一週間〜ハニーウィーク〜



byドミ



<第2日>



次の朝。
蘭は早くに目覚めた。
昨夜あまり眠れなかったが、目が覚めてしまうともう眠れそうになかった。

食欲はなかったが、ティーラウンジに行ってコーヒーでも飲もうと、起き上がって着替えを始めた。
その時、「いつも何度でも」のメロディが流れた。
蘭の携帯の着メロである。
発信者は、蘭がたった今まで存在を忘れ果てていた、高梨雅彦であった。

「ハイ、もしもし。高梨さん?」
『ああ。蘭、ごめん。起こしちゃった?』
「ううん、さっき目が覚めて、着替えてたとこ」
『そっか。蘭は休みの日でも律儀に早起きなんだね』
「そういう訳でもないけど・・・」
『寂しい思いをさせてごめん。頑張って仕事早くケリつけるから、待っててくれよな』
「私の事は気にしないで、お仕事頑張ってね」

言葉を交わしながら、蘭の胸は罪悪感でいっぱいになる。
蘭は、高梨がいないのを寂しいと欠片も思っていない。
待ちたい気持ちも全くないのだ。

『多分、明後日にはそっちに来れると思う。明後日の晩には今迄の分、いっぱい愛してあげるからね』

蘭は思わず息を呑んで身を震わせた。
高梨に直に触れられるなど、想像しただけでも気持ち悪いと思ってしまった。

『今も、飛んで行って早く蘭を抱きたいって思っちゃうよ。蘭は慎ましいから1人でそこにいても心配はしてないけど、魅力的だからきっと多くの男達に声かけられてるだろう?いくら空手が出来ても、世の中には薬使って眠らせてなんて悪いヤツがいるんだからさ、気をつけるんだよ』
「え、ええ・・・」
『残念だけど仕事があるからこれで。蘭、じゃあ、また』
「それじゃ」

電話を切った後、蘭は、こみ上げる嘔吐感を必死で抑えた。

『どうしよう。どうしたら良い?私、高梨さんに抱かれるなんて、絶対、死んでも、無理・・・』

男性を好きになるという事が分からないままに、安易に付き合ったりしたツケが、今来ていると、蘭は思った。
蘭は今初めて、男性を愛するという感情を知りつつある。
もう遅いだろうか?遅いのだろうか?

『でも、たとえ片思いであっても・・・他の男の人に触れられるのは、絶対嫌だ』

死ぬ気で高梨に身を任せれば、この想いとも決別できるのだろうかと蘭は少し考えたが、とても我慢出来そうにないと頭を横に振った。

『高梨さんには謝って、お別れするしかない・・・私が蒔いた種だもの、私が自分で刈り取らなきゃ』


   ☆☆☆


蘭がティーラウンジでコーヒーを飲んでいると。

「相席、良いかな?」

深みのあるテノールの声がかかった。
蘭は昨日恋に落ちたばかりの相手からの申し出に、跳ね上がりそうな心臓を宥めながら、

「どうぞ」

と返答をした。
新一は笑顔を見せて蘭の向かい側に腰掛けた。

席はそこまで混んでいる訳ではないが、新一としても顔見知りになった蘭を見かけて、同席したくなったのであろう。

「あの・・・佐々木さんは?」
「まだ寝てる。昨夜はしこたま飲んでぐでんぐでんだったからな。あ〜、寝違えちまって首が痛えや」

新一がそう言って首を回した。

寝違えたのは、2人で寝たから?
蘭はそう考えて、胸がきりっと痛むのを感じていた。

彼らは恋人同士、2人一緒の部屋で過ごすとは、そういう意味に間違いない筈だから。
ところが、蘭の物思いが聞こえた訳でもなかろうに、新一がとんでもない事を告げたのである。

「やっぱ、ソファなんかに寝るもんじゃねえな。スプリングはまあまあだったけど、寝返りうてねえし。昨夜何回か床に落っこちちまったぜ」
「え?ソファって・・・ベッドは?」
「真由のヤツ、ツインじゃなくてダブルの部屋を予約しやがって。あんな酔っ払いと同じベッドで眠れる訳ねえだろ?」
「・・・・・・」

蘭は複雑な気持ちで押し黙った。
新一が蘭にわざわざ嘘を言うとは考えられなかったから、2人は昨夜、何もなかったのだろうか?

蘭は頭を横に振る。
馬鹿げた事を考えた、と思った。
彼らの旅行期間が何日か分からないが、最初の晩何もなくても、ずっとという訳ではないだろう。
昨夜は真由が飲み過ぎて、そうならなかっただけで。

新一の注文したコーヒーが来て、新一はひと口飲む。
蘭は、馬鹿げた物思いを振り払おうと、窓の外に目を向けた。

「今日は、良い天気ですね」
「良い天気?ああ・・・そうだな。毛利さん、君も相方がまだ来てねえんだろう?真由もあの調子じゃいつ起きるか分かんねえし。ちょっと歩いてみねえか?」
「え?」
「ああ、本格登山じゃねえけど、ハイキングの格好はしておいた方が良いな。後で部屋まで迎えに行くから。じゃあ」

蘭が返事をするより先に、新一は立ち上がってラウンジを出て行き、蘭はあっけに取られてそれを見送った。


   ☆☆☆


蘭は、ティーラウンジでサンドイッチと飲み物を買うと、部屋に戻り、着替えをした。
シャツを交換し、スカートをパンツに替え、靴はウォーキング用のものにする。
全て旅行用の、軽量で、洗濯した後に乾き易いものだった。

蘭はドキドキし始めていた。
新一と2人で、歩く。
好きな人と2人で、デートのような事をする。

高梨と会う時とは全く違う、胸のトキメキ。
真由に対して罪悪感がないでもなかったが、この位はいいだろうと自分に言い聞かせる。

新一の方は、きっとデートなんて感覚ではなく、軽い気持ちで単に散歩に誘っただけだろう。

そう思いながらも、蘭の胸に甘やかな想いが満ちて行く。

身支度が出来た頃、部屋のインターフォンが鳴った。
蘭がドアを開けると、そこには身支度を整えた新一が立っていた。

「工藤さん、そう言えば、どうやって私の部屋、分かったんです?」
「探偵を舐めちゃいけない。っても、この程度大した事じゃねえさ。さっき、君のキーのナンバーを見て、チェック済みだったんだよ」

おどけた調子で言う新一に、蘭は笑顔を見せた。
そして、2人はホテルを後にし、ちょっとしたハイキングと洒落込んだのであった。


その時の蘭は、この「散歩」で何があるのか、自分がどうなってしまうのか、全く予想もしていなかった。
新一が蘭をどういう風に見ているのか、何を考えているのか、全く理解していなかったのだ。


   ☆☆☆


「わあ。何だか山が、すぐ傍に迫って見えますよね〜」
「ああ、そうだね」

新一は返事をしてくれるものの何だか上の空のような感じに思える。
蘭は、少しはしゃぎ過ぎて新一が呆れているのじゃないかと心配になり、そっと新一の表情を盗み見た。
新一は、機嫌が良いのか悪いのか、それすらも読み取らせてくれない。

散歩に誘ったのは新一の方だから、蘭を嫌ってはいないだろうけれど、あんまりうるさくして疎まれたらどうしようと心配になった。
蘭は暫く、黙って新一の後について行った。
新一は何か考え事をしている風だったが、ふいに振り返って声をかけて来た。

「毛利さん。オレ、昨日少し歩き回って見つけたんだけど、この先に、野生蘭の群生地があるんだ。そこまで見に行かねーか?」
「野生蘭?ホント、見てみたい!」
「君の、ご先祖様かな?」
「ん、もう!工藤さんったら、冗談ばっかり」

蘭は、新一の申し出が嬉しく、疎まれていた訳ではなさそうだとホッとした。

ほどなく、野生蘭の群生地に着いた。
蘭は言葉もなくそれに見とれた。
管理栽培され店で売られている胡蝶蘭などもとても美しいが、自然の中で咲く野生の蘭達も、それに勝るとも劣らないと感じた。

「工藤さん、ありがとう・・・とっても嬉しい・・・」
「昨日偶然見つけた場所だ。見せるのは君だけだよ」

新一の言葉に、蘭は戸惑って新一を見上げ、言った。

「でも・・・佐々木さんは・・・?」
「あいつは、山歩き自体を嫌がるから・・・」

本当だったら新一は、真由にこれを見せたかったのかも知れないと、蘭は思った。
けれど、たとえどのような理由であっても、新一が自分の名と同じ蘭の花を、蘭に見せようと思ってくれたのが、嬉しかった。


携帯で写真を何枚か撮った後、休憩も兼ね、2人は並んで腰掛ける。
蘭は、リュックの中からサンドイッチと飲み物を取り出した。

「ティーラウンジでさっき買ってきたんだけど・・・良かったら」
「ああ、サンキュー。エネルギーと水分補給は大事だよな」
「ホテルだから無理だけど、私、お弁当作り、得意なんですよ。今度は私の手作りお弁当を持って、ピクニックに行きましょうよ」
「え・・・?」

新一が戸惑ったように蘭を見て言った。

「なあ。それって、また2人でって・・・事?」

蘭は、つい自分の夢想を話してしまった事に焦りながら、誤魔化す。

「え・・・?や、やだ。佐々木さんと、そして・・・みんなで」
「あ、そっか。みんなで、ね」

新一が笑顔で言ったので、誤魔化せたかと蘭はホッとする。
その後蘭は暫く、差し障りのなさそうな話題で一生懸命話しかけた。
新一は、呆れているのかも知れないが、黙って話を聞いてくれた。



突然、遠くで微かに雷鳴が響き、風がさあっと通り過ぎた。
蘭はビクッとする。
あんなに天気が良かったのに、いつの間にか、雲が多くなっていた。

「天気が崩れそうだ、戻ろう」
「え、ええ・・・」

新一が先に立ち上がって蘭に手を伸ばして来たので、蘭は素直にその手を取った。

2人急ぎ足で来た道を戻るが、やがて空が暗くなり、雨が降り始めた。
小降りからすぐに大降りに変わり、2人ともびしょぬれになる。

「毛利さん!あそこに小屋がある、そこへ!」

蘭が目を凝らすと、確かに小さな建物の姿が見えた。
蘭は新一に手を引かれて、山小屋へと向かった。


小屋の入り口から入ると、新一がリュックからバスタオルとブランケットを取り出して、蘭に渡して来た。

「濡れた服を着たままだと、風邪を引く。オレは薪を取って来るから、その間に服脱いで体を拭いて。どこかに毛布がある筈だから、それを着ていてくれ」

蘭が頷くと、新一は小屋の裏手の方へ駆けて行った。
蘭は小屋に入った。
板敷きの簡素な小屋で、暖炉が隅にこしらえてある。
開き戸の物入れがあり、そこには毛布が2枚あった。

初夏とは言え、山の中で、濡れたままの服を身につけている事がどれ程体に毒か、蘭は知っていたので、手早く濡れた服を脱いだ。
下着は迷ったが、下着までびしょ濡れなので、全てを脱ぐ。
新一から受け取ったバスタオルで体を拭くと、毛布の1枚にくるまり、濡れた服を広げて干した。
下着は、ブラウスとパンツの陰に置いて見えないようにする。

やがて、戸がノックされた。

「毛利さん、もう大丈夫かな?」
「は、ハイ・・・」

新一がドアを開け、抱えて来た薪を暖炉に入れて、火を起こそうとした。
薪が少し湿っている所為か、なかなか火がつかない。
新一がびしょ濡れのままだったので、蘭は気になって声をかけた。

「あの・・・工藤さんも、濡れたままじゃ・・・火は私が・・・」
「大丈夫、すぐだから。ホラ、もうついた」

一旦火がつくと、やがて盛んに燃え上がり、室内は暖かくなった。
炎を見ると、ホッとした気持ちになる。
蘭は、新一がリュックにタオルなどを準備していた事に感心し、蘭を先に室内に入れ濡れた服を脱がせ、その間自分が薪を取りに行った紳士的な配慮に感動していた。

新一は火を起こした後自分も素早く服を脱ぎ、タオルで体を拭いた後、毛布を巻きつけ、蘭の隣に並んで腰掛けた。

蘭は、寒さだけではなく緊張感もあって、震えていた。

「毛利さん。寒いのか?」
「え、ええ・・・少し・・・」
「失礼」

新一が毛布ごと蘭を抱き締めて来たので、蘭は一瞬ビクリとしたが、そのまま新一に体を預けた。
毛布越しに新一の体温が伝わって来て、温まると共に幸福な気持ちになった。

新一にとっては、蘭も昨日の被害者も変わりなく、共に「出来れば助けたい相手」なのであろうと蘭は思った。
たとえそうでも、こうやって新一の温もりに包まれているというのが幸せで安心出来た。
他の男の人とだったら、このような非常事態であっても、蘭は決して、身を預ける事はしないだろう。

この人が好き、この人だけが好き。
蘭の心に切ない思いが満ちる。

「雨が止んで、服が乾くまで、ここで過ごすしかねえな・・・」
「は、はい・・・」

まだ降り続く雨。
いつまでも、止まなければ良いと、馬鹿な事を考えてしまう。

しかし、山の雨では付き物であり蘭が苦手なものの事を、蘭は忘れていたのだった。
突然稲光がしたと思うと、比較的近くで雷鳴が轟いた。

「キャッ!」

蘭は思わず、新一にしっかりしがみ付いてしまった。
新一は蘭をしっかりと抱き締めて来て、耳元に囁いた。

「蘭・・・雷が、怖いのか?」

たった今の雷への恐怖心を忘れ、蘭は別の意味でぞくぞくする。

「え、ええ・・・」
「大丈夫だよ。オレがついてる」
「はい・・・」

新一はちょっとだけ体を離すと、蘭の顔を覗きこんで来た。
蘭は新一の瞳に、暗い情念の炎を見たような気がしたが、気のせいであろうと思い直す。
新一が、蘭の頬に手を当てる。

そして・・・蘭が逃れようと思えば逃れられるだけの余裕を持って、新一の顔がゆっくりと近付いて来た。

あまりにも思いがけない出来事だったので、新一が本当に触れて来るまで、蘭は新一が「その積りになっている」事実に気がつかなかった。

新一の唇が、ゆっくりと蘭のそれに重ねられる。
蘭は、心臓が破れそうになりながらも、身動きが出来なかった。

蘭にとって、初めての口付け。

新一が、ゆっくりと蘭の唇を味わうように動き、蘭は快感が背筋を駆け抜けるのを感じていた。

「ん・・・」

蘭の唇からは、甘やかな吐息が漏れてしまう。

新一が一旦唇を話すと、蘭の瞳を覗き込んで来た。
その眼差しに、紛れもない情欲の色がある事に、今度こそ蘭は気付いた。
新一は蘭を深く抱きこみ、もう1度唇を重ねて来た。
今度は触れるだけでなく、蘭の口を吐息ごと覆い奪うように、深く口付けられた。

新一の舌が蘭の唇をなぞる。
蘭はその感覚にぞくぞくし、新一にしがみ付いた。

新一は蘭の唇の隙間から舌を蘭の口腔内に侵入させて、中をまさぐった。
震えて逃げようとする蘭の舌が絡め取られる。
その甘い感覚に、蘭は身震いした。

他の男とだったら、舌を絡めるどころか唇が触れ合うだけでもおぞましいに違いないのに、相手が新一であればどうして全てが甘く痺れるような快感を伴っているのだろう?

蘭は、口付けの先にあるものを薄々予感しながら、まだそれを実感できないで居た。
新一は角度を変えながら口付けを続け、蘭の全身から力が抜けて新一にしがみ付いた。

すると。
新一は左の腕でしっかりと蘭を抱えたまま、右手をそっと滑らせ、毛布の上から蘭の胸を包み込んだ。
明らかに意図を持って蘭の胸に触れてきた新一の手の動きに、蘭は身じろぎした。

「んっ・・・!」

蘭が身じろぎすると共に、毛布が肩から滑り落ちる。
新一の手は直に蘭の胸を探ろうとした。

「あっ!」

蘭が思わず身をよじると、毛布が完全に滑り落ち、蘭の上半身は露になった。
嫌なのではないが戸惑いと羞恥心で、蘭は新一の腕から逃れようとする。
新一が自分の毛布を払い落としながら、僅かに逃れようとする蘭を追って改めて抱き締めてきた。

2人は上半身裸で、素肌を触れ合わせながら抱き合う格好になった。
直接素肌が触れ合う感触が、恥ずかしくも心地良く、蘭はドキドキして気が遠くなりそうだった。
新一の動悸が直接伝わり、蘭は新一も息が荒く動悸が速くなっている事に気付く。


「く、工藤さん・・・」

蘭が喘ぎながら新一を呼ぶ。
新一は蘭の目を覗き込みながら、言った。

「新一、だよ。蘭」
「・・・しん・・・いち・・・?」
「そう」
「工藤さ・・・新一・・・ど、どうしてこんな・・・」
「蘭。オレとこんな事、嫌か?」
「嫌なんじゃない・・・でも・・・どうして?」
「オレはただ、オメーに触れたい。オメーを抱きたい。それだけだよ」

新一に真っ直ぐ見詰められ、そう告げられて。
蘭は、震えながら大きく息を吐いた。

常に冷静沈着に見える学生探偵の工藤新一と言えど、若い男性。
このような状況で、スイッチが入ってしまう事もあるのだろう。
昨夜、恋人の真由とそういった時間を持たなかった分、欲望の行き所が蘭の方に向いたのかも知れない。

蘭は心の片隅でそのような事を思いながらも、新一の求めに逆らえない自分を自覚していた。
自分でも愚かな事だと思う。
けれど、蘭自身が今、「新一に抱かれたい」と思ってしまっているのだった。

「蘭・・・抱いても、良いか?」

こういった状況であってすら、新一は無理やり事を進めようとせずに紳士だと、蘭は思った。
蘭は震えながら、こくりと頷く。
蘭自身、どうしようもなく、新一とそうなる事を強く望んでしまっていたから。

新一は再び蘭に深く口付けると、そのまま蘭を押し倒した。
毛布が床に広がり、蘭はその上に横たえられる。
体に巻きつけた毛布が全て広がり、蘭は生まれたままの姿を新一の前に晒した。

新一は一旦体を起こすと、蘭の全身を見詰めてきた。

蘭は新一の視線を痛いほどに感じながらギュッと目を瞑っていた。
全身が、寒さとは違う理由でどうしようもなく震える。

「綺麗だ・・・蘭・・・」

新一が蘭の肌に手を滑らせると、蘭が反応してピクリピクリと動く。
新一が蘭の胸に手を当て、その柔らかな双丘を揉み解すと、蘭の口から吐息が漏れた。

「蘭の肌・・・すべすべしてて・・・柔らけえ」

新一は、蘭の首筋に唇を落とし、そのまま胸まで唇を滑らせていく。

「あ・・・」

新一の唇は、蘭の双丘にたどり着き、唇でゆっくりと蘭の肌を撫でながら、時々強く吸い上げた。
蘭はその度に、そこにチリッと微かな痛みを感じた。
新一は蘭の胸の頂を口に含み、舌先で転がすように舐め回した。

「はあ、ああっ、ああああん!」

胸の果実に触れられるのは初めてだが、下腹部までを貫く快感に、蘭がひときわ高い声を上げて身をくねらせた。


「蘭、蘭・・・!」
「あ・・・はあ・・・新一・・・」

新一が蘭の全身に唇と指で触れて行くと、蘭の口からは甘い悲鳴が上がり、身をくねらせる。
新一がそっと蘭の泉に触れて来た。
そこは既に大量の蜜を溢れさせていた。

「あ・・・っ・・・や・・・」

新一の指が蘭の秘められた花に触れてなぞると、蘭は足をギュッと閉じて首を横に振った。

「蘭・・・嫌?」


新一は手を止め、蘭の顔を覗きこんで問うた。
蘭はギュッと目を閉じ、手で顔を覆ってかぶりを振る。

「ああ・・・違う・・・嫌なんじゃないけど・・・」
「蘭・・・目を開けて・・・ちゃんと、オレを見て」

蘭が目を開け新一を見上げる。
新一がじっと蘭を見詰めてきた。
犯人を追い詰める時の強気の眼差しではなく、切なそうな揺れる眼差しに、蘭は更に新一に絡め取られてしまうのを感じていた。

「蘭・・・」

新一は蘭を抱き締め、口付けた。
新一の胸板には、蘭の柔らかな双丘と、その頂の固くなった果実が押し付けられる。
服を着た時には細身に見える新一だが、こうして直に触れ合ってみると、無駄なく引き締まってキッチリと筋肉がついた固い体をしていた。
何かが蘭の下腹部に直に当たり、蘭はそれが、新一の屹立したものだという事に気がついて、身を震わせた。

新一は口付けながら、手を蘭の太ももの内側に滑らせ、撫で上げていく。
蘭の強張った体から少しずつ力が抜ける。
蘭のギュッと閉じた足の力が抜けたところで、新一は蘭の両膝を抱えあげ、持ち上げた。


「あ、あっ・・・」

新一の目前に、蘭の秘められた花が露になった。
男性に自分の性器が見られている羞恥心に、蘭は思わず足を閉じようとするが、力が入らず叶わない。

「ああ、見ないで・・・」

蘭が力なく懇願する。

「蘭、嫌?」

新一が再び尋ねた。
新一に見られるのだったら、嫌なのではないが、恥ずかしくて堪らない。

「ちが・・・恥ずかしい・・・」
「すげー綺麗だよ・・・蘭・・・」
「ああっ・・・!」

新一が蘭の花に口付けて来て、蘭は思わず身をよじった。
新一は唇と指で丹念に蘭の花びらを開かせて行く。
何かが、蘭の中心部に差し込まれ、その異物感と痛みに、蘭は身を固くした。
新一の指が、蘭の入り口から入って来たのだった。

「あ・・・んんっ・・・!」
「蘭・・・力、抜いてて・・・」

新一の指が蘭の中をかき回すと、粘着性のある水音が響いた。

「ん・・・ああ・・・しん・・・いち・・・」
「蘭・・・もう我慢できねえ!挿れて良いか?」

蘭は、1度目を開くと、身を震わせながらも新一を見て頷いた。

蘭の秘めた花の入り口に、熱い塊があてがわれる。
蘭は息を詰め、その瞬間を待った。
新一の屹立したものが蘭の中に押し入ってこようとする。
覚悟していた筈なのに、身が引き裂かれそうな痛みに、蘭は堪え切れず新一から逃れようとするように腰をずりあげながら苦痛の声を出した。

「う・・・あ・・・つうっ!!」

蘭の顔が歪み、眦に涙が浮かぶ。
蘭のそこはきつく締まり、蘭の意志とは裏腹に新一の侵入を拒んでいた。
新一が愕然としたように呟いた。

「蘭・・・オメー・・・!」

目をギュッと閉じ、必死に毛布を掴む蘭の頬を、新一の手がそっと撫でる。
新一は蘭の唇に再び唇を重ねると、蘭の手を取り、自分の背中に回させた。

「蘭。爪立てても良いから、オレにしっかり捕まってろよ」

新一は蘭の耳にそう囁くと、再び唇を重ね、蘭の胸を優しく揉みしだいた。
そして、少しずつ腰を進める。
蘭のそこはきつく中々新一の侵入を受け付けなかったが、ある一点を超えると新一のものは一気に中に入り込んだ。

その瞬間蘭は、新一に口付けられたまま声にならぬ悲鳴をあげ、新一の背中に回した手で強くしがみついた。

新一のものが蘭の中に納まりきったところで、新一は唇を離し、少し体を起こして蘭を見下ろした。
蘭の固く閉じられた眦から、涙が流れ落ちる。
新一の唇が蘭の頬に優しく触れ、涙を拭い取った。

「蘭・・・」
「しん・・・いち・・・?」
「・・・大丈夫か?」
「うん・・・」

新一は、また唇を重ねて来た。
蘭は痛みに気が遠くなりそうになりながら、新一の口付けに酔った。

「蘭、オレがオメーの中に居るの・・・分かるか?」
「うん・・・」

新一が何故そのような事を言ったのか分からなかったけれど、蘭は幸せだった。
この耐え難い苦痛も、相手が新一であれば構わない。
愛する男性と結ばれるという事がどれ程に幸せな事であるのか、蘭は知った。

「蘭、オメーん中、熱くてスゲー気持ちイイ・・・」
「しんいち・・・」
「蘭は?気持ちイイか?」
「そんなの・・・わかんないよ・・・」
「まだ、痛えか?」
「それは・・・もう大分・・・良いけど・・・」
「蘭は、初めてだったんだな?」
「うん・・・」

新一が、蘭に軽く口付け、蘭の額に自分の額をこつんと当て、微笑みながら蘭の目を覗き込む。

「スゲー嬉しい・・・蘭がまさか初めてとは思わなかった」
「新一・・・」
「蘭、動くぞ?」
「う、うん・・・」

新一がゆるゆると動き始めると、蘭の身を再び強い痛みが襲う。

「う・・・ああっ・・・!」
「蘭、蘭・・・!すまねえ・・・!」
「んんっ・・・あふっ・・・んっ・・・あっ・・・」
「蘭・・・スゲー・・・イイ・・・」

新一の動きは激しくなり、蘭は必死で新一にしがみついた。
繋がっているところから、粘着性の水音が響く。
やがて新一がひときわ大きく蘭の奥を突き上げると、動きが止まった。

新一のものが脈打ち、蘭の奥に熱いものが放たれたのを、蘭は感じた。

「あっ・・・!」

蘭が身を震わせる。
新一は、暫く動きを止め、蘭の中で余韻を楽しむ風だったが、やがて力を失った己を静かに抜いた。

蘭の秘められた花から流れ落ちたもの――蘭が純潔を失った印が、毛布の上に散った。



雷雨は、まだ止まない。
蘭は新一の腕の中で、意識を手放してしまっていた。


   ☆☆☆


蘭は、ホテルの自室でシャワーを浴びていた。
下半身に残る鈍い痛み、自分の肌のあちこちに残る紅い印。

それらはハッキリと、蘭の身に何があったかを示しているのだが、蘭はそれが夢の中の出来事であったかのように実感がなかったのである。


雨を避けて非難した山小屋で、新一に本能のままに求められ、結ばれた。
他ならぬ新一からの求めに、蘭は逆らう事が出来なかった。

新一に貫かれた時の、灼熱の塊が体を引き裂いたかのような痛みも、もう既に実感を伴っていない。
事前の愛撫の時にはかなり感じてしまったような気がするが、それも、遠い記憶のような気がする。

蘭の体は、まだセックスの快感を知ってはいない。
なのに、体が熱く、再び新一に貫かれる事を欲していた。

『私・・・何て淫乱なんだろう・・・』

耐え難い痛みに身を貫かれ、あの瞬間には早く終わって欲しいとすら思っていた筈なのに、今は再び新一に抱かれる事を切望している。

『彼にとっては、ただの・・・成り行きと本能だけの・・・出来事に違いないのに・・・私は・・・』

蘭は、どういう形であっても、新一に抱かれた事が嬉しく幸せだったのだ。
男性と触れ合う事へのためらいや恐怖感・不安、全てを遥かに凌駕して、新一にだったら抱かれたいと思ったのだ。
そして新一は、優しかった。
流れでそうなってしまったけれど、決して、無理やり力尽くで事を進めようとはしなかった。

山小屋で、新一に触れられて。
最初は、新一が蘭相手にその気になると予想もしていなかったから、混乱して。
けれど、新一がハッキリと性行為に及んでいると気付いてからは、体がどうしようもなく震えても、決して拒絶の態度を見せるまいと、蘭は必死で堪えていた。

蘭が途中で拒絶したなら、その時点で新一は蘭に触れるのを止めるだろうという、妙な確信があったのだ。
蘭がバージンである事も、その瞬間まで隠し通した。

想像以上の苦痛、触れられる快感、片思いの相手に抱かれる絶望にも似た幸福感。
蘭は、初めての感覚に翻弄され耐えられず、意識を手放してしまった。



蘭が山小屋で意識を取り戻した時は、雷雨は去り、日が顔を出していて、服もどうにか乾いていた。
足腰が立たない蘭を、新一が負ぶってホテルまで連れ帰ってきた。

『ごめん・・・』

新一は終始黙っていたが、蘭を部屋に送り届けた時に、呟くようにそれだけ言った。

『何故、謝るの?謝って欲しくなんかない!』

蘭はその言葉が喉まで出掛かり、けれど飲み込んでしまった。

新一にとっては、蘭を抱いたのは「予定外の過ち」なのであろう、「間違い」なのであろうと、蘭は悲しく思ったのである。



蘭がシャワーを浴び終わって髪を乾かし、ベッドルームに戻ると。
タイミングが良いのか悪いのか、蘭の携帯が鳴り、ディスプレイに表示された名前を見て、蘭は息を呑んだ。
今は関わりたくない相手、蘭の「恋人」高梨雅彦からであった。
無視する訳にも行かず、蘭は携帯に出る。

「ハイ。毛利です」
『おいおい、僕からだって分かってるだろう?そんな他人行儀な名乗りをしないでくれよ。・・・今日、なかなか連絡取れなかったけど、どうしたの?』
「え・・・?あ、携帯のチェック、忘れてた・・・」
『蘭?』
「今日は、や、山歩きをしてて・・・帰って来たら疲れて寝たりシャワー浴びたりしてたから」
『山歩き?1人で?』
「う、うん・・・」

蘭は、つい苦手な筈の嘘をついてしまう。
決して「高梨を」誤魔化したい訳ではなかった。
ただ、新一とのあのひとときを、「蘭だけの秘め事」を、他の誰かに知られたくはなかった。

『蘭、1人で山歩きなんて、危ない事はしないでくれよ。蘭にもしもの事があったら・・・君の体は、君1人のものじゃない、分かるだろ?』

蘭は、思わず吐きそうになり、必死に堪えた。
高梨に「蘭」と呼ばれるのすらも、おぞましい。
私はあなたのものじゃないと、心の中で悲鳴をあげる。

たとえ新一にとっては過ちであろうと遊びであろうと、蘭の身も心も全て、すでに新一のものだった。

「高梨さん。ごめんなさい。私、あなたとこれ以上お付き合いできない。お別れしようと思うの」

蘭の口から、思いがけないほどあっさりと、この言葉が出てしまった。
別れ話は面と向かって言わないと誠実ではないと思いながら、悪いと思いつつも、これ以上高梨と関わりたくないのが本音だった。

暫く沈黙がおりる。
その後、殊更に明るい声が返って来た。

『やだなあ。蘭、君、普段我儘言わないから気がつかなかったけど、1人にした事拗ねてたんだね?』
「え・・・?あ、あの・・・そんなんじゃ・・・」
『寂しい思いをさせて悪かった。なるべく早くそっちに行くから、待ってて。あ、でも、1人の山歩きは本当に危険なんだからね。それじゃあ蘭、また仕事に戻らないといけないから。・・・愛してるよ』

高梨は一気に言うと、一方的に電話を切った。
蘭は呆然としながら自分の携帯を見詰める。

思えば高梨は以前から、蘭の話を聞かず一方的に決め付ける事があった。
このような大事な話に限って、そうだった。

蘭は今別にその事で高梨を責める気はないが、別れ話を本気で言ったのにはぐらかされたのには参ってしまった。
おそらく高梨には、はぐらかした積りはなく、単純に、蘭が本気で別れたがっているなどと考えられないだけなのであろうけれど。

改めて携帯をチェックすると、高梨からの着信履歴やメールが山ほど入っていた。
メールを開いて読む気もしない。
最早蘭の心は高梨にはないから。
最初から、なかったから。

高梨に対して罪悪感はある。
一応仮にも高梨と付き合っている状況で、他の男に身を任せたのは、罪だと思う。

けれど・・・。
蘭には分かっていた。
蘭の最大の罪は、「高梨の事が好きでもないのに自分でそれを分からずお付き合いをし続けていた」事であるという事が。
今となっては、高梨と速やかに別れる事が、せめてもの誠意であるという事が。


   ☆☆☆


突然、部屋のチャイムが鳴り、蘭は訝しく思いながらドアのところへ行った。

「はい?」
「工藤だけど・・・入れて貰えるかな?」

蘭は、心臓が跳ね上がるのを感じながらドアを開けた。
そこには新一が、胡蝶蘭の鉢植えを持って立っていた。

「く、工藤さん?」

蘭は新一を招き入れながら、鉢植えから目が離せなかった。

「最初は薔薇の花束にしようかと思ったけど、ここには花瓶もねえかと思って・・・」

そう言って新一は蘭に鉢植えを差し出す。

「私に?」
「ああ。自然の中の野生蘭も良いけど、胡蝶蘭の鉢植えも綺麗かなと思って・・・」
「あ、ありがと・・・」

蘭は受け取った鉢植えを、出窓のところに置いた。
暫く沈黙がおりる。
最初に口火を切ったのは、新一の方だった。

「あの。ごめん・・・」
「・・・何故、謝るの?」
「何故って・・・」

蘭は、やはり新一にとっては「過ち」だったのだと悲しく思いながら、新一を真っ直ぐに見て言った。

「わ、私は・・・自己責任だって、ちゃんと分かっているから・・・あなたは力尽くで乱暴な事をした訳じゃない、わ、私が・・・あの状況を受け入れたんですもの。だから・・・謝ってもらう必要なんか、ないんだから。あれ切りでも文句は言わないし、責任を取って欲しいとも言わない」
「違う。そうじゃない。オレはオメーを抱きたいと思い、オメーはそれを受け入れた、だから別にオレは・・・オメーを抱いた事を謝る気はねえ」

新一の方も、蘭を真っ直ぐ見詰めてそう言った。

「じゃあ、何故・・・?」
「オメーが、泣いたから・・・」
「え・・・?」
「オメーが何で泣いたかは分からねえけど・・・ごめん」
「工藤さん・・・?」

蘭はいきなり、新一に抱きすくめられた。

「そんな呼び方すんなよ。さっきのように、新一って呼べよ、蘭!」
「しん・・・いち・・・?」

次の瞬間、蘭は唇を奪われた。
そして、ふわりと抱えあげられたかと思うと、ベッドの上に横たえらえる。

蘭の唇を開放した新一が、蘭の耳元で熱く囁く。

「蘭。抱きたい・・・」
「新一・・・んんっ・・・!」

蘭は再び新一に唇を塞がれ、返事は出来なかった。
新一が蘭の服を脱がし始め、蘭はされるがままになっている。

蘭の裸身が再び新一の眼前にさらけ出され、新一は息を呑んだ。
新一の手が伸び、蘭の肌を撫で回す。

「すげー綺麗だよ、蘭・・・」
「あ・・・ん・・・」

「オレは、1度きりで終わる積りはねえ。今日の事は、成り行きだったかも知れねえけど、気の迷いでも過ちでもねえんだ・・・」
「新一・・・」

蘭は、新一の言葉が、新一の求めが、嬉しかった。
けれど、心の奥に棘のように突き刺さっているものがある。

ふわふわの天然パーマの、我儘だが憎めない少女・真由。

『新一には真由さんという恋人がいて・・・私も新一も、真由さんを裏切っているんだわ・・・』

けれどその思いは、新一の愛撫を受ける内に、蘭の思考の片隅に追いやられてしまう。

「はあん・・・」
「蘭は、スゲー感じ易いよな・・・」
「そ、そんな事・・・言わないでよ・・・私だってこんな・・・!」

自分でも、とてもいやらしい体だと思ってしまうが、それは新一に対してだけ、反応するのは新一に対してだけなのである。
淫乱な女性と思われるのはたまらなかった。
蘭の目からは知らず涙が滲んでくる。

「え?蘭、挿入だけじゃなくて、まさか愛撫も全く初めてだったのか?」
「意地悪!私、私・・・!自分でもこんな風になったの、信じられないんだから!き、キスだって・・・」
「もしや、今日のあれが、蘭のファーストキス?」

蘭は涙をいっぱい溜めて、黙って頷いた。
新一は、真面目そうに見えて、女性をとても扱い慣れていると蘭には思えた。
今の恋人真由とは、まだそういう関係になって居なくても、年頃の男性として相応の経験は積んでいそう、と言うより、かなり手慣れている、経験豊富なのだろうと蘭は感じていた。

蘭の気持ちを知らぬ気に、新一は嬉しそうな声で言った。

「蘭ほど上等な女が、未経験で、初めてを全部オレのもんに出来たなんて・・・信じられねえけど、スゲー嬉しいよ」

新一が蘭の胸の頂を、片方は指で、片方は口に含んで愛撫する。

「あああん!はあああっ!」

蘭は背中をそらせピクピクと反応する。

「蘭・・・!この声も、この姿も、全部・・・オレだけのものなんだよな・・・」
「ああ・・・ん・・・っ」
「誰にも・・・ぜってー渡さねえ・・・!!」


新一のこの独占欲がどこから来るものか、蘭には分かっていなかった。
蘭との行為はあくまで成り行きで、恋人の真由が新一にとって1番の存在だと、蘭は思い込んでいたから。

新一が蘭の全身を丁寧に隈なく愛撫して行き、蘭は信じられない程の快感に翻弄され、蘭の秘められた花からは蜜が溢れていた。

やがて、新一が蘭の両足を抱え上げ、蘭の中心部に怒張した新一自身をあてがい、一気に貫いた。

「う・・・っ・・・ん・・・!」

新一が蘭の中に入る時は、最初ほどではないがやはりまだ痛みを伴っていた。

「蘭?やっぱりまだ、痛えのか?大丈夫か?」
「うん・・・少し痛いけど、最初の時よりはずっとマシ・・・」
「そっか。良かった・・・その内、痛みもなくなって気持ちよくなると思うからよ」
「・・・新一・・・」
「早く慣れるように、いっぱい、しようぜ?」

新一の言葉に、蘭は朦朧とした意識の中で、ではこの関係は暫く続くのかと考えていた。
新一の「浮気相手」として、体だけの関係。
それでも良いと、新一にとって遊びでも体だけの関係でも、傍に居られれば良いと、思ってしまっている事を、蘭は自嘲的に感じていた。

新一が動き始めると、最初はやはり少し痛みを伴っていたが。
やがて、痛み以外の感覚がわきあがってきた。

「あ、ああん、・・・新一・・・っ・・・私、何か、変・・・!」
「くっ・・・蘭の中、すげー気持ちイイ・・・」
「あ・・・しん・・・いち・・・あん、あっ、んああああっ・・・はあああああああん!!」

蘭の意識は白濁し、蘭は新一にしがみ付きながら背中をそらせた。
と同時に、新一のものが脈打ち、蘭の奥に熱いものが放たれる。

そして、2人とも荒い息を吐きながら弛緩した。
新一が蘭の中から力を失った己を引き抜き、蘭の隣に横たわる。

新一が蘭を抱き寄せ、蘭の顔に手を伸ばし、汗で額に張り付いた髪をかき上げながら、そっと頬に口付けてきた。

「蘭。イッたんだな」
「イッタって・・・これがそうなの?」
「ああ、多分な。山小屋では、オレだけが気持ち良くて、蘭は痛えだけだったろ?でも今回は、オメーも気持ち良かったみてえだから、すっげえ嬉しい」
「馬鹿・・・そんな事・・・」
「女性が最初から、簡単にイケルもんじゃねえってのは分かってんだけどよ。蘭に苦しい思いだけさせたってのはオレも心苦しかったから」
「新一・・・」
「蘭。オメーを抱けてスゲー嬉しい。オメーが初めてだったのもスゲー嬉しい。オメーの事、ぜってー離さねえからな」

新一が蘭を手放さないのは、都合のいい女としてか、浮気相手としてなのか?
私は新一の何?と訊きたい気持ちを、蘭は飲み込んでしまった。


暫く2人寄り添っていたが、やがて、新一が体を起こし、服を身につけ始めた。

「新一・・・?」
「ずっとここに居てえけど、部屋に戻らなきゃな」

部屋に?
真由の元に?

蘭は、胸が切り裂かれるような痛みに必死で耐えた。

「あ、あの・・・それで・・・まだその、そういう意味じゃねえんだけど・・・」

新一が妙に歯切れ悪く言いながら、蘭の右手を取り。
そして、右手の薬指にそっと嵌められたのは、七宝細工の蘭模様の指輪だった。

「え・・・?これ・・・」
「昨日、蘭がこれを欲しがってたみてえだから・・・」
「新一・・・」
「あ、その、安もんだし、別に深い意味はねえから・・・」

新一が慌てたようにそう言った。
深い意味がないという新一の言葉が、今はかえって辛い。
けれど、どういう意味であっても、新一が蘭に指輪をくれたのが、嬉しい。

身につけるものであっても、愛しい相手に贈られるものならば、重くなど感じはしない、とても嬉しいものだという事を蘭は理解する。

「新一・・・ありがとう・・・嬉しい・・・」
「あ、その・・・この次は。きちんとしたもんを贈るからよ・・・」

きちんとしたもの。
と言っても、まさか「そういう意味」のものではないだろうと思いながら、蘭はそっと左手で自分の右手を握り締めた。


新一は蘭の額にそっと口付けを落とし、

「じゃあ、また明日」

と言って、部屋を出て行った。



蘭はその晩、1人寝床の中で、眠れぬ苦しい夜を過ごす事になる。
新一が真由と何を話しどう過ごす為に戻って行ったのか、その時の蘭は全く知らなかったのであった。




<第3日>に続く

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<後書き座談会>

平次「・・・・・・」
和葉「・・・・・・」
園子「・・・・・・」
平次「ま、なんやな。工藤は助兵衛で手が早いっちゅうこっちゃな」
和葉「平次やあらへんし、工藤君がこないな人やなんて信じられへんで」
平次「な・・・!オレのどこが助兵衛や、言うてみい!」
和葉「あん時もこん時も!女の子見て鼻の下伸ばしとったやん!」
平次「はああ!?お前・・・何ゆうてるん!?あん時?こん時?(考え込む)女の子!?(更に考え込む)あ、あれは、行動が引っ掛かってやな。何でそないな事言うたかとか、何でそないな事やったんかとか、全部事件解決に関係しとんのやで?」
和葉「信じられへんわ、ドアホ!」
平次「信じられへんのはこっちや!探偵ちゅうのはな、いっつも冷静に観察しとかなあかんのやで、鼻ん下伸ばしとる暇あるかいな!」
園子「はあ・・・けど、やっぱり新一君ねえ」
和葉「へ!?工藤君ってやっぱり助兵衛なん!?」
園子「そうじゃなくて。蘭しか見えてないってとこがよ」
和葉「でもこの話では、真由ちゃんが恋人やん?で、蘭ちゃんにも手ぇ出したんは、アタシには不実な男にしか見えへんけど」
園子「それは、和葉ちゃんがアヤツの事を知らないからよ。アヤツには、蘭以外の女を手玉に取る甲斐性はないわね」
平次「・・・妙に断言すんのやな」
和葉「ところで1つ気になっとんのやけど」
平次「何や?」
和葉「蘭ちゃんは他の話と同じく、工藤君が初めての相手なんやけど、工藤君はどないやろ?」
園子「う〜〜〜ん。妙に手慣れている風だったわよねえ。アヤツも、蘭という存在が居て他の女と、とは考えられないけど、この世界なら経験豊富って線もありよね」
平次「・・・それは絶対あらへん」
和葉「平次、さっきと言っとる事が逆やん」
平次「せやけど、よう考えたら工藤が経験豊富は考えられへん。アイツはオレと一緒で3度の飯より女より推理ってタイプや。ちょいつまみ食い位はあるかも知れんけど、経験豊富ゆう事はあらへんな」
園子「う〜〜〜ん。結局どうなんだろ。さて真相は如何に!」
和葉「以下次回、やな」
平次「ほな、また」

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