初夜 −Virgin Night−




by 槇野知宏様



「・・・園子さん」
「・・・真さん」

互いの名前を口にして、彼の胸に顔をを埋めると早鐘のような音が私の耳に入る。

『真さん、緊張してるんだ』

そう思いながら上目使いに愛しいダンナ様の顔を見上げると、私を心配そうに見つめる真さんの目。

「どうしたの?」
「園子さん、体が震えてますよ。緊張しているんじゃありませんか?」
「真さんには隠し事できないよね・・・これから未知の世界を経験するんだから凄く緊張してる」

雑誌や友達の会話などから多少の情報は仕入れているが、いざ現実に直面すると緊張するのは当然かもしれない。

「それは私も同じです。色事というのは話聞くだけでも苦手でしたからね・・・可笑しいでしょうか?」
「ううん、可笑しくない。だって真さんらしいもん」
「園子さんっ」

背中に回された彼の腕に力が入り、息が出来なくなるほど苦しくなる。

「・・・ま、真さん、苦しい・・・」
「あっ、申し訳ありません。大丈夫ですか?」
「ちょっと苦しかったけど、あなたの愛を肌で感じる事が出来たから、大した事ないわ」

申し訳無さそうに俯いている彼の耳に囁くと、真さんは私を抱え上げ、ベッドの上にゆっくりと下ろす。
しばらく私を上から見ていた真さんが視線を逸らしながら、声を絞り出すようにして呟いた。

「私は、こういう事初めてですし・・・その、何と言っていいやら・・・2次会の時、工藤くんたちに言われたんですよ“この後、大丈夫ですか?”って」

超がつくほどの純情な男性、それが私の愛した真さん。
顔を真っ赤にして困った表情をする彼がいとおしい。
私は真さんのメガネを取って、彼が来ているシャツのボタンを外しにかかった。

「そ、園子さんっ!?い、一体、何を・・・うぐっ」

真さんの声が一時途切れる。だって私が真さんの唇を塞いだから。互いの唇が離れた時、彼の目を見て私は呟いた。

「真さん。こんな私、嫌い?」
「そんなわけないでしょう。私は園子さんを愛しているんです、他の誰よりも」

覆い被さってくる真さんの身体、私は抗うことなく受け入れた。



ベッドサイドに置いてある調光式のランプの明かりが僅かに私たちを映し出している。
真さんの手がランプに伸びかけた時、私は慌ててその腕を制した。

「ダメ、そのままにして」
「しかし、それでは園子さんを見ることが・・・」
「だって、その・・・恥ずかしいし・・・」
「分かりました」

真さんの手がランプから遠のいたかと思うと、彼の唇が私の身体を蹂躙し始めた。
髪、首筋、鎖骨、胸などに赤い刻印が刻み付けられ、私はくすぐったさに息を詰める。
武骨な彼の掌が私の胸を揉みしだく。最初は乱暴な手つきだったが、徐々に優しくなっていく。
声が出そうで出ない・・・いや、出してしまうと恥ずかしい。
そう思った時、真さんの口が胸の突起を含んだ。

「やっ、そ、そんなとこ・・・」

今まで感じた事のない感覚に声が途切れ、私はそれに耐えられなくなって顔を背ける。
私の抗議にならない声に構わず、真さんは舌先で突起を舐め上げて吸う。

「んっ・・・ま、まことさんっ・・・」

無意識に彼の名を呼んでしまったのだが、私の声に真さんの動きが止まった。

「そ、園子さん・・・私・・・歯止めがきかなくて・・・」

上気した顔に困惑の表情を浮かべる彼に私は身体を寄せた。窓の外から流れ込んでくる風が火照った身体に心地よい。

「別に問題ないわよ。ただ、真さんの名前を無意識に呼んだだけだから・・・さ、続きしましょ」
そう言って私は真さんの唇を塞ぐと、彼の舌が私のそれを絡み取る。
「んぐっ・・・」

声を出そうにも声が出ない。
ただ口腔内は舌同士が絡み合ってぐちゃぐちゃの状態だ。
あまりの息苦しさに唇を離すと、唾液が細い1本の糸となって私と真さんを繋いでいる。
いつの間にか衣服は取り払われ、私たちは生まれたままの姿で抱き合っていた。
直に触れる肌と肌、どちらがが動く度に汗が相手の身体に落ち、ランプの明かりに汗が光る。
やがて真さんの右手が私の秘所に到達し、彼の人差し指が体内に潜り込んだ。

「ああんっ・・・」

悲鳴とも喘ぎともつかない声が私の口から漏れた時、真さんの動きが止まって秘所から指が引き抜かれる。

「園子さん、痛いですか?」
「ううん、何か凄く・・・熱いの・・・だから続けて」

頷いた真さんが中断していた動きを続ける度に、私の背中が仰け反った。
秘所は湿り気を帯び、真さんの指が出入りする度に卑猥な音が私の耳に響く。
私は体の奥から込み上げてくる快感に声を出すのを堪えていたが、無意識のうちに声が外に出る。

「ま、真さん・・・私・・・」

じっとりと汗をかいた真さんが私の中に侵入して来るのが分かったが、彼に見られていると思うと目を開く事が出来ない。
瞬間、想像を絶する痛みが私の全身を駆け巡り、思わず叫んでしまった。

「いったーい!」
「園子さん・・・その、止めた方がよろしいのでは?」
「だ、大丈夫・・・痛いけど、止めないで」
「園子さん・・・」

私の目じりから零れ落ちる涙に口付けしながら、真さんはゆっくりと動き出す。
真さんの分身が私の中で動くのを感じながら、私はある事を考えていた。

『蘭や和葉ちゃん、そして紅子ちゃんも、この痛みに耐えて互いのパートナーと結ばれたんだろうか?』

今、私は真さんと1つになった。どんなに痛くたっていい、真さんが私の中にいるのなら―――
真さんが前進する度に痛みと快楽が交互に押し寄せる。最初は痛みだったのだが、徐々に快楽へと変貌を遂げて行く。

「・・・っつ、あっ・・・」
「そ、園子さんっ・・・私・・・」
「ま、まことさん・・・私・・・」

互いの名を呼び合った途端、私たちは同時に絶頂を迎えた。





ふと目覚めた私が先ず目にしたのは時計だった。時刻は午前6時過ぎ。
その次に視線に飛び込んで来たのは、サイドランプに浮かび上がる真さんの顔だった。
彼の事を人は“蹴撃の貴公子”と呼ぶが、私の前で穏やかな寝息を立てて眠っている真さんは、とてもそう見えない。

「私、真さんと結ばれたんだ・・・」
「私も園子さんと結ばれたんですね」

急に耳に慣れ親しんだ声が聞こえたので、驚いて隣を見ると真さんが上半身を起こしているところだった。

「ま、真さん・・・いつの間に起きてたの?」

これほど間の抜けた質問はなかったと思うが、彼は律儀に答えたものだ。

「園子さんが起きられる前から、ずっと起きてましたよ」
「・・・もう、真さんったら。起きてるなら最初から言って」

そう言って私が真さんの胸に頭を預けると、耳に入る彼の胸の鼓動が心地よく感じる。

「・・・ねえ、真さん。朝食までこうしてて良い?」
「構いません。私の心と身体は全て園子さんのものですから」
「真さん、それは私も同じ。私の心と身体は全てあなたのものよ」

朝日が差し込む部屋の中で、昨夜から何度目になるか分からないキスを私たちは交わした。



終わり






後書き

槇野知宏です。最後までお読み頂いて誠に有難うございます。
今回は「裏真園」と言う事でしたが、最初から躓きの連続でした。プロットを数度に渡って書き直し、パソのデータがロストするという惨状に見舞われ、自己設定締め切りを大幅に遅らせるという大失態の数々・・・ホント、疲れましたわ。
裏ネタを何本か書いているわけですが、ここである事に気付いてしまいました。
「表ネタと裏ネタで考えたら、白馬っちと紅子サマって立派な婚前交渉じゃねーのか?(爆沈)」
次は白馬っちと紅子サマの初体験話です。一体、どーなる事やら(他人事みてーに言うなよっっ)



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