Dream Night
By なかはらゆう様
青子に異変が起きたのは、快斗がマジックショーの為、一ヶ月日本を留守にした時だった。
東の名探偵とKIDが追っていた組織が崩壊した後、快斗はKIDを廃業、多大な心配をかけた青子に報告し、晴れて恋人へ昇格、本格的にマジックの勉強に打ち込むようになった。
快斗のマジックは、血は争えないせいか、今更勉強するまでもないのだが、親の七光りだけで食べて行けるほど甘い世界ではない。
大学との両立は思った以上にハードだが、青子の励ましもあって何とかなっている。
今回のショーも授業の延長上にある為、快斗が切望した青子同伴は認められなかった。
それならば、と出発の一週間前から青子をマシンョンへ呼び、離れなくてはならない一ヶ月分のエネルギーと称して、たっぷりと甘い時間を過ごした。
体力の続く限り青子を愛し「昼間は嫌」と拒絶していた彼女を、あの手この手で口説き落とし、己のタフさに感謝しながら当日の朝を迎えた。
「あー、やっぱし青子も一緒がいい。こそっと連れて行く」
「もう、まだ言ってる。仕方ないでしょ? 授業なんだから。ハイ、あきらめて、さっさと行く!」
青子は、集合時間が迫っている為、快斗の尻を叩き、出かける準備をさせようとする。
「んだよぉ、一ヶ月も逢えないんだぞ! 一ヶ月!! オメー平気なワケ?」
恋人へ昇格してから、快斗は青子に対してポーカーフェイスを極力避けるようになった。
「愛している」という表現をロコツに表すようになったのである。
「平気とか、そういう問題じゃないの! ホラ、遅刻するよ?」
本当は青子だって淋しい。彼女が一言そう言えば、快斗は即効で授業をサボる。
プロのマジシャンになるのは快斗の夢だから、そして青子もその夢を一緒に追いかけたいから、敢えて平気なフリをした。
そして、そんな彼女の優しさを快斗は判っていた。
「青子は大丈夫!快斗にいっぱいいっぱい愛して貰ったからvv」
出発時刻ギリギリまでブツブツ言っている快斗を「行ってらっしゃい」のキスと、真っ赤になりながらもとっておきの言葉をかけて送り出した。
ところが、快斗同様、この一週間分の甘い時間があれば何とか大丈夫、と思っていた青子の期待は脆くも崩れ、感情が大人へと成長していた彼女には、むしろ淋しさを増す材料となってしまったのだ。
最初の一週間は平気だった。
友達につつかれても、あの甘い時間を思い出しては赤くなり、その想いだけで幸せな気分になれた。
(快斗ってば、ずーっとくっついたままなんだもん、ゴハン作るの大変だったんだからぁ)
2週間目、快斗の「今」が気になりだし、時折かかってくる電話が待ち遠しくなった。
スケジュールがぴっしり組まれていて、電話もままならないらしく、少々泣きの入った甘えた声が受話器越しに響いては、赤くなった。
3週間目、エネルギーが切れ始めた。淋しさの方が強くなり、取り次いでもらえないと判ってはいても、何度受話器を取ったかしれない。
あの甘い時間を思い出しては、体を震わせ、涙が止まらなくなっていた。
そして最後の週、四週間目に青子に異変が起きた。
「っく・・・、快斗ぉ・・・、早く帰ってきて・・・、逢いたいよ・・・」
誕生日などで快斗から貰ったモノをベッドの上に並べ、手に取って抱きしめては彼の顔を思い浮かべる。
快斗のシャツを着て、体全体で快斗を感じる。
自分が今何をしているのか、判断するだけの思考能力は、既に青子にはなかった。
ただ、ただ、快斗に逢いたかった。
自分で自分を抱きしめた拍子に、手のひらが胸に当たり、快斗の甘い愛撫が脳裏に浮かぶ。
「っく・・・、快斗ぉ・・・」
淋しさで理性が飛んだ青子は、己の頭の中で快斗に抱かれる様を見たいた。
今、自分の胸を触っているのは自分の手。
しかし青子にはそれが快斗の手に思えて、止まらなくなっていた。
「はぁっ、ああんっ」
『青子はココ弱いよな、ホラ?』
「あんっ、やぁっ、かい・・・とぉ・・・」
『声、ガマンするなよな、誰もいないぜ』
『青子・・・、すっげぇ綺麗だ。もっと見せてくれよ』
「ああっ!」
頭の中に自分の喘ぎ声と快斗の優しい声、そして水音がリアルに響く。
青子の自慰は激しさを増していった。
一方、快斗も似たような状況だった。
過密スケジュールにイライラしながら、一刻も早くショーが終わることを祈り、電話も出来ない状況に地団駄を踏んでいた。
ただ、クラスメイト数名と同室の為、青子のようにはいかなかったが、夢の中で青子を抱いていた。
「青子・・・、好きだ」
『かいとぉ・・・』
「見せてくれよ、青子のすべてを」
『んふっ・・・、あんっ、ああっ』
rrrrrrr・・・・・
電話のベルがけたたましく鳴り響き、我に返った青子は、今の己の行為を思い出し、羞恥心でいっぱいになった。
rrrrrrr・・・・
「あ、いけない・・・。ハイ、中森です」
一呼吸入れて気持ちを落ち着けて電話を取る。
『青子? どうした? 電話出るの遅かったな、もう寝てたのか?』
「え? 快斗? ホントに快斗?」
『ワリぃな、電話出来なくってよ。今日さ、やっと全部終わったんだ。明日から希望者だけ観光するらしいんだけど、俺断ったから帰るよ。今空港にいる。そっち着くのは・・・、青子? 聞いてんのか?』
「あ、ごめん。聞いてるよ」
『どうしたんだよ、何沈んでるんだ?』
受話器越しでも、互いの事は手に取るように判る二人である。
「快斗・・・、ごめん、青子、大丈夫じゃなかった。快斗に逢いたくて逢いたくて、壊れそうだった」
さっきまでの自分の行為を思い出し、声を詰まらせながら、この一ヶ月の自分の気持ちを快斗に話していく。
さすがに自慰行為までは話せなかったが、快斗には充分に通じたらしく
『青子、俺も同じだよ。青子に逢いたくて逢いたくて、気が狂いそうだった。夢の中で何度も青子を抱いたよ』
「え? 快斗も・・・」
思わずすべらせた言葉を、快斗は聞き逃さなかった。
『も、って事は、青子も抱かれる夢見たのか?』
少しばかり意地悪を含んだ声が響く。
いつもの青子ならば「バ快斗!」と怒鳴るのだが、一度飛ばした理性は、そう簡単には元には戻らないらしく、
「う・・・、うん」
羞恥心と淋しさで青子はすでに半泣き状態だ。
『青子、あと少しの辛抱だから。東京着いたらまっすぐ帰るから、部屋で待っててくれよ。逢いたいよ、青子に逢いたい、青子を抱きたい』
「快斗・・・、かいとぉ・・・。待ってるよ、だから早く帰ってきて!」
『あぁ、だから今日はもう寝ろよ。明日、いつもの青子の笑顔、見せてくれよな』
「うん、判った。快斗、大好きvv おやすみなさい。」
大丈夫、気持ちは同じだった。
だから明日まで頑張れる。
今度は絶対についていく!絶対に青子を連れて行く!
翌朝、青子の目覚めと同時に、昨日電話を切った後、教師に拝み倒し、その日の飛行機に飛び乗った快斗が、飛びこんで来たとか来なかったとか。
互いに逢いたくてたまらなかった二人、その後どうなったかは、言うまでもなし。
あの一週間よりも更に甘い時間を過ごしたそうである。
終
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