいの後身を委ねてくれた。
新一を拒絶している訳ではない。
けれど新一は、自分が家守達と同じ事をしているような気がして、欲望のままに蘭を犯し汚そうとしているような気がして、このまま最後まで蘭を抱くのに躊躇いが出たのである。
「新一・・・?」
蘭が目を開け、新一を見上げて微笑む。
「新一、私、新一だったら良いの・・・ううん・・・新一に抱いて欲しいの・・・」
「蘭!」
その瞬間に、新一の躊躇いは全て吹き飛んだ。
女性の秘められた花は、新一が生まれて初めて見るものだった。
蘭のそこは、医学書などで知っていた構造通りだが、妖しく美しく深紅に輝き、その美しさに新一は言葉もなかった。
そこから立ち昇る芳香が、更に強さを増して、新一は陶然となる。
その花びらを指で開き、口を寄せ、舌でその入り口を侵した。
「あ・・・っ・・・あん、はあっ・・・ああ・・・しん・・・いち・・・っ」
指で入り口をかき回すと、溢れる蜜で粘着性のある水音が響く。
指を花びらの奥に進入させようとすると、蘭の内部はきゅっと指を締め付けてきて、新一は眩暈を起こしそうになった。
「蘭・・・!もう我慢できねえ・・・!」
新一は蘭の入り口に自分の分身をあてがい、そのままぐっと腰を進めた。
「ひ・・・あっ・・・くうっ・・・!」
蘭の入り口は新一の侵入を拒み、蘭の口からは苦痛の声が漏れる。
「蘭!?はじめて、なのか!?」
心のどこかで、そうかもと思い、そうであったら良いと期待をしていたが、本当に処女だったらしいとわかって、新一は驚く。
「あ・・・く・・・新一・・・おね・・・がい・・・だいじょ・・・ぶ・・・だか・・・」
全然大丈夫そうではないが、蘭は気丈にそう言って、一生懸命新一にしがみ付いてくる。
新一とて初めての事で加減が分からないし、今さら止まれる筈もなかった。
「蘭・・・!」
新一は蘭の胸を指で刺激したり、口付けたりと、何とか快感を与えて蘭の力をほぐそうとする。
蘭も一生懸命力を抜こうとするが、なかなかうまく行かない。
双方汗だくになり、一旦離れて愛撫して、もう一度チャレンジしてを繰り返す。
「あうっ・・・!!」
ようやく新一のものが蘭の内部に入り始めると、ある部分を越えたところで、残りはスムーズに一気に入った。
お互い肩で息をしながら、暫くそのまま動きを止める。
「蘭。今、入ったぜ。わかるか?」
「う、うん・・・」
蘭が息も絶え絶えという感じで答え、新一は胸に愛しさがいっぱいになるのを感じた。
蘭が落ち着いた頃合を見計らって、新一は腰を動かし始めた。
蘭を気遣ってゆっくり動かしたいところだったが、新一の方にその余裕がなく、すぐに激しい動きになってしまう。
「蘭、蘭・・・!」
「あ・・・く・・・新一・・・」
最初は苦しげな声を上げ苦痛の表情を浮かべていた蘭だったが、やがて表情にも声にも変化が現れる。
「あああん!しん・・・いち・・・っ・・・!はああん、ああああああああああっ!!」
蘭がひときわ高い声を上げ背をのけぞらせた時、新一も蘭の中に熱をはき出しそうになり、慌てて自身を引き抜いて蘭の腹部の上に情熱をぶちまけた。
「ご、ごめん・・・!」
新一は蘭の体にかかったものをティッシュで拭う。
「中出ししない」事は避妊として不完全な事を新一は知っていたが、とりあえず思いがけない事で避妊具の用意がなかった為、射精直前に引き抜くのが精一杯だった。
蘭の中から、処女だった証の赤いものが太ももを伝って流れ出している。
新一はそれを見て、どこかホッとし嬉しく思うと同時に、罪悪感も覚えていた。
流れ出したものを丁寧にティッシュで拭ってあげた後、新一は横になって蘭を抱き寄せた。
蘭は素直に新一に甘えるような形で擦り寄ってくる。
この時ばかりは新一は、ずっと焦がれ続けてきた蘭とひとつになれた喜びを噛み締めていた。
お互い無言で、相手のぬくもりを感じながら抱き締め合う。
今この時、新一は蘭と身も心もひとつに溶け合っているかのような充足感を覚えていた。
それが錯覚に過ぎなかった事は、すぐにわかってしまうのだけれど。
新一は蘭の髪を撫でながら、口を開く。
「ゴメンな、蘭・・・」
「何で謝るの?」
蘭が目を見開いて新一を見詰めた。
ずっと後になって新一は、この時最初に謝罪の言葉を口にしたのが最大の間違いだったと悟るのだが・・・。
今の新一は、そんな事を分析できる余裕もなかった。
「俺、あいつらと同じ事しちまったよな・・・」
「ううん、新一、全然違うよ?新一は、力尽くで無理矢理奪ったんじゃないもの。私の方が誘ったんじゃない」
そう言って微笑んだ蘭の顔に見とれながら、新一は更に言葉を重ねる。
「けど・・・オメー、初めてだったろ?かなり痛かったみてえだし、その・・・血も出たし」
「新一、気にしないで。新一が助けてくれなかったらあいつらに奪われてたんだもん・・・それ位なら、新一の方がずっと・・・」
蘭の微妙な言い回しに、新一は何とも言えない気持ちになった。
別に自暴自棄になった訳でもないのだろうが、蘭の言葉はどこか、「嫌いな相手や暴力で奪われるのでなければ、相手は誰でもよかった」と思わせるような言い回しだったから。
少なくとも、新一に抱かれるのは嫌ではなかったらしいが、新一を好きだとは・・・言ってくれなかったのである。
「蘭、あのさ・・・」
「ん?」
「俺が高校を卒業したら・・・結婚・・・しねえか?」
新一が意を決して言った言葉に、蘭は目を見開いた。
「なあにそれ?もしかして私がバージンだったから責任取ってくれる積り?」
「別に、そんなんじゃ・・・」
「馬鹿ね、新一。勢いで寝ただけの相手に、そんな事、軽々しく言うもんじゃないわ。私はこの年でバージンってのもちょっと恥ずかしいもんあったし、もうそろそろどうにかしたいって思ってたから丁度良かったのよ。だから、新一が責任取る必要なんてさらさらないの」
新一は「責任を取る」つもりなんて毛頭なかったから、蘭にあっさりとプロポーズを受け流されてどうしたら良いかわからなくなってしまった。
このとき新一は迂闊にも、プロポーズの前に言うべき大切な言葉が抜け落ちていた事に、気付かなかったのである。
「大体、新一、ガールフレンドは?好きな子って居ないの?」
蘭の問いかけに、新一は苦々しげな声で返した。
「・・・居たら蘭とこんな事しねえよ。俺だってこんな事初めてだったんだぜ」
「へえ・・・。意外と真面目なんだ」
「蘭は・・・?」
「私?」
「今まで恋人の1人も居なかったのか?蘭だったらその気になれば・・・」
ずっと新一の心に引っかかっていた思いを、今度は蘭に問いかける。
綺麗でスタイル抜群で優しい蘭。
蘭がその気になれば、恋人が出来ない筈がない。
今迄男っ気なしで、しかもバージンだったとは、かなり不思議であった。
もしかしたら蘭には、過去のトラウマで男性不信とか恐怖感が根強くあったのかも知れないと新一は思っていたのだが、蘭の答は違っていた。
「・・・好きな人とは絶対に恋人同士になれないから。だから・・・」
蘭の言葉に、新一は大きな衝撃を受けた。
蘭の心に、誰かずっと棲みついている男がいる。
決して叶わない片思いの男に、蘭がずっと操を立ててきたのだと思うと、新一は胸がつぶれる思いだった。
「蘭・・・」
「それにしても・・・セックスって結構気持ち良いもんだったのね、知らなくて損しちゃった」
蘭がそう笑って舌を出す。
蘭がこんなはすっぱな台詞を口に出すとは信じられずに、新一は混乱していた。
「ねえ新一。新一に本当に好きな子が現れるまでは、私で良ければ相手になってあげるよ。私も快感を知っちゃったからこの先もセックスはしたいけど、誰彼構わずはやっぱり嫌だし。お互いに練習も兼ねて、どう?」
新一は胸が潰れる思いで蘭のその言葉を聞いていた。
思いがけず、蘭の純潔を自分が貰う事になり、その事はすごく幸せな筈なのに、胸が痛い。
蘭の心が他の男にあるという事がこんなにも辛い。
体は奪っても心は奪えないとはこういう事かと、新一は自嘲的に思う。
それでも新一は、「心がないなら、体だけなら、いらない」と言う事も出来なかった。
その日から、新一と蘭のセックスフレンドとしての付き合いが始まったのだった。
お互いに、相手への熱い想いと本音を押し隠して。
「好きな人とは絶対に恋人同士になれないから・・・
蘭の言葉が、2人に大きく圧し掛かっていた。
(5)に続く
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<後書き>
2人一線を越えたけど、お互いの気持ちを知らぬまま。
私が書く裏パラレルって、こんなんばかりのような・・・。
この後2人は「セフレ(とお互いに思っている)」としての関係を暫く続ける事になります。
それをどうやって打破して行くのか。
多分、鍵は新一くんが握っている、かな?
戻る時はブラウザの「戻る」で。