一週間〜ハニーウィーク〜




byドミ



<第4日>



蘭が目を覚ました時。
一瞬状況が掴めなかった。

けれど、無意識の内に、自分を包む温かさに安心感を覚える。


蘭は新一に抱きこまれ腕枕をされている格好で、生まれたままの姿で、眠っていたのだった。

蘭は微笑み、新一の胸板にそっと頭を摺り寄せた。
真由にはとても気の毒で、今も胸が痛むけれど。
新一が蘭の元に来てくれて、蘭は嬉しく幸福だった。

たとえ、新一が責任と義理の為に蘭と共にある事を選んだのだとしても、それだけでも充分だと蘭は思っていた。


蘭は、自分の脇腹に何か固いものが当たり、うごめいているのに気付いてビクッとする。
それが新一の「男性のシンボル」である事に気付いて、蘭は真っ赤になった。


「おはよう、蘭」

優しい声が振ってくる。

「あ・・・お、おはよう・・・」

蘭は新一の顔をまともに見られないまま、返事をした。
新一が蘭の顎を捉えて上向かせる。
蘭は、笑い顔の新一と目が合った。

「新一、もしかして、狸寝入りしてた?」
「蘭の寝顔が可愛くて、堪能させて貰ったよ」
「んもう!」
「・・・蘭の方から、可愛い事されたから、元気になっちまった」

新一がいたずらっぽい瞳でそう言って、蘭はその意味が分からずきょとんとする。
新一は蘭を仰向けにさせ、上からのしかかった。

「し、新一・・・!?」

新一のものが、蘭の下腹部でピクピクと動き、蘭は意味に気付いて再び真っ赤になった。

「こうなっちまった責任を取って、鎮めてくれよな?」
「せ、責任って・・・!きゃあっ!」

今まで何度も受け入れておきながら、おかしな事だが。
蘭は今迄、新一のそれを直接見た事はなく。
そそり立つものを見て、思わず小さな悲鳴を上げてしまった。

「何を今更驚いてるんだ?」
「だ、だって・・・」
「そんなにビクつくなよ。傷付くなあ」
「意地悪・・・」

新一が蘭の手を取り、自分のものを握らせたので、蘭は息を呑んで身を震わせた。

「蘭。これがオメーの中に入って、オメーとオレとを繋ぐものだ。まだ恥ずかしいかも知んねえけど、目を逸らさないでくれ」

太く固く長いそれが、蘭の中に入るのだと思うと、蘭は不思議な気がした。
最初の時あれだけ痛かったのも、よく分かる。
けれど、既に慣れて蘭の奥深くにスムーズに入るようになってしまったのが、不思議だった。

新一のものを握っていると、手にぬるりとした感触を感じた。

「え・・・?何でヌルヌル・・・?」

新一のものの先端から、滴るものがあった。

「・・・先走りの液だよ。これが潤滑材になって、女性の中に入るのがスムーズになんだ」
「新一・・・詳しいよね・・・」
「ん?まあその程度の知識はねえとな・・・探偵としても男としても、色々と・・・」

新一が顔を赤くして最後はごにょごにょと誤魔化すように言った。

いきなり新一の手が伸びて来て、蘭の泉に触れる。

「きゃあっ!!」
「ホラ。蘭のここも、もう、オレのものを受け入れる準備完了だ」
「・・・や、やだっ!!」
「恥ずかしがる事ねえさ、これも潤滑材で、男のものの挿入をスムーズにして、体を守ってんだから」
「え・・・?そ、そうなの・・・?」
「そうだよ。だから、感じた時だけじゃなくて、乱暴された時も、ここは濡れる。自分の身を守る為に」
「・・・・・・」
「先走りの液には、他にも役割はあっけどな。女性のあの部分の酸性を中和して精子が死なねえようにするとか。それに、精子も少し含まれてっから、外出しは避妊として不完全なんだ」

初めて知った事実に、ただただ蘭は驚くばかりである。
探偵という仕事柄なのか何なのかはよく分からないが、新一は蘭以上に、男女の生理的な部分には詳しいようだ。


「新一は、今迄・・・」
「ん・・・?」
「ううん、何でもない・・・」

新一は今迄、どれだけの女性と体を重ねてきたのか、どんな女性遍歴があったのか。
一瞬訊きたくなって、でも聞くのが怖くて。
蘭は開きかけた口をつぐんだ。


新一が、今は蘭だけをそういう相手にしているのなら、それで良いではないか。
新一に別の相手が出来たならその時は、きっと筋を通して蘭に別れを告げて来るのだろう。

いつかその時が来たら、新一が蘭に別れを告げる。
それを想像しただけで、蘭の目から涙が滲んだ。


「ら、蘭・・・!?どうした!?オレ、デリカシーのない話をし過ぎたか!?」

新一が慌てまくって、蘭は目をぱちくりさせた。
全然見当違いの事を考えて慌てているにしても、蘭が涙を見せるだけで新一が慌てまくるのは、申し訳なくも嬉しかった。

新一が蘭をきゅっと抱き締め、口付けて来た。
そして一旦唇を離すと、蘭の目尻に滲む涙を、唇でそっと拭う。

「泣くなよ。オメーに泣かれると、オレは・・・」
「新一・・・」

新一の唇はそのまま蘭の喉元へと移り、新一の手は蘭の胸を揉みしだき始める。

「はあ・・・ん・・・」

蘭はすぐに甘い声を上げ始める。

新一の愛撫に応じて、蘭の肌は赤く染まっていく。

そして、充分蜜をたたえた蘭の秘花に、新一のものが音を立てて飲み込まれていった。

「あああああん!」

蘭の体は、新一のものが入ってくる瞬間にも快感を覚えるようになっていた。
新一が腰を動かすと、蘭の口からはあられもない声が飛び出す。

そのまま高みに行こうかという瞬間に、ベッドサイドテーブルの上から、突然メロディが流れ出した。


「あ・・・・・・」

流れ始めた「いつも何度でも」のメロディは、蘭の携帯の着メロである。


新一が動きを止めて言った。

「蘭。取らなくて良いのか?」
「で、でも・・・」
「急ぎの用事だったら困るだろ?」

この状況で電話を取るのは気が進まなかったが、蘭は携帯を取って広げた。
画面を見ると、送信者は高梨である。

「高梨さん?え?今、こっちに向かってる・・・?」
『今、列車の中からだ。待ち長かったよ、もうすぐだね』

蘭は、次の言葉を言い淀んだ。
本来、高梨と結ばれる筈だった旅行で、蘭は他の男・新一を受け入れ、蘭の全てをあげてしまい、今もその新一と交わっている真っ最中なのである。

高梨に対して罪悪感はあったが、高梨が蘭を赦す赦さないの前に、蘭自身が最早、高梨を受け入れられない事を自覚していた。

「蘭。オメーの『恋人』からか?」

新一に冷たい声でそう言われ、蘭は息を呑んだ。
新一の眼差しも声も、蘭が知らなかった冷たいもので。

蘭は新一に対して、今まで知らなかった恐怖感を抱いた。


突然、新一が動き、蘭の奥を突き上げた。

「あん!」

蘭は思わず声を出してしまい、慌てて手で口を押さえた。
携帯は蘭の手から滑り落ちる。
新一がそれを手にした。

新一は蘭を深く突き上げながら、開いた方の手で、蘭の胸の飾りを撫で回す。

「あ、あん・・・ん、はん、んああっ」

耐え切れず、蘭の口から甘い声が漏れる。
新一は蘭の携帯を蘭の口に当て、その「声」を相手に届けた。

高梨の混乱したような声が携帯のスピーカーから聞こえてくる。
蘭は、その状況をどこかで認識しながら、新一が蘭の奥を突き上げる行為と胸への愛撫に、身をくねらせ声をあげた。

新一は、今度は自身が蘭の携帯を持ち、口を開いた。

「もしもし。ん?オレは工藤新一、探偵さ」
「ああ・・・んああん・・・」
「蘭は、オレのをくわえ込みながら、よがってスゲー良い声で鳴いてるぜ。オメーの聞いている通りにな」
「ん、ああん・・・はあああん・・・しんいちぃ・・・」
「ああ?蘭は正真正銘バージンだったよ、一昨日オレが頂いたがね。蘭は見た目も最高だが、感触も感度もあそこの締まりも、最高にイイ女だぜ」

携帯からは、高梨の喚く声が聞こえ続けていたが、新一は携帯を切ると、それを床に放り出した。
そして蘭を激しく突き上げる。
新一が蘭の中に熱いものを放つのと同時に、蘭はひときわ高い声を上げて、果てた。


事が終わり、新一が腕枕をして蘭を抱き寄せる。
蘭は暫くイッタ後のけだるさに身を任せてぼんやりしていたが、突然、新一の胸にこぶしを打ちつけた。

「イテッ!蘭、何する?」
「・・・酷い!新一、何て事したのよ!?」
「何の話だ?」
「さっきの携帯・・・!何で、何で、あんな・・・!」

その言葉に、新一の目に剣呑な光が宿る。

「ひでえのはどっちだ!」

新一が蘭の肩を強い力で掴んだ。

「新一・・・いた・・・」
「オメーは、オレとこんな事しておきながら、何食わぬ顔で高梨とやらとまた、よろしくやってく積りだったのか!?」
「ち、ちが・・・そんなんじゃない・・・」

新一が蘭の胸の飾りを口に含み、強く吸った。
揉みしだく手も、強く乱暴な動きだった。
今までの優しい愛撫と異なる荒々しい行為に、蘭の顔が歪む。

「痛い!止めて!」

蘭が初めて新一に抗い、押しのけようとした。
すると、蘭の肩を掴んでいた新一の力が緩み、いつの間にか蘭の頬を流れていた涙を、新一が唇で優しく拭い取った。
蘭がギュッと閉じていた目を開くと、新一の眼差しは先程の怖いものとうって変わって、優しいものに変わっていた。

「蘭。ごめん。オメーを泣かせてえ訳じゃなかったんだ・・・」
「新一・・・?」
「乱暴な事して、すまねえ・・・」

新一がふうと溜め息をつき、蘭を抱き締めた。

「オメーを恋人の元に戻したくない。他の男に指一本触れさせたくない。オメーはオレのもんだ、オレだけのもんだ、体だけじゃなくて、心も全部!ぜってえ他のヤツには渡さねえ!!」
「新一・・・?」
「でもこれは・・・オレの我儘だから・・・蘭が、どうしても高梨ってヤツのところに戻るってんなら・・・オレは、止める訳には行かねえ・・・けど・・・」
「新一・・・」

新一が蘭を苦しそうな顔で見て、言った。

「オレはオメーを、卑怯な手で奪っちまったんだ・・・だから・・・」
「え?あれは・・・成り行きだったかも知れないけど、でも、新一は無理矢理奪った訳じゃ・・・」
「違う・・・そうじゃねえ・・・ハイキングに誘ったあの時、オレは、オメーを罠に嵌めたんだよ・・・オレは最初から、オメーを手に入れる為に・・・抱く積りで誘ったんだ」
「・・・え・・・・・・?」
「オレは・・・山が近くに見えるし、色々な兆候から、天候が崩れるのを予測してた。あそこに山小屋がある事も分かってた。だから、オメーを少し遠くに連れ出して。雨が降り始めるのを見計らって、あの山小屋に避難するように、最初から計算してた」
「新一・・・?」
「ああいった状況で。女が危機に反応して、性欲が高まり警戒心が薄れ、目の前の男を受け入れ易くなるのを、分かってて、計算して、オレはオメーを・・・」

蘭は、新一の「告白」に、かなり驚いていた。
あの時の「成り行き」が、実は新一によって計算されたものだとは、たった今まで気付かなかったから。
けれど、それを怒る気にはなれなかった。
蘭が新一について行って抱かれたのは、決して、新一の策略だけではなかったからである。

「オメーの恋人が来て、オメーを抱こうとした時には必ず気付くように、オメーの体に印をつけた。普通の男は、おそらくその『過ち』を許さねえだろうから。そいつが蘭の不実を詰って別れたら、正式にオメーをオレのものに出来る。そんな姑息な事を考えてた」
「・・・新一・・・」
「その結果、恋人から振られたオメーが苦しみ悲しむかも知れない、そういう事も考えず。ただただ、オメーを手に入れてえと。最低だよ、オレは」
「新一・・・私は・・・」
「蘭がバージンだって分かった時も。罪悪感より、蘭の全てを手に入れたって錯覚して、すげえ嬉しかった・・・けど・・・肝心のオメーの気持ちは、置き去りだった・・・」
「新一・・・」
「オレが本当に手に入れたかったのは、オメーの心だったのに。体を奪えば、何とかなるって・・・最低な錯覚を起こしてた・・・オメーにどんなに詰られても仕方がねえ。ホントに、最低だよな。オレは・・・」

蘭は、別に怒った訳ではないが、新一の言っている意味がよく分からず、暫し考え込んだ。
そして、ようやくある可能性に思い当たる。

「新一って、もしかして・・・私の事・・・好きなの?」
「はああ!?」

新一が目を剥いたので、蘭は見当違いの事を言ってしまったのかと一瞬自己嫌悪に陥った。
けれど、新一の次の言葉は、また蘭の予想外のものだった。

新一が真っ赤になって怒鳴るように言う。

「オメーな。何今更、当たり前の事、訊いてんだよ!?」
「・・・え?」
「え?って・・・は?」
「あの・・・当たり前って・・・?」
「だってオレ、オメーにとっくにオレの気持ち、言ったろ?」
「・・・聞いてない・・・」
「聞いてねえって・・・!佐々木ときちんと別れた後、オレにはオメーだけだって言っただろ?」
「あ・・・確かに・・・でもそれって・・・そういう意味だったの?」
「・・・どういう意味だと思ったんだよ?」
「単に『エッチする相手』の事かなって・・・」

新一は下を向き深く溜め息をついて頭を抱えた。

「あの・・・?新一・・・?」
「オメーって・・・そんなに鈍いヤツだったのか・・・?」
「だ、だって・・・」
「オレは・・・好きだって言葉は確かに出してなかったかも知んねえけど。何度もそれに類する事は言ったと思うけど?」

確かにそうだったかも知れないと、蘭は思った。
まさか新一が蘭を想ってくれているとは全く想像もしていなかったから、気付かなかっただけで。

蘭の胸に、甘やかな幸福感が広がる。
けれど、だから蘭も言わなければならない、告げなければならないと、思った。


蘭の体を離してうな垂れ顔を覆ってしまった新一を、蘭はふわりと抱き締めた。
新一が驚いたように顔を上げ、不思議そうに蘭を見詰めてきた。

「蘭・・・?」
「馬鹿ね・・・新一。私の身も心も、もうとっくに新一のものなのに・・・一昨日、新一が私を抱く前から、新一のものだったのに・・・」

新一の目が信じられないと言いたげに見開かれる。

「新一、私ね。他の男の人とだったら、最初から一緒に散歩になんか行かなかったよ。山小屋で2人きりになんか、ならなかったよ」
「蘭・・・」
「新一だったから。だから着いて行ったし。だから・・・その・・・抱かれたの・・・」
「けど、蘭。オメー、恋人との旅行じゃ、なかったのか?本当だったらそいつと、一線を越える筈だったんだろ?」
「うん、そうだね。
・・・私ね。新一に会う前は、男の人を好きになるってどういう事か、ちゃんと分かってなくて。高梨さんとはお付き合いして半年になるし、もうこれ以上は待たせられないだろうと思って、旅行に同意したんだけど。
でもね、この旅行で最初から高梨さんと一緒で、新一に出会う事がなかったとしても。多分、きっと、いざとなったら拒絶してたと思う。だって、キスを想像するのすら気持ち悪くて駄目な相手と、エッチなんか出来る訳ないんだもの。馬鹿だよね、私も」
「蘭・・・」
「私・・・新一が初めてだったの。男の人に触れられても気持ち悪くなくて・・・ドキドキしたのって・・・」

新一の顔が徐々に笑顔になって行く。
そして、蘭を強く抱き締め、口付けた。

「蘭。じゃあオメーはもう、オレだけのもんだって、オレだけがオメーの恋人だって、思ってて良いのか?」
「うん」
「その・・・高梨って男とは?」
「ちゃんと、けじめ付けるよ。新一に抱かれる前から、新一に片思いだって思ってた時から、その積りだったの」
「あのな、蘭。その積りだったって・・・そういう事は言ってくれなきゃ、分かんねえよ!」
「え・・・?私・・・言ってなかったっけ?」
「聞いてねえよ!オレが佐々木と別れてけじめ付けたって言った時も、他の男にこんな事はさせるなって言った時も、蘭の方は何にも言ってくれねえから。オレに何度抱かれても、それはその場だけの事で、恋人と別れる気は全くねえんだって、思ってた・・・」

新一の眼差しが揺れ、年相応の幼さを見せる。
蘭は、今初めて、この天下の工藤新一が、蘭の為にずっと不安を抱えていた事を知った。

あまりの幸福さに、胸がいっぱいになって。
新一を不安にさせていた事が申し訳なくて。
蘭は再び新一を包み込むように抱き締めた。
新一は蘭の胸に頭を押し付けられる形になった。

「新一。ごめんね。私の中ではとっくに高梨さんとの事は終わってて。でも、それを新一に言ってなかったんだよね・・・」
「良いけどよ。でも、高梨とはまだ、正式に別れてねえんだろ?」
「その事なんだけど。一昨日電話で別れ話したんだけど、本気に取って貰えなくて・・・高梨さんが来てから話をするしかないかと思ってたの」
「そうだったのか。・・・じゃあさ。何でさっき怒ったんだよ?」

新一の言葉に、蘭は新一から離れ、柳眉を逆立てた。

「何でって・・・分からないの!?」
「・・・分かんねえ・・・」

蘭は更に怒りを露にして詰め寄った。

「新一が言ったんじゃない!つい昨日も言ったばかりじゃない。わ、私の声も姿も、全部、新一のものだって・・・」
「ああ、覚えてるよ・・・」
「なのに!新一、高梨さんに聞かせたでしょ!わ、私の・・・あの時の声・・・!!」
「は・・・?」
「私の・・・あ、あの声・・・新一が、新一だけのものだって言ったのに!なのに、高梨さんに聞かせたじゃない!」
「蘭・・・オメー・・・怒ったのは、それで・・・?」
「わ、私・・・私だって!新一以外の人に、聞かれたくなかったんだからっ!絶対、聞かれたくなかったんだからっ!!」
「蘭っ!!」

新一は、息もつけぬほどの強い力で蘭を抱き締めた。

「ごめん!悪かった!オレは、オメーがオレのもんだって見せ付けたくて、そいつに蘭から手を引かせたくて、つい・・・そうだったな。オメーの声も、全部オレのもんだって・・・オレが言ったんだ。そしてオメーも、そう思ってくれてたんだな」

蘭がいつの間にか流していた涙を、新一は優しく唇で拭った。
新一は蘭の唇を塞ぎ、舌で蘭の口内を侵した。
蘭は新一に身を委ね、侵入して来た舌に自分のそれを積極的に絡めた。

新一が一旦唇を離すと、2人の間を、2人の唾液が絡まったものが糸のようにつないでいた。

「蘭。愛してるよ」
「新一・・・嬉しい・・・私もよ・・・」
「さっきは本当に悪かった。もうぜってー、あんな事はしねえ。他の男には、指1本触れさせねえ。オメーは、髪の毛一筋まで、オレだけのもんだ・・・」
「新一・・・」

そして再び、新一は蘭に深く口付けて来た。
暫く2人は、甘い口付けに酔いしれていた。


口付けの合間に。
ふと、蘭は気になっていた事を口にした。

「ねえ、新一は、どうして私の事、好きになったの?会ったの、初めてだよね」
「ん〜。最初に一目見た時から、惹かれてた。でも、本気で好きになったのは、事件が起こった時の蘭の行動を見て、だろうな」
「私の・・・行動・・・?」
「蘭は、持って生まれた姿形もとても綺麗だよ。けど、あの時の蘭は、必死に誰かを助けようとしている蘭は、最高に綺麗で。生まれて初めて、本気でこの女性が欲しいと思った。オレは今迄、女性に恋をするという感覚が分かっていなかった。蘭はオレが初めて愛した女性だ」
「新一にとっても・・・初恋・・・?」
「ああ。蘭にとっても、なんだよな。でも、オメー、前からオレの事知ってたとしても、それはマスコミに出ている部分で、まさか昔から好きだったとか、言わねえよな?」
「うん。私も新一の事本気で好きになったのって、最初の日、事件に真剣に取り組んで、人の命を最優先している新一の姿を、見たからだもん・・・表面上だけでない、新一の正義感とか優しさが分かって、だから好きになったんだもん・・・」
「蘭・・・」
「お互い初恋で。告白の前にエッチから始まるなんて、変だよね」
「・・・それだけ、必死だったんだよ。女をまともに口説く手順なんて、何も分かってなかったし」
「エッチの手順は分かっても、告白の手順は分からなかった訳?」
「それは、お互いだろう?」
「私は!エッチの手順なんか、分かってなかったもん!経験豊富な新一と違って!」

蘭はちょっと悔しくなって、ぷいと顔を背けた。
蘭と知り合う前の新一が、どういった女性経験があっても(相手を弄んだとかでなければ)責める筋合いはないと分かっていたのだが。

けれど、新一は更に蘭の度肝を抜く事を言った。

「あのな!オレはオメーしか抱いた事はねえ。一昨日オメーを抱くまでは、童貞だった」

「えええっ!?嘘っ!!」

蘭は振り返り、まじまじと新一を見詰めた。
新一は真っ赤になりながら、蘭を真っ直ぐ見詰め返した。

「んな事に嘘ついてどうするよ?」
「で、でも・・・慣れてる風だったし・・・」
「バージンだったオメーに、相手が慣れてるのかどうか、分かんのか?」
「う、そ、それは・・・でも・・・」
「そりゃまあ、色々知識はあったし、手順は分かってたよ。大体、男は女と違って受身じゃねえから、初めてでもある程度分かってるもんなんだ。それに・・・ぶっちゃけると、元々今回の旅行では佐々木とそうなる覚悟で、一応きちんと調べ直したしな」
「・・・・・・」
「オレは、男の中でも変わっている方だと思う。蘭に会うまでは、特定の女性に対して欲望を抱いた経験もなかったし。その気になれば、抱けねえ事はなかったと思うけど、まあ何と言うか、手順踏んでリスク犯して、そこまでして女性を抱きたいと思う事はなかったしな」
「最初の晩、佐々木さんとそうならなかったのは、佐々木さんが酔って眠っちゃったからじゃ、なかったの・・・?」

新一が、蘭からちょっと目を逸らし、溜め息をついた。

「あのな、蘭。これは言ったらぜってーオメーに軽蔑されると思うけど・・・あいつが最初の晩酔って眠り込んじまったのは、実は本人の責任じゃねえんだ」
「え・・・?」
「オレが、あいつの飲むカクテルの中に、睡眠薬を一服盛った」
「・・・・・・」

蘭は呆然とした。
女性の飲むお酒の中に睡眠薬を盛る話は聞いた事があるが、それは大抵、相手に「悪い事をしようとする」為で。

蘭は呆れながらも、笑い出してしまった。

「おい!」
「だ、だって。新一・・・一服盛って悪さする話は聞いた事があるけど、何もしない為に一服盛るなんて、初めて聞いたよ!」
「・・・悪かったな。けど、別に一服盛らなくたって、アイツに指1本触れなかったって自信はある。でも色々と面倒な事になりそうだと思ったし。アイツにはゆっくりベッドで眠ってもらって、おれはソファーでずっと、オメーの事を考えていた」
「え・・・?」
「邪な事もそうじゃねえ事も含めて。オレもまあ、男だから、今迄溜まれば自己処理してたし・・・その、アダルトビデオとかその手の本を使ってもいたけど。まあ何て言うか、殆どマネキンを相手にするのと感覚が一緒だったと思う。
けど、オメーに初めて会ったあの晩、オレは想像の中で何度もオメーの服を脱がして、陵辱していた。オメーを愛して、大切にしてえって強く思うと同時に、オメーを犯して我が物としてえって強烈な欲望も覚えていた。
想像よりも、現実のオメーの体の方がずっとずっと綺麗だったし、オメーん中は想像とは比べもんにならねえ位気持ちよかったけどな」

蘭は、驚きのあまり息を呑んだが、不快感はなかった。
いやむしろ、他の女性に劣情を抱いた事のなかった新一が、蘭に対してだけ欲情したと知って、嬉しくすらあったのである。

「それ以外にも・・・オメーの恋人が来るまでの間に、どうやったらオメーを手に入れられるか色々算段したり、んな無理な事と絶望的になったり、とにかく今は親しくなって今後に繋げるのが先かと思ったり、・・・ずっと考え続けてた。
男と旅行だって言うからまさかバージンとは思ってなかったし、過去には拘る積りもなかったけど、それでもオメーが他の男に抱かれる事を想像しただけで、すげー苦しかった」
「新一・・・」

真由にはとても気の毒だと思いながら、蘭はそれでも、新一の姑息な部分まで含めて、嬉しかった。
蘭の事を真剣に考えてくれていたのが嬉しかった。

「オレだって。抱いたのもキスも、蘭が初めてだぜ?」
「あら。新一、キスは初めてじゃないでしょ?」
「いや、本当にあれがオレにもファーストキスだって!」
「だって・・・最初の日に殺された男の人に・・・」


最初蘭の言葉に慌てまくっていた新一が、ガックリと肩を落とした。

「あれを、数に入れるか!?けど、そういう数え方なら、別にあれもファーストじゃないぜ。今まで何人あったかなあ。プールで溺れた同級生を助けたのが初めてで。そいつも男だったけどな。あの時は暫く妙な噂を立てられて、参っちまった」
「ごめん、新一。今の冗談は不謹慎だったよね。人の命は大切だし、きっと私も、何かあった時はそうすると思うし」

そう言って蘭は新一に抱きついた。
これ以上にないと思う位に、幸せだった。


新一は、蘭を軽くきゅっと抱き締め返し、蘭の額に口付けを落とすと、蘭の体を離して起き上がり、ベッドから出た。

「新一・・・?」
「このままもう1度オメーを抱きてえけど。ずっとここに居ると邪魔が入るよな。高梨が来る予定なんだろ?」
「う、うん・・・」
「蘭。オレが泊まってる方の部屋に行こうぜ。続きはそっちで」
「ええ?し、新一・・・!?」
「彼と決着はつけねえといけねえけど。それは明日、万全の体制で臨もうぜ。今日はずっと、オメーと2人だけで過ごしてえ」
「うん・・・分かった」


蘭も、今すぐに高梨と対峙するのは気が重く。
逃げとは感じていたが、せっかくお互いの気持ちを確かめ合ったばかりなので、今日はずっと新一と2人で過ごしたかった。


2人は服を着て、蘭の荷物を持ち、新一の泊まっている部屋に向かった。
蘭が今迄泊まっていた部屋のルームキーは、フロントに返した。
フロントでは、蘭の連れが今日来る筈だからキーを渡して貰うようにと頼んでおいた。


そして2人は、合間にルームサービスで頼んだ食事を取ったり、睡眠を取ったりしながら、何度も愛の行為を行った。
2人にとってその日は、「身も心も初めて結ばれた日」であり、誰にも邪魔されたくはなかったのである。


   ☆☆☆


ホテルに駆けつけて来た高梨が見たものは。
ルーム係によってきちんと清掃されシーツも交換されてしまい、もぬけの空となった部屋である。

蘭の携帯に電話をかけても、電源を切っていて繋がらなかったし。
彼は、工藤新一の部屋はどこだとフロントに怒鳴り込んだが、勿論、個人情報を公開出来ないホテル側は教えてくれず。
電話の取次ぎも拒否され。
ホテル内をウロウロしても、蘭の姿を見かける事もなく。

ずっと夢見ていた蘭との甘い夜どころか、1人で悶々としながら一夜を明かすしかなかったのである。



<第5日>に続く

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<後書き座談会>

園子「月曜日に恋に落ちて〜、火曜日は早速ベッドイン〜」
和葉「水曜日に元カノと別れ〜、木曜日は戦闘開始〜」
園子「で、金曜日はどうなるのかな〜?」
平次「自分ら、何けったいな替え歌やってんねん」
和葉「この話、何曜日から始まっとんのやろか」
園子「そこら辺は、ぼかしてあるよね〜」
平次「こら、無視するんか、ああ?」
園子「いや、この話、蘭の旅行中の一週間の出来事なワケだよね。何か、この歌思い出しちゃってさあ」
和葉「出会うてからまだ4日目やのに、すでに2人出来上がってゲロ甘空間や」
平次「何や突っ込む気力ものうなって来たで・・・」
園子「蘭に手を出そうとしてた所業は許しがたいけど、流石に高梨さん、可哀想だね」
和葉「真由ちゃんが引き際意外とアッサリ目ぇやったけど、こん人の場合はどないやろ?」
平次「ジタバタして、更に可哀想なお人になってまうのに、五百円!」
園子「探偵が賭けをしたりして、良いの?それに何よ、五百円なんて、安!!」
和葉「平次、多分それ、賭けにならん思うで?」
平次「せやな。何せ工藤は姉ちゃんにちょっかい出す相手に容赦ない事、天下一品やからなあ」
園子「それにしても、新一君って、この話でも『初めて』だったのねえ」
平次「オレは、アイツが童貞でも不思議あらへんとわかっとったで」
和葉「平次、それは大法螺やな。前回経験豊富はあらへんって言ったけど、童貞やろとは言わへんかったやん」
園子「それにしても、真由さんにまで一服盛ってたなんて・・・今回の恋敵への態度と言い、新一君、ブラック〜」
平次「ああ、工藤はホンマ腹黒やで?次回は高梨ゆう男がどんな目ぇに遭うてまうんか、楽しみやな」
園子「悪趣味だけど、実は私も」
和葉「ほなら、また」

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