一週間〜ハニーウィーク〜



byドミ



<第3日>



なかなか眠りにつけないと思いながら、いつの間にか眠っていたらしい。
蘭が目を覚ました時は、もう周囲が明るくなっていた。

起き上がろうとして、下腹部に残る鈍い痛みと、股関節の強張りに気がつき。
次いで、昨日の出来事を思い出して、心臓がはねた。

マスコミで一方的に知っていた新一に、一昨日初めて出会って恋をして。
そして昨日、その新一の腕に抱かれた。

蘭自身、信じられない展開だと思う。
愛する人とのそういう行為は、とても幸せで。
でも、何の約束もない関係は、とても悲しくて不安で。

蘭の心は揺れる。


けれど、蘭は新一に抱かれた事を後悔はしないし、全てが自己責任だと弁える気はあった。

新一は、避妊する事なく蘭の中にそのまま熱を吐き出した。
最初の山小屋での時は、成り行きでその準備が出来ていなかったにしても、2回目の時も、避妊しようとする気配もなかった。

けれど。
その結果どうなっても、蘭は全てを受け止め責任を持つ積りでいた。


『私、馬鹿よね。男の人に抱かれる時って、それを覚悟してなきゃいけないのに。高梨さんに抱かれるなんて、最初から無理に決まってたじゃない』

高梨に抱かれる事もだが、高梨の子供を宿すと考えただけで、ぞっとしてしまう。
蘭は無意識下で、新一の子供だったら宿っても構わないと思っていたからこそ、新一に抱かれたのだった。


『あの人は。避妊しなかったって事は、それをちゃんと考えてくれてるのかしら?人を殺す事を、あれ程に厭うあの人だけど、お腹の中でまだ育っていない存在なら、1人の人間とは感じないかなあ?
もし子供が宿ってて。そしてあの人に産む事を反対されたら・・・ううん、1人ででもちゃんと産んで育てるんだから』


蘭は、子供が出来ているかも知れない事態を、恐れはしなかった。
もしも新一との仲が終わっても、子供が居れば、愛の証として残るから。


それでも。
新一とずっと2人で居られたら・・・新一のただ1人の人となって、ずっと傍に居られたら。

その願いが、蘭の心の奥底に、湧き上がっていたのは事実であった。





突然、部屋の電話が鳴り、蘭はビクッとした。
恐る恐る電話を取る。

「も、もしもし・・・?」
『蘭。オレだ』

声は新一のもので、蘭はほうと息を吐く。
そして、新一が蘭の携帯番号すら知らず、この方法でしか連絡出来なかった事に気付いて、笑いたくなった。


蘭と新一は、一線を越えながら、お互いに名前しか知らないのだ。


「どうしたの?」
『蘭に、頼みがあるんだ。これから1階のティーラウンジに来て欲しい』
「・・・ティーラウンジ・・・?でも・・・佐々木さんは?」

蘭は胸の痛みを覚えながら、真由の名を出す。

『昨夜から、話し合い中なんだけどね。場所変えてコーヒー飲みながら話をする事にした。で、蘭にも聞いていて欲しい』
「えっ・・・!?」
『アイツにオメーの存在を気付かれると困るから、死角になるところで、聞いていて欲しいんだ』
「で、でも・・・」
『頼む』


電話を切って蘭は呆然とした。
新一は一体蘭に何を聞いて欲しいと言うのだろう?

蘭は急いで身支度をすると、部屋を出てラウンジに向かった。


   ☆☆☆


新一と真由は、ティーラウンジの片隅で、向かい合って腰掛け、何やら話をしているようだった。
蘭が入ってくると、新一はちらりと蘭を一瞥し、すぐに視線を戻した。
真由は入り口に背を向ける格好で座っていて、蘭が入って来たのに気付かない様子だった。

朝食の時間だが、ティーラウンジは閑散としている。
ここではなく大食堂の方で朝食を摂る客が多いらしい。

蘭は、真由と背中合わせになる場所に座る事にした。
新一の姿も見えなくなるが、今は新一の顔すらも正視する度胸がない。

幸いな事に、朝食はセルフサービスなので、ウェイター・ウェイトレスが傍に来る事もなかった。
蘭は食欲がなく、紅茶だけを持ってその席に座った。


「新一。私に至らないところがあったら、頑張って直すから。もう、指輪を買ってとか、言わないから・・・」
「・・・ごめん。オメーのどこが不満とか、どこが悪いとか、そんなんじゃねえんだ。問題はオレの方にあって。昨夜オメーに指1本触れなかった、いや、そう出来なかったってのが、オレの答だ」
「新一ぃ。私、そんなの・・・気にしないし。新一がその気になってくれるまで待ってるもん」
「ごめん。オレは、オメーの事、女性として愛せない。それは、オレ自身の問題であって、オメーがどうこうじゃねえんだよ。最初から、気付いておくべきだった。まあいっかで、安易に付き合っちまったオレが、全部悪い」



新一と真由の話は、別れ話なのだと気付き。
蘭はティーカップを持つ手が震え、慌てて音を立てないようにカップをソーサーに置いた。



「悪かった、本当に悪かった。オレは・・・単に女性に恋するという感覚が分かっていねえ、ガキだったんだよ。今迄、女性を弄ぼうと思った事はねえ。だから、大抵お付き合いは断ってた。けどオメーは一生懸命アプローチしてくるし、オレの探偵活動をあんまり邪魔しもしねえし、まあこんなもんだろうし潮時かなと思って、好きになった訳でもねえのに軽い気持ちで付き合う事を決めちまった。
オメーと会っている時間はそこそこ楽しかったし。オレなりに、オメーを大切にして行こうと思っちゃいたんだが。今回の旅行で、オレ自身、オメーをどうしても愛せねえ事に気付いちまったんだよ」
「新一・・・酷いよ・・・」
「ああ。オレも自分ですげー酷えと思ってる。詰られても責められても仕方ねえけど、それでもこれ以上は無理だ」
「わたし、納得しないからね!」
「オメーが納得できなくても。恋人同士は片方が付き合いを止めると決めたら、もう終わりなんだ。オメーにはとても悪い事をした。でももう、オレはオメーとこれ以上付き合い続ける事は出来ねえ」

真由が泣く声が聞こえ、蘭はいたたまれなくなる。

蘭は、新一が蘭を抱いた責任を取ろうとしている、けじめをつけようとしているのだと、思った。

真由が気の毒で、辛い。
けれどそれ以上に、喜んでいる自分に嫌気が差して仕方がない。

「どうしても、どうしても・・・駄目なの?」
「ああ。どうしても、無理だ」
「ねえ。お願い。それを最後にするから・・・お別れにキスして」
「・・・ごめん。それも出来ねえ」
「何でよ!人工呼吸出来るんだから、キス位だったら出来るでしょ!?」
「だってオメー、んな事されたら、余計に未練が残るだろ?」
「・・・新一って、本当に酷い男ね。絶対自分を曲げないし」
「ああ。全くだ。ひでー男だよな・・・自分でそう思うよ」

新一は開き直るでもなく、心底「反省」しているような声音でそう言った。
真由は再びすすり上げた。

「わたし、新一がそんな男だって本当は分かってた。わたしの事、好きでも何でもないって、分かってた。
新一がわたしに手を出して来ないのって、新一がわたしの事大事にしてくれてるからだって思ってた。ううん、思いたかった。でも、新一は違うんだね、他の男の人とは違うんだね。
普通の男の人って、好きじゃなくても欲望はあるもんだけど、新一の場合、わたしに欲望も持てないでしょ?」
「佐々木・・・」
「もう、その呼びかたなワケ?新一ってさあ・・・優しいんだけど、絶対ほだされないよね。それでもわたし、他の子達より近くに居ると、思ってたんだけどな」
「済まねえ」
「いいよ、もう。工藤新一なんて唐変木の推理馬鹿男を好きになったわたしが、馬鹿だったんだから」

そう言って真由がまた、盛大にすすり上げた。

「新一!勿論ここからの帰りのチケット代位、奢ってくれるよね!わたし、今すぐ東京に戻るんだから!」
「ああ、今回の旅行に関わる費用は、タクシー代まで含めて全部オレが持つよ。その位の義務はあるし」
「それと、フサエブランドのバッグ!新作の1番高いのよ!それで手を打つわ」
「・・・ああ。わーった。ぜってー送り届けるからよ」

真由が大きな音を立てて鼻をかんだ。
潔い性格の子だと、蘭は胸の痛みを覚えながらも感心する。


「ねえ、新一・・・1つだけ、聞いていい?」
「んあ?何だ?」
「新一、誰かに恋をする気持ちが、分かったの?」


真由の質問に、思わず蘭は息を呑んだ。

「ああ、多分」
「それって・・・」
「スゲーお人よしで、自分の身をかえりみず人を助けようと動く、そういう女性」
「でも、新一・・・その人って、彼氏いるんじゃ?」
「ま、今んとこ片思いだって事は、オレにもわーってるよ。だけど・・・」
「・・・新一もたいがい、馬鹿ね」
「ああ。オレもそう思うぜ」
「新一が振られて、やっぱり真由が良かったって言って来ても、その頃には新一よりずっとイイ男捕まえてんだからね!その時になって後悔しても、知らないから」
「・・・そん時は、自業自得と思って落ち込むさ」
「嘘ばっかり!!」

真由が立ち上がる気配がした。
新一も立ち上がり、真由を送って行ったようだった。

蘭は動けなかった。
暫く呆然としていた。


   ☆☆☆


新一が戻って来たのは、さして時間が経たない内だった。


「蘭」

声をかけられ、蘭はビクッとして顔を上げた。

「新一・・・佐々木さんは?」
「タクシーに乗った。今日の昼には東京に戻ってるさ」
「そう・・・」

蘭は、何を言ったら良いのか分からず、再び俯いた。
蘭の手にそっと重ねられた新一の手に驚いて、蘭はまた顔を上げた。
新一が少し悲しげな微笑を見せていた。

「蘭。ごめん・・・変な事頼んで。でも蘭に、立ち会って欲しかった・・・だから・・・」
「新一・・・」

新一が蘭の手をぐっと握り、引いたので。
蘭はその勢いのまま、立ち上がってしまった。


そして蘭は、新一に連れられて、そのまま宿泊している部屋へと向かった。

「し、新一・・・?」

新一に促され、蘭は鍵を開けて部屋に入る。
部屋に入ると同時に、新一が後ろから蘭を抱き締めて来た。

「蘭。順序が逆になってごめん。でも、けじめを付けたから・・・オレにはもう、オメーだけだ・・・」
「あ・・・・・・」

新一が後ろから蘭の首筋に口付けて、蘭の胸を覆い揉みしだき始めた。
首筋に感じる新一の息遣いが荒い。

「ああ・・・んん・・・」
「昨夜・・・ソファーに寝ながら、オメーの裸を思い浮かべちまって、参ったぜ。1人で処理してえとこだったけど、同じ部屋に佐々木がいたし、どうせなら、オメーの中で出したかったし」

新一のあまりに直接的な言い方に、蘭は顔から火が出る思いがしながらも。
新一の愛撫に、我を忘れて行った。


蘭が力が抜けたところで、新一に抱えられ、ベッドに下ろされた。
新一に深く抱きこまれ口付けられながら、少しずつ衣服が取り去られていく。


そして蘭は生まれたままの姿になった。
既に昨日新一に全てを見せているが、新一がじっと見詰めてくる視線を感じると、やはり恥ずかしいものがあった。


「蘭・・・」

やはり生まれたままの姿になった新一が、蘭を抱き締め口付けながら、蘭の肌の上に手を滑らせる。

「あ・・・」
「蘭の肌。柔らかくてすべすべして、気持ちイイ・・・」

新一は蘭の脇腹をなで上げると、胸を掌で包み込むようにした。

「んん・・・っ」
「蘭の胸、大きいだけじゃなくて、形が良くて張りがあって柔らかで・・・最高」

新一が蘭の胸の飾りを口に含んだ。
そのまま舌先で転がすように舐めまわす。

「はああああん!!」
「やっぱ、ここがスゲー感じ易いんだな・・・」
「ああ・・・ん・・・」
「昨夜夢ん中でもオメーを抱いたけど、やっぱ実物の方がずっとイイな」


新一の唇と手が、前髪が、蘭の全身に触れて行く。
蘭はその度に感じて声をあげ、体をくねらせていた。

昨日の今日で、更に敏感になり、感じ易くなってしまった己の体を、蘭は自覚していた。
新一の愛撫に身も心もとろけ、狂わされて行く。


「あああああんん!!」

新一のものが入ってきた時も、すごく気持ちがよくて、蘭は思わず声を上げてしまった。

「すげーな。もう、入れただけで感じるようになっちまったか?」
「あん・・・いや・・・そんな事・・・言わないで・・・」
「オレは嬉しいんだよ、蘭。オメーが気持ち良くなってくれるのがな」

そう言って、新一は腰を揺らす。

「あん、はん、はあん、ああっああん」

蘭の口からあられもない声が漏れ続ける。
セックスがこんなに気持ちのいいものだとは、話には聞いていたが蘭自身予測もしていなかった。

けれど、「新一相手だから気持ちがいい」のも、蘭には分かっていた。


「蘭、蘭・・・他の男と、こんな事、すんなよ・・・」
「んん、ああ・・・新一・・・何を・・・」
「オレがずっと、オメーを満足させてやっから。・・・っくっ・・・他の男に・・・」
「・・・しん・・・いち・・・」
「ぜってー、指1本、触れさせねえ・・・」
「んああっ・・・!」


新一は、蘭をすでに「自分の女」と認識してくれているのだろう。
勢いと流れで抱いた相手でも、それなりのけじめは付けてくれる積りなのだろう。

新一が欲するのが蘭の「体だけ」であったとしても、今現在ただ1人の女としてくれているだけで、幸せな事ではないかと、蘭は自分に言い聞かせながら。
でも、どこかで空しさをも感じていた。


蘭は、たとえ昨日新一に抱かれる事がなかったとしても、まず間違いなく高梨に身を任せる事はなかった。
けれど、最初の晩に真由が酔っ払わず新一と真由が一線を越えていたら、新一と蘭があの山小屋でのひとときを過ごす事もなく、蘭が新一に抱かれる事もなかったに違いないと、蘭は思っていた。思い込んでいた。



「あ・・・は・・・しん・・・いちっ・・・はああああああん!!」
「くうっ・・・!蘭っ!」

蘭が上り詰めて果てると同時に、新一も果てた。
新一のものが脈動し、蘭の奥に大量に熱が放たれるのを感じた。


新一が力を失った己を蘭の中からずるりと抜きだし、蘭は身震いした。
2人の体液が交じり合ったものが、蘭の入り口から流れ出した。


「・・・・・・」

新一は、過去関係した女性を妊娠させた事はないのだろうか?
きちんと避妊してたのか、あるいは幸運にも(と言って良いのか)妊娠した女性が居なかったのか、それとも・・・。


「・・・・・・っ!」

まさか新一が、相手の女性にお腹の中の子供を殺させるような男だとは思いたくなくて。
蘭は思わず涙を流し、手で顔を覆った。


「ら、蘭!?どうした!?」
「・・・何でもない・・・」
「まだどこか、いてえのか?」
「・・・そんなんじゃないよ・・・」

「オメー。オレとこうなったの・・・後悔してんのか・・・?」
「え?」

少し低く、怒ったような新一の声に、蘭は驚いて目を開ける。

「・・・後悔なんか、してないよ・・・」
「じゃあ、何で泣くんだ?何で、オレに抱かれて、辛そうにしてんだ?」

新一に抱かれるのが辛い訳ではない。
むしろ、幸せだと思っている。
でも、棘のように突き刺さっているものがあるだけだ。


「・・・新一。避妊をする気はないの?」
「え・・・?」
「そんな可能性、考えてもない?それとも、堕ろせばイイと思ってる?」
「・・・最初の時、避妊しなかったから、今更かって思っちまってたんだけど・・・もしもの時は・・・産んで欲しいって思ってるよ・・・」

蘭は目を見開いた。

「そのさ。女性の方がどうしても大変なのは、分かった上で、もしかしてひでえ事言ってんのかも知んねえんだけどよ。せっかく宿った命を殺すような真似は、して欲しくねえって思う」

新一は蘭をギュッと抱き締めて、言葉を続けた。

「未婚の母になって苦労しろとも、考えてねえから。オレはまだ学生だけど、一応それなりに収入はある。家は親の持ち家だけど、充分広いし、そこに住めば良い。安易な甘えって言われたら、確かにそれまでだけど。でも、避妊せずオメーを抱いた時点で、その覚悟はあっからよ」
「しん・・・いち・・・」
「もしもの時は、産んでくれるか?」
「うん・・・」

蘭が頷くと、新一はホッとしたように笑い。
そして蘭に深く口付けると、そのまま再び愛撫を始めた。


「あ・・・・・・ん」
「妊娠初期は控えねえといけねえから、今の内にたっぷりとやっておくか」
「な・・・ばっ・・・!」
「本気で言ってんだけどな」



新一に、「もしも出来ていたら産んで欲しい」と言われて。
蘭は嬉しかったけれども、この状況でもし子供が出来たら、子供の存在は、新一に結婚を迫る為の道具となりそうで、それも何だか複雑な気持ちだった。
新一と共に居たいという望みは大きくなっていたけれど、子供をネタに結婚を迫りたくはない。

授かれば、それはそれで幸せだと思うけれど、出来ちゃった婚になるよりは、今は子供が出来ない方が良いのかもと考え。
蘭の心中は複雑だったのである。


新一は、蘭の奥深くを突き上げたかと思うと、動きを緩やかに浅くしたりして。
先程大量に熱を放ったばかりだからかも知れないが、今回は、なかなかフィニッシュを迎えようとしなかった。
粘着性のある隠微な水音とベッドが軋む音、2人の荒い息遣いとあられもない嬌声が部屋の中に響き続ける。

「ああっはあっああんあん」
「くうっ・・・蘭、今のオメーの顔・・・すげー色っぽい・・・」
「んん、ああん、はああん」
「すげーイイ声・・・」
「ああん、おね・・・がい・・・しんい・・ち・・・わたし・・・もう・・・」

限界が近く、蘭がはしたないおねだりを口にした。

しかし、新一は逆に、蘭の中に入ったまま全く動きを止めてしまい。
蘭の望む最後の高みは与えられず、熱が引き始める。


「し、新一・・・?」

蘭が目を開けて新一の顔を見上げると、新一の顔は少し怒ったような悲しげな表情をしていた。


「蘭。他の男にぜってー、この顔を見せるな。この声を聞かせるなよ・・・」
「しん・・・いち・・・何を・・・?」

新一は強く蘭を抱き締めると、蘭の髪に頬擦りしながら言った。

「言ってくれ、誓ってくれ、オレだけだって、他の男とはこういう事しねえって!」
「・・・しないよ・・・当たり前じゃない・・・」

新一が突然再び動き出し、蘭の奥を深く何度も突き上げ始めた。

「あああん、ああんはあんあんあん・・・」

蘭の熱は再び高まり、上り詰めていく。

「蘭、蘭・・・!」

新一はうわ言のように蘭の名を呼び続けながら、激しく動く。

蘭が新一の背に爪を立てて背中を反らせ高い声を上げて果てた時、新一も蘭の中に再び熱を吐き出した。


その時の蘭には、分かっていなかったのである。

蘭はとっくに新一以外の男性を見る事もなく受け入れる積りもなく、それは蘭の中ではあまりにも当たり前の事であったのだが。
それを新一にきちんと言葉で伝えた事がない、新一の問いにすらまともに答えていない、その事に蘭は気付いていなかった。

それがどれ程に新一を不安にさせていたのか、今の蘭には、全く分かっていなかったのだ。


   ☆☆☆


2人共に、重なる睡眠不足の上、2回続けてのセックスの疲れで、いつの間にか眠っていたらしい。

蘭は、枕元で鳴るメロディで、目を覚ました。
「いつも何度でも」は、蘭の携帯の着メロで。
蘭は眠る新一を起こしたくなく、そっとベッドを抜け出し、携帯を持ってバスルームへ向かった。


『あ、蘭?私』
「園子」
『どう、そっちは?高梨さん、まだ来ないんだよね?山の中なら景色も飽きちゃうだろうし、退屈してない?』
「あ・・・うん・・・退屈は・・・してる暇がないと言うか・・・・」
『・・・?蘭?何かあったの?高梨さんが来るの待ってる間に、ロストバージンブルーにでもなってる?』
「園子。私・・・実はね・・・昨日、ロストバージンしちゃった」
『ふうん、そう、昨日ロストバージン・・・って、え!?ええ!!??嘘っ・・・な訳、ないか。蘭、その言い方だと、相手、高梨さんじゃないよね!』
「う、うん・・・」
『大丈夫?その・・・弄ばれたりしてないよね!?』
「園子・・・私が浮気したって、責めないの?」
『だって、引く手あまたの蘭が今迄守って来たバージンをあげるって、簡単な事じゃないって分かってるもん』
「園子・・・」

昔から蘭を知り、蘭の最大の理解者である園子は、すぐに何でも分かってくれる。
蘭は園子の存在で何度心救われたことだろう。

『で、蘭。相手の人は?これからちゃんとしてくれるの?』
「・・・彼も恋人との旅行でこのホテルに来ていたんだけど・・・その・・・私との事が原因で、恋人とけじめを付けてくれて・・・責任を取ってくれる積りでいるみたい・・・」
『責任なんて!仮にも、蘭のような上等な女性と深い関係になろうってんだから、そんな事は当たり前よ!』
「でも、園子・・・私、彼の恋人にはとても酷い仕打ちをしちゃった・・・」
『う〜ん・・・そうねえ。でも、仕方ないんじゃない?その人が蘭を選んだって事なんだから』
「え、選んだって言うか・・・私に手を出した責任を取ってくれただけかも」
『いやいや、蘭相手なら大抵の男は喜んで責任取ると思うよ。ましてや、蘭がバージンをあげたんならさ。で、相手の身元は?ちゃんとした人なんでしょうね』
「う、うん・・・園子、知ってるかな?学生探偵の、工藤新一って人・・・」
『へ!?工藤新一ぃ!?あの男なの!?うん、まあイイ男かも。真さんにはずっと劣るけど。そっかあ、身元はハッキリしてるのね。ヤツも有名人だから引く手あまたかも知れないけど、でも、立場上、蘭を弄んだりはしないかな?でももしそんな事になったら、この私が制裁を加えてやるけどね』
「園子ったら・・・」
『結婚式には招待してよね、どこの国に行ってても必ず飛んで来るからね』
「そ、園子・・・それは飛躍し過ぎよ・・・」
『飛躍なんかじゃないよ。だって、蘭がバージンあげたって事は、工藤君の事、本気で好きだって事でしょ?』
「う、うん・・・」
『でもさ、蘭。高梨さんとはきちんと別れたの?』
「それなのよ。どういう風に話をしたらいいものか。そりゃもう、私が悪いんだし、詰られるのは覚悟の上だけど」
『あ、じゃあもう、別れの決意は固めてるんだ?』
「うん」
『そっか。蘭、頑張れ。自分の気持ちに正直に行けば良いんだから』

園子と話をする事で、蘭の気持ちはかなり軽くなった。
高梨とはまだ一応付き合っているという形になったままなので、酷い仕打ちをしているのだという自覚はあったし、罪の意識もあったけれど。
新一以外の男性を受け入れる事が不可能ならば、高梨に対しては責められても詰られても、きちんとけじめを付ける以外に方法はないのだ。


園子との電話を切ってすぐに、着信があった。
画面を見ると、蘭が今1番対峙するのに気が重い相手からだった。


『蘭?僕だよ』
「・・・高梨さん・・・」
『今日は何をしてるんだい?』
「何だか疲れて・・・眠ってた・・・」
『そうか。退屈してるだろう?ごめんな』
「そういう訳じゃないけど・・・高梨さん、いつ来る予定なの?」
『今日中にはかたがつく目途が立った。ただ、今日そちらに着く列車には間に合わないだろうと思う』
「そう・・・・・・」


流石に、今電話で別れ話をするのは、難しいものがある。
蘭は曖昧に相槌を打った。

「高梨さん。待ってるわ。色々とお話したい事もあるし」
『話が?僕は話より、早く蘭を抱きたいよ。ずっと待ったんだ、もう遠慮はしないからね』
「高梨さん・・・!私は・・・」
『蘭が処女だから怖がってるのは分かってる。大丈夫、優しくするから』
「あ、あの・・・」
『あ、もう仕事に戻らないと。明日はそこに行くから。じゃあ』


通話を切った後、蘭は携帯を洗面台の上に置いて口を覆った。

高梨との行為など、想像するだけで吐き気を催してしまう。
高梨からどんなに言い寄られても、それにほだされて付き合ったりしなければ良かったのだ。

蘭は結局、初恋もまだだったからよく分かっていなかった部分が大きかったのだが。
最初から「キスされるのも嫌」と感じる相手とは、決してお付き合いしないと決めて置けばよかったと、今更ながらに後悔していた。


突然、バスルームのドアが開いた。

「キャアッ!!」

蘭は思わず悲鳴を上げた。
昨日から何度もお互い生まれたままの姿を目にしているのだが、それでも蘭がバスルームに真っ裸でいるところに、真っ裸の新一が入って来て、悲鳴が出てしまったのだ。

「あ、あの・・・お手洗いを使うんだったら私・・・」

そう言って蘭が新一の隣をすり抜け出て行こうとすると、新一に腕を掴まれ止められた。
「新一・・・?んんっ」

新一が後ろから蘭を抱き締め、 蘭の顎を捉えて顔を横向けさせ、口付けて来た。
口付けながら新一は片手で蘭の胸を揉み、もう片手で蘭の茂みの奥に手を伸ばす。


「あああっ!」

蘭の唇を開放した新一が、うなじに唇を寄せて来て、蘭はぞくぞくして思わず声を上げる。

新一は蘭を背後から抱き締めたまま、愛撫を続けた。
蘭が立っていられなくなると、新一は蘭の手を取って洗面台に掴まらせた。
そして新一は蘭の腰を捉えて支えると、背後から蘭の中に己を突き立てた。


「・・・・・・っ!!」

新一が入って来るのに慣れたと言っても、その体位は初めてで。
蘭は痛みを覚える。

「ごめん・・・いてえか・・・?」
「だ・・・大丈夫・・・」


新一が腰を揺らし始めると、痛みが治まるのと同時に、今迄とは違う快感が体を突き抜ける。
蘭は洗面台にしがみつく様にしてその感覚に耐えた。


「んん、はあ、ああ、あん、はああん、しんいちぃ、あああっ」
「くうっ。蘭、蘭・・・っ!すげえ・・・イイ・・・オメーん中、最高・・・」
「ああああんん、新一ぃ、はあんああああっ」
「・・・蘭・・・目ぇ開けて・・・見ろよ・・・」

蘭は目を開けて、羞恥心で真っ赤になる。
目の前には鏡があり、新一に背後から貫かれながら、快楽に喘いで口をあけ身をくねらせている自分の姿が映っていた。

「ああん、や、やだっ・・・!はああん!」
「くう・・・蘭・・・どうだ?オメーすげー淫らな顔してんの、分かるか?オメーはもう、オレのもんだって事・・・くっ・・・忘れんなよ・・・」


蘭は、新一相手に痴態を繰り広げている己の姿が死ぬほど恥ずかしかったけれど、決して嫌ではなかった。
言われるまでもなく、これは新一だけのもの、新一だけに見せる姿、そう思っていたから。


新一が、蘭が電話を取った事に気付いていて。
切れ切れに蘭の会話を聞いていて。
それ故、このような行動に出たのだとは、蘭は全く気付いていないのだった。

園子との会話部分を聞いていればまた違っていただろうが、彼が聞いたのは不幸にも、蘭が高梨と交わした言葉だけだったので。
かなり大きく誤解していた部分があったのだ。



2人上り詰めた後、蘭は洗面所に掴まり続ける事も出来なくなり、崩れ落ちそうになった。
しかしその前に、新一が蘭を抱えあげた。

意識朦朧とした蘭はそのまま寝台へと連れて行かれた。
再び始まる愛撫に、蘭は狂わされて行く。


お互いが、お互いの気持ちを知らぬまま。
互いに抱える不安を知らぬまま。
何も考えたくなくて、拭い去れない不安を感じたくなくて、ただ快楽に身を堕とす。

その日、2人の快楽に溺れる時間は、いつ果てるともなく続いたのであった。




<第4日>に続く

+++++++++++++++++++++++

<後書き座談会>

平次「ま、何やな。この座談会はずっとこんまま3人で行きそうやな」
和葉「工藤君と真由はんとは何や、アッサリした別れやったなあ」
園子「あの子も、最初の印象ほど悪い子じゃなかったって事よね〜。蘭がドロドログチョグチョの女の争いに巻き込まれなくて、ホッとしたわ〜」
和葉「アッサリし過ぎいう気もすんのやけど。確かにドロドログチョグチョは、読んでてもおもろないしなあ」
平次「せやけど工藤も冷たい男や。身も蓋もあらへん振り方やで」
園子「アヤツもホント、蘭以外の女には容赦ないヤツよね〜、ま、蘭の友達としては、そんなアヤツの態度は大OKだけどさ〜」
和葉「けど、工藤君が真由はんと一線越えてもうてたら、あんなアッサリな別れにはなれへんかったよなあ」
園子「言えてる〜、女としては抱いて貰えないのって情けない気もするけど、でもやっぱ一線越えてたら気持ち断ち切れなくなっちゃうもんね〜」
平次「ほ〜、さよけ。女も色々面倒なもんなんやな。たっ!和葉、何すんねん!」
和葉「知らんわ、ボケ!」
園子「それにしても工藤君、いくら好きでもないのに付き合ってたからって、同じ部屋に寝ててムラムラ来なかったのかしら?」
平次「アホ。そこが工藤の工藤たる所以や。3度の飯より女より、推理という・・・」
園子「む〜ん。原作でもパラレルでも、同じ部屋に寝てムラムラ来るのは、蘭だけなのね〜」
平次「せやな。工藤は女には何も感じへんけど、姉ちゃんだけは別なんやな」
和葉「なあ。一線越えた最初の日、2回。で、次の日に、ひのふのみ・・・最低4回・・・?(////)」
園子「途中眠ったりとかはあっても。結局朝から夜まで、だよね」
平次「あ〜、何や、工藤は姉ちゃん相手にはド助兵衛いうこっちゃな」
園子「あはは〜、それは否定出来ないような気がする」
和葉「けど原作では工藤君奥手っぽい感じなんやけどなあ」
平次「そりゃ姉ちゃんの回し蹴りが怖くて手が出せへんのやろ、臆病なヘタレやさかい」
園子「じゃなくて、アヤツは蘭に嫌われるのが怖いんだと思うわ。だから、1度一線超えるとかなり変わるんじゃないかと」
和葉「はあ、流石やなあ。蘭ちゃんの昔からの親友だけあるわ」
園子「でもこの話、もしかして・・・蘭と新一君、最初の日を除いて一週間ずっとエッチしまくり?」
平次「何せ副題がハニーウィーク、そういう意味や思うで?」
園子「今日がバック、次はお馬さん、・・・そして最後には鞭とローソク?」
和葉「園子ちゃん、あんた何考えとん?」

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