スイッチ



By 槇野知宏様



 出会いは春だった。
私―――佐藤美和子―――が、彼―――高木渉―――出会ったのは。
人の出会いには色々あるが、私たちの場合はそんなに劇的なものではなかった。ただ単に廊下ですれ違っただけなのだが。
普通であれば何事もなく通り過ぎるのだけど、その時は一緒にいた中学以来の友人―――宮本由美―――の呼びかけに応じず、振り向きざまに互いを見つめていたっけ。
 時間にしたら一〇秒もなかったけど、互いの顔を見たまま動こかなかった・・・いや、動けなかった。
ふと我に帰った私は、彼の襟に付いている徽章を見て入学したばかりの一年生である事を確認し、未だに私を見つめていた二年後輩に声を掛けた。

「私の顔に何かついてるの?」
「えっ、あ・・・いえ、何でもありません」

 それだけの会話だったけど、得も知れぬ何かが急上昇していくのを私は感じていた。後で彼に聞いたら“あの時、背筋に電流が奔った”と言ってたけど。



『まさか二ヶ月そこそこで“ああいう関係”になろうとはね』

 そう考えつつ、目の前で繰り広げられている議論に耳を傾ける。週一回の生徒会メンバーによる会合―――その中に彼も書記という役職でいる。
文化祭だの体育祭という時期ではないため、議論が白熱するワケでもなく、時間だけが過ぎ役員たちの会話が耳に流れてくる。

「クラスのヤツに、購買で販売してるパンの品数を増やしてくれ、と言われたんだけどさ」
「意見や要望等は生徒会の役員に直接言うんじゃなくて、意見箱に投書すれば良いだけでしょう?」
「意見箱の中を見たら同じ要望が結構入ってたぜ?まあLINEとかで要望を出すよりゃ良いんじゃね?」
「会長、どうしますか?」

 二年生の女子生徒に話を振られ、私は一瞬何の事だか分からなかった・・・というか自分の考えに没頭していたのだが、耳に入った会話を基に話を進めていく。

「購買部で販売しているパンの種類を増やせって事ね?意見箱に入ってた要望の数はどのくらい?」
「意見箱には一二〇通の投書があって、二〇通はイタズラでしたが、後は、パンの種類を増やせ、との意見でした」
「分かったわ。この件は今月までに全校生徒へのアンケートを実施、その結果次第で先生及び購買の方に全生徒の意見として上申します」

 室内を安堵した空気が包む中、私は室内の一角に目を向ける。
私を思考させる要因となった彼がじっと私を見つめている。発言を聞き逃すまいという真剣な目つきだが、その奥には私に何かを求めようとする光を帯びている。

「高木くん、手が止まってるけど議事録は書いてるの?」
「はい、まだ途中ですが・・・」
「途中?私は以前、一語一句全てを書く必要はない。要点だけを簡潔に書けば良い、と教えたわよね?」
「すみません。少し考え事をしてました」
「全く・・・考え事をするのは良いけど、今は目の前の事に集中なさい」

 そう渉に言った時、彼の顔が捨てられている子犬のような表情に変わり、それを目にした私は下腹部に違和感を感じた。
単なる腹痛や月のものでもない腹部の奥からの熱いくらいに感じる疼き―――それは渉とセックスをする時に必ず起こる前兆である。

『恋愛より部活とか勉強の方が良い、と思ってた私は何処に行っちゃったのかなあ』

 そんな事を考えつつ、人差し指で机を叩く。
端から見れば「イライラしてる」と思われても仕方ない行動だ―――実際に周りから“会長がイラついてる”だの“高木のヤツ、会長を怒らせるなよ”という声が聞こえる。
しかし、この行動はイライラしてるからではなく、渉に対するメッセージをモールス信号で送っているのだ。

「― ―・― ―(ア) ・・―・・(ト) ・―・― ・・(デ) ・―(イ) ・― ―・(ツ) ―・・―・(モ) ・・― ―(ノ) ―・・・ ・・(バ) ― ―・―・(シ) ― ―(ヨ)」

 会議内容を思い出してるのか漢字が分からないような仕草で、議事録をボールペンで叩きながら彼が返答してきた。

「―・―(ワ) ・―・・(カ) ― ―・(リ) ―・・―(マ) ― ―・―・(シ) ―・(タ)」

 それを了解した私は会議の終了を告げる。

「他にないなら今週の会議はこれで終わり。帰宅する人も部活に行く人も気をつけてね」

 参加者が了承する中、議事録を書いてる最中の後輩に、議事録を書き上げて私と担当の先生の検印を受けてから帰る旨を伝えて生徒会室横の会長室へ入った。




 生徒会長室と言っても元々は物置だったところにスチール製の机、肘掛けのあるスプリングが効き過ぎている椅子を設置しただけの話だ。
椅子に座り、机の引き出しから印鑑を出して待つ事五分―――議事録を持った渉が室内に入って来た。議事録を受け取り、誤字等がないかチェックし、終わってから検印して議事録を彼に渡そうとした瞬間、手首を掴まれる。
見た目は華奢な体つきだが、その実態は彼の好きなプロレスに例えるとジュニアヘビー級の引き締まった身体をしている。
議事録が床に落ちるのも構わずに渉が私を引き寄せて抱きつくと、安堵したような声で呟く―――ああ、先輩の匂いだ、と。
 あの擦れ違っただけの出会いから一ヶ月もしないウチに彼から告白してきたのは生徒会の会合が終わった後だった。
それから付き合い始めて、二ヶ月前に初めて一線を越えたのだが、もう思い出したくもない。同級生の女子が“初めての時は痛い”というのを耳にしていたが、私は“痛い”というより“疲れた”
最初はあまりの痛さに彼の股間を思いっきり蹴飛ばし、何とか渉が持ち直したと思ったら、挿入寸前で彼が自爆、三度目の正直でやっと繋がったと思ったら、互いに疲労困憊状態で起き上がるのにも苦労した。
しかも場所がムードの欠片もない生徒会長室・・・事が終わった後、裸のまま消臭剤を蒔いたり、換気したりで余計に疲れたからだ。
こうなると、若さ故の過ち、というか、お互いに身体を貪り合う状態となったワケだが、お互いの家には家族の誰かが必ずいるし、その手のホテルには行けるワケがない。
予算的な事もあるけど、生徒会長たる私がそういうホテル周辺で彷徨(うろつ)こうものなら、学校や家族だけでなく渉にも迷惑を掛けてしまう。
そうなると場所が学校に限定されてしまい、私たちは小説家的表現を用いるなら“若い性欲”を校内で発散してきた。体育用具庫、私が所属しているソフトボール部の部室、シャワー室、終いには校舎の屋上―――そして現在に至る、というワケ。
 何度か身体を重ね合い、私が二人きりの時は名前で呼んでも良い、言ってるのに、彼は私の事を“先輩”“佐藤さん”としか呼ばない。
恐らく習性なのか、自身に何らかの暗示を掛けていると思うのだが、彼の口から理由を一度も聞いていない。私は渉の身体を押しやって会長室の鍵をロックした。
私から引き離された格好の彼は戸惑いと怯えの混じった表情を浮かべるが、私は構わずに二歳年下の男子生徒の胸に身体を預けるように抱きつくと、そのまま自分の唇を彼のそれに押し付ける。
渉の匂いが鼻孔、そして温かさが唇越しに伝わって来る。それに構わず舌を侵入させ、彼の舌を絡め取ると、私の服の中に侵入しようとする彼の手首を軽く捻り上げた。

「さ、佐藤さん・・・手首痛いんですけど」
「まだ“先輩”とか“佐藤さん”とか言うから、オ・シ・オ・キ」

 そう言って唇を塞ぎ、手首を極めたまま、渉を壁に押し付ける。互いの口から唾液が滴り落ちて制服を濡らすが、それに構わずキスに没頭した。
唇を離すと、混ざり合った唾液が一本の糸になりカーテンの隙間から入り込む太陽の光を浴びて銀色に輝く。キスに没頭してる最中に偶然、私の左足が彼の両足の間に入り込んでいたのだが、身体を密着させた時に太股に“何か”が当たった―――何度か目にしただけでなく、その“何か”で毎回絶頂に達している。
銀の糸が切れたのを確認した私は渉に対して挑発的な視線を向け、膝で下腹部の下を押しながら耳元でこう囁く―――ねえ、何で“ここ”が堅くなってるのよ、と。

「私とそういうコトしたいから、こんなに堅くしちゃったんでしょ?」
「い、いや違います・・・これは生理現象ですから。確かにそうなりたいとは思いましたけど・・・」

 その時、渉の胸ポケットから携帯電話の着信音が聞こえる。
こういう状況での電話は無粋極まりないが、電話をかけた側は、彼が私と校内で・・・とは考えてもいないだろう。
私は彼の手を自由にすると、電話を取ったら、冷めたような口調で促す。不審そうな表情を一瞬だけ浮かべた渉だったが、携帯電話を胸ポケットから取り出して会話を始めた。
会話の内容からすると、電話を掛けてきたのは何時も彼とつるんでいる千葉くんで、彼らが所属している野球部の事を話している。

「まだ生徒会の仕事が残ってるんだよ・・・って、か、会長!?」

 渉が驚いたような声を上げる。
それもそうだろう―――私が彼のベルトとズボンのホックを外して、下着ごと引き下ろしたからだ。
慌てながらも電話向こうの千葉くんと会話をしている彼を尻目に私は“戦闘準備完了”という状態の渉自身を愛しそうに両手で捧げ持って舌を這わせる。
行為としては“舌を這わせる”というより“軽くキスをする”に近い。さらにそれを口に含んで頭を上下に動かす度に彼の吐息と快楽、そして耐えようとする彼の表情が私の心にあるスイッチを切り替えた。

「か、会長っ・・・何でもない・・・少し気分が悪いだけだ」
「ふうん・・・結構粘るんだ。これならどう?」

 自分の手を、腰やお尻、太もも周辺のラインに沿って滑らせる。無論、口には彼を含んだままだ。
彼を見上げると、足が震え、息遣いも荒くなり、表情が変貌していくのが手に取るように分かる。その表情を見た私の中で、もっと苛めてみたい、という思いが心の奥底から沸き起こる。
限界が近い事を悟ってペースを上げつつ口に含んだモノを甘噛みより僅かに力を入れた途端、渉くんは女性みたいな声を上げて私の口腔内に白い粘り気のある液体を放った。
独特の臭気を放つそれを嚥下しようとするが、放出した量が多かったようで口から僅かに零れて床の上に落ちる。私の膝近くには彼の携帯電話が落ちており、絶頂に達した際に会話を強制的に終了させたのが伺える。
糸が切れた人形みたいに壁に沿ってへたり込んで激しく息づく渉に近づいて耳元で囁く。

「結構根性あるじゃない」
「電話中に何してるんですか?声出さないよう堪えるの苦労したんですよ?」

 私に抗議しようとした彼の声が変わる―――私が耳たぶを甘噛みしながら、彼のワイシャツの隙間に手を入れて胸を攻めたからだ。
声にならない声を出す渉の耳を丹念に舐め、指全体を使って胸を愛撫すると、耳が唾液によってドロドロになり、胸の突起が堅さを増してきた。
それに伴って彼の息遣いがさっきより激しくなり、眼光が異様な光を帯びて来た時、荒い息遣いの中から言葉を絞り出す。

「さ、佐藤さ・・・み、美和子さん・・・」
「まだよ、男なんだから。その前に私も気持ち良くして・・・ね?」

 そう言って立ち上がると、私はスカートをたくし上げ、その中を渉の顔に押し付ける。
両手首を完全に固定された彼の息が直接肌に当たり、一心不乱に動く舌が下着の中を蹂躙していくウチに全身が熱くなるのを自覚した。

「そこは・・・だめ・・・あっ」

 堪らず声を漏らすと、舌の動きが止まってスカートの中から渉が顔を出したのだが、さっきより一八〇度変わった表情と暗い眼つきをしている。
その眼を見た瞬間、彼の意のままになりそうで“怖い”と思ったが心より身体が反応した―――彼の手首を固定していた私の手から力が抜けたからだ。

「これじゃ下着を着替えないといけないですね」

 彼の言うとおり私の下着は水分を含んで重く、じっとりと濡れていた。固定してた手が緩んだため、渉が両腕を腰に回して再びスカートの中に顔を入れた。
さっきは下着と肌の間に舌を入れて舐めていたのだが、今度は下着に直接口を付けて吸い上げている。吸い上げるだけでなく、下着の上から真珠を甘噛みするため、全身が震えて下半身に力が入らない。

「んっ・・・あっ吸っちゃ・・・噛まないで・・・」

 普通に喋ろうとするけど、あまりの快感に自分が何を喋ってるのか分からない。
いつの間にか腰に回されていた両腕のうち、右腕が制服の下から侵入して彼の手がスポーツブラの上から優しく揉みしだく。それだけではなくブラの中へ手を差し入れ、指で胸の先端部を挟んだり引っ張ったりしている。

「ん・・・力がぬけちゃうっ・・・」
「感じてるんですよね・・・もう指と舌と歯だけじゃ物足りないんじゃないですか?」

 身体を動かし、ささやかな抵抗を試みようとしたが、今度は左手が動いて指が私の中に侵入した。
上下に動く指がゆっくり動いたと思えば激しく動いて身体の内側から外側、そして下から上へと快感の波が押し寄せてくる。

「指だめ・・・ん・・・いっぺんにされたら・・・力がぬけちゃうっ・・・あぅんっ!!」
「もう終わりですか?床がヌルヌルですよ」

 既に制服の上と下着が脱がされ、スポーツブラも上にずれて胸が露わになってたけど、私は全く気付いていなかった。
立ち上がった彼が私の手を引っ張って窓際の壁に連れて行ったはいいが、壁と向き合う体勢にさせられる。

「えっ、何?」
「もっと感じたいんですよね・・・オレのを入れちゃって良いですか?」
「ちょ、ちょっと待って・・こ、この体勢はだめ・・・まだっ、まだ入れないで・・・」
「受け付けません。それじゃ行きますよ?」

 ゆっくり侵入してくる渉が熱く感じる・・・それ以上に自分の身体が熱い。さっきの指より比べ物にならないくらいの波が襲いかかる。
私は自分が声にならない声を上げているのは自覚していたが、彼は荒い息遣いをして私を突いて来る。

「美和子さん、すごく感じてますね」
「や・・・あ・・・渉・・・だから感じ過ぎだって・・・も・・・」
「じゃあ、もっともっと感じさせてあげますよ・・・さっきの仕返しも兼ねてね」

 ニヤリと笑って一気に挿入すると同時に腰を前進させ、私を蹂躙するかのように攻める。

「な、何で大きくなるの・・・も、もう・・・」
「下から突き上げると太ももと擦れて気持ちイイですね・・・もうチョット我慢して下さい」
「んっ、あ、あうっ・・・」

 彼の声が全く聞こえなかった。ただ分かった事は肩を上下させながら水溜まりの中にへたり込んでいた事。
立とうにも下半身に力が入らず渉の手を借りて立ち上がったけど、下腹部は熱を帯びて膝から下がガクガクと震えている。

「オレはまだ大丈夫ですけど、美和子さんは大丈夫ですか?」

 何も言えずにいると、私の耳に口を近づけて囁いた―――まだ、足りないんでしょう、と。
反論しようとしたら唇を塞がれ、互いに相対して立ったままの状態で前から挿入された。

「さっきのは単なる余興。、今度がメインです」
「えっ、それどう言う・・・キャッ」

 快感は先程より弱めだったので彼の言った事を問い質そうとした時、渉は繋がった状態で倒れ込むようにして椅子に座った。
その瞬間、前とは比べ物にならない快感が下腹部の奥深くまで一気にやって来た。椅子の反動を利用してるため、渉が動く度に彼自身が一層膨張して奥深くを突き上げる。

「奥まで来たでしょ?もっと感じて下さい」
「はあっ・・・一気に入れるなんて・・・渉・・・だめっ・・・そんなに突き上げない・・・あうっ」

 その時、渉が上体を起こして私にこう囁いた―――椅子に座ってからオレは一回も動いてませんよ、と。

『じゃあ私は快感を得ようと自分一人で動いてたって事?』

 たった一言で、私は羞恥心で全身の血液が顔に集中するのを自覚した。
私をここまで追い詰めた本人はというと、更に第二撃を放つ―――何ならこのカーテンを開けて、美和子さんの痴態を見てもらいましょうか。
顔だけじゃなく全身が血液で沸騰しそうになる。そんな事をしようもなら、私もだけど渉に迷惑が及ぶのは明白である。
身体に力が入らないだけでなく、声を出すにも力が入らないのは自覚していたが、私は彼の首に両腕を回して声を出した。

「だめっ・・・だめっ・・・あ・・・私もだけど・・・あなたにも迷惑が・・・っうん」
「・・・冗談です。あなたのこいう姿は誰にも見せない。見て良いのはオレだけですから・・・」

 それまで柔らかだった口調が急に固くなっている。やはり何か思い詰めていたのだと確信した。私の胸に顔を埋めたまま動こうとしない渉くんに優しく話しかける。

「今は詮議しないけど、これが終わったらしっかり聞かせて貰うわよ?」
「・・・はい、分かりました・・・動いて良いですか?」
「うん・・・渉に任せるわ」

 彼の両頬の手を添えて顔を上げさせて、私は軽く唇を合わせる。その後は結合したまま、二人して思いっきり愛し合った。
身体中が汗と唾液にまみれ、耳に入る渉が動いた時に聞こえる淫らな水音―――それすらも心地良く感じる。

「見えますか?オレと美和子さんが・・・繋がってるところが」
「渉・・・も・・・感じて・・・奥に・・・当たっ・・・て・・・あっあっ・・・もう・・・また・・・」
「もう少しですから・・・ん・・・オレ・・・」
「ダメっ・・・中に、中には出さない・・・で!」

 絶頂に達するのと同時に渉は自分自身を引き抜いた。それから迸り出た液体が腹部から太股を伝ってるのを自覚しつつ、私は彼の太股に腰を下ろした。



 互いに疲労困憊という状態で暫く抱き合っていたけど、顔を上げた二歳年下の恋人が優しいキスをくれた―――最初に耳、次に頬、最後に唇。唇を離した渉はそのまま私の胸に顔を埋めて少しずつ話し始めた。
一目惚れして告白、そして男女の関係になったは良いけど、私が生徒会長兼ソフトボール部のキャプテン。それに対して自分は年下で釣り合うようなものは何一つ持っていない。距離は近いが最後のラインを越えないようにと自分に言い聞かせていたらしい。

「私たちは公では“上級生と下級生”そして“生徒会長と書記”だけど、プライヴェートじゃ対等なんだからオーバーラインしても良いじゃない」
「じゃあオレ・・・美和子さんの事、好きでいても良いんですか?」
「そう言う事を聞かないの。私は何時でも渉を受け止めてあげる・・・だけど公私の切り替えはする事」
「はい、分かりました・・・美和子さん」

 互いに顔を見合わせて笑った時、余計な闖入者が現れた―――それは人ではなく携帯電話の着信音。
さっきの事があるので渉の方を見たけど、会長用の机の上を指差している―――その指先にあるのは私の携帯電話。
ディスプレイを見たら“宮本由美”と表示されていたので、舌打ちをしたいのを抑えながら電話に出た。

「何よ、由美?今、生徒会の仕事で忙しいんだけど?」
『キャプテンが来ないから、今日の部活は自主練だけして打ち切ったわよ』
「私がいない時は副キャプテンのあなたが決めるんだから、別に構わないわよ」
『了解・・・今日だけでなく今までの事、高木くんと一緒にゲロってもらうから』

 な、何で由美の口から渉の名前が出て来るのよ?それに“一緒にゲロる”って事は・・・まさか!?慌てて否定しようとした私だったが、ここで盛大に自爆してしまった。

「な、何ワケの分からない事を言ってるの!?渉と何回ヤろうが由美に関係ないでしょっ!!」

 渉くんが溜息をして天を仰いだのと同時に電話向こうの由美が盛大に笑っている。
何が何だかサッパリ理解出来なかったけど、彼が耳に口を寄せて囁いた―――自分でバラしてどうするんですか、と。
それを聞いた時、電話が繋がってる事すら忘れて私は恥ずかしさのあまり、机に突っ伏してしまった。



 この後、由美によって駅前のファーストフード店に連行された私たちが全てを白状させられたのは言うまでもない。




 終わり



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