愛人(!!!?)生活



byドミ



(2)契り



蘭が新一に連れられて入った部屋は、セミスイートで続き間になっていた。
蘭はソファーに座らされ、新一が冷蔵庫からカクテルの缶を取り出して蘭に渡した。

「お酒・・・さっきワインも飲んでたから、駄目って事はねーだろ?こういうの、好きか?」

蘭は新一の言葉に黙って頷く。
新一に渡されたのはカシスソーダを使ったカクテルで、蘭が好きなもののひとつだった。

新一は蘭の隣に腰掛けて、自分でブランデーの水割りを作り始めた。
蘭はこういう時自分が水割りを作ってあげるものなのかと一瞬迷ったが、新一が自分でさっさとその作業を終えたので、結局そのままにした。

蘭はカクテルの缶のプルタブを開けて口を付ける。
味は殆どわからなかった。
アルコールが入っても、ちっとも酔えそうになかった。

「あの・・・工藤さん、この部屋は?」

蘭がおずおずと新一に尋ねる。
まだ社会人として働いた事がなく世間を知らない蘭でも、続き間付きのこの部屋が尋常ではなく高いだろうというのは想像が付く。

「ああ。家が会社からちょっと離れてるからな、通えねー事はねーけど、仕事で夜遅かったり朝早かったりするから、会社に近いここに長期滞在で部屋を借りてるんだ」
「で、でも、ここって凄く高いんじゃ・・・」
「仕事絡みだから、費用は会社の経費になる。けど、それだけの仕事はしてるよ。長時間過密労働。でも俺の立場だと、残業代なんてもんは出ねーし、労災の適用もねーんだよな」

蘭は新一のその言葉で、新一がかなり高いポストに居るのだとわかる。
それによく考えてみれば、今日の移動も全て運転手付きの車であった。

「工藤さんって、若いのにすごく高い地位にいらっしゃるみたいですね」

蘭の言葉に、新一は目を丸くする。

「なあ、蘭。就職試験受けときながら、ひょっとしてナイトバロン社の社長の名前も知らなかったのか?」
「社長の名前・・・確か工藤って・・・え!?」

蘭は今更ながらに驚いていた。
多分、緊張していたのだろう、「工藤」というのが割合ありふれた姓だというのもあるし、知識として頭に叩き込んでいた筈の社長名と、面接で出会ったこの工藤新一とがすぐに結びつかなかったのだ。

「まあ、調べた時にはまだ俺の名は社長の欄に出てなかったかも知れねーけどよ、普通、一族だって思わねーか?俺はつい先頃交代したばかりの、ナイトバロン東京本社の社長なわけ」

蘭は赤面した。
ナイトバロン社は工藤家が作った(つまりオーナーである)会社である。
だから、主要ポストを工藤一族が占めていても不思議はないのだ。

「工藤さん・・・失礼ですけど、年はおいくつなんですか?」
「俺?24。俺自身に能力がねーとは思わねーけど、普通の会社だったらペーペーだな。オーナー一族でなければこんなポストどころか主任クラスにもまず居ない。・・・尤も、そうじゃなかったら俺は会社勤めなんかやってねーと思うけどな」

蘭は面接の場面を思い返す。
緊張していたのでよく覚えていないが、他の面接官の様子は年若な新一を信頼している風で、オーナー一族に逆らえないから仕方なく従っているという様には見えなかった。

「社長さん自らが採用試験の面接をなさるのですか?」
「うちのような企業では、人材が決め手だからね。それに、面接の時にこちらが見て判断した事がどれだけ正しかったか、間違ってたか、あとあと追跡調査すれば良い勉強にもなるだろ?自分の人を見る目がどれだけ正確かもわかるしね」



  ☆☆☆



蘭が空になった缶をテーブルの上に置くと、新一にいきなり抱きすくめられた。

「く、工藤さん」
「新一って呼んでくれよ、蘭」

蘭は今更ながら、いつの間にか新一の口調が変わり、「蘭」と呼び捨てられている事に気が付いた。

「新一・・・?」
「そうだよ、蘭」

そして新一は激しく蘭の唇を奪う。
新一の舌が蘭の口腔内に侵入し、震えて逃げようとする蘭の舌を探り当てて絡めて来た。


やがて蘭の唇を解放した新一は、蘭の耳に熱く囁いた。

「今夜は帰さない。蘭、オメーを抱きたい」
「くど・・・新一・・・」
「最初は、今日はデートだけの心算だったけど・・・自分で止められねーんだ。蘭、オメーが欲しい!」

新一が強い力で蘭を抱き締め、蘭はおずおずと新一の背中に手を回して抱き締め返した。



新一は蘭を抱き上げると、隣の寝室へと運び、ベッドの上に横たえた。
覆い被さって来て深く口付る。

「ん・・・」

蘭の体にどうしようもなく震えが走った。

「蘭。怖いのか・・・?」

新一が戸惑ったように、優しい声で訊いた。
蘭は目を閉じたままコクリと頷く。

「・・・もしかして・・・嫌、なのか?」

蘭は驚いて目を開ける。
新一が蘭を覗き込んでいた。
蘭が惹き付けられたその瞳は、今、戸惑いと不安に微かに揺れていた。
蘭はかぶりを振る。

「ううん、そうじゃない・・・そんなんじゃないの・・・」
「じゃあ、いいのか?」

蘭は目を閉じ、黙って頷いた。



新一は蘭に口付けながら、ブラウスのボタンを外していく。
新一の指は性急に蘭の胸を覆う下着の下に潜り込んで来た。

「ん、う・・・」

直に蘭の柔らかい胸を揉みしだく新一の指の感触に、蘭は逃れるように身じろぎする。
新一の指が蘭の胸の頂を探り当て、指の腹で捏ね繰り回すように撫でまわした。

「んん、んんんんんっ・・・!」

敏感な部分に触れられ今迄に感じた事のない電流が走ったような感覚があり、蘭は仰け反り、声を上げていた。
しかし、新一に深く口付けられ、舌が絡め取られているためくぐもった声しか出ない。
もしそうでなければ、あられもない声が出ていただろうと自分でも思う。


やがて胸の下着が外され、蘭の胸の隆起が露になった。
新一は蘭の唇を解放して少し体を離し、上から覗き込んでいる。
蘭は羞恥のあまり目を閉じていたが、新一がじっと自分を見詰める気配を感じ、思わず両手で胸を隠そうとした。
しかしその前に、新一の掌が蘭の両方の乳房を下から持ち上げるような格好で覆っていた。

「すげ・・・想像以上だ」

新一が優しく蘭の胸を揉みしだく。

「綺麗だよ、蘭。それにすごく柔らけー」
「あ・・・あ・・・やっ・・・」

蘭の胸の頂はすでに固く尖っていた。
新一はそれを口に含むと、舌先で転がすように舐めた。
反対側は指の腹でちろちろと刺激する。

「はあああああん!!」

強い刺激に、蘭は自分でも驚くくらいに高い声を上げてしまった。
そして、秘められた場所から蜜が溢れ出るのを感じた。

愛しく思う異性に触れられるという事が、これ程の変化を自分にもたらすなど、蘭は今迄想像もしていなかった。
新一の愛撫に反応し、半ば意識が朦朧となりながら、自分の体の変化に戸惑い、恐れを抱く。

新一が蘭の肌を隈なく愛撫し、刻印を刻んでいく。
そして蘭の秘められた場所を覆う布が取り払われ、蘭は生まれたままの姿になった。

蘭は羞恥に身を捩る。
全てを新一の目に晒す事も恥かしいが、先程からの新一の愛撫に反応して自分の大切な場所がしとどに濡れそぼり、尚も蜜があふれ出して続けているのを新一に知られるのが恥ずかしくて堪らなかった。

「やあっ・・・見ないで・・・」
「蘭。もっとよく見せてくれ、蘭の全てを」

新一が蘭の足を抱え大きく広げる。
蘭は反射的に足を閉じようとしたが、力が入らない。
広げた蘭の足の間に新一が入り込み、閉じられないようにしてしまった。

「あ・・・」
「蘭。すごく綺麗だ」

蘭自身さえ見た事のない、先程から蜜が滴っている秘められた場所が、今新一の目の前に晒されていた。
新一がその場所に口付け、蜜を啜る。

「やっ、あっ、そんな・・とこ・・・あああん」

新一は蘭の突起を口に含み、舌で中の豆を探り出して愛撫した。
蘭自身、今までそこに触れた事がなく、強烈な刺激に一気に上り詰めてしまう。

「あ、はっ、ああああああああんん!!」

蘭の手足は突っ張り、手でシーツをグッと掴んで体を仰け反らせ、甘い悲鳴を上げた。
痙攣を起こしたような一時が過ぎると、次いで体が弛緩し、蘭はグッタリとなった。
荒い息を吐きながら、蘭は今のは何だったのだろうと考えていた。


新一が、力が抜けてしまった蘭の体を抱き締める。
新一もいつの間にか全ての衣服を脱ぎ捨てており、固くたくましい肌が蘭の肌に直接触れていた。
蘭はその感触が心地良く、安心出来た。

蘭の太腿に、何か固く熱い物が押し付けられており、蘭が身じろぎするとそれがピクンと動いた。
蘭はそれが何であるかに思い至り、ハッとする。
新一が体を離した時に、蘭の視界に「それ」が入って来た。

新一の体は、多分何かスポーツでもやっているのだろう、細身に見えるがきっちりと筋肉が付き、無駄なく引き締まっている。
新一の中心部に、天に向かってそそり立つ「それ」があった。
蘭が生まれて初めて目にするものだった。

子供の頃の朧な記憶の中で、父親と共にお風呂に入った時などに目にした「それ」とは、全然違う。
無論、全く経験のない蘭といえど、男性の「それ」が平常時と女性相手に興奮した時とでは大きさも形状も全く異なる事は知っている。

しかし、初めて新一のものを目にして、今からそれが自分の中に入れられるのかと思うと、その大きさに不安を抱かずには居られなかった。
友人達の体験談などでは、流石に初めて目にした時はその大きさにビックリさせられるものの、痛いのは最初の内だけで、回数をこなす内にピッタリフィットするようになるとは聞いていたが。

『大丈夫大丈夫、赤ちゃんの頭が出てくるとこなんだから、男のアレ位ちゃんと通るって!』

そう言ったのは蘭の親友である鈴木園子だったが、彼女とて恋人である京極真にバージンをあげた時は、破瓜の痛みに泣いた事を蘭は知っている。

『でもそれならば尚の事、初めてはすごく好きな相手じゃないと絶対嫌!』

蘭は覚悟を決めていた。
生まれて初めて、触れられても嫌悪感を抱かない男性と巡り会ったのである。
結ばれる相手は、バージンをあげる相手は、目の前の新一以外に考えられなかった。


「蘭、そろそろ良いか?」

新一が尋ね、蘭はコクリと頷いた。
蘭の秘められた入り口に、新一の怒張したそれがあてがわれる。
蘭のそこは充分に潤っていたが、それでも新一のものが入って来たとき、文字通り「貫かれる」痛みを味わう事になった。

「う・・・く・・・っつうっ!」

堪えようと思っても、どうしても苦痛の呻き声が漏れ出てしまう。
蘭は新一の背に回した手で必死にしがみ付いて苦痛に耐えようとした。

「くっ・・・蘭、オメー、まさか・・・!?」
「ううっ、あう・・・しんいち・・・」
「・・・蘭。大丈夫だから・・・力を抜いて・・・」

蘭も一生懸命に力を抜こうとするが、痛みの為にうまく行かない。
それでも、少しずつだが新一のものは蘭の奥に入って行き、やがて全てが蘭の中に納まった。

「蘭。全部、入ったよ。わかるか?」

蘭は痛みに涙を零しながら頷いた。
文字通り汗と血にまみれながら、蘭は新一と結ばれたのであった。



自分の中に新一の存在を感じる。

これが男性と結ばれるという事。
これがSEXすると言う事。

今日初めて会ったばかりの男性とこうなった事に、自分でも不思議な感じはするものの後悔はない。

痛みのあまり気を失いそうになりながらも、そうなった相手がこの男性である事が、純潔をあげた相手がこの男性である事が、凄く嬉しくて安心できたのである。

別に今迄純潔を意識して守って来たわけではない。
ただ、1つになりたいと思える相手と巡り会わなかっただけの話だ。

工藤新一の事は、名前と、ナイトバロン東京本社の社長であるという事以外、何も知らない。
でも、最初に会った瞬間から、恋に落ちていた。こうなりたいと望んでいた。


蘭が落ち着くのを待って、新一は腰を動かし始めた。
最初は蘭を気遣っているらしくゆっくりした動きだったが、すぐに激しい動きになる。

「う・・・あ・・・いつっ・・・あああっ」

最初は強い痛みしか感じていなかった蘭も、やがて体の奥から痛みとは別の感覚が湧き起こってきたのを感じる。

「あ、あ、しん・・・いち・・・っ、ああっ・・・」
「蘭。らん・・・っ」
「あ・・・わた、し、・・・ああっ・・・変・・・なのぉ」
「・・・っくっ・・・良いよ、最高だよ、蘭」


「ああああんん、新一いッ、はあああああんん!!」
「くっ・・・蘭・・・!」

蘭の意識が上り詰め、体を仰け反らせ手足は逆に強く新一にしがみ付き、甘い悲鳴を上げるのと同時に、新一のものが蘭の中で大きく脈打ち、蘭の奥に熱いものが放たれた。



  ☆☆☆



蘭の奥に大量の熱を放った後、暫らく新一はじっとしていたが、やがてゆっくりと蘭の中から自身を引き抜いた。

「あ・・・」

蘭の中から、新一と蘭の体液と、破瓜の痛みに蘭が流した血が混じり合って流れ出した。

「蘭。初めてだったんだね」

新一の言葉に、蘭はコクリと頷いた。

「ごめん、蘭・・・」
「何故謝るの?」
「今日いきなりで痛い思いをさせちまったから。ごめん」
「謝らないで。だって私・・・拒まなかったんだから。あなたとそうなってもいいって思ったんだから」
「でも、俺、焦っちまってたから」
「焦る?あなたが・・・?」
「ああ。蘭は綺麗で可愛いから・・・。卒業前にものにしたいと狙ってる奴が居るだろうし、就職したら会社の男達から絶対狙われるだろうし」
「そんな・・・事・・・」
「ない、なんて事はねーだろ?蘭ほどの女性なら、今までにも色々誘いはあった筈だ。蘭の様子にどうもあまり経験無さそうだとは思ったけど、まさか、初めてなんて思わなかった」
「・・・・・・」
「なあ、訊いてもいいか?何であっさり俺にバージンをくれる気になったんだ?今まで守って来たもんを・・・」
「・・・別に、今迄守って来たって訳でもないの。ただ、たまたまそういう気になれる相手と巡り会った事がなかっただけ」
「蘭?」
「だって・・・今迄何回か男の人と付き合ってみた事あるけど、手を握られるのも嫌で、いっつも駄目になってたんだもん。でも、新一にだったら、触れられても嫌じゃなかったから・・・」
「じゃあもしかして・・・キスも初めてだったりしたのか?」

蘭は黙って頷いた。
耳朶まで熱い。
多分真っ赤になっている事だろう。
新一が破顔する。

「蘭。俺さ、今迄自分でも気付いてなかったけど、独占欲強かったんだなって思うよ。蘭の初めてが、キスも含めて俺だったってのが、何だかすっげー嬉しい」
「新一・・・」
「誰にも渡さない。蘭、オメーは俺だけのもんだよ」

新一が蘭を強い力で抱き締めた。

「蘭、好きだよ・・・」

そして深く口付けて来る。
蘭は今更のようにドキドキしながらも、新一の腕の中で、新一に抱き締められて、安心出来て幸せだった。









目を覚ましたとき、蘭は一瞬状況が判らなかった。

「蘭、お早う」

端正な男の顔が蘭を覗き込んで言った。

「あ・・・」

蘭は昨日初めて会ったこの男性から昨晩何度も抱かれた事を思い出して真っ赤になった。

新一が蘭を抱き締めて口付けてくる。
2人とも、一糸纏わぬ姿である。

「蘭」

新一の息遣いが荒くなり、その唇が、指が、蘭の体をまさぐり始める。

「あ・・・し、新一・・・」

朝の明るい光の中で再び新一に体を隅々まで見られて、蘭は恥ずかしくて身悶えするが、やがて新一の愛撫に何も考えられなくなる。
息遣いと喘ぎ声と隠微な水音が響く中、蘭は新一を受け入れて、甘い悲鳴を上げた。



  ☆☆☆



「シャワーを浴びておいで。朝ご飯にしよう。その後送って行くから」

事が終わった後、新一が言った。
時計を見ると時刻はもうそろそろ身支度を始めないといけない頃だった。
考えてみれば、昨夜はごく短時間しか眠れていない筈だが、不思議と眠気は感じなかった。

蘭はのろのろと起き上がり、バスローブを羽織ってシャワー室に行こうとしたが、足に全く力が入らず、座り込んでしまう。
いきなり、ふわりと抱き上げられた。

「し、新一?」
「・・・ごめん。無理させたから、足が立たねーんだろ?」

蘭は恥ずかしさのあまり赤くなって両手で顔を覆った。
新一はバスルームに蘭を連れて行き、そっと立たせた。

「じゃあ、俺、出てるから。終わったら呼んでくれ」

そう言って新一はバスルームのドアを閉めた。



バスルームは広々としていてトイレとは別になっているようだった。
蘭は何とかバスタブにたどり着き、シャワーを浴びた。
太腿の付け根や下腹部には鈍い痛みがあり、体のあちこちに赤い痣のような印が散っている。
蘭の中から、昨晩から今朝にかけて新一から注がれたものが流れ出して行く。

「私、あの人と・・・」

もう昨日までとは違ってしまった自分の体を改めて見直す。
生まれて初めて心惹かれた相手に抱かれた事は嬉しく、後悔などはしていない。
けれど蘭の心の中に、今、不安も生まれかけていた。

「私は、この身も心も全てがあの人のもの。だけどあの人は・・・?」



  ☆☆☆



身支度をし、ルームサービスで朝食を摂った後、蘭は運転手付きの車で大学まで送ってもらった。
新一も一緒である。新一の方は時間に余裕があるから、蘭を送った後に出社するとの事だった。

「蘭。俺、今夜は仕事が多分夜遅くなっから。先にあの部屋に入って待っててくれねーか?」

そう言って新一は蘭にルームキーを渡した。

「え?でも、新一・・・」
「俺、多分普通の恋人同士のようにデートする時間もそうそう作れねーと思う。でも、出来るだけオメーと一緒に過ごしてーから。駄目か?」

蘭はかぶりを振った。
少なくとも、今夜の誘いがあったという事は、昨晩1夜限りの付き合いでなかったという事だと思い、蘭はホッとしていた。

「食事は適当にルームサービスを取るか、レストランで食べてもらってて構わない。ルームキーを見せたらそれで会計は済ませられるから」

どうやら新一は、蘭と一緒に食事も取れない位に今夜は遅くなる様子だった。



  ☆☆☆



「蘭、どうしたのよ。心ここにあらずって顔してるよ?・・・昨日の就職試験、うまくいかなかったの?」

親友の鈴木園子が蘭に声を掛けて来た。
蘭は、昨夜の情事を思い出しては上の空になってしまっていたのだが、たとえ園子相手でも、今の時点ではまだ、新一との事を告げる気になれなかった。

「試験?ああ・・・よくわかんない。何か面接で喋り過ぎたような気がするのよね・・・」

新一は「君を採用するかどうかと今の事は基本的に無関係だよ」と昨日言っていたが、採用予定の相手には手を出さないのではないかという気もする。

「蘭、いざとなったらさ〜、うちの社員になりなよ」

園子は、鈴木財閥の会長・鈴木史郎の次女なのである。
蘭1人を社員に迎える位は簡単に出来る事だった。

「でも園子、それじゃ迷惑でしょ?」
「迷惑なんかじゃないよ、蘭はきちんと仕事すると思うし、うちにとっても優秀な社員が入った方が得だしさ」

園子の気持ちはありがたいと思う。
けれど、ずっと友達で居たいから、経済的な事や仕事の事で園子の世話になりたくないと蘭は思っていた。



大学に入ってからの蘭は、自宅を出てアパートで独り暮らしをしていた。
親元に居るのではないのがわかっていたからこそ、新一も蘭を引き止めたのだろう。
最初は自宅から通学する積りだったが、あまりにも遠方なために結局1人暮らしをする事にしたのだった。
母親の英理が、女性の1人暮らしでも安全で治安も悪くない、それでいて家賃もそう高くないアパートを一緒に探してくれた。
父親の小五郎は渋い顔をしていたが、結局蘭を信頼して1人暮らしを許してくれた。
そして蘭は父親の期待に違わず、今迄品行方正に暮らしてきたのだった。

「私・・・今迄『良い子』をやって来れたのは、そういった相手が居なかったから、それだけだったんだね」

男性を愛し愛される事を知ってしまった今、もはや後戻りが出来ない事を蘭は自覚していた。



  ☆☆☆



その日、蘭は一旦帰宅すると、家のお風呂に入って着替えをした。
下着も、出来るだけ可愛いものをと吟味し、そんな自分の行動に改めて赤面する。

「新一、夜遅いって言ってたけど、御飯食べる暇はあるんだろうか?」

新一はルームサービスかレストランと言っていたが、たまにならともかく、毎日それでは栄養も偏ってしまうだろう。
蘭は冷蔵庫にある材料で何品かの料理を作るとそれを容器に詰め、アパートの鍵を掛けて出掛けて行った。



  ☆☆☆



蘭は昨晩殆ど眠れていない為もあって、ホテルの部屋で1人待っている内に、ソファーの上でウトウトと眠り込んでしまった。
気が付いたときは、ベッドの中で服を着たまま新一に抱き締められていた。

「新一・・・?」
「ごめん、起こしちまったか?疲れてんだろ、もうちょっと眠ると良い」
「ううん、平気よ。明日は土曜日で休みだし。新一は?御飯は食べたの?」
「いや・・・食う暇なかったからな、それにもうルームサービスもレストランも終わってる。良いよ、俺も明日は休みだし、今夜くらい御飯食べなくても」
「あ、あの・・・私、作って来たの。良かったら食べる?」
「え?良いのか?」

蘭は起き出すと、隣のリビングの方に行き、持って来ていた料理をテーブルの上に並べた。
新一が口笛を吹く。

「すげーな、これだけのもん手作りかよ」
「あの・・・お口に合わないかも知れないけど。どうぞ」


蘭が持参した手料理での晩餐が始まった。
部屋に備え付けられた湯沸しポットでお湯を沸かしてお茶を淹れる。

「うめぇよ。蘭は料理上手だな。大学に入ってからずっと自炊してたのか?」
「え?うん、大学に入ってからもだけど・・・」

母親の英理が、蘭が7歳の時父親の小五郎と喧嘩し家を出て以来、10年間別居していた。
やっと帰って来たのが、蘭が高校2年生の時である。
その間、蘭は毛利家の家事を一手に引き受けていたのだ。
しかも、何でも完璧にこなす英理が、何故か料理の味付けだけは天才的に不得手だったので、蘭はほぼ独学で料理を覚えたのであった。
そういった事を、食べながらぽつぽつと語る。

「俺の方は、お袋は料理上手とは思うけど、洋風の洒落たものが好きだったからさ、煮物とか魚の塩焼きとか、普通の家庭料理みたいなのはあんまり作ってくれなかったな。俺も一通り作れない事はねーけど、忙しいとやる暇ねえし」
「新一のお母様ってどんな方?」
「まあ何と言うか・・・ぶっ飛んでるよ。蘭もその内会う機会があるさ」
「え・・・?」
「たまに東京本社にも顔出す事あっからよ」
「・・・ねえ新一。私、だって・・・採用試験には落ちたんじゃないの?」
「ああ、競争率高かったからか?大丈夫、今日採用者は正式決定してたから、数日の内には採用内定通知が届くよ」

蘭は新一の言葉にホッとするのと同時に、恐れを抱いていた。
一線を越えてしまった相手の部下として入社して、本当に良いのだろうかと思ってしまったのである。









その後蘭は何度も新一に抱かれ、眠りに就いたのは明け方近くだった。
2人が目を覚ましたのは、流石に日が中天近く上ってからである。





その日は2人で映画を見た。
そして夕方、蘭は新一と別れて帰宅した。

新一が土日は家に帰らないとならない、月曜の夜再びあのホテルに来るようにと蘭に言ったのである。



今迄は当たり前だった1人きりの夜。
しかし、たった2日間、新一の温もりに包まれた夜を過ごしただけで、蘭にはそれがとても味気ないものに感じられてしまったのだった。







(3)に続く



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(2)の後書き

ハイ、予告通りにこの2人の初エッチです。私、新蘭の初エッチってこれで何回目かしら?同人誌でも書いたし。流石にパターンにつまり、苦労しました。
でもこの先、「The Romance of Everlasting」でも新蘭初エッチシーン書く予定なのよねえ・・・まああれには今までにないある条件があるから、少しは目先が変わるだろうけど。

さて、出会ったその日にベッドイン(まあ今日日珍しい事でもないが)して付き合いだした2人ですが、次回はクリスマスもお正月もすっ飛ばして(それ書くと冗長になっちゃうし)3月、蘭ちゃんの大学卒業に話は飛びます。文字通り「愛人」ぽいシチュエーションになっていく予定です。

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