現地時間12月23日午後10時…


アメリカ ワシントン州のナショナル・ストリートに建てられた19の博物館。

そこを警備員の制服を身につけた12人の男女が歩いていた。











聖なる夜の大冒険



by.中村亮輔様


[1]



「へぇ〜。ここがナショナル・ストリートか…。噂以上の大きさだな、こりゃ。こんなにでかいってことは絵画や彫刻、写真、オブジェ、標本、人形、銅像とか全部数えたら万は下らねーだろうな。」
「そうね。新一。」
「あのな〜工藤と姉ちゃん。そないなお喋りしとる暇あったら早ようスミソニアン博物館に行かなあかんやろ。」
「せやで、みんな。何もたもたしとん?」
「ちょっと待ってよ。服部君、和葉ちゃん。」
「そうですよ。二人共。このナショナル・ストリートには19もの博物館があるんですよ。どれがスミソニアン博物館なのか分かるんですか?」
「なんや、京極さん。そんなん……」
「服部君。まさか君は全ての博物館を片っ端から調べればいいなんて考えてませんでしたか?そんなことしていたら、スミソニアン博物館を見つけるのに丸1日かかりますよ。」
「うっ…い、いや。そないなこと、これっぽっちもか、考えてなんか無いで。」
「図星のようですね。」
「そうね。探さんの言う通りですわね。」
「……………」
「皆さん…言い争ってないで早く行きましょうよ。」
「そうですよ。」
数人に言い負かされた服部は黙りこんでしまった。


彼らは工藤新一・蘭夫婦、服部平次・和葉夫婦、黒羽快斗・青子夫婦、京極真・園子夫婦、白馬探・紅子夫婦、本堂瑛祐・葉槻の計12人だ。
高校を卒業と同時に6組とも入籍し、式も挙げた。
そして彼らは大学卒業後にこのアメリカの地にやって来た。
新一と平次と探は探偵事務所を開き、快斗はホッパー奇術団に入団し、修行中だ。
真は道場を開き、アメリカの人々に空手を教えている。
瑛祐はCIAで活動している。



また蘭と和葉と紅子は夫の秘書兼主婦で、青子は夫のアシスタント、園子は鈴木財閥のワシントン支局で働きながら、真の道場の手伝いをしていて、葉槻は家政婦の経験を生かして、瑛祐の仕事の手伝いをしている。



その彼らが何故真夜中の博物館にいるのか。
それはある石板を奪還するためだ。


新一らはまだ駆け出しの為、事務所や団、道場の収入だけでは生活が苦しかった。
その為彼らは同じワシントンの自然史博物館で警備員のアルバイトを始めた。
(無論蘭、和葉、青子、葉槻、更には園子までが『怖いから』と言って反対した。特に蘭。)



そのアルバイトは10人全員で行った。
そして夜警開始から2時間後の11時になった瞬間、目の前にあった金の石板が突然光った。
すると急に誰もいなかった筈の1階から恐竜の叫び声が聞こえた。
その叫び声を聞き、12人は一瞬でフリーズしてしまった。
いつもは冷静沈着な男達も今は冷静さを失っていた。



「今の叫び声って……ティラノサウルスREXの……だよな…」
「ああ、俺も……そう思う…」
「な、何でティラノの叫び声が聞こえるんだ?」
「わ、分かりませんよ。」
「せや、京極ハン。あんたやったら空手使って倒せるやろ。」
「む、無理言わないで下さい!恐竜や幽霊を相手に空手が通じると思いますか?」
「やったら本堂!あんたが行け!お前CIAの諜報員やろ!」
「い、嫌ですよ!そんなこと言うなら自分が行ってくださいよ!」
男達は怖がって縋りついてきた妻を宥めながら、口論していた。



「落ち着いて下さい!」この奇妙な構図は紅子の一声で消滅した。「あれを見て下さい!」みんなは言われた方向を見た。するとそこには、11時前には普通だった展示品が縦横無尽に館内を動き回っていた。「お、おい!展示品がう、動いてるじゃねーか?」「ホンマに呪いがあったんかいな!」



再び騒ぎ出す一同。
しかし
「だから落ち着いて下さい!」
再び紅子の声で鎮まった。
「あれは呪いでも、幽霊でもないです。さっき光った石板の力ですわ。」
「「せ、石板の力!?(×11)」
「そうです。どうやらあの石板には、物に生命(いのち)や感情等を吹き込む力があるようですわ。」
「恐竜に生命なんか吹き込んだら…」
「大丈夫ですわ。本堂君。彼らはとても大人しいですから。でも時々悪い心を持ったのも居ますから注意して下さいね。」
「分かりました!」
そう返事すると、瑛祐は一目散にティラノサウルスのもとに走っていった。
「あっ、それと、ティラノサウルスは…」
“とてもやんちゃなようなので気をつけて下さいね。”と言おうしたが…………時既に遅し…
「うわぁ〜〜〜」
ティラノサウルスに尻尾で弾き飛ばされ一同の後ろの部屋に墜落した。



「だ、大丈夫ですか?瑛祐さん!」
葉槻が尋ねた。
「だ、大丈夫…です。あちこち痛いですが…」
「他人の話はちゃんと聞いて下さいね。」
「は、はい…。」
「ねえ、みんな。私達も遊ばない?」
「いいわね、蘭!」
「青子も行く!」
「アタシも!」
「ほら、みんな。早く早く!」
「おい、待てよお前ら!」
とみんなは階段を駆け降りて行ってしまった。
「ま、待ってくださいよ〜」
慌ててみんなの後を追って階段を駆け降りたが……………残り僅かのところで躓き、階段を転げ落ちてしまった。



「あの石板は物に生命を吹き込むんだぞ。早くしないとこのナショナル・ストリートにある全ての展示品が動き出す。ここは、航空宇宙博物館まであるんだぜ。あそこの飛行機やロケット、戦闘機、飛行船とかが動き出したら、そんなことになるとワシントンだけじゃなく、アメリカ中…いや、世界中が大騒ぎになるぞ!」
「分かってるよ!」
この口論を鎮めたのは紅子ではなく快斗の一言だった。



「あった!」
「どうした?」
「分かったぜ。スミソニアン博物館は左の手前から3つ目の建物だそうざ。」
「あれだな…よし、早く行こうぜ。」



その時彼らは気づいていなかった。
アナログ時計の長針と短針の間が30°未満になっていたことを……。
戦いの火蓋が切って落とされていたことを。



「あの石板は多分運ばれた展示品と一緒に倉庫あるはずだ。」「でもどの倉庫にあるんや?」「地下3階のC倉庫だ。」「よし。早く行こうぜ。」



それから5分後。
一同は[関係者以外立ち入り禁止]と書かれた扉の前に立っていた。



「ここだな。」
「早く入って石板と運ばれた展示品を取り戻そうぜ。」
「行くで。」


一同は倉庫の中に入っていった。


「わっ!」
「矢が飛んできた…罠か?」
「ち、ちゃうちゃう!倉庫の中の展示品が動いとんや。こら早いとこ石板と展示品を持って帰らなあかん!」
そう焦る人々と隣で…
「スゲーな…いろんな動物の模型があるぜ。」
「ねえ、新一。関羽の模型があるよ。」
「へえ〜三国志まであるのか。」
「このでかい箱は何が入ってるんですかね。」
「おい、何が入ってるか分からねえから開けるな。」
「はい。って書いてありました。どうやら蛸のようですね。」
「アメリア・イアハートに雷帝ことイワン4世、カスター将軍…さすが世界最大の博物館だな。倉庫にもこんなにある。」
「……お前ら、余裕過ぎやあらへんか?」
「ねえねえ、あれじゃない?あのコンテナ!」
「他人の話を聞かんかい!」
「うるさいな、服部。うるさいから少し黙れ。」
「ヘイヘイ。」
散々無視された挙げ句黙れと言われた服部は拗ねてしまった。



一同がコンテナの扉を開けた瞬間、中からナイフが飛んできた。
ナイフは運良く誰にも当たらず壁に刺さった。
「誰だ!出て来い!」
新一が叫んだ。
「私に向かって誰だとは無礼な奴だな。」
と不機嫌そうに言いながら中から出てきたのは…………ローマ教皇だった。



[2]に続く

(作者の言葉)
さてどうでしたか?今回は映画とコラボさせました。この後もまだまだ人物、絵画、彫刻など沢山登場します。何が出るか予想するのも面白いと思います。

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