一週間〜ハニーウィーク〜



byドミ



<第7日>



5月5日、子供の日。

朝の光の中で、蘭は目覚めた。
昨日、法的に夫となったばかりの新一の腕の中で。

「おはよう、蘭」
「おはよう、新一」

挨拶して、口付けを交し合う。

「蘭・・・」
「あっ・・・」

新一の指が、新一の唇が、蘭の肌の上を滑って行く。
新一の愛撫に蘭の体は容易く反応し、白く透き通った肌が桜色に染まる。

「新一・・・そろそろ身支度しなきゃ・・・あん・・・」
「帰る前に、もう1度だけ」
「で、でもっ・・・はあん!」
「1回じゃ足りねえけど、あとは帰ったら、またしような」
「ば、ばかっ!あ・・・ああっ!」

蘭が新一と出会ってから、今日で1週間目。
出会った次の日に結ばれてから、何度も肌を重ねている。

昨日、2人は婚姻届をだし、蘭は「工藤蘭」となった。

つい最近まで、恋をする気持ちすら知らなかったのに、新一と出会って生まれて初めて恋をして。
お互いの気持ちを知らぬままに、肌を重ねて。
そして、やっと気持ちが通じ合ったと思ったら、恋人時代はあっという間に通り過ぎ、夫婦となったのだ。

蘭が旅行に来たこの一週間は、蘭の生涯を変えてしまった。
新一にとっても、そうであろう。

蘭は、親友の園子にだけは、新一と夫婦になった事を昨夜電話で伝えていた。
園子は驚きつつ喜んでくれた。

けれど、本来告げるべき相手には、まだ2人とも報告をしていない。
修羅場は予想できるがあえて考えないようにしていた。


「蘭、蘭・・・愛してる・・・」
「あ・・・はあん・・・新一・・・私も・・・愛してる・・・」

部屋の中には、隠微な水音とベッドが軋む音、甘い悲鳴と激しい息遣いが響き渡る。

新一が蘭の奥を激しく突き上げ、蘭はしっかりと新一にしがみつきながら、背中を反らせ、甘い声を上げて果てた。


   ☆☆☆


このまま余韻に浸って居たいのは、やまやまだったが。
帰る時刻も迫っている。
2人、ゆるゆると起き上がり、交代でシャワーを浴びて身支度をし、荷物をまとめ始めた。

新一と知り合い恋に落ち、結ばれたこの地とも、もうお別れである。
2人は、ホテルを出た後、駅に向かうシャトルバスに乗り込んだ。

そして、2人が初めて結ばれた山小屋の方向に、蘭は目を向けた。

「あっ!」
「蘭、どうした!?」
「山小屋の毛布、汚しちゃってそのまま・・・!」
「ああ・・・それなら・・・」

新一が、自分の荷物の中を見せた。
そこにあるバスタオルを見て、蘭はきょとんとした後、真っ赤になった。

「し、新一、まさかこれ!」
「蘭の初めての印は、毛布じゃなくてこれに受け止めてっから、大丈夫だよ」
「なななっ!」
「いや、まさか破瓜の血を受け止めるとは予想してなかったけど、2人の体液で毛布を汚しちまうのも、何だかなーと思ってよ」

蘭は真っ赤になりながら、何でこの男はこういうところに妙に頭が回るのだろうと考えていた。

「新一って、本当に童貞だったの?」
「だから!あーもう、オレって信用ねえんだな」
「だって・・・」

何に対してでも、悪魔のように頭が回るこの男が、蘭の事では冷静に考えられず思考力がストップしてしまう事を、蘭はまだよく分かっていなかった。

「そ、そんなの持って帰るの?洗濯しても、きっと落ちないよ・・・血だし、時間が経ってるし」
「良いんだよ。置いて帰る訳には行かねえだろ?」
「そ、それはそうだけど・・・」

嬉々としている新一の表情に、蘭は、これ以上突っ込むと怖い答が返って来そうな気がして、追求するのをやめてしまった。


   ☆☆☆


蘭は、門の外から工藤邸を見上げて、溜め息をついていた。
ここは、何度も通った事があり、良く知る場所だったのだ。
子供の頃オバケ屋敷と呼んで近寄るのを憚った、大きな古い洋館である。

今となってみれば、特に昼の明るい光の中では、古い館ではあるがオバケ屋敷には見えない。

「ねえ新一。こんなに近所に住んでたのに、しかも同級生なのに、何でお互いその存在を知らないままだったんだろうね?」
「そうだな〜。オレは、小学校上級から中学にかけては、アメリカに行ってたんだよ。親父が、あっちを仕事の本拠地にしたからな」
「そっか。だったら、無理ないわよね。高校生探偵の新一は、帝丹高校生だったし、私は米花女子高に行ってたし」

新一が玄関のドアを開けて、2人は工藤邸に入った。
中は、一応それなりに綺麗に整っている。

「掃除の手も行き届かなくてよ、まあ、いつも使う辺りは何とかしてんだけど」

荷物をとりあえず玄関ホールに置いて。
蘭は新一に案内され、リビング・ダイニング・キッチンと、大きな書庫を見せてもらった。

「1階で今使っている部屋は、大体この辺りだな。リビングは、依頼人やお客さんが来た時の応接室を兼ねてる」

キッチンでは、大きな冷蔵庫があったが、殆ど空っぽに近かった。

「新一、料理しないの?」
「いや、そこそこは。でもまあ忙しくて、外食とかコンビニ弁当とかが多いかな?」
「駄目よ、そんなんじゃ。探偵は体が資本でしょ?」
「あ、ああ・・・」
「これからは、新一の健康管理が私の仕事になりそうね」
「宜しくお願いします、奥さん」

新一は決して、蘭にそういう事を期待して手を出した訳ではなかろうが。
おそらくこの先は、蘭が1人で工藤邸の家事を切り回す事になるであろう。

蘭は、それが嫌な訳では決してない。
ただ、新一にも、いざとなった時の生活能力は改めてきちんと身につけさせなければと考えていた。


不意に蘭は、新一から横抱きに抱えられた。

「なな!何するの!?」
「欧米なんかでは、新婚の花嫁を、夫が寝室まで横抱きにして連れて行くのが、当たり前なんだよな」
「ここは、欧米じゃないし!」
「良いじゃねえか。オレがやってみたかったんだから」

そう言いながら新一は、階段を登っていく。

「2階には、親父達の寝室とか親父の書斎とか色々あるけど・・・今使ってるのは、オレの寝室だけだな」

新一が、蘭を抱えたまま、器用に寝室のドアを開け。
蘭はベッドの上に下ろされた。

「セミダブルベッドだけど、とりあえず充分だろ?」

新一の手が蘭のブラウスのボタンにかかり、脱がせて行く。

「な・・・新一!?」
「帰ったら、またしようって、言っただろ?」
「新一は言ったけど、私はうんって言ってない!・・・あっ!」

この数日で、蘭のどこを攻めると弱いか、新一にはすっかり把握されており。
蘭の本気ではない抵抗は、すぐに封じ込められてしまった。


   ☆☆☆


「もう!信じられない!旅行帰りで疲れてるんじゃないの!?」

新一の寝室に連れ込まれてそのまま2連戦だったので。
蘭は呆れ果てながら、シーツを体に巻きつけてけだるい体を起こした。

「いや、疲れてても、そっちのエネルギーはまた別みたいなんだよな〜」

そう言いながら、新一は、下着を身につけた後、クローゼットからスーツを引っ張り出した。

「新一・・・?」
「どんな格好してても、おっちゃんに歓迎はされねえだろうけど。一応な」
「これから?」
「ああ。順序が後先になっちまって、余計に怒らせるのは目に見えてっけどよ。挨拶しねえ訳には行かねえだろ?」
「うん、そうだね・・・ねえ、新一。私、お父さんが許してくれなくても、こっちに帰って来て良いのよね?」
「ああ、勿論。ここはもう、蘭の家でもあるんだから」

蘭は、笑顔になって、新一の胸に顔を寄せた。

「蘭。スゲー嬉しいんだけど、今はそれやられっと、オレ、困るぜ。このまま時と場合を忘れて、押し倒したくなっちまう」

新一が顔を赤らめて言った。

「・・・もう!新一のスケベ!」
「ああ。蘭限定で、な。あんまり遅くなっと、まじいだろ?」

そう言って新一が蘭の額に口付けて来た。


蘭は、身支度を整え、鏡を覗き込んだ。
もう既に、蘭の気持ちの中でも、今日初めて訪れた工藤邸が、自分の家になって来ている。

だが、蘭自身はもう新一の妻である自分を自覚して気持ちを切り替えていても。
両親、特に小五郎は、そうは行かないだろうと分かっている。


2人は連れ立って工藤邸を後にした。
日はかなり傾きかけていた。


蘭は最初、3階の自宅の方に行ってみた。
祭日なので、英理の事務所も休みである。

「ニア〜」

ロシアンブルーのゴロが、蘭を出迎えた。
英理がまだ小五郎と別居していた頃に飼い始めた猫で、今は毛利邸に居る。

「ゴロ。お母さんは?」

蘭がゴロを抱き上げていると、奥から英理が出て来た。

「あら、蘭、お帰りなさい。何だか今日は出かける気もしなくてね、ゴールデンウィークで人も多いし・・・」

英理は言葉を切って、じっと蘭を見据えた。

「な、何?お母さん」
「ふうん、園子さんと女同士の旅行って言うのは、やっぱり嘘だったのね」
「えっ!?」
「成人した娘が、男と旅行でも、固いこと言う気はないけど。あの唐変木はともかくとして、私に位は、本当の事言って欲しかったわね」
「あ、あの・・・お母さん、紹介したい人が居るの。会って貰える?」

蘭が、必死で言葉を搾り出して言った。

「分かったわ。でも、下の事務所にしましょう。小五郎とも、会わせなきゃいけないでしょ?」
「う、うん・・・」
「じゃあ、私は先に事務所で待ってるから」

そう言って英理は、毛利探偵事務所の方へ向かった。
蘭は大きく息をつき。
ビルの前に立っている新一へ、携帯で連絡を入れた。


   ☆☆☆


蘭と一緒に事務所に入って来た人物を見て。
流石に英理は目を丸くした。

テーブルの上には、コーヒーが4つ載っている。

「おお、蘭、帰ったのか?・・・小僧!何でオメーがここに!?」

小五郎は、蘭に続いて入った来た新一を一目見るなり、血相を変えて立ち上がった。

ただでさえ、新一は小五郎から敵意を抱かれているようであるし、これからの話でどれだけ激昂するものか、新一は見当もつかなかった。


英理が小五郎の隣に腰掛け、新一は英理に目線で促されて、小五郎と英理の向側に腰掛けた。

新一は深呼吸をした後、言葉を出した。

「お義父さん、お義母さん。事後報告になってしまい、申し訳ありません。オレは、蘭と・・・蘭さんと、昨日入籍し、夫婦になりました」

流石の事に、小五郎も英理も固まって。
暫くその場に沈黙がおり、誰も身じろぎひとつしなかった。

長い時間が経って(あるいは短い時間だったのかも知れないが)、小五郎がまず動いた。
小五郎は、煙草に火をつけようと、ライターを何度もカチカチさせた。
ようやくライターから炎が出て、小五郎は煙草に火をつけ、煙を吸い込んで吐き出した。


「オメー、何つった?」
「ハイ。お嬢さんの蘭さんと、昨日、入籍しました。蘭はもう、工藤蘭、オレの妻です」
「ふざけんな!!」

小五郎が立ち上がり、新一の胸倉を掴んだ。

「交際してますでもお嫁に下さいでもなく、もう結婚しましただと!?そんな馬鹿な事、認められるか、ああ!?」
「お父さん、乱暴な事はやめて!」
「オメーは黙ってろ!」

テーブルを挟んで向かい合った無理な体勢から、小五郎は新一のネクタイを引っ張って引き寄せると、背負い投げをかけた。

「ぐっ!」

新一は、小五郎の座っているソファの後方に落ちた。
身を起こす新一を、小五郎は冷たく見下ろした。

「ふん、弱っちい見かけの割に、受身は取れるようだな」
「小父さん・・・」
「事件をパズルか何かと勘違いしているクソ生意気な探偵坊主、オレは昔からオメーが大嫌いだったよ!最近、少しは大人になって来たかと見直していたら、よくもオレの娘を誑かしてくれたな!」

小五郎は再び新一のネクタイを引っ張った。

「立てえ!小僧!」
「お父さん、やめて!」

蘭が、新一の前に庇うように立ちふさがった。

「蘭、どいてろ・・・」
「だ、だって!」
「オレは、構わねえから。娘を攫って行く男なんだからよ、多少痛めつけられても仕方ねえし」

新一が微笑みながら蘭にそう言って。
それは逆に更に小五郎の怒りに油を注いだようである。


「貴様、何を蘭に対して我が物のような顔してんだ!蘭、オレは絶対許さん!戸籍に傷がつくのはシャクだが、離婚届を即刻出してやる!オメーはもうこの家から1歩も出るな!」
「お父さん!私、お父さんが許そうが許すまいが、もう、新一の妻で、新一のものなの!」
「オメー、何を馬鹿な事を!」
「それに、それに、私のお腹には、新一の子供が居るんだから!!」

蘭の発言に、流石に新一は驚いて蘭の方を見た。

「何だと!?」
「子供の為にも、お願い、お父さん!」
「子供は降ろせ!」


激昂した小五郎の言葉に。
思いがけない人物が動いた。


「グホッ!」

小五郎がくぐもった声を上げてソファーの横の机に倒れ込み、床に崩れ落ちた。


新一と蘭が呆然として視線を動かす。
そこには、額に青筋を立て怒りのオーラを纏った英理が仁王立ちしていた。

小五郎は、英理からグーで思い切り殴られたらしい。


「あなたが、それを言うの?毛利小五郎サン?」

英理の声音は恐ろしく、小五郎は殴られた頬を押さえ、鼻と口から血を流しながら、真っ青になって英理を見上げた。

起き上がった新一も蘭も、呆然として見守る。


「分かっているの!?小五郎!?23年前に、あなたが私の父から何を言われたか、忘れたの!?」
「あ、ああ・・・スマン・・・」

小五郎は、余程頭が冷えたのらしい。
大きく息をついて、立ち上がると。

「顔を洗ってくる」

そう言って、奥の洗面所に向かった。


「蘭、ホントなのか!?アカンボの事!?」
「新一まで、もう、何言ってるのよ!?可能性はあるけど、まだ分かる訳ないでしょ!?」

「やっぱりね。蘭、あなた新一君とは、今回の旅行でそういう関係になったんでしょ?」

英理が溜め息をついてそう言った。

「蘭としては、許して貰いたい一心で言ったのでしょうけど、あんなの、逆効果よ」
「ごめんなさい・・・」
「あの。小母さん、もしかして、その・・・小父さんと小母さんは、出来ちゃった婚だったんですか?」

新一の言葉に、英理は目を丸くした。

「ちょっと違うわ。でも、おそらく想像ついただろうけれど、蘭が私のお腹に居る時に、小五郎とお父さんの間で、似たようなやり取りがあったのよ。
だから私は、さっきの小五郎の言葉が許せなかった。あの時、2人で頑張ったからこそ、蘭がここに居るのに。その蘭を奪われたくないばかりに、興奮していたとは言え、簡単に降ろせって言葉を出した、あの人がね」
「お母さん・・・」
「蘭、あなたが気付いているかどうか知らないけど、新一君って色々な意味で小五郎に似てるわよ。だから、小五郎は新一君を毛嫌いしているんだと思うわ」

新一と蘭は、複雑な表情をした。
新一が小五郎に似ていると言われると、微妙に嬉しくない気持ちになってしまう。

「あ、勿論、違う部分も多いわ。そんなに気にしないで」
「小母さん、あ、いや、気にしている訳では・・・」
「私達の時もね、私と一線を越えた後、あの人は責任取るって、先に入籍してしまって。私の父には事後承諾だったの」

英理が語る思いがけない事実に、新一と蘭は、あんぐりと口を開けてしまった。

「まあ、私達の時には、幼馴染という長い歴史があったけれど、あなた達って・・・いつから付き合ってるか知らないけど、そんなに長い事ではないわよね?」

新一と蘭は、顔を見合わせた後頷いた。
流石に、数日前旅行先で知り合って、恋に落ちたのだとは言えなかったが。

「でもまあ、付き合いが長かったら良いのかって言えば、そうも言えないわね。私達も喧嘩ばかりで、暫く別居もしてたし。でも、勢いだけで結婚して、後でやっぱり違ったとかならないように。せっかく縁があって結婚したなら、その関係を育んで頂戴。子供が出来た後離婚とかになったら、子供が可哀想だし。ま、その点は、私に偉そうな事は言えないけどね」


その時、洗面所のドアが開いて、小五郎が出て来た。
頬の腫れはまだ引いていないが、頭は冷やしたようで、冷静な表情になっている。

小五郎は、ソファに腰掛けると、改めて新一と蘭を向かい側に座るように促した。

「オメー達、まだ付き合いも浅いんだろ?それに蘭、オメーはまだ世間知らず、こいつの表面だけに騙されてる可能性もある。恋人同士ならやり直しも利くが、一旦結婚したとなったらおいそれと引き返せねえ。その覚悟はあるんだろうな?」


蘭が、泣きそうな顔で口を開いた。

「あのね。これ・・・今更言って良いものかどうか、迷ったんだけど。私が7歳の時、お母さんが家を出て行って、10年も別居してたでしょ?」

新一が、驚いて蘭を見た。
小五郎と英理のそういった過去は、ちらちらと聞いた事はあったけれど、今、蘭の口からその時の事が語られるとは思っていなかったのだ。

小五郎は目を丸くして、英理は苦しそうに顔を歪めて、蘭の言葉に聞き入る。

「私、今では、理解出来るよ?その時の、お父さんとお母さんの事。でも、子供の私には理解出来なくて、辛くて苦しくて寂しくて、堪らなかった・・・」

英理が目を瞑って深く息を吐き出した。
幼い蘭が傷付いただろう事は、英理にも分かっているのだろう。
けれどそれを改めて蘭の口から聞かされると、強い罪の意識が英理を襲ったのであろう。

「でも、10年経って、お母さんが帰って来て。私、自分でもその痛みは消え去ったって、思ってたんだけど。そうじゃなくて、私の心の奥深くに、それは残っていたの」
「蘭・・・」

テーブルの上で堅く握り締められた蘭の手に、新一がそっと自分の手を重ねた。
蘭の表情が緩み、新一に少し微笑んで見せた。

流石に小五郎も、そういった2人の様子を咎めようとはしなかった。

「新一と結ばれて。新一に結婚しようって言われて。私、私ね・・・うまく言えないんだけど・・・幼い蘭の心の傷が、初めて、癒されたの。ずっとずっと、私の中で泣いてた、小さな蘭が、今、幸せそうに笑ってる。・・・私、新一のお嫁さんに絶対なるんだって、その時、決心したの。だから・・・だから・・・私,許して貰えなくても新一と一緒に生きて行く積りだけど。お父さんとお母さんにも、出来れば許して欲しい・・・」

涙ながらに語る蘭の姿に、暫く誰も口を開こうとしなかった。

ややあって。
小五郎は、別人のように穏やかな表情と口調で、話し始めた。

「まあ、何だな。認めたくはねえが、蘭は成人しているし、自分で伴侶を選ぶ権利はある。籍を入れちまったもんも、子供が出来ちまった事も、仕方ねえ。後は・・・まあ、蘭はあんまり親に甘える方じゃなかったし、どっちかと言やあ、世話になったのはオレの方だが。
結婚したからには、相応の責任というものがある。2人で力を合わせて、ま、何だな、蘭が実家に帰る必要がねえように、頑張ってくれ」
「お父さん・・・」
「小父さん・・・」
「新一。蘭を泣かせると、承知しねえぞ!浮気なんぞしてみろ、そん時は、蘭が嫌がっても蘭と孫は連れてくからな!」
「浮気なんか、絶対しませんよ。泣かせない保障は出来ませんが・・・頑張ります」
「ふん。結婚したての頃は浮気なんかしないって誰でも言うもんだ。だがまあ良い。それと、けじめはつけろよ、式はきちんと挙げるんだろうな?」
「ハイ、出来ればオレの夏休みに」
「そう言やオメー、まだ学生だったよな。オレ達が結婚したのも学生の時で・・・あ、いや。夏場は悪阻が余計に酷いかも知れんから、それは気をつけてくれ」
「ハイ・・・」

今更、蘭の妊娠が嘘だとも言えず、新一は神妙に返事した。
それに嘘とも言い切れない、もし蘭が子供を宿していたら、新一の夏休み頃は、悪阻の時期になるかも知れないのだ。

「お父さん、ありがとう!」

蘭が小五郎にしがみついて、泣き出した。

「おいおい、オメーはもう奥さんで、これから母親になるんだろうが。そんなに泣き虫でどうするよ」

小五郎が、照れたような優しい表情でそう言った。
英理が、半分呆れたような目でその様子を見ながら、けれど、笑顔で息をついた。

「ところで、新一君。有希子達には?」
「あ、まだ、今からです」
「でしょうね。多分、大丈夫だとは信じているけど。一刻も早く知らせてあげたら?」
「はい、そうします」



新一から電話で連絡を受けた優作と有希子が、(事後報告になってしまった事は有希子から散々厭味を言われたが)大喜びをしてくれたのは、言うまでも無い。




<エピローグ>に続く

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<後書き座談会>

園子「蘭、良かったわねえ」
平次「最大の難関、クリアーやな」
和葉「アタシが予測してた程修羅場にはならへんかったな」
園子「何だかんだ言っても、小父さん蘭には甘いから」
和葉「せやろか?本編では、あんなもんじゃ済まへんのやないか思うで」
平次「この件に関しては、和葉に一票入れるで」
園子「ところで、小母さんが家を出て行った件は、原作と同じなのよね。やっぱり蘭は深く傷付いただろうけど、原作では新一君の存在が蘭の支えになったと、ドミさんは見てるみたい」
和葉「けど、それは確かにそうなんちゃうの?で、このパラレル話では、工藤君が蘭ちゃんの傍に居らへんかったから、トラウマになったっちゅう事やろ?」
平次「そういった裏設定を作中で解説出来ずオレ等に語らせるんが、ドミはんの未熟さやな」
園子「で、今回で一応1週間という期間が終わったのよね」
和葉「ま、エピローグは時間がちょお飛んで、結婚式で締め!やろな」
園子「それは間違いないと思うわ。私もやっと、電話の向こうじゃなくて出番があるのね〜」
平次「この世界では、オレと和葉は存在しとんのやろか?」
和葉「存在はしてるやろ。けど、工藤君とお友達なんかは、分かれへんな」
平次「エピローグでオレらの出番があるかどうかは、蓋開けてみんと分からん言うこっちゃな」
園子「あ、エピローグではもう、この後書き座談会はないって聞いたよ」
平次「ならもう、ここでお別れかいな」
和葉「平次、お話の方に出番があるとええな」
園子「それじゃとりあえず、皆さん、ごきげんよう」

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